(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6542260
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】無段変速機用のプッシュベルト用の突出した傾動ゾーンを備えた横断セグメント
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20190628BHJP
【FI】
F16G5/16 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-565341(P2016-565341)
(86)(22)【出願日】2014年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-515070(P2017-515070A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】EP2014058783
(87)【国際公開番号】WO2015165511
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リーチャオ パン
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−107547(JP,U)
【文献】
特開平01−135944(JP,A)
【文献】
特開平06−010993(JP,A)
【文献】
特表2010−513794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ベルト(3)用の横断セグメント(32)であって、
前記駆動ベルト(3)は、複数の前記横断セグメント(32)と無端キャリア(31)とを有しており、
前記無端キャリア(31)は、前記無端キャリア(31)と前記横断セグメント(32)とが、前記駆動ベルト(3)の各横断セグメント(32)のキャリア接触面(42)を介して接触している間に、前記横断セグメント(32)が前記無端キャリア(31)の周囲に沿って可動に、前記横断セグメント(32)の開口(33)内に少なくとも部分的に位置していて、
前記無端キャリア(31)の外側に位置する、前記横断セグメント(32)の少なくとも上方部分(36)は、前記無端キャリア(31)の周方向で互いに反対側を向いた前記横断セグメント(32)の第1主面(38)と第2主面(39)との間で厚さ方向に延在している、駆動ベルト(3)用の横断セグメント(32)において、
前記周方向で、前記キャリア接触面(42)は、前記横断セグメント(32)の前記両主面(38,39)の間から、前記両主面のうちの第1主面(38)を越えて延在しており、
前記キャリア接触面(42)は、凸状に湾曲した第1の移行面(52)を介して前記第1主面(38)に接続されていて、かつ前記キャリア接触面(42)は、凹状に湾曲した第2の移行面(53)を介して前記第2主面(39)に接続されており、
前記第1の移行面(52)と前記第2の移行面(53)とは弧状であり、前記第1の移行面(52)の曲率中心(CoC)及び/又は前記第2の移行面(53)の曲率中心は、前記キャリア接触面(42)に一致していることを特徴とする、駆動ベルト(3)用の横断セグメント(32)。
【請求項2】
前記第1の移行面(52)と前記第2の移行面(53)とは円弧に沿って形成されている、請求項1記載の横断セグメント(32)。
【請求項3】
前記第1の移行面(52)の曲率半径と前記第2の移行面(53)の曲率半径とが等しい、請求項1又は2記載の横断セグメント(32)。
【請求項4】
前記第1の移行面(52)の曲率半径及び前記第2の移行面(53)の曲率半径は、前記横断セグメント(32)の厚さ寸法の半分である、請求項1から3までのいずれか1項記載の横断セグメント(32)。
【請求項5】
前記第1の移行面(52)の曲率中心(CoC)は、前記横断セグメント(32)の前記第1主面(38)によって規定される平面に一致している、請求項1から4までのいずれか1項記載の横断セグメント(32)。
【請求項6】
前記第2の移行面(53)の曲率中心は、前記横断セグメント(32)の前記第2主面(39)によって規定される平面に一致している、請求項1から5までのいずれか1項記載の横断セグメント(32)。
【請求項7】
前記第2主面(39)から前記第1主面(38)への方向で見て、前記キャリア接触面(42)は、前記横断セグメント(32)の前記上方部分(36)から離れるように傾斜しており、これにより前記キャリア接触面(42)は、前記横断セグメント(32)の前記第2主面(39)に対して垂直に向けられた線に対して所定の角度を成して方向付けられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の横断セグメント(32)。
【請求項8】
前記キャリア接触面(42)と、前記横断セグメント(32)の前記第2主面(39)に対して垂直な線との間の前記角度は、前記駆動ベルト(3)における隣接する2つの横断セグメント(32)間で生じ得る最も大きな回転角度に相当する、請求項7記載の横断セグメント(32)。
【請求項9】
無端ベルト(31)と、請求項1から8までのいずれか1項記載の複数の横断セグメント(32)とを備えた駆動ベルト(3)において、前記駆動ベルト(3)において隣接する前記横断セグメント(32)の前記キャリア接触面(42)は、連続的な1つの面を形成することを特徴とする、駆動ベルト(3)。
【請求項10】
2つのプーリ(1,2)と、無端キャリア(31)及び請求項1から8までのいずれか1項記載の複数の横断セグメント(32)を備えた駆動ベルト(3)とを有した無段変速機であって、 前記キャリア接触面(42)と、前記横断セグメント(32)の前記第2主面(39)に対して垂直な線との間の角度は、変速機プーリ(1,2)によって規定される前記駆動ベルト(3)の最も小さい走行半径に関連する、隣接する2つの横断セグメント(32)間の回転角度に相当することを特徴とする、無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無段変速機用のプッシュベルト式駆動ベルトの一部であることを想定とした横断セグメントに関する。無段変速機用のプッシュベルトは一般的に公知である。このようなプッシュベルトは、少なくとも1つの、しかしながら通常は2つの無端の、即ちリング状のキャリアを有しており、これらのキャリアはそれぞれ同心的に取り付けられた連続的な複数の帯から成っていて、複数の横断セグメントを支持している。横断セグメントはこのキャリアの全周に沿って可動に配置されていて、プッシュベルトが設けられているトランスミッションの運転に関係する力を伝達する。
【0002】
横断セグメントの以下の説明では、言及される方向は、横断セグメントがブッシュベルトの一部である状態に関する。横断セグメントの縦方向又は厚さ方向は、プッシュベルトの周方向に対応する。横断セグメントの鉛直方向又は高さ方向は、プッシュベルトの半径方向に対応する。横断セグメントの水平方向又は幅方向は、前記縦方向と鉛直方向とに対して垂直な方向に対応する。隣接する横断セグメントに対して先行する横断セグメント又は後続の横断セグメントとして横断セグメントを記載する場合、変速機内での作動中の全体としてのプッシュベルトの移動の方向、即ち回転方向に関して述べている。
【0003】
横断セグメントには、少なくとも1つの無端キャリアを少なくとも部分的に収容するための少なくとも1つの開口が設けられている。横断セグメントは、無端キャリアの半径方向内側に接触するために、前記開口の半径方向内側又は下方の境界であるキャリア接触面を有している。無段変速機のプーリの円錐状シーブに接触するために、横断セグメントの水平方向で見て両側にプーリシーブ接触面が設けられていて、これらの接触面は半径方向外側方向に向かって、円錐状のプーリシーブ間でこれらプーリシーブによって規定される角度に相当する角度で互いに拡開している。
【0004】
鉛直方向で見て、横断セグメントの厚さは減じられていて、これにより隣接する横断セグメントは、水平方向軸線を中心として相互に回転可能である。この場合、プッシュベルトは全体として、円錐状のプーリシーブ間で必要であるような湾曲軌道に追従している。通常、横断セグメントの上方部分はほぼ一定の厚さを有しており、これに対して下方部分の厚さは下方向に向かって減少している。このような厚さ減少は段階的であってよく、しかしながら通常、プッシュベルトの縦方向に、即ち、周方向に向けられている横断セグメントの主面の少なくとも一方に設けられた凸状湾曲部を含む。
【0005】
各主面(以後、この各主面を前側主面と言う)に設けられた前記凸状湾曲部はしばしば、この技術分野では、ロッキングエッジ又は傾動ゾーンと言われる。この凸状湾曲部は、それぞれ反対側、即ち横断セグメントの後側主面に対して平行に向けられた前側主面の上方部分と、半径方向内側方向で後側主面に向かって傾斜している横断セグメントの下方部分との間の移行部を形成している。横断セグメントのこのような特別な設計は、例えば日本の特許文献である特開2000−065153号公報により公知である。
【0006】
特開昭58−081252号公報により公知の横断セグメントの選択的な設計では、横断セグメントの主面の平行な上方部分と、傾斜した下方部分との間の前記移行部は、前側主面に対して縦方向で突出するほぼ半円筒状の突起により形成されている。この突起を収容するために、横断セグメントの後側主面には溝が設けられていて、プッシュベルトにおいて、それぞれ後続の横断セグメントの突出した突起は、それぞれ先行する横断セグメントの溝内に位置する。この後者の横断エレメント設計の基本的な利点は、プッシュベルトにおいて隣接する横断セグメントが、プッシュベルトの湾曲した軌道においても突起の比較的大きな面積にわたって接触状態で維持されることにある。さらに隣接する横断セグメント間の突起と溝のこのような接続により、これらの横断セグメントは鉛直方向で互いに対して位置決めされ、好適にはこれらの横断セグメント間の縦方向軸線を中心とした相対回動が阻止される。
【0007】
プッシュベルトの作動中、無端キャリアは滑る場合があり、即ち横断セグメントに対して相対的に動く場合があり、このような動きは、摩擦(熱)による望ましくない出力損失を伴う。このような出力損失は、キャリア接触面と傾動ゾーンとの間の垂直方向の隔たりを最小化することにより最小限にすることができる。何故ならば、横断セグメントに対する無端キャリアの縦方向速度又は滑り速度は、このような隔たりに比例することが知られているからである。特開2000−065153号公報による横断セグメントの設計では、前記滑り速度をゼロにまで減じるために、傾動ゾーンは理論的にはキャリア接触面に隣接しているが、実際にはこの点でいくつかの制限があり、最も顕著な制限は、横断セグメントの望ましい製造プロセス、即ち打ち抜き加工及び石研磨に起因するものである。しかしながら特開昭58−081252号公報による横断セグメントの設計では、突起は所定の距離を置いて設けることしかできず、突起は必然的に、キャリア接触面の下方に所定の距離を置いて位置している。即ち、突起の突出する凸状の湾曲部は理論的には、キャリア接触面に隣接するように設計することができるが、この突起はそこから半径方向内側方向で、この突起を画定する凸状湾曲部の幅全体にわたって継続する。
【0008】
本開示は、このような公知の両設計の有利な特徴のうちの少なくともいくつかの特徴を組み合わせようとするものである。特に本開示は、横断セグメントの、特に横断セグメントの前側主面の平行な上方部分と、横断セグメントの傾斜した下方部分との間の移行部の設計を提供することを課題としていて、この移行部は好適にはキャリア接触面の近くに位置していて、又はキャリア接触面に隣接していて、好適には、プッシュベルトにおいて隣接する横断セグメント間に単なる接触線ではない接触領域を提供する。
【0009】
本開示によれば、横断セグメントのキャリア接触面は、横断セグメントの両主面の間から、このような主面のうちの一方を越えて延在している。好適には、キャリア接触面は、凸状に湾曲された移行面を介して前記一方の主面の下方部分に接続されていて、かつ凹状に湾曲された移行面を介して横断セグメントのそれぞれ他方の主面に接続されている。従ってプッシュベルトにおいて、それぞれ後続の横断セグメントのキャリア接触面のこのように突出した部分は、先行する横断セグメントの凹状に湾曲された移行面により前記他方の主面とキャリア接触面との間に形成された凹部内に収容されている。これにより、後続の横断セグメントの前記凸状に湾曲された移行面は、横断セグメントの傾動ゾーンを形成し、この移行面は、先行する横断セグメントの凹状に湾曲された移行面に滑り接触し、これによりこれら隣接する横断セグメントは、水平方向を中心として互いに回転することができる。
【0010】
横断セグメントのこの凸状に湾曲された移行面の新規の設計では、傾動ゾーンは好適にはキャリア接触面の近くに、隣接して設けられているだけではなく、前記移行面が、好適にはプッシュベルト内で隣接する横断セグメント間の接触のために利用可能な比較的大きな表面積を画定する。
【0011】
これ以降、横断セグメントが、その前面に形成された突起と、その背面に形成された凹部を備えているものとして説明するが、本開示を変更することなくこの関係は逆であってもよい。
【0012】
好適には本開示によれば、移行面の第1の又は前側のものと、第2の又は後側のものとは、ほぼ一定の曲率半径により画定される、即ち円弧として形成される。さらに好適には、前側移行面の曲率中心は、前側主面の上方部分によって画定される前記平面に位置している。さらに好適には、後側移行面の曲率中心は、後側主面の少なくとも一部によって画定される平面に位置している。
【0013】
好適には、前側移行面の曲率半径は、横断セグメントの厚さのほぼ半分に相当する。さらに好適には、後側移行面の曲率半径も、横断セグメントの厚さのほぼ半分に相当する。
【0014】
好適には、キャリア接触面は、後側主面から前側主面への方向で見た場合に鉛直方向で僅かに下方に向けられている。さらに好適には、キャリア接触面と、横断セグメントの後側主面に対して垂直な線との間の角度は、プッシュベルトにおいて隣接する2つの横断セグメント間で可能な最も大きな回転角度、及び/又は変速機におけるプッシュベルトの最も小さい走行半径に関連する、隣接する2つの横断セグメント間の回転角度にほぼ相当する。
【0015】
図面を参照した発明の以下の説明に基づいて上述した新規の横断セグメントがさらに説明される。図面において、同じ参照符号は、同じ又は類似の部分を示している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】プッシュベルトを有する無段変速機を概略的に示す側面図である。
【
図2】無段変速機用のプッシュベルトの公知の横断エレメントを示す正面図である。
【
図3】
図2に示された公知の横断セグメントの側面図である。
【
図4】本開示による新規の横断セグメントの正面図である。
【
図5】
図4に示された新規の横断セグメントの側面図である。
【
図6】
図4及び
図5に示された新規の横断セグメントの等角投影図である。
【
図7】本開示による連続した複数の新規の横断セグメントの列を概略的に示す図である。
【
図8】新規の横断セグメントのさらに別の2つの態様を示す側面図である。
【0017】
図1は、自動車において利用されるような無段変速機を概略的に示している。この無段変速機は、それぞれプーリシャフト6,7に配置されている2つのプーリ1及び2を有している。駆動ベルト3は、プーリ1,2を取り巻く閉じたループとして設けられており、プーリシャフト6,7間でトルクを伝達するために機能する。プーリ1,2には、それぞれ2つのプーリシーブ4,5と、各プーリ1,2の前記2つのプーリシーブ4,5の間に位置決めされかつ締め付けられた駆動ベルト3とが設けられている。従って、力は、プーリ1,2間で、駆動ベルト3を介して、プーリ1,2と駆動ベルト3との間の摩擦を利用して伝達されてよい。
【0018】
図示した変速機の構成で、上方のプーリ1は下方のプーリ2よりも速く回転する。プーリ1,2の2つの円錐状のシーブ4,5間の距離を変更することにより、各プーリ1,2上の駆動ベルト3のいわゆる走行半径Rを相互に対応する形式で変更することができ、結果として2つのプーリ1,2の回転速度間の(変速)比を変更することができる。
【0019】
図1の駆動ベルト3は、フレキシブルな無端キャリア31と、実質的に連続した複数の横断セグメント32の列とを含んでいる。横断セグメント32は、無端キャリア31の周面に取り付けられていて、この周面に沿って配置されている。横断セグメント32は、少なくとも無端キャリア31の周方向で、無端キャリア31に対して可動に設けられていて、これにより、互いに押し付けられ合い、プッシュベルト3及びプーリ1,2の回転方向で無端キャリア31に沿って前進方向で互いに押される横断セグメント32によって変速機プーリ1,2間でトルクを伝えることができる。このような特殊な形式の駆動ベルト3は、よく知られており一般にプッシュベルト3と言われる。
【0020】
プッシュベルト3の横断セグメント32と無端キャリア31とは典型的には金属、通常は合金鋼から製造されている。横断セグメント32は、各プーリ1,2のシーブ4,5の間に働くクランプ力を、横断セグメント32の接触面37(
図2及び
図3参照)を介して受け取り、この接触面37は、各横断セグメント32の各軸方向面に設けられている。これらの接触面37は、半径方向外側方向でV字角度Φを成して互いに拡開しており、このV字角度Φは実質的に、各プーリ1,2のシーブ4,5間で画定されるシーブ角度Φに適合する。
【0021】
図2にはプッシュベルト3が、このベルト3の周方向で見た、即ち、ベルト3の軸方向又は幅方向Wと半径方向又は高さ方向Hとに対して垂直方向で見た断面図で示されている。プッシュベルトの周方向は、横断セグメント32の縦方向又は厚さ方向Tに相当する。
【0022】
図2には2つの無端キャリア31の存在が示されており、これらの無端キャリア31は
図2に横断面で示されている。これらの無端キャリア31は、プッシュベルト3の複数の横断セグメント32を支持し、かつガイドする。これらの横断セグメント32のうち1つが正面図で示されている。プッシュベルト3のこの実施態様では、無端キャリア31がそれぞれ5つの個別の連続帯43から成っていて、これらの帯43は互いに同心的に重ねられて、無端キャリア31を形成していることが示されている。しかしながら実際には、無端キャリア31はしばしば、5つよりも多くの、例えば9又は12又はそれ以上の無端帯43を有している。
【0023】
図3に側面図が示されたプッシュベルト3の横断セグメント32は、プッシュベルト3の互いに反対の周方向に向けられている2つの主面38及び39を有している。以下では、これら主面38,39のうち前側主面は概して参照符号38によって示されているのに対し、主面38,39のうち後側主面は概して参照符号39によって示されている。プッシュベルト3において、横断セグメント32の前側主面38の少なくとも一部分は、それぞれ先行する横断セグメント32の後側主面39の少なくとも一部分と接触するのに対し、横断セグメント32の後側主面39の少なくとも一部分は、それぞれ後続の横断セグメント32の前側主面38の少なくとも一部分と接触し、これによりこれらの隣接する横断セグメント32間に押す力が加えられる。
【0024】
無端キャリア31を収容するために、横断セグメント32には2つの切欠33が設けられており、切欠33はそれぞれ横断セグメント32の中央の中間部分35の両側方面に設けられている。結果として、横断セグメント32の下方部分34は無端キャリア31の下方に位置していて、横断セグメント32の中間部分35は、両無端キャリア31の間に位置していて、横断セグメント32の上方部分36は無端キャリア31の上方に位置している。切欠33の位置における横断セグメント32の下方部分34の上方を向いた、通常、横断セグメント32の上方部分36に向かう面部分は、無端キャリア31の半径方向内側に接触しており、横断セグメント32のキャリア接触面42と呼ばれる。従って、このキャリア接触面42は、横断セグメント32の前側主面38と後側主面39との間に延在している。
【0025】
さらに、横断セグメント32には、横断セグメント32の前側主面38から突出する突出部40と、後側主面39に設けられた対応する穴41とが設けられていることが図示されている。プッシュベルト3では、後続の横断セグメント32の突出部40が、先行する横断セグメント32の穴41内に少なくとも部分的に位置しており、これにより、これら隣接する横断セグメント32の、プッシュベルト3の周方向に対して垂直な平面における相互のずれは阻止され、少なくとも制限される。
【0026】
少なくとも
図2及び
図3に示した横断セグメント32の実施態様では、横断セグメント32の後側主面39はほぼ扁平であり、前側主面38にはいわゆる傾動ゾーン18が設けられている。この傾動ゾーン18は、高さ方向Hで、後側主面39に対してほぼ平行に延在する前側主面38の上方部分と、後側主面39に向かって傾斜する前側主面38の下方部分との間に移行部を形成している。傾動ゾーン18により、隣接する横断セグメント32が相互に当接し、前記押す力がこれらの間にかかっている場合であっても、隣接する横断セグメント32は、プーリ1,2の入口又は出口で互いに回転することができる。
図2及び
図3では傾動ゾーン18は概略的に1つの線によってのみ示されているが、実際には傾動ゾーン18は主として、凸状に湾曲した面の形状で設けられている。
【0027】
本開示により、横断セグメント32の、特に横断セグメント32の傾動ゾーン18の選択的な新規の設計が提供される。この選択的な設計は、プッシュベルト3における隣接する横断セグメント32の、少なくとも横断セグメント32の改善された摩耗耐性及び/又は改善された効率という意味で、好適な相互接触を提供することをねらいとしている。このような新規の横断セグメント32の態様は、
図4、
図5、
図6に示されており、このうち、
図4には正面図が、
図5には
図4のA−A線に沿った断面図が、
図6には(等角投影図の)立体図が示されている。
【0028】
本開示による横断セグメント32の図示した態様では、横断セグメント32のキャリア接触面42は、後側主面39と前側主面38との間から、横断セグメント32の前側主面38を越えて延在している。これにより、突起50が横断セグメント32の前面(即ち前側主面38に関連する側)に形成され、凹部51が横断セグメント32の背面39(即ち後側主面39に関連する側)に形成される。プッシュベルト3では、後続の横断セグメント32のこのような突出部50が、先行する横断セグメント32の凹部51内に収容されており(
図7も参照)、これにより、これら横断セグメント32は、プッシュベルト3の軸方向を中心として互いに相対的に回転することができる。このような相対回転の支点は、突出部50と凹部51との形状により規定される。横断セグメント32は、その前面38に形成された突起50と、その背面39に形成された凹部51を備えて示されているが、本開示の教示を代替することなく逆であってもよい。
【0029】
横断セグメント32の図示した態様では、横断セグメント32のキャリア接触面42は、凸状に湾曲した前側移行面52を介して前側主面38の底部部分に接続されている。さらに、横断セグメント32のキャリア接触面42は、凹状に湾曲した後側移行面53を介して後側主面39に接続されている。前側主面38と後側主面39の上方部分は高さ方向に向けられていて、キャリア接触面42は少なくともほぼ厚さ方向に向けられているので、主面とキャリア接触面との間に設けられた前側移行面52と後側移行面53とは約90°の角度を含み、従って、実際には四分円筒セグメントを画定する突起50と凹部51とが形成される。
【0030】
横断セグメント32のこのような新規の設計では、横断セグメント32の前述した相対回転に伴い、突出部50の凸状に湾曲した前側移行面52が、凹部51の凹状に湾曲した後側移行面53に接触して、この移行面53に沿って摺動する。前記移行面52,53を互いに滑らかに摺動させるために、これらは両方とも、円弧に沿った形状である。この目的のためにも、プッシュベルト3における隣接する横断セグメント32間の相対回転の支点としても機能する、前側移行面52の曲率中心は、各横断セグメント32の前側主面38と一致しており、後側移行面53のこのような曲率中心は、後側主面39と一致している。さらに、同じ目的のために、前側移行面52の曲率中心と後側移行面53の曲率中心とは好適には、キャリア接触面42によって規定される平面に位置している。最後に、同じ目的のために、前側移行面52の曲率半径と後側移行面53の曲率半径とは、横断セグメント32の厚さのほぼ半分に相当する。又は、言い換えると、キャリア接触面42のほぼ半分は、後側主面39と前側主面38との間に位置していて、キャリア接触面42のもう半分は、横断セグメント32の前側主面38を越えて突出している。
【0031】
横断セグメント32の上述した設計により、前側移行面52と後側移行面53とは、プッシュベルト3の隣接する横断セグメント32間の接触のために好適には利用可能な比較的大きな表面面積を画定する。結果として、プッシュベルト3の作動中に隣接する横断セグメント32間にかけられる接触圧は好適には比較的低い。付加的に、このような隣接する横断セグメント32において必要な相対回動の支点は、キャリア接触面42の近くに位置していて、又はキャリア接触面42と一致している。これにより、プッシュベルト3の作動中の横断セグメント32に対して相対的な無端キャリア31の移動、ひいてはこれに伴う望ましくない出力損失は最小限である。
【0032】
横断セグメント32の新規の設計では、通常、製造時に形成される、又は作動中の摩耗の結果である、前側主面38とキャリア接触面42との間の丸み付けされた移行縁は、前記支点の位置に何の影響も及ぼさない。これに対して、従来の横断セグメント32では、このように丸み付けされた移行縁により、キャリア接触面42と傾動ゾーン18との間で垂直方向の隔たりが生じるのが必須であり、これは変速機の全体的なトルク伝達効率の低下につながる。
【0033】
さらに注意されたいのは、新規の横断セグメント32の隣接するものが、相互に回転させられる場合、これら新規の横断セグメント32のプッシュベルト3の周方向における効果的な厚さは好適には一定に維持されることである。これに対し、従来の横断セグメント32の隣接するものが、互いに対して徐々に回転させられる場合には、これらの間の接触線が、傾動ゾーン18に沿って半径方向内側方向でずれ、これにより、これら従来の横断セグメント32の効果的な厚さは減少し、これにより望ましくないことには、プッシュベルト3の横断セグメント32の列内での遊び又は隙間が増大する。
【0034】
図7には、本開示による連続した複数の新規の横断セグメント32が、プッシュベルト3で生じる相互の向きを説明するために示されている。
図7の左側及び右側では、3つの横断セグメント32が、それぞれ先行する(
図7左側)又は後続の(
図7右側)横断セグメント32に対して相対的に回転された向きで示されている。
図7の中央には、互いに整列した4つの横断セグメント32が示されている。即ち、これら4つの横断セグメント32の前側主面38及び後側主面39の上方部分は平行に向けられている。
【0035】
図7により、相対回転された横断セグメント32が(少なくとも)突出部50の前側移行面52と凹部51の後側移行面53とを介して相互接触していることが示されている。さらに、
図7により、隣接する横断セグメント32間の相対回転の結果として、プッシュベルト3の局所的な周方向に関するキャリア接触面42の向きが変更されることがわかる。従って、キャリア接触面42は凹部51から突出部50に向かう方向で見て、かつ後側主面39と前側主面38の前記上方部分に対して垂直に向けられた仮想線VLに対して相対的に、少なくとも僅かに下方の方向に向かって延在している。これに関して、キャリア接触面42の縁部は、変速機のプッシュベルト3の軌道の最も強度に湾曲した部分においても、隣接する横断セグメント32の間に突出していないことが有利である。この軌道部分では、隣接する横断セグメント32間の相対回転の角度α1が最も大きい。従って好適には、キャリア接触面42は、前記仮想線VLに対して角度α2で方向付けられていて、この角度α2は、横断セグメント32間の最も大きな相対回転の前記角度α1に相当する。さらに、
図7の横断セグメント32の好適な実施態様では、各横断セグメント32の前側移行面52の曲率中心CoCは、前側主面38の上方部分と、前側主面38の上方部分に対して垂直に向けられたキャリア接触面42の接線VLとの間の交点に一致する。
【0036】
本開示による新規の横断セグメント32の2つの別の態様が
図8に断面図で示されている。
図8の左側の態様では、前側移行面52の曲率中心CoCは、横断セグメント32の前側主面38と一致しているが、キャリア接触面42(によって規定される平面)の上方に位置している。選択的に、
図8の右側の態様では、前側移行面52の曲率中心CoCは、キャリア接触面42の下方に位置している。新規の横断セグメント32のこれら2つの態様のうち1つを選択することにより、横断セグメント32に対して相対的な無端キャリア31の滑りの方向は制御でき、前側移行面52の各曲率中心CoCとキャリア接触面42との間の垂直方向の隔たりにより滑りの速度が制御される。
【0037】
本開示は、前記説明の全て及び添付図面の全ての詳細に加えて、添付の特許請求の範囲の全ての特徴にも関しかつこれらの特徴を含む。請求項における括弧書きの符号は、請求項の範囲を限定するのではなく、単に、それぞれの特徴の拘束しない例として提供されている。請求項に記載された特徴は、場合によって、任意の製品又は任意の方法において別々に適用することができるが、これらの特徴の2つ以上のあらゆる組合せを適用することも可能である。
【0038】
本開示によって表された発明は、明細書に明示的に言及された実施の形態及び/又は実施例に限定されるのではなく、その補正、変更及び実用的な適用、特に当業者の到達範囲にあるものをも包含する。