特許第6542655号(P6542655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6542655
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】シリンダブロックの摺動面成形方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/22 20060101AFI20190628BHJP
   F03C 1/253 20060101ALI20190628BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20190628BHJP
   F04B 53/00 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   F04B1/22
   F03C1/253
   B22F7/08 E
   F04B53/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-234827(P2015-234827)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-101584(P2017-101584A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 修一
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−104466(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/061608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/22
B22F 7/08
F03C 1/253
F04B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、この回転軸の回転に伴って中心軸の周りに回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックのシリンダボアに収容されるピストンとを備えた液圧回転機の当該シリンダボア内側の円筒面に対して表面処理を行い、前記シリンダボアの摺動面を成形するシリンダブロックの摺動面成形方法であって、
銅合金及び高摺動性の添加元素が含有された紛体を前記シリンダボア内に圧縮して充填し、前記シリンダボア内側の円筒面に密着した圧粉成形体を形成する圧縮充填工程と、
前記圧縮充填工程で形成された前記圧粉成形体を焼結する焼結工程と
前記圧粉成形体の中央部を加工除去し、前記シリンダボア内側の円筒面に摺動面を形成する仕上げ工程とを備え、
前記圧縮充填工程は、前記圧粉成形体に含まれる前記高摺動性の添加元素の濃度が前記シリンダボアの軸方向及び軸周りの少なくとも一方で異なるように、前記圧粉成形体において前記高摺動性の添加元素を分散させたことを特徴とするシリンダブロックの摺動面成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダブロックの摺動面成形方法において、
前記紛体は、前記銅合金の素地となる成分から構成され、前記高摺動性の添加元素を内部に含む銅合金粒子の集合体から成り、
前記圧縮充填工程における前記シリンダボアへの前記紛体の充填は、前記銅合金粒子中の前記銅合金と前記高摺動性の添加元素との重量比率を途中で変化させながら行われることを特徴とするシリンダブロックの摺動面成形方法。
【請求項3】
請求項1に記載のシリンダブロックの摺動面成形方法において、
前記紛体は、前記銅合金の素地となる成分から構成され、前記高摺動性の添加元素を内部に含まない複数の銅合金粒子と、前記高摺動性の添加元素のみから構成された複数の高摺動性粒子とを混合した混合紛体から成り、
前記圧縮充填工程における前記シリンダボアへの前記紛体の充填は、前記混合紛体中の前記銅合金粒子と前記高摺動性粒子との混合比率を途中で変化させながら行われることを特徴とするシリンダブロックの摺動面成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプや油圧モータ等の液圧回転機におけるシリンダブロックの摺動面を成形するシリンダブロックの摺動面成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、油圧ポンプや油圧モータに代表される液圧回転機等の油圧駆動機器は、多くの摺動部品から構成されており、その摺動面は高い摺動面圧による潤滑油膜切れ、及び制御油圧の変動による摺接状態の不安定化等の影響により、摺動面同士の焼付きや局部的な異常摩耗等の発生リスクを有していることから、これらの摺動部品の素材として主に鉄鋼材が使用されている。
【0003】
従って、液圧回転機等の油圧駆動機器の代表的な構成部品であるシリンダブロックのシリンダボアとピストンは鉄鋼材で形成されているが、特にシリンダボアは摺動相手であるピストンとの摺動によって摩耗や焼付き現象が発生し易いので、これらの摩耗や焼付き現象の発生を抑えるために、シリンダボアとピストンの摺動面には様々な表面改質や表面加工等の表面処理が行われている。
【0004】
このような表面処理の従来技術の1つとして、鉄系材料よりなるシリンダブロックのシリンダボア内側に、銅系材料の円筒成形体、すなわち、銅合金ライナーを焼結により接合させ、この接合後の密度を焼結前の円筒成形体よりも高密度化させた焼結接合シリンダブロックが従来技術の1つとして提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この従来技術の焼結接合シリンダブロックは、シリンダボア内側に焼結された銅合金ライナーによってピストン及びシリンダボアの焼付きによる両摺動面の固着を回避しているが、この銅合金ライナーは鉛青銅によって形成されており、その鉛含有率は10%以上であるのが一般的であり、環境への影響等を考慮すると好ましくない。
【0006】
特に現在では、電気電子製品に対するRoHS指令、及び廃棄自動車に対するELV指令等、世界的な環境負荷物質使用削減の動向から、鉛含有銅合金の低鉛化が進められており、銅合金の鉛含有率を4%以下まで削減した上で、従来技術と同等以上の摺動性能を発揮するシリンダブロックを開発する必要がある。
【0007】
ここで、銅合金の鉛含有量を抑えたシリンダブロックの開発に役立つ従来技術の1つとして、銅及びスズを主成分とする青銅合金中にビスマス、ニッケル、及び硫黄がそれぞれ所定の割合で含有するように、銅及びスズに、ビスマス、ニッケル、及び硫黄を添加することにより、α銅中に片状の銅スズ系金属間化合物が析出した微細積層構造を有すると共に、ビスマスを含む金属微粒子が分散析出した共析相を出現させる青銅合金の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
この従来技術の青銅合金の製造方法によって製造された青銅合金は、銅スズ系金属間化合物の微細積層構造及びビスマス等の金属微粒子の共析相によって優れた摩耗摩擦特性や耐焼付性を有するものであり、摺動部材として用いることができる。従って、上述した従来技術の青銅合金の製造方法で製造された特殊な青銅合金を用いて銅合金ライナーを形成し、この銅合金ライナーをシリンダボアの摺動面に適用すれば、鉛含有量を抑えつつ、シリンダボアの摺動面における摩耗や焼付き現象の発生を抑制できるように思える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−196552号公報
【特許文献2】特開2010−31347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示された従来技術の青銅合金の製造方法は、所定の温度範囲において2段階で進行する共析変態をビスマス、ニッケル、及び硫黄の添加元素で制御することにより、銅スズ系金属間化合物の微細積層構造及びビスマス等の金属微粒子の共析相を析出させるようにしているので、特殊な青銅合金を鋳造して製造する際にこれらの微細積層構造及び共析相を析出させる冷却温度条件が非常に厳密となり、製造上の管理が難しいことが問題になっている。従って、従来技術の青銅合金の製造方法で製造された青銅合金は、シリンダブロックのシリンダボアの摺動面に適用する摺動部材として適切ではない。
【0011】
また、従来技術の青銅合金の製造方法は、上述したようにビスマス等の金属微粒子の共析相を分散析出させるためにビスマスを必須の添加元素としているが、このビスマスは希少金属であることから価格が高く、鉛の代替材として使用した場合には製造コストが大幅に増大することが懸念されている。そのため、このようにビスマスが使用される場合でも、ビスマスの添加量はできる限り少量であることが望ましいが、ビスマスは上述したように分散析出して共析変態温度を低下させるのに必要であるだけでなく、耐圧性を良くする元素であるので、ビスマスの添加量を減らすことで摺動部材における摩耗摩擦特性や耐焼付性等の摺動性能の低下を招く虞がある。
【0012】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、シリンダボアの摺動面を容易かつ安価に成形することができ、優れた摺動性能を発揮させることができるシリンダブロックの摺動面成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明のシリンダブロックの摺動面成形方法は、回転軸と、この回転軸の回転に伴って中心軸の周りに回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックのシリンダボアに収容されるピストンとを備えた液圧回転機の当該シリンダボア内側の円筒面に対して表面処理を行い、前記シリンダボアの摺動面を成形するシリンダブロックの摺動面成形方法であって、銅合金及び高摺動性の添加元素が含有された紛体を前記シリンダボア内に圧縮して充填し、前記シリンダボア内側の円筒面に密着した圧粉成形体を形成する圧縮充填工程と、前記圧縮充填工程で形成された前記圧粉成形体を焼結する焼結工程と、前記圧粉成形体の中央部を加工除去し、前記シリンダボア内側の円筒面に摺動面を形成する仕上げ工程とを備え、前記圧縮充填工程は、前記圧粉成形体に含まれる前記高摺動性の添加元素の濃度が前記シリンダボアの軸方向及び軸周りの少なくとも一方で異なるように、前記圧粉成形体において前記高摺動性の添加元素を分散させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリンダブロックの摺動面成形方法によれば、シリンダの摺動面を容易かつ安価に成形することができ、優れた摺動性能を発揮させることができる。前述した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用される可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプの概略断面図である。
図2図1に示すシリンダブロック、ピストン、及び弁板の作用関係を説明する図である。
図3図1に示すシリンダボアとピストンの摺動状態を説明する図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの構成を示す断面図、及びシリンダボアの底部側に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの構成を示す断面図、及びシリンダボアのピストンの出入口側に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の構成を示す断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの構成を示す断面図、及びシリンダボアの底部側に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの構成を示す断面図、及びシリンダボアのピストンの出入口側に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図9】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの構成を示す断面図、及びシリンダボアのうちシリンダブロックの中心軸に対して向心方向側の領域に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図10】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の圧縮充填工程を説明する図であり、シリンダブロックの断面図、及びシリンダボアのうちシリンダブロックの中心軸に対して遠心方向側の領域に形成された圧粉成形体の構成を拡大して示す図である。
図11】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の構成を示す断面図である。
図12】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の構成を示す平面図である。
図13】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の他の例として、高摺動性の添加元素の濃度が高い領域を拡大して形成した構成を示す平面図である。
図14】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の他の例として、高摺動性の添加元素の濃度が高い領域を縮小して形成した構成を示す平面図である。
図15】本発明の第3実施形態に係るシリンダブロックの摺動面成形方法が適用されたシリンダブロックにおけるシリンダボアの摺動面の他の例として、高摺動性の添加元素の濃度が高い領域を縮小してシリンダボアの軸周りの任意の位置に形成した構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るシリンダブロックの摺動面成形方法、及びシリンダブロックを実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0018】
[シリンダブロックの摺動面成形方法の第1実施形態]
本発明に係るシリンダブロックの摺動面成形方法の第1実施形態は、例えば、図1に示す液圧回転機としての可変容量型斜板式アキシャルピストンポンプ(以下、便宜的に油圧ポンプと称する)1に適用される。
【0019】
図1に示すように、油圧ポンプ1は、外殻を形成するケーシング2と、このケーシング2の中央部において軸周りに回転可能に設けられた回転軸3と、この回転軸3の回転に伴って中心軸A(図2参照)の軸周りに回転するシリンダブロック4と、このシリンダブロック4の各シリンダボア5にそれぞれ収容される複数のピストン6とを備えている。
【0020】
ケーシング2は、回転軸3及びシリンダブロック4等の各部材を覆う筒状のケーシング本体11と、このケーシング本体11の両端側を閉塞するフロントケーシング12及びリヤケーシング13とから成っている。そして、リヤケーシング13は、シリンダブロック4内に作動油を供給あるいは排出する一対の給排通路14A,14Bを有している。これらの給排通路14A,14Bは、作動油の吸込側及び吐出側に設けられた図示しない配管等に接続されている。
【0021】
回転軸3は、フロントケーシング12とリヤケーシング13との間に軸受15,16等を介して回転可能に支持されている。また、回転軸3は、フロントケーシング12から軸方向に突出する突出端3Aが形成されており、この突出端3A側が、例えば、ディーゼルエンジン等の図示しない原動機によって回転駆動される。シリンダブロック4は、回転軸3の外周側にスプライン結合され、回転軸3と共に一体となって回転するようになっている。そして、シリンダブロック4は、両端面のうちフロントケーシング12側の一端が後述の斜板22に対向して配置され、両端面のうちリヤケーシング13側の他端は後述の弁板25に摺接するようになっている。
【0022】
シリンダブロック4は、内部に各ピストン6を包含する上述の複数のシリンダボア5を有しており、これらの各シリンダボア5は、回転軸3を中心としてシリンダブロック4の中心軸Aの周りに一定の間隔をおいて離間され、シリンダブロック4の中心軸Aの軸方向、すなわち回転軸3の軸方向に対して平行に配置されている。そして、各シリンダボア5の一端には、後述の弁板25を介してリヤケーシング13の給排通路14A,14Bに対して間欠的に連通又は遮断されるシリンダポート5Aが形成されている。
【0023】
また、油圧ポンプ1は、各ピストン6の端部に揺動可能にそれぞれ保持され、シリンダブロック4と共に回転する複数のシュー21と、ケーシング2のうちフロントケーシング12側に傾転可能に設けられ、各シュー21が摺接する斜板22と、各シュー21を各ピストン6の押付力によって斜板22側にそれぞれ押付ける複数のシュー押え23と、フロントケーシング12に設けられ、斜板22を揺動可能に支持するクレイドル24と、ケーシング2のうちリヤケーシング13側に配置され、リヤケーシング13とシリンダブロック4との間に設けられた弁板25と、斜板22を傾転駆動する傾転アクチュエータ26,27とを備えている。
【0024】
斜板22は、クレイドル24によって傾転可能に支持される斜板本体31と、この斜板本体31の表面側に固定して設けられ、シュー21が摺動する平滑板32と、回転軸3を挿通する軸挿通穴31Aとから成っている。なお、この軸挿通穴31Aの大きさは、回転軸3を挿通した状態において回転軸3が斜板22の傾転動作の妨げとならないように設定されている。また、平滑板32は、軸挿通穴31Aと同様に中央部がくり抜かれ、回転軸3を挿通させる軸挿通穴32Aを有しており、ドーナツ型の円盤状に形成されている。
【0025】
クレイドル24は、斜板22の裏面側に配置され、ケーシング2のフロントケーシング12に固定されている。また、クレイドル24には、回転軸3を挟んで左右あるいは上下に離間した一対の傾転摺動面24Aが設けられており、この傾転摺動面24Aは、斜板22を傾転可能に支持するように凹湾曲状の円弧面に形成されている。そして、斜板本体31がフロントケーシング12側にクレイドル24の傾転摺動面24Aを介して傾転可能に取付けられている。また、傾転アクチュエータ26,27は、外部から傾転制御圧が給排されて加えられる傾転制御圧に応じて斜板22の傾転角を可変に制御している。
【0026】
各シュー21は、各ピストン6からの押付力でシュー押え23等を介して斜板22の平滑板32の表面32Bにそれぞれ押付けられた状態で保持されている。弁板25は、シリンダブロック4の両端面のうちリヤケーシング13側の端面に摺接し、シリンダブロック4を回転軸3と共に回転可能に支持している。また、弁板25には、眉形状を有する一対の給排ポート25Aが形成されており、これらの給排ポート25Aは、リヤケーシング13の給排通路14A,14Bに連通され、シリンダブロック4が回転軸3の軸周りに回転したときに各シリンダボア5のシリンダポート5Aに間欠的に連通するようになっている。
【0027】
ここで、エンジン等の原動機によって回転軸3を回転駆動させると、シリンダブロック4が回転軸3の周りに回転軸3と一体となって回転する。このとき、斜板22は回転軸3に対して傾いているので、図2に示すように、ピストン6は、シリンダボア5内を上死点から下死点へ向けて摺動する吸入工程と、シリンダボア5内を下死点から上死点へ向けて摺動する吐出工程とを繰り返す。
【0028】
従って、ピストン6の吸入工程では、例えば給排通路14Bからシリンダボア5内に作動油が吸込まれ、ピストン6の吐出工程では、シリンダボア5内から給排通路14Aへ作動油が高圧の圧油として吐出される。その際、シリンダボア5内には、ピストン6が上死点から下死点までストロークして作動油の吸入を行うことによる負圧、及び下死点から上死点までストロークして作動油を押し退けることによる正圧が繰返し作用する。なお、回転軸3に対する斜板22の傾きによってピストン6のストローク長が増減されるので、傾転アクチュエータ26,27が斜板22の傾転角を制御することにより、シリンダボア5内における作動油の吸入量及び吐出量が調整される。
【0029】
また、シリンダブロック4が回転すると、ピストン6がシリンダブロック4の中心軸Aの周りに回転するので、ピストン6がシリンダボア5内で往復移動する間、ピストン6には回転軸3から遠心方向側(半径方向側)に向かう遠心力が作用する。これにより、図3に示すように、ピストン6はシリンダボア5内で偏荷重を受けてシリンダブロック1の中心軸Aに対して傾くので、ピストン6がシリンダボア5内側の円筒面に片当りしながら摺動する。そのため、この接触部位において非常に高い摺動面圧が作用することになるので、シリンダボア5の摺動面は摩耗や焼付き現象が発生し易くなっている。
【0030】
そこで、本発明の第1実施形態は、シリンダブロック4のシリンダボア5内側の円筒面に対して表面処理を行い、シリンダボア5内側の円筒面に被覆層46A,46B(図6参照)を形成してシリンダボア5の摺動面を成形することにより、ピストン6との摺動に伴う摩耗や焼付きからシリンダボア5を保護するようにしている。
【0031】
以下、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法及びその方法が適用されたシリンダブロック4を図4図6に基づいて詳細に説明する。
【0032】
本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法は、図4図6に示すように、銅合金41及び高摺動性の添加元素42が含有された紛体44をシリンダブロック4のシリンダボア5内に圧縮して充填し、シリンダボア5内側の円筒面に密着した圧粉成形体を形成する圧縮充填工程と、この圧縮充填工程で形成された圧粉成形体を焼結する焼結工程と、この焼結工程の後にシリンダボア5の摺動面を最終的に使用される形状に仕上げる仕上げ工程とを備えている。
【0033】
そして、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、上述の圧縮充填工程は、圧粉成形体に含まれる高摺動性の添加元素42の濃度がシリンダボア5の軸方向で異なるように、圧粉成形体において高摺動性の添加元素42を分散させるようにしている。
【0034】
具体的には、図4に示すように、最初にシリンダブロック4の素材である鉄鋼材に対して切削加工を施すことにより、シリンダブロック4の外形を作製する。次に、圧縮充填工程において、銅合金41の素地となる成分から構成され、高摺動性の添加元素42を内部に含む銅合金粒子43の集合体から成る紛体44を用意した後、銅合金粒子43中の銅合金41と高摺動性の添加元素42との重量比率を途中で変化させながらシリンダボア5への紛体44の充填を2回に渡って行う。
【0035】
本発明の第1実施形態では、銅合金粒子43中の銅合金41と高摺動性の添加元素42との重量比率を1回目と2回目の充填において変化させるために、まず、高摺動性の添加元素42をBwt%の割合で内部に含む銅合金粒子43Aの集合体から成る紛体44Aをシリンダボア5内に充填し、この紛体44Aを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Aを形成する。
【0036】
その後、図5に示すように、高摺動性の添加元素42をCwt%の割合で内部に含む銅合金粒子43Bの集合体から成る紛体44Bをシリンダボア5のうち圧縮固化層45Aの上に充填し、この紛体44Bを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Bを形成する。
【0037】
このとき、圧縮固化層45A,45Bのうち、ピストン6の出入口側に形成される圧縮固化層45Bの高摺動性の添加元素42の濃度は、シリンダボア5の底部側に形成される圧縮固化層45Aの高摺動性の添加元素42の濃度よりも高く設定される。すなわち、銅合金粒子43B中の高摺動性の添加元素42は、銅合金粒子43A中の高摺動性の添加元素42よりも多く含まれている(Bwt%<Cwt%)。なお、各銅合金粒子43A,43B中の高摺動性の添加元素42は、銅の比重よりも大きい鉛及びビスマスの少なくとも一方、例えば、鉛及びビスマスの双方から成り、このうち鉛の添加量は所定の規制値以下に設定される。
【0038】
このように、シリンダボア5内へ上記紛体44A,44Bを充填する順序に応じて、銅合金粒子43の内部に高摺動性の添加元素42を予め設定された割合で含ませておくことにより、各圧縮固化層45A,45B全体に高摺動性の添加元素42を均一に分散させることができる。また、シリンダボア5における各圧縮固化層45A,45Bの高さを調整することにより、シリンダボア5内側の円筒面のうち摺動面圧が高くなる部分に対して、高摺動性の添加元素42を高密度かつ選択的に配置することができる。これにより、シリンダボア5の摺動面の成形の自由度を高めることが可能となる。
【0039】
焼結工程では、圧縮充填工程で形成された各圧縮固化層45A,45Bを予め定められた条件で焼結することにより、図6に示すように、シリンダボア5の軸方向で高摺動性の添加元素42の濃度が異なる銅合金41の被覆層46A,46Bを形成してシリンダボア5内側の円筒面に接合する。そして、仕上げ工程では、各被覆層46A,46Bの中央部分及びシリンダブロック4の底部を切削又は研削して加工除去し、各被覆層46A,46Bを所定の寸法及び表面粗さに仕上げると共に、シリンダポート5Aを形成する。これにより、シリンダボア5内側の円筒面に所望の摺動面が成形されたシリンダブロック4を得ることができる。
【0040】
すなわち、シリンダボア5の摺動面は、銅合金41及び高摺動性の添加元素42を含有して構成され、シリンダボア5の軸方向において高摺動性の添加元素42の濃度が異なる被覆層46A,46Bから成り、これらの被覆層46A,46Bのうち被覆層46Bは、ピストン6の出入口側における高摺動性の添加元素42の濃度が、シリンダボア5の底部側における高摺動性の添加元素42の濃度よりも高い高濃度部として機能する。
【0041】
このように構成した本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法によれば、シリンダボア5内において、高摺動性の添加元素42の濃度が異なる圧縮固化層45A,45Bをシリンダボア5の軸方向に沿って積層し、これらの各圧縮固化層45A,45B全体に高摺動性の添加元素42を分散させた状態で圧縮固化層45A,45Bを焼結することにより、ピストン6がシリンダボア5内側の円筒面に方当りしながら摺動することで摺動面圧が高くなる領域に銅よりも高い摺動性能を示す鉛及びビスマスを集中して分布させることができる。そのため、鉛及びビスマスをシリンダボア5内側の円筒面全体に満遍無く行き渡らせなくても、シリンダボア5における摩耗や焼付き現象を十分に抑えることができる。これにより、鉛及びビスマスの使用量が少なくて済むので、製造コストを削減することができる。
【0042】
さらに、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法は、シリンダボア5の表面処理の1つとして、シリンダボア5内に形成された各圧縮固化層45A,45Bに対する焼結を利用しているので、各工程において厳密な冷却温度条件を管理しなくても、ピストン6の方当りを伴う摺動からシリンダボア5を保護する被覆層46A,46Bを得ることができる。このように、シリンダボア5の摺動面を容易かつ安価に成形することができ、優れた摺動性能を発揮させることができる。
【0043】
また、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、シリンダボア5内の上段の圧縮固化層45Bにおける高摺動性の添加元素42の濃度は、下段の圧縮固化層45Aにおける高摺動性の添加元素42の濃度よりも高いので、図3に示すように、シリンダボア5内側の円筒面のうち、ピストン6が方当りしながら摺動することで摺動面圧が高くなる部分Dに高摺動性の添加元素42の鉛及びビスマスを密集させることができる。従って、ピストン6が鉛及びビスマスを多く含む被覆層46Bに当たってシリンダボア5が保護されるので、シリンダボア5における摩耗や焼付き現象等の発生確率を減少させることができ、シリンダブロック4の高寿命化を図ることができる。
【0044】
また、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、圧縮充填工程において、シリンダボア5内に充填される粉体44A,44Bを、高摺動性の添加元素42を内部に含む銅合金粒子43A,43Bの集合体でそれぞれ構成することにより、高摺動性の添加元素42が圧縮固化層45A,45Bの一部に偏ることなく全体に分散するので、良好な品質が確保されたシリンダボア5の摺動面を得ることができる。
【0045】
特に、各銅合金粒子43A,43Bの集合体は、高摺動性の添加元素42が銅合金41の素地となる成分のいずれかと結合し、銅合金41の素地に析出する構造となっているため、焼結工程における圧縮固化層45A,45Bの焼結によって銅合金粒子43A,43B同士が結合し易く、圧縮固化層45A,45Bが被覆材46A,46Bとして形成された際の機械強度を十分に維持することができる。
【0046】
また、本発明の第1実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、圧縮固化層45A,45Bの成分となる高摺動性の添加元素42として、安価な鉛を所定の規定量以下の量に限って使用し、さらにビスマスを併用することにより、鉛が与える環境への影響とビスマスの使用によって増加する製造コストの両面のバランスを上手くとりながら、各圧縮固化層45A,45Bに含まれる高摺動性の添加元素の全体量を十分に確保することができる。これにより、シリンダボア5の摺動面においてより高い摺動性能を発揮するシリンダブロック4を製造することができる。
【0047】
[シリンダブロックの摺動面成形方法の第2実施形態]
本発明の第2実施形態が前述した第1実施形態と異なるのは、図4図5に示すように、第1実施形態に係る圧縮充填工程では、シリンダボア5内に充填される粉体44が、高摺動性の添加元素42を内部に含む銅合金粒子43の集合体から成るのに対して、図7図8に示すように、第2実施形態に係る圧縮充填工程では、シリンダボア5内に充填される粉体47が、高摺動性の添加元素42を内部に含まない複数の銅合金粒子43Cと、高摺動性の添加元素42のみから構成された複数の高摺動性粒子48とを混合した混合紛体から成ることである。なお、本発明の第2実施形態の構成のうち、第1実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0048】
本発明の第2実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、シリンダブロック4の外形が作製された後、圧縮充填工程において、混合粉体47中の銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48との混合比率を途中で変化させながらシリンダボア5への混合紛体47の充填を2回に渡って行う。
【0049】
具体的には、本発明の第2実施形態では、混合粉体47中の銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48との混合比率を1回目と2回目の充填において変化させるために、まず図7に示すように、高摺動性粒子48の重量比率がBwt%になるように分配した銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48とを混合した後、この混合紛体47Aをシリンダボア5内に充填し、混合紛体47Aを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Cを形成する。
【0050】
その後、図8に示すように、高摺動性粒子48の重量比率がCwt%になるように分配した銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48とを混合した後、この混合粉体47Bをシリンダボア5のうち圧縮固化層45Cの上に充填し、混合紛体47Bを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Dを形成する。その他の第2実施形態の構成は、第1実施形態の構成と同じであるため、重複する説明を省略する。
【0051】
このように構成した本発明の第2実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、高摺動性の添加元素42を銅合金粒子43Cに予め含ませなくても、圧縮充填工程において形成される圧縮固化層45C,45D中の高摺動性の添加元素42の濃度を意図した通りに調整できるので、シリンダボア5の摺動面を効率良く成形することができる。これにより、シリンダブロック4の製造上の生産性を高めることができる。
【0052】
[シリンダブロックの摺動面成形方法の第3実施形態]
本発明の第3実施形態が前述した第2実施形態と異なるのは、図7図8に示すように、第2実施形態に係る圧縮充填工程では、圧縮固化層45C,45D、すなわち、圧粉成形体に含まれる高摺動性の添加元素42の濃度がシリンダボア5の軸方向で異なるように、圧粉成形体において高摺動性の添加元素42を分散させたのに対して、図9図10に示すように、第3実施形態に係る圧縮充填工程では、圧粉成形体に含まれる高摺動性の添加元素42の濃度がシリンダボア5の軸周りで異なるように、圧粉成形体において高摺動性の添加元素42を分散させたことである。なお、本発明の第3実施形態の構成のうち、第2実施形態と同一又は対応する部分には同一の符号を付している。
【0053】
本発明の第3実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法では、上述した第2実施形態と同様に、シリンダブロック4の外形が作製された後、圧縮充填工程において、混合粉体47中の銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48との混合比率を途中で変化させながらシリンダボア5への混合紛体47の充填を2回に渡って行う。
【0054】
具体的には、本発明の第3実施形態では、混合粉体47中の銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48との混合比率を1回目と2回目の充填において変化させるために、まず図9に示すように、シリンダボア5の内部が、シリンダブロック4の中心軸Aに対して向心方向側(半径方向内側)の領域と遠心方向側(半径方向外側)の領域とに分割されるように、シリンダボア5を半分に区画する仕切り板51を挿入する。
【0055】
次に、高摺動性粒子48の重量比率がBwt%になるように分配した銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48とを混合した後、この混合紛体47Aをシリンダボア5のうち上記向心方向側の領域に充填し、混合紛体47Aを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Eを形成する。
【0056】
その後、図10に示すように、シリンダボア5から仕切り板51を取り外し、高摺動性粒子48の重量比率がCwt%になるように分配した銅合金粒子43Cと高摺動性粒子48とを混合した後、この混合粉体47Bをシリンダボア5のうち上記遠心方向側の領域に充填し、混合紛体47Bを圧縮して固化させることにより、圧粉成形体として圧縮固化層45Fを形成する。その他の第3実施形態の構成は、第2実施形態の構成と同じであるため、重複する説明を省略する。
【0057】
このように構成した本発明の第3実施形態に係るシリンダブロック4の摺動面成形方法によれば、上述した第2実施形態と同様の作用効果が得られる他、図11図12に示すように、シリンダボア5内側の円筒面のうち、シリンダブロック4の中心軸Aに対して向心方向側の部分と遠心方向側の部分に高摺動性の添加元素42の濃度が異なる被覆層46C,46Dを得ることができる。
【0058】
すなわち、シリンダボア5の摺動面は、シリンダボア5の軸周りにおいて高摺動性の添加元素42の濃度が異なる被覆層46C,46Dから成り、これらの被覆層46C,46Dのうち被覆層46Dは、シリンダブロック4の中心軸Aに対して遠心方向側における高摺動性の添加元素42の濃度が、シリンダブロック4の中心軸Aに対して向心方向側における高摺動性の添加元素42の濃度よりも高い高濃度部として機能する。
【0059】
そのため、シリンダブロック4が回転した際にピストン6に作用する遠心力に伴って、シリンダボア5内側の円筒面のうち、摺動面圧が高くなり易い遠心方向側の部分全体を、高摺動性の添加元素42が高密度である被覆層46Dによって的確に保護することができる。これにより、シリンダブロック4の耐久性を向上させることができる。
【0060】
なお、上述した本発明の各実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【0061】
つまり、本発明の各実施形態に係る圧縮充填工程は、圧粉成形体に含まれる高摺動性の添加元素42の濃度がシリンダボア5の軸方向及び軸周りのいずれか一方で異なるように、圧粉成形体において高摺動性の添加元素42を分散させた場合について説明したが、圧粉成形体に含まれる高摺動性の添加元素42の濃度がシリンダボア5の軸方向及び軸周りの双方で異なるように、圧粉成形体において高摺動性の添加元素42を分散させることも可能である。
【0062】
また、本発明の各実施形態は、圧縮充填工程において、銅合金粒子43中の銅合金41と高摺動性の添加元素42との重量比率を途中で変化させながらシリンダボア5への紛体44の充填を2回に渡って行った場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、銅合金粒子43中の銅合金41と高摺動性の添加元素42との重量比率を途中で変化させながらシリンダボア5への紛体44の充填を3回以上に渡って行ってもよい。
【0063】
さらに、本発明の各実施形態は、高摺動性の添加元素42として鉛及びビスマスの双方を使用した場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、鉛及びビスマスのいずれか一方を使用してもよいし、高い摺動性能を示す元素であればその他の元素を使用してもよい。特に、本発明の第2実施形態は、銅合金粒子43Cに含有し難い、すなわち、銅合金41の素地となる成分と結合し難い元素であっても、高摺動性の添加元素42として使用できるので、高摺動性の添加元素42の選択の自由度を高めることができる。
【0064】
また、本発明の第1実施形態は、圧縮充填工程においてシリンダボア5の内部に圧縮固化層45A,45Bを積層した後、焼結工程において圧縮固化層45A,45Bを焼結して被覆層46A,46Bを形成し、仕上げ工程において被覆層46A,46Bの中央部分を切削又は研削して加工除去した場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、圧縮充填工程において被覆層46A,46Bの型を形成するための中子等(図示せず)を用いてもよい。
【0065】
この中子は、例えば、シリンダボア5に勘挿されるピストン6よりも大きさが小さく設定された円筒体から成り、シリンダボア5内側の円筒面と離間した状態でシリンダボア5に挿入されるようになっている。この場合、仕上げ工程において、シリンダボア5から中子を除去するだけで被覆層46A,46Bを加工除去する量が大幅に減少するので、仕上げ作業を迅速に進めることができる。
【0066】
また、本発明の第2実施形態は、圧縮充填工程において、高摺動性の添加元素42を内部に含まない複数の銅合金粒子43Cと、高摺動性の添加元素42のみから構成された複数の高摺動性粒子48とを混合した混合紛体47をシリンダボア5内に充填した場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではなく、例えば、高摺動性の添加元素42を内部に含まない複数の銅合金粒子43Cと、高摺動性の添加元素42を内部に含む複数の合金とを混合した混合粉体をシリンダボア5内に充填してもよい。
【0067】
さらに、本発明の第3実施形態は、図12に示すように、シリンダボア5内側の円筒面に対して、高摺動性の添加元素42の濃度が低い被覆層46Cと、高摺動性の添加元素42の濃度が高い被覆層46Dとを同じ体積の割合で形成した場合について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。
【0068】
具体例として、図13に示すように、高摺動性の添加元素42の濃度が高い被覆層46Dの体積の割合を大きく設定することにより、シリンダボア5の摺動面のうち高摺動性の添加元素42の濃度が高い領域を拡大して形成してもよいし、あるいは図14に示すように、高摺動性の添加元素42の濃度が低い被覆層46Cの体積の割合を大きく設定することにより、シリンダボア5の摺動面のうち高摺動性の添加元素42の濃度が高い領域を縮小して形成してもよい。その他、図15に示すように、シリンダボア5の摺動面のうち高摺動性の添加元素42の濃度が高い領域を縮小してシリンダボア5の軸周りの任意の位置に形成してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…油圧ポンプ(液圧回転機)、3…回転軸、4…シリンダブロック、5…シリンダボア、5A…シリンダポート、6…ピストン、22…斜板、25…弁板
41…銅合金、42…高摺動性の添加元素、43,43A,43B,43C…銅合金粒子、44,44A,44B…紛体、45A,45B,45C,45D,45E,45F…圧縮固化層(圧粉成形体)、46A,46C…被覆層、46B,46D…被覆層(高濃度部)、47,47A,47B…混合紛体、48…高摺動性粒子、51…仕切り板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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