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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6542011
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】周波数シンセサイザ
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/24 20060101AFI20190628BHJP
   H03B 19/14 20060101ALI20190628BHJP
   H03B 9/14 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   H03L7/24
   H03B19/14
   H03B9/14
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-78356(P2015-78356)
(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公開番号】特開2016-15713(P2016-15713A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2018年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-118380(P2014-118380)
(32)【優先日】2014年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501382823
【氏名又は名称】相川 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】恩塚 辰典
(72)【発明者】
【氏名】中川 敦
(72)【発明者】
【氏名】根本 光進
(72)【発明者】
【氏名】宇野 基
(72)【発明者】
【氏名】相川 正義
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−217752(JP,A)
【文献】 特開2003−152455(JP,A)
【文献】 特開2001−144536(JP,A)
【文献】 特開2004−096693(JP,A)
【文献】 特開2003−258556(JP,A)
【文献】 特開2003−133858(JP,A)
【文献】 特開平10−145143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/00− 5/42
H03B 9/14
H03L 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが負性抵抗回路を有し、周波数f互いに同期して発振する3以上の共振器と、
周波数f/m(mは3以上の自然数)の周波数可変の発振信号を発生する発振信号源と、
前記発振信号に基づいて、周波数がf/mのm個の注入信号を生成し、生成した前記m個の注入信号のうち3以上の注入信号を前記3以上の共振器に注入する注入部と、
前記3以上の共振器から周波数nfの高調波信号を抽出する抽出部と、
を備え
前記m個の注入信号のそれぞれの信号間の位相差が2π/mの倍数である、周波数シンセサイザ。
【請求項2】
前記注入部は、前記3以上の共振器が有する3以上の前記負性抵抗回路に前記発振信号を注入する、
請求項1に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項3】
前記注入部は、デューティ比が50%以下の前記3以上の注入信号を前記負性抵抗回路に注入する、
請求項1又は2に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項4】
前記注入部は、前記発振信号の周期の非正弦波形信号を前記注入信号として前記負性抵抗回路に注入する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項5】
前記共振器が、3以上の前記負性抵抗回路を有するスロットリング共振器であり、
前記注入部は、前記3以上の負性抵抗回路に、それぞれ周波数が同一で位相が異なる前記3以上の注入信号を注入する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項6】
前記注入部は、前記発振信号源から入力された前記発振信号と同一の位相の第1注入信号と、前記第1注入信号の位相を反転させた第2注入信号とを含む前記3以上の注入信号を前記共振器に注入する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項7】
前記注入部は、
前記発振信号源から入力された前記発振信号と同一の位相の第1注入信号と、前記第1注入信号と位相がπ/2異なる第2注入信号とを生成するπ/2ハイブリッドと、
前記第1注入信号の位相を互いに逆位相に平衡分岐した第3注入信号を生成する第1バランと、
前記第2注入信号の位相を互いに逆位相に平衡分岐した第4注入信号を生成する第2バランと、
を有する、
請求項に記載の周波数シンセサイザ。
【請求項8】
負性抵抗回路を有し、周波数fで発振する共振器と、
周波数f/m(mは自然数)の周波数可変の発振信号を発生する発振信号源と、
前記発振信号を前記共振器に注入する注入部と、
前記共振器から周波数nfの高調波信号を抽出する抽出部と、
を備え、
前記共振器が、複数の前記負性抵抗回路を有するスロットリング共振器であり、
前記注入部は、前記複数の負性抵抗回路に、それぞれ周波数が同一で2π/mずつ位相がシフトした複数の前記発振信号を注入するために設けられた、
前記発振信号源から入力された前記発振信号と同一の位相の第1発振信号と、前記第1発振信号と位相がπ/2異なる第2発振信号とを生成するπ/2ハイブリッドと、
前記第1発振信号の位相を互いに逆位相に平衡分岐した第3発振信号を生成する第1バランと、
前記第2発振信号の位相を互いに逆位相に平衡分岐した第4発振信号を生成する第2バランと、
を有する、
周波数シンセサイザ。
【請求項9】
負性抵抗回路を有し、周波数fで発振する共振器と、
周波数f/m(mは自然数)の周波数可変の発振信号を発生する発振信号源と、
前記発振信号を前記共振器に注入する注入部と、
前記共振器から周波数nfの高調波信号を抽出する抽出部と、
を備え、
前記共振器が、
直線状の第1スロットラインと、
前記第1スロットラインに設けられた負性抵抗回路と、
周波数nfの波長をλとした場合に、前記負性抵抗回路の両端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた2つの位置において前記第1スロットラインと交差する第2スロットラインと、
を有し、
前記注入部は、前記負性抵抗回路に前記発振信号を注入する
周波数シンセサイザ。
【請求項10】
前記共振器が、前記第1スロットラインに設けられた第1負性抵抗回路及び第2負性抵抗回路と、
前記第1負性抵抗回路の一端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた位置、及び前記第2負性抵抗回路の一端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた位置において前記第1スロットラインと交差する第2スロットラインと、
を有し、
前記注入部は、前記第1負性抵抗回路及び前記第2負性抵抗回路に、それぞれ周波数及び位相が同一の前記発振信号を注入する、
請求項に記載の周波数シンセサイザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯以上の周波数の高周波信号を出力する周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
周波数可変のサブハーモニック注入信号を発振波動場に入力し、発振波動場において同期発振させることにより周波数可変の高周波信号を生成する周波数シンセサイザが知られている。非特許文献1には、広帯域アクティブ分配合成回路で構成された正帰還型発振器に、分配合成回路を介してサブハーモニック注入信号を入力することにより、高周波信号を出力する周波数シンセサイザが開示されている。
【0003】
図14は、従来の周波数シンセサイザ800の構成を示す図である。周波数シンセサイザ800は、周波数可変の注入信号源810と、分配合成回路820と、正帰還型発振器830と、負荷840とを有する。注入信号源810から出力された周波数f/m(mは自然数)のサブハーモニック注入信号は、分配合成回路820を介して正帰還型発振器830に入力される。正帰還型発振器830は、サブハーモニック注入信号のm倍の周波数fの発振信号を生成して、分配合成回路820を介して負荷840へと出力する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鴨川、外2名、「11GHz帯サブハーモニック注入ロック発振器MMIC」、電子情報通信学会英文論文誌(エレクトロニクス)、1995年8月、第8号、p.925−930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の周波数シンセサイザにより、サブハーモニック注入信号の整数倍の発振信号を生成することはできる。しかしながら、この周波数シンセサイザにおいては、正帰還ループ発振回路へサブハーモニック信号を注入して同期引き込みを行わせるために、引き込み帯域が狭いという問題があった。特に、サブハーモニック次数mが大きくなればなるほど同期幅が狭くなるとともに、大きな電力のサブハーモニック注入信号を入力する必要があった。したがって、サブハーモニック次数mを十分に大きくすることが困難であり、ミリ波、短ミリ波、テラヘルツ波のような超高周波帯に適用可能な注入同期形周波数シンセサイザを実現することができなかった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、注入同期信号の周波数に対する発振信号の周波数の比を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、負性抵抗回路を有し、周波数fで発振する共振器と、周波数f/m(mは自然数)の周波数可変の発振信号を発生する発振信号源と、前記発振信号を前記共振器に注入する注入部と、前記共振器から周波数nfの高調波信号を抽出する抽出部と、を備える周波数シンセサイザを提供する。
【0008】
前記注入部は、例えば、前記共振器が有する前記負性抵抗回路に前記発振信号を注入する。前記注入部は、デューティ比が50%以下の前記発振信号を前記負性抵抗回路に注入してもよい。あるいは、前記注入部は、前記発振信号の周期の非正弦波形信号を前記負性抵抗回路に注入してもよい。
【0009】
前記共振器が、複数の前記負性抵抗回路を有するスロットリング共振器であり、前記注入部は、前記複数の負性抵抗回路に、それぞれ周波数が同一で位相が異なる前記発振信号を注入してもよい。
【0010】
前記注入部は、それぞれ2π/mずつ位相がシフトした複数の前記発振信号を前記複数の負性抵抗回路に注入してもよい。前記注入部は、例えば、前記発振信号源から入力された前記発振信号と同一の位相の第1発振信号と、前記第1発振信号の位相を反転させた第2発振信号とを前記共振器に注入する。
【0011】
また、前記注入部は、前記発振信号源から入力された前記発振信号と同一の位相の第1発振信号と、前記第1発振信号と位相がπ/2異なる第2発振信号とを生成するπ/2ハイブリッドと、前記第1発振信号を互いに逆位相に平衡分岐した第3発振信号を生成する第1バランと、前記第2発振信号を互いに逆位相に平衡分岐した第4発振信号を生成する第2バランと、を有してもよい。
【0012】
また、前記共振器が、周長が周波数nfの波長λに等しい閉ループのスロットラインと、前記スロットラインに設けられた複数の負性抵抗回路と、を有し、前記注入部は、前記複数の負性抵抗回路に、それぞれ周波数及び位相が同一の前記発振信号を注入してもよい。
【0013】
また、前記共振器が、直線状の第1スロットラインと、前記第1スロットラインに設けられた負性抵抗回路と、周波数nfの波長をλとした場合に、前記負性抵抗回路の両端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた2つの位置において前記第1スロットラインと交差する第2スロットラインと、を有し、前記注入部は、前記負性抵抗回路に前記発振信号を注入してもよい。
【0014】
前記共振器が、前記第1スロットラインに設けられた第1負性抵抗回路及び第2負性抵抗回路と、前記第1負性抵抗回路の一端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた位置、及び前記第2負性抵抗回路の一端から前記第1スロットラインに沿ってλ/4離れた位置において前記第1スロットラインと交差する第2スロットラインと、を有し、前記注入部は、前記第1負性抵抗回路及び前記第2負性抵抗回路に、それぞれ周波数及び位相が同一の前記発振信号を注入してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、注入同期信号の周波数に対する発振信号の周波数の比を大きくすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1〜第3の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成の概要を示す模式図である。
図2】第1の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図3】第2の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図4】第3の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図5】第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図6】第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図7】第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図8】第4〜第6の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成の概要を示す模式図である。
図9】並列移相処理回路の構成を示す図である。
図10】位相が異なる複数の発振信号を共振回路に注入する場合の構成を示す模式図である。
図11】第4の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図12】第5の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図13】第6の実施形態に係る周波数シンセサイザの構成を示す図である。
図14】従来の周波数シンセサイザの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1〜第3の実施形態の概要>
図1は、第1〜第3の実施形態に係る周波数シンセサイザ100の構成の概要を示す模式図である。周波数シンセサイザ100は、発振信号源10と、注入信号処理回路20と、負性抵抗素子あるいは負性抵抗回路を装荷した共振回路30と、出力部40と、出力ポート50(出力ポート50−1、出力ポート50−2)とを備える。
【0018】
発振信号源10は、周波数可変の発振信号を発生する。発振信号源10は、例えば、周波数シンセサイザ100が出力する高調波信号の周波数nf(nは自然数)の1/mn倍の周波数f/m(mは自然数)の発振信号を発生する周波数シンセサイザである。発振信号源10は、発生した発振信号を注入信号処理回路20へと出力する。
【0019】
注入信号処理回路20は、共振回路30が有する負性抵抗回路32及び負性抵抗回路33に発振信号を注入する。具体的には、注入信号処理回路20は、発振信号源10が発生した発振信号のデューティ比を50%以下に形成し、形成後の発振信号を注入する。注入信号処理回路20が、発振信号のデューティ比を例えば1/2mに調整することにより、負性抵抗回路32及び負性抵抗回路33に注入する発振信号に含まれる共振回路30の発振周波数fの成分を大きくすることができる。あるいは、注入信号処理回路20が、例えば共鳴トンネルダイオードなどの高速高周波デバイスを用いた非線形信号処理で生成したf/m周期の非正弦波信号を注入信号としても同じ効果が期待できる。
【0020】
共振回路30は、注入信号処理回路20から注入された発振信号のm倍の周波数fで選択的に共振して発振波動場を発生する。共振回路30は、スロットライン31と、負性抵抗回路32及び負性抵抗回路33など複数の負性抵抗回路とを有する。スロットライン31は、例えば、周長が周波数fの波長λに等しいスロットラインにより構成される。各負性抵抗回路は、負性抵抗を有するガンダイオード等の2端子素子、又はHEMT等の3端子素子から構成される負性抵抗回路・ICである。各負性抵抗回路がスロットライン31と交差するように並列装荷されていることにより、共振回路30は周波数fの発振波動場を発生する。
【0021】
出力部40は、共振回路30が発生した周波数fの共振波動場から、周波数nfの高調波信号を抽出し、抽出した高調波信号を出力ポート50へと出力する。出力部40は、共振回路30の発振波動場に基づいた任意の形態を有してよい。具体的な形態については、以下の実施形態に係る図面を参照して説明する。
【0022】
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態に係る周波数シンセサイザ200の構成を示す図である。周波数シンセサイザ200は、発振信号源10と、注入信号処理回路20と、スロットライン311と、負性抵抗回路321と、負性抵抗回路331と、マイクロストリップライン21(以下、マイクロストリップラインをMSLという)と、MSL22と、MSL41と、MSL42とを有する。スロットライン311は、周長が高調波信号の周波数fの波長λに等しい円形のスロットラインであり、基板の裏面に形成されている。周波数シンセサイザ200においては、スロットライン311と、スロットライン311と交差して電磁結合した負性抵抗回路321及び負性抵抗回路331とにより、Push-Push型のスロットリング発振器が構成されている。
【0023】
注入信号処理回路20と負性抵抗回路321とは、基板の表面に形成されたMSL21により接続されている。また、注入信号処理回路20と負性抵抗回路331とは、基板の表面に形成されたMSL22により接続されている。
【0024】
注入信号処理回路20は、発振信号源10から入力された発振信号のデューティ比を調整するとともに、負性抵抗回路321及び負性抵抗回路331に対して、それぞれ異なる位相の発振信号を出力する。具体的には、この回路では周波数fでPush-Push発振するので、注入信号処理回路20は、周波数f/mにおいて、負性抵抗回路321に注入する発振信号の位相と負性抵抗回路331に注入する発振信号の位相とが逆位相になるようにする。
【0025】
MSL41及びMSL42は、スロットライン311と交差するように、基板の表面に形成されている。また、MSL41及びMSL42は、互いに交差するように形成されている。スロットライン311、負性抵抗回路321、負性抵抗回路331、MSL41及びMSL42により、Push-Push発振器が構成され、MSL41とMSL42との交点から、fの4倍の周波数を取り出すことができる。
【0026】
例えばf=20GHz、m=4と設定した場合、発振信号源10が出力する発振信号の周波数は、5GHzである。注入信号処理回路20において短パルス化などの波形処理をした2つの5GHz帯周期信号の位相差は、Δθ=2π/m=π/2である。そして、周波数シンセサイザ200は、4f=80GHzの高調波信号を出力する。
【0027】
以上のとおり、第1の実施形態に係る周波数シンセサイザ200においては、汎用の5GHzの周波数シンセサイザを用いて、その16倍の周波数の高調波信号を出力することができる。このようにして、周波数シンセサイザ200は、簡易な構成で、従来よりも高次の高調波に対して広い同期幅を確保することができる。
【0028】
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態に係る周波数シンセサイザ300の構成を示す図である。周波数シンセサイザ300は、発振信号源10と、注入信号処理回路20と、スロットライン312と、ガンダイオード322と、ガンダイオード332と、スロットライン43とを備える。注入信号処理回路20とガンダイオード322とはMSL23により電磁結合接続されており、注入信号処理回路20とガンダイオード332とはMSL24により電磁結合されている。
【0029】
ガンダイオード322及びガンダイオード332は、スロットライン312と交差するように設けられている。本実施形態における注入信号処理回路20は、MSL23及びMSL24を介して、ガンダイオード322及びガンダイオード332に、それぞれ位相が同一であり、かつデューティ比が50%よりも小さい(例えば、1/2m)発振信号を注入する。あるいは、超高速高周波素子を用いた波形生成技術によって高調波成分を含む周期性非正弦信号を注入信号としてもよい。あるいは、注入信号処理回路20は信号分岐機能のみとして、波形処理をしていない正弦波信号をガンダイオード322及びガンダイオード332へ注入してもよい。
【0030】
スロットライン312は、周波数nfにおける波長をλとした時にλと等しい周長を有している。基本発振周波数がfであるガンダイオード322及びガンダイオード332は非線形性が強いので、周波数nf成分を抽出することができる。
【0031】
スロットライン43は、スロットライン312において、偶数倍波の高調波、すなわち周波数2k×nf(kは自然数)の高調波信号の電流が最大となる位置の近傍に形成されている。スロットライン43とスロットライン312とは磁界結合しており、スロットライン43からは、周波数2k×nfの高次高調波信号が出力される。
【0032】
以上のとおり、第2の実施形態に係る周波数シンセサイザ300は、注入信号処理回路20が、ガンダイオード322及びガンダイオード332に、それぞれ位相が同一であり、かつデューティ比が50%よりも小さい発振信号あるいは高次高調波成分を含む周期性非正弦波信号、あるいは正弦波信号を注入する。したがって、周波数シンセサイザ300は、第1の実施例(図2)とは異なり、移相処理不要の簡易な構成により、高次の高調波信号を出力することができる。
【0033】
<第3の実施形態>
図4は、第3の実施形態に係る周波数シンセサイザ400の構成を示す図である。周波数シンセサイザ400は、発振信号源10と、注入信号処理回路20と、スロットライン313と、ガンダイオード323と、ガンダイオード333と、スロットライン44と、スロットライン45とを備える。注入信号処理回路20とガンダイオード323とは、MSL25により電磁結合されている。また、注入信号処理回路20とガンダイオード333とは、MSL26により電磁結合されている。
【0034】
スロットライン313は、周波数nfにおける波長をλとした時の長さが3λ/2である。MSL25は、スロットライン313の一端からλ/2の位置に設けられており、MSL26は、スロットライン313の他端からλ/2の位置に設けられている。
【0035】
スロットライン34は、スロットライン313の両端からλ/4の位置を通るように形成されている。スロットライン34とスロットライン313とで囲まれた領域にバイアス電圧を印加することによりガンダイオード323及びガンダイオード333が動作し、スロットライン313に周波数nfの高調波信号が発生する。図4における矢印は、所定のタイミングで発振電界が最大になる位置を示している。
【0036】
スロットライン44及びスロットライン45は、それぞれスロットライン313の異なる端部の近傍に形成されている。スロットライン313とスロットライン44との間にはギャップが設けられており、スロットライン313とスロットライン44とが磁界結合することで、スロットライン44は、周波数nfの高調波信号を出力する。同様に、スロットライン313とスロットライン45との間にはギャップが設けられており、スロットライン313とスロットライン45は磁界結合しており、スロットライン45は、周波数nfの高調波同期信号を出力する。
【0037】
図5は、第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザ500の構成を示す図である。周波数シンセサイザ500は、図4に示した周波数シンセサイザ400におけるスロットライン44及びスロットライン45の代わりに、MSL46及びMSL47を有する。MSL46及びMSL47は、スロットライン313における電界が最大となる位置、すなわちガンダイオード323及びガンダイオード333からλ/4の位置において、スロットライン313が形成されている面と反対側の面に形成されている。MSL46及びMSL47は、基板の反対側の面において、スロットライン34の少なくとも一部と重なるように形成されている。MSL46及びMSL47は、スロットライン34と電界結合することにより、周波数nfの同期した高調波信号を出力することができる。
【0038】
図6は、第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザ600の構成を示す図である。周波数シンセサイザ600は、図5に示した周波数シンセサイザ500におけるMSL46及びMSL47の代わりに、スロットライン48及びスロットライン49を有する。スロットライン48及びスロットライン49は、2倍波の電流が最大となる位置、すなわちガンダイオード323及びガンダイオード333からλ/4の位置において、スロットライン313の近傍に形成されている。スロットライン48及びスロットライン49は、スロットライン313と磁界結合することにより、周波数2nfの高次高調波信号を出力することができる。
【0039】
図7は、第3の実施形態の変形例としての周波数シンセサイザ700の構成を示す図である。周波数シンセサイザ700は、長さがλのスロットライン314を有しており、スロットライン314と交差するように1個のガンダイオード324が設けられている点で、図6に示した周波数シンセサイザ600と異なる。スロットライン48及びスロットライン49は、ガンダイオード324からλ/4の位置に設けられており、周波数2nfの高調波信号を出力することができる。
【0040】
以上のとおり、第3の実施形態に係る周波数シンセサイザ400、500、600、700においては、直線状のスロットラインにガンダイオードを設けた簡易な構成により、高次の高調波信号を出力することができる。
【0041】
<第4〜第6の実施形態の概要>
図8は、第4〜第6の実施形態に共通する周波数シンセサイザ1000の構成の概要を示す模式図である。周波数シンセサイザ1000は、発振信号源10と、並列移相処理回路を含んで構成される注入信号処理回路70と、負性抵抗素子又は負性抵抗回路61〜64(以下、「負性抵抗素子61〜64」という)を装荷した共振回路30と、出力部40とを備える。注入信号処理回路70は、発振信号源10から入力された発振信号に基づいて、それぞれ位相がΔθ=2π/mずつ異なる複数の同期信号を出力する点で、図1に示した注入信号処理回路20と異なる。
【0042】
図9は、注入信号処理回路70の構成を示す図である。図9(a)に示すように、注入信号処理回路70は、並列移相処理部71と、波形処理部72とを有する。
【0043】
図9(b)は、並列移相処理部71が出力する、それぞれ位相が異なる発振信号である。図9(b)に示す発振信号の周期Tは、T=m/fであり、それぞれの発振信号は、互いに1/fずつシフトしており、位相差Δθは、Δθ=2π/mである。図9(c)は、波形処理部72が短パルス化処理をして得られた発振信号である。図9(c)に示すような発振信号が、図8に示す負性抵抗素子61〜64のそれぞれに注入される。
【0044】
負性抵抗素子61〜64のそれぞれに、Δθ=2π/mずつ位相がずれて同期した発振信号が注入される場合、注入されるそれぞれの発振信号に含まれる共振回路30の発振周波数fの成分の位相が同一である。したがって、共振回路30は、注入信号処理回路70から注入された発振信号のm倍の周波数fで選択的に共振して発振波動場を発生することができる。なお、このm値と注入ポート数Mは必ずしも一致させる必要はない。また、波形処理は行わず、並列移相処理のみの正弦波信号を、直接、共振回路30へ注入してもよい。
【0045】
図10は、位相が異なる複数の発振信号を共振回路30に注入する場合の構成を示す模式図である。図10(a)は、互いに逆位相の2つの発振信号を共振回路30に注入する場合の構成を示している。発振信号源10から出力された発振信号は、第1の系(#1)においては、そのまま共振回路30に注入され、第2の系(#2)においては、位相反転器において位相が反転されてから共振回路30に注入される。この場合、m=2となり、2つの発振信号の位相差Δθは、πとなる。なお、位相反転器の代わりに、バランを使用することもできる。
【0046】
図10(b)は、それぞれ位相がπ/2ずつずれた4つの発振信号を共振回路30に注入する場合の構成を示している。π/2ハイブリッド74は、発振信号源10から出力された発振信号に基づいて、π/2だけ位相がずれた2つの発振信号を生成し、π/2ハイブリッド74が生成したそれぞれの発振信号は、2つのバラン73に入力される。このようにすることで、2つのバラン73から、それぞれ位相がπ/2ずつずれた4つの発振信号が出力される。
以下、第4〜第6の実施形態について説明する。
【0047】
<第4の実施形態>
図11は、第4の実施形態に係る周波数シンセサイザ1100の構成を示す図である。周波数シンセサイザ1100は、発振信号源1110と、バラン1120と、スロットライン1130と、スロットライン1140と、ガンダイオード1150と、ガンダイオード1160と、を有する。
【0048】
スロットライン1130は、図3におけるスロットライン312に対応しており、周波数nfにおける波長をλとした時にλと等しい周長を有している。スロットライン1140は、スロットライン1130において、偶数倍波の高調波、すなわち周波数2k×nf(kは自然数)の高調波信号の電流が最大となる位置の近傍に形成されている。
【0049】
発振信号源1110から出力された周波数f/2の発振信号は、バラン1120において、位相0の第1発振信号と位相πの第2発振信号とに変換される。第1発振信号はガンダイオード1150に注入され、第2発振信号はガンダイオード1160に注入される。ガンダイオード1150及びガンダイオード1160は、基本発振周波数がnfであり、スロットライン1130からは、周波数2nfの高次高調波信号が出力される。
【0050】
例えば、出力周波数として2nf=80GHzの発振信号を出力させたい場合、n=2とすると、f=20GHzとなる。さらにm=2とすると、f/m=10GHzとなる。すなわち、周波数シンセサイザ1100は、10GHz帯の発振信号を出力する発振信号源1110を用いて、80GHz帯の発振信号を出力することができる。
【0051】
<第5の実施形態>
図12は、第5の実施形態に係る周波数シンセサイザ1200の構成を示す図である。周波数シンセサイザ1200は、発振信号源1210と、π/2ハイブリッド1220と、バラン1230と、バラン1240と、スロットライン1250と、スロットライン1260と、ガンダイオード1270〜1274とを有する。
【0052】
スロットライン1250は、周波数fにおける波長をλとしたときに、5λ/4の周長を有している。スロットライン1260は、スロットライン1250において、偶数倍波の高調波の電流が最小となる位置の近傍に形成されており、スロットライン1260とスロットライン1250とは磁界結合する。
【0053】
発振信号源1210から出力された周波数f/4の発振信号は、π/2ハイブリッド1220において、位相π/2の第1発振信号と位相0の第2発振信号とに変換される。第1発振信号はバラン1230に入力され、バラン1230からは、位相π/2の第1発振信号と、位相3π/2の第3発振信号とが出力される。第2発振信号はバラン1240に入力され、バラン1240からは、位相0の第2発振信号と、位相πの第4発振信号とが出力される。これら4つの信号は、スロットライン1250上の2f波動場へ注入される。このような構成により、スロットライン1260上の2f波動場から、その2倍周波数4fの高次高調波信号が出力される。
【0054】
例えば、出力周波数として4f=80GHzの発振信号を出力させたい場合、f=20GHzとなる。さらにm=4とすると、f/m=5GHzとなる。すなわち、周波数シンセサイザ1200は、5GHz帯の発振信号を出力する発振信号源1210を用いて、80GHz帯の発振信号を出力することができる。
【0055】
<第6の実施形態>
図13は、第6の実施形態に係る周波数シンセサイザ1300の構成を示す図である。周波数シンセサイザ1300は、発振信号源1310と、π/2ハイブリッド1320と、バラン1330と、バラン1340と、スロットライン1350と、スロットライン1360と、ガンダイオード1371〜1374とを有する。
【0056】
スロットライン1350は、周波数fにおける波長をλとしたときに、λの周長を有している。スロットライン1360は、スロットライン1350において、偶数倍波の高調波の電流が最大となる位置の近傍に形成されており、スロットライン1360とスロットライン1350とは磁界結合する。
【0057】
発振信号源1310から出力された周波数f/4の発振信号は、π/2ハイブリッド1320において、位相π/2の第1発振信号と位相0の第2発振信号とに変換される。第1発振信号はバラン1330に入力され、バラン1330からは、位相π/2の第1発振信号と、位相3π/2の第3発振信号とが出力される。第2発振信号はバラン1340に入力され、バラン1340からは、位相0の第2発振信号と、位相πの第4発振信号とが出力される。第1発振信号はガンダイオード1371に注入され、第2発振信号はガンダイオード1372に注入され、第3発振信号はガンダイオード1373に注入され、第4発振信号はガンダイオード1374に注入される。このような構成により、スロットライン1360上の2f波動場から、その2倍周波数4fの高次高調波信号が出力される。
【0058】
例えば、出力周波数として4f=80GHzの発振信号を出力させたい場合、f=20GHzとなる。さらにm=4とすると、f/m=5GHzとなる。すなわち、周波数シンセサイザ1300は、5GHz帯の発振信号を出力する発振信号源1310を用いて、80GHz帯の発振信号を出力することができる。
【0059】
[本実施形態における効果]
以上説明したとおり、本実施形態に係る周波数シンセサイザは、信号処理したサブハーモニック信号を、共振波動場を形成する負性抵抗回路あるいは負性抵抗素子に直接注入し、共振波動場からその高調波信号を選択的に抽出する。このようにすることで、周波数シンセサイザは、低周波数帯(例えば、数GHz帯)の可変周波数信号源を用いてミリ波、短ミリ波、テラヘルツ波等の超高周波帯の高次高調波信号を出力することができる。
【0060】
本実施形態に係る周波数シンセサイザは、高次高調波発振をするとともに、比較的低Qの共振系に装荷した負性抵抗を直接励振して注入同期するので、広帯域の同期引き込み特性を有しており、同時に良好な不要波抑圧性能と安定性を有する。
【0061】
また、本実施形態に係る周波数シンセサイザは、サブハーモニック信号を注入することにより多素子が同期して発振するので、低雑音特性を有するとともに、比較的大きな高調波信号電力を出力することができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0063】
10・・・発振信号源
20・・・注入信号処理回路
21、22、23、41、42、・・・マイクロストリップライン(MSL)
30・・・共振回路
31、34、43、44、45、48、49・・・スロットライン
32、33・・・負性抵抗回路
40・・・出力部
50・・・出力ポート
61〜64・・・負性抵抗素子
70・・・注入信号処理回路
71・・・並列移相処理部
72・・・波形処理部
73・・・バラン
100、200、300・・・周波数シンセサイザ
311、312、313、314・・・スロットライン
321・・・負性抵抗回路
322、323、324・・・ガンダイオード
331・・・負性抵抗回路
332、333・・・ガンダイオード
400、500、600、700・・・周波数シンセサイザ
810・・・注入信号源
820・・・分配合成回路
830・・・正帰還型発振器
840・・・負荷
1000、1100、1200、1300・・・周波数シンセサイザ
1110、1210、1310・・・発振信号源
1120、1230、1240、1330、1340・・・バラン
1220、1320・・・π/2ハイブリッド
1130、1140、1250、1260、1350、1360・・・スロットライン
1150、1160、1270〜1274、1371〜1374・・・ガンダイオード

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14