(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コントローラは、歪み予測器ユニットF1と、歪み推定器ユニットF2と、サイクル最適化ユニットF3と、基準発生器F4と、モード選択またはスイッチングアルゴリズムユニットF5を備え、
前記処理装置は、受信された前記少なくとも一つの状態パラメータ信号に基づいて制御信号を決定するように構成されており、前記処理装置は、基準電圧信号Urefを得るために、前記少なくとも一つの状態パラメータ信号に対して、歪み予測F1、歪み推定F2、サイクル最適化F3、および基準信号生成F4の各機能を続けて実行できるように構成されており、
前記処理装置は、エネルギー捕集の全体が最適化されるように、前記基準電圧信号および前記受信された前記少なくとも一つの状態パラメータ信号を入力として使用して、個々のEAPセクションのための制御信号または制御ベクトルSを決定するために、スイッチングアルゴリズムF5のモード選択機能を実行することが更に可能である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のシステム。
【背景技術】
【0002】
現在、EAP(Electro Active Polymers、電場応答性高分子、エレクトロアクティブポリマー)を基礎とするアクチュエータおよび発電機(すなわち、EAP系エネルギー変換器)は、可変コンデンサとして機能する変形可能なEAP体の変形自体がエネルギーの流れを強制的に作り出す受動的な捕集システムか、電場、電圧または電荷を直接的に制御する能動的なシステムのいずかによって作動する。後者のアプローチは、一般的に、より高い変換効率およびより高いエネルギー密度をもたらすので、より大規模なシステムや、効率が重視される(バッテリー駆動の)用途にとくに好ましい。
【0003】
能動的なシステムは、たとえば、WO2010/146457号パンフレットに開示されている。
【0004】
励起中にどのように電場が確立され制御されるかが、変換されるエネルギーの量を決める。このことは、エネルギー捕集サイクルによって説明される。現在では、主に3つの個別のサイクル、すなわち、定電荷サイクル、定電圧サイクル、および定電場サイクルが、EAPを能動的に充電および放電させるシステムにおいて用いられている(SRIインターナショナル)。これらのサイクルは、パワーエレクトロニクスユニット(Power Electronic Unit、PEU)がEAPデバイスと伸張または収縮(弛緩)中にどのように相互干渉するかに焦点をおいている。それらの期間中に、電気機械的な変換のほとんどが行われる。
【0005】
電場応答性材料は大きな機械的変形(最大で500%)を扱えるという点で良く知られているが、多くの実際の用途では、その変形は制限されている。これは、その用途(例えば、波による励起)の性質によるものだけでなく、疲労効果を抑えるためでもある。
【0006】
電気機械的なエネルギー変換は電場との相互作用に基づくので、変形レベルが小さい用途では、運用電場を用いてEAPデバイスを周期的にバイアスするために必要なエネルギーの量は、実際に変換に利用できるエネルギーの量よりもはるかに大きい。このことは、パワーエレクトロニクスユニットに要求される電力定格を増加させ、電気機械的変換効率の向上を妨げ、また、EAP系エネルギー変換システムのコストおよび容積を増大させる。
【0007】
波エネルギー変換器(WO2010011562号パンフレットに開示)や回転−往復運動間エネルギー変換器(WO2013059562号パンフレットに開示)など、分散した複数のエネルギー源(ソース)を用いる電気機械的変換用途(その用途における異なるEAPデバイス間には必然的に位相シフトが存在する)では、必要なバイアスエネルギーを異なるEAPデバイス間で内的に交換することができる。そのような多相システムでは、エネルギーを貯蔵するためのEAPデバイス生来の能力が効果的に使用されるので、電力容量要求、変換効率制限、および電力品質に関する顕著な利点がもたらされる。
【0008】
PCT/EP2013/059614号パンフレットに記載されるようなEAP系単相エネルギー変換システムは、EAPデバイスごとに専用のパワーエレクトロニクスユニット(PEU)またはコンバータを有する。この構成は、各EAPデバイスに適用される捕集サイクルの完全制御をもたらすが、PEUによってバイアスエネルギーを周期的に印加する必要があるので、ピーク対平均電力定格が高くなってしまう。結果として、コンバータコストが高く、電気機械変換効率が低く(しかもPEU効率に非常に影響されやすい)なってしまう。このため、技術的に進歩したコンバータ実装が必要とされている。
【0009】
高いピーク対平均電力定格の影響を制限するため、いくつかの既存の単相システムは、エネルギー変換サイクルの最適化を試みる、ある種の捕集方式、例えば、GrafおよびMaasによって発表された“OptimizedEnergy Harvesting based on Electro Active Polymers”、2010International Conference on Solid Dielectrics、Potsdam、Germany、July 4-9、2010、Graf、Maas、およびSchapelerによって発表された“Optimized Energy Harvesting based on Electro Active Polymers”、2010 International Conference on Solid Dielectrics、Potsdam、Germany、July4-9、2010、R. van Kessel、B. Czech、P. Bauer、およびJ. Ferreiraによって発表された“Optimizing thedielectric elastomer energy harvesting cycles”、IECON2010、36th Annual Conference on IEEE IndustrialElectronics Society 2010、pp.1281-1286(http://dx.doi.org/10.1109/IECON.2010.5675554)を利用する。
【0010】
しかしながら、これらの捕集方式は、EAP−PEU間の変換段階のみに着目したものであって、システム全体の出力電力品質に着目したものではないので、単相エネルギー変換に内在する欠点、およびそれに付随する高いピーク対平均電力定格を完全には解消しない。
【0011】
一方で、WO2010/146457号パンフレットやWO2011/044901号パンフレットに記載されるような従来の多相EAPエネルギー変換システムは、そのほとんどが、能動処理を必要とする電力の量を減らすために受動部品を使用する。これらのシステムは、能動PEU電力定格を低くする点、またシステムの出力電力をいくらか平滑化する点で通常はかなり効果的だが、システム中のEAPセクションの個別制御は、制御入力の数が制限されるため、ほとんど不可能である。EAPセクションの個別制御は、とくに不測の励起源を考慮する場合は、高電場強度での動作、したがって高エネルギー出力での動作に欠くことができない。
【0012】
したがって、本発明は、先行技術の欠点を解消または軽減するシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的な実施形態を示す図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係るEAPデバイスの多相トポロジ―を模式的に示している。
【0020】
本発明のこの実施形態によれば、多相システム内の複数のEAPデバイス間の(バイアス)エネルギーの交換を図るために、ここで提案するトポロジーは、すべてのEAPデバイスが共通の電力ソース(駆動モード)兼電力シンク(発電モード)PSSに直列に接続された構成を基礎とする。
【0021】
多相システムは、移動媒体(一般的には海などの水表面上の波)に各々が晒されている複数のEAPデバイスや、機械的なエネルギー源が空間的または時間的に分散された複数のEAPデバイスによって捕捉される他の任意のEAPエネルギー変換システムに基づいている。
【0022】
個々のEAPデバイス間の位置の変動のため、波サイクルの位相も変動し、その結果、EAPデバイス間の伸縮の変形サイクルおよび対応するエネルギー捕集サイクルの位相が変動する。このように、各EAPデバイスは、各自のエネルギー捕集サイクルの位相シフトを互いに対して相対的に示す。
【0023】
個々のEAPデバイスEAP1、EAP2、…、EAPNは、それぞれ充放電ユニットE1、E2、…、En(電力方向制御デバイス(Power Director Device、PDD)とも称する)を介して接続されている。この充放電ユニットは、対応するEAPデバイス用の専用制御信号に応じて、そのEAPデバイスを充電し(s=1、ΔQ>0)、バイパスし(s=0、ΔQ=0)、または放電させる(s=−1、ΔQ<0)ことができるように、入力電力フローを方向付ける。ここで、ΔQは、個々のEAPデバイスの可変コンデンサ上の電荷の変化である。
【0024】
各EAPデバイスの実際の電圧をU
EAP1、U
EAP2、…、U
EAPNと表記する。
【0025】
PDDであるE1、E2、…、Enと、EAPデバイスであるEAP1、EAP2、…、EAPNとの組み合わせを、セクションSEC1、SEC2、…、SECNと称する。このセクションは、このトポロジーにおける基本セルを成す。
【0026】
直列構成では、同じ電流I
SRCが各セクションSEC1、SEC2、…、SECNを通って流れ、一方で、電圧U
EAP1、U
EAP2、…、U
EAPNが、この積み上げ構成に沿って合算される。したがって、これらのセクションおよび電力ソースPSSに与えられる電流については、
【数1】
である。
【0027】
また、この積み上げ構成における電圧、より具体的には、電力ソースPSSの両端間の電圧(これは、制御信号に依存するすべての個々のEAPデバイス電圧の線形結合である)については、
【数2】
である。
【0029】
本実施形態では、位相シフトを有するEAPデバイスEAP1、EAP2、…、EAPNがその積み上げ構成に含まれる順序は、システムの動作そのものには影響しない。ただし、一部の特定の並びは、より低い部品定格電圧やその他の利点をもたらしうることが確認されている。
【0030】
図2は、
図1の多相トポロジ―の一態様を模式的に示している。この回路では、共通電力ソース(Common Power Source、CPS)PSS1が共通の電流源によって実現されている。ただし、この目的のために他の種類の電力ソースを採用することを排除するものではない。
【0031】
本態様では、システムは、コントローラCTと、EAPデバイスごとに監視ユニットM1、M2、…、MNを更に備える。
【0032】
各監視ユニットM1、M2、…、MNは、充放電ユニットE1、E2、…、ENと、対応するEAPデバイスEAP1、EAP2、…EAPNとの間に接続されている。各セクションSEC1〜SECNにおいて、監視ユニットは、EAPデバイスの状態パラメータを監視するように構成されている。ここで、この状態パラメータは、可変コンデンサの現在の静電容量を示し、したがって、エネルギー捕集サイクル中のEAPデバイスの現在の位相を示す。
【0033】
監視ユニットは、EAPデバイスの電圧(これは、以下で詳述するスイッチングアルゴリズムで使用される)を監視するとともに、実際の歪みおよび位相を測定するために静電容量を監視する。
【0034】
たとえば、既知の正弦波電流を機械的励起周波数よりも実質的に高い周波数で注入し、その後、この周波数で生じる電圧を測定することによって、静電容量を直接的に測定することができる。別の可能な手法は、予め決められた時間帯にEAPデバイスを通って流れる電流を測定して、対応する電荷変化(dQ)を求め、電圧変化(dU)の計測値を使用して静電容量を求めるものである。
【0035】
コントローラCTは、各監視ユニットM1、M2、…、MNから一または複数の状態パラメータ信号を受信するために各監視ユニットに接続された感知回路を備える。
【0036】
加えて、コントローラCTは、それぞれの充放電ユニットへ専用制御信号を送信するために各充放電ユニットE1、E2、…、ENに接続された駆動回路を備える。
【0037】
コントローラは、感知回路および駆動回路を制御しつつエネルギー捕集サイクル(以下でより詳細に説明する)を実施するためにデータを処理する少なくとも一つの処理装置を更に備える。
【0038】
充放電ユニットには、コントローラCTから専用制御信号を受信し、専用制御信号の値に基づいて、EAPデバイスの可変コンデンサに対して、充電モード(s=1、ΔQ>0)、放電モード(s=−1、ΔQ<0)、または、バイパスモード若しくはフローティングモード(s=0、ΔQ=0)を選択するための回路が設けられている。
【0039】
本実施形態では、共通電力ソースPSS1が電力フローを能動的に処理する唯一の構成要素である一方で、充放電ユニットまたは電力方向制御デバイスE1、E2、…、ENは、採用するスイッチングアルゴリズムおよびEAP捕集方式に従って、EAPデバイスを通る電力フローの経路設定(ルーティング)を行っているだけである。
図3は、そのような充放電ユニットまたは電力方向制御デバイスの可能な実装例を示す。
【0040】
電流I
SRCによって示される入力電力は、スイッチS1とS3、またはスイッチS2とS4を制御可能に作動させることでバイパスされ、一方で、I
SRCが正のときは、スイッチS1とS4を作動させることによりEAPデバイスが入力電力により充電され、スイッチS2とS3を作動させることで放電させることができる。I
SRCが負のときは、この逆である。
【0041】
これらのスイッチは、MOSFETや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の積層体、または他の任意の強制転流または非強制転流型の電力電子式または機械式スイッチ装置によって実現してもよい。
【0042】
バイパスモード(s=0)では、(S1+S3)および(S2+S4)というスイッチの組み合わせを、これらの部品での損失を均等化するために交互に使用できることが確認されている。
【0043】
変形例として、この非能動的な充放電ユニットまたはPDDを、受信した専用制御信号に基づいて能動的に電力フローを処理してその方向を変える電子デバイスに置き代えてもよい。
【0044】
図4は、能動的に処理を行う充放電ユニットを伴う本発明の別の実施形態を示す。
【0045】
この実施形態では、EAPデバイスEAP1、EAP2、…、EAPNの各々は、専用のパワーエレクトロニクスユニット(コンバータ)PEU1、PEU2、…、PEUNを有する。ここで、これらのパワーエレクトロニクスユニットは、電圧バスVB、または共通の電力ソース兼シンクユニットPSS2として動作する共通電圧源に接続されている。
【0046】
このように、複数のEAPデバイスは、電力ソース兼シンクユニットPSS2に並列接続されている。
【0047】
更に、このエネルギー捕集システムは、
図2を参照して上述した監視ユニットM1、M2、…、MNおよびコントローラCTを備える。
【0048】
図5は、
図1および
図2の実施形態に適用される共通電流源PSS1の一態様を示している。この共通電流源PSS1は、直列接続された複数の多相セクション用の(定)電流を生成するために、インダクタおよび電圧源コンバータを使用する。HV電圧源コンバータの可能な実施形態は、入力並列・出力直列(Input Parallel, Output Series、IPOS)構成である。この構成では、電圧バスU
BUSからのソース電圧が、各々が変圧器ユニットおよびスイッチング回路を備える多数のデュアルアクティブブリッジ(DAB)デバイスDAB1、DAB2、…、DABkの個々の入力端子に並列接続されている。また、DABデバイスの出力端子は、出力電圧U
CPSを生成するために直列に接続されており、直列接続された多相セクションのための電流を運ぶ。
【0050】
ここで、変圧器またはDABモジュールの数Kは、EAPデバイスの数Nに直接は結びつかない。より多くのEAPセクションは、一般的に、CPSのより高い電圧を意味するが、サブモジュールの数は各モジュールの定格電圧によって決定される。
【0051】
図5に示される電力ソース兼シンクユニットの態様は、並列接続された能動充放電ユニットを用いる、
図4に具体化された多相EAPシステムにおける電力ソース兼シンクユニット(パワーエレクトロニクスユニット)としても使用することができる。捕集方式によって指定される広い電圧および電流範囲をカバーするように、この態様は、
図6aおよび6bに示されるデュアルアクティブブリッジ(DAB)サブモジュール用の可変の出力電圧依存スイッチング周波数制御方式を含む。
【0052】
図5を参照して上述したように、サブモジュールSM1、SM2、…、SMNの各々は、制御信号を受信し、サブモジュールに、制御信号に応じてその出力端子に出力電圧を生成させるようにするために、コントローラCTの出力に接続されている。
【0053】
サブモジュールの制御は、直列接続多相システムの同一のコントローラCTによって行うこともできるが、実際はこのコントローラが別個に設けられる。したがって、第二のコントローラCT2(IPOS/CMCトポロジー型PEUの各々に含まれる)は、いずれのサブモジュールの出力電圧および出力電流も基準値を超えないとの制限のもとで、PEU全体の出力電圧および出力電流が主たる(捕集用の)コントローラCTからの基準制御信号に従うように、個々のサブモジュールを制御する。
【0054】
図6aは、
図5の共通電流源のHV電圧源コンバータに関する別の可能な実施形態を示す。
図6aに示される構成は、デュアルアクティブブリッジ(DAB)サブモジュールSM1、SM2、…、SMNがそれらの入力端子で電圧バスVBに並列に接続されている一方でサブモジュールの出力端子が直列に接続されているという面において、
図5の構成と同様である。
図6bは、単一のサブモジュールの回路のより詳細なレイアウトを示している。このサブモジュール回路は、出力電圧の制御性を向上させるために追加のハーフブリッジを出力に備えている。
【0055】
ここで、このようなIPOS構成またはCMC構成のDABサブモジュールは、多相EAPシステムおよび単相EAPシステムのいずれの場合にも使用できる。
【0056】
このカスケード型マルチレベルコンバータ(CMC)は、
図4に示される多相EAPシステムの実施形態におけるパワーエレクトロニクスユニットの可能な態様でもある。
【0057】
図7は、多相トポロジーのコントローラのブロック図を模式的に示す。
【0059】
コントローラCTは、状態パラメータ信号を受信するための感知回路と、制御信号を送信するための駆動回路とを備える。更に、コントローラCTは、感知回路および駆動回路の両方に接続される処理装置を備える。処理装置は、受信した状態パラメータ信号に基づいて制御信号を決定するように構成されている。概略を述べると、処理装置は、一つ以上の状態パラメータ信号に対して、歪み予測F1、歪み推定F2、サイクル最適化F3、および基準信号の発生F4という機能を順次に実行することができる。
【0060】
ブロックF1〜F4から、基準電圧信号Urefが得られる。
【0068】
スイッチングアルゴリズムの全潜在能力は、提案のトポロジー、並びに適切に適用されるスイッチング目的および制約との組み合わせにおいて明らかになる。ある実施形態では、トポロジー、制御およびデバイスの各特性を次のように定義することができる。
・振幅I
SRCを有する共通電力ソースとしての定電流源
・複数のEAPデバイスのための電圧基準信号U
REF
・最大電場強度E
maxを有するEAPデバイス
【0069】
この特定の実装例では、スイッチングアルゴリズムの最適化目的関数を次のように定義することができる。
1.推定された新しいEAPデバイス電圧(これは制御ベクトルに依存する)と、EAPデバイス基準電圧との間の、電場加重誤差(電場重み付け誤差)。
【数13】
【0072】
線形スカラー化の重み付け因子w
1…w
3は、用途による要求に応じて、無作為に選択することができる。別の実施形態では、目的が実際の動作点に依存しないように、目的を規格化するという選択も可能である。同様に、指数因子を含めることによって、目的のインパクトを誤差レベルに依存させることができる。
【0073】
ある実施形態では、電場加重基準誤差目的関数f
1(s)は、以下の考察に基づく。すなわち、EAPデバイスをエネルギーまたは電荷の貯蔵装置として有効に使用することができ、かつ、貯蔵モードに関連付けられた可変コンデンサの電場強度が運用電場強度または最大電場強度よりも低ければ、エネルギー変換動作に大きな影響は出ない、という考察である。したがって、小さい電場強度ではより大きな誤差を許容する一方で、高い電場強度ではより厳格に基準信号に追従することによって、より大きな制御自由度が得られる。
【0074】
最適化に適用される制約は、ここで提案するトポロジーの実行可能な動作のために必須と考えられる。すべてのEAPデバイスが直列接続される可能性があるので(s
1…s
N=1または−1)、トポロジーおよびその構成部品の両方と、共通電力ソースPSS1とが、相対的に非常に高い電圧に晒されるおそれがある。部品への電圧負荷を適正値に抑え、それによってシステムの商業的可能性も高め、かつ、絶縁破壊強度を超える電場強度からEAPデバイスを保護するために、次の制約が提案される。
【0075】
1.いずれのEAPデバイスの電場強度も、所定の最大値を決して超えるべきでない。ここで、最大値は、いくらかの制御自由度を与えるために、運用電場強度よりも少しだけ大きい。
【数16】
【0076】
2.積み上げ構成の推定された新しい総電圧である共通電力ソースPSS1の両端間の電圧は、上限値および下限値で制限されるべきである。ここで、範囲が広いほど動的応答性が早くなり、範囲が狭いほど電圧曲線および電力曲線が滑らかになる。
【数17】
【0078】
ここで提案するスイッチングアルゴリズムの実現については、
・非定常状態や、非常に不規則な性質を有する機械的励起源については、制約の集合が異なるかもしれないことが分かっている。
・最適化問題は、多相EAPデバイスシステム中のセクションの数によっては、従来の(多目的)制約付き最適化アルゴリズムを使用するか、または、単純に力まかせ探索(brute-force search)を使用することで解決できることが分かっている。
・共通電力ソースの電圧に対して選択された電圧制限とは無関係に、電力ソース兼シンクユニットPSS1が、EAPデバイスの初期充電のための電力を常に供給できるべきであることが分かっている。
・PSS1によって供給される電流が一定のDCレベルに固定されると想定している。あるいは、多相システムがAC電流で動作してもよい。AC電流高調波が重畳されたDC電流は、充放電ユニット中のある種の(非強制転流)スイッチ、例えばサイリスタ、にとって有益となりうると考えられる。
AC電流高調波を電子機器の補助電力ソースとして使用することも考えられる。
・共通電流源(I
SRC)の(平均)電流が、異なる機械的電力入力レベル、たとえば小さい歪みサイクル(より低い損失)のための小さな平均電流および大きな歪みサイクルのための大きな平均電流、に応じて能動的に変えられることも分かっている。スイッチングアルゴリズムは、たとえば、EAPセクションに適用されるデューティー比またはパルス幅が小さ過ぎて過剰な損失につながるときには、制御信号(I
SRC(ref))を変えてもよい。
・スイッチング期間は、無限小であるか、実際の場合では、エネルギー捕集サイクルの周波数またはEAPデバイスによって実行される機械的励起周波数よりもずっと短く、そのため、EAPデバイスの電圧および電場強度は、スイッチング期間中、実質的に変化しないと想定している。これが妥当でなければ、スイッチング期間の開始のための集合および終了のための集合を含むように制約を拡張することができる。
・EAPデバイスの直列抵抗は比較的小さい、すなわち、スイッチングアルゴリズムによって引き出される生来の貯蔵能力が大きな追加抵抗損失を生じさせないと想定している。これが当てはまらない場合は、これらのジュール損失を最小化する別の最適化目的を含めることができる。
【0079】
図9のA〜Dは、コントローラCTのブロックF3およびF4によって作られた捕集方式から生じた結果を示す。この捕集方式は、単相システムにも有効だが、多相システムでは更に有益である。
【0080】
図10のA〜Cは、スイッチングアルゴリズムの結果を、電圧基準信号および電流基準信号(捕集方式の結果として生じ、CTによって生成されたもの)、並びに実際に得られ測定されたEAPデバイス信号とともに示す。
【0081】
図9のA〜Dにおいて、EAPデバイスは、電流振幅I
cおよびI
d(それぞれ位相φ
cおよびφ
dを有する)の正弦電流波形によって、バイアス(充電)および逆バイアス(放電)される。収縮中は定電場アプローチに従うが、伸張中は定電荷プロファイルが実施される。単相システムと比較して、この段階において低い方の電場レベルが多相EAPシステムでは上昇し、利用可能なスイッチング状態の数が増加する。
【0082】
図8は、本発明に係る多相EAPシステムによってエネルギー捕集を制御する例示の方法の流れ図を示す。
【0083】
本方法は、コンピュータプログラム製品によって実施することができる。このコンピュータプログラム製品は、コンピュータプログラム製品命令がロードされた後のコントローラCTの処理装置が、本方法に従う計算を実行できるようにする。
【0084】
本方法は、コントローラCTの処理装置上で、多相システム中のEAPデバイスごとに独立に行なわれ、それらは順次または同時(並列)に実行することができる。EAPデバイスごとのタイミングまたはフェーズ(期間)の同期は、サイクルトリガによって得られる。
【0085】
初期化ステップ(図示せず)の後の本方法は、第1のステップ901を備える。このステップでは、予測歪み信号のなかから新しいサイクルの開始が検出される(これは
図7のコントローラ方式のブロックF1の後に開始する)。予測歪み信号902は、次のステップ903に送られる。このステップは、特定のEAPデバイスについて予測された歪みから、重要な機械パラメータ904を抽出し、推定する。抽出されたパラメータ904は、その時点での機械的励起周波数Fexc、静的変形λs、変形振幅λd、および歪みプロファイルに関連している。
【0086】
これらのパラメータ値は、続くステップ905において、後続のステップで電気量の計算に使用される等価静電容量信号C(t)906を生成するために使用される。
【0087】
次のステップ907では、静電容量信号C(t)906を、(初期)サイクルパラメータ{cycle}と一緒に入力として使用し、充電時間Δt(c)、放電時間Δt(d)、ならびに残りの伸張時間Δt(s)および収縮時間Δt(r)を計算する。サイクルの各段階についてのこれら本質的なタイミング情報Δtを用いて、特定のEAPデバイスの充電プロファイルq(t)を、続くステップ908において計算する。
【0088】
サイクルパラメータ{cycle}は、
‐充電位相(φc)、
‐放電位相(φd)、
‐充電電流振幅(Ic)、
‐放電電流振幅(Id)、
‐充電電流波形{方形、三角、正弦波、一定電力}、
‐放電電流波形{方形、三角、正弦波、一定電力}、
‐収縮中の最小電場強度(Emin)、
‐伸張中の最大電場強度(Emax)、
‐サイクルの種類{定電荷、定電圧、定電場}、
として定義される。
【0089】
次のステップ910では、充電プロファイルq(t)909を、静電容量信号C(t)906と一緒に入力として使用して、変換される電気機械的電力Pmechの推定値を計算する。ステップ910と並列なステップ912では、充電プロファイルq(t)は、特定のEAPデバイスに付与される電圧u(t)および電流i(t)に関する電気波形913を計算するための入力として使用される。
【0090】
波形u(t)、i(t)は、ステップS914において、各EAPデバイスのEAP材料および充放電ユニット双方での損失Plossを算出するための入力として使用される。充放電ユニットおよびEAP材料の特性に関連する重要パラメータは、計算された電圧プロファイルu(t)および電流プロファイルi(t)の関数として、メモリ915および916から読み出される。メモリ915および916は、データベースやルックアップテーブルとしてそれぞれ構成されてもよい。続いて、算出された損失Plossが、算出された電気機械的電力Pmechと共にステップ911に送られる。ステップ911では、PmechとPlossとの差から、正味電力出力Poutが計算される。
【0092】
ステップ918およびステップ911の結果は、次に、ステップ919のための入力として使用される。このステップでは、ステップ918からの品質パラメータと、正味出力電力Poutと、モジュール920からの外部データとに基づいて評価が行われる。この外部データは、所望のシステム出力電力(電力需要)、システム出力におけるリップル、EAPデバイス上の電場圧力とその機械的発生源とにより付加される力、および全システム内の貯蔵エネルギー量(これは、障害発生中に電力網の安定性を支えるための電力リザーブとしての役割を果たしうる)などのパラメータを備える。
【0093】
評価ステップは、ステップ908で求められた充電プロファイルq(t)909(または、導出された任意の電気的な量)が外部データによって設定される条件を満たすか否かを示す評価結果データを決定する。
【0094】
次に、ステップ921では、評価結果データを調べて、充電プロファイルq(t)909(または任意の導出電気量)が、外部定義された目的データに対する最適基準を満たすか否かを判断する。
【0096】
ステップ923の後、本方法は、次のサイクルトリガのためにステップ901に戻る。
【0097】
注:歪み信号の予測可能性によっては、サイクル最適化を、充電段階用および放電段階用の2つの部分に分けることができる。この場合、1つの完全な機械的サイクルごとにサイクルトリガが実質的に2回与えられる。これにより、精度が高まり、目的に正確に合致する能力も高まる。
【0098】
図10のA〜Cは、10個のEAPデバイスからなる多相トポロジーの電圧信号、電流信号、および電場強度信号それぞれの例を示す。
【0099】
図11は、コントローラからのスイッチング信号によって能動的に制限されている、共通電力ソースの両端間の平均電圧信号の例を示す。
【0100】
本発明に係るシステムおよび方法は、複数の利点をもたらす。
【0101】
既存の単相EAPエネルギー変換システムとは異なり、本提案の多相システムは、正味出力電力が能動的に処理されることしか要求しない一方で、EAPデバイスの周期的なバイアス(または逆バイアス)印加に伴う電力は経路設定しか必要としない。歪みが制限された実際の従来用途では、バイアス電力と正味出力電力との比率が30よりもかなり大きい。
【0102】
EAPデバイスからの電力を電力網へ向けて能動的に変換しているパワーエレクトロニクスコンバータについては、これは以下のことを意味する。
‐コンバータ定格電力が30分の1に低減される。これにより、容積およびコストもおよそ30分の1に低減される。
‐コンバータ効率制約の削減。これは、コンバータが正味出力電力を処理しているだけだからである。これにより、先進的なコンバータ技術の必要性が軽減されるので、コストが更に低減される。
‐コンバータ電力密度制約の削減。これは、定格電力が著しく低減されるためである。これにより、高いスイッチング周波数の必要性が軽減され、したがって先進的なコンバータ技術の必要性も軽減されるので、コストが更に低減され、通常は効率が高まる。
【0103】
加えて、本発明は、全ケーブル長の大幅な削減ももたらす。多相システム中の各セクションに要求される電力機器の複雑度が、先進的な高周波スイッチング電力コンバータから低周波スイッチングPDD(電力方向制御デバイス)へと低減される。複雑度を低減することは、容積の低減につながり、それにより、PDDをEAPデバイスの近くに配置できるようになる。
図1を参照すると、このことは、長い配線がなされた多相EAPエネルギー変換システムについては、全ケーブル長が劇的に短くなることを意味する。すなわち、各セクション用のデバイスの全長にわたる2本のケーブル導体(システム単位では合計で40本ものケーブル導体に容易に至る)の代わりに、全長にわたる全2本のケーブル導体のみが要求される。一方の導体がゼロノード(すなわちグラウンド)に接続されるので、任意の種類の接地シールドやEAP捕集システムそれ自体の被覆材料がこの接続に使用されてもよく、これにより、必要なケーブル導体が、全長にわたる1本のみにまで削減される。
【0104】
更に本発明は、業界標準の高効率スイッチング部品の使用を可能とする。電力方向制御デバイスが一般的に動作する周波数(100〜200Hz)は非常に低く、高電圧直流コンバータ(たとえばシーメンス社のモジュラーマルチレベルコンバータ(Modular Multilevel Converter))などの既存の工業用電力システムと同じ範囲にある。この利点は、業界標準であり容易に直列構成とすることが可能なスイッチング技術を使用できることである。
【0105】
ゼロ電流スイッチング(Zero Current Switching)を強制的に行うためにAC電流が重畳される場合は、高電圧サイリスタや高電流サイリスタを使用してもよい。これらのデバイスは、非常に低い損失を示し、また、直接光トリガ(Direct Light Triggered)デバイスとして利用可能なので、制御信号の更なるガルバニック絶縁が必要なくなり、ある程度までは補助電源も必要なくなる。
【0106】
加えて、本発明は、電力変動の低減ももたらす。多相可変コンデンサセクションをエネルギー貯蔵デバイスとして効果的に使用するエネルギー捕集方式によって、出力電力変動が能動的に低減される。電力出力が一定であることは、高い電圧ピークまたは高い電流ピークを除去するために出力バスに要求されるエネルギー貯蔵がより少ないことを意味する。コンバータは正味出力電力を処理するだけなので、コンバータは、ある程度一定の電力レベルで動作している。このことは、採用する捕集方式により提供される電力平滑化によってさらに後押しされる。この一定電力レベルによって、コンバータが熱サイクルの影響を受けにくくなり、その信頼性および寿命が向上する。
【0107】
単相PEUと比較すると、電力変動は、機械的励起周波数範囲(秒)でのものよりもスイッチング周波数(ミリ秒範囲)でのものがほとんどである。これにより、熱サイクルの深さおよびインパクトが低減される。
【0108】
本発明は、電力網安定性の能動的支援も行う。多相システムのセクション内にエネルギーを貯蔵する能力をエネルギー変換能力と組み合わせることで、本発明は、瞬時電力出力を制御する効果的な方法を、同期(または非同期)回転発電機よりも潜在的にかなり進んだ程度まで提供する。この特性は、障害発生中の電気網を支援するために広範囲に使用することができるが、正確な電力量を提供して発電量と電力需要のバランスをとるためにも使用することができる。
【0109】
EMI放射の低減も達成できる。定電流源の組み込みを実現するために、電磁放射線の放出が実質的に低減される。すなわち、ケーブル内のDC電流は、時間変動する磁場を放射せず、ケーブル被覆によって電場が効果的に遮断される。
【0110】
ここまで、好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明してきた。明らかな変形例や代替例は、前述の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者には思い浮かぶだろう。すべてのそのような変形例や代替例が添付の特許請求の範囲内に属する限り本発明に含まれると解釈されることを意図している。