(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6541542
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】巻線部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20190628BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20190628BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
H01F27/28 131
H01F5/02 B
H01F30/10 E
H01F27/28 123
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-200050(P2015-200050)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-73484(P2017-73484A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井田 祐二
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−222447(JP,A)
【文献】
実開平05−055521(JP,U)
【文献】
特開2009−141113(JP,A)
【文献】
実開昭63−031504(JP,U)
【文献】
実開平06−077217(JP,U)
【文献】
特開2005−340680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 5/02
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線部に巻線が施されたボビンの軸線方向の端部に端子装着部が一体に形成され、当該端子装着部に、複数本の端子が上記軸線と直交する方向に間隔をおいて植設されるとともに、上記端子間に上記軸線方向に延在する案内溝が形成され、上記端子に絡げられる上記巻線の引出線が上記案内溝に挿通されるとともに、上記巻線の外方に上記軸線方向に沿ってコアが配置された巻線部品において、
上記コアとの距離が最も近い上記案内溝の底面であって当該案内溝における上記軸線側の壁面に近接した位置に、外面が三次元凸曲面に形成された突起部を形成するとともに、当該突起部と対向する上記壁面に、上記引出線が案内される溝部を形成したことを特徴とする巻線部品。
【請求項2】
上記巻線部品はトランスであり、かつ上記引出線は高圧側の上記端子に絡げられる引出線であることを特徴とする請求項1に記載の巻線部品。
【請求項3】
上記巻線は、0.1〜0.2mmφの細線を5〜30本撚り合わせたリッツ線であることを特徴とする請求項1または2に記載の巻線部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピン実装される横型タイプのトランスやコイル等の巻線部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電源モジュール等に用いられるトランスにおいては、巻線間や巻線とコアとの間の絶縁性能を満たすために、一定の距離を確保する必要がある。
【0003】
図7〜
図9は、従来の横型ERタイプのトランスにおけるボビンを示すもので、このボビン10は、巻線が施される円筒状の巻線部11の軸線方向両端のフランジ11aに端子装着部12が一体に形成され、この端子装着部12に、複数本(図では6本)の端子13が上記軸線と直交する方向に等間隔をおいて一列に植設されるとともに、端子13間に、当該端子13に絡げられる巻線の引出線14が挿通される案内溝15が軸線方向に延在するように形成されたものである。
【0004】
上記構成からなるボビン10を用いた横型ERタイプのトランスにおいては、
図10に示すように、コアの外足16が巻線部11に巻回された巻線の外方において上記軸線方向に沿って配置されている。ちなみに、このトランスにおいては、外足16の内面が巻線の外周に沿う断面円弧状に形成されている。
【0005】
このため、巻線の引出線14のうち、特にコアの外足16に最も近い案内溝15(15a)に挿通される引出線14と上記コアの外足16との間に、所定の絶縁性能を得るための空間的な距離を確保することが難しくなる場合が多く、このような場合には、上記引出線14をテープやチューブによって絶縁保護しなければならないという問題点があった。
【0006】
この結果、当該作業に多くの手間を要し、経済性に劣るという問題点があった。
なお、同様のトランスの構成は、下記特許文献1においても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−264348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のボビン形状では不可能な絶縁仕様であっても、別途テープ等による絶縁保護を行うことなく絶縁性能を確保することができ、よって組立が容易であるとともに、一層高い品質を実現することができる巻線部品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、巻線部に巻線が施されたボビンの軸線方向の端部に端子装着部が一体に形成され、当該端子装着部に、複数本の端子が上記軸線と直交する方向に間隔をおいて植設されるとともに、上記端子間に上記軸線方向に延在する案内溝が形成され、上記端子に絡げられる上記巻線の引出線が上記案内溝に挿通されるとともに、上記巻線の外方に上記軸線方向に沿ってコアが配置された巻線部品において、上記コアとの距離が最も近い上記案内溝の底面であって当該案内溝における上記軸線側の壁面に近接した位置に、外面が三次元凸曲面に形成された突起部を形成するとともに、当該突起部と対向する上記壁面に、上記引出線が案内される溝部を形成したことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記巻線部品がトランスであり、かつ上記引出線は高圧側の上記端子に絡げられる引出線であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記巻線が、0.1〜0.2mmφの細線を5〜30本撚り合わせたリッツ線であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、端子装着部の案内溝の底面に、外面が三次元凸曲面に形成された突起部を当該案内溝の軸線側の壁面に近接した位置に形成するとともに、さらにこの突起部と対向する上記壁面に、上記引出線が案内される溝部を形成しているために、ボビンの巻線部と端子との間において上記案内溝内に挿通される巻線の引出線を上記突起部の三次元凸曲面上に沿ってコアから離間する方向の壁部側に案内して当該壁面に形成した溝部に挿通させることができる。
【0013】
この結果、単に引出線を案内溝に挿通させる場合と比較して、引出線とコアとの間の絶縁距離を大きく確保することができ、よって従来のボビン形状では不可能な絶縁仕様であっても、別途テープ等による絶縁保護を行うことなく絶縁性能を確保することができる。また、組立も容易であるとともに、一層高い品質を実現することが可能になる。
【0014】
特に、請求項2に記載の発明のように、上記巻線部品がトランスであり、かつ上記引出線は高圧側の端子に絡げられる引出線である場合には、引出線とコアとの間の絶縁距離をより大きく確保することができるために、顕著な効果が得られる。
【0015】
さらに、上記突起部の外面を、三次元凸曲面によって形成しているために、ボビンの巻線部と端子との間に配線する際に、引出線を三次元凸曲面に沿って無理のない最適かつ最短の経路に自動的に案内することができる。
【0016】
加えて、上記突起部には、引出線を局部的に屈曲させるエッジ部がないために、請求項3に記載の発明にように、上記巻線として0.1〜0.2mmφの細線を5〜30本撚り合わせたリッツ線を用いた場合においても、外周に位置する細線が上記エッジ部等における無理な屈曲によって破断する等の弊害が生じることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態におけるボビン形状を示す正面図である。
【
図6】
図2のボビンに巻線の引出線およびコアを配置した状態を示す断面図である。
【
図7】従来の横型ERタイプのトランスにおけるボビン形状を示すもので、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
【
図10】
図8のボビンに巻線の引出線およびコアを配置した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜
図6は、本発明に係る巻線部品を
図7〜
図10に示した従来の横型ERタイプのトランスに適用した一実施形態を示すもので、上記従来のトランスと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
このトランスが従来のものと相違する点は、引出線14が挿通される案内溝15の形状にある。
【0019】
すなわち、このトランスのボビン1においては、コア16との距離が最も近い2つの案内溝15、すなわち一列に配置された端子13における両端部の端子13に絡げられる引出線14が挿通される案内溝15の底面に、それぞれ突起部2が形成されている。
【0020】
この突起部2は、外面が半球面(三次元凸曲面)となる半球状に形成されたもので、案内溝15の底面における巻線部11側の端部であって、この案内溝15におけるボビン1の軸線側の壁面4に近接した位置に形成されている。
【0021】
そして、この壁面4の突起部2と対向する位置には、引出線14が挿通される溝部3が形成されている。この溝部3は、突起部2側と端子装着部12における巻線部11側の端面12aに開口する溝であり、案内溝15内から上記端面12a側に向けて深さ寸法が漸次大きくなるように傾斜して形成されている。
【0022】
これにより、巻線の巻始め側の引出線14は、端子13から案内溝15に挿通され、突起部2上を壁面4側に案内されて溝部3からボビン1の巻線部11へと案内されている。また、巻線の巻終わり側の引出線14は、巻線部11から溝部3に挿通され、突起部2上を案内溝15内へと案内されて端子13に絡げられている。
【0023】
ちなみに、本実施形態においては、上記巻線として、0.1〜0.2mmφの細線を5〜30本撚り合わせたリッツ線が用いられている。
【0024】
以上の構成からなるトランスによれば、端子装着部12の案内溝15の底面に、外面が半球面の突起部2を案内溝15の軸線側の壁面4に近接した位置に形成するとともに、さらにこの突起部2と対向する壁面4に、引出線14が案内される溝部3を形成しているために、ボビン1の巻線部11と端子13との間において案内溝15内に挿通される巻線の引出線14を、突起部2の半球面上に沿ってコア16から離間する方向に案内して壁面4に形成した溝部3に挿通させることができる。
【0025】
この結果、単に引出線14を案内溝15に挿通させる場合と比較して、引出線14とコア16との間の絶縁距離を大きく確保することができ、よって従来のボビン形状では不可能な絶縁仕様であっても、別途テープ等による絶縁保護を行うことなく絶縁性能を確保することができる。また、組立も容易であるとともに、一層高い品質を実現することが可能になる。
【0026】
しかも、突起部2の外面を、半球面によって形成しているために、ボビン1の巻線部11と端子13との間に配線する際に、引出線14を突起部2の半球面に沿って無理のない最適かつ最短の経路に自動的に案内することができる。
【0027】
加えて、突起部2には、引出線14を局部的に屈曲させるエッジ部がないために、上記巻線として0.1〜0.2mmφの細線を5〜30本撚り合わせたリッツ線を用いた場合においても、外周に位置する細線が上記エッジ部等における無理な屈曲によって破断する等の弊害が生じることを確実に防止することができる。
【0028】
なお、上記実施形態においては、本発明に係る巻線部品を横型ERタイプのトランスに適用した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チョークコイル等の他の巻線部品にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ボビン
2 突起部
3 溝部
4 壁面
11 巻線部
12 端子装着部
13 端子
14 巻線の引出線
15 案内溝
16 コアの外足