(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
接地面を形成するトレッドゴムにタイヤ周方向に伸びる複数の陸部が設けられ、それらのうち少なくともいずれか1つの陸部において、その幅方向一方側の端部から伸び陸部内で終端する第一横溝と、その幅方向他方側の端部から伸び陸部内で終端する第二横溝とが設けられ、前記第一横溝と前記第二横溝とがタイヤ周方向に重なるオーバーラップ領域が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記オーバーラップ領域における前記トレッドゴムの厚みが、同じ陸部内の前記オーバーラップ領域の両側の領域における前記トレッドゴムの厚みより厚い、空気入りタイヤ。
前記オーバーラップ領域における前記トレッドゴムの厚みをA、前記オーバーラップ領域が設けられた陸部のタイヤ幅方向内側端部における前記トレッドゴムの厚みをBとすると、
B<A≦1.1×B
の関係が成立する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
前記オーバーラップ領域内における前記トレッドゴムが、前記オーバーラップ領域内に設定される最大厚み位置において最も厚く、前記最大厚み位置からタイヤ幅方向に離れるほど薄くなる、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
タイヤ幅方向断面上において、前記最大厚み位置が、前記オーバーラップ領域のタイヤ幅方向中央の、前記オーバーラップ領域のタイヤ幅方向の長さの60%の長さの範囲内にある、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、空気入りタイヤにはタイヤ周方向に伸びる複数の主溝が設けられており、これらの主溝に隔てられた複数の陸部が設けられている。これらの陸部の中には、陸部のタイヤ幅方向一方側の端部から伸びて陸部内で終端する横溝と、陸部のタイヤ幅方向他方側の端部から伸びて陸部内で終端する横溝との、2種類の横溝が設けられているものがある。そして、特許文献1には記載されていないが、上記の2種類の横溝が、陸部の幅方向中央付近においてタイヤ周方向に重なっている(オーバーラップしている)空気入りタイヤが知られている。
【0003】
このようなオーバーラップしている空気入りタイヤでは、オーバーラップしている領域(オーバーラップ領域)、特にその領域内の横溝の壁面付近において接地圧が高く、オーバーラップ領域が設けられた陸部内の接地圧が不均一になっている。そしてそのことが、空気入りタイヤの制動性能が十分に向上しないことの原因となっている。
【0004】
なお、横溝が陸部内で終端せず、陸部のタイヤ幅方向両側へ開口している場合は、陸部内の接地圧が比較的均一化されており、このような問題は生じにくい。
【0005】
ところで、制動性能を向上させる一般的な方法として、ゴムの配合を変える方法や、横溝を細くしたりその数を減らしたりして横溝の接地面への開口部の面積を減らし、接地面積を大きくする方法が挙げられる。
【0006】
また、特許文献1に記載のように、空気入りタイヤの接地形状の改善のため、接地面をトレッドゴムの基準輪郭線に対してタイヤ径方向外側に突出させることが知られている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本実施形態の空気入りタイヤ10のタイヤ幅方向の半断面図である。本実施形態の空気入りタイヤ10の構造はタイヤ赤道Eに対して対称になっている。
【0014】
本実施形態の空気入りタイヤ10は、束ねられた鋼線にゴムが被覆されたビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラー12とからなるビード部を、タイヤ幅方向両側に有する。カーカスプライ13が、タイヤ幅方向両側でビード部を包むと共に、これらのビード部間で空気入りタイヤ10の骨格を形成している。本実施形態では2枚のカーカスプライ13が設けられているが、1枚のカーカスプライ13のみが設けられている場合もある。
【0015】
カーカスプライ13よりタイヤ径方向外側には1又は2以上のベルトが設けられている。ベルトはスチール製等の複数本のコードがゴムで被覆されたものである。本実施形態では、タイヤ径方向内側の第1ベルト14とタイヤ径方向外側の第2ベルト15とが積層されている。第2ベルト15のタイヤ径方向外側にはベルト補強層16が設けられている。ベルト補強層16は、有機繊維製等の複数本のコードがゴムで被覆されたものである。ベルト補強層16は、第1ベルト14及び第2ベルト15よりもタイヤ幅方向に長く、これらをタイヤ径方向外側から覆っている。
【0016】
ベルト補強層16のタイヤ径方向外側には接地面を形成するトレッドゴム20が設けられている。またカーカスプライ13のタイヤ幅方向両側にはサイドウォールゴム17が設けられている。トレッドゴム20は2枚のベルトのうちタイヤ幅方向に短い方のベルトである第2ベルト15のタイヤ幅方向端部(第1ベルト14が第2ベルト15よりもタイヤ幅方向に短い場合は第1ベルト14のタイヤ幅方向端部)よりもタイヤ幅方向外側において薄くなっており、その薄くなっている部分がサイドウォールゴム17と重なっている。トレッドゴム20とサイドウォールゴム17とが重なっている領域では、トレッドゴム20とサイドウォールゴム17のいずれがタイヤ外面側にあっても良い。
【0017】
カーカスプライ13のタイヤ幅方向両側であって、ビードフィラー12よりタイヤ幅方向外側にあたる位置には、ゴムチェーファー18が設けられている。ゴムチェーファー18の上部はサイドウォールゴム17の下部と接している。ゴムチェーファー18の表面にはリムが接する。
【0018】
また、カーカスプライ13の内側にはインナーライナー19が設けられている。以上の部材の他にもタイヤの機能上の必要に応じて複数の部材が設けられている。
【0019】
図2は実施形態の空気入りタイヤ10のトレッドゴム20に形成されたトレッドパターンである。トレッドゴム20にはタイヤ周方向に伸びる複数の主溝が設けられている。本実施形態の場合は4本の主溝21が設けられている。これらの主溝21に隔てられて、タイヤ幅方向中央のセンター陸部22と、タイヤ幅方向両側のショルダー陸部23と、センター陸部22とショルダー陸部23との間のメディエイト陸部24とが形成されている。本実施形態では、これらの陸部は、タイヤ1周に亘って陸部が続くリブとなっている。
【0020】
なお、ショルダー陸部23のタイヤ幅方向外側の端部は接地端Rである。接地端Rとは、空気入りタイヤ10が正規リムにリム組みされ正規内圧にされ正規荷重が負荷された状態での接地面のタイヤ幅方向端部のことである。ここで正規リムとはJATMA、TRA、ETRTO等の規格に定められている標準リムのことである。また正規荷重とは前記規格に定められている最大荷重のことである。また正規内圧とは前記最大荷重に対応した内圧のことである。通常、接地端Rは、タイヤ幅方向に一番短いベルト(本実施形態の場合は第2ベルト15)のタイヤ幅方向端部よりもタイヤ幅方向内側にある。ただし空気入りタイヤ10が重荷重で使用される場合は、接地端Rが第2ベルト15のタイヤ幅方向端部よりもタイヤ幅方向外側にある場合もある。
【0021】
センター陸部22、ショルダー陸部23、メディエイト陸部24には、それぞれ横溝が設けられている。横溝は主としてタイヤ幅方向へ伸びるものであるが、タイヤ幅方向に対して傾斜していても良い。横溝には、ある程度の長さ及び幅を有するスリットや、スリットよりも長さが短く陸部の幅方向の一方側にのみ開口するノッチや、スリットやノッチよりも幅が狭く接地時に閉口するサイプ等が含まれる。
【0022】
本実施形態のショルダー陸部23には、その幅方向一方側(タイヤ幅方向内側)の端部から伸びてショルダー陸部23内で終端する第一横溝31が設けられている。第一横溝31は主溝21に開口している。また、本実施形態のショルダー陸部23には、その幅方向他方側(タイヤ幅方向外側)の端部から伸びてショルダー陸部23内で終端する第二横溝32が設けられている。第二横溝32は接地端Rからタイヤ幅方向外側へ開口している。第一横溝31と第二横溝32とはタイヤ周方向に交互に並べられている。そして、第一横溝31と第二横溝32とがタイヤ周方向に重なっている。第一横溝31と第二横溝32とがタイヤ周方向に重なっている領域をオーバーラップ領域30とする。
【0023】
このショルダー陸部23において、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みが、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向両側の領域(非オーバーラップ領域33とする)におけるトレッドゴム20の厚みよりも厚くなっている。ここで厚みとは、トレッドゴム20のタイヤ径方向内側においてトレッドゴム20と接する部材(本実施形態の場合はベルト補強層16)の法線方向の厚みのことである。
【0024】
詳細には、トレッドゴム20が、オーバーラップ領域30全体において、非オーバーラップ領域33における厚みよりも、厚くなっている。つまり、オーバーラップ領域30のいずれの位置でのトレッドゴム20の厚みも、非オーバーラップ領域33におけるいずれの位置でのトレッドゴム20の厚みよりも、厚くなっている。一般的には、トレッドゴムは陸部内の最もタイヤ赤道近くの位置において最も厚くなっており、ショルダー陸部においてはトレッドゴムはそのタイヤ幅方向内側端部において最も厚くなっている。しかし本実施形態の場合は、オーバーラップ領域30のいずれの位置でのトレッドゴム20の厚みも、ショルダー陸部23のタイヤ幅方向内側端部25におけるトレッドゴム20の厚みよりも厚い。
【0025】
ただし、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みは、ショルダー陸部23のタイヤ幅方向内側端部25におけるトレッドゴム20の厚みの1.1倍以下であることが望ましい。すなわち、オーバーラップ領域30のいずれかの位置におけるトレッドゴム20の厚みをA、ショルダー陸部23のタイヤ幅方向内側端部25におけるトレッドゴム20の厚みをBとすると、B<A≦1.1×B の関係が成立することが望ましい。
【0026】
オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みは、タイヤ幅方向の所定の位置(最大厚み位置34とする)において最も厚くなっており、そこからタイヤ幅方向に離れるほど薄くなっている。タイヤ幅方向断面上において、最大厚み位置34は、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向中央の、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向の長さの60%の長さの範囲内にあることが望ましい。つまり、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向内側の端部35から、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向の長さの20〜80%(20%及び80%を含む)の長さだけタイヤ幅方向外側の位置に、最大厚み位置34が存在することが望ましい。また、最大厚み位置34におけるトレッドゴム20の厚みをCとすると、B<C≦1.1×B の関係が成立することが望ましい。
【0027】
タイヤ幅方向断面上で見ると、オーバーラップ領域30の接地面は、最大厚み位置34を頂点とする曲線を描いている。ただし、オーバーラップ領域30の接地面は、タイヤ幅方向断面上で、最大厚み位置34からオーバーラップ領域30の幅方向両側へ向かって直線状になっていても良い。
【0028】
以上のようなトレッドゴム20の厚みに関する形態は、ショルダー陸部23のタイヤ周方向のいずれの位置においても同じである。また、
図2に示されているように本実施形態では一対の(つまり2つの)ショルダー陸部23の両方にオーバーラップ領域30が設けられているため、以上のようなトレッドゴム20の厚みに関する形態は、一対のショルダー陸部23において共通する。
【0029】
なおトレッドゴム20の厚みは次の方法により確認することができる。まず、タイヤをタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に平行にカットしカットサンプルを作成する。必要に応じてカットサンプルのカット面をバフ研磨等で滑らかにする。次にカットサンプルのビード部を正規リムのリム幅に合わせると共に、カットサンプルの形状をタイヤに正規内圧を充填したときの形状に合わせる。その状態で、トレッドゴム20とそれに接している部材(本実施形態の場合はベルト補強層16)との境界からタイヤ接地面までの長さを、前記部材(本実施形態の場合はベルト補強層16)の法線方向に測定し、トレッドゴム20の厚みとする。ここで、カットサンプルのカット面におけるトレッドゴム20とベルト補強層16との境界は、ベルト補強層16のコードのタイヤ接地面側の端部を結ぶ曲線で表すことができる。
【0030】
以上の実施形態の空気入りタイヤ10では、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みが、非オーバーラップ領域33におけるトレッドゴム20の厚みより厚いため、オーバーラップ領域30の接地面積が厚みに応じて増えている。そのため、オーバーラップ領域30の接地圧が下がり、ショルダー陸部23全体で接地圧が均一化されている。そのため、オーバーラップ領域が設けられた従来の空気入りタイヤと比較して、制動性能が向上している。しかも、ゴムの配合が変わったり横溝の接地面への開口部の面積が減ったりしていないため、転がり抵抗の極端な悪化が抑えられている。
【0031】
また、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みAと、ショルダー陸部23のタイヤ幅方向内側端部25におけるトレッドゴム20の厚みBとが、B<A≦1.1×Bの関係を満たせば、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みAが厚すぎて転がり抵抗が極端に悪化することもなく、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みAが薄すぎて制動性能が向上しないこともない。
【0032】
また、トレッドゴム20の厚みが、オーバーラップ領域30の最大厚み位置34において最も厚くなっており、そこからタイヤ幅方向に離れるほど薄くなっていれば、ショルダー陸部23の接地圧に大きな変化点が発生せず、ショルダー陸部23全体の接地圧が均一化される。
【0033】
また、最大厚み位置34が、タイヤ幅方向断面上において、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向中央の、オーバーラップ領域30のタイヤ幅方向の長さの60%の長さの範囲内にあれば、最大厚み位置34がタイヤ幅方向一方側に偏ることによって非オーバーラップ領域33の接地面積が必要以上に広くなることがなく、ショルダー陸部23全体の接地圧が均一化される。
【0034】
また、オーバーラップ領域30の接地面が最大厚み位置34を頂点とする曲線を描いていれば、ショルダー陸部23の接地圧に大きな変化点が発生せず、ショルダー陸部23全体の接地圧が均一化される。
【0035】
以上の実施形態に対して、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な変更、置換、省略等を行うことができる。
【0036】
例えば、上記実施形態ではショルダー陸部23に第一横溝31と第二横溝32とのオーバーラップ領域30が設けられ、オーバーラップ領域30におけるトレッドゴム20の厚みが厚くなっているが、センター陸部やメディエイト陸部において同様のオーバーラップ領域が設けられ、そのオーバーラップ領域において上記実施形態のようにトレッドゴムの厚みが厚くなっていても良い。
【0037】
また、センター陸部、ショルダー陸部、メディエイト陸部のうち2以上の陸部にオーバーラップ領域が設けられている場合は、オーバーラップ領域が設けられた陸部のうち少なくともいずれかの陸部において上記実施形態のようにオーバーラップ領域のトレッドゴムが厚くなっていれば良い。しかし、オーバーラップ領域が設けられた全ての陸部において、上記実施形態のようにオーバーラップ領域のトレッドゴムが厚くなっていれば、効果がより顕著になる。
【0038】
比較例及び実施例のタイヤの転がり抵抗係数(RRC)及び制動性能を評価した。比較例及び実施例のタイヤは、トレッドゴムの厚みを除いて、上記実施形態の空気入りタイヤ10と同じ構造を有する。つまり、比較例及び実施例のタイヤは、全て、センター陸部、メディエイト陸部、ショルダー陸部を有する。そして、ショルダー陸部に、そのタイヤ幅方向一方側の端部から伸びてショルダー陸部内で終端する第一横溝と、そのタイヤ幅方向他方側の端部から伸びてショルダー陸部内で終端する第二横溝とが設けられ、第一横溝と第二横溝とがタイヤ周方向にオーバーラップしている。タイヤのサイズはいずれも205/60R16である。
【0039】
比較例及び実施例の空気入りタイヤのトレッドゴムの厚みに関する特徴は表1の通りである。表1において、「オーバーラップ領域におけるトレッドゴムの厚みA」とは、トレッドゴムの厚みのオーバーラップ領域全体での平均のことである。
【0040】
比較例1の空気入りタイヤは従来から知られている空気入りタイヤで、ショルダー陸部のタイヤ幅方向内側から外側へかけてトレッドゴムの厚みが減少しているものである。また比較例2の空気入りタイヤは、オーバーラップ領域のみトレッドゴムの厚みを厚くするのではなく、ショルダー陸部全体のトレッドゴムの厚みを厚くしたものである。なお、表1における比較例1、2及び実施例3の「最大厚み位置におけるトレッドゴムの厚みC」は、実施例1、2の最大厚み位置と同じタイヤ幅方向の位置におけるトレッドゴムの厚みのことである。
【0041】
実施例1〜3の空気入りタイヤは、いずれも上記実施形態の空気入りタイヤであるが、「オーバーラップ領域におけるトレッドゴムの厚みA」が異なる。実施例3の空気入りタイヤではオーバーラップ領域においてトレッドゴムの厚みが一定である。
【0042】
実施例1、2の空気入りタイヤにおいて、オーバーラップ領域のタイヤ幅方向の長さは23mmであり、オーバーラップ領域よりタイヤ幅方向内側の非オーバーラップ領域のタイヤ幅方向の長さは6mmである。そして表1に記載のように「ショルダー陸部のタイヤ幅方向内側端部から最大厚み位置までの長さ」は17.5mmである。よって、実施例1、2の空気入りタイヤの最大厚み位置は、オーバーラップ領域のタイヤ幅方向の中心位置にあたる。
【0043】
評価方法は次の通りである。
転がり抵抗係数:JIS D4234に準拠した転がり抵抗試験を実施し、転がり抵抗係数を求め指数化した。指数が小さいほど転がり抵抗係数が小さい。
制動性能:タイヤを実車に装着し、走行速度を100km/hから0km/hに落としたときの制動距離を測定し、指数化した。指数が大きいほど制動性能に優れている。
【0044】
評価結果は表1の通りである。実施例1〜3のタイヤは、比較例1、2のタイヤと比較して制動性能に優れるにもかかわらず転がり抵抗係数が極端に悪化していないことが確認できた。