特許第6541373号(P6541373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6541373PdRu合金電極材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541373
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】PdRu合金電極材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/08 20060101AFI20190628BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20190628BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190628BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190628BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20190628BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20190628BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20190628BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20190628BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C25B11/08 Z
   H01M4/92
   H01M8/10
   H01M4/86 B
   H01M4/88 K
   C25B1/04
   B01J37/16
   B01J23/46 301M
   C01B13/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-39673(P2015-39673)
(22)【出願日】2015年2月28日
(65)【公開番号】特開2016-160478(P2016-160478A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】草田 康平
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−157863(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/045570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00−11/18
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、
前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ
前記PdRu合金の微粒子の表面に高分子保護剤が存在しない
ことを特徴とするPdRu合金電極材料。
【請求項2】
PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を導電性担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、
前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ
前記PdRu合金の微粒子の表面に保護剤が存在しない
ことを特徴とするPdRu合金電極材料。
【請求項3】
前記PdRu合金のPdのモル比が0.1から0.9の範囲内である
ことを特徴とする請求項1又は2のPdRu合金電極材料。
【請求項4】
前記PdRu合金のPdのモル比が0.3から0.7の範囲内である
ことを特徴とする請求項1又は2のPdRu合金電極材料。
【請求項5】
前記PdRu合金電極材料は、水電解電極として用いられる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1のPdRu合金電極材料。
【請求項6】
前記PdRu合金電極材料は、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極として用いられる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1のPdRu合金電極材料。
【請求項7】
記担体は、カーボン粒子である
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1のPdRu合金電極材料。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1のPdRu合金電極材料の製造方法であって、
還元剤と、導電性粒子と、パラジウム化合物またはパラジウムイオンと、ルテニウム化合物またはルテニウムイオンと含む溶液を、所定の温度以上の温度に保持して、前記Pdと前記Ruとを合金化させると共に、前記導電性粒子の表面に前記PdRu合金の微粒子を析出させる工程を含む
ことを特徴とするPdRu合金電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムPdおよびルテニウムRuが固溶したPdRu合金の微粒子を導電性担体に固定したPdRu合金電極材料の水電解活性および耐久性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水電解のための電極材料には、たとえば固体高分子形燃料電池PEFCの電極触媒として、或いは水電解電極としての用途が期待されており、そのような用途に好適な、高い水電解活性および高い燃料電池反応活性(HOR、ORR等)が望まれる。
【0003】
例えば特許文献1に示されるように、PdRu合金の微粒子をカーボン粒子のような導電性担体に固定したPdRu合金電極材料が、比較的最近知られるようになった。この電極材料は、触媒として高い活性を示すが、電気化学反応に対する活性など電極材料としての特性については未知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/046107号
【特許文献2】特表2013−502682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して、特許文献2に示すように、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極触媒として、イリジウムIrの微粉末を担体に固定したものが提案されている。これによれば、イリジウムIrが比較的高い水分解活性を有するために導電性担体を構成するカーボンの腐食反応が抑制されるとしている。しかしながら、十分な水電解活性を有するものではなく、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極に対する耐久性の要求に対して満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、高い水電解活性とHOR活性を有するPdRu合金電極材料およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
一般に、固体高分子形燃料電池においてアノードに対する燃料供給が不足した場合には、カソードにおける(1)式に示される酸素還元反応酸(ORR)はそのまま持続するのに対して、(2)式に示されるアノードでの正常な燃料電池反応である水素酸化反応(HOR)はそれ以上持続することができず、(3)式に示される酸素発生反応(OER)または(4)式に示される炭素電気化学的酸化反応が生じて電流が維持される。
【0008】
1/2O+2H+2e→HO ・・・(1)
→2H+2e ・・・(2)
O→1/2O+2H+2e ・・・(3)
1/2C+HO→1/2CO+2H+2e ・・・(4)
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アノードに対する燃料供給が不足した状態で水素酸化反応(HOR)に替わって、酸素発生反応(OER)および(4)式に示される炭素電気化学的酸化反応のいずれかが行なわれるとき、アノードに用いられる電極材料(触媒)の水電解活性が高いほど、酸素発生反応(OER)が行なわれることに着目し、PdRu合金の微粒子を導電性担体に固定した電極材料において、PdとRuとの割合を所定の範囲内とすることにより、高い水電解活性を得ることができることを見出した。すなわち、本発明者は、PdRu合金の微粒子を導電性担体に固定した電極材料が水電解電極や固体高分子形燃料電池のアノード触媒として適していることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
【0010】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ前記PdRu合金の微粒子の表面に高分子保護剤が存在しないことにある。
また、第2発明の要旨とするところは、PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を導電性の担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ前記PdRu合金の微粒子の表面に保護剤が存在しないことにある。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のPdRu合金電極材料によれば、PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ前記PdRu合金の微粒子の表面に高分子保護剤が存在しないので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
第2発明のPdRu合金電極材料によれば、PdとRuが固溶しているPdRu合金の微粒子を導電性の担体の表面に固定したPdRu合金電極材料であって、前記PdRu合金の微粒子は、COパルス法による測定で10(m/g−metal)以上の金属比表面積を有し、且つ前記PdRu合金の微粒子の表面に保護剤が存在しないので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
また、好適には、前記PdRu合金電極材料は、前記PdRu合金のPdモル比0.1から0.9の範囲内である組成を有しているので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
また、好適には、前記PdRu合金電極材料は、前記PdRu合金のPdのモル比が0.3から0.7の範囲内である組成を有しているので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
【0012】
ここで、好適には、前記PdRu合金電極材料は、水電解電極(触媒)として用いられるものである。このようにすれば、水電解の効率が高い水電解電極が得られる。
【0013】
また、好適には、前記PdRu合金電極材料は、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極(触媒)として用いられるものである。このようにすれば、水電解の効率が高い、つまり、耐久性の高い固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極が得られる。従来の固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極において、表面積を拡大するためにナノ粒子化された白金族粒子が導電性担体としてのカーボンに固定されて用いられる場合は、電圧変動などによって白金族粒子の粒子粗大化が発生するという問題、および、カーボンの腐食、劣化によって固体高分子形燃料電池の性能が低下するという問題があったが、上記前記PdRu合金の微粒子を導電性担体の表面に固定した電極材料が固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極(触媒)として用いられることにより、上記の問題の発生が好適に抑制される。
【0014】
また、好適には、前記担体は、カーボン粒子である。このようにすれば、高い水電解活性によって炭素電気化学的酸化反応が抑制されるので、前記カーボン粒子から成る担体の劣化が好適に抑制される。このカーボン粒子は、たとえば、グラッシーカーボン、グラファイト、カーボンオニオン、コークス、カーボンシャフト、カーボンナノウオール、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノローブ、カーボンブラックなどのいずれかから成る。
【0015】
また、前記PdRu合金の微粒子を担体の表面に固定したPdRu合金電極材料は、好適には、還元剤と、導電性粒子と、パラジウム化合物またはパラジウムイオンと、ルテニウム化合物またはルテニウムイオンと含む溶液を、所定の温度以上の温度に保持して、前記Pdと前記Ruとを合金化させると共に、前記導電性粒子の表面に前記PdRu合金の微粒子を析出させる工程を含む製造工程により製造される。このようにすれば、パラジウムとルテニウムとの合金化と、導電性粒子の表面にその合金の微粒子を導電性担体粒子に析出させる触媒の固定化とが同じ工程内で行なわれるので、工程が簡単となり、製造が容易となる。また、保護剤が無くとも粒子成長を抑えた微粒子を合成でき、さらに、粒子の凝集を少ないままに高濃度で担持可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例のPdRu合金電極材料の製造工程を説明する工程図である。
図2図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、粉末X線回折結果(XRDパターン)をそれぞれ示す図である。
図3図1の工程により得られた3種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法による像(HAADF−STEM像)を上段に、エネルギ分散型X線分析装置EDXによる元素マッピング像を中段および下段に示す図である。
図4図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP−AESによる組成分析結果を示す図表である。
図5図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、COパルス法による金属表面積測定装置を用いて測定した結果を示す図表である。
図6図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、それぞれの水電解活性の測定結果を、走査電位と電流値との二次元座標に示すグラフである。
図7図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料について求められた水電解開始電位EOERをそれぞれ示す図表である。
図8図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料について求められたHOR活性支配電流Iをそれぞれ示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、PdRu1−x合金微粒子が導電性担体であるカーボン粒子に担持されたPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)の製造工程例を示している。図1において、溶液A調整工程P1では、たとえばキャボット社のVulcan XC−72という品名のカーボンブラック230mgを還元剤として機能するトリエチレングリコール200mlに混合して懸濁液である溶液Aを調整した。また、溶液B調整工程P2では、K[PdCl]とRuCl・nHOとを水50mlに溶解して溶液Bを調整した。このとき、K[PdCl]とRuCl・nHOとのモル比すなわちたとえばPdのモル比xを、PdとRuの合計を1mmolとすることを維持しつつ、0、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1とに変化させることにより、7種類のPdRuの組成比の溶液Bを調整した。
【0019】
次いで、加熱工程P3において溶液Aが200℃に加熱された後、噴霧工程P4において、所定の噴霧装置を用いて、加熱された溶液Aに溶液Bを噴霧することで混合液Cを得た。噴霧終了後、混合液Cを保温工程P5において200℃に15分間保持し、冷却工程P6において室温まで放置冷却することで、PdとRuとを合金化するとともにPdRu1−x合金微粒子をカーボン粒子の表面或いは内部に析出させた。次いで、分離工程P7において、遠心分離機を用いて、固形分であるPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)を混合液から分離し、得られた固形分を乾燥工程P8において60℃の温度で18時間乾燥後、さらに100℃の温度で2時間真空乾燥することにより粉末化した。加熱工程P3、噴霧工程P4、保温工程P5、冷却工程P6、分離工程P7は、いずれも大気中で行なった。
【0020】
図2は、図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、粉末X線回折結果(XRDパターン)を示している。図2におけるピークから、PdとRuが合金化していること、および、パラジウムPdのモル比xが大きくなるにつれて、六方最密充填構造(hcp)から面心立方格子構造(fcc)へ変化することが、示されている。
【0021】
図3は、図1の工程により得られた3種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法による像(HAADF−STEM像)を上段に、エネルギ分散型X線分析装置EDXによる元素マッピング像を中段および下段に示している。図3の上段に示される像は、PdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)は、PdRuの組成比に拘わらず粒子形状であることを示し、図3の中段および下段に示される像は、Pd元素およびRu元素は、PdRuの組成比に拘わらずPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)の粒子内に均一に存在していることを示している。
【0022】
図4は、図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP−AES(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SPS5100)による組成分析結果を示す図表である。なお、ICP−AESにあたっては、試料をアルカリで溶融分解後、溶融物を塩酸、硝酸で溶解し、超純水で定容して検液とした。この結果から得られたPdとRuとのモル比は、PdRu1−yで示されている。図4によれば、ICP−AESによる組成分析結果で示されたPdの組成比(モル比)yは、製造時に調合したPdの組成比(モル比)xと略一致していて、仕込み通りの生成物が得られたことが確認された。
【0023】
図5は、図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)についての、COパルス法による金属表面積測定装置(日本ベル社製 BEL−METAL)を用いて測定した結果を示す図表である。この測定結果の計算に必要な触媒組成や担持量として、図4に記載のICP−AESによる組成分析結果の値を用いている。このCOパルス法では、試料を100℃で加熱後、吸着ガスとして10%COガスをパルスで送り熱伝導度検出器TCDの時間積分強度から吸着ガス量G(m/g)が求められ、1個の金属原子に1つのCO分子が吸着すると仮定し、次式(5)により金属表面積S(m/g)が求められた。図5によれば、PdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)中の金属表面積(m/g−cat)および金属比表面積(m/g−metal)および、これらの計算に用いた金属断面積Aが示されている。
【0024】
S=(G/22.4×10)×N×A×10−18 ・・・(5)
但し、Nはアボガドロ数、Aは金属断面積である。
【0025】
(水電解活性評価)
次に、図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料についての水電解活性評価を、以下の条件で作製した試料を用いて、以下の測定条件で行なった。
[試料作製条件]
18.5mgのPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)に、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion(登録商標)溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク2μlをボロンドープドダイヤモンド電極に塗布し、乾燥させて7種類の試料(電極材料PdRu1−x/C)を得た。
また、試料Ir/Cについては、塩化イリジウム(IV)(和光純薬工業製)の100mM水溶液100ml調製し、そこにカーボンブラック(Vulcan XC−72)4.48gを加え、マグネチックスターラーで500rpmで5分間攪拌した。そこに蒸留水を30ml加え、攪拌を継続しながら0.5MのNaBH(Sigma−Aldrich製)水溶液50mlを2分間かけて滴下した。さらに攪拌を2時間継続した後、濾過して粉末を分離した。得られた粉末は80℃で16時間乾燥させた。COパルス法による測定で金属比表面積は127(m/g−metal)であり、ICP−AESによる組成分析によりIrを10.6wt%含むことが分かった。そして、18.5mgのIr/Cに、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion(登録商標)溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク2μlをボロンドープドダイヤモンド電極に塗布し、乾燥させて1種類の試料(電極材料Ir/C)を得た。
[水電解活性測定条件]
電流測定装置:ポテンシオスタット(BAS社製 ALS/DY2323)
測定方法:上記の試料(電極)に、3電極式セル(対極:白金線、参照極:可逆水素電極RHE、電解液:0.1Mの過塩素酸、25℃、窒素飽和)を用いて、0.5Vから2V(vs.RHE)まで50mV/sにて電位Eを掃引したときの電流値I(A/m−metal:単位金属表面積当たり)を測定する。この測定方法は、リニアスイープボルタンメトリーLSVと称される。
【0026】
図6は、上記の水電解活性の測定結果を示す、掃引電位Eに対して増加する単位金属表面積あたりの電流値Iの特性を示している。この特性において、電流値Iの立ち上がり点の電位すなわち電流値Iが5A/m−metalのときの電位を、水電解開始電位EOERと定義し、7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料の各々についてその水電解開始電位EOERを求めた。図7は、これらの値を示している。この結果、x=0.1〜0.7である例2〜例5は、x=0、0.9〜1の例1、例6、例7およびIr/Cの例8よりも水電解開始電位EOERが低く水電解活性が高いことが明らかとなった。この水電解活性は、式(3)に示す反応式の容易性、換言すれば、式(4)に示す反応式の困難性に対応している。
【0027】
(HOR活性評価)
次に、図1の工程により得られた7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料についてのHOR活性評価を、以下の条件で作製した試料を用いて、以下の測定条件で行なった。
[試料作製条件]
18.5mgのPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)またはIr電極材料(Ir/C)に、19.00mlの蒸留水と6.00mlの2−プロパノール(2−プロパノール、精密分析用、和光純薬工業株式会社)と100μlの5%Nafion溶液(5%ナフィオン分散溶液DE21 CSタイプ、和光純薬工業株式会社)を加え、30分間超音波分散してインクとした。このインク10μlを直径5mmのグラッシーカーボン電極に塗布し、乾燥させて8種類の試料(電極)を得た。
[HOR活性測定条件]
電流測定装置:ポテンシオスタット(北斗電工株式会社製 HZ5000)
測定方法:上記の試料(電極)に、3電極式セル(対極:白金線、参照極:可逆水素電極RHE、電解液:0.1Mの過塩素酸、25℃、H飽和)を用いて、対流ボルタンメトリーを行なった。ここでいう対流ボルタンメトリーとは、電極回転数1600、1200、800、400rpmのそれぞれにおいて、0Vから0.5V(vs.RHE)まで10mV/sで電位Eを掃引したときの電流値を測定することである。そして、縦軸および横軸から成る二次元座標において、得られた対流ボルタモグラムの0.05Vにおける電流値の逆数を、電極回転角速度の(−1/2)乗の値を示す横軸に対してプロットすることでKoutechy−Levichプロットを作成した。次に、Koutechy−Levichプロットを最小自乗法で直線近似した直線の縦軸との切片の値をHOR活性支配電流の逆数I−1とし、7種類のPdRuの組成比のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)とIr電極材料(Ir/C)の合計8種類の電極材料の各々についてそのHOR活性支配電流Iの値を求めた。図8はそれらの単位金属表面積あたりのHOR活性支配電流Iを示している。この結果、x=0.3〜0.9である例3〜例6のHOR活性は、x=0〜0.1、1の例1、例2、例7およびIr/Cの例8よりも高いことが明らかとなった。このHOR活性は、式(2)に示す反応式の速度に対応している。
【0028】
上述のように、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)によれば、PdとRuがモル比で0.1から0.9の範囲内であるので、高い水電解活性とHOR活性が得られる。
【0029】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)は、水電解電極(触媒)として用いられるものであるので、水電解の効率が高い水電解電極が得られる。
【0030】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)は、固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極(触媒)として用いられるものであるので、水電解の効率が高い、つまり、耐久性の高い、そして、HOR活性の高い固体高分子形燃料電池PEFCのアノード電極が得られる。
【0031】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)の導電性担体は、カーボン粒子である。このため、高い水電解活性によって炭素電気化学的酸化反応が抑制されるので、前記カーボン粒子から成る導電性担体の劣化が好適に抑制される。
【0032】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)の導電性担体は、還元剤と、導電性担体粒子と、パラジウム化合物またはパラジウムイオンと、ルテニウム化合物またはルテニウムイオンと含む溶液を、所定の温度以上の温度に保持する保温工程P5を含む製造工程により製造される。このようにすれば、パラジウムとルテニウムとの合金化と、導電性粒子の表面にその合金の微粒子を導電性担体粒子に析出させる触媒の固定化とが同じ保温工程P5内で行なわれるので、工程が簡単となり、製造が容易となる。また、保護剤が無くとも粒子成長を抑えた微粒子を合成でき、さらに、粒子の凝集を少ないままに高濃度に坦持可能である。
【0033】
また、本実施例のPdRu合金電極材料(PdRu1−x/C)の導電性担体は、PdRu合金の微粒子が導電性担体であるカーボン粒子に直接析出させられることにより固定されているので、PdRu合金の微粒子がカーボン粒子に高濃度で担持され、同量であれば電極触媒性能が高められ、同じ性能であれば粉体を少なくできて、電極の電気抵抗を低くできる利点がある。
【0034】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
P5:保温工程(工程)
図1
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図8