(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緩衝層は、M−A系(Mは、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、アルミニウム、またはシリコンであり、Aは、窒素、炭素、または酸素である)の窒化物、炭化物または酸化物を含む、請求項3から請求項12のいずれか1項に記載の打錠杵又は臼。
前記接着層は、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選択された少なくとも1つを含む金属、または前記金属の酸化物を含む、請求項3から請求項13のいずれか1項に記載の打錠杵又は臼。
前記打錠杵又は臼は、医薬品、農薬、肥料、食品、およびトイレタリ品からなる群から選択された少なくとも1つを打錠するために用いられる、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の打錠杵又は臼。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について説明する。なお、実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0010】
図1に、本発明の打錠装置の一例である実施形態の打錠装置の概略断面図を示す。実施形態の打錠装置11は、上杵14と、下杵16と、上杵14と下杵16との間の臼孔13aを有する臼13と、上杵14を保持するための上杵保持盤15と、下杵16を保持するための下杵保持盤17と、上杵14を案内するための上杵ガイドレール18と、下杵16を案内するための下杵ガイドレール19と、複数の臼13が周方向に所定の間隔を空けて設けられた回転盤12とを備えている。
【0011】
上杵ガイドレール18は、上杵14の上端の頭部14bと接続されて、上杵14を臼孔13aに対して上下動可能に保持している。たとえば、上杵14の下方向への移動により、上杵14の杵先14aは、臼孔13aに近づいていき、臼孔13a内に挿入することができる。また、上杵14の上方向への移動により、上杵14の杵先14aは、臼孔13aから離れていき、臼孔13aから取り出すことができる。
【0012】
下杵ガイドレール19は、下杵16の下端の頭部16bと接続されて、下杵16を臼孔13aに対して上下動可能に保持している。下杵16は、下杵16の上端の杵先16aの打錠表面層20の少なくとも一部が臼孔13a内に存在する範囲で上下動可能であるように配置されている。下杵16が最下端に位置するときには下杵16の杵先16aの少なくとも一部が臼孔13a内に存在しており、下杵16の上方向への移動に伴って臼孔13a内の空間の容積が下杵16の杵先16aの上昇に伴って減少していき、下杵16が最上端に位置したときには下杵16の杵先16aを臼孔13aの上端から突出させることができる。
【0013】
実施形態の打錠装置においては、たとえば以下のようにして、錠剤を打錠することができる。まず、回転盤12と上杵保持盤15と下杵保持盤17との同軸回転駆動によって、上杵14の頭部14bが上杵ガイドレール18に接続されるとともに、下杵16の頭部16bが下杵ガイドレール19に接続される。次に、下杵ガイドレール19によって、下杵16が所定の高さに位置決めされ、下杵16の杵先16aによって臼孔13a内の空間の容積が、打錠に用いられる粉末材料の量に対応した容積となるように設定される。
【0014】
次に、打錠に用いられる粉末材料の量に対応した容積に設定された臼孔13a内の空間内に、打錠のための粉末材料が充填される。次に、上杵ガイドレール18によって、上杵14が下方向に案内されて上杵14の杵先14aが臼孔13aの上端から挿入され、上杵14の杵先14aと下杵16の杵先16aとの間で粉末材料が圧縮されて錠剤が打錠される。
【0015】
また、打錠後の錠剤は、たとえば以下のようにして、実施形態の打錠装置から取り出すことができる。まず、上杵ガイドレール18によって上杵14が上方向に移動して、上杵14の杵先14aが臼孔13a内から取り出される。次に、下杵ガイドレール19によって下杵16が上方向に移動させられ、打錠後の錠剤が下杵16の杵先16aによって臼孔13aの上方に持ち上げられる。その後、臼孔13aの上方に持ち上げられた錠剤を図示しないスクレイパーによって打錠装置の外部に取り出す。
【0016】
実施形態の打錠装置においては、上杵14の杵先14aおよび下杵16の杵先16aの少なくとも一方の基材10の先端に設けられた打錠表面層20が、窒素と4A族元素とを含有する結晶質の酸化イットリウムを含んでいる。そのため、実施形態の打錠装置においては、粉末材料の打錠後に打錠杵又は臼の打錠面に付着する粉末材料の量を低減することができる。なお、4A族元素としては、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選択された少なくとも1種のカチオンを用いることができる。また、打錠表面層20に用いられる酸化イットリウムが結晶質であることは、たとえば、X線回折法、電子線回折法、ラマン分光法、チャネリング法等の一般的な結晶性評価方法により確認することができる。また、打錠表面層20に、窒素と4A族元素とを含有する酸化イットリウムが含まれていることは、たとえば、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって特定することが可能である。
【0017】
本発明者らは、打錠杵又は臼のコーティング材料として、窒素と4A族元素とを含有する結晶質の酸化イットリウムが優れていることを見出した。本発明者らは、これについて以下の通り推察する。
【0018】
たとえば、酸化イットリウム(Y
2O
3)に対して窒素置換(O
2-→N
3-)を行なった場合には、Y−O結合に比して共有結合性が増大し分極緩和されることから、有機物の吸着活性能が低減すると考えられる。
【0019】
しかしながら、酸化イットリウムに対して単に窒素置換(O
2-→N
3-)を行った場合には、結晶構造の電気的中性を維持するためにアニオン空孔(陰イオンの空孔;格子欠陥)が形成される。そして、アニオン空孔が存在する場合には、この空孔に起因して有機物吸着が促進されると考えられる。
【0020】
アニオン空孔の生成を抑制するためには、O
2-よりも価数の1つ大きいN
3-を打ち消すために、Y
3+よりも価数が1つ大きくかつY
2O
3に固溶する、すなわちY
3+を置換する4A族元素のカチオンを酸化イットリウムに添加すればよい。
【0021】
したがって、本実施形態の酸化イットリウムは、イットリウムの一部が4A元素により置換され、酸素の一部が窒素により置換された結晶構造を有する固溶体と考えられる。
【0022】
本実施形態の酸化イットリウ
ムは、4A族元素として、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)およびラザホージウム(Rf)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むことができ、なかでも、特にZrおよびHfの少なくとも一方を含むことができる。
【0023】
本実施形態の酸化イットリウム中の4A族元素のカチオンの置換量(含有量)は、MeO
2に換算して(Meは4A族元素)、0mol%を超えかつ20mol%以下とすることができる。カチオンの置換量が20mol%以下である場合には、酸化イットリウムマトリックスに対して、たとえば、ZrまたはHfが固溶限界以下となり、複合酸化物(酸化イットリウムと酸化ジルコニウムからなる)または酸化ハフニウムが析出しにくくなるため、これらによって粉末材料が付着しやすくなるのをさらに抑制することができる。また、本実施形態の酸化イットリウム中の4A元素のカチオンの置換量は、0mol%を超えかつ10mol%以下とすることができる。
【0024】
以上のことから、本実施形態の酸化イットリウムは、4A族元素として、ZrおよびHfの少なくとも一方を含むことができ、MeO
2に換算して(Meは4A族元素)、0mol%を超えかつ20mol%以下含むことができ、さらには0mol%を超えかつ10mol%以下含むことができる。
【0025】
また、本実施形態の酸化イットリウム中の窒素の含有量は、0.01mol%以上かつ20mol%以下とすることができる。本実施形態の酸化イットリウム中の窒素の含有量が0.01mol%以上である場合には、酸化イットリウム中の窒素の置換量が少なすぎず、粉末材料の付着をさらに抑制することができる。本実施形態の酸化イットリウム中の窒素の含有量が20mol%以下である場合には、酸化イットリウムの結晶構造がさらに安定化するため、粉末材料の付着抑制効果をさらに長期間安定して維持することができる。なお、電気的中性条件を維持するためには、置換可能な最大の窒素量は同じ材料に添加されるカチオン量と等しくなることが好ましいと推測される。粉末材料の付着をさらに抑制することと、酸化イットリウムの結晶構造をさらに安定化することとのバランスを考慮すると、本実施形態の酸化イットリウム中の窒素含有量(窒素イオン(アニオン)濃度)は、0.01mol%以上でかつ10mol%以下とすることができる。
【0026】
また、打錠表面層20に用いられる窒素と4A族元素とを含有する結晶質の酸化イットリウムは、Hg、Ni、Cr、Co、Cu、Sn、Au、Pt、Pd、Sb、Ag、FeまたはZn等のアレルギー誘発性成分となる金属元素や有害金属を含まなくてもよい。
【0027】
図2に、実施形態の打錠装置に用いられる杵先の一例の模式的な拡大断面図を示す。杵先に用いられる基材10としては、たとえば、鉄系の材料(たとえば、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼、合金工具鋼、高速度鋼、プリハードン鋼など)または非鉄系の材料(銅系、アルミニウム系、超硬合金系など)の金属基材を用いることができる。基材10として鉄系の材料または非鉄系の材料を用いた場合には、加工性に優れるとともに、割れや欠けが生じにくくなる傾向にある。
【0028】
基材10として金属基材を用いた場合には、基材10は、たとえば、切削加工または放電加工などの従来の金属加工法により形成することができる。また、酸化イットリウムと、窒素と、4A族元素のカチオンとを含む打錠表面層20は、たとえば、スパッタリングまたはイオンプレーティングなどの物理的蒸着法(PVD)によって基材10の先端の表面上に形成することができる。
【0029】
図2に示す例において、打錠表面層20の厚さは、たとえば0.1μm〜5μm程度とすることができる。また、
図2に示す例において、基材10と打錠表面層20との間に接着層が含まれている場合には、接着層の厚さは、たとえば0.01μm〜1μm程度とすることができる。
【0030】
図3に、実施形態の打錠装置に用いられる杵先の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。
図3に示す例は、基材10と打錠表面層20との間に中間層30を備えている点に特徴がある。中間層30としては、基材10よりも硬度が高く、かつ、打錠表面層20よりも靭性が高い部分を有する層を用いることができる。これにより、打錠表面層20が割れたり、打錠表面層20が基材10から剥離したりするのを抑制することができる。
【0031】
図3に示す例において、中間層30の厚さは、たとえば0.2μm〜5μm程度とすることができる。また、
図3に示す例において、中間層30の厚さは、たとえば0.1μm〜5μm程度とすることができる。
【0032】
図4に、実施形態の打錠装置に用いられる杵先の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。
図4に示す例において、中間層30は、基材10側から、第1の接着層32A、第1の緩衝層31A、第2の緩衝層31B、および第2の接着層32Bがこの順に積層された積層体から構成されている。接着層は、接着層の両面のそれぞれに配置された層間の接着強度を向上させるための層である。緩衝層は、緩衝層の両面のそれぞれに配置された層間の硬さの差および/または靱性の差を緩衝するための層である。なお、接着層が緩衝作用を有する場合もあり、緩衝層が接着作用を有する場合もある。
【0033】
図5に、実施形態の打錠装置に用いられる杵先の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。
図5に示す例において、中間層30は、基材10側から、第1の接着層32A、緩衝層31、および第2の接着層32Bがこの順に積層された積層体から構成されている。
【0034】
図6に、実施形態の打錠装置に用いられる杵先の他の一例の模式的な拡大断面図を示す。
図6に示す例において、中間層30は、基材10側から、第1の接着層32A、第1の緩衝層31A、第2の緩衝層31B、第2の接着層32B、第3の接着層32C、および第4の接着層32Dがこの順に積層された積層体から構成されている。
【0035】
すなわち、緩衝層は、
図4および
図6に示すように、複数層からなるものであってもよく、
図5に示すように単層からなるものであってもよい。接着層も、
図4および
図5に示すように、緩衝層の両面のそれぞれの側において単層からなるものであってもよく、
図6に示すように、緩衝層の一方の面側において複数層、他方の面側において単層からなるものであってもよく、さらに、緩衝層の両面のそれぞれの側において複数層からなるものであってもよい。
【0036】
なお、
図4の中間層30において、実質的に中間層となる緩衝層31A,31Bとの間に単層あるいは複数層からなる接着層を設けてもよい。また、上記緩衝層(実質的な中間層)に他の層との接着層を設けた場合には、上記中間層は接着層を含むものとなる。
【0037】
また、
図5に示す例において、緩衝層31と基材10とを直接的に接合することができる。さらに、
図5に示す例において、緩衝層31と打錠表面層20とを直接的に接合することができる。
【0038】
緩衝層および接着層ともに、たとえば、スパッタリングまたはイオンプレーティングなどの物理的蒸着法(PVD)により形成可能である。
【0039】
緩衝層は、たとえば硬度の低い金属基材等からなる基材10側から硬度の高い打錠表面層20側に向けて高硬度となるように硬度が変化するものとすることができる。たとえば、
図4および
図6のように、積層構造の緩衝層31A,31Bの場合には、打錠表面層20側の緩衝層31Bの硬度を金属基材等からなる基材10側の緩衝層31Aの硬度よりも高くすることにより、少なくとも打錠表面層20側の表面部分において基材10よりも硬度が高くなるように硬度を段階的に変化させることができる。また、
図5に示すように単層構造の緩衝層31の場合には、緩衝層の厚み方向に組成を変化させる(たとえば金属基材等からなる基材10に近づくにつれて窒素濃度を低減する)ことにより、硬度を連続的に変化させることができる。
【0040】
緩衝層は、たとえば、M−A系(Mは、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、アルミニウム、またはシリコンであり、Aは、窒素、炭素、または酸素である。)の窒化物、炭化物、または酸化物からなる。
【0041】
接着層は、たとえば、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、およびシリコンからなる群から選択された少なくとも1つを含む金属、または金属の酸化物を含む層を用いることができる。すなわち、接着層は、たとえば、チタン、クロム、ニッケル、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、シリコンの金属単体やそれらの混合物、または、上記金属単体の酸化物もしくは上記金属を複数含む酸化物からなる。
【0042】
緩衝層を構成する素材および接着層を構成する素材は、適宜選択して組み合わせることが可能である。なお、緩衝層の厚み(合計)は、たとえば0.2μm〜5μm程度とすることができる。
【0043】
なお、「杵」とは、錠剤を打錠する際に錠剤に接する部分を含むものであればよく、たとえば打錠装置に固定される本体部分に対して着脱可能とされた先端部分であってもよい。また、「打錠表面層」とは、打錠時に、打錠される粉末材料と接触する接触面を最表面とする杵又は臼の最表面層を意味する。
【0044】
実施形態の打錠装置の上杵14、下杵16および臼13は、医薬品、農薬、肥料、食品およびトイレタリ品からなる群から選択された少なくとも1つを打錠するために用いることができる。
【0045】
医薬品は、人や動物の疾病の診断、治療または予防を行うために与えられる薬品であり、特に打錠障害を誘引しやすい医薬品としては、たとえば、2−[[6−[(3R)−3−アミノ−1−ピペリジニル]−3,4−ジヒドロ−3−メチル−2,4−ジオキソ−1(2H)−ピリミジニル]メチル]−ベンゾニトリル(一般名:アログリプチン(Alogliptin)またはその塩、イブプロフェン、ビタミンC、アスコルビン酸、またはマレイン酸トリメブチン等を挙げることができるが、これ以外にも様々な医薬品が存在する。
【0046】
なお、本明細書において、「打錠障害」とは、たとえば、スティッキング(杵に粉末が付着する現象)、バインディング(臼と錠剤の摩擦が大きくなる現象)、キャッピング(錠剤が帽子状に剥離する現象)、またはラミネーティング(錠剤が層状に剥離する現象)等の、打錠時に生じる好ましくない現象を意味する。
【0047】
農薬は、農業の効率化または農作物の保存に使用される薬剤であり、農薬としては、たとえば、殺菌剤、防黴剤、殺虫剤、除草剤、殺鼠剤、または植物成長調整剤(たとえば植物ホルモン剤など)等を挙げることができる。
【0048】
肥料は、植物を生育させるための栄養分として、直接的または土壌等を介して間接的に植物に与えるものであり、肥料としては、たとえば、魚粕、骨粉、植物搾油粕等の有機質肥料や、硫安、尿素、硝安、塩安、燐安、過石、重過石、加工燐酸肥料、硫酸加里、または塩化加里等の化学肥料等を挙げることができる。
【0049】
食品は、人間が主に食事で摂取するものであり、食品としては、たとえば、錠菓、サプリメントを含む健康食品、またはカレーのルー等を挙げることができる。
【0050】
トイレタリ品は、身体の洗浄、身嗜み、または嗜好などを目的としたものであり、トイレタリ品としては、たとえば、入浴剤、洗浄剤、非塩素系ヌメリ取り剤、芳香材剤、または防虫剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0051】
<実施例の上杵および下杵の作製>
TSM規格のB−Typeの平錠用の上杵および下杵のそれぞれの基材の先端の直径11.3mmの表面に、PVD法により、窒素と4A族元素とを含有する結晶質の酸化イットリウムを含む打錠表面層を形成することによって、実施例の上杵および下杵を作製した。
【0052】
<比較例の上杵および下杵の作製>
TSM規格のB−Typeの上杵および下杵のそれぞれの先端の表面に硬質クローム(HCr)メッキからなる打錠表面層を形成することによって、比較例の上杵および下杵を作製した。
【0053】
<粉末材料No.1の作製>
主剤としてイブプロフェン(IBU)を20質量%、賦形剤として乳糖を11.1質量%、結合剤としてコーンスターチを4.7質量%、崩壊剤として結晶セルロースを63.2質量%、および流動化剤としてシリカを1質量%含む混合粉末を作製した。そして、この混合粉末100質量部に対して滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを0.5質量部混合することによって、粉末材料No.1を作製した。
【0054】
<粉末材料No.2の作製>
IBUを40質量%、乳糖を8.3質量%、コーンスターチを3.5質量%、結晶セルロースを47.2質量%、およびシリカを1質量%含む混合粉末を作製した。そして、この混合粉末100質量部に対してステアリン酸マグネシウムを0.5質量部混合することによって、粉末材料No.2を作製した。
【0055】
<粉末材料No.3の作製>
IBUを60質量%、乳糖を5.5質量%、コーンスターチを2.3質量%、結晶セルロースを31.2質量%、およびシリカを1質量%含む混合粉末を作製した。そして、この混合粉末100質量部に対してステアリン酸マグネシウムを0.5質量部混合することによって、粉末材料No.3を作製した。
【0056】
上記のようにして作製した粉末材料No.1〜No.3の構成を以下の表1にまとめる。
【0057】
【表1】
【0058】
<上杵および下杵の打錠表面層への粉末材料の付着量確認試験>
株式会社特殊計測製の打錠機(TK−TB−50KN)に、上記のようにして作製した実施例の上杵および下杵を取り付け、実施例の上杵および下杵のそれぞれの打錠表面層を打錠面として粉末材料No.1〜No.3をそれぞれ打錠し、直径11.3mmの表面および厚さ3mmの形状を有する錠剤(質量2g)を作製した。そして、実施例の上杵および下杵のそれぞれの打錠表面層の打錠後(100ショット後)の表面状態を確認した。
【0059】
また、実施例の上杵および下杵に代えて、比較例の上杵および下杵を取り付けたこと以外は上記と同一の方法および条件で、粉末材料No.1〜No.3をそれぞれ打錠して錠剤を作製した。そして、比較例の上杵および下杵のそれぞれの打錠表面層の打錠後(100ショット後)の表面状態を確認した。
【0060】
なお、打錠時の加圧方式は、予圧および本圧の2段階の加圧方式とし、打錠時の荷重は9〜12kNとし、杵の移動速度は70mm/秒とした。当該付着量確認試験の試験条件を以下の表2にまとめる。
【0061】
【表2】
【0062】
図7に、実施例および比較例の上杵および下杵のそれぞれの粉末材料No.1〜No.3の打錠前と100ショット打錠後の打錠表面層の表面状態を示す。
図7に示すように、実施例の上杵の粉末材料No.1の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(b))、粉末材料No.2の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(c))、および粉末材料No.3の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(d))は、それぞれ、実施例の上杵の打錠前の打錠表面層の表面状態(
図7(a))と比べてあまり変化がなかった。特に、粉末材料No.1およびNo.2の打錠後の実施例の上杵の打錠表面層には粉末材料の付着は確認されず、粉末材料No.3の打錠後の
実施例の上杵の打錠表面層にわずかな粉末材料の付着が確認される程度であった。
【0063】
また、実施例の下杵の粉末材料No.1の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(f))、粉末材料No.2の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(g))、および粉末材料No.3の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(h))も、それぞれ、実施例の下杵の打錠前の打錠表面層の表面状態(
図7(e))と比べてあまり変化がなかった。実施例の上杵と同様に、粉末材料No.1およびNo.2の打錠後の実施例の
下杵の打錠表面層には粉末材料の付着は確認されず、粉末材料No.3の打錠後の
実施例の
下杵の打錠表面層にわずかな粉末材料の付着が確認される程度であった。
【0064】
一方、比較例の上杵の粉末材料No.1の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(j))、粉末材料No.2の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(k))、および粉末材料No.3の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(l))は、それぞれ、比較例の上杵の打錠前の打錠表面層の表面状態(
図7(i))と比べて明らかに変化していた。特に、粉末材料No.1の打錠後の比較例の上杵の打錠表面層には白色の膜が付着しており、粉末材料No.2の打錠後の比較例の上杵の打錠表面層には白色の膜の付着と白色の膜への粉末材料の堆積が確認された。また、粉末材料No.3の打錠後の比較例の上杵の打錠表面層には白色の膜の付着と白色の膜への粉末材料の凝集体が確認された。
【0065】
また、比較例の下杵の粉末材料No.1の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(n))、粉末材料No.2の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(o))、および粉末材料No.3の打錠後の打錠表面層の表面状態(
図7(p))も、それぞれ、比較例の下杵の打錠前の打錠表面層の表面状態(
図7(m))と比べて明らかに変化していた。比較例の上杵と同様に、粉末材料No.1の打錠後の比較例の下杵の打錠表面層には白色の膜が付着しており、粉末材料No.2の打錠後の比較例の下杵の打錠表面層には白色の膜の付着と白色の膜への粉末材料の堆積が確認された。また、粉末材料No.3の打錠後の比較例の下杵の打錠表面層には白色の膜の付着と白色の膜への粉末材料の凝集体が確認された。
【0066】
したがって、
図7に示す結果から、実施例の上杵および下杵は、比較例の上杵および下杵と比べて、粉末材料の付着量を低減することができることが確認された。また、
図7に示す結果から粉末材料中のIBUの含有量に比例して、粉末材料の付着量が増大する傾向にあることが確認された。
【0067】
<滑沢剤を含まない粉末材料の打錠後の錠剤の表面状態確認試験>
滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウムを混合しなかったこと以外は粉末材料No.3と同様にして粉末材料No.4を作製した。すなわち、粉末材料No.4は、IBUを60質量%、乳糖を5.5質量%、コーンスターチを2.3質量%、結晶セルロースを31.2質量%、およびシリカを1質量%含む混合粉末であった。
【0068】
そして、株式会社特殊計測製の打錠機(TK−TB−50KN)に、実施例の上杵および下杵を取り付け、実施例の上杵および下杵のそれぞれの打錠表面層を打錠面として粉末材料No.4を連続的に打錠して錠剤を作製した。そして、1ショット、3ショットおよび400ショットの連続打錠後のそれぞれの錠剤の表面状態を確認した。
【0069】
また、実施例の上杵および下杵に代えて、比較例の上杵および下杵を取り付けたこと以外は上記と同一の方法および条件で、粉末材料No.4をそれぞれ連続打錠して錠剤を作製した。そして、1ショット、3ショットおよび30ショットの連続打錠後のそれぞれの錠剤の表面状態を確認した。
【0070】
なお、錠剤の表面状態は、以下のようにして確認した。まず、測定器としてKEYENCE製の「MICRO SCOPE VHX−5000」を用い、同軸落射および照度20の照明条件で、レンズの倍率を20倍として、CCDカメラにより錠剤の表面を撮影した。そして、撮影された錠剤の表面の画像について2値化処理を行い、錠剤の表面の曇り、微小な凹凸および欠落部を暗く表示するとともに、平滑部のみが赤色で表示されるように閾値を設定し、錠剤の表面全体の面積に対する赤色部の面積比率(平滑部の面積比率)[%]を算出することにより行なった。その結果を
図8に示す。
【0071】
図8に示すように、実施例の上杵および下杵を用いて連続打錠した場合には、1ショット、3ショットおよび400ショットの連続打錠後の錠剤の表面の平滑部の面積比率は、それぞれ、71%、70%および80%であり、400ショットの連続打錠後においても錠剤の表面の平滑度が維持されており、錠剤を商品として出荷できるレベルであること(
図8において「OK」と表示)が確認された。
【0072】
一方、
図8に示すように、比較例の上杵および下杵を用いて連続打錠した場合には、1ショット、3ショットおよび30ショットの連続打錠後の錠剤の表面の平滑部の面積比率は、それぞれ、59%、54%および51%であり、3ショットの連続打錠後の錠剤において既に出荷できないレベルであり(
図8において「NG」と表示)、その後、30ショットまで連続打錠した場合でも錠剤の表面の平滑度は回復しないことが確認された。
【0073】
したがって、
図8に示す結果から、実施例の上杵および下杵は、比較例の上杵および下杵と比べて、連続打錠後の錠剤の表面の平滑度を向上させることができ、より長期間の使用が可能であることが確認された。
【0074】
滑沢剤を含まない粉末材料を打錠した場合には、通常、打錠後の錠剤の表面の平滑度は非常に低くなる。それにも関わらず、実施例の上杵および下杵においては、滑沢剤を含まない粉末材料の連続打錠という非常に過酷な条件で上記の平滑度を達成できたということは、実施例の上杵および下杵の打錠表面層は打錠表面として非常に優れていると考えられる。
【0075】
また、上記の錠剤の表面状態確認試験において、連続打錠のそれぞれのショット後に錠剤がスクレーパにより取り出されるが、錠剤の取り出し時にスクレーパにかかる荷重の最大値[N]を測定した。その結果を
図9に示す。なお、
図9においては、横軸が連続打錠のそれぞれのショット数を示し、縦軸がスクレーパの荷重最大値[N]を示している。
【0076】
図9に示すように、連続打錠のいずれのショット数においても、比較例の上杵および下杵を用いた場合のスクレーパの荷重最大値は、実施例の上杵および下杵を用いた場合のスクレーパの荷重最大値よりも低くなっていることが確認された。これは、比較例の上杵および下杵の打錠表面層には打錠後に白い膜が付着していることから、打錠表面層に付着した白い膜と錠剤の表面との摩擦力の最大値がスクレーパの荷重最大値として測定されたものであると考えられる。
【0077】
一方、実施例の上杵および下杵の打錠表面層にはそのような白い膜が付着していないことから、下杵の打錠表面層と錠剤の表面との間の摩擦力の最大値がスクレーパの荷重最大値として測定されたものであると考えられる。
【0078】
<サプリメント錠剤の打錠試験>
主剤としてIBUに代えてアスコルビン酸(ビタミンC剤)を用い、賦形剤としての乳糖と滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム(配合量0.4%)と含む粉末材料を作製して、サプリメント錠剤を打錠する試験を行った。なお、本試験において、粉末材料以外の条件は上記と同様である。
【0079】
この試験おいても、実施例の上杵および下杵を用いた場合には、比較例の上杵および下杵を用いた場合に比較して、良好な打錠を行うことができた。したがって、実施例の上杵および下杵は、比較例の上杵および下杵と比べて、連続打錠後の錠剤の表面の平滑度を向上させることができ、より長期間の使用が可能であることが確認された。
【0080】
以上のように実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0081】
なお、上記の実施形態および実施例においては、窒素と4A族元素とを含有する結晶質の酸化イットリウムを含む打錠表面層が、上杵および下杵の両方に用いられる場合について説明したが、上杵および下杵のいずれか一方のみに用いられてもよく、上杵および/若しくは下杵に代えて、または上杵および/若しくは下杵とともに、臼の粉末材料との接触面の少なくとも一部に用いられてもよい。
【0082】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。