(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
荷重負荷装置のひとつとしてのテンショナーは例えば、自動車のエンジンに組み込まれたタイミングチェーンやタイミングベルトを所定の力で押圧しており、これらに伸びや緩みが生じた場合に,その張力を一定に保つように作用する。
【0003】
図24は自動車のエンジン本体200の内部を示す。エンジン本体200の内部には、従動軸である一対のカムスプロケット210、210と駆動軸であるクランクスプロケット220とが配置されており、これらのスプロケット210、210、220の間にタイミングチェーン230が無端状となって掛け渡されている。そしてクランクスプロケット220の回転によってタイミングチェーン230がスプロケット210、210、220の間を移動(走行)する。タイミングチェーン230の移動路上にはチェーンガイド240がタイミングチェーン230に接触するように配置されており、タイミングチェーン230はチェーンガイド240を摺動しながら移動する。チェーンガイド240は支軸250を中心に揺動可能となっており、この揺動によってタイミングチェーン230の張力を調整する。
【0004】
符号300は、チェーンガイド240をタイミングチェーン230に押圧するためにエンジン本体200の内部に設けられたテンショナーである。テンショナー300は軸方向への伸縮によってチェーンガイド240を押圧する構造のものが一般的に使用される。
【0005】
図25はテンショナー300の一般的な構造を示す。筒状の推進部材320と、ねじ部330によって推進部320と螺合したシャフト状の回転部材340と、回転部材340に回転トルクを付与するコイルばね350と、これらを収容するケース310とを備えており、ケース310がボルト止め等によってエンジン本体200に固定される。推進部材320はケース310の先端部分に取り付けられた軸受部材360によって回転が拘束され、これにより推進部材320はねじ部330を介して伝達された回転部材340の回転力によってケース310に対して進出しチェーンガイド240を介してタイミングチェーン230を押圧する。一方、タイミングチェーン230の張力が大きくなると、推進部材320が回転部材340を逆方向に回転させながら後退する。これらの動作によってタイミングチェーン230の張力を一定に保つ。
【0006】
図25に示す一般的なテンショナー300においては、推進部材320に対してタイミングチェーン230から大きな張力が作用すると、推進部材320がコイルばね350のばね力に抗して後退し易く、タイミングチェーン230の張力を保つことが難しい問題がある。このため推進部材320の後退(戻り作動)を抑制する必要があり、特許文献1及び2にはこのための従来のテンショナーが開示されている。
【0007】
特許文献1及び2に開示された従来のテンショナーでは、
図25の構造に加えて、推進部材が進退自在に貫通する貫通孔をケースに形成し、この貫通孔にロック部材を配置している。ロック部材は、推進部材の進出方向に向けて拡径するようにケースに形成したテーパ面と、複数のボールがテーパ面と推進部材との間に挟まれるように保持するリテーナと、リテーナを推進部材の後退方向に付勢する付勢手段とを備えている。このロック部材を備えた構造では、タイミングチェーンの張力が大きくなって推進部材に後退方向(戻り方向)の力が作用すると、ボールがテーパ面と推進部材とに圧接して推進部材の戻り作動を抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図25の一般的なテンショナー及び特許文献1及び2に開示された従来のテンショナーにおいては、コイルばねのばね力によって推進部材が推進してチェーンガイド(タイミングチェーン)を高い荷重で押圧するため、タイミングチェーンが必要以上な高張力となり易く、エンジンの出力ロスとなる問題がある。
又、特許文献1及び2に開示された従来のテンショナーでは、エンジンから強い振動を受けると、ボールの接触面の抵抗力が静摩擦係数から動摩擦係数に変化して低下するため、推進部材が一気に戻り作動する不安定な状態となり易い。又、ボールが推進部材及びテーパ面と点接触して面圧が高いため、エンジンからの繰り返し振動(交番荷重)によって推進部材やテーパ面に圧痕が付き易い問題がある。
又、特許文献1及び2に開示された従来のテンショナーでは、長期使用によってボールが摩耗することによって推進部材のロック力が低下する。さらに、推進部材、テーパ面、ボールは共に剛性が高い鋼部材であるため、エンジンからの振動に対する緩衝性能が低く、チェーンガイドからの振動を受けると打音(衝突音)を発生している。
【0010】
本発明は、このような一般的なテンショナー及び従来のテンショナーの問題点を考慮してなされたものであり、推進部材の推進を良好な推進力によって行うことができ、しかも推進部材の戻り作動を抑制でき、構成部品への圧痕の発生や打音の発生を防止することが可能なテンショナー等の荷重付加装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、
本発明の荷重付加装置は、軸方向に進退移動する推進部材と、薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねとを備え、前記推進部材は前記ゼンマイばねの外周部と直接に又は受け部材を介して間接的に当接する当接面を有し、前記当接面は前記ゼンマイばねの中心との距離が前記推進部材の進退移動に伴って漸次変化するように形成されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、前記当接面は前記推進部材の先端に近づくにつれて前記ゼンマイばねの中心との距離が漸次大きくなることを特徴とする。
【0013】
また、前記推進部材及びゼンマイばねを収容する保持部材をさらに有し、前記保持部材には、前記軸方向の進退移動の際に前記推進部材が摺動するガイド面が前記軸方向に沿って直線状となって形成されていること
が好ましい。
【0014】
また、前記保持部材に窓部が形成され、前記受け部材には前記窓部に係止される係止片が形成されていること
が好ましい。
【0015】
また、前記推進部材の進出方向に沿って伸縮する弾性部材がさらに設けられていること
が好ましい。
【0016】
また、前記推進部材に前記当接面が複数形成され、前記ゼンマイばねは複数が前記当接面のそれぞれに対応して設けられていること
が好ましい。
【0017】
また、前記受け部材が係止されるストッパ部材が前記保持部材に着脱自在となっており、前記受け部材が前記ストッパ部材に係止されることにより前記推進部材の進出が停止状態となること
が好ましい。
【0018】
また、前記ゼンマイばねが入り込むことによりゼンマイばねを保持部材の定位置に留める受け凹部が前記保持部材に形成されていること
が好ましい。
【0019】
また、本発明の
別の荷重付加装置は、軸方向に進退移動する推進部材と、薄板材が複数回巻かれたゼンマイばねと、前記ゼンマイばねを囲んだ状態でゼンマイばねと前記推進部材との間に配置され、前記ゼンマイばねの拡縮径方向と前記推進部材の進退移動方向との間で方向変換を行う方向変換部材とを備え、前記ゼンマイばねの中心との間の寸法が漸次変化する当接面が前記推進部材の前記ゼンマイばねとの対向面に形成され、前記方向変換部材は、前記推進部材の当接面に対応した形状に形成されて当接面に接触する接触面部を外面に複数有し、前記ゼンマイばねの外周部に当接するばね受け面部を内面に複数有していることを特徴とする。
【0020】
また、前記推進部材の当接面が前記軸方向と交差する方向に傾斜するテーパ面であること
が好ましい。
【0021】
また、前記
推進部材は、自動車のエンジン内で無端状となって移動するタイミングチェーン又はタイミングベルトである
相手部材を押圧すること
が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の荷重付加装置によれば、推進部材の推進を良好な推進力によって行うことができ、推進部材の戻り作動を抑制でき、構成部品への圧痕の発生や打音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の荷重付加装置としての第1実施形態のテンショナーを示す断面図である。
【
図2】
図1に対して推進部材が進出した状態を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態のテンショナーの全体を示す平面図である。
【
図4】第1実施形態のテンショナーをエンジン本体に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図6】(a)、(b)は保持部材の上カバーを示す平面図及び側面図である。
【
図7】(a)、(b)は保持部材の下カバーを示す平面図及び側面図である。
【
図8】(a)、(b)は保持部材の保持本体を示す平面図及び側面図である。
【
図9】(a)、(b)は推進部材を示す平面図及び側面図である。
【
図10】(a)、(b)、(c)は受け部材を示す正面図、平面図及び側面図である。
【
図12】テンショナーに荷重が作用した場合を説明する断面図である。
【
図13】(a)、(b)は静荷重が作用したときのゼンマイばねの作動を示す断面図である。
【
図14】交番荷重が作用したときのゼンマイばねの作動を示す断面図である。
【
図15】第1実施形態の変形形態のテンショナーを示す断面図である。
【
図16】本発明の荷重付加装置としての第2実施形態のテンショナーを示す断面図である。
【
図17】第2実施形態のテンショナーの別の形態を示す平面図である。
【
図18】本発明の荷重付加装置としての第3実施形態のテンショナーを示す平面図である。
【
図19】本発明の荷重付加装置としての第4実施形態のテンショナーを示す平面図である。
【
図20】本発明の荷重付加装置としての第5実施形態のテンショナーを示す平面図である。
【
図21】本発明の荷重付加装置としての第6実施形態のテンショナーを示す平面からの断面図であり、
図22のG−G線断面図である。
【
図22】第6実施形態のテンショナーを示す正面からの断面図であり、
図21のF−F線断面図である。
【
図23】第6実施形態のテンショナーに用いる方向変換部材を示し、(a)、(b)、(c)は正面図、底面図、平面図である。
【
図24】エンジン本体へのテンショナーの配置を示す断面図である。
【
図25】一般的なテンショナーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。なお、各実施形態において、同一の部材には同一の符号を付して対応させてある。
【0025】
(第1実施形態)
図1〜
図11は、本発明の荷重付加装置として用いるテンショナー1の第1実施形態を示す。
図1〜
図5に示すように、テンショナー1は推進部材2と、ゼンマイばね3と、受け部材5と、これらを収容する保持部材4とを備えている。
【0026】
推進部材2は、テンショナー1がエンジン本体200(
図20参照)に取り付けられることにより先端面20がチェーンガイド240に当接し、チェーンガイド240を介してタイミングチェーン230を押圧する。従って、エンジン本体200のタイミングチェーン230は推進部材2が押圧する相手部材となる。テンショナー1へのエンジン本体200への取り付けは、
図3〜
図5に示すように、保持部材4を複数(2個)のボルト11によってエンジン本体200に固定することによりなされる。推進部材2は、保持部材4に収容された状態で軸方向(
図1、
図2、
図9の左右に延びる矢印X方向(以下、軸方向Xと記載する))に沿って進退移動する。
【0027】
保持部材4は
図4及び
図5に示すように、上下一対の平板状のカバー41、42と、上下のカバー41、42の間に挟持される保持本体43とによって形成されている。
図6は上カバー41、
図7は下カバー42を示し、上下のカバー41、42は略横長矩形の同形同大の板材によって形成されている。上下のカバー41、42の長さ方向の中間部分には、ボルト11が貫通するボルト用孔44が対向するように形成されている。又、上下カバー41、42には、ゼンマイばね3の巻き上げを行うため窓部45が対向するように開口される。窓部45は上下のカバー41、42の長さ方向の先端部分(右端部分)に斜め状となって開口されている。窓部45はゼンマイばね3の巻き上げを行うのに加え、後述する受け部材5の係止片51(
図10参照)を係止するものである。さらにカバー41、42の長さ方向における窓部45との反対側の端部にはロックピン12が挿入されるピン孔46が形成されている。
【0028】
上下のカバー41、42に挟持される保持本体43は
図8に示すように、所定厚さの矩形枠状に形成されることにより、基端側(左端側)の基端辺43cと、基端辺43cの長さ方向終端部分から平行となって対向するように連設された二辺43a、43bとを備えており。先端側(右端側)の辺は削除されることにより開口された開口部47となっている。この開口部47を通じて推進部材2が進退移動する。
【0029】
保持本体43の長さ方向で対向する二辺43a、43bは推進部材2が進退移動する軸方向Xに沿って延びており、この内、一辺43aには、推進部材2の進退移動を案内するガイド面13が形成されている。ガイド面13は軸方向Xと平行となった状態で直線状に延びており、推進部材2はこのガイド面13を摺動しながら進退移動する。他の一辺43bにはガイド面13から遠ざかる方向に略湾曲状に窪んだ受け凹部14が形成されている。受け凹部14は後述するゼンマイばね3が入り込むことによりゼンマイばね3を保持部材4における定位置に留める。ゼンマイばね3は受け凹部14に入り込むことにより、その外周部31が受け凹部14に当接し、この当接によりゼンマイばね3が保持部材4に受けられて支持された状態となる。なお、保持本体43には、上下のカバー41、42のボルト用孔44に対向したボルト用孔48が形成されている。
【0030】
推進部材2は全体が保持本体43と略同じ厚さとなっており、保持本体43の内部に挿入された状態で上下のカバー41、42に挟持される。これにより推進部材2は保持部材4に進退可能に収容される。
図1、
図2及び
図9に示すように、推進部材2は軸方向Xに沿って延びる本体部21と、本体部21の進出方向A側に連設した先端部22と、本体部21の後退方向B側に連設した基端部23とが一体となって形成されている。先端部22及び基端部23は、本体21からゼンマイばね3及び受け部材5の方向に屈曲するように本体部21に連設している。このような推進部材2は保持部材4に収容された状態で、先端部22の先端面20がエンジン本体200のタイミングチェーン230(チェーンガイド240)を押圧する。又、基端部23は、推進部材2が進出することによって受け部材5に当接する。この当接によって推進部材2の必要以上の進出が停止するため、保持部材4からの推進部材2の脱落を防止することができる。
【0031】
推進部材2の本体部21には、当接面9が形成される。当接面9は推進部材2におけるゼンマイばね3との対向面(すなわちゼンマイばね3の外周部31との対向面)に形成されるものである。この実施形態においては、ゼンマイばね3の外周部31と推進部材2との間には受け部材5が挟まれるように配置されており、当接面9には受け部材5を介してゼンマイばね3の外周部31が間接的に当接する。
【0032】
当接面9はゼンマイばね3の中心30(
図1、
図2参照)との間の距離(寸法)が推進部材2の進退移動に伴って漸次変化するように形成されるものである。この実施形態において、
図1及び
図9に示すように、当接面9は軸方向Xに対して交差した直線状の傾斜面となっており、ゼンマイばね3の中心30との間の距離(寸法)がその長さ方向に沿って漸次変化する。すなわち当接面9における先端側(先端面20側)が最もゼンマイばね3の中心30に近く、基端側(基端部23側)が最もゼンマイばね3の中心30から離れていると共に、これらの間では、ゼンマイばね3の中心30との間が連続的に変化するものである。この場合、当接面9は
図1に示すように、推進部材2の推進方向(軸方向X)に対し、テーパ角θで直線状に傾斜したテーパ面となっている。このような構造では、受け部材5を介して当接面9に間接的に当接しているゼンマイばね3は当接面9との当接位置に応じて径が拡縮する。
【0033】
図1、
図2及び
図9に示すように、推進部材2の本体部21における当接面9との反対側の面は、保持部材4のガイド面13と同様に直線状の摺動側面24となっており、この摺動側面24が保持部材4のガイド面13に接触している。推進部材2が進退移動する際には、摺動側面24と保持部材4のガイド面13とが相互に摺動し、この摺動によりこれらの間には摩擦抵抗が発生する。なお、推進部材2の本体部21における基端部23にはロックピン12が係合するピン用凹部25が形成されている。
【0034】
ゼンマイばね3は、ばね性を有した薄板材を複数回渦巻き状に巻くことにより形成されている。
図11は、ゼンマイばね3を示し、渦巻き状の内端部が巻き上げ部32となっており、渦巻き状の外端部は受け部材5に引っ掛けられて係止する外端係止部33となっている。ゼンマイばね3は保持部材4の受け凹部14に入り込むことにより保持部材4の定位置にセットされる。ゼンマイばね3のセット状態では巻き上げ部32が保持部材4の窓部45に臨んでおり、窓部45から巻き上げ部材(図示省略)を挿入して回転操作することによりゼンマイばね3を巻き上げる(縮径させる)ことができる。
【0035】
図1及び
図2に示すように、受け部材5はゼンマイばね3の外周部31と推進部材2の当接面9との間に設けられ、これによりゼンマイばね3の外周部31が受け部材5を介して当接面9に間接的に当接している。
図10に示すように、受け部材5は中央受け片部52の両端から左右側受け片部53、54がゼンマイばね3の方向に一体的に屈曲することにより形成されている。
図1及び
図2に示すように、受け部材5が推進部材2及びゼンマイばね3の間に配置されることにより、中央受け片部52の背面が推進部材2の当接面9に当接し、左右側受け片部53、54の前面がゼンマイばね3の外周部31に当接する。中央受け片部52が推進部材2の当接面9に当接することにより、推進部材2の進退移動に際に、中央受け片部52に対して当接面9が摺動するため、受け部材5と推進部材2との間に摩擦抵抗が発生する。又、左右側受け片部53、54がゼンマイばね3の外周部31に当接することにより、ゼンマイばね3の拡径によって受け部材5が推進部材2の当接面9を押圧して推進部材2が進出方向Aに移動する一方、推進部材2の後退方向Bへの移動によって受け部材5がゼンマイばね3を押圧して同ばね3を縮径させる。
【0036】
ゼンマイばね3の外端係止部33は左側受け片部53に係止される。上述した係止片51は、受け部材5の中央受け片部52を上下方向に幾分伸ばすことにより形成されており、この係止片51が保持部材4の窓部45に係止される。この係止によって、受け部材5は保持部材4から外れることがなくなると共にゼンマイばね3の拡縮に応じて窓部45の長さ方向に沿って移動可能となる。さらに、窓部45との変位によって、受け部材5は推進部材2からの軸方向Xの荷重を受け止めるようになっている。
【0037】
以上の構造のテンショナー1では、
図1及び
図2に示すように、ゼンマイばね3の外周部31が保持部材4の受け凹部14に当接し、推進部材2の摺動側面24が保持部材4のガイド面13に接触し、受け部材5が推進部材2の当接面9及びゼンマイばね3の外周部31に当接するように組み付けられる。この組み付け状態で、窓部45を通じてゼンマイばね3の巻き上げを行うと、ゼンマイばね3が縮径して推進部材2を後退方向Bに戻すことができる。
【0038】
テンショナー1はゼンマイばね3を縮径させ、推進部材2を保持部材4の最も後側に位置させた状態でロックピン12を保持部材4のピン孔46に差し込む。これによりロックピン12が推進部材2のピン用凹部25に係止するため、
図1に示すように推進部材2が最も後退した位置で停止する。この状態でテンショナー1の全体をボルト11によってエンジン本体200に取り付ける。その後、ロックピン12を引き抜くことにより、推進部材2が進出可能状態となり、ゼンマイばね3が拡径しながら受け部材5を介して推進部材2の当接面9を押圧する。これにより推進部材2は進出方向Aに進出して
図2に示す状態となり、エンジン本体200のチェーンガイド240を押圧する。
【0039】
推進部材2がチェーンガイド240(タイミングチェーン230)から交番荷重(振動)を受けると、推進部材2の当接面9が受け部材5を介してゼンマイばね3を押圧する。これによりゼンマイばね3は径方向に撓む。さらに繰り返し交番荷重を受けることにより、ゼンマイばね3は全体的に縮径する動作を行う。
【0040】
図12〜
図14は、荷重を受けた場合のゼンマイばね3の作用を示す。
図12に示すように、チェーンガイド240(タイミングチェーン230)から荷重を受けると、推進部材2の当接面9が受け部材5を押すため、受け部材5に荷重Pとして作用する。
【0041】
図13は、ゼンマイばね3に対して静的な荷重が作用したときの変化を示し、(a)は荷重が作用する前の状態、(b)は荷重が作用したときの状態である。荷重が作用する前においては、巻き上げ部32となっている内端部32が
図13(a)の位置Z1となっている。静的な荷重Pを受けると、ゼンマイばね3は略菱形形状に弾性変形して撓みを生じる。さらに大きな荷重が加わると、ゼンマイばね3の全体が縮径するような方向(
図14におけるT2方向)のトルクが作用し、このトルクがゼンマイばね3が拡径する方向(
図14におけるT1方向)のトルクを超えるとゼンマイばね3の全体が巻き締まり内端部32がT2方向に移動し、ゼンマイばね3の全体が
図13(b)の矢印方向に巻き締まるように作動し、内端部(巻き上げ部)32が位置Z2に移動する。
【0042】
図14はチェーンガイド240から交番荷重(動的荷重)が作用した状態を示す。ゼンマイばね3が拡径する方向の荷重T1に対し、交番荷重によって発生する巻締め方向への荷重T2が大きい場合、交番荷重の1波形に対しゼンマイばね3の薄板材が滑り、交番荷重の1波形ごとに内端部32がT2方向に徐々に移動してゼンマイばね3の全体が縮径作動する。かかる縮径作動が進行すると、ゼンマイばね3は拡径する方向の荷重T1が増加し、拡径する方向の荷重T1と巻締め方向の荷重T2が釣り合った位置までゼンマイばね3が縮径して安定化する。
一方、ゼンマイばね3が略菱形形状に弾性変形する際には、薄板材の間で摩擦抵抗が発生するため、推進部材2の進退作動時にゼンマイばね3が縮径方向及び拡径方向で荷重の差(ヒス特性)が発生し、この差によってチェーンガイド240からの交番荷重を緩衝して受けることができる。
【0043】
このようなテンショナー1においては、ゼンマイばね3が拡径する荷重は、受け部材5を介して推進部材2の当接面9に略直角方向に作用し、推進部材2は略直角方向のトルクの分力によって進出方向Aに沿って移動する。このときのトルクの分力は保持部材4のガイド面13と推進部材2の摺動側面24とが摺動することによる摩擦抵抗及び推進部材2の当接面9と受け部材5の中央受け片部52とが摺動することによる摩擦抵抗に大部分が消費される。このため、進出方向Aに発生するゼンマイばね3の押圧力は、ゼンマイばね3の拡径荷重よりも大幅に少ない荷重となる。従って推進部材2がチェーンガイド240を押す荷重が低くなるため、タイミングチェーン230の摺動抵抗を低減することができる。タイミングチェーン230の摺動抵抗を低減させることができることからエンジンの出力ロスを低減することができる。
【0044】
推進部材2がチェーンガイド240から後退方向Bの荷重を受けた場合においても、保持部材4のガイド面13と推進部材2の摺動側面24とが摺動することによる摩擦抵抗及び推進部材2の当接面9と受け部材5の中央受け片部52とが摺動することによる摩擦抵抗があるため、推進部材2の後退(戻り)に対して大きな抵抗を発揮する。さらに、推進部材2が後退するときのゼンマイばね3の縮径では、同ばね3の薄板材間での摩擦抵抗が大きくなり、推進部材2の後退に対する抵抗となる。このため、推進部材2の戻り作動を確実に抑制することができる。
【0045】
テンショナー1においては、ゼンマイばね3の拡径力が受け部材5を介して常に推進部材2の当接面9を押圧しているため、部品間の隙間の発生が少なく、チェーンガイド240から振動を受けても打音を発生させることがない。
【0046】
さらに、保持部材4のガイド面13と推進部材2の摺動側面24とが接触し、推進部材2の当接面9と受け部材5とが接触し、ゼンマイばね3と受け部材5とが接触し、ゼンマイばね3と保持部材4の受け凹部14とが接触した状態となっている。これらによって接触面積が大きくなっており、この大きな接触面積でチェーンガイド240からの交番荷重を受けているため、構成部品に発生する圧痕を抑制することができる。加えて、ゼンマイばね3の外周部31が受け部材5の左右側受け片部53、54に当接すると共に保持部材4の受け凹部14に当接して荷重を受けるため、ゼンマイばね3が容易に撓んだ状態となって面圧が低くなる。これによっても圧痕の発生を抑制することができる。
【0047】
次に、テーパ面となっている推進部材2の当接面9のテーパ角θについて説明する。推進部材2が鋼製部材の場合、その静摩擦角度ρは約6.8°である。この静摩擦角度ρは、静摩擦係数μに対し、μ=arctanρで決定され、鋼の静摩擦係数μが約0.12前後であることから約6.8°となるものである。テンショナー設計の実際では、推進部材2の当接面9のテーパ角θをこの静摩擦角度ρの2倍前後に設定することにより、推進部材2の進出方向Aの推進力が少なくなってチェーンガイド240を押圧する力を弱くすることができ、メカニカルロスを低減することができる。ここで、テーパ角θ=15°とした場合、軸方向Xと直角方向(
図1の矢印C方向)における当接面9の寸法変化に対し、推進部材2の進出方向A及び後退方向Bの作動量は約3.8倍に増大する。これによりゼンマイばね3の拡縮径が少なくても推進部材2の作動量を確保することができる。
【0048】
この実施形態では、推進部材2の当接面9をテーパ面としているが、これに限らず、ゼンマイばね3の中心30との寸法(距離)が漸次変化するものであれば、緩やかな曲面や曲面及び平面の複合面であっても良い。ゼンマイばね3の外径によってばねの拡径の荷重が変化することを一定化するためである。かかる当接面9の変形例については、以下の実施形態においても同様である。
【0049】
図15はこの実施形態の変形形態であるテンショナー1Fを示す。テンショナー1Fは、相手部材としてのタイミングチェーン230を押圧するために推進部材2が保持部材4に引き込まれる構造となっている。
【0050】
すなわち、テンショナー1Fにおいては、保持部材4の軸方向(前後方向)の両端部が開口されており、推進部材2における軸方向Xの基端部23を保持部材4の後端開口部から後退方向B(反進出方向A)に引き出している。この推進部材2の後端部23には係止溝部27が形成されており、この係止溝部27がチェーンガイド240の係止凸部240aに係合している。ゼンマイばね3の進出方向への荷重により推進部材2が進出方向Aに移動すると、推進部材2が保持部材4に引き込まれる。この引き込みの際に、推進部材2はチェーンガイド240を進出方向Aに移動させるため、チェーンガイド240はその右端面を摺動しているタイミングチェーン230を押圧する。これによりタイミングチェーン230に張力を付与することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図16及び
図17は、本発明の荷重付加装置の第2実施形態のテンショナー1Aを示す。第2実施形態では、第1実施形態のテンショナー1に対し、弾性部材6を設けるものである。
【0052】
図13の形態のテンショナー1Aでは、保持部材4の基端辺43cを軸方向Xに沿って筒状に延長して筒状部分61を形成し、この筒状部分61の内部と推進部材2の基端部23との間に弾性部材6としてのコイルばねを配置している。
図13の形態のテンショナー1Aでは、推進部材2の先端部22を進出方向Aに沿って延長し、この延長部分に弾性部材6としてのコイルばねを外挿することにより弾性部材6を保持部材4の外側に配置している。いずれの形態においても、弾性部材6は推進部材2の進出方向Aに沿って伸縮するものであり、推進部材2の推進力を大きなものとすることができる。これにより振動の大きなエンジンに対して好適に適用することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図18は本発明の荷重付加装置の第3実施形態としてのテンショナー1Bを示す。
テンショナー1Bでは、推進部材2の当接面9とゼンマイばね3の外周部31との間に配置される受け部材5を長尺に形成している。長尺となっている受け部材5はその先端側(右端側)の端部が保持部材4のヒンジ15に係止されており、ヒンジ15を中心に回動してゼンマイばね3の方向への変位が可能となっている。
【0054】
受け部材5はヒンジ15との反対側(左端側)に向かって保持部材4の内部で延びており、その延長端55が保持部材4の基端辺43cに達している。延長端55に対応した保持部材4の基端辺43c62には、ストッパ部材16が軸方向Xに沿って着脱可能に挿入される。受け部材5の延長端55は挿入されたストッパ部材16に当接することによりゼンマイばね3から離れる方向の変位(矢印D方向の変位)が拘束される。このため受け部材5が回動することがなく、受け部材5の中央受け片部52に当接面9が当接している推進部材2の進退移動がロックされた停止状態となる。一方、ストッパ部材16を引き抜くことにより、受け部材5の回動が可能となるため、推進部材2の進退移動が可能となる。このような実施形態では、ストッパ部材16を設けることにより推進部材2の進退移動を一時的に停止させることができる。
【0055】
(第4実施形態)
図19は本発明の荷重付加装置の第4実施形態としてのテンショナー1Cを示す。
テンショナー1Cでは、推進部材2の対向した両面(上下面)にテーパ面からなる2つの当接面9が形成されている。又、保持部材4における当接面9に臨む部分には推進部材2から遠ざかるように窪む受け凹部14が2箇所に形成されており、この受け凹部14のそれぞれにゼンマイばね3が配置されている。2個のゼンマイばね3のそれぞれが受け部材5を介して推進部材2の当接面9に間接的に当接する。このように推進部材2に2つの当接面9を形成し、それぞれの当接面9に対応してゼンマイばね3が同数配置されることにより、第1実施形態のテンショナー1よりもゼンマイばね3及び当接面9の作用を増大させることができる。なお、当接面9及びゼンマイばね3の数は、2つ以上であっても良い。
【0056】
(第5実施形態)
図20は本発明の荷重付加装置の第5実施形態としてのテンショナー1Dを示す。
テンショナー1Dにおいては、第1実施形態のテンショナー1に対し受け部材5を省略するものであり、その他の構造は第1実施形態のテンショナー1と同様となっている。この場合、ゼンマイばね3の外端係止部33は保持部材4の受け凹部14に係止される。このような構造のテンショナー1Dでは、ゼンマイばね3の外周部31が推進部材2の当接面9に直接に当接した状態となり、この状態で第1実施形態のテンショナー1と同様に作動する。
【0057】
(第6実施形態)
図21〜
図23は本発明の荷重付加装置の第6実施形態としてのテンショナー1Eを示す。テンショナー1Eは、推進部材2と、ゼンマイばね3と、方向変換部材8とを備えている。
【0058】
推進部材2は外形が円環形状のキャップ状に形成されており、その先端面20がエンジン本体内のチェーンガイド240に当接する。推進部材2は基端側(左端側)から先端側(右端側)に向かって空洞状の凹み部26が内部に形成されており、凹み部26の内周面の全体が当接面9となっている。当接面9は凹み部26の内面を軸方向Xに沿って連続的に傾斜させることにより形成されるものであり、先端側に向かって径が漸次小さくなったテーパ面となっている。これにより当接面9はゼンマイばね3の中心部30との寸法(距離)が漸次変化するように推進部材2の軸方向Xに沿って形成される。
【0059】
ゼンマイばね3はエンジン本体に取り付けられるベース17に支持されており、ベース17に支持された状態で推進部材2の内部に挿入されている。
【0060】
方向変換部材8は推進部材2とゼンマイばね3との間に配置されている。
図22に示すように、方向変換部材8はゼンマイばね3を囲んだ環状となってゼンマイばね3の周囲に配置されて推進部材2の内部に設けられる。方向変換部材8は推進部材2の当接面9とゼンマイばね3の外周部31とに挟まれるものであり、ゼンマイばね3の外周部31は方向変換部材8を介して推進部材2の当接面9と間接的に当接する。
【0061】
図23は方向変換部材8を示し、開口部81を一部に有した環状の本体部80と、本体部80に沿って形成された複数の接触面部82及びばね受け面部83とを備えている。本体部80は開口部81を有することにより、全体の径の拡縮が可能となっている。接触面部82は推進部材2の当接面9に対応して形成されるものであり、当接面9と同じ変化面(テーパ面)となって本体部80に対し90°間隔で設けられ、それぞれが推進部材2の当接面9と接触する。ばね受け面部83は本体部80における接触面部82の間を外側に膨らんだ湾曲状とすることにより設けられており、本体部80に対し90°間隔で形成されている。それぞれのばね受け面部83は、ゼンマイばね3の外周部31に直接に当接する。
【0062】
この実施形態のテンショナー1Eにおいては、ゼンマイばね3が拡径することにより方向変換部材8が拡径方向に押圧され、その当接面9が方向変換部材8の接触面部82と接触している推進部材2が軸方向Xに進出する。すなわち、ゼンマイばね3の拡径によりばね受け面部83を介して方向変換部材8が拡径し、この方向変換部材8の拡径によって接触面部82が推進部材2の当接面9を押圧するため、推進部材2が進出方向Aに直線的に進出するものである。
【0063】
一方、エンジン本体のタイミングチェーン230からの荷重は、推進部材2を押圧し、方向変換部材8に伝達された後、ゼンマイばね3の外周部31に作用する。具体的には、方向変換部材8の接触面部82が推進部材2の当接面9と接触しているため、推進部材2を押圧する軸方向Xの荷重によって方向変換部材8の径が縮小する。そして、方向変換部材8のばね受け面部83がゼンマイばね3の外周部31に当接しているため、方向変換部材8の径が縮小することによりゼンマイばね3の径が縮小する。このような実施形態における方向変換部材8は、ゼンマイばね3の拡縮径の方向と推進部材2の進退移動の方向との間で方向変換を行うものである。
【0064】
以上の構造では、ゼンマイばね3の外周部31が方向変換部材8のばね受け面部83と摺動することによって摩擦抵抗が発生し、方向変換部材8の接触面部82と推進部材2の当接面9とが摺動することによって摩擦抵抗が発生する。従って、推進部材2を進出方向へ付勢するためのゼンマイばね3が拡径する荷重は、これらの摩擦抵抗に大部分が消費されるため、進出方向Aに発生するゼンマイばね3の押圧力は、ゼンマイばね3の拡径荷重よりも大幅に少ない荷重となる。これにより推進部材2がチェーンガイド240を押す荷重が低いため、タイミングチェーン230の摺動抵抗を低減することができ、エンジンの出力ロスを低減することができる。又、推進部材2がチェーンガイド240から後退方向Bの荷重を受けた場合においては、これらの摩擦抵抗があると共に、ゼンマイばね3の薄板材間の摩擦抵抗があるため、推進部材2の後退(戻り)に対して大きな抵抗となって推進部材2の戻り作動を確実に抑制することができる。
【0065】
又、ゼンマイばね3の拡径力が方向変換部材8を介して常に推進部材2の当接面9を押圧しているため、構成部品間の隙間の発生が少なく、チェーンガイド240から振動を受けても打音を発生させることがない。さらに、ゼンマイばね3と方向変換部材8と推進部材2とが接触することにより接触面積が大きくなっており、この大きな接触面積でチェーンガイド240からの交番荷重を受けているため、構成部品に発生する圧痕を抑制することができる。
【0066】
なお、テンショナー1Eにおいて、方向変換部材8を環状としているが、方向変換部材8はゼンマイばね3を囲んだ状態でゼンマイばね3と推進部材2との間に配置されるものであれば、断片的な円弧状、その他の形状であっても良い。
【0067】
以上の実施形態では、荷重付加装置として自動車のエンジンに使用されるテンショナーへの適用を示したが、これに限らず、開閉作動する自動車のエンジンの吸気バルブやその他の開閉機構や直線移動機構に対しても適用することができる。