特許第6543008号(P6543008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6543008
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】薄層堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20190628BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20190628BHJP
   C23C 14/18 20060101ALI20190628BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20190628BHJP
   C03C 17/00 20060101ALI20190628BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20190628BHJP
   G02B 1/16 20150101ALI20190628BHJP
【FI】
   C23C14/56 E
   C23C14/58 C
   C23C14/18
   C23C14/02 Z
   C03C17/00
   C03C17/245 A
   G02B1/16
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-561595(P2018-561595)
(86)(22)【出願日】2017年5月22日
(86)【国際出願番号】FR2017051243
(87)【国際公開番号】WO2017203144
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2019年1月22日
(31)【優先権主張番号】1654635
(32)【優先日】2016年5月24日
(33)【優先権主張国】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ニシータ ワナクレ
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンス マニエ
(72)【発明者】
【氏名】クレマン ボットワ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−506758(JP,A)
【文献】 特表2011−516390(JP,A)
【文献】 特開2001−253007(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/024764(WO,A1)
【文献】 特表2014−522906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
C03C 17/00
C03C 17/245
G02B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む、光触媒コーティングで被覆された基材を含む材料を得るための方法:
・厚さが1〜3nmの金属チタンの第1の層、厚さが0.5〜5nmの少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層、及び厚さが2〜5nmの金属チタンの第2の層を連続して含む薄層の積層体を、前記基材上にスパッタリングにより堆積させる工程、及び、
・前記積層体を酸化雰囲気と接触させて、レーザー光による熱処理によって酸化する工程。
【請求項2】
前記基材がガラス板であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの前記中間層が、TiO(xは1.8以上である)の層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの前記中間層が、TiOの層であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの前記中間層が、0.5〜2nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
金属チタンの前記第1の層及び金属チタンの前記第2の層が、おのおの1〜5nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
金属チタンの前記第1の層が1〜2nmの厚さを有し、金属チタンの前記第2の層が2〜4nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
レーザー光による前記熱処理の間の前記基材の走行速度が、2m/分以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザー光が、800nmと1300nmの間の波長、特に800nmと1100nmの間の波長を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザー光の前記中間層での単位面積当たりの出力が、20kW/cm以上、好ましくは30kW/cm以上であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザー光が、前記基材の幅の全部又は一部に同時に放射するラインを形成する少なくとも1つのレーザービームから得られることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
厚さが1〜3nmの金属チタンの第1の層、厚さが0.5〜5nmの少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層、及び厚さが2〜5nmの金属チタンの第2の層を連続して含む薄層の積層体で被覆された基材を含む材料。
【請求項13】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの前記中間層が、0.5〜2nmの厚さを有することを特徴とする、請求項12に記載の材料。
【請求項14】
金属チタンの前記第1の層が1〜2nmの厚さを有し、金属チタンの前記第2の層が2〜4nmの厚さを有することを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの前記中間層が、TiOの層であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒コーティングで被覆された基材を含む材料を得るための方法に関し、そしてまたこのやり方で得られた光触媒コーティングで被覆された基材にも関する。
【背景技術】
【0002】
薄層、特にガラス基材上への薄層の堆積のために工業的規模で広く使用されている方法は、スパッタリング法、特に磁場に支援され、この場合には「マグネトロン」法と称されるスパッタリング法である。この方法では、堆積させようとする化学元素を含むターゲットの近くに、真空下でプラズマを生じさせる。プラズマの活性種がターゲットに衝突すると、前記元素を引きはがし、そしてそれが基材上に堆積して所望の薄層を形成する。この方法は、層がターゲットから引きはがされた元素とプラズマ中に含まれるガスとの化学反応の結果として得られる材料からなる場合には、「反応性」と称される。この方法の主要な利点は、一般には1つの同じ装置において、種々のターゲットの下で基材を連続的に走行させることにより、層の非常に複雑な積層体を同じラインで堆積させることが可能なことにある。
【0003】
ところが、堆積速度が金属の堆積速度よりも一般にはるかに遅い酸化物、例えば酸化チタンなどの層の堆積速度は、生産速度を制限し、これは、スパッタリングにより堆積させる酸化物層を含む積層体の製造コストを上昇させる。国際公開第2011/039488号には、金属、窒化物又は炭化物の中間体層を堆積させる工程、及びこの中間体層を急速熱処理を用いて、特にレーザー光によって酸化する工程を含む、薄層堆積法が記載されている。この方法は、より大きな生産速度で金属酸化物層を得るのを可能にする。
【0004】
国際公開第2011/039488号に記載されているレーザー処理は、下にある基材をそのままにしながら、薄層を高温に、およそ数百度程度の温度に、加熱するのを可能にする。言うまでもなく、この処理速度はできるだけ大きいことが好ましく、有利には少なくとも数メートル/分である。幅の大きな基材、例えばフロートプロセスから出てくる「ジャンボ」サイズ(6m×3.21m)の平らなガラス板の高速処理を可能にするためには、それ自体が非常に長い(>3m)レーザーラインを有することが必要である。そのような長さについて単一のレーザーラインを得るのを可能にする一体式の光学素子の製造は考えられないので、一般には、より小さいサイズ(数十センチメートル)の個別のレーザーラインが一緒に組み合わされる。
【0005】
レーザーでの処理中に酸化しなくてはならない金属の層は、酸化後に所望の製品仕様を得ることができるように、一般に最小限の厚さでなければならない。例えば、チタンの層が、酸化されたならば所望の光触媒特性及び光学特性を有するためには、この層は酸化前の厚さが少なくとも5nmであることが有利である。この場合、この層の完全な及び/又は均一な酸化を、特に速い走行速度で行うことは困難である。具体的に言うと、レーザーの強度の変動のために、特定のゾーンでの、特に個々のレーザーラインが重なるゾーンでの酸化に差が生じることがある。大きな処理速度で特に激化する、スティッチングと呼ばれるこの現象は、目に見える欠陥、例えば基材の長さ全体にわたる不均一なストリップのようなものを最終製品に生じさせることがあり、これは美的観点から容認できない。更に、生産コストの点から望ましい大きな処理速度は、処理すべき層の酸化を不完全にしかねず、その影響で処理後のコーティングにおいて残留光吸収が増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の欠点を克服することである。本出願人は、処理すべき層を相当する全体厚さの2つのチタンの層に分け、それらを少なくとも部分的に酸化したチタンの層により分離することによって、レーザー処理による、特に大きな処理速度でのチタン層の酸化を、改善することが可能であることを明らかにした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、本発明は、光触媒コーティングで被覆された基材を含む材料を得るための方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
・厚さが1〜3nmの金属チタンの第1の層、厚さが0.5〜5nmの少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層、及び厚さが2〜5nmの金属チタンの第2の層を連続して含む薄層の積層体を、前記基材上に堆積させる工程、及び、
・積層体を酸化雰囲気と接触させて、レーザー光による熱処理を用いて酸化する工程。
【0008】
本発明による方法は、特に大きな処理速度で、一般的には2m/分より大きな、又は3m/分より大きな、又は更には4m/分より大きな、又は5m/分より大きな処理速度で、スティッチング及び/又は残留光吸収の現象を軽減することを可能にする。2つの金属層の間に部分的に酸化された中間層の存在することが、金属層のより完全な及び/又はより均一な酸化を可能にする。
【0009】
本発明による方法は、金属チタンの2つの層の間に少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層を含む薄層の積層体を、基材上に堆積させる第1の工程を含む。金属チタンの層は、少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層と直接接触する。金属チタンの第1の層は、基材と直接接触してもよい。とは言え、特定の実施形態では、他の層を、例えば酸化ケイ素をベースとするアルカリ金属に対するバリア層などを、基材と金属チタンの第1の層との間に堆積させてもよい。一般には、金属チタンの第2の層の上にはほかの層を堆積させずに、本発明による方法の最後に得られる酸化チタンの光触媒層が大気と接触する最後のコーティング層となるようにする。
【0010】
基材は、好ましくは、ガラス、ガラスセラミック又はポリマー有機材料の板である。それは、好ましくは、透明で、無色であるか、又は着色されて、例えば青、緑、グレー又はブロンズ色である。ガラスは、好ましくはソーダ石灰シリカタイプのものであるが、ホウケイ酸塩又はアルミノホウケイ酸塩タイプのガラスであってもよい。好ましいポリマー有機材料は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレート、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)である。基材は、少なくとも1つの寸法が1m以上、又は実際のところ2m以上、更には3m以上であるのが有利である。基材の厚さは、一般には0.5mmと19mmの間であり、好ましくは0.7mmと9mmの間、特に2mmと8mmの間、又は実際のところ4mmと6mmの間である。基材は、平らであっても湾曲していてもよく、又は実際のところ軟質であってもよい。
【0011】
ガラス基材は、好ましくはフロートガラスタイプのものであり、すなわち溶融したスズの浴(「フロート」浴)上に溶融したガラスを流し込むものである方法により得ることができるタイプのものである。この場合、処理しようとする層は、基材の「スズ」面にも「大気」面にも堆積させることができる。「大気」面及び「スズ」面という用語は、それぞれ、フロート浴に広がっている大気と接触していた基材の面及びスズ浴と接触していた基材の面を意味すると理解される。スズ側は、ガラスの表面へ拡散して表面に存在する少量のスズを含有している。ガラス基材は、2つのロール間での圧延により、特にガラスの表面にパターンを印刷するのを可能にする技術により、得ることもできる。
【0012】
金属チタンの第1及び第2の層は、スパッタリングにより堆積される。金属層を堆積することには、酸化物層を堆積するのと比較して非常に大きい堆積速度が可能になるという利点がある。中間層も、スパッタリングにより堆積させることができる。この層は非常に薄いので、積層体の製造速度は、酸化したチタン層の堆積の影響をわずかに受けるだけである。中間層はまた、金属チタンの第1の層を部分的に酸化することにより、例えば金属チタンの第1の層の堆積後に基材を空気に暴露するか又は酸化プラズマに暴露することによって、得てもよい。
【0013】
第1の金属チタン層は、厚さが1〜3nm、好ましくは1〜2nmであり、第2の金属チタン層は、厚さが2〜5nm、好ましくは2〜4nmである。具体的に言うと、第1の金属チタン層が厚すぎると、熱処理中におけるコーティングの有意の層間剥離を招くことになる。更に、第2の金属チタン層が厚すぎると、第1の金属チタン層の酸化の有効性を損なうことがある。熱処理後に満足な活性を有する光触媒コーティングを得るために、第1及び第2の金属チタン層の厚さの合計は、4nm以上であるのが、又は実際のところ5nm以上であるのが好ましい。
【0014】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層は、好ましくは厚さが0.5〜3nm、より好ましくは0.5〜2nmである。
【0015】
少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層は、任意選択的に準化学量論的な酸化チタンであることができる。後者はTiOで表される。特定の実施形態によれば、xの値は、好ましくは1.8以下である。この場合、中間層は、レーザー放射線の吸収に関与し、それゆえ最終の光触媒層の活性化の増進を可能にする。もう一つの特定の実施形態によれば、xの値は好ましくは1.8以上であり、とりわけ少なくとも部分的に酸化されたチタンの層は、酸化チタンTiOの層である。この実施形態には、積層体のより完全な酸化を可能にし、それゆえその残留吸収を低減するという利点がある。
【0016】
本発明による方法はまた、積層体を酸化する工程を含む。積層体の酸化、特に金属チタンの層の酸化は、レーザーを使用し、積層体を大気と接触させて行われる。酸化雰囲気は、好ましくは空気、特に大気圧の空気である。必要ならば、中間層の酸化を更に促進するために、雰囲気の酸素含有量を増加させてもよい。
【0017】
熱処理は、金属チタンを酸化して酸化チタンにし、その結果少なくとも部分的に結晶化した光触媒層を得るのを可能にする。熱処理後に得られる酸化チタンの層は、好ましくは少なくとも一部分がアナタース相であり、任意選択的にルチル相が存在することも可能である。
【0018】
レーザー光による熱処理には、熱交換係数が非常に大きく、一般に400W/(m・s)より大きい、という利点がある。レーザー光の中間層での単位面積当たりの出力は、20又は30kW/cm以上であるのが一層好ましい。この非常に大きなエネルギー密度は、中間層において所望の温度に極めて速く(一般に1秒以下の時間で)達して、その結果処理の期間をそれに応じて制限するのを可能にし、そのときに発生した熱が基材の内部に拡散する時間はない。
【0019】
このように、積層体の各処理箇所は、好ましくは、一般に1秒以下、あるいは実際のところ0.5秒以下の時間、熱処理を受ける。本発明による方法に関係した熱交換係数が非常に大きいために、中間層から0.5mmのところに位置するガラスの部分でさえ、一般に100℃より高い温度にさらされない。好ましくは、熱処理中の基材の温度は100℃を超えず、特に50℃を超えない。これは特に、中間層が堆積している面の反対側の面における温度である。この温度は、例えば高温測定により測定することができる。
【0020】
この方法は、レーザー処理装置を既存の連続製造ラインに組み込むのも可能にする。こうして、レーザーを層の堆積ラインに、例えば磁場支援(マグネトロン法)スパッタリング堆積ラインに組み込むことができる。一般に、このラインは、基材を取り扱うための装置、堆積ユニット、光学的制御装置、及び積層用装置を含む。基材は、例えば搬送コンベヤーに載って、各装置又は各ユニットの前を連続して走行する。レーザーは、層の堆積ユニットの直後に、例えば堆積ユニットの出口に、位置するのが好ましい。こうして、被覆された基材を、層を堆積させた後に堆積ユニットの出口で、かつ光学的制御装置の前で、又は光学的制御装置の後かつ基材の積層用装置の前で、インラインで処理することができる。場合によっては、本発明による熱処理を真空堆積チャンバー内で行うことも可能である。この場合、レーザーは堆積ユニットに組み込まれる。例えば、レーザーをスパッタリング堆積ユニットのチャンバーの1つに取り入れることができる。
【0021】
レーザーが堆積ユニットの外部にあろうとそれに組み込まれていようと、これらの「インライン」又は「連続」プロセスは、堆積工程と熱処理の間でガラス基材を積み重ねることが必要になるオフライン作業を伴うプロセスであるのが好ましい。
【0022】
とは言え、オフライン作業を伴うプロセスには、本発明による熱処理が堆積を行うのとは異なる場所で行われる、例えばガラスの加工が行われる場所で行われる場合に利点がある。このように、照射装置を層の堆積ライン以外のラインに組み込むことができる。例えば、それを、複層グレージング(特に二層又は三層グレージング)の製造ラインに、又は積層グレージングの製造ラインに組み込むことができる。これらの変形実施形態の場合、本発明による熱処理は、複層又は積層グレージングを製造する前に行われるのが好ましい。
【0023】
レーザー光は、好ましくは、基材の幅全体を同時に照射するライン(「レーザーライン」として知られる)を形成する少なくとも1つのレーザービームから得られる。インラインレーザービームは、とりわけ、集束光学システムを用いて得ることができる。非常に幅の広い(>3m)基材を同時に照射することができるためには、レーザーラインは一般に、いくつかの個別のレーザーラインを組み合わせることによって得られる。個別のレーザーラインの太さは、好ましくは0.01mmと1mmの間である。それらの長さは、一般に5mmと1mの間である。個別のレーザーラインは、一般に、積層体の表面全体を処理するように単一のレーザーラインを形成するために、隣り合って並列される。個別の各レーザーラインは、基材の走行方向に対して直角に配置されるのが好ましい。
【0024】
レーザー光源は、一般にレーザーダイオード又はファイバーレーザーであり、とりわけファイバー、ダイオード又はディスクレーザーである。レーザーダイオードは、小さなスペース要件に対して、供給電力に対し高い出力密度を経済的に得るのを可能にする。ファイバーレーザーのスペース要件は更に小さく、得られる線出力密度を一層大きくすることができるが、コストがより高くなる。「ファイバーレーザー」という用語は、レーザー光を発生させる箇所がそれが供給される箇所から空間的に離れていて、レーザー光が少なくとも1本の光ファーバーにより放出されるレーザーを意味するものと理解される。ディスクレーザーの場合には、レーザー光は、ディスクの形をした、例えばYb:YAGで製作した薄いディスク(厚さおよそ0.1mm)の形をした発光媒体が入った共振器の空洞内で発生される。こうして発生された光は、処理の箇所に向けられた少なくとも1本の光ファイバーに結合される。レーザーは、増幅媒体がそれ自体光ファイバーである限りにおいて、ファイバーレーザーであることもできる。ファイバー又はディスクレーザーは、好ましくは、レーザーダイオードを使って光学的にポンピングされる。レーザー光源から得られる放射線は、好ましくは連続である。
【0025】
レーザー光の波長、したがって処理の波長は、好ましくは800〜1300nmの範囲内であり、とりわけ800〜1100nmの範囲内である。808nm、880nm、915nm、940nm又は980nmから選ばれる1以上の波長で放射する高出力レーザーダイオードが、特に好適であることが分かっている。ディスクレーザーの場合には、処理の波長は例えば1030nm(Yb:YAGレーザーの発光波長)である。ファイバーレーザーの場合は、処理の波長は一般に1070nmである。
【0026】
好ましくは、レーザー光の波長における積層体の吸収率は、20%以上であり、とりわけ30%以上である。吸収率は、100%から層の透過率と反射率を差し引いた値に等しいとして定義される。
【0027】
被覆された基材の全表面を処理するためには、一方では層で被覆された基材と、レーザーラインとを、相対的に移動させる。例えば、静止したレーザーラインを、一般にはレーザーラインの下方であるが任意選択的にはその上方で、並進的に通り越して走行するように、基材を移動させることができる。この実施形態は、連続の処理にとって特に有利である。好ましくは、基材とレーザーのそれぞれの速度の差は、大きな処理速度を確保するために、2m/分以上であり、実際のところ3m/分以上、そして更には4、5、8又は10m/分以上である。
【0028】
基材は、任意の機械的搬送手段を使って、例えばベルト、ローラー、又は並進移動するトレイを使って、移動させることができる。この搬送装置は、移動速度を管理し調節するのを可能にする。基材が軟質のポリマー有機材料製である場合には、ローラーが連続した形態のフィルム進行装置を使って移動させてもよい。
【0029】
言うまでもなく、基材の表面を適切に照射することができる限り、基材とレーザーとの全ての相対的配置が可能である。通常、基材は水平に配置されるが、垂直に又は可能な任意の傾きにしたがって配置することもできる。基材が水平に配置される場合には、レーザーは一般に、基材の上面を照射するように配置される。レーザーは、基材の下面を照射することもできる。この場合には、基材のための支持システム、任意選択的に基材が移動するときに基材を搬送するためのシステムは、照射すべきゾーンへと光線が通り抜けるのを可能にすることが必要である。これは、例えば、搬送ローラーを使用する場合に当てはまる。ローラーは別個に存在するものであるから、一連の2つのローラーの間に位置するゾーンにレーザーを配置することが可能である。
【0030】
基材の両面を処理しようとする場合には、基材が水平の位置にあろうと、垂直の位置にあろうと、あるいは任意の傾斜した位置にあろうと、基材のどちら側にも位置する複数のレーザーを使用することが可能である。
【0031】
本発明は、厚さが1〜3nm、好ましくは1〜2nmの金属チタンの第1の層、厚さが0.5〜5nm、好ましくは0.5〜3nm、あるいは実際のところ0.5〜2nmの少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層、及び厚さが2〜5nm、好ましくは2〜4nmの金属チタンの第2の層を連続して含む薄層の積層体で被覆された基材にも関する。この基材は、光触媒コーティングで被覆された基材を得るために、レーザー光による熱処理を使用し、積層体を酸化雰囲気と接触させて酸化することを意図するものである。
【0032】
本発明はまた、本発明による方法により得ることができる光触媒コーティングで被覆された基材にも関する。本発明により得られる基材は、好ましくはグレージングに組み入れられる。グレージングは、単一のものでも、又はガス入りの空間を提供するいくつかのガラス板を含むことができる限りは、複層のもの(特に二層又は三層のもの)でもよい。グレージングは、積層され及び/又は焼き戻しされ及び/又は強化され及び/又は湾曲していてもよい。
【0033】
積層体を堆積させる面と反対側の基材の面、あるいは該当する場合複層グレージングの別の基材の面を、別の機能性層で又は機能性層の積層体で被覆してもよい。それは、とりわけ、熱的機能を有する層又は積層体でよく、特に日射防護もしくは低輻射率層又は積層体でよく、例えば誘電体層で保護された銀層を含む積層体でよい。それは、ミラー層、特に銀をベースとするミラー層であってもよい。最後に、それは、スパンドレルガラスとして知られる被覆壁パネルを製作するためグレージングを不透明にすることを目的とするラッカー又はエナメルであってもよい。スパンドレルガラスは、非不透明グレージングの面が壁に配置されて、全体的にガラスをはめた美的観点から均質な壁を得るのを可能にする。
【0034】
酸化物層を堆積させる面と反対側の基材の面に位置するほかの層又は積層体は、それらの特性が本発明による熱処理のために向上していることが観察すされることがある。これらは特に、機能性層の、例えば銀層の、より良好な結晶化に関連した特性であることができる。こうして、特に厚さが最大で6mmのガラス製の基材の場合に、本発明による酸化熱処理が、少なくとも1つの銀層を含む低放射率の積層体の放射率及び/又は抵抗率を低下させることもできるということが観測されている。
【0035】
したがって、本発明の1つの実施形態によれば、上述のように2つの金属チタン層の間に少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層を含む薄層の積層体が、基材の片面に堆積され、かつ少なくとも1つの銀層を含む低放射率の積層体が、基材の他方の面に堆積されて、その後前記中間層が少なくとも1つのレーザー光を使って処理されて、その結果低放射率の積層体の放射率又は抵抗率が少なくとも3%低下している。放射率又は抵抗率の低下は少なくとも、3%、又は実際のところ5%、更には10%である。よって、単一の熱処理を使用して、低放射率積層体の放射率特性を向上させ、かつ光触媒層を得ることが可能である。これは、レーザー光が積層体のチタン層と基材とによって一部分だけ吸収され、そのため他方の面に位置している低放射率積層体が光線のエネルギーの一部分を受け取り、それを銀層の結晶特性を向上させるために利用する、ということによって可能になる。得られた製品は、片面に自浄式の光触媒機能を有し、したがってこの面はどちらかと言えば建物の外側の方に向けられ、そして他方の面に断熱機能を有し、したがってこの面はどちらかと言えば建物の内側の方に向けられる。
【0036】
本発明を、限定されない以下の典型的な実施形態の助けを借りて説明する。
【実施例】
【0037】
本発明による方法によって得られた、光触媒コーティングを含む3つのサンプル(I1〜I3)を、次のとおりに作製した。
【0038】
金属チタンの第1の層、酸化チタンTiOの中間層、及び金属チタンの第2の層が連続したものからなる薄層の積層体を、透明なソーダ石灰シリカガラス基材の上に堆積させる。
【0039】
金属チタンの層は、アルゴンプラズマ中でチタンターゲットを使用するスパッタリングにより堆積させる。酸化チタンTiOの中間層も、アルゴンプラズマ中でTiOターゲットを使用するスパッタリングにより堆積させる。
【0040】
複数の個別のラインを並列させることにより得られ、波長1030nmの光線を放射するレーザーラインであって、コーティングされた基材がそれを通り越し並進して走行するレーザーラインを使って、サンプルを処理する。サンプルI1とI2は、2m/分の走行速度で処理する一方で、サンプルI3は、3m/分の走行速度で処理した。
【0041】
比較として、それぞれが単一の5nmの金属チタン層、4nmの金属チタン層を上に載せた6nmの酸化チタン層、及び6nmの酸化チタン層を上に載せた6nmの金属チタン層からなるコーティングのレーザー処理により得られた光触媒コーティングを含む、サンプル(R1〜R3)を作製した。サンプル(R1〜R3)は、2m/分の走行速度で処理した。
【0042】
指導を受けた観測者が、処理したサンプルのそれぞれについて、「スティッチング」現象を黒色背景上での反射及び白色背景上での透過でもって評価した。
【0043】
下記の表1は、おおおののサンプルの特性と「スティッチング」現象の評価を要約して示している。「スティッチング」現象の観測結果において、「x」は目に見える跡のあることを示し「○」は調査の結果として目に見える非常に薄い跡があることを示し、「◎」は目に見える跡がないことを示している。
【0044】
【表1】
【0045】
各サンプルについて、光触媒活性も測定した。本発明によるサンプルの光触媒活性は、対照R1及びR2のそれに匹敵するものである。
【要約】
本発明は、光触媒コーティングで被覆された基材を含む材料を得るための方法であって、厚さが1〜3nmの金属チタンの第1の層、厚さが0.5〜5nmの少なくとも部分的に酸化されたチタンの中間層、及び厚さが2〜5nmの金属チタンの第2の層を連続して含む薄層の積層体を、前記基材上に陰極スパッタリングにより堆積させる工程、及び、前記積層体を酸化雰囲気と接触させて、レーザー光の熱処理を使用して酸化する工程、を含む方法に関する。