(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一酸素ポンプセルと前記センサセルとが共通の前記固体電解質体に設けられ、前記第二酸素ポンプセルが別の前記固体電解質体に設けられている請求項1記載のガスセンサユニット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したNOxセンサ100は、電圧V0を印加したときの酸素ポンプ電流Iが限界電流I0となるように、2つの酸素ポンプセル20、40の印加電圧Vを変化させるフィードバック制御を行っている。
具体的には、
図5に示すようにサンプルガス室70内の酸素ガス濃度が高くなると、酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がI0より高くなる。そこで、2つの酸素ポンプセル20、40の印加電圧VをV0から上昇させ、サンプルガス室70内の酸素をさらに外部に汲み出す。一方、サンプルガス室70内の酸素ガス濃度が低くなると、酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がI0より低下する。そこで、2つの酸素ポンプセル20、40の印加電圧をV0から低下させ、サンプルガス室70内の酸素の汲み出しを抑制する。
【0006】
しかしながら、2つの酸素ポンプセル20、40は、ヒータ60からの距離がそれぞれ異なるため、セル温度も異なる。そのため、電気的に並列接続された2つの酸素ポンプセルを共通の印加電圧で制御すると上述のフィードバック制御が不正確になり、サンプルガス室70内の酸素ガス濃度を精度よく制御することが困難になるという問題がある。
つまり、
図6の破線に示すように、セル温度が低下すると固体電解質体の内部抵抗が上昇し、酸素ポンプ電流−印加電圧曲線の立ち上がりの傾きが小さくなる。その結果、当初の印加電圧V0を印加しても酸素ポンプ電流Iが限界電流I0とならず、酸素の導入または排出が予定した量よりも不十分となってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、2つの酸素ポンプセルにより内部空間内の酸素濃度を迅速かつ精度よく制御でき、特定ガス成分濃度を精度よく測定できるガスセンサユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサユニットは、所定の拡散抵抗を介して被測定ガスが導入される内部空間と、酸素イオン導電性の固体電解質体の表面に、一方の電極が前記内部空間に面するように設けられた一対の電極を有し、これら一対の電極への通電により前記内部空間に酸素を導入または排出し、該内部空間内の酸素濃度を調整する第一酸素ポンプセルと、酸素イオン導電性の固体電解質体の表面に、一方の電極が前記内部空間に面するように設けられた一対の電極を有し、これら一対の電極への通電により前記内部空間に酸素を導入または排出し、該内部空間内の酸素濃度を調整する第二酸素ポンプセルと、酸素イオン導電性の固体電解質体の表面に、一方の電極が前記内部空間に面するように設けられた一対の電極を有し、これら一対の電極に流れる電流値から被測定ガス中の特定ガス成分濃度を検出するセンサセルと、
を有するガスセンサと、前記ガスセンサに電気的に接続され、前記第一酸素ポンプセルの前記一対の電極間
に酸素ポンプ電流を流すために印加される電圧を所定の設定値に設定すると共に、前記第一酸素ポンプセルの前記一対の電極間を流れる
前記酸素ポンプ電流を
、前記印加電圧における限界電流領域にするよう、前記第二酸素ポンプセルの前記一対の電極間
に印加される電圧を変化させて酸素を導入または排出する通電制御を行う制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
このガスセンサユニットは、第一酸素ポンプセルに所定の設定値の電圧を印加したときの酸素ポンプ電流が所定範囲となるように、第二酸素ポンプセルの印加電圧を変化させる制御を行い、内部空間内の酸素濃度を一定に保って特定ガス成分濃度を検出する。
そのため、第一酸素ポンプセルの温度を所定温度以上に保っておけば、上述の設定値の電圧を印加したときに酸素ポンプ電流を確実に限界電流とすることができ、予定した量の酸素の導入または排出を正確に行える。その結果、第一酸素ポンプセル及び第二酸素ポンプセルにより内部空間内の酸素濃度を迅速かつ精度よく制御でき、特定ガス成分濃度を精度よく測定できる。
【0010】
本発明のガスセンサユニットにおいて、ガスセンサの前記第一酸素ポンプセルと前記センサセルとが共通の前記固体電解質体に設けられ、前記第二酸素ポンプセルが別の前記固体電解質体に設けられているとよい。
このガスセンサユニットによれば、固体電解質体の数を低減させてガスセンサの構造を簡便にすることができる。又、第一酸素ポンプセルを、センサセルと共通の固体電解質体に設けることで、固体電解質体を通じてセンサセルへ電圧変動等の外乱を与えることを抑制し、特定ガス成分濃度をさらに精度よく測定することができる。
【0011】
本発明のガスセンサユニットにおいて、前記設定値は1つの一定値であるとよい。
このガスセンサユニットによれば、第一酸素ポンプセルの設定値が1つであるので、制御が確実かつ簡便になる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、第一酸素ポンプセル及び第二酸素ポンプセルにより内部空間内の酸素濃度を迅速かつ精度よく制御でき、特定ガス成分濃度を精度よく測定できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態における内燃機関用ガスセンサユニットの全体構成を示す図であり、ここでは、ガスセンサ(NOxセンサ)Sは、例えば、内燃機関としての自動車エンジンの排気通路に設置されて、被測定ガスである排ガス中に含まれる特定ガス成分、例えば、NOx(窒素酸化物)を検出する。
図2は、NOxセンサSが備えるガスセンサ素子1の先端部の模式的断面図であり、
図3は、その分解展開図である。
【0015】
図1において、NOxセンサSは、図示しない排気管壁に取り付けられる筒状ハウジングH1と、ハウジングH1内に絶縁保持されるガスセンサ素子1を有している。ガスセンサ素子1は、細長い板状で、中央部がハウジングH1内に配置した筒状絶縁体H2内に保持され、ガスセンサ素子1の先端部(図の下端部)は、ハウジングH1下端に固定される素子カバーH3内に収容されている。ガスセンサ素子1の基端部(図の上端部)は、ハウジングH1上端に固定される筒状部材H4内に位置し、端子Pが外部へ延出されるリード線H8に接続される。筒状部材H4とガスセンサ素子1の基端部との間には、筒状絶縁体H5が充填されている。
【0016】
排気管内に突出する素子カバーH3は内外二重構造で、側壁および底壁に排気口H6が設けられる。これにより、排気通路を流通する排ガスを、特定ガス成分を含む被測定ガスとして、ガスセンサ素子1の先端部が位置する素子カバーH3の内部に取り込むことができる。一方、排気管外部に露出する筒状部材H4の上端部には、側壁に大気口H7が形成されており、ガスセンサ素子1の基端部が位置する筒状絶縁体H5の筒内に、基準酸素濃度ガスである大気が導入される。これにより、共通の基準酸素濃度ガス存在空間となる筒状絶縁体H5の筒内空間から、ガスセンサ素子1の内部へ大気を導入可能となっている。
一方、リード線H8の後端側には、コネクタ等を介してコントローラ(制御部)Cが電気的に接続され、NOxセンサSとコントローラCとが特許請求の範囲の「ガスセンサユニット」を構成する。
【0017】
図2、
図3において、ガスセンサ素子1は、第二酸素ポンプセル4を構成するためのシート状の固体電解質体6と、第一酸素ポンプセル2およびセンサセル3を構成するためのシート状の固体電解質体5と、内部空間7を形成するためのシート状のスペーサ8と、第一基準ガス空間17および第二基準ガス空間16を形成するためのシート状のスペーサ9、91と、これらを加熱するヒータ12とが、順次積層されて構成される。
【0018】
内部空間7は、被測定ガス存在空間より被測定ガスが導入される室であり、
図3に示す様に、固体電解質体5、6との間に位置するスペーサ8の抜き穴8aにて形成される。ここでは、被測定ガス存在空間は、
図1における素子カバーH3の内部空間であり、内燃機関の排気通路内を流通する排ガスが被測定ガスとして導入されている。
また、内部空間7は、多孔質拡散抵抗11を介して、被測定ガス存在空間と連通している。多孔質拡散抵抗11の形状や気孔率、気孔径は、これを通過して内部空間7に導入される被測定ガスの拡散速度が所定の速度となるように、適宜設計される。
【0019】
第一基準ガス空間17および第二基準ガス空間16は、一定の酸素濃度をもつ共通の基準酸素濃度ガスとしての大気が導入され、固体電解体6の下方に積層したスペーサ9に設けた抜き穴9a、固体電解質5の上方に積層したスペーサ91に設けた抜き穴91aにて形成される。この抜き穴9a、91aは、ガスセンサ素子1の長手方向に伸びる溝としての通路部9b、91bを有し、この通路部9b、91bは、スペーサ9、91の基端側(
図3の右端側)に開口して、共通の基準酸素濃度ガス存在空間である筒状絶縁体H5の筒内空間に連通している。
【0020】
スペーサ9の下方には、ヒータ12が積層され、スペーサ91の上方には、絶縁材料よりなるシート92が積層されて、抜き穴9a、91a、通路部9b、91bの上下開口を閉鎖する。これにより、通路部9b、91bを通して、第一、第二基準ガス空間16、17に大気が導入される。ここで、各スペーサ8、9、91はアルミナ等の絶縁材料よりなる。
【0021】
第一酸素ポンプセル2、第二酸素ポンプセル4、センサセル3を構成するための固体電解質体5、6は、ジルコニアやセリア等の酸素イオン導電性を有する電解質よりなる。第一酸素ポンプセル2は、固体電解質体5と、固体電解質体5を挟むように対向配置された一対の電極2a、2bとより構成される。一対の電極2a、2bのうち一方の電極2aは、内部空間7に面するように、固体電解質体5下表面に接して設けられ、他方の電極2bは第一基準ガス空間17に面するように、固体電解質体5上表面に接して設けられている。
【0022】
第二酸素ポンプセル4は、固体電解質体6と、固体電解質体6を挟むように対向配置された一対の電極4a、4bとより構成される。一対の電極4a、4bのうち一方の電極4aは、内部空間7に面するように、固体電解質体6上表面に接して設けられ、他方の電極4bは第二基準ガス空間16に面するように、固体電解質体6下表面に接して設けられている。第二酸素ポンプセル4の電極4aと第一酸素ポンプセル2の電極2aは、内部空間7に面して相対向して、ここでは
図3の上下方向に対向する位置に設けられる。
【0023】
センサセル3は、固体電解質体5と、固体電解質体5を挟むように対向配置された一対の電極3a、3bとより構成される。一対の電極3a、3bのうち一方の電極3aは、内部空間7に面するように、固体電解質体5下表面に接して設けられ、他方の電極3bは第一基準ガス空間17に面するように、固体電解質体5上表面に接して設けられている。センサセル3の電極3a、3bは、内部空間7において、第一酸素ポンプセル2より被測定ガスの流れに対し下流側に配置される。なお、本実施形態では、センサセル3の電極3bは、第一酸素ポンプセル2の電極2bと一体的に設けられている。
【0024】
ここで、第一酸素ポンプセル2の一方の電極2aおよび第二酸素ポンプセル4の一方の電極4aには、被測定ガス中のNOxの分解を抑制するために、NOxの分解活性の低い電極を用いると良い。具体的には、主成分としてPt(白金)とAu(金)を含有する多孔質サーメット電極が好適に用いられる。この際、金属成分中のAuの含有量は、0.5〜5質量%程度とするのが良い。また、センサセル3の一方の電極3aには、被測定ガス中のNOxを分解するために、NOxの分解活性の高い電極を用いると良い。具体的には、主成分としてPtとRh(ロジウム)を含有する多孔質サーメット電極が好適に用いられる。この際、金属成分中のRhの含有量は、10〜50質量%程度とするのが良い。第一酸素ポンプセル2、第二酸素ポンプセル4、センサセル3の電極2b 、4b、3bには、例えば、Pt多孔質サーメット電極が好適に用いられる。
【0025】
また、
図3に示すように、これら各電極2a、2b、4a、4b、3a、3bには、これら各電極から電気信号を取出すためのリード2c、2d(3d)、4c、4d、3c、3dが一体に形成されている。これらリードは、各電極と同じくPt等の貴金属とジルコニア等のセラミックを主成分としたサーメット材料で構成される。ここで、固体電解質体5、6上の電極2a等以外の部位、特にリード2c等の形成部位には、固体電解質体5、6とリード2c等の間にアルミナ等の絶縁層(図略)を形成しておくことが好ましい。
【0026】
上記ヒータ12は、アルミナ製のヒータシート13の上面に、通電発熱するヒータ電極14をパターニング形成し、このヒータ電極14の上面(スペーサ9側の面)に、絶縁のためのアルミナ層15を形成してなる。ヒータ電極14は、通常、Ptとアルミナ等のセラミックスとのサーメットが用いられる。このヒータ12は、ヒータ電極14を外部からの給電により発熱させ、上記各セル2、3、4を活性化温度まで加熱するものである。
【0027】
また、
図3に示すように、各セル2、3、4、ヒータ電極14は、固体電解質体5、6、スペーサ8、9、91、ヒータシート13等の基端部に形成されたスルーホールSHを通して、センサ基部の端子Pまで接続されている。
そして、
図1に示すように、この端子Pにはコネクタを介して圧着やろう付け等により、リード線H8が接続され、外部回路と各セル2、3、4及びヒータ12との信号のやり取りが可能となっている。
【0028】
なお、固体電解質体5、6、スペーサ8、9、91、アルミナ層15及びヒータシート13は、ドクターブレード法や押し出し成形法等により、シート形状に成形することができる。
また、上記の各電極2a等、リード2c等及び端子Pは、スクリーン印刷等により形成することができる。そして、各シートは積層して焼成することにより、一体化される。
【0029】
次に、コントローラ(制御部)Cの構成について説明する。
図2に示すように、コントローラCは、NOxセンサSが備えるガスセンサ素子1に電気的に接続され、NOxセンサS(ガスセンサ素子1)を通電制御する。なお、「ガスセンサを通電制御する」とは、NOxセンサSに対応したコントローラCを接続したときに実行される制御をいう。
コントローラCは、第一酸素ポンプセル2と導通する回路C7、第二酸素ポンプセル4と導通する回路C11、センサセル3と導通する回路C13、及び全体を制御するマイコン(マイクロコンピュータ)C1を有する。
【0030】
回路C7には電流計A1及び電源C5が接続されており、電源C5は所定電圧を第一酸素ポンプセル2の一対の電極2a、2b間に印加する。又、マイコンC1は電流計A1の電流値を検出する。なお、
図5に示すように、電源C5がV0の電圧を印加した場合、電流計A1の電流値は、限界電流I0を示す。
回路C11には電流計A2及び電圧可変電源C9が接続されており、電源C9はマイコンC1の制御により所定の電圧を第二酸素ポンプセル4の一対の電極4a、4b間に印加する。
回路C13には電流計A3及び電源C17が接続されており、電源C17は一定電圧をセンサセル3の一対の電極3a、3b間に印加する。又、マイコンC1は電流計A3の電流値を検出する。
【0031】
次に、上記構成のガスセンサ素子1の動作原理を説明する。
図2において、被測定ガスである排ガスは、多孔質拡散抵抗11を通過して内部空間7に導入される。導入されるガス量は、多孔質拡散層11の拡散抵抗により決定される。
第一酸素ポンプセル2の一対の電極2a、2b、第二酸素ポンプセルの一対の電極4a、4bに、第一、第二基準ガス空間17、16側の電極2b、4bが+極となるように電圧を印加すると、上記内部空間7側の電極2a、4a上で被測定ガス中の酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により電極2b、4b側に排出される。なお、
図2では、電極2b、4bが+極となるように電圧を印加している。
【0032】
逆に、内部空間7側の電極2a、4aが+極となるように電圧を印加すると、第一、第二基準ガス空間17、16側の電極2b、4b上で酸素が還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により電極2a、4a側に排出される。予め求められた酸素ポンプセル印加電圧Vと酸素ポンプ電流Iの関係から、
図5に示す酸素ポンプ電流Iが限界電流I0を維持するように、後述する通電制御によって第一酸素ポンプセル2及び第二酸素ポンプセル4に電圧を印加することにより、内部空間7内の酸素濃度を所定の低濃度に制御できる。
【0033】
センサセル3の一対の電極3a、3bに、第二基準ガス空間16側の電極3bが+極となるように所定の電圧(例えば、0.40V)を印加する。電極3aは、特定ガス成分であるNOxの分解に活性なPt-Rhサーメット電極であるため、上記内部空間7側の電極3a上で被測定ガス中の酸素やNOxが還元されて酸素イオンとなり、ポンピング作用により電極3b側に排出される。被測定ガス中にNOxが存在すると、NOx濃度に応じて電流計A3の電流値が増加するため、これにより被測定ガス中のNOx濃度が検出可能となる。
【0034】
次に、コントローラCによる通電制御について説明する。
本発明においては、第一酸素ポンプセル2に一定の電圧V0を印加したときの酸素ポンプ電流Iが所定範囲の限界電流(
図5参照)を維持するように、第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを監視しながら第二酸素ポンプセル4の印加電圧Vを変化させるフィードバック制御を行う。
ここで、一定の電圧V0において、酸素ポンプ電流Iが限界電流を示す(電圧に対して電流が一定となる)範囲は、
図5に示すIL≦I≦IHの限界電流領域に限られ、この限界電流領域から外れると、酸素濃度を正確に測定し、予定した量の酸素の導入または排出を正確に行うことが困難になる。そして、電圧を高くすると限界電流領域も高電流側へ移行する傾向にある。
なお、一定の電圧V0、限界電流領域(IL≦I≦IH)がそれぞれ特許請求の範囲の「所定の設定値の電圧」、「所定範囲(の酸素ポンプ電流)」に相当する。
【0035】
具体的には、フィードバック制御開始時には、第一酸素ポンプセルと第二酸素ポンプセルに一定の電圧V0を印加する。内部空間7内の酸素ガス濃度が高いと、
図5に示すように第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がI0より高いIHになる。第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流がIHを超えると、上述のように酸素濃度が正確に測定できなくなるため、第二酸素ポンプセル4の印加電圧をV0から上昇させ、内部空間7内の酸素をさらに外部に汲み出す。
酸素の汲み出しにより内部空間7内の酸素濃度が低下し、第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がIH以下の領域になれば第二酸素ポンプセル4の印加電圧をその電圧で固定する。この時、内部空間7内の酸素濃度はNOx濃度を測定するための所定の低濃度になっているので、センサセル3でNOx濃度を測定する。第二酸素ポンプセル4に印加された電圧と、第二酸素ポンプセル4を流れた第二酸素ポンプ電流と、第一酸素ポンプセル2に印加した印加電圧と、第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流とに基づき、被測定ガス中の酸素濃度を求める事もできる。なお、後者は、第一酸素ポンプセル2及び第二酸素ポンプセル4で酸素を引き切った電流(限界電流)が内部空間7の酸素濃度を示すことから、第一酸素ポンプセル2及び第二酸素ポンプセルのポンプ電流及び印加電圧から酸素濃度を求めるものである。
【0036】
フィードバック制御開始時に、第一酸素ポンプセルと第二酸素ポンプセルに一定の電圧V0を印加した際、
図5に示すように、第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がIL≦I≦IHの限界電流領域内であれば、正確に酸素濃度を測定し、予定した量の酸素の汲み出しができる。従って、内部空間7内の酸素濃度がNOx濃度を測定するための所定の低濃度となるように、上記と同様に、第一酸素ポンプセルの印加電圧を制御し酸素を汲み出す。そして、上記と同様にして、被測定ガス中の酸素濃度やNOx濃度を求める。
【0037】
一方、フィードバック制御開始時に、第一酸素ポンプセルと第二酸素ポンプセルに一定の電圧V0を印加しても、内部空間7内の酸素ガス濃度が低いと、
図5に示すように第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がIL未満になる。第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流がIL未満になると、上述のように酸素濃度が正確に測定できなくなるため、第二酸素ポンプセル4の印加電圧をV0から低下させ、内部空間7内の酸素の汲み出しを抑制する。
酸素の汲み出しの抑制により内部空間7内の酸素濃度が上昇し、第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流Iを示す限界電流がIL以上の領域になれば第二酸素ポンプセル4の印加電圧をその電圧で固定する。次に、上記と同様にNOx濃度を求める。なお、汲みだしを停止させても酸素濃度を上昇させるには不足となる場合は、第2酸素ポンプセルの電極の正負を逆転させ、第二酸素ポンプを使って酸素を汲み入れれば良い。なお、第二酸素ポンプセル4を停止しても、第一酸素ポンプセルの電流が閾値未満であれば、第二酸素ポンプセル4の電極の正負を逆転させればよい。
【0038】
ここで、本実施形態のガスセンサSは、第一酸素ポンプセル2に電圧V0を印加したときの酸素ポンプ電流Iを所定範囲(上述の限界電流領域)に保つように、第二酸素ポンプセル4の印加電圧Vを変化させる制御を行い、さらに第一酸素ポンプセル2に所定電圧を印加し、内部空間7内の酸素濃度を一定に保ってNOx濃度を検出する。
そのため、第一酸素ポンプセル2の温度を、
図5に示した酸素ポンプセル印加電圧Vと酸素ポンプ電流Iの関係(電流−電圧曲線)を再現するような所定温度以上に保っておけば、予定した量の酸素の導入または排出を正確に行える。その結果、第一酸素ポンプセル2及び第二酸素ポンプセル4により内部空間7内の酸素濃度を迅速かつ精度よく制御でき、NOx濃度を精度よく測定できる。
一方、第二酸素ポンプセル4については、印加電圧を変化させて第一酸素ポンプセル2の酸素ポンプ電流を所定範囲内にするフィードバック制御を行うために用いるので、第一酸素ポンプセル2と第二酸素ポンプセル4の温度が異なっていても、NOx濃度の測定精度に影響を及ぼすことが抑制される。
【0039】
ここで、上述の限界電流領域(IL≦I≦IH)は、印加電圧V0によって変化するので、ガスセンサが使用される測定環境の酸素濃度範囲や、正確な制御が求められる酸素濃度範囲に応じて、印加電圧V0(限界電流領域)を予め定めれば良い。
【0040】
また、センサセル3と第一酸素ポンプセル2が共通の固体電解質体に設けられている場合は、第一酸素ポンプセル2に印加する電圧V1と、第二酸素ポンプセル4に印加する印加電圧V2の関係が、|V2|>|V1|となる事が好ましい。この関係が満たされると、第二酸素ポンプセル4に流れる第二酸素ポンプ電流の方が、第一酸素ポンプセル2に流れる酸素ポンプ電流よりも大きくなる。このため、センサセル3と同じ固体電解質体に設けられた第一酸素ポンプセルの電流の方が小さくて済み、NOx濃度検知に用いるセンサセル3の電極間を流れる電流への影響も小さくなるので、より精度の良いNOx濃度の検知が可能となる。なお、|V2|>|V1|となる様に、各酸素ポンプセル2,4に印加する電圧の初期値を、ガスセンサが使用される測定環境の酸素濃度範囲に応じて適宜設定すれば良い。
【0041】
なお、マイコンC1は、第一酸素ポンプセル2の電流計A1の酸素ポンプ電流Iを検出し、予め設定された上述の限界電流領域(IL≦I≦IH)との差に応じて、上述のように第二酸素ポンプセル4の電源C9の電圧を変化させ、酸素ポンプ電流Iが上述の限界電流領域内になるようなフィードバック制御を行う。従って、
図2の電流計A1からマイコンC1を経由して電源C9へ向かう矢印がフィードバック回路に相当する。
また、限界電流とは、
図5における電流−電圧曲線において傾き0となっている部分である。
【0042】
さらに、本発明のNOxセンサS(ガスセンサ素子1)は、内部空間7に面して2つの酸素ポンプセル(第一酸素ポンプセル2および第二酸素ポンプセル4)を有し、内部空間7内の酸素濃度が一定となるように制御するので、酸素ポンプセルが1つの場合に比べて酸素ポンプ能力が高い。また、第一、第二基準ガス空間17、16は大気に連通しているので、リッチ・リーン雰囲気によらず、内部空間7側から第一、第二基準ガス空間17、16側へ、あるいは逆方向に酸素イオンをポンピング作用により速やかに排出することができる。
【0043】
これにより、内部空間7内の酸素濃度を均一にし、かつ所定の低濃度に制御できる。したがって、内部空間7に面してセンサセル3を配置して、簡易な構成で、NOx濃度を精度よく検出できる。また、センサセル3を別の内部空間に配置して別の拡散抵抗で連通する構成とする必要がないので、これら形状のセンサ個体差によるばらつきを小さくすることができる。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、本発明のガスセンサは、内燃機関の排気系に設置されるNOxセンサとして尿素SCRシステムの尿素噴射量制御のみならず、NOx吸蔵還元触媒下流のNOx濃度の監視あるいはNOx吸蔵還元触媒の再生制御等、種々のNOx浄化システムに使用することができる。
さらには、本発明のガスセンサにより検出される特定ガス成分として、NOxの他、SOx、酸素、二酸化炭素その他に適用することもできる。また、被測定ガスは内燃機関からの排ガスに限らず、種々のガス中の特定ガス成分の検出に使用されて、検出精度を大きく向上させ、各種システムの制御性の向上等に貢献することができる。
【0045】
また、上記実施形態においては、第一酸素ポンプセルと第二酸素ポンプセルの初期値を同じ電圧(V0)としたが、別々の電圧を印加しておいてもよい。
【0046】
なお、上記実施形態においては、第一酸素ポンプセル2とセンサセル3とを、共通の固体電解質体5上に設け、第二酸素ポンプセル4を別の固体電解質体6上に設けている。これにより、固体電解質体の数を低減させてガスセンサの構造を簡便にすることができる。又、印加電圧が一定の第一酸素ポンプセル2を、センサセル3と共通の固体電解質体5上に設けることで、固体電解質体5を通じてセンサセル3へ電圧変動等の外乱を与えることを抑制し、NOx濃度を精度よく測定することができる。