特許第6541383号(P6541383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6541383高流動性フライアッシュの判別方法、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541383
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】高流動性フライアッシュの判別方法、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20190628BHJP
   C04B 7/26 20060101ALI20190628BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   G01N21/27 B
   C04B7/26
   G01N33/38
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-51701(P2015-51701)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-170137(P2016-170137A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】桐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−121084(JP,A)
【文献】 特表2014−533644(JP,A)
【文献】 特開2011−213764(JP,A)
【文献】 特開平11−262749(JP,A)
【文献】 特開2010−043933(JP,A)
【文献】 米国特許第05475220(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 − G01N 21/01
G01N 21/17 − G01N 21/61
G01N 33/38
C04B 7/26
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式を用いて算出したRr値に基づき、高流動性フライアッシュを判別する、高流動性フライアッシュの判別方法。
Rr=R/R ・・・(1)
ただし、(1)式中、Rは680〜780nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の拡散反射率を表し、Rは380〜780nmの全範囲の波長の拡散反射率の平均値を表す。
【請求項2】
前記Rr値が1.10以上である、請求項1に記載の高流動性フライアッシュの判別方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いて、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュと、セメントを混合して、フライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートおよびモルタルの流動性を向上させるフライアッシュ(以下「高流動性フライアッシュ」という。)の判別方法、該判別方法により判別して得られる高流動性フライアッシュ、および該高流動性フライアッシュとセメントを混合して得られる混合セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フライアッシュは球状粒子であり、コンクリートに添加するとフライアッシュのボールベアリング作用により、コンクリートの流動性が向上すると云われている。
通常、フライアッシュの流動性は、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」、およびその付属書2に記載のフロー値比により規定されている。ちなみに、フライアッシュI種、II種、III種、およびIV種のフロー値比は、それぞれ105%以上、95%以上、85%以上、および75%以上である。なお、前記フロー値比は下記式により求める。
フロー値比(%)=100×試験モルタルのフロー値/基準モルタルのフロー値
ここで、試験モルタルとは、フライアッシュ含有モルタルをいい、基準モルタルとは、フライアッシュを含有しないモルタルをいう。
【0003】
しかし、前記II〜IV種のフライアッシュのフロー値比の下限値が95〜75%と100%以下である点は、基準モルタルに比べ試験モルタルの流動性が劣る例を示唆しており、フライアッシュによっては流動性が低下する場合がある。実際、顕微鏡を用いてフライアッシュ粒子を観察すると、球体のほかに、中空体、凝集体、いびつな粒子等の非球体が存在する。
したがって、フライアッシュの高流動性の有無を、フロー値比よりも簡易に判別できる手段があれば、高流動性フライアッシュが容易に得られ、流動性が向上したフライアッシュ含有コンクリートを安定的に製造できる。
【0004】
フライアッシュの流動性を評価(判別)する方法として、特許文献1では下記の方法が提案されている。すなわち、該方法は、セメント、水、評価対象のフライアッシュ、および使用予定の減水剤の量を変化させた3種類以上の配合の基準ペーストを調製してフロー試験を行い、フライアッシュの流動性を評価する方法である。しかし、該方法は、試験体としてモルタルの代わりにセメントペーストを用いるという違いはあるが、フライアッシュを含む試験体を作製してフロー試験を行う点では前記JISに規定するフロー値比の試験方法と共通する。また、該評価方法は、1試料当たり3種類以上の配合の基準ペーストを調製してフロー試験を行わなければならず、手間がかかり煩雑である。
したがって、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−194113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高流動性フライアッシュを簡易に判別できる指標を探究するため、フライアッシュが有する種々の特性値と、フライアッシュの流動性の関連性を検討した。その結果、全可視光線の拡散反射率の平均値に対する特定範囲の波長から選ばれる可視光線の拡散反射率の比は前記指標になることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の構成を有する高流動性フライアッシュの判別方法、高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメントである。
【0008】
[1]下記(1)式を用いて算出したRr値に基づき、高流動性フライアッシュを判別する、高流動性フライアッシュの判別方法。
Rr=R/R ・・・(1)
ただし、(1)式中、Rは680〜780nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の拡散反射率を表し、Rは380〜780nmの全範囲の波長の拡散反射率の平均値を表す。
[2]前記Rr値が1.10以上である、前記[1]に記載の高流動性フライアッシュの判別方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いて、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュと、セメントを混合して、フライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法
【発明の効果】
【0009】
本発明の高流動性フライアッシュの判別方法は、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる。また、本発明の高流動性フライアッシュおよびフライアッシュ混合セメントは、コンクリートおよびモルタルの流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は680nmの拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、フロー値の相関を示す図であり、(b)は780nmの拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、フロー値の相関を示す図である。
図2】強熱減量(ig.loss)とフロー値の相関を示す図である。
図3】380〜780nmの範囲で10nmおきに測定して得た拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、フロー値の相関を表す決定係数(R)を、前記範囲の波長ごとにプロットした図である。
図4】600〜780nmの範囲で10nmおきに測定して得た拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、当該波長との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高流動性フライアッシュの判別方法は、前記(1)式を用いて算出したRr値に基づき、高流動性フライアッシュを判別する方法である。さらに、本発明は、該方法を用いて判別されたフライアッシュからなる高流動性フライアッシュ、および該高流動フライアッシュとセメントを混合してなるフライアッシュ混合セメントである。
以下、本発明について、前記高流動性フライアッシュの判別方法、前記高流動性フライアッシュ、および前記フライアッシュ混合セメントに分けて説明する。
【0012】
1.高流動性フライアッシュの判別方法
本発明の判別方法で用いる指標は、前記(1)式に示すように、380〜780nmの全範囲の波長の拡散反射率の平均値に対する、680〜780nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の拡散反射率の比(Rr)である。後掲の図4に示すように、680〜780nmの範囲で、Rrは一定かつ最大値(1.10)を取るから、他の範囲の波長よりも、より広い範囲の波長が選択でき、また数値が大きい分、誤差も小さくなり、指標として好適である。
高流動性フライアッシュを判別するための基準値は相対的であり、まず、要求性能を満たすフロー値を定め、さらに該値から基準値となるRr値を定める。そして、該基準値を満たすフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして判別する。例えば、後掲の図1の例では、要求性能を満たすフロー値を200mmと定めると、Rr値は1.10が基準値になり、Rr値が1.10以上のフライアッシュを高流動性フライアッシュとして判別する。
また、拡散反射率は市販の色差計を用いて、例えば、JIS P 8152「紙、板紙及びパルプ−拡散反射率係数の測定方法」に準拠して測定することができる。
なお、380〜780nmの全範囲の波長の拡散反射率は、任意の波長の間隔で測定することができ、例えば、後記の実施例では10nm間隔で測定した。
【0013】
2.高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメント
本発明の高流動性フライアッシュは、前記[1]または[2]に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いて、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュからなるものである。
また、本発明のフライアッシュ混合セメントは、前記高流動性フライアッシュとセメントを混合してなる混合セメントである。該セメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、およびエコセメントからなる群から選ばれる1種以上である。また、前記セメントと前記高流動性フライアッシュの混合装置は、例えば、ボールミルやヘンシェルミキサ等が挙げられる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)フライアッシュ
表1に示すフライアッシュa〜p
(2)セメント
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(3)細骨材
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定する標準砂
(4)減水剤
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤、商品名:レオビルドSP8N[登録商標](BASFポゾリス社製)
【0015】
2.フライアッシュの拡散反射率の測定およびRrの算出と強熱減量の測定
表1に示すフライアッシュa〜pのそれぞれ5gを、色差計専用の測定セルに入れて蓋を閉じ、測定セルを15回タッピング(約5cmの高さからテーブルの上に落下させる操作)した。次に、色差計(Spectrophotometer SE6000、日本電色工業社製)を用いて、380〜780nmの範囲において10nmおきに、前記フライアッシュの拡散反射率を測定し、
前記(1)式を用いてRr値を算出した。これらのRr値のうち、680nmと780nmの拡散反射率をRの値として用いて、算出したRr値を表1に示す。
また、フライアッシュ中の未燃炭素は、コンクリート中の減水剤を吸着して、コンクリートの流動性を低下させるため、フライアッシュ中の未燃炭素量を主に表す強熱減量(ig.loss)は、フライアッシュの流動性に関係する。そこで、フライアッシュの流動性の指標としての優劣をRr値と比較するため、フライアッシュの強熱減量を、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」に準拠して測定した。その結果を表1に示す。
【0016】
2.フライアッシュを含むモルタルの流動性の測定
前記フライアッシュの流動性を測定するため、前記フライアッシュを含むモルタルを作製してフロー試験を行った。
具体的には、モルタルの配合は質量比で、細骨材/(セメント+フライアッシュ)=2.0、水/(セメント+フライアッシュ)=0.35、および減水剤/(セメント+フライアッシュ)=0.0065とした。
モルタルの混練は、20℃の室内で、ホバートミキサーを用いて低速で2.5分間、続けて高速で3分間混練した。次に、前記混錬したモルタルを、ミニスランプコーン(JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に規定する鋼製スランプコーン)の中に投入し、該コーンを上方へ取り去った後のモルタルの広がり(フロー値)を測定した。その結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
3.Rr値とフロー値の相関について
680nmおよび780nmの拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、前記フロー値の相関を、それぞれ図1の(a)および(b)に示す。また、これらと比較するため、前記強熱減量と前記フロー値の相関を図2に示す。図1、2から分かるように、強熱減量とフロー値の相関(決定係数)は0.372であるのに対し、Rr値とフロー値の相関は、680nmで0.8047、780nmで0.7676と格段に高い。したがって、680nmおよび780nmの拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値は、従来用いられてきたフロー値比よりも簡易にフライアッシュの流動性を評価できるため、高流動性フライアッシュを判別するための指標として優れている。また、図1から、高流動性フライアッシュを判別するためのRrの基準値として1.10を採用した場合、Rr値が1.10以上のフライアッシュを高流動性フライアッシュとして判別する。
【0019】
また、300〜780nmの範囲で10nmおきに測定して得た拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値およびフロー値の相関を示す決定係数と、該範囲の波長との関係を図3に示す。図3から分かるように、波長が600〜780nmの範囲では決定係数が約0.8であり、波長が600〜780nmの範囲で測定して得た拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値は、高流動性フライアッシュを判別できる指標として、より優れている。
さらに、600〜780nmの範囲で10nmおきに測定して得た拡散反射率をRの値として用いて算出したRr値と、当該波長との関係を図4に示す。波長が680〜780nmの比較的広い範囲で、Rr値は波長によらず一定(1.10)になるから、当該範囲のRr値は高流動性フライアッシュを判別できる指標として、更に優れている。
図1
図2
図3
図4