(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガスには、大気汚染の原因となる炭素を主成分とする粒子状物質(PM: Particulate Matter)が含まれており、この粒子状物質は、フィルタを通すことで排ガスから捕集して除去することができる。粒子状物質を捕集するためのフィルタとしては、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルと、各セルを仕切る隔壁とを有するハニカム構造体において、ハニカム構造体のセルの一方の端部と他方の端部が、目封止部により交互に目封止されたウォールフロー型のフィルタが広く用いられている。
【0003】
また、排ガスには、粒子状物質の他にも、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。これらの有害成分は排ガス浄化触媒によって排ガスから除去することができる。
【0004】
近年、粒子状物質及び有害成分の両方を排ガスから除去するために、ウォールフロー型のフィルタ基材と、有害成分を除去するための触媒層とから構成されるフィルタ触媒が広く用いられている。
【0005】
このようなフィルタ触媒として、例えば、特許文献1には、フィルタ本体と、2層からなる触媒活性なコーティングとを有する触媒活性な微粒子捕集フィルタであって、その際に双方の層が活性酸化アルミニウムを含有し、かつ第1の層が、流入する排ガスにより直接接触されるのに対し、第2の層が、流出する排ガスと直接接触しているものであって、かつ、第1の層中の酸化アルミニウムがパラジウムで触媒活性化されているのに対し、第2の層が、ロジウムを触媒活性成分として及び追加的に、酸素を貯蔵するセリウム/ジルコニウム複合酸化物を含有することを特徴とする、触媒活性な微粒子捕集フィルタが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、内燃機関の排気通路に配置されて該内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタであって、基材と、該基材の表面に形成された触媒層とを備えており、前記触媒層は、アンモニアを吸着して排ガス中のNOxを還元するリン酸塩系ゼオライトからなる第1成分と、シリカを主成分とする第2成分とを含んでおり、前記第1成分と前記第2成分との質量比(第1成分/第2成分)が1以上30以下であるパティキュレートフィルタが記載されている。
【0007】
フィルタ触媒において、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分を除去するためには、一定量以上の触媒粉末をフィルタ基材にコートする必要があるが、従来のフィルタ触媒では、触媒のコート量が多いと、フィルタ基材の隔壁の細孔内や隔壁表面に触媒粉末が付着し、排ガスの流路が閉塞するか、又は狭くなり、排ガスの流路が減少することで圧損(圧力損失)が上昇してしまう。そして、圧損が上昇するとエンジン出力が低下してしまう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明のフィルタ触媒を製造する方法は、フィルタ基材に、所定の平均粒径の粉末を含む、触媒コート層を形成するためのスラリーを所定のコート量でコートすることを含む。
【0016】
本発明の方法に用いられるフィルタ基材は、セラミック多孔体からなる。フィルタ基材の材質は、例えばコージェライト、アルミニウムチタネート、SiC、Si結合SiC及びムライトであり、コージェライトが好ましい。セラミック多孔体としては、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルと、各セルを仕切る隔壁とを有するハニカム構造のものが好ましく、ハニカム構造体のセルの一方の端部と他方の端部が、目封止部により交互に目封止されたウォールフロー型のものがより好ましい。
【0017】
フィルタ基材は、圧損の抑制及び十分な強度の確保の観点から、通常40〜80%、好ましくは50〜70%の気孔率を有する。フィルタ基材の平均細孔径は、粒子状物質の捕集性能の観点から、通常5〜40μm、好ましくは15〜25μmである。
【0018】
本発明の方法に用いられる触媒コート層を形成するためのスラリーは、触媒粉末を含む。触媒粉末は、好ましくは貴金属触媒及び触媒貴金属を担持する担体を含む。貴金属触媒としては、従来公知の触媒貴金属を用いることができる。具体的には、貴金属触媒は、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)等の貴金属を含むことができ、好ましくはパラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)を含む。触媒貴金属を担持する担体としては、特に限定されずに、酸化アルミニウム(アルミナ:Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO
2)、酸化ケイ素(シリカ:SiO
2)及びこれらの酸化物を主成分とした複合酸化物を挙げることができる。触媒粉末は、貴金属触媒及び触媒貴金属を担持する担体の他に、酸化セリウム(セリア:CeO
2)や該セリアを含む複合酸化物(例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物))を含んでいてもよい。触媒粉末は、好ましくはCZ複合酸化物を含む。
【0019】
本発明の方法において、触媒コート層を形成するためのスラリーは、1種を用いてもよく、又は異なる触媒粉末を含む2種以上を用いてもよいが、第1触媒コート層及び第2触媒コート層をそれぞれ形成するための2種のスラリーを用いることが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、触媒コート層を形成するためのスラリーとして、酸化アルミニウムに担持されたロジウム(Rh)及びCZ複合酸化物を含む、第1触媒コート層を形成するためのスラリーと、酸化アルミニウムに担持されたパラジウム(Pd)及びCZ複合酸化物を含む、第2触媒コート層を形成するためのスラリーとが用いられる。
【0020】
本発明の方法において、触媒コート層を形成するためのスラリー中の粉末の平均粒径は0.8μm以下である。触媒コート層を形成するためのスラリー中の粉末の平均粒径を0.8μm以下にすることで、触媒フィルタの圧損上昇を予想外に抑制することができる。本発明において、平均粒径とは、レーザー回折散乱法により測定した50%累積粒子径の値(D50径)をいう。スラリー中の粉末の粒径は、例えば、スラリー成分と溶媒(例えば水)とを混合して粉砕処理(例えば湿式粉砕)することで調整することができる。
【0021】
本発明の方法において、触媒コート層を形成するためのスラリーとして2種以上のスラリーを用いる場合には、それぞれのスラリー中の粉末の平均粒径が0.8μm以下であればよく、各スラリー中の粉末の平均粒径は異なっていてもよいが、製造効率の観点からは、各スラリー中の粉末の平均粒径は同じであることが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、触媒コート層を形成するためのスラリーは、フィルタ基材1L当たり60〜140g/L、好ましくは70〜130g/Lのコート量でフィルタ基材にコートする。触媒のコート量を60〜140g/Lとすることで、良好な排ガス浄化性能を有し、平均開口率が大きいフィルタ触媒を得ることができる。本発明において、触媒のコート量とは、フィルタ基材1Lに対してコートされた触媒粉末の質量(g)を意味し、2種以上のスラリーを用いた場合には、これらのスラリー中の触媒粉末の合計のコート量をいう。
【0023】
触媒コート層を形成するためのスラリーのフィルタ基材へのコートは、フィルタ触媒の製造において通常用いられる方法により行うことができ、例えば、スラリーをフィルタ基材に付与コート(スラリーを減圧して吸引コート又はエアーブローにより吹き付けコート)し、その後、所定の温度及び時間において乾燥及び焼成することにより行うことができる。焼成条件は、通常、400〜600℃で0.5〜2時間である。
【0024】
本発明の方法において、得られるフィルタ触媒の平均開口率は、触媒のコート量に応じて変わり、具体的には、式:−0.12x+22.90(xはコート量(g/フィルタ基材1L)である。)により算出される値以上となる。本発明の方法では、触媒コート層を形成するためのスラリーに含まれる粉末の平均粒径と、触媒のコート量とを特定の範囲とすることで、平均開口率が大きく、圧損上昇が抑制されたフィルタ触媒を得ることができる。
【0025】
本発明において、フィルタ触媒の開口率とは、フィルタ基材の隔壁表面における開口部の面積比率のことをいう。開口率は、フィルタ基材の隔壁表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)等で観察することにより求めることができる。フィルタ触媒の平均開口率は、フィルタ触媒の入口端面から出口端面までを等間隔で区切り、各区間について、フィルタ基材の隔壁表面を排ガス流入側及び排ガス流出側から観察して開口率を求め、得られた排ガス流入側及び排ガス流出側の開口率のうち低い方の値を該区間の開口率とし、その平均値を求めることで算出できる。
【0026】
本発明の方法により得られるフィルタ触媒の一実施形態を、フィルタ基材としてウォールフロー型のセラミック多孔体を用いたフィルタ触媒について、
図1及び
図2に示す。
図1はフィルタ触媒10を模式的に示す斜視図であり、
図2はフィルタ触媒10を軸方向に切断した断面の一部を拡大した模式図である。フィルタ触媒10は、フィルタ基材1と触媒コート層4とを備える。フィルタ基材1は、入口端面側の端部が開口し、出口端面側の端部が封止部6により目封じされた入側セル2と、該入側セル2に隣接し、出口端面側の端部が開口し、入口端面側の端部が封止部6により目封じされた出側セル3と、入側セル2と出側セル3とを仕切る多孔質の隔壁5とを有する。図示していないが、フィルタ触媒10において、触媒コート層4は、フィルタ基材1の隔壁5の内部に形成されている。
【0027】
本発明の方法により得られるフィルタ触媒の好ましい実施形態において、触媒コート層は、第1触媒コート層及び第2触媒コート層を形成するためのスラリーからそれぞれ形成された第1触媒コート層及び第2触媒コート層を有する。フィルタ触媒が、第1触媒コート層及び第2触媒コート層を有する場合、第1触媒コート層は、フィルタ触媒の一方の端面から、フィルタ基材の隔壁全長に対して20〜90%の範囲に存在し、第2触媒コート層は、フィルタ触媒の他方の端面から、隔壁全長に対して20〜90%の範囲に存在することが好ましい。第1触媒コート層がロジウム(Rh)を含み、第2触媒コート層がパラジウム(Pd)を含むことが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1−6及び比較例1−4
フィルタ基材として、セル数300cPsi(cells per square inch)、容量1.3L、全長122mm、概形118mm、隔壁の平均細孔径20μm、隔壁の気孔率65%のコージェライト製のウォールフロー型のハニカム基材を用いた。
【0030】
ロジウム(Rh)水溶液と酸化アルミニウム(γ−Al
2O
3)粉末と純水とを、RhとAl
2O
3の質量比が1:100になるように混合して撹拌し、混合液を乾燥し、500℃で1時間焼成してRh担持粉末を作製した。次に、得られたRh担持粉末と、セリア−ジルコニア複合酸化物(CeO
2/ZrO
2=30/70)を2:3の質量比で純水中に含む第1スラリーを調製した。
【0031】
パラジウム(Pd)水溶液と酸化アルミニウム(γ−Al
2O
3)粉末と純水とを、PdとAl
2O
3の質量比が3:100になるように混合して撹拌し、混合液を乾燥し、500℃で1時間焼成してPd担持粉末を作製した。次に、得られたPd担持粉末とセリア−ジルコニア複合酸化物(CeO
2/ZrO
2=30/70)を2:3の質量比で純水中に含む第2スラリーを調製した。
【0032】
第1スラリー及び第2スラリーを、ミリングにより、スラリー中の触媒粉末を所定の平均粒径に調整した後、粉末質量が70g/基材1L又は130g/基材1Lとなるように、第1スラリーをフィルタ基材の入口端面から供給することでコートして第1触媒コート層(軸方向長さ:隔壁全長の70%)を形成し、次に、第2スラリーをフィルタ基材の他方の端面から供給することでコートして第2触媒コート層(軸方向長さ:隔壁全長の45%)を形成し、その後、150℃で1時間乾燥し、500℃で1時間焼成して実施例1−6及び比較例1−4のフィルタ触媒を作製した。実施例1−6及び比較例1−4において、第1スラリー及び第2スラリーの平均粒径は同じにした。また、実施例1−6及び比較例1−4において、触媒のコート量は、第1スラリー及び第2スラリー中の触媒の合計のコート量である。実施例1−6及び比較例1−4のフィルタ触媒について、スラリー中の粉末の平均粒径及び触媒のコート量を下記表1に示した。
【0033】
実施例1−6及び比較例1−4のフィルタ触媒について、触媒のコートによる圧損上昇率を求めた。圧損上昇率は、各フィルタ触媒について、触媒コート前のフィルタ基材及び触媒コート後のフィルタ触媒のAir圧損を圧損測定機でそれぞれ測定し、下記式:
圧損上昇率(%)=(触媒コート後の圧損−触媒コート前の圧損)/触媒コート前の圧損
により求めた。
【0034】
また、圧損測定を実施した実施例1−6及び比較例1−4のフィルタ触媒の一部を切出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、平均開口率を以下の通りにして求めた。
【0035】
<平均開口率の測定>
開口率測定のイメージ図を
図3に示す。
(1)フィルタ触媒の入口端面から出口端面までを等間隔で区切り、各区間について、隔壁表面を排ガス流入側及び排ガス流出側からSEMによりそれぞれ撮像した。
(2)撮像したSEM画像の2値化処理を行った。
(3)2値化処理を行ったSEM画像のイメージ図を
図4に示す。2値化処理を行った画像において、開口部は信号強度が弱く、暗く表示される。観察視野における暗い領域(開口部)の面積率を求めることで、観察視野における開口率を算出した。
(4)フィルタ触媒の各観察区間について、排ガス流入側と排ガス流出側から観察して得られた開口率のうち低い方の値をその観察区間の開口率とし、その値の平均値を算出することで平均開口率を求めた。
【0036】
実施例1−6及び比較例1−4のフィルタ触媒について得られた圧損上昇率及び平均開口率を表1に示す。また、フィルタ基材1L当たりの触媒のコート量70g/L及び130g/Lにおける、スラリー中の粉末の平均粒径と圧損上昇率との関係をそれぞれ
図5及び
図6に示す。
図5及び
図6中、破線は平均粒径0.8μmを示す線である。
【0037】
【表1】
【0038】
表1及び
図5より、触媒のコート量70g/Lにおいて、スラリー中の粉末の平均粒径が1μm以上の測定点の傾向から予測される圧損上昇率に対して、スラリー中の粉末の平均粒径が0.8μm以下の場合には、圧損上昇率は充分に低くなっていた。また、表1及び
図6より、触媒のコート量130g/Lの場合にも同様の傾向が見られた。これより、スラリー中の粉末の平均粒径を0.8μm以下にすることで、フィルタ触媒の圧損上昇率を充分に抑制することができることがわかった。
【0039】
次に、触媒のコート量とフィルタ触媒の平均開口率との関係を
図7に示す。表1及び
図7より、実施例1、4、5及び6のフィルタ触媒の平均開口率は、コート量をx(g/フィルタ基材1L)としたとき、式:−0.12x+22.90により算出される値以上となることがわかった。ここで、触媒のコート量が一定の場合には、スラリー中の粉末の平均粒径が小さい程、フィルタ触媒の平均開口率が大きくなるといえるので、実施例2、3のフィルタ触媒の平均開口率についても、上記式より算出される値以上であると推定される。これより、スラリー中の粉末の平均粒径を0.8μm以下とし、触媒のコート量を60〜140g/フィルタ基材1Lとすることで、フィルタ触媒の平均開口率が充分に大きくなり、フィルタ触媒の圧損上昇率を抑制することができることがわかった。