(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0032】
実施形態にかかる透明導電基板は、基材と、上記基材の少なくとも一方の主面上に形成され、バインダー樹脂および導電性繊維を含んで構成された透明導電膜と、この透明導電膜上に形成された保護膜と、を有し、上記バインダー樹脂の熱分解開始温度が210℃以上であり、かつ上記保護膜が熱硬化性樹脂の熱硬化膜であることを特徴とする。
【0033】
[基材]
上記基材は着色していてもよいが、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。例えば、ガラス、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリエチレンナフタレート[PEN]等)、ポリカーボネート、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート[PMMA]等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂フィルムを好適に使用することができる。これらの樹脂フィルムの中でも、優れた光透過性(透明性)や柔軟性、機械的特性などの点からポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン社製)、ARTON(登録商標、JSR社製)等)やノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス社製))を用いることができる。
【0034】
[透明導電膜]
透明導電膜を構成する上記導電性繊維としては、金属ナノワイヤ、カーボン繊維などが挙げられ、金属ナノワイヤを好適に使用することができる。金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。なお、本実施形態では、金属ナノワイヤとともに(混合して)、または金属ナノワイヤに代えて、ポーラスあるいはノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、以下、本願明細書において、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブとを包括する意味で用いる。狭義の金属ナノワイヤ、狭義の金属ナノチューブは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0035】
金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば、銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly−ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤおよび金ナノワイヤの大規模な合成および精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細な記述がある。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。ここで、鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブができる(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892−3901参照)。
【0036】
金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブの径の太さの平均は、1〜500nmが好ましく、5〜200nmがより好ましく、5〜100nmがさらに好ましく、10〜100nmが特に好ましい。また、金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブの長軸の長さの平均は、1〜100μmが好ましく、1〜80μmがより好ましく、2〜70μmがさらに好ましく、5〜50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブは、径の太さの平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブの径の平均径をb、長軸の平均的な長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、金属ナノワイヤの10本以上の径をSEM(日立ハイテクノロジーズ社製 FE−SEM SU8020)で各々測長、金属ナノワイヤの100本以上の長さを、光学顕微鏡(キーエンス社製VHX−600)を用いて各々測長し、それらの算術平均値により平均径及び平均長さを求めることができる。
【0037】
このような金属ナノワイヤの材料としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種及びこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低い表面抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀及び銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定の表面抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。
【0038】
これらの金属の中でも、金または銀の少なくとも1種を含むことがより好ましい。最適な態様としては、銀のナノワイヤが挙げられる。
【0039】
透明導電膜を構成する上記バインダー樹脂としては、熱分解開始温度が210℃以上のものを使用できる。具体的にはポリN−ビニルアセトアミド(PNVA)が挙げられる。ポリN−ビニルアセトアミドは、N−ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーであるが、N−ビニルアセトアミド(NVA)が70モル%以上である共重合体を使用することもできる。NVAと共重合できるモノマーとしては、例えばN−ビニルホルムアミド、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電パターンのシート抵抗が高くなり、銀ナノワイヤと基板との密着性が低下する傾向があり、また、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるので、N−ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。このような重合体の重量平均分子量はプルラン換算で3万〜400万であることが好ましく、10万〜300万であることがより好ましく、30万〜150万であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の熱分解開始温度は230℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。但し、熱分解開始温度が210℃未満のものを使用することを妨げるものではない。この場合、上記共重合体中のNVAの割合は50モル%以上とするのが好適である。
【0040】
上記透明導電膜は、上記バインダー樹脂、導電性繊維および溶媒を含んで構成された導電性インクを基材の少なくとも一方の主面上に印刷して導電パターン(導電性インク塗膜)を形成し、この導電パターンを導体化して形成する。溶媒としては、導電性繊維が良好な分散性を示す溶媒であり、かつバインダー樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定されない。バインダー樹脂が非水溶性である場合、γ−ブチロラクトンなどが例示できる。バインダー樹脂が水溶性である場合、乾燥速度を容易に制御する事が出来る点でアルコールと水との混合溶媒を用いることが好ましい。アルコールとしては、C
nH
2n+1OH(nは1〜3の整数)で表される炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノールおよびイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコール」と表記]を少なくとも1種含む。炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことが好ましい。炭素原子数が3以下の飽和一価アルコールを用いると乾燥が容易となるため工程上都合が良い。アルコールとして、炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。併用できる炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。上記炭素原子数が1〜3の飽和一価アルコールと併用する事で乾燥速度を調整する事が出来る。また、混合溶媒における全アルコールの含有率は、5〜90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であるとコーテイングした際に縞模様(塗布斑)が発生し不適である。
【0041】
上記導電性インクは、上記バインダー樹脂、導電性繊維および溶媒を自転公転攪拌機等で攪拌して混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される導電性繊維の含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0から99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0042】
導電性インクの印刷は、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア法、スリットコート法等の印刷法により行うことができる。この際に形成される透明導電膜あるいは透明導電パターンの形状については特に限定はないが、基材上に形成される配線、電極のパターンとしての形状、あるいは基材の全面または一部の面を被覆する膜(ベタパターン)としての形状等が挙げられる。形成した導電パターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電化することができる。なお、必要に応じて導電パターンに適宜な光照射を行ってもよい。
【0043】
[保護膜]
透明導電膜を保護する上記保護膜としては、熱硬化性樹脂を用いる。光硬化性樹脂を用いると、光を吸収して硬化するため、光を吸収する成分が硬化膜中に残存することとなり、好ましくない。熱硬化性樹脂の中でも、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒と、を含む保護膜インクを上記透明導電膜上に印刷、塗布等により形成し、硬化させて形成されたものを用いることがより好ましい。保護膜インクの硬化は、保護膜インクを加熱・乾燥させることにより行うことができる。
【0044】
上記(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンは、その数平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましく、2,000〜70,000であることがより好ましく、3,000〜50,000であると更に好ましい。ここで、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリスチレン換算の値である。分子量が1,000未満では、印刷後の塗膜の伸度、可撓性、並びに強度を損なうことがあり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなることがある。
【0045】
本明細書においては、特に断りのない限り、GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS−2000
カラム:ShodexカラムLF−804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI−2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル−プ 100μリットル
試料濃度:約0.1質量%に調製
【0046】
(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの酸価は10〜140mg−KOH/gであることが好ましく、15〜130mg−KOH/gであると更に好ましい。酸価が10mg−KOH/g未満では、硬化性が低くなる上に耐溶剤性も悪くなる。140mg−KOH/gを超えるとウレタン樹脂としての溶媒への溶解性が低く、また溶解したとしても粘度が高くなりすぎ、ハンドリングが難しい。また、硬化物も硬くなりすぎるために基材フィルムによっては反り等の問題を起こしやすくなる。
【0047】
また、本明細書において、樹脂の酸価は以下の方法により測定した値である。
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1〜3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム−エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを、中和の終点とする。その結果から下記の計算式を用いて得た値を、樹脂の酸価とする。
酸価(mg−KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム−エタノール溶液の使用量(ml)
f:0.1N水酸化カリウム−エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0048】
(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐光性の観点では(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0049】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0050】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9−ノナメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’−ジエチルエ−テルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
脂環族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3−または1,4−)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0052】
ここで、(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(−NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6〜30である脂環式化合物を用いることにより、実施の形態に係るポリウレタン樹脂から形成される保護膜は、特に高温高湿時の信頼性に高く、電子機器部品の部材に向いている。
【0053】
耐候性・耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートは、(a1)ポリイソシアネート化合物の中に、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、50mol%以下、好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下含まれることが望ましい。
【0054】
上記脂環式化合物としては、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
【0055】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250〜50,000であり、好ましくは400〜10,000、より好ましくは500〜5,000である。この分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0056】
(a2)ポリオール化合物は、たとえば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ−テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、および植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸およびその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18〜72であるポリオール化合物である。これらの中でも保護膜としての耐水性、絶縁信頼性、基材との密着性のバランスを考慮するとポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0057】
上記ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3〜18のジオールを原料として、炭酸エステルまたはホスゲンと反応させることにより得ることができ、たとえば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0058】
式(1)において、R
3は対応するジオール(HO−R
3−OH)から水酸基を除いた残基であり、n
3は正の整数、好ましくは2〜50である。
【0059】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,10−デカメチレングリコールまたは1,2−テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造できる。
【0060】
上記ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。また、溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0061】
上記ポリエ−テルポリオールは、炭素原子数2〜12のジオールを脱水縮合、または炭素原子数2〜12のオキシラン化合物、オキセタン化合物、もしくはテトラヒドロフラン化合物を開環重合して得られたものであり、たとえば以下の構造式(2)で表される。
【化2】
【0062】
式(2)において、R
4は対応するジオール(HO−R
4−OH)から水酸基を除いた残基であり、n
4は正の整数、好ましくは4〜50である。上記炭素原子数2〜12のジオールは一種を単独で用いて単独重合体とすることもできるし、2種以上を併用することにより共重合体とすることもできる。
【0063】
上記式(2)で表されるポリエ−テルポリオールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ−1,2−ブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(ポリ1,4−ブタンジオール)、ポリ−3−メチルテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。また、ポリエ−テルポリオールの疎水性を向上させる目的で、これらの共重合体、たとえば1,4−ブタンジオールとネオペンチルグリコールとの共重合体等も用いることができる。
【0064】
上記ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸及びジオールを脱水縮合またはジカルボン酸の低級アルコールのエステル化物とジオールとのエステル交換反応をして得られるものであり、たとえば以下の構造式(3)で表される。
【化3】
【0065】
式(3)において、R
5は対応するジオール(HO−R
5−OH)から水酸基を除いた残基であり、R
6は対応するジカルボン酸(HOCO−R
6−COOH)から2つのカルボキシル基を除いた残基であり、n
5は正の整数、好ましくは2〜50である。
【0066】
上記ジオール(HO−R
5−OH)としては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,10−デカメチレングリコールまたは1,2−テトラデカンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0067】
また、上記ジカルボン酸(HOCO−R
6−COOH)としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ブラシル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、が挙げられる。
【0068】
上記ポリラクトンポリオールは、ラクトンの開環重合物とジオールとの縮合反応、またはジオールとヒドロキシアルカン酸との縮合反応により得られるものであり、たとえば以下の構造式(4)で表される。
【化4】
【0069】
式(4)において、R
7は対応するヒドロキシアルカン酸(HO−R
7−COOH)から水酸基およびカルボキシル基を除いた残基であり、R
8は対応するジオール(HO−R
8−OH)から水酸基を除いた残基であり、n
6は正の整数、好ましくは2〜50である。
【0070】
上記ヒドロキシアルカン酸(HO−R
7−COOH)としては、具体的には、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシペンタン酸、5−ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、ε―カプロラクンが挙げられる。
【0071】
上記両末端水酸基化ポリシリコーンは、たとえば以下の構造式(5)で表される。
【化5】
【0072】
式(5)において、R
9は独立に炭素原子数2〜50の脂肪族炭化水素二価残基であり、n
7は正の整数、好ましくは2〜50である。これらはエ−テル基を含んでいてもよく、複数個あるR
10は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の脂肪族炭化水素基である。
【0073】
また、上記両末端水酸基化ポリシリコーンの市販品としては、たとえば信越化学工業株式会社製「X−22−160AS、KF6001、KF6002、KF−6003」などが挙げられる。
【0074】
また、上記「植物系油脂を原料とするC18不飽和脂肪酸およびその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18〜72であるポリオール化合物」としては、具体的にはダイマー酸を水素化した骨格を有するジオール化合物が挙げられ、その市販品としては、たとえば、コグニス社製「Sovermol(登録商標)908」などが挙げられる。
【0075】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、(a2)ポリオール化合物として通常ポリエステルやポリカーボネートを合成する際のジオール成分として用いられる分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,10−デカメチレングリコール、1,2−テトラデカンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、またはジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0076】
(a3)カルボキシル基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシル基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、炭素数が1または2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する分子量が200以下のカルボン酸またはアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。具体的には2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、2,2−ジメチロ−ルブタン酸、N,N−ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビスヒドロキシエチルアラニン等が挙げられ、この中でも、溶媒への溶解度から、2,2−ジメチロ−ルプロピオン酸、2,2−ジメチロ−ルブタン酸が特に好ましい。これらの(a3)カルボキシル基を含有するジヒドロキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
前述の(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンは、上記の3成分((a1)、(a2)および(a3))のみから合成が可能であるが、さらに(a4)モノヒドロキシ化合物および/または(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することができる。耐光性の観点から分子内に芳香環や炭素−炭素二重結合を含まない化合物を用いることが好ましい。
【0078】
(a4)モノヒドロキシ化合物
(a4)モノヒドロキシ化合物として、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸等カルボン酸を有する化合物が挙げられる。
【0079】
(a4)モノヒドロキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
この他、(a4)モノヒドロキシ化合物として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。
【0081】
(a5)モノイソシアネート化合物
(a5)モノイソシアネート化合物としては、ヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
上記(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下または非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成ができるが、無触媒で反応させた方が、最終的にスズ等の混入を考慮する必要がなく好適である。
【0083】
上記有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されないがアミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ−テル、エチレングリコールジエチルエ−テル、エチレングリコールモノメチルエ−テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ−テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ−テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ−テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ−テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0084】
なお、生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、および電子材料用途においてポリウレタンを保護膜用インクの原料にすることを考えると、これらの中でも、特に、プロピレングリコールモノメチルエ−テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ−テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ−テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ−テルアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい。
【0085】
原料の仕込みを行う順番については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物を先に仕込み、溶媒に溶解または分散させた後、20〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30〜160℃、より好ましくは50〜130℃でこれらを反応させる。
【0086】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量および酸価に応じて調節するが、ポリウレタンに(a4)モノヒドロキシ化合物を導入する場合には、ポリウレタン分子の末端がイソシアナト基になるように、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物よりも(a1)ポリイソシアネート化合物を過剰に(水酸基の合計よりもイソシアナト基が過剰になるように)用いる必要がある。ポリウレタンに(a5)モノイソシアネート化合物を導入する場合には、ポリウレタン分子の末端がヒドロキシ基になるように、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物よりも(a1)ポリイソシアネート化合物を少なく(水酸基の合計よりもイソシアナト基が少なくなるように)用いる必要がある。
【0087】
具体的には、これらの仕込みモル比は、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)が、0.5〜1.5:1、好ましくは0.8〜1.2:1より好ましくは0.95〜1.05:1である。
【0088】
また、(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基が、1:0.1〜30、好ましくは1:0.3〜10である。
【0089】
(a4)モノヒドロキシ化合物を用いる場合には、((a2)ポリオール化合物+(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物)のモル数よりも(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数を過剰とし、(a4)モノヒドロキシ化合物を、イソシアナト基の過剰モル数に対して、0.5〜1.5倍モル量、好ましくは0.8〜1.2倍モル量で用いることが好ましい。
【0090】
(a5)モノイソシアネート化合物を用いる場合には、(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数よりも((a2)ポリオール化合物+(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物)のモル数を過剰とし、水酸基の過剰モル数に対して、0.5〜1.5倍モル量、好ましくは0.8〜1.2倍モル量で用いることが好ましい。
【0091】
(a4)モノヒドロキシ化合物を(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンに導入するためには、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの両末端に残存しているイソシアナト基と(a4)モノヒドロキシ化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a4)モノヒドロキシ化合物を20〜150℃、より好ましくは70〜120℃で滴下し、その後、同温度で保持して反応を完結させる。
【0092】
(a5)モノイソシアネート化合物を(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンに導入するためには、(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの両末端に残存している水酸基と(a5)モノイソシアネート化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a5)モノイソシアネート化合物を20〜150℃、より好ましくは50〜120℃で滴下し、その後同温度で保持して反応を完結させる。
【0093】
上記(B)エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N−グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε−カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を挙げることができる。
【0094】
特に、一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物がより好適に使用できる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(ダイセル化学社製)、jER604(三菱化学社製)、EPICLON EXA−4700(DIC社製)、EPICLON HP−7200(DIC社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、TEPIC−S(日産化学社製)などが挙げられる。
【0095】
上記(B)エポキシ化合物としては、芳香族環を有する官能基を含んでいても良く、その場合、上記(A)と(B)の合計質量に対して(B)の質量は20質量%以下が好ましい。
【0096】
上記(B)エポキシ化合物に対する(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの配合割合は、(B)エポキシ化合物のエポキシ基に対するポリウレタン中のカルボキシル基の当量比で0.5〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.3であることがより好ましく、0.9〜1.1であることがさらに好ましい。
【0097】
上記(C)硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成社製)、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、U−CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ社製)、Irgacure(登録商標)184等が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると電気絶縁性が低下するので、(A)と(B)の合計質量に対して0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜6質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%使用される。
【0098】
また、硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、多官能チオール化合物やオキセタン化合物などが挙げられる。多官能チオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工社製)などが挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亜合成社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産社製)が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると硬化速度が速くなり過ぎ、ハンドリング性が低下するので、(B)の質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜6質量%使用される。
【0099】
上記保護膜インクには(D)溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。(D)溶媒としては、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、ポリウレタン樹脂の溶解性や印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後に反応溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。ただし、操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。保護膜用組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、ムラが出来やすい。沸点が300℃より高いと、乾燥、硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するために、工業的な生産には向かなくなる。
【0100】
このような溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ−テルアセテート(沸点146℃)、γ−ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒や、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t−ブチルアルコール(沸点82℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒、メチルエチルケトン(沸点80℃)を用いることができる。これらの溶媒は、1種単独でもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合には、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮し、凝集や沈殿などが起きない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒や、インクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。
【0101】
上記保護膜インクは、上記(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒とを、(D)溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように配合し、均一になるように攪拌して製造することができる。
【0102】
このような保護膜インク中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1〜10質量%含むことが好ましく、0.5質量%〜5質量%含むことがより好ましい。固形分濃度が0.1〜10質量%の範囲であると、透明導電膜上に塗布した場合に膜厚が厚くなり過ぎることによる電気的なコンタクトがとれない不具合が発生せず、かつ十分な耐候性・耐光性を有する保護膜が得られる。
【0103】
以上に述べた保護膜インクを使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法などの印刷法により、導電膜が形成された基材上に印刷パターンを形成し、この印刷パターンの溶媒を乾燥、除去後に、必要に応じて加熱処理、光照射を行うことにより硬化させて保護膜とする。上記保護膜を透明基材上に形成した透明導電膜上に形成することにより、光照射後のシート抵抗及びヘーズの変化が少ない、保護膜を備えた透明な導電膜を有する導電基板を得ることができる。本明細書において「透明」とは全光線透過率が75%以上であることを意味する。
【0104】
なお、保護膜用組成物を加熱により硬化させる場合には、温度100℃以下、かつ加熱時間10分以下の条件で加熱する。
【0105】
前記導電性インクとして特に銀ナノワイヤインクを用いて透明導電膜または透明導電パターンを作製する場合には、銀ナノワイヤの単位質量当たりの表面積が大きく、微細配線等は高温高湿時の絶縁信頼性が低いため、上述の実施形態に係る保護膜インクによる保護が効果的である。
【0106】
上記透明導電膜または透明導電パターンに含まれるバインダー樹脂と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)は、0.8以上20以下とすることが好ましい。この質量比を0.8以上とすることにより、透明導電膜または透明導電パターンのバインダー樹脂と保護膜との相互作用により、透明導電膜または透明導電パターンの信頼性(耐環境性)を高くすることができる。また、20以下とすることで保護膜形成時の電気的コンタクト性を確保できる。バインダーと銀ナノワイヤとの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)の上限値は、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下である。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0108】
<バインダー樹脂の熱分解開始温度の測定>
バインダー樹脂の熱分解開始温度は、NETZSCH社製TG−DTA2000を用い測定した。試料量約10mgを白金パンに入れ、以下の通り空気雰囲気で測定し、120℃以上の温度(サンプルの予備乾燥をしていないため、100℃付近でサンブルに吸湿している水分に基づく重量減少が認められ、その影響を無視するため)で重量減少が1%生じた温度を熱分解開始温度として求めた。
空気雰囲気、温度条件:室温→(10℃/min)→700℃(コンプレッサーエアー100mL/min)
【0109】
実施例で使用した3種のバインダー樹脂の熱分解開始温度は、PNVAが270℃、PVPが200℃、エトセルが170℃であった。
【0110】
<銀ナノワイヤ>
銀ナノワイヤ1
銀ナノワイヤ分散液(分散媒:メタノール)をマイクロ波化学社から購入した。分散液中の銀ナノワイヤ1の濃度は0.2質量%であり、分散液中に分散している銀ナノワイヤの平均径は26nmであり、平均長さは15μmである。銀ナノワイヤの平均径および平均長さは、シリコンウェハ上に銀ナノワイヤ分散液を数滴滴下、乾燥後シリコンウェハ上に堆積した銀ナノワイヤの形状を、株式会社日立ハイテクノロジーズ製超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡SU8020(加速電圧3〜10kV)を用いて撮影した画像にて任意に50本測定し、その算術平均値を求めた。
【0111】
この分散液を、0.3ml分取し秤量した。ホットプレートで緩やかに加温し、大部分の溶媒を除去した後助燃剤(WO
3)を加え、試料燃焼装置AQF−100(三菱化学アナリティック)で水蒸気を通気し、酸素気流下で燃焼分解した。
【0112】
発生ガスを吸収液に捕集し、陰イオンクロマトグラフ装置DIONEX ICS−1600(Thermo Fischer Scientific)で、ハロゲンの測定を行い、試料液中濃度に換算した。分散液中のハロゲン濃度は20質量ppmであった。銀ナノワイヤに対しては1質量%である。
【0113】
銀ナノワイヤ2
ポリビニルピロリドンK−90((株)日本触媒社製)(0.98g)、AgNO
3(1.04g)及びFeCl
3(0.8mg)を、エチレングリコール(250ml)に溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた銀ナノワイヤ粗分散液をメタノール2000mlに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m
2、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施し不純物を除去した。その後、得られた分散液を濃縮し、計算上銀濃度が0.2質量%程度になるようにメタノールを適宜加えた。メタノール分散液の一部(10g)をPFA製容器に量りとり、100℃で6時間加熱することで乾燥させた。乾燥後の固体を熱重量分析装置(NETZSCH製、差動型示差熱天秤TG−DTA2000SE)により10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃での残分を銀の質量とみなして分散液中の成分量を簡易的に測定した。その結果、得られた銀ナノワイヤ2のメタノール分散液中の銀濃度は、0.2質量%であり、平均径36nm、平均長20μmであった。銀ナノワイヤ2の平均径および平均長さは、500個の銀ナノワイヤをSEMにより観察して各々求めた算術平均値である。また、上記メタノール、エチレングリコール、AgNO
3、FeCl
3は和光純薬工業株式会社製である。
【0114】
<銀ナノワイヤインクの調製>
調製例1(銀ナノワイヤインク1)
上記銀ナノワイヤ1を含む銀ナノワイヤメタノール分散液(銀濃度:0.2質量%、分散媒:メタノール、ワイヤ平均径:26nm、平均長:15μm)174gを1000mlナスフラスコに量り取った。そこへ、10質量%PNVA(ポリN−ビニルアセトアミド)水溶液3.1g(昭和電工社製、重量平均分子量約90万)、プロピレングリコール40.9g(和光純薬社製)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)112.3g(東京化成社製)を加え、よく分散させた後、エバポレーターを用いてメタノールを留去した。その後、純水63.2g、エタノール300g(関東化学社製)、メタノール49.3g(純正化学社製)を加え、シンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV−310を用いて撹拌して、銀ナノワイヤインク1を得た。
【0115】
調製例2(銀ナノワイヤインク2)
上記調製例1で用いたPNVA水溶液をPVP K−90(ポリN−ビニルピロリドン、日本触媒製)の10質量%水溶液に変更した以外は同様に調製し、銀ナノワイヤインク2を得た。
【0116】
調製例3(銀ナノワイヤインク3)
上記調製例1で用いたPNVA水溶液の代わりに、エトセル(登録商標)STD100cps(エチルセルロース、日新化成製)の10質量%PGME溶液を用い、追加するPGMEの量を109.5g、純水の量を66gに変更した以外は同様に調製し、銀ナノワイヤインク3を得た。
【0117】
調製例4(銀ナノワイヤインク4)
上記作製した銀ナノワイヤ2のメタノール分散液(銀濃度:0.2質量%、分散媒:メタノール、ワイヤ平均径:36nm、平均長:20μm)174gを1000mlナスフラスコに量り取った。そこへ、10質量%PNVA水溶液3.1g(昭和電工社製)、プロピレングリコール40.9(和光純薬社製)、PGME112.3g(東京化成社製)を加え、よく分散させた後、エバポレーターを用いてメタノールを留去した。その後、純水63.2g、エタノール300g(関東化学社製)、メタノール49.3g(純正化学社製)を加え、シンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV−310を用いて撹拌して、バインダー樹脂(PNVA)と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)が0.87である銀ナノワイヤインク4を得た。
【0118】
調製例5〜12(銀ナノワイヤインク5〜12)
表3に示されたバインダー樹脂種、バインダー樹脂量を使用した以外は調製例4と同様にして各銀ナノワイヤインク5〜12を得た。
【0119】
得られた銀ナノワイヤインクに含まれるバインダー樹脂と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)が表3に示される。得られた銀ナノワイヤインクの銀濃度は、バリアン社製 AA280Zゼーマン原子吸光分光光度計により測定し、バインダー樹脂量は、GPCにより測定した。
【0120】
<銀ナノワイヤインク塗膜の印刷>
上記調製例1〜12で調製した、各銀ナノワイヤインク1〜12を用いて、それぞれスリットコート印刷機(中外炉工業社製FLOLIA(登録商標))により、表面をプラズマ処理したCOPフィルム(日本ゼオン社製 ゼオノア(登録商標)ZF14 50μm厚)の主面上に、ウェット膜厚15μmにて塗工し、20cm角のベタパターンとして透明導電パターン(銀ナノワイヤインク塗膜)を印刷した。プラズマ処理は積水化学社製AP−T03 AtomosPheric High−density Plasma Cleaning Systemを用いて、大気雰囲気下、出力405Vで3秒間実施した。楠本化成社製恒温器ETAC HS350を用い、100℃、10分の条件で溶媒乾燥を行った後、得られた透明導電パターンの表面抵抗を測定した。表面抵抗は、透明導電パターン(ベタパターン)を5cm角毎のエリアに区切り、各々のエリアの中央付近を測定した16点の表面抵抗の算術平均値である。銀ナノワイヤインク1〜3を用いた透明導電パターンの表面抵抗は、いずれも40Ω/□であり、銀ナノワイヤインク4〜12を用いた透明導電パターンの表面抵抗は、いずれも60Ω/□であった。なお、表面抵抗は非接触式抵抗測定器(ナプソン株式会社製 EC−80P)と接触式抵抗測定器(三菱化学アナリティック社製、ロレスタGP MCP−T610)を用いて測定した。
【0121】
<保護膜インクの作製>
(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンの合成例
合成例1
攪拌装置、温度計、コンデンサー(還流冷却器)を備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC−1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9−ノナンジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール=15:85、分子量964)16.7g、カルボキシル基を含有するジヒドロキシル化合物として2,2−ジメチロールブタン酸(湖州長盛化工有限公司社製)10.8g、および溶媒としてジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(ダイセル製)62.6gを仕込み、90℃で前記2,2−ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0122】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)−W(ビス−(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)23.5gを30分かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温し、100℃で15時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に100℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシル基含有ポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は33500、その樹脂溶液の酸価は39.4mgKOH/gであった。
【0123】
保護膜インク1
上記合成例1で得られた(A)カルボキシル基含有ポリウレタン溶液(固形分濃度42.4質量%)1.8g、(B)エポキシ化合物としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工社製)0.11g、(C)硬化促進剤としてSA102(DBUオクチル酸塩)(サンアプロ社製)0.048g、(D)溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)とジエチレングリコールモノエチルエーテル(EC)(IPA:EC=40:60(質量比))の混合物31.78gを加え、均一になるようにシンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV−310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク1を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク1の固形分濃度(カルボキシル基を含有するポリウレタン、エポキシ化合物、硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0124】
保護膜インク2
保護膜インク1において配合した(B)エポキシ化合物をjER(登録商標)−604(三菱化学社製 N,N,N´,N´−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物)0.15gに変更した以外は保護膜インク1と同様に調製し、保護膜インク2を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インク2の固形分濃度((A)カルボキシル基を含有するポリウレタン、(B)エポキシ化合物、(C)硬化促進剤の総量)は3質量%であった。
【0125】
保護膜インク3
紫光(登録商標)UV−7620EA(日本合成化学工業社製;固形分濃度35質量%)10gを酢酸エチル106.7gで希釈し、光開始剤として、Irgacure(登録商標)184(BASF製)175mgを加え、均一になるようにシンキー社製の自転・公転真空ミキサーあわとり練太郎(登録商標)ARV−310を用いて、1200rpmで20分間撹拌し、保護膜インク3を得た。溶媒乾燥前後の質量より算出した保護膜インクの固形分濃度は3質量%であった。
【0126】
保護膜インク4
保護膜インク1において、配合した(B)エポキシ化合物量を0.06gに変更した以外は保護膜インク1と同様に調製し、保護膜インク4を得た。
【0127】
保護膜インク5
保護膜インク1において、配合した(B)エポキシ化合物量を0.17gに変更した以外は保護膜インク1と同様に調製し、保護膜インク5を得た。
【0128】
保護膜インク6
保護膜インク2において、配合した(B)エポキシ化合物量を0.08gに変更した以外は保護膜インク2と同様に調製し、保護膜インク6を得た。
【0129】
保護膜インク7
保護膜インク2において、配合した(D)溶媒をジエチレングリコールモノエチルエーテル(EC)31.78gに変更した以外は保護膜インク2と同様に調製し、保護膜インク7を得た。
【0130】
<保護膜の印刷>
実施例1
調製例1により得られた銀ナノワイヤインク1を用いて、表面をプラズマ処理(積水化学社製AP−T03 AtomosPheric High−density Plasma Cleaning Systemを用いて、大気雰囲気下、出力405Vで3秒間)したCOPフィルムの主面上に印刷した銀ナノワイヤインク塗膜に、前述のスリットコート印刷機を用いて保護膜インク1を塗布し、楠本化成社製恒温器ETAC HS350を用い、100℃、15分間の条件で乾燥、硬化を行って、実施例1にかかる透明導電基板とした。この場合、上記銀ナノワイヤインク塗膜と保護膜との合計厚みは100nmであった。
【0131】
実施例2〜5、および比較例1〜6
実施例1と同様にして、表1に示した組合せで銀ナノワイヤインク塗膜、保護膜を製膜して、それぞれの透明導電基板とした。
【0132】
なお、比較例3の保護膜塗布の際は、100℃、15分の乾燥、硬化に変えて、楠本化成社製恒温器ETAC HS350を用い、100℃、5分の乾燥後に、小型UV照射装置 QRU−2161−Z11−00(株式会社オーク製作所)を用い波長254nmの紫外光を750mJ/cm
2照射し硬化させた。
【0133】
【表1】
【0134】
透明導電膜の評価
接触抵抗
実施例および比較例の透明導電基板に対し、後述する耐光性試験における光照射前に、接触式抵抗測定器(三菱化学アナリティック社製、ロレスタGP MCP−T610)を用い、保護膜の上から膜内任意の10点に対し、表面抵抗を測定した。
【0135】
10点とも表面抵抗が測定できた場合(上記測定器の測定上限値(10
7Ω/□)以下の抵抗値を示した場合)を○、1点でも表面抵抗が測定できなかった場合を×とした。結果を表2に示す。
【0136】
耐光性試験
ソーラーシミュレーターYSS−80B(山下電装社製)を用い、1sun(1000W/m
2)を250時間照射した後、シート抵抗および光学特性(ヘーズ)を評価した。
【0137】
<シート抵抗>
非接触式抵抗測定器(ナプソン社製 EC−80P、プローブタイプHigh:10〜1000 Ω/□)を用いて測定し、下記判定に従い判定した。結果を表2に示す。
○:耐光性試験後初期値からの上昇率10%以下
△:耐光性試験後初期値からの上昇率10%を超え、20%以下
×:耐光性試験後初期値からの上昇率20%を超える
―:耐光性試験後、測定不可(測定上限を超える)
【0138】
なお、上記初期値は、上述した透明導電パターンの表面抵抗(40Ω/□)である。
【0139】
<ヘーズ>
耐光性試験後の試験片をHaze meter NDH 2000(日本電色社製)で測定し、下記判定に従い、判定した。結果を表2に示す。
○:耐光性試験後初期値からの上昇率30%以下
△:耐光性試験後初期値からの上昇率30%を超え、35%以下
×:耐光性試験後初期値からの上昇率35%を超える
【0140】
なお、上記初期値は、光照射前における導電基板のヘーズ(実施例1〜5、比較例1、2、4〜6では0.95〜1.1の範囲、比較例3では1.3)である。
【0141】
【表2】
【0142】
実施例1〜5および比較例1〜6で得られた透明導電基板はいずれも接触抵抗を測定でき、電子デバイス用電極として有用であることが分かる。しかし、保護膜を設けていない比較例4〜6は、250時間の耐光性試験を行うと、いずれもシート抵抗が測定できなくなり、導電基板としての機能を喪失している。保護膜を設けていない場合、銀ナノワイヤが粒子となることで、ヘーズが上昇し、シート抵抗が測定できなくなっていると考えられる。
【0143】
また、実施例1と比較例1、2とを比較すると、保護膜は同じであるにも関わらず、比較例1では、ヘーズが悪化し、比較例2では、抵抗が20%超上昇している。バインダー樹脂が異なり、それぞれの劣化が異なるためである。光による劣化は、樹脂自体が分解され、バインダー樹脂としての機能を保てなくなることが原因である。その劣化速度の指標として、熱分解開始温度が考えられる。熱による樹脂の分解もエネルギーが加わることにより起こるため、機構は異なるが、指標としては問題なく使用できる。抵抗もヘーズも悪化しなかったバインダー樹脂PNVAでは、熱分解開始温度が270℃、PVPでは200℃、エトセルでは、170℃であり、熱分解開始温度の高いPNVAのみが機能を保持できていると考えられる。なお、保護膜の熱分解開始温度も高い方が好ましく、250℃以上、より好ましくは270℃以上である。実施例で用いている保護膜1,2,4〜6の熱分解開始温度は、いずれも約300℃である。
【0144】
図1、
図2に、それぞれ耐光性試験後の実施例1および比較例1の導電基板の写真を示す。
図1に比べて
図2で銀ナノワイヤ側面に粒子状の異物が多数付着しているのがわかる。耐光性試験によりバインダー樹脂であるPVPの劣化の程度がPNVAより大きいためと推定される。
【0145】
実施例1、2および比較例3では、バインダー樹脂をPNVAとし、保護膜を変えている。実施例1、2では熱硬化性樹脂を用いており、比較例3で用いた保護膜は光硬化性樹脂を用いている。比較例3で抵抗、ヘーズ共に悪化していく原因として、光開始剤の残基(主として芳香環)が考えられ、より光を吸収するため実施例1、2と比較し劣化しやすいと推定される。実施例2で使用に影響のない範囲であるものの多少ヘーズが悪化している原因としては、保護膜に芳香族環を有する化合物を用いているため、比較例3ほどではないものの劣化促進に寄与していると考えられる。バインダー樹脂、保護膜ともに分子内に芳香環を有する化合物の含有量は少ないことが好ましく、芳香環を有する化合物を含まないことが最も好ましい。
【0146】
実施例3,4では実施例1で用いた保護膜インク1のエポキシ化合物の量を変更した保護膜インク4,5を用いているが、いずれも良好な耐久性、耐光性を示している。これは、用いているエポキシ化合物が、脂肪族多官能エポキシ化合物であるため、使用量が増えても、耐光性に影響を及ぼさないことを示している。一方、実施例5では実施例2で用いた保護膜インク2のエポキシ化合物の量を変更した保護膜インク6を用いている。実施例2および5では、良好な耐久性、耐光性を示しているが、芳香環を有する多官能エポキシ化合物を増やした場合、芳香環の割合が増えてしまい、耐光性に悪影響を及ぼしていると考えられる。保護膜中に含有する芳香環含有化合物の割合(質量%)を下式で定義すると、
[(芳香環含有化合物使用量)/(保護膜の質量(ウレタン樹脂質量+エポキシ化合物質量))]×100(%)
保護膜中に含有する芳香環含有化合物の割合は、実施例2および5ではいずれも20質量%以下である(それぞれ上記割合は、15.6%、8.99%)が、芳香環含有化合物の割合が小さい実施例5の方がヘーズが低く良好な結果が得られた。このことから、保護膜中に含有する芳香環含有化合物の割合は、15質量%以下に抑えることが好ましいことが示唆される。
【0147】
実施例6〜9及び比較例7〜11
上述のように作製したバインダー種および濃度の異なる銀ナノワイヤインク4〜12を塗布した20cm角のべた膜上を覆うように、保護膜インク7を前述のスリットコート印刷機を用いて各々印刷し、100℃、10分の条件で熱硬化を行い、保護膜を形成し、実施例6〜9及び比較例7〜11の透明導電基板とした。
【0148】
JEOL社製 JSM−7500FAを用いて断面のSEM観察した実施例5における銀ナノワイヤ層(透明導電膜)と硬化後の保護膜の合計厚さは約100nmであった。
【0149】
<透明導電基板の評価>
得られた実施例6〜9及び比較例7〜11の透明導電基板の接触抵抗、耐環境性、光学特性を以下の方法で測定した。結果を表3に示す。
接触抵抗:三菱化学アナリティック社製、ロレスタGP MCP−T610を用いて測定し、保護膜を形成した上から任意の10点を測定し、全ての測定点で抵抗測定が可能であったものを○とし、一部測定可能であったものを△とし、全ての点で測定不可能であったものを×としている。
耐環境性:85℃、85%に保った恒温恒湿器内にて、500時間経過後の抵抗値変化が10%以下であった場合を○とし、10%を超え20%以下の場合を△、20%を超える場合は×としている。
光学特性:85℃、85%に保った恒温恒湿器内にて、500時間経過後の膜のHAZE(ヘーズ)及び全光線透過率測定(Haze meter NDH 2000(日本電色社製))の変化が、両方とも10%以下であった場合を○とし、片方でも10%を超え20%以下の場合を△、両方とも20%を超える場合は×としている。
【0150】
【表3】
【0151】
表3に示された結果からわかるように、実施例6〜9と比較例7から、使用したバインダー樹脂が同じであっても、バインダー樹脂と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)が異なると、耐環境性が異なる事がわかる。これは使用するバインダー樹脂と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)が0.8未満である場合、銀周辺にバインダー樹脂中の官能基が集中するような構造を取り、透明導電膜(バインダー樹脂)[透明導電膜を構成するバインダー樹脂を意味する]表面のバインダー中の官能基濃度が低下し、保護膜との親和性が低下するためと推測される。バインダー樹脂と銀ナノワイヤの質量比(バインダー樹脂/銀ナノワイヤ)が0.8以上の場合、透明導電膜(バインダー樹脂)と保護膜の親和性が向上し、硬化中に透明導電膜(バインダー樹脂)との界面に、保護膜樹脂((A)カルボキシル基を含有するポリウレタン等)の官能基が集中し、密度勾配が付く事で、より硬化が促進されていると推測される。実施例6と比較例8〜11の結果から、PNVA以外のバインダー樹脂を用いると、信頼性、光学特性が低下している事が分かる。これは、用いるバインダー樹脂の官能基が異なり、保護膜との親和性が低くなることに起因していると考えられる。PVPやエトセルは、主に酸素原子と(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンのカルボキシル基が相互作用を及ぼすと考えられる。それに対し、PNVAはアミド結合(−NH−CO−)を有しているため、(A)カルボキシル基を含有するポリウレタンのカルボキシル基との相互作用だけでなく、ウレタン結合(−NH−COO−)との相互作用も起きるため、より強く透明導電膜(バインダー樹脂)界面へと保護膜樹脂を引き付けると考えられる。