(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の音声信号に基づいてパラメトリックイコライザによる音場補正の目標となる目標振幅特性及び該目標振幅特性と同等若しくはそれよりもなだらかな振幅特性を持つ複数の副目標振幅特性を算出する目標算出手段と、
算出された目標振幅特性及び複数の副目標振幅特性に基づいて音場を補正するための補正振幅特性を算出する補正振幅特性算出手段と、
算出された補正振幅特性に基づいて前記パラメトリックイコライザを設定する設定手段と、
を備える、
音場補正装置。
所定の音声信号に基づいてパラメトリックイコライザによる音場補正の目標となる目標振幅特性及び該目標振幅特性と同等若しくはそれよりもなだらかな振幅特性を持つ複数の副目標振幅特性を算出する目標算出ステップと、
算出された目標振幅特性及び複数の副目標振幅特性に基づいて音場を補正するための補正振幅特性を算出する補正振幅特性算出ステップと、
算出された補正振幅特性に基づいて前記パラメトリックイコライザを設定する設定ステップと、
を含む、
音場補正方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の音場補正装置は、補正対象の周波数範囲に含まれるエリア内における目標特性からのゲイン差が最大となる周波数に基づいて中心周波数を決定し、決定された中心周波数におけるゲイン値をその中心周波数での目標特性とのゲイン差に基づいて決定し、更に、所定の候補の中からQ値を決定する構成となっている。しかし、特許文献1に記載の構成では、エリア内における目標特性とのゲイン差の形状や重心が考慮されていないため、該エリアを精度良く補正することが難しい場合がある。
【0005】
特許文献2に記載の音場補正装置は、マイク収録音から周波数帯域毎の信号補正レベルを算出し、算出された信号補正レベルを周波数帯域順に接続した補正レベルの波形の変極点を基準として、周波数帯域を複数のグループに区分し、区分されたグループ単位でレベル補正を行う。特許文献2に記載の構成では、グループ内の重心位置が考慮されている点ではレベル補正を精度良く行うのに好適であるが、グループ分割処理の結果によっては例えばパラメトリックイコライザの特性が先鋭となり、少ないバンド数では十分な補正効果が得られないという問題が指摘される。
【0006】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パラメトリックイコライザのバンド数が少ない場合であっても十分な音場補正効果を得るのに好適な音場補正装置、音場補正方法及び音場補正プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る音場補正装置は、所定の音声信号に基づいてパラメトリックイコライザによる音場補正の目標となる目標振幅特性及び該目標振幅特性と同等若しくはそれよりもなだらかな振幅特性を持つ複数の副目標振幅特性を算出する目標算出手段と、算出された目標振幅特性及び複数の副目標振幅特性に基づいて音場を補正するための補正振幅特性を算出する補正振幅特性算出手段と、算出された補正振幅特性に基づいてパラメトリックイコライザを設定する設定手段とを備える。
【0008】
また、本発明の一実施形態において、目標算出手段は、音声信号に基づいてその振幅特性を算出し、算出された振幅特性に対して第一の分解能で平均化処理を施し、平均化処理された振幅特性を基に目標振幅特性を算出する構成としてもよい。また、目標算出手段は、音声信号に基づいてその振幅特性を算出し、算出された振幅特性に対して第一の分解能と同等若しくはそれよりも粗い分解能であってそれぞれ異なる複数種類の分解能で平均化処理を施し、異なる分解能で平均化処理された各振幅特性を基に複数の副目標振幅特性を算出する構成としてもよい。
【0009】
また、本発明の一実施形態において、補正振幅特性算出手段は、所定の条件に基づいて各副目標振幅特性を周波数領域において複数のグループに分割し、分割された各グループの優先度を算出し、算出された優先度が最も高いグループを該副目標振幅特性毎に選択し、選択された周波数領域のグループに基づいて補正候補のパラメトリックイコライザのパラメータを副目標振幅特性毎に算出し、算出された副目標振幅特性毎のパラメータに基づいて補正対象の該パラメトリックイコライザのパラメータを取得する構成としてもよい。この場合、設定手段は、補正対象のパラメトリックイコライザのパラメータに基づいて該パラメトリックイコライザを設定する。
【0010】
また、本発明の一実施形態において、補正振幅特性算出手段は、補正候補のパラメトリックイコライザのパラメータに基づいて補正候補の振幅特性を副目標振幅特性毎に算出し、算出された各補正候補の振幅特性のうち、目標振幅特性との差分が最も小さいもののパラメータを補正対象のパラメトリックイコライザのパラメータとして取得する構成としてもよい。
【0011】
また、本発明の一実施形態において、補正振幅特性算出手段は、補正対象のパラメトリックイコライザのパラメータが取得されると、副目標振幅特性毎に算出された補正候補の振幅特性の中で目標振幅特性との差分が最も小さい補正対象の振幅特性と、該目標振幅特性との差分を新たな目標振幅特性として算出し、且つ該補正対象の振幅特性と各副目標振幅特性との差分を新たな複数の副目標振幅特性として算出し、取得された補正対象のパラメトリックイコライザの数が所定数に達していなければ、新たな目標振幅特性及び新たな複数の副目標振幅特性に基づいて、該補正対象のパラメトリックイコライザのパラメータを更に取得する構成としてもよい。
【0012】
また、本発明の一実施形態において、パラメトリックイコライザのパラメータは、例えば、パラメトリックイコライザの中心周波数、ゲイン及び周波数帯域幅を含む。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る音場補正方法は、所定の音声信号に基づいてパラメトリックイコライザによる音場補正の目標となる目標振幅特性及び該目標振幅特性と同等若しくはそれよりもなだらかな振幅特性を持つ複数の副目標振幅特性を算出する目標算出ステップと、算出された目標振幅特性及び複数の副目標振幅特性に基づいて音場を補正するための補正振幅特性を算出する補正振幅特性算出ステップと、算出された補正振幅特性に基づいてパラメトリックイコライザを設定する設定ステップとを含む方法である。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係る音場補正プログラムは、上記の音場補正方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、パラメトリックイコライザのバンド数が少ない場合であっても十分な音場補正効果を得るのに好適な音場補正装置、音場補正方法及び音場補正プログラムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下においては、本発明の一実施形態として、車室内に配置された音響システムを例に取り説明する。
【0018】
[音響システム1の概要説明]
図1は、本発明の一実施形態に係る音響システム1の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る音響システム1は、車室内という聴取環境における音場を補正、より詳細には、車室内に配置された複数のスピーカに対して出力される音声信号の周波数帯域毎の信号レベルを調整する、音場補正機能(音場補正装置)を搭載したシステムである。
【0019】
なお、音響システム1における各種処理は、音響システム1に備えられるソフトウェアとハードウェアとが協働することにより実行される。音響システム1に備えられるソフトウェアのうち少なくともOS(Operating System)部分は、組み込み系システムとして提供されるが、それ以外の部分、例えば、音場補正を実行するためのソフトウェアモジュールについては、ネットワーク上で配布可能な又はメモリカード等の記録媒体にて保持可能なアプリケーションとして提供されてもよい。すなわち、本実施形態に係る音場補正機能は、音響システム1に予め組み込まれた機能であっても、ネットワーク経由や記録媒体経由で追加可能な機能であってもよい。
【0020】
図1に示されるように、音響システム1は、音場装置10、マイクロフォン116、スピーカFC、FR、FL、RR、RL、SWを備えている。スピーカFCは、車室内の前部中央位置に配置されたセンタスピーカであり、スピーカFRは、車室内の前部右側方位置に配置された右フロントスピーカであり、スピーカFLは、車室内の前部左側方位置に配置された左フロントスピーカであり、スピーカRRは、車室内の後部右側方位置に配置された右リアスピーカであり、スピーカRLは、車室内の後部左側方位置に配置された左リアスピーカであり、スピーカSWは、車室内の後部中央位置に配置されたサブウーファである。
【0021】
音場装置10は、制御部100、表示部102、操作部104、測定信号発生部106、記録媒体再生部108、PEQ(Parametric Equalizer)部110、D/Aコンバータ112、パワーアンプ114、マイクアンプ118、A/Dコンバータ120、信号収録部122及び計算部124を備えている。
【0022】
[音場測定処理]
図2は、本発明の一実施形態に係る音響システム1において実行される音場測定処理のフローチャートを示す図である。本フローチャートに示される音場測定処理をはじめとする、音響システム1内での各種処理は、制御部100の制御下で実行される。制御部100は、表示部102に対する所定のタッチ操作又は操作部104に対する所定の操作を受けると、音場測定条件の入力画面を表示部102に表示する。これにより、本フローチャートに示される音場測定処理が開始される。
【0023】
[
図2のS11(音場測定条件の設定)]
本処理ステップS11では、表示部102に表示された入力画面に対してユーザによる音場測定条件の入力が行われると、入力された音場測定条件が設定される。ここで入力される音場測定条件は、例えばチャンネル数(又は測定対象のスピーカの指定)である。本実施形態に係る音響システム1には6つのスピーカが搭載されているため、入力可能なチャンネル数は最大「6」である。本実施形態では、6つのチャンネル数が入力されたものとして説明を行う。
【0024】
[
図2のS12(音場測定音の再生)]
本処理ステップS12では、測定信号発生部106が所定の測定信号を発生させる。発生された測定信号は、例示的には、M系列符号(Maximal length sequence)やTSP信号(Time Stretched Pulse)であり、D/Aコンバータ112及びパワーアンプ114を介して、処理ステップS11(音場測定条件の設定)にて設定された各スピーカFC、FR、FL、RR、RL、SWに所定の時間間隔を空けて順次入力される。これにより、所定の音場測定音が所定の時間間隔を空けて各スピーカFC、FR、FL、RR、RL、SWから順次再生される。
【0025】
[
図2のS13(インパルス応答の記録)]
本実施形態において、車室内には、4つの座席(運転席、助手席、左右一対の後部座席)が設置されている。マイクロフォン116は、これら4つの座席の各乗員に適切な音場補正を行うため、各座席から等距離の位置(4つの座席の中央の位置)に配置されている。マイクロフォン116は、音場補正の効果を与えたい乗員(換言すると、車室内の位置)に応じて設置される位置が変わる。例えば運転手に最適な音場補正を行いたい場合、マイクロフォン116は運転席に設置される。
【0026】
本処理ステップS13では、処理ステップS12(音場測定音の再生)にて再生された音場測定音がマイクロフォン116にて収音されて、マイクアンプ118及びA/Dコンバータ120を介して信号収録部122に入力される。信号収録部122では、インパルス応答が演算される。インパルス応答は、例えば、入力された音場測定音とリファレンスの測定信号(TSP信号等)を時間軸上で逆転させた逆特性のリファレンス信号をフーリエ変換して周波数上で乗算し、乗算された値を逆フーリエ変換することで求まる。演算されたインパルス応答は、制御部100の内部メモリ100Mに記録される。
【0027】
[
図2のS14(音場測定処理の完了判定)]
処理ステップS12(音場測定音の再生)及びS13(インパルス応答の記録)は、処理ステップS11(音場測定条件の設定)にて設定されたスピーカ毎に実行される。処理ステップS11(音場測定条件の設定)にて設定された全てのスピーカについて、処理ステップS12(音場測定音の再生)及びS13(インパルス応答の記録)が実行されると(S14:YES)、本フローチャートに示される音場測定処理が完了する。
【0028】
[音場補正処理]
図3は、本発明の一実施形態に係る音響システム1において実行される音場補正処理のフローチャートを示す図である。
図3に示される音場補正処理は、
図2に示される音場測定処理の完了次第開始され、且つ各スピーカに対して実行される。
【0029】
[
図3のS21(補正条件の設定)]
本処理ステップS21では、補正条件を設定するための設定画面が表示部102に表示される。表示部102に表示された設定画面に対してユーザによる補正条件の入力が行われると、入力された補正条件が設定される。ここで設定される補正条件は、PEQバンド数及び補正周波数範囲である。PEQバンド数は、一台のスピーカに割り当てられるパラメトリックイコライザの数を示しており、本実施形態では「7」である。補正周波数範囲は、補正される周波数の範囲を示しており、スピーカの再生可能周波数等に基づいてスピーカ毎に設定される。
【0030】
[
図3のS22(インパルス応答の振幅特性の算出)]
本処理ステップS22では、処理ステップS13(インパルス応答の記録)にて記録されたインパルス応答が読み出されて、計算部124によりフーリエ変換されて、周波数領域におけるインパルス応答の振幅特性が算出される。
図4に、ここで算出されるインパルス応答の振幅特性の一例を示す。なお、
図4中、縦軸、横軸はそれぞれ、信号レベル(Power(単位:dB))、周波数(Frequency(単位:Hz))を示す。Powerは、振幅を自乗したものである。また、人間の聴覚特性は、周波数に対して対数的である。横軸の周波数は、人間の聴覚特性に合わせて対数表示となっている。
【0031】
[
図3のS23(目標振幅特性の生成)]
本処理ステップS23では、計算部124により、処理ステップS22(インパルス応答の振幅特性の算出)にて算出された振幅特性に対し、1サンプルずつシフトしながら所定のサンプル数内の平均値が算出されて、スムージング(平均化処理)が行われる。ここで、平均化処理は、聴覚の周波数分解能として知られている1/3オクターブバンド幅と同程度の分解能で行われる。
【0032】
次いで、基準バンド幅(本実施形態では500Hz〜3000Hz)内における信号レベルを基に、インパルス応答の正規化振幅特性が算出される。
図5に、ここで算出されるインパルス応答の正規化振幅特性の一例を示す。
【0033】
算出されたインパルス応答の正規化振幅特性の信号レベルの符号が反転されて、所定の重み付け(例えば音響システム1にて生成すべき音場の振幅特性の重み付け)が行われる。重み付けされた振幅特性のうち、処理ステップS21(補正条件の設定)にて設定された補正周波数範囲における振幅特性が、音場補正の目標となる目標振幅特性として取得される。
図6に、ここで生成され取得される目標振幅特性の一例を示す。
【0034】
[
図3のS24(複数の副目標振幅特性の生成)]
本処理ステップS24では、計算部124により、処理ステップS23(目標振幅特性の生成)にて生成された目標振幅特性と同様の方法で複数の副目標振幅特性が生成される。本実施形態では、3種類の副目標振幅特性が生成される。1つは、1/1オクターブバンド幅と同程度の分解能で平均化処理を施すことによって生成されたものであり、説明の便宜上、「第一の副目標振幅特性」と記す。他の1つは、1/2オクターブバンド幅と同程度の分解能で平均化処理を施すことによって生成されたものであり、説明の便宜上、「第二の副目標振幅特性」と記す。残りの1つは、目標振幅特性と同じく1/3オクターブバンド幅と同程度の分解能で平均化処理を施すことによって生成されたものであり、説明の便宜上、「第三の副目標振幅特性」と記す。広いオクターブバンド幅の分解能で平均化処理を施すことによって生成された副目標振幅特性ほど、その振幅特性がなだらかになる。
【0035】
図7(a)に、第一の副目標振幅特性の一例を示し、
図7(b)に、第二の副目標振幅特性の一例を示し、
図7(c)に、第三の副目標振幅特性の一例を示す。なお、
図7(a)〜
図7(c)の各図は、図面内に3つのグラフを記載する便宜上、縦軸の縮尺が他の図(
図4〜
図6等)と大きく異なっている。第三の副目標振幅特性は、
図7(c)に示されるように、目標振幅特性と同等の振幅特性を有している。これに対し、第二の副目標振幅特性は、
図7(b)に示されるように、目標振幅特性(又は第三の副目標振幅特性)よりもなだらかな振幅特性を有している。また、第一の副目標振幅特性は、
図7(a)に示されるように、第二の副目標振幅特性よりもなだらかな振幅特性を有している。すなわち、本処理ステップS24では、目標振幅特性と同等若しくはそれよりもなだらかな振幅特性を持つ複数の副目標振幅特性が生成される。
【0036】
[
図3のS25(各副目標振幅特性に対するグループ分割処理)]
本処理ステップS25では、計算部124により、処理ステップS24(複数の副目標振幅特性の生成)にて生成された各副目標振幅特性に対してグループ分割処理が行われる。
図8に、本処理ステップS25にて行われるグループ分割処理のフローチャートを示す。
【0037】
・
図8のS25a
本処理ステップS25aでは、処理ステップS24(複数の副目標振幅特性の生成)にて生成された副目標振幅特性毎に、信号レベルの符号による暫定的なグループ分割が行われる。より詳細には、副目標振幅特性は、正又は負の信号レベルが連続する周波数領域(すなわち、信号レベルの反転の無い周波数領域)毎にグループ分割される。
【0038】
・
図8のS25b
本処理ステップS25bでは、処理ステップS25aにて暫定的に分割された暫定グループ群の中から1つの暫定グループが選択される。
【0039】
・
図8のS25c
本処理ステップS25cでは、処理ステップS25bにて選択された暫定グループ内の所定の特異点について検出処理が行われる。本処理ステップS25cにて特異点が検出されなかった場合(S25c:NO)は、処理ステップS25bにて選択された暫定グループが本グループとして決定されて、処理ステップS25jに進む。本処理ステップS25cにて特異点が検出された場合(S25c:YES)は、処理ステップS25dに進む。この場合、正の暫定グループ(正の信号レベルが連続する周波数領域)では、少なくとも1つの極小値が検出され、負の暫定グループ(負の信号レベルが連続する周波数領域)では、少なくとも1つの極大値が検出される。
【0040】
・
図8のS25d
本処理ステップS25dでは、処理ステップS25cにて検出された特異点のうち絶対値が最も小さいものが選択される。
【0041】
・
図8のS25e
本処理ステップS25eでは、処理ステップS25dにて選択された特異点を境に、暫定グループが仮分割される。
【0042】
・
図8のS25f
本処理ステップS25fでは、処理ステップS25eにて仮分割された各仮分割グループ内で最大となる絶対値が検出される。
【0043】
・
図8のS25g
本処理ステップS25gでは、処理ステップS25dにて選択された特異点の絶対値(暫定グループ内で最小となる絶対値)と、処理ステップS25fにて検出された各仮分割グループ内で最大となる絶対値との差分が所定の閾値以上か否かが判定される。
【0044】
・
図8のS25h
本処理ステップS25hは、処理ステップS25gにて上記差分が所定の閾値以上と判定された場合(S25g:YES)に実行される。本処理ステップS25hでは、暫定グループが、処理ステップS25dにて選択された特異点を境に分割されて、2つの本グループとして決定される。
【0045】
・
図8のS25i
本処理ステップS25iは、処理ステップS25gにて上記差分が所定の閾値未満と判定された場合(S25g:NO)に実行される。本処理ステップS25iでは、処理ステップS25dにて選択された特異点が処理ステップS25cにおける検出対象から除外される。次いで、本フローチャートに示されるグループ分割処理は、処理ステップS25cに戻る。
【0046】
・
図8のS25j
本処理ステップS25jでは、処理ステップS25aにて分割された全ての暫定グループに対して、処理ステップS25c以降の処理(本グループとして決定されるための処理)が実行されたか否かが判定される。本フローチャートに示されるグループ分割処理は、未処理の暫定グループが残っている場合(S25j:NO)、処理ステップS25bに戻り、全ての暫定グループに対する処理が完了している場合(S25j:YES)、終了する。
【0047】
図9は、処理ステップS25bにて選択される正の暫定グループの一例を模式的に示す図である。
図9の例では、処理ステップS25cにて極小値min1及びmin2が検出される。処理ステップS25dでは、絶対値の小さい極小値min2が選択される。処理ステップS25eでは、極小値min2を境に暫定グループが仮分割される。処理ステップS25fでは、仮分割された各仮分割グループG1内、G2内のそれぞれで、最大となる極大値max1、max2が検出される。処理ステップS25gでは、極小値min2と極大値max1との差分値、極小値min2と極大値max2との差分値の何れもが所定の閾値以上か否かが判定される。
図9の例では、何れの差分値も所定の閾値以上であるため、仮分割グループG1、G2が本グループとして決定される。
【0048】
図10に、処理ステップS25gにて判定に用いられる閾値を1とした場合における、各副目標振幅特性に対するグループ分割処理の結果を例示する。
図10(a)〜(c)の各図中、実線で示される振幅特性は、信号レベルが正の本グループであり、破線で示される振幅特性は、信号レベルが負の本グループである。
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)はそれぞれ、第一、第二、第三の副目標振幅特性に対するグループ分割処理の結果を示す。
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)の各図に示されるように、第一、第二、第三の副目標振幅特性はそれぞれ、9個、14個、15個の本グループに分割されている。
【0049】
[
図3のS26(各グループの優先度の算出)]
本処理ステップS26では、計算部124により、本グループの信号レベルに基づいて本グループの優先度が副目標振幅特性毎に算出される。
図11に、優先度が算出される本グループの振幅特性を模式的に示す。
図11では、各信号レベルg
n−1、g
0、・・・g
k、g
k+1に対応する周波数がf
n−1、f
0、・・・f
k、f
k+1と定義される。この場合、各副目標振幅特性の各本グループの優先度は、次式1により算出される。
(式1)
【0050】
[
図3のS27(優先度に基づくグループの選択)]
本処理ステップS27では、計算部124により、処理ステップS26(各グループの優先度の算出)での算出結果に基づいて優先度の最も高い本グループが各副目標振幅特性で選択される。以下、説明の便宜上、第一の副目標振幅特性で優先度の最も高い本グループに符号G
r1/1を付し、第二の副目標振幅特性で優先度の最も高い本グループに符号G
r1/2を付し、第三の副目標振幅特性で優先度の最も高い本グループに符号G
r1/3を付す。
【0051】
本処理ステップS27にて選択された本グループG
r1/1、G
r1/2、G
r1/3が補正対象候補のグループとなる。
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)にそれぞれ、本処理ステップS27にて選択された補正対象候補グループG
r1/1、G
r1/2、G
r1/3の一例を示す。
【0052】
[
図3のS28(中心周波数の算出)]
本処理ステップS28では、計算部124により、処理ステップS27(優先度に基づくグループの選択)にて選択された補正対象候補グループに基づいて補正候補PEQの中心周波数(重心位置)が副目標振幅特性毎に算出される。補正対象候補グループ内の信号レベルと周波数とが
図11のように定義される場合、補正候補PEQの中心周波数は、次式2により算出される。
(式2)
【0053】
[
図3のS29(ゲインの算出)]
本処理ステップS29では、計算部124により、処理ステップS27(優先度に基づくグループの選択)にて選択された補正対象候補グループに基づいて補正候補PEQのゲインが副目標振幅特性毎に算出される。補正対象候補グループ内の信号レベルと周波数とが
図11のように定義される場合、補正候補PEQのゲインは、次式3により算出される。
(式3)
【0054】
[
図3のS30(周波数帯域幅の算出)]
本処理ステップS30では、計算部124により、処理ステップS27(優先度に基づくグループの選択)にて選択された補正対象候補グループに基づいて補正候補PEQの周波数帯域幅が副目標振幅特性毎に算出される。補正対象候補グループ内の信号レベルと周波数とが
図11のように定義される場合、補正候補PEQの周波数帯域幅は、次式4により算出される。
(式4)
【0055】
補正候補PEQの中心周波数、ゲイン及び周波数帯域幅が算出されることにより、補正候補PEQの振幅特性が得られる。
図13(a)に、第一の副目標振幅特性(太実線)と、第一の副目標振幅特性から生成された第一の補正候補PEQの振幅特性(細実線)とを示し、
図13(b)に、第二の副目標振幅特性(太実線)と、第二の副目標振幅特性から生成された第二の補正候補PEQの振幅特性(細実線)とを示し、
図13(c)に、第三の副目標振幅特性(太実線)と、第三の副目標振幅特性から生成された第三の補正候補PEQの振幅特性(細実線)とを示す。
【0056】
[
図3のS31(補正対象PEQの選択)]
本処理ステップS31では、計算部124により、目標振幅特性と第一から第三の各補正候補PEQの振幅特性とが比較されて、目標振幅特性との差分が最も小さい補正候補PEQが補正対象のPEQの1つとして選択される。補正対象のPEQの1つとして選択された補正対象PEQのパラメータ(中心周波数、ゲイン及び周波数帯域幅)は、制御部100の内部メモリ100Mに記録される。
【0057】
図14(a)、
図14(b)、
図14(c)にそれぞれ、目標振幅特性(太実線)と、第一、第二、第三の補正候補PEQの振幅特性(細実線)とを示す。
図14の例において、目標振幅特性との差分が最も小さい補正候補PEQは、第二の補正候補PEQである。従って、ここでは、第二の補正候補PEQが補正対象PEQの1つとして選択される。
【0058】
[
図3のS32(新たな副目標振幅特性の算出)]
本処理ステップS32では、計算部124により、処理ステップS31(補正対象PEQの選択)にて選択された補正対象PEQの振幅特性と各副目標振幅特性との差分が新たな副目標振幅特性として算出される。
図15(a)に、補正対象PEQの振幅特性と第一の副目標振幅特性との差分(新たな第一の副目標振幅特性)を示し、
図15(b)に、補正対象PEQの振幅特性と第二の副目標振幅特性との差分(新たな第二の副目標振幅特性)を示し、
図15(c)に、補正対象PEQの振幅特性と第三の副目標振幅特性との差分(新たな第三の副目標振幅特性)を示す。
【0059】
[
図3のS33(新たな目標振幅特性の算出)]
本処理ステップS33では、計算部124により、処理ステップS31(補正対象PEQの選択)にて選択された補正対象PEQの振幅特性と目標振幅特性との差分が新たな目標振幅特性として算出される。
図16に、補正対象PEQの振幅特性と目標振幅特性との差分(新たな目標振幅特性)を示す。
【0060】
[
図3のS34(終了判定)]
本処理ステップS34では、計算部124により、処理ステップS31(補正対象PEQの選択)の実行によりパラメータが記録された補正対象PEQの数が処理ステップS21(補正条件の設定)にて設定されたPEQバンド数に達したか否かが判定される。本フローチャートに示される音場補正処理は、制御部100の内部メモリ100Mに記録された補正対象PEQの数がPEQバンド数に達したと判定された場合(S34:YES)終了し、該補正対象PEQの数がPEQバンド数に達していないと判定された場合(S34:NO)、処理ステップS25(各副目標振幅特性に対するグループ分割処理)に戻り、処理ステップS32(新たな副目標振幅特性の算出)にて算出された新たな副目標振幅特性及び処理ステップS32(新たな目標振幅特性の算出)にて算出された新たな目標振幅特性を用いて、処理ステップS25以降の処理が繰り返される。
【0061】
処理ステップS25〜S34がループする毎に、目標振幅特性及び各副目標振幅特性が更新されつつ、補正対象PEQのパラメータ(中心周波数、ゲイン及び周波数帯域幅)が制御部100の内部メモリ100Mに順次記録される。
【0062】
PEQ部110は、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタであり、パラメータ(中心周波数、ゲイン及び周波数帯域幅)を調整することが可能なイコライザを複数備えている。制御部100の内部メモリ100Mに記録された各補正対象PEQのパラメータがPEQ部110に設定されることにより、目標振幅特性に近似する補正振幅特性が設定される。PEQ部110は、記録媒体再生部108にて読み出されるCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等の音声信号に対し、補正振幅特性に応じた周波数帯域毎の信号レベルの調整を行って音場を補正する。
【0063】
図17(a)に、制御部100の内部メモリ100Mに記録される各補正対象PEQのパラメータを示し、
図17(b)に、目標振幅特性(太実線)及びこれに近似する補正振幅特性(細実線)を示す。
図17(b)に示されるように、補正振幅特性は、目標振幅特性に近似しており、精度良く補正されたものとなっている。
【0064】
このように、本発明の一実施形態によれば、大雑把な(マクロ的な)補正から細かい(ミクロ的な)補正が順に行われることにより、PEQのバンド数が少ない場合であっても十分な音場補正効果が得られる。また、音場補正が簡易な構成で行われるため、音場補正の処理時間の短縮化に好適である。
【0065】
図18(a)に、目標振幅特性の一例を示す。また、
図18(b)に、従来(特許文献2)、本実施形態のそれぞれにおいて、
図18(a)に示されるものを目標振幅特性とした場合における、PEQバンド数と目標振幅特性との誤差を比較した結果を示す。
図18(b)に示されるように、本実施形態では、従来と比べて音場補正の誤差が15〜25%程度減少していることが判る。すなわち、本実施形態では、PEQのバンド数が少ない場合であっても十分な音場補正効果が得られることが判る。
【0066】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施例等又は自明な実施例等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【0067】
上記の実施形態では、音響システムは車室内の音場を補正するが、本発明はこれに限らない。別の実施形態では、音響システムは、住宅内など、他の特定空間の音場を補正するものであってもよい。また、音響システムは、上記の実施形態では複数のスピーカを備えるが、別の実施形態では単一のスピーカを備えるものであってもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、単一の装置(音場装置10)が音場測定機能及び音場補正機能を有しているが、本発明はこれに限らない。別の実施形態では、音響システムが複数の装置で構成されており、音場測定機能と音場補正機能とが該システムを構成する別々の装置に備えられていてもよい。一例として、スマートフォン等の情報処理端末が音場測定を行い、その測定結果に基づいて車載器等の装置が音場補正を行う構成が考えられる。