特許第6542070号(P6542070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6542070
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】エマルジョン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/442 20060101AFI20190628BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20190628BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20190628BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20190628BHJP
   C08F 283/12 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C08G77/442
   C08L51/08
   C08F2/44 C
   C08L83/10
   C08F283/12
   C08F2/44 B
【請求項の数】5
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-162050(P2015-162050)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-39838(P2017-39838A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】壹岐 康司
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−224177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/442
C08F 2/44
C08F 283/12
C08L 51/08
C08L 83/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分を、単量体成分として含む共重合体と、水
とを含むエマルジョンであって、
下記式(2)にて定義される、(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメ
ント量が、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%
以下であるエマルジョン。
(A):下記式(1)で表される有機シラン化合物
【化1】
(式(1)中、R1はフェニル基又はシクロヘキシル基、R2は水素原子又は炭素数1〜8
の脂肪族炭化水素基、R3はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルコキシ基、アセトキ
シ基、又は水酸基を示し、(n,m)は(0,1)、(0,2)、(1,0)及び(2,
0)からなる組群より選ばれる少なくとも一種である)

(B):下記(b1)、(b2)のエチレン性不飽和単量体(エチレン性不飽和基を有す
る有機シラン化合物を除く。)、
(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体、
(b2)不飽和カルボン酸単量体、

(C):エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物

【数1】
(式(2)中のDは、(A)成分の前記式(1)において、R3が4−(n+m)=2の
場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である

Tは、前記式(1)においてR3が4−(n+m)=3の場合での29Si固体NMRス
ペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
D及びTの添え字数字は、それぞれのSi−O結合手数を表す)。
【請求項2】
前記(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物が、
γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキ
シシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピ
ルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランからなる群
より選ばれる、1種又は2種以上である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記(A)成分の、
前記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計に対する含有比率が5質量%以上
90質量%以下である、請求項1又は2に記載のエマルジョン。
【請求項4】
(D):界面活性剤を、さらに含有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエマ
ルジョン。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエマルジョンの製造方法であって、
前記(A)成分の加水分解縮合反応と、
前記(B)成分の付加重合反応と、
前記(C)成分の加水分解縮合反応及び付加重合反応と、
を、pH1.5以上2.4以下で行う重合工程と、
副生アルコールを除去する工程と、
pH10以上にて加熱し、前記(A)成分の縮合反応を行う加熱処理工程と、
を、有する、
エマルジョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乳化重合により得られる水性エマルジョンは、常温又は加熱下で乾燥形成した皮膜が比較的良好な耐久性を示すことから、水性塗料用の樹脂として多く用いられている。
一方、近年、より長期での耐候性能を有する塗料が要求されており、アクリルポリマーに代表される有機ポリマーとシラン化合物とを複合させた有機−無機ポリマーが提案され、商品化されている。
また、さらに30年から100年もの超高耐久性を実現した住宅も提案されており、その外壁塗装用途の塗料として、シラン化合物の比率を高めた有機−無機複合ポリマーの開発が進められている。
【0003】
上述したような事情のもと、特許文献1には、ポリシロキサンを複合化したエマルジョンが開示されている。
また、特許文献2及び3には、ポリシロキサンを複合化したエマルジョンであって、ポリシロキサンとして特定の有機シラン化合物から得られるものを用いたエマルジョンが開示されている。
さらに、特許文献4〜7には、フェニル基又はシクロアルキル基を有するシラン化合物を用いた高耐久エマルジョンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−093071号公報
【特許文献2】特開平08−003409号公報
【特許文献3】特開2000−319579号公報
【特許文献4】特開2006−273919号公報
【特許文献5】特開2008−38113号公報
【特許文献6】特開2009−7513号公報
【特許文献7】特開2010−59379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性エマルジョン塗料を外壁塗装用途に用いる場合、壁面でのタレ防止の観点や、意匠による凹凸部の被覆状態に適した粘度特性を得る観点から塗料配合が行われる。
塗装工程中に塗料の粘度が変化すると、壁面でのタレや凹凸部の被覆不良が発生するおそれがあるため、配合時の粘度特性を維持できる経時安定性に優れたエマルジョンが求められている。
しかしながら、従来、有機シラン化合物を使用して得られたエマルジョンは経時安定性に劣るものが多く、特に、エマルジョン粒子が経時的に肥大し、粘度変化を引き起こすという問題を有している。
さらに、肥大化したエマルジョン粒子を含有する塗料から得られる塗膜は、造膜時に細密充填構造を形成できないため、吸水白化性能、及び応力特性等の性能低下を生じるおそれがあるという問題を有している。
【0006】
特許文献1〜7に開示されている従来の塗装皮膜はいずれも、耐候性能向上に関する記述はあっても、ポリシロキサンを複合化したエマルジョンにおける経時安定性、特に粒子径の変化がもたらす、粘度変化及び塗膜性能の低下については言及されておらず、改良の余地を有している。
【0007】
そこで本発明においては、経時でのエマルジョン粒子の粒子径の肥大化が抑制され、経時での粘度変化が少なく経時安定性に優れ、かつ経時後においても吸水白化性能、及び応力特性等の塗膜性能低下が防止されたエマルジョンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した従来技術の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリシロキサンを複合化したエマルジョンにおける経時安定性に影響を与える因子として、有機シラン化合物の加水分解縮合反応後の未縮合のシラノール基と粒子径の変化に相関があることを見出し、かつ29Si固体NMRスペクトルで同定され、定量される加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量を所定の範囲に特定することにより、経時でのエマルジョン粒子の粒子径の肥大化が抑制され、経時での粘度変化が少なく経時安定性に優れ、かつ経時後においても吸水白化性能、及び応力特性等の塗膜性能低下が防止されたエマルジョンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0009】
〔1〕
下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分を、単量体成分として含む共重合体と、水とを含むエマルジョンであって、
下記式(2)にて定義される、(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量が、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%以下であるエマルジョン。
(A):下記式(1)で表される有機シラン化合物
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中、R1はフェニル基又はシクロヘキシル基、R2は水素原子又は炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、R3はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルコキシ基、アセトキシ基、又は水酸基を示し、(n,m)は(0,1)、(0,2)、(1,0)及び(2,0)からなる組群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0012】
(B):下記(b1)、(b2)のエチレン性不飽和単量体(エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物を除く。)、
(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体、
(b2)不飽和カルボン酸単量体、
(C):エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物
【0013】
【数1】
【0014】
(式(2)中のDは、(A)成分の前記式(1)において、R3が4−(n+m)=2の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
Tは、前記式(1)においてR3が4−(n+m)=3の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。D及びTの添え字数字は、それぞれのSi−O結合手数を表す。)
【0015】
〔2〕
前記(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物が、
γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキ
シシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピ
ルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランからなる群
より選ばれる、1種又は2種以上である、前記〔1〕に記載のエマルジョン。
〔3〕
前記(A)成分の、
前記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計に対する含有比率が5質量%以上
90質量%以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のエマルジョン。
〔4〕
(D):界面活性剤を、さらに含有する、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の
エマルジョン。
〔5〕
前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のエマルジョンの製造方法であって、
前記(A)成分の加水分解縮合反応と、
前記(B)成分の付加重合反応と、
前記(C)成分の加水分解縮合反応及び付加重合反応と、
を、pH1.5以上2.4以下で行う重合工程と、
副生アルコールを除去する工程と、
pH10以上にて加熱し、前記(A)成分の縮合反応を行う加熱処理工程と、
を、有する、
エマルジョンの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、経時でのエマルジョン粒子の粒子径の肥大化が抑制され、経時での粘度変化が少なく経時安定性に優れ、かつ経時後においても吸水白化性能、及び応力特性等の塗膜性能低下が防止されたエマルジョンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1のエマルジョンの29Si固体NMRスペクトルを示す。
図2】実施例1のエマルジョンの経時安定性の評価結果を示す。
図3】比較例1のエマルジョンの経時安定性の評価結果を示す。
図4】比較例2のエマルジョンの経時安定性の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0019】
〔エマルジョン〕
本実施形態のエマルジョンは、
下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分を、単量体成分として含む共重合体と、水とを含むエマルジョンである。
また、本実施形態のエマルジョンは、下記式(2)にて定義される(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量が、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%以下である。
(A):下記式(1)で表される有機シラン化合物
【0020】
【化2】
【0021】
(式(1)中、R1はフェニル基又はシクロヘキシル基、R2は水素原子又は炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、R3はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルコキシ基、アセトキシ基、又は水酸基を示し、(n,m)は(0,1)、(0,2)、(1,0)及び(2,0)からなる組群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0022】
(B):エチレン性不飽和単量体(b1)及び(b2)(エチレン不飽和基を有する有機シラン化合物を除く)
(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体
(b2)不飽和カルボン酸単量体
【0023】
(C):エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物
【0024】
【数2】
【0025】
(式(2)中のDは、(A)成分の式(1)において、R3が4−(n+m)=2の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
Tは、前記式(1)においてR3が4−(n+m)=3の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
D及びTの添え字の数字は、それぞれのSi−O結合手数を表す。)
【0026】
本実施形態のエマルジョンは、上記の構成を取ることにより、経時安定性、特に、経時による粒子径の肥大化が抑制され、経時での粘度変化が少なく、安定性に優れるという効果を奏する。
さらに、粒子径の肥大化が抑制されたエマルジョンから得られる塗膜は、造膜時により細密充填構造を形成できるため、耐吸水白化性、及び応力特性等の性能に優れる。
【0027】
以下、本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体を構成する単量体である(A)成分〜(D)成分について説明する。
((A)成分:有機シラン化合物)
本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体においては、高耐候性能及び高耐久性能を得るために、単量体として特定の有機シラン化合物を含有し、かつ当該有機シラン化合物の加水分解縮合物であるポリシロキサンによる複合が必須である。
前記特定の有機シラン化合物は、下記式(1)で表される構造を有している。
【0028】
【化3】
【0029】
(式(1)中、R1はフェニル基又はシクロヘキシル基、R2は水素原子又は炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、R3はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルコキシ基、アセトキシ基、又は水酸基を示し、(n,m)は(0,1)、(0,2)、(1,0)及び(2,0)からなる組群より選ばれる少なくとも一種である。)
【0030】
(A)有機シラン化合物の好ましい具体例について以下に示す。
前記式(1)中、(n,m)が(0,1)の組においては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらを用いることにより、ポリシロキサンの架橋密度を付与し、塗膜硬度を上げることが可能となる。
前記式(1)中、(n,m)が(0,2)の組においては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらを用いることにより、ポリシロキサンの架橋密度を低下させ、塗膜に可撓性を付与することが可能となる。
前記式(1)中、(n,m)が(1,0)の組においては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらを用いることにより、ポリシロキサンの架橋密度を付与し、また、後述する(B)成分:エチレン性不飽和単量体からなるポリマーとの相溶性を付与することが可能となる。
前記式(1)中、(n,m)が(2,0)の組においては、例えば、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン等が挙げられる。これらを用いることにより、ポリシロキサンの架橋密度を低下させ、塗膜に可撓性を付与することができ、さらに、後述する(B)成分:エチレン性不飽和単量体からなるポリマーとの相溶性を付与することが可能となる。
従って、上述した(n,m)の組の、二種以上を適宜組み合せることにより、目的とする塗膜物性を設計することが可能となる。
【0031】
さらに、あらかじめ、(A)有機シラン化合物を縮合させたオリゴマーを用いることでも、上述した(A)成分を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、上述した(n,m)の組以外の有機シラン化合物として、例えば、(n,m)が(0,3)の組においては、トリメチルモノメトキシシラン等が挙げられ、(0,0)の組においては、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
これらの有機シラン化合物は、前記(0,1)、(0,2)、(1,0)、及び(2,0)の組の有機シラン化合物と併せて必要に応じて使用することができる。
【0033】
本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体の単量体における、(A)成分の、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計に対する含有比率は、(A)/{(A)+(B)+(C)}=5質量%以上90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上45質量%以下である。
前記(A)成分の含有比率が5質量%以上であることにより、本実施形態のエマルジョンに導入されるシロキサン結合が充分に多くなり、長期耐候性により優れた塗膜が得られる傾向にある。
また90質量%以下であることにより、ポリシロキサンとエチレン性不飽和単量体からなるポリマーの強固な塗膜構造が形成される。
【0034】
((B)エチレン性不飽和単量体)
本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体には、(B)エチレン性不飽和単量体として、(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体と、(b2)不飽和カルボン酸単量体を含む必要がある。
(b1)及び(b2)は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体>
本実施形態における(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(本明細書中、アクリル酸及びメタクリル酸を合わせて(メタ)アクリル酸と標記する)が挙げられる。
(b1)不飽和カルボン酸エステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル等が挙げられる。
【0037】
(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0038】
(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0040】
また、(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
【0041】
また、上記以外の(b1)の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
<(b2)不飽和カルボン酸単量体>
本実施形態における(b2)不飽和カルボン酸単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びそのモノエステル、フマル酸及びそのモノエステル、並びにマレイン酸及びそのモノエステル等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
これらの不飽和カルボン酸は、本実施形態のエマルジョンを、その最終形態として、pH7.5〜9程度のアルカリ性とすることで、カルボシキル基による電気二重層を形成するため、本実施形態のエマルジョンの粒子の機械的安定性に寄与する。さらに、これらの不飽和カルボン酸単量体は、上述した(A)有機シラン化合物の加水分解反応及び縮合反応を促進させる触媒としても作用する。
【0043】
<(b3):(b1)及び(b2)以外のエチレン性不飽和単量体>
また、本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体は、エチレン性不飽和単量体として、(b1)及び(b2)以外の(b3)エチレン性不飽和単量体を含有することができる。
当該(b3):(b1)及び(b2)以外のエチレン性不飽和単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリルアミド単量体、メタクリルアミド単量体、ビニル単量体から選ばれる、(b1)不飽和カルボン酸エステル単量体及び(b2)不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な少なくとも1種のコモノマーを用いることができる。
アクリルアミド単量体又はメタクリルアミド単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどがあり、ビニル系単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン等が挙げられる。
また、シアン化ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
さらに、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル、ブタジエン、エチレン等も挙げられる。
【0044】
((C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物)
本実施形態のエマルジョンに含まれる共重合体は、単量体としてエチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物を含有する。
(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物は、(B)エチレン性不飽和単量体からなるポリマー中でグラフト点として付加され、(A)有機シラン化合物を側鎖として取り込むために用いられる。
【0045】
((D)界面活性剤)
本実施形態のエマルジョンには、乳化重合に用いる(D)界面活性剤を含むことが好ましい。
このような(D)界面活性剤としては、特に限定されないが、スルホン酸基又はスルホネート基を有するエチレン性不飽和単量体、硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体のうち、少なくともいずれか一つを含むことが、高度な耐水性を達成するために好ましい。
前記スルホン酸基又はスルホネート基を有するエチレン性不飽和単量体としては、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつフリーのスルホン酸基、又はそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基、又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物が好ましい。
スルホン酸基又はスルホネート基を有するエチレン性不飽和単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群より選ばれる置換基を有する化合物であるか、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基に結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物が好ましい。
前記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エレミノールJS−2、JS−5(製品名、三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A、S−180(製品名、花王(株)製)が挙げられる。
また、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクアロンHS−10(製品名、 第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025A、SR−10N、SR−20N(製品名、(株)ADEKA製)、アクアロンKH−10(製品名、 第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0046】
上述した(D)界面活性剤として用いられるエチレン性不飽和単量体は、エマルジョン中に、エマルジョン粒子にラジカル重合した共重合物として存在するか、未反応物としてエマルジョン粒子へ吸着、あるいはエマルジョン水相中に存在するか、又は、水溶性単量体との共重合物あるいは界面活性剤として用いられるエチレン性不飽和単量体同士の共重合物としてエマルジョン粒子へ吸着、あるいは当該共重合物としてエマルジョン水相中に存在している。
特に、(D)界面活性剤として用いられるエチレン性不飽和単量体をエマルジョン粒子にラジカル重合した共重合物の状態で存在する比率を高めることによって、エマルジョンより得られるフィルムの耐水性を高度なものとすることができる。
【0047】
界面活性剤として用いられるエチレン性不飽和単量体は、本実施形態のエマルジョンより得られるフィルムの熱分解ガスクロマトグラム質量分析(Py−GC−MS)を行うことにより、各物質を同定することができる。
他の方法として、本実施形態のエマルジョンの水相成分を分離した後、高速原子衝撃質量分析(FABマススペクトル)を行うことによっても同定するができる。
本実施形態のエマルジョンにおいて、(D)界面活性剤として用いられるエチレン性不飽和単量体の使用量は、(B)エチレン性不飽和単量体の合計質量に対して0.05質量%〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%〜5質量%である。
【0048】
本実施形態では、(D)界面活性剤として、スルホン酸基又はスルホネート基、あるいは硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体を含む界面活性剤以外の、その他の通常の界面活性剤を併用することもできる。
当該界面活性剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩等のアニオン型界面活性剤;エマルゲン120、エマルゲン150(製品名、花王(株)製)、ニューコール2399S(製品名、日本界面活性剤(株)製)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等の非反応性ノニオン型界面活性剤、アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40(製品名、旭電化工業(株)製)等のα−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン;及びアクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50(製品名、第一工業製薬(株)製)等のポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル等の反応性ノニオン型界面活性剤といわれる、エチレン性不飽和単量体と共重合可能なノニオン型界面活性剤等を併用することができる。
【0049】
上記のエチレン性不飽和単量体を含む界面活性剤以外の(D)界面活性剤の使用量は、(B)エチレン性不飽和単量体の合計の質量(100質量%)に対して、(D)界面活性剤がアニオン型界面活性剤である場合には、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下であり、非反応性ノニオン型界面活性剤及び反応性ノニオン型界面活性剤である場合には、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
この範囲で使用することにより、より耐水性が良好なフィルムが形成される傾向にある。
【0050】
(紫外線吸収剤、光安定剤)
本実施形態のエマルジョンは、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有してもよい。
紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有することにより、高耐候性を付与することができる。
本実施形態のエマルジョンに紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を乳化重合時に存在させるようにすることが好ましい。
紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を乳化重合時に存在させるようにした場合、優れた分散性が得られ、本実施形態のエマルジョンを用いた塗膜中に分散して存在するようになるため、降雨等により溶出することが防止され、長期にわたり耐久性の向上が認められ好ましい。
なお、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を配合するタイミングは任意であり、乳化重合時に存在させるようにすればよい。
【0051】
紫外線吸収剤及び/又は光安定剤は、(B)エチレン性不飽和単量体の合計質量に対して0.1質量%〜5質量%用いることが好ましい。
0.1質量%以上とすることにより、耐久性向上の効果を十分発揮することができ、5質量%以下とすることにより、重合安定性を良好に保ち、かつ塗膜の耐水性を良好とすることができる。
【0052】
また、紫外線吸収剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性のもの、光安定剤として、分子内にラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性のものを用いることもできる。
【0053】
さらに、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、そのエマルジョンを用いて塗膜を形成する際に、塗膜が特に耐候性に優れたものとなるため好ましい。
【0054】
紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
耐久性に優れたポリシロキサン含有高耐候性エマルジョンと紫外線吸収能が高い、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤と組み合わせることで、これらの相乗効果により優れた耐久性を示す。
ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベン ゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’, 4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(BASF(株)製、製品名:TINUVIN1130)、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(BASF(株)製、製品名:TINUVIN384)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF(株)製、製品名:TINUVIN571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’− テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF(株)製、製品名:TINUVIN 900)等が挙げられる。
【0055】
ラジカル重合性ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、製品名:RUVA−93)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロ キシエチル−3−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリリルオキシプロピル−3−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2’’−ベンゾトリアゾリル)−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(BASF(株)製、製品名:CGL−104)等が挙げられる。
【0056】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、TINUVIN400(製品名、BASF(株)製)等が挙げられる。
【0057】
ヒンダードアミン系の光安定剤としては、塩基性が低いものが好ましく、具体的には塩基定数(pKb)が8以上のものが好ましい。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ −tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(BASF(株)製、製品名:TINUVIN292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(製品名、BASF(株)製)等が挙げられる。
【0058】
(シラノール基含有セグメント量の評価方法)
本実施形態のエマルジョンは、下記式(2)にて定義される、(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量が、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%以下である。なお、(A)成分は、下記式(1)で表される有機シラン化合物である。
下記式(2)にて定義される、(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量は、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の2モル%以上9モル%以下であることが好ましく、3モル%以上8モル%以下であることがより好ましい。
前記セグメント量が1モル%以上であることにより、乳化重合時間およびpH10以上の強アルカリ領域にて未縮合シラノール基の縮合を促進する加熱処理時間が長くなりすぎず、生産性に優れる。10モル%以下であることにより、経時での粒子径肥大が無く、かつ粘度上昇の無い安定した特性を有するエマルジョンを提供することが可能となる。
【0059】
【化4】
【0060】
(式(1)中、R1はフェニル基又はシクロヘキシル基、R2は水素原子又は炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、R3はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルコキシ基、アセトキシ基、又は水酸基を示し、(n,m)は(0,1)、(0,2)、(1,0)及び(2,0)からなる組群より選ばれる少なくとも一種である)
【0061】
【数3】
【0062】
(式(2)中のDは、(A)成分の前記式(1)において、R3が4−(n+m)=2の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
Tは、前記式(1)においてR3が4−(n+m)=3の場合での29Si固体NMRスペクトルで同定されるシグナル量で、Σはその積分値である。
D及びTの添え字の数字は、それぞれのSi−O結合手数を表す。)
【0063】
前記シラノール基含有セグメント量の評価方法としては、29Si固体NMR測定法(DD/MAS法)が適用できる。
当該29Si固体NMR測定法(DD/MAS法)においては、29Si固体NMRスペクトルにより、(A)成分の式(1)において、R3が4−(n+m)=2の場合、およびR3が4−(n+m)=3の場合でのそれぞれのSi−O結合手数の違いにより、すなわち未縮合のシラノール基数の異なる各セグメントのシグナルを検出できる。
そして、他の各セグメントのシグナル積分値を用いて、未縮合のシラノール基含有セグメント量(モル%)を算出することができる。
【0064】
〔エマルジョンの製造方法〕
本実施形態のエマルジョンの製造方法は、
前記(A)成分の加水分解縮合反応と、
前記(B)成分の付加重合反応と、
前記(C)成分の加水分解縮合反応及び付加重合反応と、
を、pH1.5以上2.5以下で行う重合工程と、
副生アルコールを除去する工程と、
pH10以上にて加熱し、前記(A)成分の縮合反応を行う加熱処理工程と、
を有する。
【0065】
(重合工程)
本実施形態のエマルジョンの製造方法の(重合工程)で用いる重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、ミニエマルション重合が挙げられるが、平均粒子径が10nm〜1μm程度の分散安定性の良好なエマルジョンを安定的に製造する観点から、乳化重合が好ましい。
【0066】
本実施形態のエマルジョンの乳化重合方法としては、例えば、(B)エチレン性不飽和単量体及び(D)界面活性剤からなるプレ乳化液を水性媒体中において重合した後、(A)有機シラン化合物及び(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物とを混合し、加水分解・縮合反応を行う方法や、先に(A)有機シラン化合物及び(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物とを混合し加水分解・縮合反応を行った後、(B)エチレン性不飽和単量体及び(D)界面活性剤からなるプレ乳化液を添加し重合する方法が挙げられるが、特に、(B)エチレン性不飽和単量体及び(D)界面活性剤からなるプレ乳化液と、(A)有機シラン化合物及び(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物とを混合した後、水性媒体中において重合反応と加水分解・縮合反応を並行に進める方法が、有機成分とポリシロキサン成分の均一化の観点から好ましい。
重合工程で用いる水性媒体としては、反応系へ導入されるものであって、主に水が用いられるが、炭素数1〜3の低級アルコール又はアセトン等の水に可溶な溶媒を水に添加したものも含む。
この際添加する水以外の溶媒の量は、エマルジョン中において20質量%以下であることが好ましい。
ここで乳化液へ使用する水性媒体は、水に可溶な溶媒量は好ましくは水性媒体の5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、水に可溶な溶媒を含まないことがさらに好ましい。水に可溶な溶媒量が20質量%以下であることで、プレ乳化液の乳化状態が良好に維持され、良好な重合安定性を示す傾向がある。
【0067】
乳化重合は、ラジカル重合触媒として、熱又は還元性物質等によってラジカル分解してエチレン性不飽和単量体の付加重合を起こさせることができる、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等を有利に使用することができる。
前記ラジカル重合触媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2 −アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。
ラジカル重合触媒の使用量としては、(B)エチレン性不飽和単量体の合計質量に対して0.05質量%〜1質量%が好ましい。
ラジカル重合触媒としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0068】
重合工程における重合時のpHは、(A)有機シラン化合物の加水分解及び縮合反応が速やかに進行し、シラノール基含有セグメント量を減少させるため、重要である。
本実施形態のエマルジョンの製造方法においては、重合反応系のpHが1.5以上2.5以下で実施されることが好ましい。
pHが1.5以上であることで、(A)成分の加水分解が緩やかに進行し、副生アルコール濃度の上昇を防止でき、重合安定性を良好に維持することができる。
pHが2.5以下であることで、(A)成分の縮合反応速度を好適な範囲に調整でき、エマルジョン内における未縮合のシラノール基を減少させ、製造されたエマルジョンのシラノール基含有セグメント量を本実施形態の範囲に調整することができ、経時での粒子径の肥大化現象や粘度上昇を防止できる。
pHを2.5以下に調整するための酸触媒として、メタクリル酸、アクリル酸に加えて、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、塩酸等の強酸を用いることが好ましい。
【0069】
重合反応は、常圧下、65〜90℃の重合温度で行うことが好ましいが、モノマーの重合温度における蒸気圧等の特性に合わせ、高圧下でも実施することができる。
重合時間としては、導入時間と、導入後の熟成(cooking)時間がある。導入時間は、各種原料を反応系へ同時に導入する場合は通常数分であり、各種原料を反応系へ逐次導入する場合は重合による発熱が除熱可能な範囲で反応系へ逐次導入するため、最終的に得られるエマルジョン中の重合体濃度によっても異なるが、通常10分以上である。
導入後の熟成(cooking)時間としては、10分以上であることが好ましい。
この重合時間以下では、各原料がそのまま残留したり、有機シラン化合物が縮合せずに加水分解物のまま残留したりしてしまうおそれがある。
なお、重合速度の促進、及び70℃以下での低温での重合が望まれるときには、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
さらに、エマルジョンの分子量を調整するために、ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤を任意に添加することも可能である。
【0070】
また、乳化重合終了後、成膜時の硬化触媒として、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ラウリン酸錫、オクチル酸鉄、オクチル酸鉛、テトラブチルチタネート等の有機酸の金属塩;n−ヘキシルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン等のアミン化合物を、本実施形態のエマルジョンへ添加することが好ましい。
なお、これらの硬化触媒が水溶性でない場合には、その使用に際して、界面活性剤と水を用いてエマルジョン化しておくことが好ましい。
【0071】
本実施形態のエマルジョンを製造するための態様としては、(B)エチレン性不飽和単量体のラジカル重合による乳化重合と、(A)有機シラン化合物の加水分解・縮合反応による乳化重合を同時に水性媒体中で行うことにより得られ、さらに(A)有機シラン化合物成分の加水分解縮合物と(B)エチレン性不飽和単量体成分の重合体とが均一状態にあり、組成の偏在の少ない状態を形成することが好ましい。
適用する乳化重合方法は、特に限定されるものではなく、ユニフォーム構造を形成する一段重合方法、及びコアシェル構造を形成しうる多段重合方法等のいずれでもよく、目的に応じた重合方法を選択可能である。
例えば、2段階に分けて乳化重合を実施する場合を記述する。
(B)エチレン性不飽和単量体が互いに同じか、異なった組成(B1)及び(B2)からなり、(D)界面活性剤が、スルホン酸基又はスルホネート基を有するエチレン性不飽和単量体、硫酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体及びそれらの混合物よりなる群から選ばれかつ互いに同じか、異なった界面活性剤(D1)及び(D2)からなるものとし、乳化重合をステップ〔1〕、ステップ〔2〕の順で行う。
ステップ〔1〕においてはエチレン性不飽和単量体組成(B1)と界面活性剤(D1)と、必要に応じて水性媒体とからなるプレ乳化液を、水性媒体中において乳化重合に付すことにより、ステップ〔1〕におけるエマルジョンを得、ステップ〔2〕においては、エチレン性不飽和単量体組成(B2)及び界面活性剤(D2)と、必要に応じて水性媒体とからなるプレ乳化液を水性媒体中においてステップ〔1〕におけるエマルジョンに添加することによって乳化重合を行い、必要に応じてプレ乳化液と、(A)有機シラン化合物及び(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物を混合しながら乳化重合中に付すことにより、ポリシロキサンを複合化した高耐候性エマルジョンを製造することができる。
【0072】
(加熱処理工程)
また、本実施形態のエマルジョンの製造方法においては、(A)成分の加水分解縮合反応と(B)成分の付加重合反応と、(C)成分の加水分解縮合及び付加重合反応の後、エマルジョン内の未縮合のシラノール基の縮合を促進するため、pH10以上にて加熱し、(A)成分の縮合反応を実施する。
加熱温度は80〜90℃であることが好ましい。
本実施形態におけるアルカリ加熱処理時のpHは、10.0以上であるものとし、好ましくはpH10.2以上、より好ましくは10.3以上で実施する。
pH10.0以上であることで、エマルジョン内の未縮合のシラノール基の縮合反応速度が充分なものとなり、本実施形態のシラノール基含有セグメント量とするための処理時間を短くすることができ、生産性を良好なものとすることができる。
また、使用するアルカリ成分の量を指数的に増加させず、生産コストを低減する観点から、アルカリ加熱処理時のpHは11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.6以下であることがさらに好ましい。
シラノール基の縮合反応は、酸性またはアルカリ性領域で進行するが、乳化重合時にpH2.5以下の強酸性領域にてシラノール基の縮合を促進し、乳化重合終了後に、pH10以上の強アルカリ領域にて未縮合シラノール基の縮合を促進することで、すなわち、酸性状態とアルカリ性状態の2段階にてシラノール基の縮合を促進することが可能となる。
上記のように、シラノール基の縮合を促進させることによって、29Si固体NMRスペクトルで同定及び定量される(A)成分のシラノール基含有セグメント量を、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%以下に抑制でき、従来のポリシロキサン含有高分子エマルジョンに比して、経時での粒子径肥大が無く、かつ粘度上昇の無い安定した特性を有するエマルジョンを提供することが可能となる。
【0073】
さらに、本実施形態のエマルジョンの製造方法においては、上述した重合工程の後、又はpH10以上のアルカリ性状態での加熱処理工程の後のいずれでもよいが、(A)成分の加水分解時に副生するアルコールを除去する。
副生アルコールの除去方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、汎用的な蒸留処理や、蒸気をエマルジョン中に通気させるストリッピング処理等が挙げられる。
副生アルコールを除去した後の残留アルコール濃度は、0.1質量%〜2質量%以下が好ましい。残留アルコール濃度を0.1質量%以上とすることにより、溜出量の過度に増加させる必要が無く、生産負荷や製造コストの増加を防止でき、2質量%以下とすることによりエマルジョンの引火を防止することができる。
【0074】
〔エマルジョンの用途〕
本実施形態のエマルジョンは、塗料、建材の仕上げ材、又は織布、不織布の仕上げ材として有用である。
特に、塗料用、建材の仕上げ材としては、具体的には、コンクリート、セメントモルタル、スレート板、ケイカル板、石膏ボード、押し出し成形板、発砲性コンクリート等の無機建材、織布又は不織布を基材とした建材、金属建材等の各種下地に対する塗料又は建築仕上げ材として、複層仕上げ塗材用の主材及びトップコート材、薄付け仕上げ塗材、厚付け仕上げ塗材、石材調仕上げ材、グロスペイント等の合成樹脂エマルジョンペイント、金属用塗料、木部塗料、瓦用塗料として有用である。
また、本実施形態のエマルジョンは、シロキサン結合エネルギーの高さから、光触媒塗料のバインダーや保護層としても有用である。
【実施例】
【0075】
以下、本実施形態について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものでない。
【0076】
重合安定性の評価、及び得られたポリシロキサン含有水性アクリレート重合体エマルジョンの物性の試験については、下記に示す評価方法及び試験方法に従って実施した。
【0077】
<(1)重合安定性の評価>
乳化重合後に得られたエマルジョンを、100メッシュの濾布で凝固物を濾過し、その残渣質量とエマルジョンの固形分質量との比から、残渣率を求め、下記基準により重合安定性を評価した。
(判断基準) ◎ :残渣率が100ppm未満
○ :残渣率が100ppm以上200ppm未満
× :残渣率が200ppm以上
【0078】
<(2)濾過性の評価>
乳化重合後に得られたエマルジョンを、100メッシュの濾布で凝固物を濾過し、終了するまでに要する時間を測定し、下記基準により濾過性を評価した。
(判断基準) ◎ :濾過時間が30秒未満
○ :濾過時間が30秒以上60秒未満
× :濾過時間が60秒以上
【0079】
<(3)体積平均粒子径の測定>
得られたエマルジョンの体積平均粒子径を、リーズ&ノースラップ社製のマイクロトラック粒度分布計にて測定した。
【0080】
<(4)シラノール基含有セグメントの定量分析>
得られたエマルジョンのシラノール基含有セグメント量は、エマルジョンを凍結乾燥し、29Si固体NMR測定(DD/MAS法)により、下記条件にて得られる、下記表5に示す各セグメントのシグナル量の積分値を用い、上記式(2)、具体的には、表5の下欄に示す計算式を用いて算出した。
装置 :Bruker Biospin DSX400
観測核 :29Si
周波数 :79.48MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :30sec
NMR試料管 :7mmφ
積算回数 :7600回
MAS :4900Hz
化学シフト基準:TMS(CHCl3溶液)
【0081】
<(5)粘度>
得られたエマルジョンの粘度を、B型粘度計(東機産業社製:ビスコメーター TVB−10)にて測定した。
<(6)固形分率の測定>
固形分率の測定は、アルミ皿に、得られたエマルジョン:1gを精秤し、恒温乾燥機で105℃にて3時間乾燥させ、シリカゲルを入れたデシケーター中で30分間放冷した後に精秤した。乾燥後質量を乾燥前質量で除した割合を固形分率(質量%)とした。
また、固形分率の測定は、乳化重合終了後、及び蒸留および濃縮処理による副生アルコール除去後でそれぞれ実施し、重合後固形分率及び最終固形分率とした。
【0082】
<(7)経時安定性の評価>
経時安定性評価は、得られたエマルジョンを60℃の恒温槽に2週間貯蔵し、貯蔵試験前後の体積平均粒子径と粘度の増大率で比較評価した。
((7−1)経時粒子径安定性の判断基準)
◎ :粒子径の増大が5%未満
○ :粒子径の増大が5%以上10%未満
△ :粒子径の増大が10%以上30%未満
× :粒子径の増大が30%以上
((7−2)経時粘度安定性の判断基準)
◎ :粘度上昇なし
○ :粘度の増大が50%未満
△ :粘度の増大が50%以上100%未満
× :粘度の増大が100%以上
【0083】
<(8)吸水白化評価>
吸水白化評価は、ガラス板に得られたエマルジョンの塗料を、0.1mmのアプリケータにて塗工し、23℃にて1晩乾燥を行うことで塗膜を得た。その後、ガラス板に塗膜を付着させたまま23℃の水中に24時間浸漬した。
浸漬前の透過率及びヘイズ値と、浸漬後の透過率及びヘイズ値との変化率(ヘイズ値変化率)を、日本電色工業社製:ヘイズメーターNDH5000にて測定した。
判定は、上記(7)の<経時安定性の評価>に記載した貯蔵試験前と貯蔵試験後の各エマルジョンから、それぞれ塗膜を作製し、吸水白化によるヘイズ値変化率を比較した。
◎:貯蔵試験前と貯蔵試験後のヘイズ値変化率の差が±5%未満
○:貯蔵試験前に対し、貯蔵試験後のヘイズ値変化率が5%以上10%未満増加
△:貯蔵試験前に対し、貯蔵試験後のヘイズ値変化率が10%以上20%未満増加し、耐吸水白化性が悪化
×:貯蔵試験前に対し、貯蔵試験後のヘイズ値が20%以上増加し、耐吸水白化性が悪化
【0084】
<(9)引張り特性の評価>
PP板に得られたエマルジョンの塗料を、0.25mmのアプリケータにて塗工し、(100℃、10分)と、(80℃、10分)の2条件で乾燥後、幅1cm、長さ7cmの塗膜サンプルを作製した。
下記に示した条件にて引張り試験を行い、伸び率10%時の応力を測定した。
試験機:テンシロンRTC−1250A(オリエンテック製)
引張り速度:50mm/min
チャック間距離:5cm
測定温度 :23℃
判定は、上記(7)の<経時安定性の評価>に記載した貯蔵試験前と貯蔵試験後の各エマルジョンから、それぞれ塗膜を作製し、引張り試験による塗膜の破断点応力を比較した。
◎:破断点応力の変化が±5%未満
○:破断点応力が5〜10%未満低減
△:破断点応力が10〜20%未満に低減
×:破断点応力が20%以上低減
【0085】
〔実施例1〕
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた内容量2.0リットルのSUS製セパラブルフラスコに、水730質量部、界面活性剤としてアクアロンKH−10(製品名、第一工業製薬(株)製)の25質量%水溶液16質量部を仕込み、温度を80℃に上げてから5分後に、ペルオキソ硫酸アンモニウムの2質量%水溶液7.5質量部を添加した。
【0086】
次に、ステップ(1)として、(B)エチレン性不飽和単量体のメタクリル酸シクロヘキシル25質量部、メタクリル酸ブチル66質量部、メタクリル酸メチル69質量部、アクリル酸ブチル87.5質量部、メタクリル酸2.5質量部と、過硫酸アンモニウムの2%水溶液12.5質量部、アクアロンKH−10の25質量%水溶液を20質量部、エマルゲン150(製品名、 花王(株)製)を12.5質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸の10%水溶液15質量部、水218質量部の混合液を作製し、当該混合液をホモミキサーにより乳化し、プレ乳化液を得た。
次に、(A)有機シラン化合物成分として、メチルトリメトキシシランZ6366(製品名、東レダウコーニング(株)製)17.5質量部、ジメチルジメトキシシランZ6329(製品名、東レダウコーニング(株)製)33質量部、ジフェニルジメトキシシランKBM202SS(製品名、信越シリコーン(株)製)11質量部、及び(C)エチレン性不飽和基を有する有機シラン化合物として、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランSZ6030(製品名、東レダウコーニング(株)製)2.5質量部の混合液と、上記のようにして得られたプレ乳化液を、Y字管〔Y字管の出口には100メッシュの金網を詰め2つ滴下槽の液が混じり合うところまで、モレキュラシーブス3A(製品名:和光純薬(株)製)を充填し、(A)有機シラン化合物成分とプレ乳化液との緩やかな混合ができるように調整した。〕を介して反応容器中へ滴下槽より2時間かけて流入させた。
流入中は反応容器中の温度を80℃に保った。
流入が終了してから反応容器中の温度を80℃で30分間保った。
【0087】
次に、ステップ(2)として、(B)エチレン性不飽和単量体のメタクリル酸シクロヘキシル25質量部、メタクリル酸ブチル56.5質量部、メタクリル酸メチル136質量部、アクリル酸ブチル22.5質量部、メタクリル酸ヒドロキシエチル2.5質量部、メタクリル酸5質量部、アクリル酸2.5質量部、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15質量部、アクアロンKH−10の25質量%水溶液を8質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸の10質量%水溶液15質量部、水222質量部の混合液を作製し、当該混合液をホモミキサーにより乳化し、プレ乳化液を得た。
次に、(A)有機シラン化合物成分として、メチルトリメトキシシラン17.5質量部、ジメチルジメトキシシラン33質量部、ジフェニルジメトキシシラン11質量部、及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.5質量部の混合液と、上記のようにして得られたプレ乳化液を反応容器中へ滴下槽より1時間かけて流入させた。
流入中は反応容器中温度を80℃に保ち、流入が終了してからも反応容器中の温度を80℃で60分間保った後に、室温まで冷却し乳化重合を終了させた。
得られたエマルジョンの水素イオン濃度を測定したところpH2.3、固形分は32.2質量%であった。
【0088】
100メッシュの金網で濾過し、濾過された凝集物の乾燥質量は得られた固形分質量に対して20ppm以下と非常にわずかで、また反応容器内壁および攪拌羽根への付着物もわずかであった。
続いて、得られたエマルジョン内の未縮合のシラノール基の縮合を促進するため、2Lのナスフラスコに上述のエマルジョン1kgを仕込み、次に25質量%アンモニア水溶液35gを添加したところ、pHは10.5であった。
その後、エバポレータ装置のウォーターバスに浸してエマルジョンの温度を80℃にした後、ナスフラスコを回転させながら5時間保った。
次に、適量の消泡剤を添加し、徐々に減圧しながら終了時には40kPaまで減圧して、メタノール濃度が0.8質量%になるまで蒸留および濃縮処理を行った。
室温まで冷却後、100メッシュの金網でエマルジョンを濾過し、水素イオン濃度を測定したところpH7.8であった。これに25質量%アンモニア水溶液を添加し、pH8.6に調整した。
得られたエマルジョンの固形分は、40.2質量%、体積平均粒子径は100nm、粘度は690mPa・sであった。
【0089】
〔実施例2〕
(A)有機シラン化合物成分を、下記表1に記載した種類と量で使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを製造した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0090】
〔実施例3〕
触媒として、ドデシルベンゼンスルホン酸を硫酸へ変更し、下記表1に記載した量で使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを製造した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0091】
〔実施例4、5〕
下記表1に記載した質量部の原料を使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを製造した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0092】
〔実施例6〕
下記表1に記載した質量部の原料を使用し、〔実施例1〕と同様にステップ(2)まで行い、次にステップ(3)として、下記表1記載の質量部の成分(B)、成分(D)、触媒及び水からプレ乳化液を作製し、成分(A)及び成分(C)の混合液と得られたプレ乳化液を反応容器中へ滴下槽より1時間かけて流入させた。
流入中は反応容器中温度を80℃に保ち、流入が終了してからも反応容器中温度を80℃で60分間保った後に、室温まで冷却し乳化重合を終了させた。
その後は、〔実施例1〕と同様に、得られたエマルジョン内の未縮合のシラノール基の縮合を促進するため、2Lのナスフラスコに上述のエマルジョン1kgを仕込み、次に25質量%アンモニア水溶液35gを添加したところ、pHは10.4であった。
その後は、〔実施例1〕と同様に、エバポレータ装置のウォーターバスに浸してエマルジョンの温度を80℃にした後、ナスフラスコを回転させながら5時間保ち、続いて蒸留及び濃縮処理を行った。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0093】
〔実施例7〕
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取りつけた内容量2.0リットルのSUS製セパラブルフラスコに、水680質量部、界面活性剤としてアクアロンKH−10の25質量%水溶液16.8質量部を入れ、温度を80℃に上げてから5分後に、ペルオキソ硫酸アンモニウムの2質量%水溶液を10.5質量部添加した。
次に、下記表1に記載した質量部の原料を使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを作製した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0094】
〔実施例8〕
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取りつけた内容量2.0リットルのSUS製セパラブルフラスコに、水440質量部、界面活性剤としてアクアロンKH−10の25質量%水溶液12.0質量部を入れ、温度を80℃に上げてから5分後に、ペルオキソ硫酸アンモニウムの2質量%水溶液を4.5質量部添加した。
次に、下記表1に記載した質量部の原料を使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを作製した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0095】
〔実施例9〕
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取りつけた内容量2.0リットルのSUS製セパラブルフラスコに、水730質量部、界面活性剤としてアクアロンKH−10の25質量%水溶液16.0質量部を入れ、温度を80℃に上げてから5分後に、ペルオキソ硫酸アンモニウムの2質量%水溶液を7.5質量部添加した。
次に、下記表1に記載した質量部の原料を使用し、ステップ(1)のみを行う1段とした以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを作製した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0096】
〔比較例1〕
下記表2に記載した質量部の原料を使用した以外は、〔実施例1〕と同一の処理を行い、エマルジョンを作製した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0097】
〔比較例2〕
下記表2に記載した質量部の原料を使用し、〔実施例1〕と同一の処理にて乳化重合を終了させ、エマルジョンを作製した。
続いて得られたエマルジョン内の未縮合のシラノール基の縮合を促進するため、2Lのナスフラスコに上述のエマルジョン1kgを仕込み、25質量%アンモニア水溶液6gを添加してpH9.5に調整し、エバポレータ装置のウォーターバスに浸してエマルジョンの温度を80℃にした後、ナスフラスコを回転させながら5時間保った。
その後は、〔実施例1〕と同様に、蒸留及び濃縮処理を行った。
室温まで冷却後、100メッシュの金網でエマルジョンを濾過し、水素イオン濃度を測定したところpH7.2であった。
これに25質量%アンモニア水溶液を添加し、pH8.7に調整した。
得られたエマルジョンの固形分、体積平均粒子径、及び粘度を下記表4に示す。
【0098】
〔比較例3〕
下記表2に記載した質量部の原料を使用し、〔実施例1〕と同一の処理にて乳化重合を終了させ、エマルジョンを作製した。
室温まで冷却後、100メッシュの金網でエマルジョンを濾過したところ、凝集残渣物が多量であり、また反応容器内壁、及び攪拌羽根への多量の凝集物が付着していた。
濾過後のエマルジョンの水素イオン濃度を測定したところpH1.4であった。
多量の凝集物が発生したため、本比較例の物性評価は中止した。
【0099】
〔実施例1のシラノール基含有セグメント量〕
図1に、〔実施例1〕で製造したエマルジョンを用いて測定した29Si固体NMRスペクトルを示す。
図1のスペクトル図中に示す数字は、下記表5に示す各シラノール基を含有する構造に由来のシグナルの積分値(モル比)を示す。
下記表5には、〔実施例1〕におけるエマルジョンを構成している各シラノール基を含有する構造と、各構造のシグナル積分値と、当該各構造のシグナル積分値から求められるシラノール基含有セグメント量を示した。
なお、シラノール基含有セグメント量(モル%)は、表5の下欄に示す計算式により算出した。
【0100】
〔実施例1、比較例1、比較例2の経時安定性の評価〕
また、エマルジョンの経時安定性の評価として、〔実施例1〕、〔比較例1〕及び〔比較例2〕のエマルジョンについて、各エマルジョンの貯蔵試験前(図2図4中、保管前と記載する。)と60℃の恒温槽に2週間貯蔵した後(図2図4中、60℃×2週間保管後と記載する。)のエマルジョン粒子の粒子径分布を、図2図4にそれぞれ示した。
図2図4中、MV(μm)は体積平均粒子径、MN(μm)は数平均粒子径、MA(μm)は面積平均粒子径、CSは比表面積、SD(μm)は標準偏差を示す。
これらを比較すると、〔実施例1〕のエマルジョン粒子は、〔比較例1〕及び〔比較例2〕のエマルジョン粒子に対し、貯蔵試験前後において、粒子分布の変化が少ないことが分かった。
【0101】
〔実施例1〜9、比較例1〜3のシラノール基含有セグメント量〕
実施例2〜9、及び比較例1〜3についても、実施例1と同様に29Si固体NMRスペクトルを測定し、シラノール基含有セグメント量を求めた。
下記表6に、実施例1〜9及び比較例1〜3の各セグメント量とシラノール基含有セグメント量を示した。
【0102】
〔実施例1〜9、比較例1〜3のエマルジョンの経時安定性の評価結果〕
実施例1〜9、及び比較例1〜3のエマルジョンの、上述した(6)経時安定性の評価結果を下記表7に示す。
表7に示す結果から、(A)成分の加水分解縮合後のシラノール基含有セグメント量が、(A)成分のシリコーン構造由来のセグメント総量の1モル%以上10モル%以下であることにより、経時での粒子径及び粘度の安定性が優れたエマルジョンが得られることが分かった。
【0103】
〔実施例1〜9、比較例1〜3の貯蔵試験前後の塗膜性能の評価結果〕
実施例1〜9及び比較例1〜3の各エマルジョンの貯蔵試験前と、各エマルジョンを60℃の恒温槽に2週間貯蔵した後に作製した塗膜の吸水白化試験におけるヘイズ値と、引張り試験における破断点応力値を下記表8に示した。
比較例1、2は実施例1〜9に比較して比べて、貯蔵試験後のヘイズ値が低下していることが分かった。
これは、比較例1、2においては、貯蔵試験後に粒子径分布が拡がるため、塗膜形成時の細密充填構造が形成しにくいためであると考えられる。
また同様に、細密充填構造の差によってエマルジョン粒子間の融着の度合いが影響するため、塗膜の破断点応力も、比較例1、2では低下率が大きくなっていることが分かった。特に、塗膜形成時の熱養生温度が低い場合は、影響が顕著であることが分かった。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のエマルジョンは、塗料、建材の仕上げ材、織布、不織布の仕上げ材として産業上の利用可能性を有している。
具体的には、コンクリート、セメントモルタル、スレート板、ケイカル板、石膏ボード、押し出し成形板、発砲性コンクリート等の無機建材、織布又は不織布を基材とした建材、金属建材等の各種下地に対する塗料又は建築仕上げ材として、産業上の利用可能性を有している。
また、複層仕上げ塗材用の主材及びトップコート材、薄付け仕上げ塗材、厚付け仕上げ塗材、石材調仕上げ材、グロスペイント等の合成樹脂エマルジョンペイント、金属用塗料、木部塗料、瓦用塗料としても産業上の利用可能性を有している。
さらには、光触媒塗料のバインダーや保護層としても、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3
図4