【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の効果を発揮し得る範囲で適宜変更して実施することができる。
【0051】
〔実施例1〕
本発明のクリーニング方法を適用する対象として、アイクストロン(AIXTRON)社製のSiCエピタキシャルウェハ製造装置を用いた。このSiCエピタキシャルウェハ製造装置は概略、
図1に示したような構成を有している。このSiCエピタキシャルウェハ製造装置において、遮蔽板としてはその表面がSiCコート(炭化珪素膜)で被覆されたもの、サセプタおよび載置部としてはそれらの表面がTaCコート(炭化タンタル膜)で被覆されたものを用いた。SiCコートで被覆された面、及び、TaCコートで被覆された面の表面粗さは共に、算術平均粗さ(Ra)でRa≦4μmであった。
【0052】
SiC単結晶ウェハを載置部に配置し、真空排気を行った後に水素ガスを導入して200mbarの減圧雰囲気に調整した。その後、1570℃まで昇温し、成長速度5μm/hで1時間成長を行い、厚さ5μmのSiCエピタキシャル膜をSiC単結晶ウェハ上に成膜してSiCエピタキシャルウェハを作製した。
キャリアガスとしては水素を使用し、原料ガスとしてはSiH
4とC
3H
8の混合ガスを用いた。
【0053】
次に、作製したエピタキシャルウェハを取り出して、本発明のクリーニング方法によって、チャンバ内のクリーニングを行った。クリーニングの条件としては、チャンバ内の温度を620℃に調整し、チャンバ内にHBrガスを2000ccmで1時間流通させ、その後、酸素ガスに切り替えて2000ccmで1時間流通させた。
【0054】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができたことを示している。しかも、SiCコートを損傷することなく、SiC堆積物を除去できたことを示すものである。
SiC堆積物とSiCコートとはSiCではあるが、特許文献1にも記載されているように、表面状態の違い等により、SiC堆積物だけを選択的に除去することができるものと考えられる。すなわち、SiC堆積物は凹凸に富み、かつ多数の孔を有する膜であるのに対して、SiCコートは平滑でかつ緻密な膜であるという違い等によるものと考えられる。
【0057】
また、表1に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。この結果は、TaCコート表面に堆積したSiC堆積物だけを除去することができたことを示している。すなわち、TaCコートを損傷することなく、SiC堆積物を除去できたことを示すものである。
【0058】
〔実施例2〕
実施例2では、実施例1におけるクリーニングの条件を、以下の様に変更した以外は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、チャンバ内の温度を620℃に調整し、まず、チャンバ内にHBrガスを1000ccm、及び、Heガスを2000ccmで1時間流通させ、その後、Heガスの流通を止め、HBrガスを酸素ガス1000ccmに切り替えて1時間流通させた。
【0059】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができたことを示している。
【0062】
また、表2に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。この結果は、TaCコート表面に堆積したSiC堆積物だけを除去することができたことを示している。すなわち、TaCコートを損傷することなく、SiC堆積物を除去できたことを示すものである。
【0063】
〔実施例3〕
実施例3では、実施例1におけるクリーニングの条件を、以下の様に変更した以外は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、チャンバ内の温度を620℃に調整し、まず、チャンバ内にHBrガスを1000ccmで1時間流通させ、その後、HBrガスを酸素ガス1000ccm、及び、Heガスを2000ccmに切り替えて1時間流通させた。
【0064】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができたことを示している。
【0067】
また、表3に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はTa:C=50:50であった。この結果は、TaCコート表面に堆積したSiC堆積物だけを除去することができたことを示している。すなわち、TaCコートを損傷することなく、SiC堆積物を除去できたことを示すものである。
【0068】
〔比較例1〕
比較例1では、実施例1におけるクリーニングの条件を、以下の様に変更した以外は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、チャンバ内の温度を620℃に調整し、チャンバ内にHBrガスを2000ccmで1時間流通させた。その後の酸素ガスの流通は行わなかった。
【0069】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は7.5μmであり、原子数濃度比はSi:C=2:98であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は7.5μmとなり、原子数濃度比はSi:C=2:98であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物のうち、Siは十分除去することができたものの、Cは除去することができなかったことを示している。
HBrガスのクリーニングだけでは、Siは十分除去することができるものの、Cは除去することができないことがわかった。
【0072】
また、表4に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は7.5μmであり、原子数濃度比はSi:Ta:C=4:3:93であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は7.5μmとなり、原子数濃度比はSi:Ta:C=4:3:93であった。この結果は、TaCコート表面に堆積したSiC堆積物のうち、Siは十分除去することができたものの、Cは除去することができなかったことを示している。
HBrガスのクリーニングだけでは、Siは十分除去することができるものの、Cは除去することができないことがわかった。
【0073】
〔比較例2〕
比較例2では、実施例1におけるクリーニングの条件を、以下の様に変更した以外は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、チャンバ内の温度を620℃に調整し、HBrガスの流通は行わず、チャンバ内に酸素ガスを2000ccmで1時間流通させた。
【0074】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表5に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
表5に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はクリーニング前と変わらず8μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができなかったことを示している。
酸素ガスのクリーニングだけでは、SiC堆積物を除去することができないことがわかった。
【0077】
また、表5に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はクリーニング前と変わらず8μmであり、原子数濃度比もクリーニング前と変わらずSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができなかったことを示している。
酸素ガスのクリーニングだけでは、SiC堆積物を除去することができないことがわかった。
【0078】
〔比較例3〕
比較例3では、実施例1におけるクリーニングの条件を、以下の様に変更した以外は、実施例1と同様の工程を行った。すなわち、チャンバ内の温度を280℃に調整し、チャンバ内にF
2ガスを1000ccm、Heガスを4000ccmで1時間流通させた。
【0079】
クリーニング後、遮蔽板及び載置部を取り外し、遮蔽板表面のSiCコート部分と、載置部のTaCコート部分について、表面粗さ計、及び、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)を用いて測定した結果を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示されている通り、クリーニング後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は3.5μmであり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、SiCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、SiCコート表面の算術平均粗さ(Ra)はSiCエピタキシャル膜の成膜前と同程度の3.5μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。この結果は、SiCコート表面に堆積したSiC堆積物を除去することができたことを示している。
【0082】
一方、表6に示されている通り、クリーニング後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は5μmであり、原子数濃度比はC:F=82:18であった。
SiCエピタキシャル膜の成膜前、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は4μm以下であったが、SiCエピタキシャル膜の成膜後(クリーニング前)、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は8μmとなり、原子数濃度比はSi:C=50:50であった。これは、SiCエピタキシャル膜の成膜によって(クリーニング前)、TaCコート表面にSiC堆積物が堆積したからである。上記の条件でクリーニングを行った後、TaCコート表面の算術平均粗さ(Ra)は5μmとなり、原子数濃度比はC:F=82:18であった。この結果は、SiC堆積物は除去できるものの、TaCコートが損傷することを示している。
F
2ガスを用いたクリーニングでは、SiC堆積物は除去することができるものの、TaCコートを損傷することがわかった。
【0083】
上記実施例では、TaCコートされた部材、及び、SiCコートされた部材を例に挙げて、本発明の効果を説明したが、他の材料でコートされた部材表面を保護しつつ、その上に形成されたSiC堆積物を除去することもできる。