(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モータの角速度推定値と、前記モータの角速度測定値とが入力されると、前記モータの角速度推定値を前記角速度測定値に漸近させるためのトルク補正値を出力する回転補償コントローラ
をさらに有し、
前記トルク指令値出力部は、前記未来トルク推定値と前記トルク補正値との加算結果を前記トルク指令値として出力するものである
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の構成]
(ハードウエア構成)
まず、
図1に示すブロック図を参照し、本発明の一実施形態による自動車試験システムのハードウエア構成を説明する。
図1において自動車40は、エンジン41、トランスミッション42等を備え、実際に路面を走行可能な状態にまで完成されている。自動車40は、前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動の何れであっても良い。但し、自動車40においては、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の4軸のハブからはホイールが外され、それぞれタイヤ型軸受50FL,50FR,50RL,50RRが装着されている。以下、これら4個のタイヤ型軸受50FL,50FR,50RL,50RRを総称して、「タイヤ型軸受50」と呼ぶ。タイヤ型軸受50は、実際のホイールおよびタイヤに類似した外形を有している。但し、自動車40は、タイヤ型軸受50が床面に接しないように、床面から所定距離隔てて浮いた状態で支持されている。
【0010】
各タイヤ型軸受50には、誘導電動機である吸収用モータ60FL,60FR,60RL,60RRの回転軸が結合されている。そして、これら吸収用モータの回転軸には、該回転軸の回転速度および軸トルクを検出する4個のセンサユニット52FL,52FR,52RL,52RRが装着されている。また、4台のインバータ62FL,62FR,62RL,62RRは、各吸収用モータ60FL,60FR,60RL,60RRに対して、PWM変調した交流電圧を供給する。上述した4台の吸収用モータ60FL,60FR,60RL,60RRを総称して「吸収用モータ60」と呼び、4個のセンサユニット52FL,52FR,52RL,52RRを総称して「センサユニット52」と呼び、4台のインバータ62FL,62FR,62RL,62RRを総称して「インバータ62」と呼ぶ。
【0011】
制御装置30は、例えば一般的なコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)32と、IPL(Initial Program Loader)等を記憶したROM(Read Only Memory)33と、CPU32のワークメモリとして用いられるRAM(Random Access Memory)34と、OS(Operating System)、アプリケーションプログラムや各種データを格納したHDD(Hard Disk Drive)35と、これらを相互に接続するバス36とを備えている。
【0012】
OSおよびアプリケーションプログラムは、RAM34に展開され、CPU32によって実行される。また、制御装置30は、CPU32の制御の下、各インバータ62にトルク指令信号を出力する出力インタフェース37と、センサユニット52によって検出された4軸の軸トルクおよび回転速度を受信(入力)しバス36に出力する入力インタフェース38とを備えている。
【0013】
(物理モデル)
次に、
図2に示す模式図を参照し、本実施形態にて採用する物理モデルを説明する。
図2は、線形2慣性モデルのモデル図であり、要素1はイナーシャJ
1を有し、要素2はイナーシャJ
2を有する。要素1,2の角速度をω
1,ω
2とし、トルクをτ
1,τ
2とする。これらの数値の間には、τ
1=J
1・dω
1/dt、τ
2=J
2・dω
2/dtの関係がある。また、要素1,2は、バネ定数K、粘性減衰係数Cの伝達系によって結合されていることとする。
【0014】
図2における「要素2」は、自動車40の4軸のハブに相当する。
図1に示した構成では、4軸のハブにはタイヤ型軸受50が装着されているため、要素2はタイヤ型軸受50に相当すると考えてもよい。そして、「要素1」とは、自動車40の4軸のハブに対して力を及ぼしてゆく、自動車40の様々な要素に対応する。自動車40からタイヤ型軸受50を外し、実際のホイールおよびタイヤを装着して路面を走行させた場合を想定してみる。
【0015】
タイヤはゴムを主成分としているために弾性を有し、回転方向に歪むため、フックの法則を用いたバネの計算により、タイヤの回転状態からハブに及ぼすトルクを算出できる。また、タイヤはスリップするものであり、スリップ特性に応じて、より複雑な力をハブに及ぼす。さらに、自動車40のサスペンション(図示せず)の動きもハブに力を及ぼす。
図2では、これら様々な要素をまとめて「要素1」としてモデル化している。
【0016】
(アルゴリズム)
次に、
図3に示すブロック図を参照し、本実施形態におけるアルゴリズムの全体構成を説明する。
このアルゴリズムは、制御装置30にて実行されるアプリケーションプログラムの機能を、ブロック図によって示したものである。制御装置30は、4軸のタイヤ型軸受50に発生させるべきトルク指令値τ
v(t)を、時刻tにおいてインバータ62に出力する。なお、
図3では「トルク指令値τ
v(t)」のように、一つの値のように表しているが、実際には4軸のそれぞれに対して独立した値である。これは、
図3に示す他の様々な値についても同様である。
【0017】
トルク指令値τ
v(t)は、吸収用モータ60のトルクとして直ちに反映されるわけではなく、無駄時間T
bと、時定数T
cの一次遅れとを伴って反映される。従って、インバータ62および吸収用モータ60は、伝達関数「exp(−T
b・s)/(1+T
c・s)」を有することになる。無駄時間T
bおよび時定数T
cは、インバータ62および吸収用モータ60の特性を測定することにより、求めることができる。
【0018】
エミュレーション部14には、現在時刻tから時間差Δtだけ未来の時刻(t+Δt)におけるトルクτ
2(
図2参照)の推定値である未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)が入力される。なお、未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)の算出方法については後述する。エミュレーション部14は、ユーザによって設定された無駄時間T
ebと時定数T
ecとに基づいて、入力された未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)に対して、伝達関数「exp(−T
eb・s)/(1+T
ec・s)」による変換を施し、その結果を現在トルク推定値τ
e2(t)として出力する。
【0019】
無駄時間T
ebおよび時定数T
ecは、ユーザによって任意に設定できる値であるが、実際には、インバータ62および吸収用モータ60の無駄時間T
bおよび時定数T
cの測定結果とほぼ等しい値に設定される。これにより、エミュレーション部14は、インバータ62および吸収用モータ60の特性をエミュレートする機能を有する。なお、上述した時間差Δtとは、無駄時間T
ebと時定数T
ecとに基づいて決定される時間遅れの値である。
【0020】
また、ホイール速度演算部16には、現在トルク推定値τ
e2(t)と、センサユニット52によって測定されたトルクτ
2の測定値であるトルク測定値τ
s2(t)とが入力される。ここで、現在トルク推定値τ
e2(t)とトルク測定値τ
s2(t)の相違点について説明しておく。現在トルク推定値τ
e2(t)は、CPU32の内部で計算される値であり、64ビットの倍精度浮動小数点を適用したとすると、10進換算で約16桁の有効桁を有する。一方、トルク測定値τ
s2(t)の制御装置30内の有効桁は現在トルク推定値τ
e2(t)と同様であるが、実質的な有効桁は、センサユニット52の精度や入力インタフェース38の分解能に依存する。
【0021】
センサユニット52や入力インタフェース38として高精度なものを使用したとしても、トルク測定値τ
s2(t)の実質的な有効桁は現在トルク推定値τ
e2(t)のものより少なくなる。従って、現在トルク推定値τ
e2(t)とトルク測定値τ
s2(t)とがほぼ一致しているならば(より正確には、両者の差分が所定の差分閾値Δτ
th以下であるならば)、有効桁の多い現在トルク推定値τ
e2(t)の値をそのまま用いることが望ましいと考えられる。従って、かかる場合、ホイール速度演算部16は、現在トルク推定値τ
e2(t)をイナーシャJ
2(
図2参照)で除算し、除算結果を積分(時間積分)することによって角速度ω
2の推定値である角速度推定値ω
e2(t)を出力する。
【0022】
一方、τ
e2(t)とτ
s2(t)との差分が差分閾値Δτ
thを超えていたとすると、この差分は、センサユニット52の誤差や分解能、吸収用モータ60にて実際に発生するトルクの誤差や分解能に起因するものと考えられる。すなわち、これらの誤差や分解能により、吸収用モータ60の発生するトルクがトルク指令値τ
v(t)からずれ、このずれた量がτ
e2(t)とτ
s2(t)との間の差分として現れたものと考えられる。そこで、かかる場合には、角速度推定値ω
e2(t)が若干増減されるように修正される。すなわち、現在トルク推定値τ
e2(t)がトルク測定値τ
s2(t)に漸近するように、角速度推定値ω
e2(t)を介してフィードバック制御される。
【0023】
回転補償コントローラ18には、角速度推定値ω
e2(t)と、角速度ω
2の測定値(速度センサの出力値)である角速度測定値ω
s2(t)とが入力される。両者の間に差分が生じていたとすると、これは、吸収用モータ60にて実際に発生するトルクの誤差や分解能によるものと考えられる。すなわち、吸収用モータ60の発生するトルクが誤差や分解能の影響によってトルク指令値τ
v(t)からずれ、このずれた量が最終的にω
e2(t)とω
s2(t)との差として現れたものと考えられる。そこで、回転補償コントローラ18は、この差分に基づいて、トルク補正値Δτ(t)を出力する。これにより、角速度推定値ω
e2(t)は、角速度測定値ω
s2(t)に漸近してゆくようにフィードバック制御される。
【0024】
車両モデル部10(負荷モデル部)は、自動車40の挙動をエミュレートするものであり、現在トルク推定値τ
e2(t)が逐次入力されることにより、角速度ω
1(
図2参照)の推定値である角速度推定値ω
e1(t)を逐次出力する。未来トルク演算部12は、現在時刻tにおける、要素1,2の角速度推定値ω
e1(t),ω
e2(t)に基づいて、上述した未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)を出力する。
【0025】
ここで、
図4に示すブロック図を参照し、未来トルク演算部12の詳細を説明する。
図4において減算器70は、角速度推定値ω
e2(t)から角速度推定値ω
e1(t)を減算し、その結果を角速度差推定値Δω
e(t)として出力する。比例器71は、角速度差推定値Δω
e(t)に所定値Pを乗算する。この所定値Pとは、上述した時間差Δtに相当する値である。これにより、比例器71は、現在時刻tの回転角を基準として、時間差Δtだけ未来に、要素1,2に現れるであろう回転角の差の推定値である推定角度差Δθを出力する。
【0026】
微分器72は、推定角度差Δθを微分(時間微分)することにより、時間差Δtだけ未来における角速度差推定値Δω
e(t+Δt)と現在時刻tの角速度差推定値Δω
e(t)との差分を出力する。なお、実際に推定角度差Δθを微分することは、未来トルク演算部12の動作が不安定になる可能性があるため、微分器72では、近似微分を行うことが望ましい。加算器73は、微分器72から出力された差分と、現在時刻tの角速度差推定値Δω
e(t)とを加算することによって、時間差Δtだけ未来における角速度差推定値Δω
e(t+Δt)を出力する。
【0027】
バネ計算部80は、フックの法則に基づいて、
図2に示したバネ定数Kおよび粘性減衰係数Cの挙動をシミュレートするものである。積分器81は、角速度差推定値Δω
e(t+Δt)を積分し、比例器82は積分結果に対してバネ定数Kを乗算する。比例器84は、角速度差推定値Δω
e(t+Δt)に対して粘性減衰係数Cを乗算する。加算器83は、比例器82,84の乗算結果を加算し、その結果を時間差Δtだけ未来の未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)として出力する。
【0028】
図3に戻り、未来トルク演算部12から出力された未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)は、上述したエミュレーション部14に供給されるとともに、加算器20にも供給される。加算器20においては、未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)とトルク補正値Δτ(t)とが加算され、その加算結果がトルク指令値τ
v(t)としてインバータ62に供給される。このように、本実施形態においては、吸収用モータ60にて未来に実現すべきと推定されるトルクに対応する未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)に基づいてトルク指令値τ
v(t)を求め、インバータ62に供給するため、無駄時間T
bと、時定数T
cの一次遅れとを補償することができ、吸収用モータ60を精密に制御することができる。
【0029】
(時間差Δtの決定方法)
次に、上述した時間差Δtの決定方法について説明する。
時間差Δtを設定するにあたっては、トルク指令値τ
v(t)に対するトルク測定値τ
s2(t)の伝達関数、すなわち、インバータ62および吸収用モータ60の伝達特性を実測するとよい。その際、吸収用モータ60にはタイヤ型軸受50を装着しないことが理想的であるが、タイヤ型軸受50を介して自動車40に接続されていてもよい。
【0030】
トルク指令値τ
v(t)として、正弦波、スイープ信号等のテスト信号を、インバータ62に供給すると、これに応じたトルク測定値τ
s2(t)がセンサユニット52から出力され、これによってゲイン線図および位相線図を描くことができる。
図5(a)は、トルク指令値τ
v(t)に対するトルク測定値τ
s2(t)の実測に基づいたゲイン線図であり、
図5(b)はその位相線図である。
図5(b)において、トルク指令値τ
v(t)の周波数が100[Hz]であるとき、トルク測定値τ
s2(t)に生ずる位相遅れは、図中の一点鎖線で示すように、約52[deg]である。
【0031】
この位相遅れを時間に変換すると、(52[deg]/360[deg])/100[Hz]=1.44[ms]になる。よって、時間差Δtを1.44[ms]に設定するとよい。但し、時間差Δtは、実際に良好な応答が得られるように、1.44[ms]から適宜増減してもよい。また、
図5(a),(b)の特性は、特定のインバータ62および吸収用モータ60について実測した特性であるから、インバータ62および吸収用モータ60の種類が変わると、時間差Δtの望ましい範囲も変動することは勿論である。
【0032】
[比較例]
次に、上記実施形態の効果を一層明らかにするため、比較例の内容を説明する。本比較例のハードウエア構成は、上記実施形態のもの(
図1)と同様であるが、制御装置30において実行されるアルゴリズムの内容が異なっている。そこで、
図6に示すブロック図を参照し、本比較例におけるアルゴリズムを説明する。なお、
図6において、
図1〜4の各部に対応する部分には、同一の符号を付す。また、本比較例は、線形2慣性モデル(
図2)を想定しているわけではないが、ホイールの回転速度やホイールの軸トルクの推定値を求めている。これらは、
図2における要素2に対応するものであるため、
図6において、
図3に示した信号と対応する信号には、同一の信号名を付している。
【0033】
図6においては、
図3におけるエミュレーション部14は設けられておらず、車両モデル部10に代えて車両モデル部110が設けられ、未来トルク演算部12に代えてトルク演算部112が設けられている。車両モデル部110は、自動車40の挙動をエミュレートするものであり、現在トルク推定値τ
e2(t)が逐次入力されることにより、ホイールの角速度を車両モデルに基づいて求めた値である、角速度モデル推定値ω
m2(t)を逐次出力する。
【0034】
トルク演算部112には、車両モデル部110から出力された角速度モデル推定値ω
m2(t)と、ホイール速度演算部16から出力された角速度推定値ω
e2(t)とが入力される。角速度モデル推定値ω
m2(t)は、自動車40の挙動をエミュレートして求められたものであり、角速度推定値ω
e2(t)は、現在トルク推定値τ
e2(t)をホイールのイナーシャで除算し、除算結果を積分することによって単純に求められたものである。従って、通常は、角速度モデル推定値ω
m2(t)がホイールの角速度をより精密に表しているものと考えられる。
【0035】
一方、角速度推定値ω
e2(t)は、ホイール速度演算部16にて、現在トルク推定値τ
e2(t)とトルク測定値τ
s2(t)とを照合しつつ求められたものであるため、吸収用モータ60の実際の角速度との間に大きなずれは生じない。そこで、トルク演算部112は、角速度モデル推定値ω
m2(t)と角速度推定値ω
e2(t)との差が所定の角速度閾値Δω
th以下である場合には、角速度モデル推定値ω
m2(t)を時間微分し、ホイールのイナーシャを乗算することによって現在トルク推定値τ
e2(t)を計算する。
【0036】
一方、角速度モデル推定値ω
m2(t)と角速度推定値ω
e2(t)との差が角速度閾値Δω
thを超える場合には、角速度推定値ω
e2(t)を時間微分し、ホイールのイナーシャを乗算することによって現在トルク推定値τ
e2(t)が計算される。そして、加算器20において現在トルク推定値τ
e2(t)と、トルク補正値Δτ(t)とが加算され、この加算結果がトルク指令値τ
v(t)としてインバータ62に出力される。
【0037】
[実施形態の効果]
次に、本実施形態の効果について詳述する。
図7(a),(b)は、自動車40のエンジン41から見たトルクの伝達特性であり、
図7(a)はゲイン線図、
図7(b)は位相線図である。
図7(a),(b)とも、太破線は、自動車40をテストコースで走行させた際の実走行特性である。細実線は、本実施形態(
図3)による特性であり、細破線は比較例(
図6)による特性である。本実施形態の特性は、実走行特性とほとんど一致していることが解る。一方、比較例については、特に4〜6Hz付近の特性が、実走行特性からやや乖離していることが解る。
【0038】
次に、
図8(a),(b)を参照し、自動車40においてチップイン・チップアウトを行った際の試験結果について説明する。なお、チップイン、チップアウトとは、アクセルの開度をステップ状に変化させることである。
図8(a)は自動車40の駆動輪の回転速度の測定結果であり、
図8(b)は軸トルクの測定結果である。
図8(a)に示す期間Txは、「1秒間」である。太破線で示す実走行特性によれば、チップイン・チップアウトを行った際に、約6Hzの減衰振動が起こる。そして、細実線で示す本実施形態の特性は、ほとんど実走行特性に重なっていることが解る。
【0039】
また、細破線で示す比較例の特性によれば、確かに減衰振動は起こっているが、実走行特性と比較すると、周波数が約5.5Hzまで低くなっている。しかも、実走行特性よりも振動の収束が早くなっていることが解る。次に、
図9(a),(b)に、
図8(a),(b)の期間Tx付近の時間軸を拡大した拡大図を示す。時間軸を拡大したにもかかわらず、細実線で示す本実施形態の特性は、太破線で示す実走行特性とほぼ一致していることが解る。
【0040】
[構成・効果の総括]
以上のように、本実施形態に適用されるモータ制御装置(30)は、供給されたトルク指令値(τ
v(t))に基づいてモータ(60)に駆動電圧を印加するインバータ(62)に対して、前記トルク指令値(τ
v(t))を供給するモータ制御装置(30)であって、前記モータにて未来に実現すべきと推定されるトルクに対応する未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))を演算する未来トルク演算部(12)と、前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))に基づいて前記トルク指令値(τ
v(t))を出力するトルク指令値出力部(20)とを有することを特徴とする。
【0041】
未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))に基づいてトルク指令値(τ
v(t))を出力することにより、モータ(60)およびインバータ(62)における遅れを補償することができ、モータ(60)を精密に制御することができる。
【0042】
また、モータ制御装置(30)は、前記モータ(60)および前記インバータ(62)の動作をエミュレートし、前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))に基づいて、前記モータ(60)の現在トルク推定値(τ
e2(t))を出力するエミュレーション部(14)をさらに有することを特徴とする。これにより、未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))に加えて、現在トルク推定値(τ
e2(t))も取得できる。
【0043】
また、モータ制御装置(30)は、前記現在トルク推定値(τ
e2(t))と、前記モータ(60)のトルクを測定した結果であるトルク測定値(τ
s2(t))とに基づいて、前記モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))を出力する速度演算部(16)をさらに有することを特徴とする。このように、現在トルク推定値(τ
e2(t))とトルク測定値(τ
s2(t))の双方を用いてモータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))を求めるため、精密な角速度推定値(ω
e2(t))を取得できる。
【0044】
また、モータ制御装置(30)は、前記モータ(60)に接続された負荷(40)を、第1の要素(1)と、前記第1の要素(1)との間で相互に影響を及ぼすとともに前記モータ(60)に連動する第2の要素(2,50)とにモデル化し、前記現在トルク推定値(τ
e2(t))に基づいて、前記第1の要素(1)の角速度推定値(ω
e1(t))を出力する負荷モデル部(10)をさらに有することを特徴とする。これにより、負荷のモデルに基づいて、第1の要素(1)の角速度推定値(ω
e1(t))を取得できる。
【0045】
また、前記未来トルク演算部(12)は、前記モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))と、前記第1の要素(1)の角速度推定値(ω
e1(t))とに基づいて、前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))を出力するものであることを特徴とする。これにより、負荷のモデルに基づいて、未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))を取得できる。
【0046】
また、モータ制御装置(30)は、前記モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))と、前記モータ(60)の角速度測定値(ω
s2(t))とが入力されると、前記モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))を前記角速度測定値(ω
s2(t))に漸近させるためのトルク補正値(Δτ(t))を出力する回転補償コントローラ(18)をさらに有し、前記トルク指令値出力部(20)は、前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))と前記トルク補正値(Δτ(t))との加算結果を前記トルク指令値(τ
v(t))として出力するものであることを特徴とする。これにより、モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))の誤差を小さくすることができる。
【0047】
また、前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))は、現在よりも所定の時間差(Δt)だけ未来に前記モータにて実現すべきトルクに対応する値であり、前記未来トルク演算部(12)は、前記第1の要素(1)の角速度推定値(ω
e1(t))と前記モータ(60)の角速度推定値(ω
e2(t))との差である現在角速度差推定値(Δω
e(t))を出力する減算器(70)と、前記現在角速度差推定値(Δω
e(t))に対して前記時間差(Δt)に対応する所定値(P)を乗算する第1の比例器(71)と、前記第1の比例器(71)の出力信号を微分する微分器(72)と、前記現在角速度差推定値(Δω
e(t))と前記微分器(72)の出力信号とを加算する第1の加算器(73)と、前記第1の加算器(73)の出力信号を積分する積分器(81)と、前記積分器(81)の出力信号に対して、前記第1の要素(1)と前記第2の要素(2,50)との間のバネ定数(K)を乗算する第2の比例器(82)と、前記第1の加算器(73)の出力信号に対して、前記第1の要素(1)と前記第2の要素(2,50)との間の粘性減衰係数(C)を乗算する第3の比例器(84)と、前記第2の比例器(82)の出力信号と前記第3の比例器(84)の出力信号とを加算し、加算結果を前記未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))として出力する第2の加算器(83)とを有することを特徴とする。これにより、簡単な構成で、未来トルク推定値(τ
e2(t+Δt))を取得できる。
【0048】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、若しくは他の構成の追加・置換をすることが可能である。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0049】
(1)上記実施形態においては、吸収用モータ60として、誘導電動機を適用したが、吸収用モータ60は、同期電動機、直流電動機等、他のモータであってもよい。
(2)エミュレーション部14において設定される無駄時間T
ebおよび時定数T
ecは、通常は、インバータ62および吸収用モータ60において発生する無駄時間T
bおよび時定数T
cと、一致することが望ましい。しかし、これらが一致しなかったとしても、比較例よりも優れた結果を奏することは可能である。
【0050】
(3)上記実施形態における制御装置30のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図3、
図4に示したアルゴリズムを実現するプログラム等を記憶媒体に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
(4)
図3、
図4に示したアルゴリズムは、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理によって実現したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(field-programmable gate array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えても良い。
【0051】
(5)上記実施形態において、未来トルク演算部12は、
図4に示したアルゴリズムによって未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)を求めたが、未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)を求める方法は、これに限定されるわけではない。例えば、要素2の角加速度に時間差Δtを乗算し、この乗算結果に現在の角速度推定値ω
e2(t)を加算して角速度差推定値Δω
e(t+Δt)としてもよい。また、角速度推定値ω
e1(t),ω
e2(t)にそれぞれ時間差Δtを乗算し、これら乗算結果を要素1,2の現在の角度に加算することによって、時間差Δtだけ未来の要素1,2の角度を算出し、未来の要素1,2の角度差に基づいて未来トルク推定値τ
e2(t+Δt)を求めても良い。
【0052】
(6)また、上記実施形態は、完成した自動車40の特性試験を行うものであったが、自動車40の部品に対して吸収用モータを接続し、部品毎の特性試験を行う試験システムに本発明を適用してもよい。例えば、エンジン41のみが完成している場合には、エンジン41に吸収用モータを接続し、エンジン41を単体で試験することができる。また、トランスミッション42のみが完成している場合には、エンジン41を模擬するモータと、一対の吸収用モータとをトランスミッション42に接続し、トランスミッション42を単体で試験することができる。これらの吸収用モータや、エンジン41を模擬するモータは、何れも精密なトルク制御が求められるため、本発明を適用して、これらのトルク制御を行うとよい。
【0053】
(7)また、本発明は、自動車またはその部品の試験のみならず、精密なトルク制御が求められる種々の用途に適用することができる。例えば、産業用ロボット、工作機械、建設機械等に適用してもよい。