【実施例】
【0018】
図1は、Pd
xRu
1−x合金微粒子が導電性担体であるカーボン粒子に担持されたPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)の製造工程例を示している。
図1において、溶液A調整工程P1では、たとえばキャボット社のVulcan XC−72という品名のカーボンブラック230mgを還元剤として機能するトリエチレングリコール200mlに混合して懸濁液である溶液Aを調整した。また、溶液B調整工程P2では、K
2[PdCl
4]とRuCl
3・nH
2Oとを水50mlに溶解して溶液Bを調整した。このとき、K
2[PdCl
4]とRuCl
3・nH
2Oとのモル比すなわちたとえばPdのモル比xを、PdとRuの合計を1mmolとすることを維持しつつ、0、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1とに変化させることにより、7種類のPdRuの組成比の溶液Bを調整した。
【0019】
次いで、加熱工程P3において溶液Aが200℃に加熱された後、噴霧工程P4において、所定の噴霧装置を用いて、加熱された溶液Aに溶液Bを噴霧することで混合液Cを得た。噴霧終了後、混合液Cを保温工程P5において200℃に15分間保持し、冷却工程P6において室温まで放置冷却することで、PdとRuとを合金化するとともにPd
xRu
1−x合金微粒子をカーボン粒子の表面或いは内部に析出させた。次いで、分離工程P7において、遠心分離機を用いて、固形分であるPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)を混合液から分離し、得られた固形分を乾燥工程P8において60℃の温度で18時間乾燥後、さらに100℃の温度で2時間真空乾燥することにより粉末化した。加熱工程P3、噴霧工程P4、保温工程P5、冷却工程P6、分離工程P7は、いずれも大気中で行なった。
【0020】
図2は、
図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)についての、粉末X線回折結果(XRDパターン)を示している。
図2におけるピークから、PdとRuが合金化していること、および、パラジウムPdのモル比xが大きくなるにつれて、六方最密充填構造(hcp)から面心立方格子構造(fcc)へ変化することが、示されている。
【0021】
図3は、
図1の工程により得られた3種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)についての、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法による像(HAADF−STEM像)を上段に、エネルギ分散型X線分析装置EDXによる元素マッピング像を中段および下段に示している。
図3の上段に示される像は、PdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)は、PdRuの組成比に拘わらず粒子形状であることを示し、
図3の中段および下段に示される像は、Pd元素およびRu元素は、PdRuの組成比に拘わらずPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)の粒子内に均一に存在していることを示している。
【0022】
図4は、
図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)についての、誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SPS5100)による組成分析結果を示す図表である。なお、ICP−AESにあたっては、試料をアルカリで溶融分解後、溶融物を塩酸、硝酸で溶解し、超純水で定容して検液とした。この結果から得られたPdとRuとのモル比は、Pd
yRu
1−yで示されている。
図4によれば、ICP−AESによる組成分析結果で示されたPdの組成比(モル比)yは、製造時に調合したPdの組成比(モル比)xと略一致していて、仕込み通りの生成物が得られたことが確認された。
【0023】
図5は、
図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)についての、COパルス法による金属表面積測定装置(日本ベル社製 BEL−METAL)を用いて測定した結果を示す図表である。この測定結果の計算に必要な触媒組成や担持量として、
図4に記載のICP−AESによる組成分析結果の値を用いている。このCOパルス法では、試料を100℃で加熱後、吸着ガスとして10%COガスをパルスで送り熱伝導度検出器TCDの時間積分強度から吸着ガス量G(m
3/g)が求められ、1個の金属原子に1つのCO分子が吸着すると仮定し、次式(5)により金属表面積S(m
2/g)が求められた。
図5によれば、PdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)中の金属表面積(m
2/g−cat)および金属比表面積(m
2/g−metal)および、これらの計算に用いた金属断面積Aが示されている。
【0024】
S=(G/22.4×10
3)×N×A×10
−18 ・・・(5)
但し、Nはアボガドロ数、Aは金属断面積である。
【0025】
(水電解活性評価)
次に、
図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料についての水電解活性評価を、以下の条件で作製した試料を用いて、以下の測定条件で行なった。
[試料作製条件]
18.5mgのPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)に、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion(登録商標)溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク2μlをボロンドープドダイヤモンド電極に塗布し、乾燥させて7種類の試料(電極材料Pd
xRu
1−x/C)を得た。
また、試料Ir/Cについては、塩化イリジウム(IV)(和光純薬工業製)の100mM水溶液100ml調製し、そこにカーボンブラック(Vulcan XC−72)4.48gを加え、マグネチックスターラーで500rpmで5分間攪拌した。そこに蒸留水を30ml加え、攪拌を継続しながら0.5MのNaBH
4(Sigma−Aldrich製)水溶液50mlを2分間かけて滴下した。さらに攪拌を2時間継続した後、濾過して粉末を分離した。得られた粉末は80℃で16時間乾燥させた。COパルス法による測定で金属比表面積は127(m
2/g−metal)であり、ICP−AESによる組成分析によりIrを10.6wt%含むことが分かった。そして、18.5mgのIr/Cに、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion(登録商標)溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク2μlをボロンドープドダイヤモンド電極に塗布し、乾燥させて1種類の試料(電極材料Ir/C)を得た。
[水電解活性測定条件]
電流測定装置:ポテンシオスタット(BAS社製 ALS/DY2323)
測定方法:上記の試料(電極)に、3電極式セル(対極:白金線、参照極:可逆水素電極RHE、電解液:0.1Mの
過塩素酸、25℃、窒素飽和)を用いて、0.5Vから2V(vs.RHE)まで50mV/sにて電位Eを掃引したときの電流値I(A/m
2−metal:単位金属表面積当たり)を測定する。この測定方法は、リニアスイープボルタンメトリーLSVと称される。
【0026】
図6は、上記の水電解活性の測定結果を示す、掃引電位Eに対して増加する単位金属表面積あたりの電流値Iの特性を示している。この特性において、電流値Iの立ち上がり点の電位すなわち電流値Iが5A/m
2−metalのときの電位を、水電解開始電位E
OERと定義し、7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料の各々についてその水電解開始電位E
OERを求めた。
図7は、これらの値を示している。この結果、x=0.1〜0.7である例2〜例5は、x=0、0.9〜1の例1、例6、例7およびIr/Cの例8よりも水電解開始電位E
OERが低く水電解活性が高いことが明らかとなった。この水電解活性は、式(3)に示す反応式の容易性、換言すれば、式(4)に示す反応式の困難性に対応している。
【0027】
(HOR活性評価)
次に、
図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料についてのHOR活性評価を、以下の条件で作製した試料を用いて、以下の測定条件で行なった。
[試料作製条件]
18.5mgのPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)またはIr電極材料(Ir/C)に、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク10μlを直径5mmのグラッシーカーボン電極に塗布し、乾燥させて8種類の試料(電極)を得た。
[HOR活性測定条件]
電流測定装置:ポテンシオスタット(北斗電工株式会社製 HZ5000)
測定方法:上記の試料(電極)に、3電極式セル(対極:白金線、参照極:可逆水素電極RHE、電解液:0.1Mの
過塩素酸、25℃、H
2飽和)を用いて、対流ボルタンメトリーを行なった。ここでいう対流ボルタンメトリーとは、電極回転数1600、1200、800、400rpmのそれぞれにおいて、0Vから0.5V(vs.RHE)まで10mV/sで電位Eを掃引したときの電流値を測定することである。そして、縦軸および横軸から成る二次元座標において、得られた対流ボルタモグラムの0.05Vにおける電流値の逆数を、電極回転角速度の(−1/2)乗の値を示す横軸に対してプロットすることでKoutechy−Levichプロットを作成した。次に、Koutechy−Levichプロットを最小自乗法で直線近似した直線の縦軸との切片の値をHOR活性支配電流の逆数I
k−1とし、7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料の各々についてそのHOR活性支配電流I
kの値を求めた。
図8はそれらの単位金属表面積あたりのHOR活性支配電流I
kを示している。この結果、x=0.3〜0.9である例3〜例6のHOR活性は、x=0〜0.1、1の例1、例2、例7およびIr/Cの例8よりも高いことが明らかとなった。このHOR活性は、式(2)に示す反応式の速度に対応している。
【0028】
上述のように、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)によれば、PdとRuがモル比で0.1から0.9の範囲内であるので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
【0029】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)は、水電解電極(触媒)として用いられるものであるので、水電解の効率が高い水電解電極が得られる。
【0030】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)は、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極(触媒)として用いられるものであるので、水電解の効率が高い、つまり、耐久性の高い、そして、HOR活性の高い固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極が得られる。
【0031】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)の導電性担体は、カーボン粒子である。このため、高い水電解活性によって炭素電気化学的酸化反応が抑制されるので、前記カーボン粒子から成る導電性担体の劣化が好適に抑制される。
【0032】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)の導電性担体は、還元剤と、導電性担体粒子と、パラジウム化合物またはパラジウムイオンと、ルテニウム化合物またはルテニウムイオンと含む溶液を、所定の温度以上の温度に保持する保温工程P5を含む製造工程により製造される。このようにすれば、パラジウムとルテニウムとの合金化と、導電性粒子の表面にその合金の微粒子を導電性担体粒子に析出させる触媒の固定化とが同じ保温工程P5内で行なわれるので、工程が簡単となり、製造が容易となる。また、保護剤が無くとも粒子成長を抑えた微粒子を合成でき、さらに、粒子の凝集を少ないままに高濃度に坦持可能である。
【0033】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(Pd
xRu
1−x/C)の導電性担体は、PdRu合金の微粒子が導電性担体であるカーボン粒子に直接析出させられることにより固定されているので、PdRu合金の微粒子がカーボン粒子に高濃度で担持され、同量であれば電極触媒性能が高められ、同じ性能であれば粉体を少なくできて、電極の電気抵抗を低くできる利点がある。
【0034】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。