(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材および電解質膜の少なくとも2層で構成される長尺帯状体から前記電解質膜を剥離し、剥離された前記電解質膜の表面に触媒層を形成する膜・触媒層接合体の製造装置であって、
前記電解質膜を外周面に吸着保持しつつその軸心周りに第1方向に回転する吸着ローラと、
前記吸着ローラの外周面に、前記長尺帯状体を、前記基材が外側となる姿勢で導入するとともに、前記電解質膜から前記基材を剥離する導入剥離部と、
前記吸着ローラに吸着保持された前記電解質膜の外側の面に、触媒材料を供給する触媒供給部と、
を備え、
前記導入剥離部は、
前記長尺帯状体が通過する隙間を空けて前記吸着ローラに対向し、前記吸着ローラと平行な軸心周りに、前記第1方向とは異なる第2方向に回転する剥離ローラと、
前記隙間に向けて前記長尺帯状体を導入する導入部と、
前記隙間を通過した前記基材を、前記吸着ローラの外周面から離れる方向へ搬送する排出部と、
前記隙間を通過して前記吸着ローラに吸着保持される前記電解質膜の外側の面に気体を吹き付ける気体供給部と、
を有し、
前記気体供給部は、少なくとも前記電解質膜の幅方向の両端部を含む幅方向に不連続な複数の吐出領域へ向けて、気体を吹き付ける膜・触媒層接合体の製造装置。
基材および電解質膜の少なくとも2層で構成される長尺帯状体から前記電解質膜を剥離し、剥離された前記電解質膜の表面に触媒層を形成する膜・触媒層接合体の製造方法であって、
a)互いに平行に配置された吸着ローラと剥離ローラとの間の隙間に、前記長尺帯状体を導入する工程と、
b)前記隙間を通過した前記電解質膜を前記吸着ローラに吸着保持させるとともに、前記隙間を通過した前記基材を、前記吸着ローラの外周面から離れる方向へ搬送することで、前記電解質膜から前記基材を剥離する工程と、
c)前記隙間を通過して前記吸着ローラに吸着保持される前記電解質膜の外側の面に、気体を吹き付ける工程と、
d)前記吸着ローラに吸着保持された前記電解質膜の外側の面に、触媒材料を供給する工程と、
を備え、
前記工程c)では、少なくとも前記電解質膜の幅方向の両端部を含む幅方向に不連続な複数の吐出領域へ向けて、気体を吹き付ける膜・触媒層接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、固体高分子形燃料電池に用いられる電解質膜は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。したがって、膜・触媒層接合体の製造時には、電解質膜が、シート状の基材に張り合わされた状態で供給される。膜・触媒層接合体の製造装置では、まず、電解質膜を吸着ローラに吸着保持させるとともに、電解質膜から基材を剥離する。その後、吸着ローラに吸着保持された電解質膜の表面に、触媒インクを塗工する。
【0008】
しかしながら、吸着ローラに対する電解質膜の吸着力が低いと、基材を剥離する際に、電解質膜が基材側へ引き寄せられて、吸着ローラから浮き上がるという問題がある。特に、電解質膜の両端縁付近では、吸着ローラの表面に設けられた吸引口の圧力が低下しにくいため、吸着力が不十分となりやすい。吸着ローラからの電解質膜の浮き上がりが生じると、電解質膜は、皺の入った状態で、吸着ローラに表面に吸着保持される。そして、皺の入った電解質膜の表面に、触媒インクが塗工されることとなる。
【0009】
特許文献1には、2枚のシートが剥離される剥離開始部分に、エアーを噴きつけることにより、剥離開始部分における膜の弛みを抑制することが、記載されている(段落0027〜0031参照)。しかしながら、特許文献1には、吸着力が得られにくい膜の両端縁付近において、膜の浮き上がりを特に抑制することについては、記載されていない。また、このような剥離開始部分の近傍に、触媒インクを塗工する触媒供給部が配置される場合には、噴き出されたエアーが触媒供給部に及ぼす影響を小さくすることも考慮しなければならない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、基材の剥離時に電解質膜が吸着ローラから浮き上がることを抑制でき、かつ、触媒供給部への影響が小さい膜・触媒層接合体の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、基材および電解質膜の少なくとも2層で構成される長尺帯状体から前記電解質膜を剥離し、剥離された前記電解質膜の表面に触媒層を形成する膜・触媒層接合体の製造装置であって、前記電解質膜を外周面に吸着保持しつつその軸心周りに第1方向に回転する吸着ローラと、前記吸着ローラの外周面に、前記長尺帯状体を、前記基材が外側となる姿勢で導入するとともに、前記電解質膜から前記基材を剥離する導入剥離部と、前記吸着ローラに吸着保持された前記電解質膜の外側の面に、触媒材料を供給する触媒供給部と、を備え、前記導入剥離部は、前記長尺帯状体が通過する隙間を空けて前記吸着ローラに対向し、前記吸着ローラと平行な軸心周りに、前記第1方向とは異なる第2方向に回転する剥離ローラと、前記隙間に向けて前記長尺帯状体を導入する導入部と、前記隙間を通過した前記基材を、前記吸着ローラの外周面から離れる方向へ搬送する排出部と、前記隙間を通過して前記吸着ローラに吸着保持される前記電解質膜の外側の面に気体を吹き付ける気体供給部と、を有し、前記気体供給部は、少なくとも前記電解質膜の幅方向の両端部を含む幅方向に不連続な複数の吐出領域へ向けて、気体を吹き付ける。
【0012】
本願の第2発明は、第1発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記複数の吐出領域は、前記電解質膜の幅方向の両端部と、前記両端部の間に位置する少なくとも1つの領域と、を含む。
【0013】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の膜・触媒層接合体の製造装置であって、前記吸着ローラの前記軸心を中心とする前記気体供給部と前記触媒供給部との間の角度は、90度以下である。
【0014】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記導入部における前記長尺帯状体の張力と、前記排出部における前記基材の張力との関係を調整する張力調整部をさらに有する。
【0015】
本願の第5発明は、第4発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記張力調整部は、前記導入部における前記長尺帯状体の張力よりも、前記排出部における前記基材の張力を小さくする。
【0016】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記吸着ローラの回転速度と、前記剥離ローラの回転速度との関係を調整する回転速度調整部をさらに有する。
【0017】
本願の第7発明は、第6発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記回転速度調整部は、前記隙間における前記吸着ローラの外周面の移動速度よりも、前記隙間における前記剥離ローラの外周面の移動速度を遅くする。
【0018】
本願の第8発明は、第7発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記剥離ローラは、前記吸着ローラの回転に伴い従動回転し、前記回転速度調整部は、前記剥離ローラの回転に負荷を与える制動部を含む。
【0019】
本願の第9発明は、第7発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記回転速度調整部は、前記剥離ローラの回転数を調整可能なサーボモータを含む。
【0020】
本願の第10発明は、第7発明から第9発明までのいずれか1発明の膜・触媒接合体の製造装置であって、前記剥離ローラは、前記基材と摺動しながら回転する。
【0021】
本願の第11発明は、基材および電解質膜の少なくとも2層で構成される長尺帯状体から前記電解質膜を剥離し、剥離された前記電解質膜の表面に触媒層を形成する膜・触媒層接合体の製造方法であって、a)互いに平行に配置された吸着ローラと剥離ローラとの間の隙間に、前記長尺帯状体を導入する工程と、b)前記隙間を通過した前記電解質膜を前記吸着ローラに吸着保持させるとともに、前記隙間を通過した前記基材を、前記吸着ローラの外周面から離れる方向へ搬送することで、前記電解質膜から前記基材を剥離する工程と、c)前記隙間を通過して前記吸着ローラに吸着保持される前記電解質膜の外側の面に、気体を吹き付ける工程と、d)前記吸着ローラに吸着保持された前記電解質膜の外側の面に、触媒材料を供給する工程と、を備え、前記工程c)では、少なくとも前記電解質膜の幅方向の両端部を含む幅方向に不連続な複数の吐出領域へ向けて、気体を吹き付ける。
【0022】
本願の第12発明は、第11発明の膜・触媒接合体の製造方法であって、前記複数の吐出領域は、前記電解質膜の幅方向の両端部と、前記両端部の間に位置する少なくとも1つの領域と、を含む。
【0023】
本願の第13発明は、第11発明または第12発明の膜・触媒層接合体の製造方法であって、前記工程c)から前記工程d)までの前記電解質膜の回転角度は、90度以下である。
【0024】
本願の第14発明は、第11発明から第13発明までのいずれか1発明の膜・触媒接合体の製造方法であって、前記工程b)において、前記隙間へ導入される前記長尺帯状体の張力と、剥離後の前記基材の張力との関係を調整する。
【0025】
本願の第15発明は、第14発明の膜・触媒接合体の製造方法であって、前記工程b)において、前記隙間へ導入される前記長尺帯状体の張力よりも、剥離後の前記基材の張力を小さくする。
【0026】
本願の第16発明は、第11発明から第15発明までのいずれか1発明の膜・触媒接合体の製造方法あって、前記工程b)において、前記吸着ローラの回転速度と、前記剥離ローラの回転速度との関係を調整する。
【0027】
本願の第17発明は、第16発明の膜・触媒接合体の製造方法あって、前記工程b)において、前記隙間における前記吸着ローラの外周面の移動速度よりも、前記隙間における前記剥離ローラの外周面の移動速度を遅くする。
【0028】
本願の第18発明は、第17発明の膜・触媒接合体の製造方法であって、前記工程b)において、前記剥離ローラは、前記基材と摺動しながら回転する。
【発明の効果】
【0029】
本願の第1発明〜第18発明によれば、気体の吹き付けによって、電解質膜が吸着ローラから浮き上がることを抑制できる。特に、吸着力を得にくい電解質膜の幅方向の両端部において、吸着ローラに電解質膜を押し付けることができる。また、吐出された気体は、複数の吐出領域の間へ抜ける。このため、触媒供給部側へ流れる気体の量を抑えることができる。
【0030】
特に、第4発明、第5発明、第14発明および第15発明によれば、剥離ローラの上流側および下流側の張力を調整することで、電解質膜からの基材の剥離を、促進させることができる。その結果、吸着ローラからの電解質膜の浮き上がりを、より抑制できる。
【0031】
特に、第6発明〜第10発明および第16発明〜第18発明によれば、吸着ローラの回転速度と剥離ローラの回転速度とを調整することで、電解質膜からの基材の剥離を、促進させることができる。その結果、吸着ローラからの電解質膜の浮き上がりを、より抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
<1.製造装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る膜・触媒層接合体の製造装置1の構成を示した図である。この製造装置1は、帯状の薄膜である電解質膜の表面に、電極となる触媒層を形成して、固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体を製造する装置である。
図1に示すように、本実施形態の膜・触媒層接合体の製造装置1は、導入剥離部10、吸着ローラ20、触媒供給部30、乾燥炉40、貼付部50、表面冷却部60および制御部70を備えている。
【0035】
導入剥離部10は、基材91および電解質膜92の2層で構成される長尺帯状体90を、吸着ローラ20の外周面に導入するとともに、電解質膜92から基材91を剥離する部位である。
【0036】
電解質膜92には、例えば、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。電解質膜92の具体例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標))を挙げることができる。電解質膜92の膜厚は、例えば、5μm〜30μmとされる。電解質膜92は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜92は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。
【0037】
基材91は、電解質膜92の変形を抑制するためのバックシートである。基材91の材料には、電解質膜92よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。基材91の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。基材91の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。
【0038】
図1に示すように、導入剥離部10は、剥離ローラ11、導入部12、排出部13および気体供給部14を有する。
【0039】
剥離ローラ11は、水平に延びる軸心周りに回転するローラである。剥離ローラ11は、弾性体により形成された円筒状の外周面を有する。剥離ローラ11の外周面と、後述する吸着ローラ20の外周面とは、長尺帯状体90が通過する隙間を空けて、互いに対向する。また、剥離ローラ11は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ20側へ加圧されている。
【0040】
導入部12は、膜巻出ローラ121および第1検知ローラ122を有する。膜巻出ローラ121および第1検知ローラ122は、いずれも、剥離ローラ11と平行に配置される。供給前の長尺帯状体90は、膜巻出ローラ121に巻き付けられている。膜巻出ローラ121は、図示を省略したモータの動力により回転する。膜巻出ローラ121が回転すると、長尺帯状体90は、膜巻出ローラ121から繰り出される。
【0041】
膜巻出ローラ121から繰り出された長尺帯状体90は、第1検知ローラ122の外周面に接触することにより向きを変えて、剥離ローラ11側へ搬送される。第1検知ローラ122は、長尺帯状体90から受ける荷重をロードセルで計測することにより、導入部12において長尺帯状体90にかかる張力を検知する。後述する制御部70は、第1検知ローラ122により検知される長尺帯状体90の張力が、予め設定された値となるように、膜巻出ローラ121の回転数を制御する。
【0042】
図2は、剥離ローラ11の付近の拡大図である。
図2に示すように、第1検知ローラ122を通過した長尺帯状体90は、剥離ローラ11と吸着ローラ20との間の隙間15へ導入される。このとき、基材91は剥離ローラ11の外周面に接触し、電解質膜92は吸着ローラ20の外周面に接触する。また、長尺帯状体90は、剥離ローラ11から受ける圧力で、吸着ローラ20の外周面に押し付けられる。そうすると、吸着ローラ20の後述する負圧によって、吸着ローラ20の外周面に電解質膜92が吸着される。
【0043】
なお、本実施形態では、膜巻出ローラ121から繰り出される電解質膜92の一方の面に、予め触媒材料9aの層が形成されている。このため、吸着ローラ20の外周面には、当該触媒材料9aの層とともに、電解質膜92が吸着される。触媒材料9aの層は、製造装置1とは別の塗工装置において、基材91および電解質膜92の2層で構成される長尺帯状体90を、そのままロール・ツー・ロール方式で搬送しつつ、電解質膜92の表面に触媒インクを間欠塗工し、塗工された触媒インクを乾燥させることによって形成される。
【0044】
排出部13は、基材巻取ローラ131および第2検知ローラ132を有する。基材巻取ローラ131および第2検知ローラ132は、いずれも、剥離ローラ11と平行に配置される。隙間15を通過した基材91は、吸着ローラ20から離れて、第2検知ローラ132の方向へ搬送される。これにより、電解質膜92から基材91が剥離される。剥離された基材91は、第2検知ローラ132の外周面に接触することにより向きを変えて、基材巻取ローラ131側へ搬送される。
【0045】
基材巻取ローラ131は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、基材巻取ローラ131に基材91が巻き取られる。第2検知ローラ132は、基材91から受ける荷重をロードセルで計測することにより、排出部13において基材91にかかる張力を検知する。後述する制御部70は、第2検知ローラ132により検知される基材91の張力が、予め設定された値となるように、基材巻取ローラ131の回転数を制御する。
【0046】
気体供給部14は、隙間15を通過して吸着ローラ20に吸着保持される電解質膜92の外側の面に、気体を吹き付ける。これにより、電解質膜92からの基材91の剥離を促進させるとともに、吸着ローラ20からの電解質膜92の浮き上がりを抑制する。気体供給部14の詳細な構成については、後述する。
【0047】
吸着ローラ20は、電解質膜92を外周面に吸着保持しつつ回転するローラである。吸着ローラ20は、剥離ローラ11よりも径の大きい円筒状の外周面を有する。吸着ローラ20の直径は、例えば、400mm〜1600mmとされる。吸着ローラ20は、図示を省略したモータの動力により、水平(すなわち、剥離ローラ11と平行)に延びる軸心周りに回転する。吸着ローラ20の回転方向である第1方向と、剥離ローラ11の回転方向である第2方向とは、互いに反対方向となる。
【0048】
吸着ローラ20の材料には、例えば、多孔質カーボンや多孔質セラミックス等の多孔質材料が用いられる。多孔質セラミックスの具体例としては、アルミナ(Al
2O
3)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を挙げることができる。多孔質の吸着ローラ20における気孔径は、例えば5μm以下とされ、気孔率は、例えば15%〜50%とされる。また、吸着ローラ20の外周面は、例えば、Rz(最大高さ)の値が5μm以下の表面粗さに形成される。また、回転時における吸着ローラ20の全振れ(回転軸から外周面までの距離の変動)は、10μm以下とされる。
【0049】
吸着ローラ20の端面には、吸引口21が設けられている。吸引口21は、図外の吸引機構(例えば、排気ポンプ)に接続される。吸引機構を動作させると、吸着ローラ20の吸引口21に負圧が生じる。そして、吸着ローラ20内の気孔を介して、吸着ローラ20の外周面にも、負圧が生じる。例えば、吸引口21に90kPa以上の負圧を発生させることによって、吸着ローラ20の外周面に10kPa以上の負圧を発生させる。電解質膜92は、当該負圧によって、吸着ローラ20外周面に吸着保持されつつ、吸着ローラ20の回転によって円弧状に搬送される。
【0050】
また、
図1中に破線で示すように、吸着ローラ20の内部には、複数の水冷管22が設けられている。水冷管22には、図外の給水機構から、所定温度に温調された冷却水が供給される。製造装置1の動作時には、吸着ローラ20の熱が、熱媒体である冷却水に吸収される。これにより、吸着ローラ20が冷却される。熱を吸収した冷却水は、図外の排液機構へ排出される。
【0051】
触媒供給部30は、吸着ローラ20により搬送される電解質膜92の表面に、触媒インクを塗工するための機構である。触媒インクには、触媒材料(例えば、白金(Pt))を含む粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた電極ペーストが用いられる。
図1に示すように、触媒供給部30は、塗工ノズル31を有する。塗工ノズル31は、吸着ローラ20による電解質膜92の搬送方向において、剥離ローラ11よりも下流側に設けられている。塗工ノズル31は、吸着ローラ20の外周面に対向する吐出口311を有する。吐出口311は、吸着ローラ20の外周面に沿って、水平に延びるスリット状の開口である。
【0052】
塗工ノズル31は、供給配管32を介して、触媒インク供給源33と流路接続されている。また、供給配管32の経路上には、開閉弁34が介挿されている。このため、開閉弁34を開放すると、触媒インク供給源33から、供給配管32を通って塗工ノズル31に、触媒インクが供給される。そして、塗工ノズル31の吐出口311から電解質膜92へ向けて、触媒インクが吐出される。その結果、吸着ローラ20に保持された電解質膜92の外側の面に、触媒インクが塗工される。
【0053】
本実施形態では、開閉弁34を一定の周期で開閉することによって、塗工ノズル31の吐出口311から、触媒インクを断続的に吐出する。これにより、電解質膜92の表面に、触媒インクを搬送方向に一定の間隔で間欠塗工する。ただし、開閉弁34を連続的に開放して、電解質膜92の表面に、搬送方向に切れ目無く触媒インクを塗工してもよい。
【0054】
なお、触媒インク中の触媒材料には、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおいて燃料電池反応を起こす材料が用いられる。具体的には、白金(Pt)、白金合金、白金化合物等を、触媒材料として用いることができる。白金合金の例としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択された少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒材料には白金が用いられ、アノード用の触媒材料には白金合金が用いられる。塗工ノズル31から吐出される触媒インクは、カソード用であってもアノード用であってもよい。ただし、電解質膜92の表裏に形成される触媒材料9a,9bは、互いに逆極性の触媒材料とする。
【0055】
乾燥炉40は、電解質膜92の表面に塗工された触媒インクを乾燥させる部位である。本実施形態の乾燥炉40は、吸着ローラ20による電解質膜92の搬送方向において、触媒供給部30よりも下流側に配置されている。また、乾燥炉40は、吸着ローラ20の外周面に沿って、円弧状に設けられている。
図1に示すように、乾燥炉40は、3つの熱風供給部41〜43と、2つの熱遮断部44,45とを有する。3つの熱風供給部41〜43は、吸着ローラ20の外周面に向けて、加熱された気体(熱風)を吹き付ける。触媒インクが塗工された電解質膜92が熱風供給部41〜43を通過すると、当該熱風により触媒インクが乾燥して固化する。すなわち、触媒インク中の溶媒が気化して、電解質膜92の表面に触媒材料9bの層が形成される。
【0056】
3つの熱風供給部41〜43は、それぞれ、吹き付ける熱風の温度が異なる。3つの熱風供給部41〜43から吹き付けられる熱風の温度は、吸着ローラ20による電解質膜92の搬送方向の上流側から下流側へ向かうにつれて、順次に高くなる。最も搬送方向上流側の熱風供給部41から吹き付けられる熱風の温度は、例えば、周囲の環境温度以上かつ40℃以下とされる。2つ目の熱風供給部42から吹き付けられる熱風の温度は、例えば、40℃以上かつ80℃以下とされる。また、最も搬送方向下流側の熱風供給部43から吹き付けられる熱風の温度は、例えば、50℃以上かつ100℃以下とされる。
【0057】
このように、本実施形態の乾燥炉40では、電解質膜92に吹き付ける熱風の温度を、搬送方向下流側へ向かうにつれて順次に高くする。このようにすれば、電解質膜92および触媒インクの温度を、緩やかに上昇させることができる。したがって、急激な乾燥により触媒材料9bにクラック等の損傷が生じることを、抑制できる。
【0058】
2つの熱遮断部44,45は、吸着ローラ20による電解質膜92の搬送方向において、3つの熱風供給部41〜43の上流側および下流側に設けられている。すなわち、一方の熱遮断部44は、最も搬送方向上流側の熱風供給部41よりも搬送方向の上流側に配置され、他方の熱遮断部45は、最も搬送方向下流側の熱風供給部43よりも搬送方向の下流側に配置されている。これらの熱遮断部44,45は、吸着ローラ20の外周面近傍の気体を吸引する。これにより、熱風供給部41〜43から吹き出された熱風が、熱遮断部44,45を超えて搬送方向の上流側および下流側へ流れ出すことを防止する。また、乾燥時に触媒インクから生じた溶媒の蒸気が、熱遮断部44,45を超えて搬送方向の上流側および下流側へ流れ出すことも防止する。
【0059】
図3は、吸着ローラ20の軸心を含む断面における、乾燥炉40の概略形状を示した図である。
図3に示すように、本実施形態の乾燥炉40は、一対の吸引部46,47を有する。吸引部46,47は、熱風供給部41〜43の両側縁部から吸着ローラ20側へ向けて、板状に突出する。また、各吸引部46,47は、吸着ローラ20の外周面の両側部に沿って、円弧状に広がる。これらの吸引部46,47は、周辺の気体を吸引する。これにより、熱風供給部41,43から供給された熱風や、溶媒の蒸気が、吸引部46,47を超えて外側へ流れ出すことを防止する。
【0060】
貼付部50は、触媒材料9bの層が形成された電解質膜92の表面に、帯状の支持フィルム93を貼り付ける部位である。貼付部50は、吸着ローラ20による電解質膜92の搬送方向において、乾燥炉40よりも下流側に配置されている。
図1に示すように、貼付部50は、ラミネートローラ51、フィルム供給部52および接合体回収部53を有する。
【0061】
図4は、ラミネートローラ51の付近の拡大図である。ラミネートローラ51は、水平に延びる軸心周りに回転するローラである。ラミネートローラ51は、吸着ローラ20よりも径の小さい円筒状の外周面を有する。ラミネートローラ51の外周面と、吸着ローラ20の外周面とは、電解質膜92および支持フィルム93が通過する隙間を空けて、互いに対向する。また、ラミネートローラ51は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ20側へ加圧されている。
【0062】
ラミネートローラ51の材料には、例えば、熱伝導率の高い金属が用いられる。また、ラミネートローラ51の内部には、通電により発熱するヒータ511が設けられている。ヒータ511には、例えば、シーズヒータを用いることができる。ヒータ511に通電すると、ヒータ511から生じる熱によって、ラミネートローラ51の外周面が、環境温度よりも高い所定の温度に温調される。なお、ラミネートローラ51の外周面の温度を放射温度計等の温度センサを用いて計測し、その計測結果に基づいて、ラミネートローラ51の外周面が一定の温度となるように、ヒータ511の出力を制御してもよい。
【0063】
図1に戻る。フィルム供給部52は、フィルム巻出ローラ521および第3検知ローラ522を有する。フィルム巻出ローラ521および第3検知ローラ522は、いずれも、ラミネートローラ51と平行に配置される。供給前の支持フィルム93は、フィルム巻出ローラ521に巻き付けられている。フィルム巻出ローラ521は、図示を省略したモータの動力により回転する。フィルム巻出ローラ521が回転すると、支持フィルム93は、フィルム巻出ローラ521から繰り出される。
【0064】
支持フィルム93の材料には、電解質膜92よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。支持フィルム93の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。支持フィルム93は、基材91と同じものであってもよい。また、基材巻取ローラ131によって巻き取った基材91を、支持フィルム93としてフィルム巻出ローラ521から繰り出すようにしてもよい。
【0065】
繰り出された支持フィルム93は、第3検知ローラ522の外周面に接触することにより向きを変えて、ラミネートローラ51側へ搬送される。第3検知ローラ522は、支持フィルム93から受ける荷重をロードセルで計測することにより、フィルム供給部52において支持フィルム93にかかる張力を検知する。後述する制御部70は、第3検知ローラ522により検知される支持フィルム93の張力が、予め設定された値となるように、フィルム巻出ローラ521の回転数を制御する。
【0066】
第3検知ローラ522を通過した支持フィルム93は、吸着ローラ20の外周面に吸着保持された電解質膜92と、ラミネートローラ51との間へ導入される。このとき、支持フィルム93は、ラミネートローラ51からの圧力により電解質膜92に押し付けられるとともに、ラミネートローラ51の熱により加熱される。その結果、電解質膜92の外側の面に、支持フィルム93が貼り付けられる。電解質膜92の表面に形成された触媒材料9bは、電解質膜92と支持フィルム93との間に挟まれる。これにより、電解質膜92、触媒材料9a,9bおよび支持フィルム93で構成される膜・触媒層接合体94が形成される。
【0067】
接合体回収部53は、接合体巻取ローラ531および第4検知ローラ532を有する。接合体巻取ローラ531および第4検知ローラ532は、いずれも、ラミネートローラ51と平行に配置される。吸着ローラ20とラミネートローラ51との間を通過した膜・触媒層接合体94は、吸着ローラ20から離れて、第4検知ローラ532の方向へ搬送される。そして、膜・触媒層接合体94は、第4検知ローラ532の外周面に接触することにより向きを変えて、接合体巻取ローラ531側へ搬送される。
【0068】
接合体巻取ローラ531は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、接合体巻取ローラ531に膜・触媒層接合体94が巻き取られる。第4検知ローラ532は、膜・触媒層接合体94から受ける荷重をロードセルで計測することにより、接合体回収部53において膜・触媒層接合体94にかかる張力を検知する。後述する制御部70は、第4検知ローラ532により検知される膜・触媒層接合体94の張力が、予め設定された値となるように、接合体巻取ローラ531の回転数を制御する。
【0069】
表面冷却部60は、吸着ローラ20の外周面を冷却するための機構である。表面冷却部60は、吸着ローラ20の外周面のうち、貼付部50と導入剥離部10との間の電解質膜92を保持しない領域に対向する位置に配置される。表面冷却部60は、例えば、吸着ローラ20の外周面に、環境温度よりも低温(例えば5℃程度)のクリーンドライエアを吹き付ける。乾燥炉40およびラミネートローラ51により加熱された吸着ローラ20は、当該クリーンドライエアを受けることによって冷却される。
【0070】
このように、本実施形態の製造装置1では、膜巻出ローラ121からの長尺帯状体90の繰り出し、電解質膜92からの基材91の剥離、電解質膜92への触媒インクの塗工、乾燥炉40による乾燥、電解質膜92への支持フィルム93の貼り付け、の各工程が、順次に実行される。これにより、固体高分子形燃料電池の電極に用いられる膜・触媒層接合体94が製造される。電解質膜92は、基材91、吸着ローラ20、または支持フィルム93に、常に保持されている。これにより、製造装置1における電解質膜92の膨潤・収縮等の変形が抑制される。
【0071】
制御部70は、製造装置1内の各部を動作制御するための手段である。
図5は、制御部70と、製造装置1内の各部との接続を示したブロック図である。
図5中に概念的に示したように、制御部70は、CPU等の演算処理部71、RAM等のメモリ72およびハードディスクドライブ等の記憶部73を有するコンピュータにより構成される。記憶部73内には、印刷処理を実行するためのコンピュータプログラムPが、インストールされている。
【0072】
また、
図3に示すように、制御部70は、上述した膜巻出ローラ121のモータ、第1検知ローラ122のロードセル、基材巻取ローラ131のモータ、第2検知ローラ132のロードセル、吸着ローラ20のモータ、吸着ローラ20の吸引機構、吸着ローラ20の給水機構、開閉弁34、3つの熱風供給部41〜43、2つの熱遮断部44,45、2つの吸引部46,47、ヒータ511、フィルム巻出ローラ521のモータ、第3検知ローラ522のロードセル、接合体巻取ローラ531のモータ、第4検知ローラ532のロードセルおよび表面冷却部60と、それぞれ通信可能に接続されている。また、制御部70は、後述する開閉弁85とも、通信可能に接続されている。
【0073】
制御部70は、記憶部73に記憶されたコンピュータプログラムPやデータをメモリ72に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPに基づいて、演算処理部71が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、製造装置1における膜・触媒接合体の製造処理が進行する。
【0074】
<2.電解質膜の浮き上がり抑制について>
続いて、電解質膜92から基材91を剥離する際に、吸着ローラ20から電解質膜92が浮き上がることを抑制するための構成について説明する。
【0075】
<2−1.気体供給部について>
図6は、剥離ローラ11、気体供給部14および吸着ローラ20の斜視図である。
図6に示すように、本実施形態の気体供給部14は、筒状の部材の先端から気体を吐出する複数のパイプノズル81を有する。複数のパイプノズル81は、電解質膜92の幅方向(電解質膜の搬送方向に対して直交し、かつ、電解質膜の表面および裏面と平行な方向。以下同じ)に沿って、略等間隔に配列されている。各パイプノズル81の吐出口は、電解質膜92の表面に向けられている。
図1に示すように、本実施形態では、吸着ローラ20の軸心を中心とするパイプノズル81の配置位置と塗工ノズル31の配置位置との間の角度θは、90度以下となっている。
【0076】
図6中に概念的に示したように、複数のパイプノズル81には、それぞれ、給気配管82が流路接続されている。各給気配管82の他端は、1本の主配管83に流路接続されている。そして、主配管83の他端は、気体供給源84に流路接続されている。気体供給源84には、大気圧よりも高圧の気体が充填されている。また、主配管83の経路上には、開閉弁85が設けられている。
【0077】
このため、開閉弁85を開放すると、気体供給源84から主配管83および複数の給気配管82を通って複数のパイプノズル81へ、気体が供給される。そして、各パイプノズル81の吐出口から電解質膜92の表面へ向けて、気体が吐出される。パイプノズル81から吐出される気体には、例えば、クリーンドライエアを用いることができる。ただし、クリーンドライエアに代えて、乾燥した清浄な窒素ガス等の不活性ガスを用いてもよい。
【0078】
図7は、長尺帯状体90の導入から触媒インクの供給までの処理の流れを示したフローチャートである。既述の通り、この製造装置1では、まず、膜巻出ローラ121から繰り出された長尺帯状体90が、吸着ローラ20と剥離ローラ11との隙間15へ導入される(ステップS1)。隙間15を通過した電解質膜92は、吸着ローラ20の外周面に吸着保持される。一方、隙間15を通過した基材91は、吸着ローラ20の外周面から離れる方向へ搬送される。これにより、電解質膜92から基材91が剥離される(ステップS2)。このとき、気体供給部14は、剥離直後の電解質膜92に向けて、気体を吹き付ける(ステップS3)。これにより、吸着ローラ20の外周面からの電解質膜92の浮き上がりを抑制する。その後、吸着ローラ20に吸着保持された電解質膜92の外側の面に、塗工ノズル31から触媒インクが供給される(ステップS4)。
【0079】
図8は、吸着ローラ20に保持された電解質膜92と、複数のパイプノズル81との幅方向の位置関係を示した図である。
図8に示すように、複数のパイプノズル81は、幅方向に配列される複数の吐出領域Aへ向けて、気体を吹き付ける。幅方向の両端に配置された2つのパイプノズル81は、電解質膜92の幅方向の両端部に位置する吐出領域A(以下、「第1吐出領域A1」と称する)へ向けて、気体を吹き付ける。他のパイプノズル81は、2つの第1吐出領域A1の間に位置する複数の吐出領域A(以下、「第2吐出領域A2」と称する)へ向けて、気体を吹き付ける。このように、電解質膜92に気体を吹き付けることにより、電解質膜92を吸着ローラ20の外周面に押し付ける。これにより、電解質膜92からの基材91の剥離が促進される。また、電解質膜92が、基材91とともに吸着ローラ20の外周面から浮き上がることを抑制できる。
【0080】
特に、吸着ローラ20の外周面のうち、電解質膜92の幅方向の両端部に接触する部分は、電解質膜92に接触することなく外気に露出する部分と隣接するため、吸引口21の圧力が低下しにくい。したがって、電解質膜92の幅方向の両端部付近では、吸引口21による吸着力を得にくい。そこで、この気体供給部14は、
図8のように、電解質膜92の幅方向の両端部に位置する一対の第1吐出領域A1へ向けて、気体を吹き付ける。このようにすれば、電解質膜92の幅方向の両端部が、吸着ローラ20の外周面から浮き上がることを抑制できる。
【0081】
気体供給部14は、少なくとも、吸着力を得にくい一対の第1吐出領域A1へ向けて、気体を吹き付ければよい。しかしながら、本実施形態のように、第1吐出領域A1だけではなく、その内側に位置する第2吐出領域A2にも気体を吹き付ければ、吸着ローラ20からの電解質膜92の浮き上がりを、より抑制できる。第2吐出領域A2の数は、1つでもよいし、複数でもよい。
【0082】
また、この気体供給部14は、電解質膜92の幅方向の全体に一様に気体を吹き付けるのではなく、幅方向に不連続な複数の吐出領域Aへ向けて、気体を吹き付ける。このため、各吐出領域Aへ吹き付けられた気体は、
図8中の破線矢印のように、隣り合うパイプノズル81の間を通って、吸着ローラ20から離れる。これにより、塗工ノズル31側へ流れる気体の量を低減することができる。したがって、気体供給部14の影響で塗工ノズル31から吐出される触媒インクが乱れたり、触媒インクが意図に反して乾燥したりすることを抑制できる。その結果、気体供給部14に起因する塗工不良の発生を抑制できる。
【0083】
特に、この製造装置1では、複数のパイプノズル81と塗工ノズル31とが、近い位置に配置されている。具体的には、吸着ローラ20の軸心を中心とするパイプノズル81の配置位置と塗工ノズル31の配置位置との間の角度(ステップS3からステップS4までの電解質膜92の回転角度)θが、90度以下である。このような位置関係では、気体供給部14から吹き出される気体が、塗工ノズル31側へ流れやすい。このため、パイプノズル81から吐出される気体が吸着ローラ20から離れるための流路を確保して、塗工ノズル31への影響を抑えることが、特に重要となる。
【0084】
また、本実施形態では、
図2のように、パイプノズル81が、吸着ローラ20の半径方向に対して斜めに配置されている。そして、パイプノズル81から隙間15側(塗工ノズル31から離れる方向)へ向けて、気体が吐出される。これにより、塗工ノズル31側へ流れる気体の量が、より低減される。その結果、気体供給部14に起因する塗工不良の発生を、より抑制できる。
【0085】
<2−2.回転速度調整部について>
この製造装置1は、吸着ローラ20の回転速度と、剥離ローラ11の回転速度との関係を調整する回転速度調整部16をさらに有する。
図9は、吸着ローラ20、剥離ローラ11および回転速度調整部16の構成を示した側面図である。
【0086】
本実施形態の剥離ローラ11は、モータ等の駆動源に直接接続されておらず、自発的には回転しないフリーローラである。上述のように、剥離ローラ11は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ20側へ加圧されている。このため、剥離ローラ11は、吸着ローラ20の回転に伴い、長尺帯状体90を介して受ける力により、従動回転する。ただし、剥離ローラ11の回転軸111の端部には、回転速度調整部16としての制動部161が設けられている。制動部161には、例えば、粉体の摩擦を利用して制動力を発生させるパウダークラッチを用いることができる。
【0087】
剥離ローラ11が回転すると、制動部161は、剥離ローラ11の回転に逆らう方向の抵抗力を発生させる。これにより、剥離ローラ11の回転に負荷が生じる。その結果、隙間15における吸着ローラ20の外周面の移動速度(
図2中の矢印v1)よりも、隙間15における剥離ローラ11の外周面の移動速度(
図2中の矢印v2)の方が、僅かに遅くなる。このように、剥離ローラ11の回転速度を低下させれば、剥離ローラ11に接触する基材91が電解質膜92を剥離ローラ11側へ引き寄せる力が弱くなる。したがって、電解質膜92からの基材91の剥離が促進される。その結果、吸着ローラ20の外周面からの電解質膜92の浮き上がりが、より抑制される。
【0088】
なお、剥離ローラ11の外周面と基材91とが、互いに相対移動不能であると、電解質膜92の搬送速度よりも基材91の搬送速度が遅くなるため、電解質膜92に過度の張力がかかって電解質膜92が損傷する虞がある。このため、剥離ローラ11は、基材91に対して摺動しながら回転することが好ましい。
【0089】
なお、剥離ローラ11を自発的に回転させ、その回転速度を制御するようにしてもよい。例えば、
図10のように、剥離ローラ11の回転軸111の端部に、回転速度調整部16としてのサーボモータ162を接続してもよい。サーボモータ162は、上述した制御部70に接続され、制御部70から供給される制御信号に基づいて回転数を調整可能なモータである。
図10の構成では、制御部70が、隙間15における吸着ローラ20の外周面の移動速度よりも、隙間15における剥離ローラ11の外周面の移動速度の方が僅かに遅くなるように、サーボモータ162の回転数を調整する。これにより、電解質膜92からの基材91の剥離を促進させて、吸着ローラ20からの電解質膜92の浮き上がりを抑制できる。
【0090】
<2−3.張力調整について>
既述の通り、制御部70は、第1検知ローラ122により検知される長尺帯状体90の張力が、予め設定された値(以下、「第1設定値」と称する)となるように、膜巻出ローラ121の回転数を制御する。これにより、導入部12における長尺帯状体90の張力を、一定の第1設定値に維持する。また、制御部70は、第2検知ローラ132により検知される基材91の張力が、予め設定された値(以下、「第2設定値」と称する)となるように、基材巻取ローラ131の回転数を制御する。これにより、排出部13における基材91の張力を、一定の第2設定値に維持する。
【0091】
すなわち、本実施形態では、膜巻出ローラ121、第1検知ローラ122、基材巻取ローラ131および第2検知ローラ132が、導入部12における長尺帯状体90の張力と、排出部13における基材91の張力との関係を調整する張力調整部を構成している。
【0092】
本実施形態の製造装置1では、上述した第1設定値よりも、上述した第2設定値の方が、低い値に設定されている。このため、膜巻出ローラ121および基材巻取ローラ131の回転数が制御されることにより、導入部12における長尺帯状体90の張力よりも、排出部13における基材91の張力の方が小さくなる。このように、隙間15へ導入される長尺帯状体90の張力よりも、剥離後の基材91の張力を小さくすれば、基材91が電解質膜92を引き寄せる力が弱くなる。したがって、電解質膜92からの基材91の剥離が促進される。その結果、吸着ローラ20の外周面からの電解質膜92の浮き上がりが、より抑制される。
【0093】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0094】
上記の実施形態では、気体供給部14に複数のパイプノズル81を用いていた。しかしながら、気体供給部14は、パイプノズル以外のノズルにより構成されていてもよい。例えば、電解質膜92の搬送方向に沿って延びるスリット状の吐出口を有する複数のノズルを、幅方向に配列してもよい。
【0095】
また、上記の実施形態では、吸着ローラ20の軸心を中心とするパイプノズル81の配置位置と塗工ノズル31の配置位置との間の角度θ(
図1参照)が90度以下であった。しかしながら、パイプノズル81の配置位置と塗工ノズル31の配置位置との間の角度θは、90度よりも大きくてもよい。パイプノズル81の配置位置と塗工ノズル31の配置位置との間の角度θを大きくすれば、パイプノズル81から吐出される気体が、塗工ノズル31に届きにくくなる。したがって、気体供給部14の影響で、塗工ノズル31から吐出される触媒インクが乱れたり、触媒インクが意図に反して乾燥したりすることを、より抑制できる。
【0096】
また、上記の実施形態では、一方の面に予め触媒材料9aの層が形成された電解質膜92の他方の面に、触媒材料9bを形成する場合について説明した。しかしながら、本発明の製造装置は、表裏のいずれの面にも触媒材料9aの層が形成されていない電解質膜に対して、触媒材料を形成するものであってもよい。
【0097】
また、製造装置の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。