【課題を解決するための手段】
【0016】
鋭意検討の結果、EVA封止材は、セル表面、インターコネクタ、フィンガー電極との接着において、最も強固な接着力を発揮するものであり、50年間の実績を有する。その証拠として、世界中で生産されている太陽電池モジュールの約90%以上でEVA封止材が採用されている。つまり、初期(認証試験条件)の機械的接着シートとしては、太陽電池用封止材として、最良のシートである。よって、カバーガラスとの接着およびセルの封止(接着)する充填材は、EVA封止材シートを適用する。以下、デラミネーション発生メカニズムを説明し、EVA封止材を適用する対策発明を以下に記述する。
【0017】
EVA封止材とセル表面の間で発生するデラミネーションは、セル上のインターコネクタおよびフィンガー電極との凹凸部がすべての起点となっている。
太陽電池モジュール生産工程のラミネータ工程では、レイアップ工程で準備した、カバーガラスを最下部として、その上にEVA封止シート、直列配線したセルストリング、EVA封止シート、最上部にバックシートの順番に積層した太陽電池モジュールの層構造に熱と圧力を加えて、太陽電池モジュールを成型する。これにアルミフレームとジャンクションボックスを取り付けて製品となる。
【0018】
ラミネートの加工条件は、一般のゴム製品の金型成型と同じイメージで行われている。具体的には、EVA封止シートで、セルを覆う(封止)ため、EVA樹脂への予熱(予熱工程)と加圧して熱硬化するプレス工程を経て成型される。太陽電池の世界では、この予熱工程を「真空時間」と称し、熱板の熱はガラスを通してEVA封止材、およびバックシートへと伝わる。
【0019】
結晶性の樹脂の場合は、少なくともその樹脂の融点;Tm温度以上、非結晶性樹脂の場合は、ガラス転移温度;Tg以上になるまで待つ必要があり、これが予熱工程である。EVAは、結晶性の樹脂であり、融点は、エチレンと共重合する酢酸ビニルモノマーの含量により変化する。一般には、40℃から90℃まで変化した銘柄を入手することができる。
【0020】
太陽電池モジュールのサイズは大型化しており、シリコンセルを60枚直列したモジュールは、60直タイプと言われ、約幅900mm、約縦長さ1600mmの大きさである。ガラスの厚みは3mm強であり、熱板への押さえ付ける板は、ダイヤフラムゴムシートであり、熱源機能はない。そのため、ガラスは、ラミネータ熱板上で、「反り」が発生する。60直タイプでは、そのエッジ部は5cm程度も浮き上がる。よって、ガラス中心部とガラス周辺部では、温度上昇速度が全く異なっており、ガラスの「反り」が少なくなり、ガラス周辺部のEVA封止材がその材料の融点以上になるまで、ダイヤフラムゴムシートにて加圧できない。
【0021】
一方、セル上に覆い被さっているEVA封止材の状態を
図4に示す。インターコネクタの高さは、EVA封止材厚みの半分程度もあり、インターコネクタの高さを一辺とする45°直角三角形の「隙間」(斜線部)が存在する。この隙間部分をラミネータ工程で埋めることが「封止」の機能発現には必要不可欠である。
【0022】
この隙間を埋めることは、樹脂加工技術に関することであり、ガラス面上の中心部、周辺部のラミネート加工時間内の温度上昇曲線を得ながら、その材料に適した真空時間決定が行われている。また、生産の品質管理としても重要な条件である。EVA樹脂の融点以下の温度で、プレスされた部分(ガラス周辺部)は、樹脂が流動しないので、隙間を充満することはない。そのため、EVA架橋反応と同時に発生する有機過酸化物の分解ガスがこの部分に集まり、成型後、ガラス周辺のセルのインターコネクタ部や横バスバー部分の凹凸部分に0.1〜1mm程度の無数の気泡が発生する。これは外観不良品として廃棄される。
【0023】
しかし、EVA封止材とセル界面の化学接着反応が不十分という状態で止まった場合は、外観不良としては識別できないので、規格出力を確認後、製品は出荷され、発電プラントに設置されることになる。こうした製品が稼働10年経過ごろ、デラミネーション不良を発生したものと推測できる。
【0024】
現在、生産コストダウンを目的に、より高速にセルとの接着強度を発揮する、ウルトラファーストキュアタイプのEVA封止材が使用されている。ラミネータ工程での加工時間短縮は、生産コストダウンの切り札であり、生産現場では常に短縮化のプレッシャが加わっている。
【0025】
先に述べたEVAの予熱時間の短縮は、ガラスの「反り」が発生する現在の加工法ではその解消は難しい。生産現場では、コストダウンを目的に製品外観検査による予熱時間短縮化の検討を日々行っている。こうした中、熱板上の温度がばらつき、EVA樹脂の融点以上の温度に上昇しない部分が生じる条件で生産される製造ラインでは、潜在的にインターコネクタ回りにデラミネーション発生する製品が出荷される可能性が極めて高い状況にある。
【0026】
デラミネーション発生は、上述した加工条件が及ぼすEVA封止材の流動性と関係することを述べた。この隙間が充填されていることが、デラミネーション発生対策の根幹である。その上で、EVA封止材とセル表面および凹凸部、その代表であるインターコネクタとの化学接着構造が環境劣化因子に影響を受けることなく、長期安定化する技術を検討し、本発明に至った。
【0027】
スーパーストレート型太陽電池モジュールの充填材として、(A)EVA(エチレン酢酸ビニルアセテート)封止材/(B)エチレ
ン環状オレ
フィン共重合体フィルム/(A)EVA封止材の3層構造からなる複合封止材において、以下の(A)(B)の品質を満たしているデラミネーション防止フィルムおよびデラミネーション防止複合封止材が提供される。
【0028】
(A)EVA封止材のDSCで測定した融点;Tmが55℃〜75℃。
(B)エチレン環状オレフィン共重合体
フィルムのDSCで測定したガラス転移温度Tg;
70℃〜
80℃で、かつ、そのフィルム厚みが20μm〜
38μmである。
【0029】
EVA樹脂は、分子内にエステル構造を有しているので熱的に弱く、150℃以下のラミネート成型温度がメーカより推奨されている。一方、この極性基;酢酸ビニル構造を有することで、シランカップリング反応を通して、シリコンセルやガラスと強固な接着を発揮することができる。よって、デラミネーション発生防止には、強い接着を得ることができるEVA封止材を複合封止材の構成材として使用する。融点は55℃〜75℃、好ましくは、58℃〜70℃さらに好ましくは、60℃〜65℃である。55℃を下回る品質は酢酸ビニルの含量が高いことを意味するので、ラミネータ成型温度で劣化し易くなり、脱酢酸が起こり易くなるので好ましくない。75℃を超えるとラミネータ加工時のガラス周辺部の温度の方が低くなることもあり得る温度なので、上述のインターコネクタ回りの「隙間」が埋まらない可能性のある成型となるので好ましくない。
【0030】
セル上の凹凸部がEVA樹脂で埋まったのち、架橋剤:有機過酸化物の分解により発生したラジカルで、EVA封止材の架橋構造の形成とEVAの酢酸ビニルとシランカップリング剤を介して、セル表面との間にポリシラノール結合構造が形成され、接着反応が完了する。接着反応は、温度と圧力により進行し、不十分な場合は、デラミネーション発生の原因となる。生産工程では、セルとEVAの接着強度を測定し、一定の強度が発現されていることを確認しながら生産している。
【0031】
EVA樹脂の分子構造および接着界面のポリシラノール構造は湿気(水蒸気)に弱い、所謂、加水分解し易い構造である。さらにアルカリ環境下では、室温で容易にアルカリ加水分解が進行することが知られている。10年、20年という長期間を経たのち、デラミネーションが発生する原因は、この加水分解反応が関わっているからであると結論付けた。
【0032】
EVA封止材とガラスとの接着のガラス周辺部、その端部は、常に雨水により濡れる機会が多い。晴天時には、フレーム内部の雨水が水蒸気化し、EVA封止材の層内に侵入し易い状況になることは容易に想定できる。また、発電時には、ガラスからフレームに「漏れ電流」が発生する。そのことによって、端部は、ガラス中のナトリウムの移動が起こり、アルカリ性となり、アルカリ加水分解反応がフレーム内のガラス周辺部に起こる。そこが起点となって、水蒸気の侵入経路の入口が形成される。インターコネクタ周辺の凹凸部に「隙間」があれば、容易に水蒸気侵入がモジュール内に起こり、インターコネクタに沿ってデラミネーションが進行する。その「隙間」がなくとも、インターコネクタ回りの接着強度が低下(不完全)している太陽電池モジュールは、同様にデラミネーションが進行すると考えられる。インターコネクタ周辺部の接着界面は水蒸気侵入により、次々に加水分解反応が進行し、このデラミネーションが伝搬、モジュール内部に位置するセルまで到達し、ついには全面白濁の太陽電池モジュールとなる。
【0033】
このデラミネーション発生メカニズムを踏まえ、初期界面接着力最大を発揮するEVA封止材を用い、加水分解し難い層構造を提供することでデラミネーション防止できる充填材を完成するに至った。その複合封止材の層構造を
図3に示す。EVA封止材とセル表面の接着界面に水蒸気が通過し難い機能を持たせるため、水蒸気バリア性が極めて高い、環状オレフィンフィルムをそのEVA封止材でサンドイッチした構造を考案した。そのためには、環状オレフィンフィルムとEVAは分子レベルで一体化させる必要がある。EVA含有の有機過酸化物架橋剤により、環状オレフィンフィルムのエチレン連鎖とEVAのエチレン連鎖の水素引抜によるラジカル部分の架橋反応により、それぞれの界面は分子レベルで一体化するので、本複合封止材は、EVAの接着力を保持しながら、水蒸気バリア性を発現することができる。
【0034】
EVA封止材にサンドイッチされた環状オレフィンフィルムのTgは、70℃〜80℃であることが必須である。80℃を超えると、ラミネート加工において、インターコネクタ周辺の「隙間」が埋まらないことがあるため好ましくない。70℃を下回るとフィールドでパネル温度が100℃程度になることが多々あり、その場合そのフィルムがシュリンクし、セル表面上に亀の甲羅状の皺を発生させるため好ましくない。これは、年間のヒートサイクルにより、その皺が亀裂に成長する可能性がある。
【0035】
この環状オレフィンフィルムの積層により、複合充填剤の絶縁性が向上し、「漏れ電流」の低減が期待できる。ガラス周辺はアルカリ環境にならなくなり、加水分解し難くなることによって、水蒸気侵入の入口が形成しなくなる。本フィルムは、複合充填材にデラミネーション防止機能を付与するフィルムである。
【0036】
さらに、このフィルムの厚みはデラミネーション防止と強く相関していることを発見した。本来、環状オレフィンフィルムは、ガラス転移温度以上に環境温度が上昇するとシュリンクする。一般には、シュリンクフィルムとして販売されている。検討の結果、ガラス転移温度にプラス20℃以上の環境温度上昇時に大きくシュリンクすることが分かった。本複合充填材は、ラミネート加工にて、150℃程度で圧縮、熱硬化させているので、シュリンクしない構造で太陽電池モジュール内の充填材として機能するが、そのフィルム厚みが50μmを超えると亀状の皺が発生することが分かった。50μm以下の薄いフィルムでは、それぞれの界面はEVA分子と架橋により一体化するので、フィルム界面の性質はフィルム自身の性質を決定づけることになり、シュリンクしない。このシュリンクが層内に発生すると、結果として、デラミネーションを誘発することになるので、環状オレフィンのフィルム厚みは極めて重要な物性値であることを発見し、本発明に至った。フィルム厚みが20μmを下回るとフィルム巻き取り工程で破断のリスクが生じるため好ましくない。
【0037】
エチレン環状オレフィンフィルムの成膜前に作成するマスターバッチに紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐光安定剤を添加し、そのマスターバッチのガラス転移温度;Tgが原料樹脂のTgと比べ2℃から7℃低下するよう添加量とブレンド温度を調整した(B)層の樹脂組成物である。このマスターバッチのガラス転移温度は、フィルムの収縮率に影響を与える。2℃より小さいと安定剤の添加量が少なすぎることを意味するので好ましくない。7℃を超えるとフィルム収縮率が大きくなることがあるので好ましくない。
【0038】
EVA封止材とより強固に一体化することによって、環状オレフィンの収縮による亀の甲羅状の皺を押さえるため、環状オレフィン樹脂にシランカップリング剤を添加した樹脂組成物を用いることがより好ましい。
【0039】
また、受光面側とバックシート側の両面にデラミネーション防止複合封止材を使用した結晶系太陽電池モジュールは、裏面からの水蒸気や金属イオンの移動を防ぐので、超長期間に亘り、一切のデラミネーションを発生しないモジュールとして好ましい。