【文献】
ZHOU SHENGZE, et al.,Organic super-electron-donors: initiators in transition metal-free haloarene-arene coupling,Chemical Science,2013年10月 9日,Vol.5, No.2,Pages 476-482,DOI: 10.1039/c3sc52315b
【文献】
MURAKAMI YOSHIAKI, et al.,Development of new applications of SD (Sodium Dispersion),神鋼環境ソリューション技報,2017年 9月20日,Vol.14 No.1,Page. 26-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分散溶媒が前記1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと分離する無極性溶媒であり、かつ、前記分散溶媒の比重が前記1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンよりも小さなものであり、二層に分離した前記混合物の下層部分からなる請求項1に記載の電子供与体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る電子供与体について詳細に説明する。ただし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
〔電子供与体〕
本実施形態に係る電子供与体は、ナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体と1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(以下、「DMI」と略する場合がある)との混合物を含む、点にある。
【0021】
ナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体(以下、Sodium Dispersionの略号である「SD」と略する場合がある。)は、ナトリウムを微粒子として不溶性溶媒に分散させたもの、又は、ナトリウムを液体の状態で不溶性溶媒に分散させたものである。ナトリウムとしては、金属ナトリウムのほか、金属ナトリウムを含む合金などが挙げられる。微粒子の平均粒子径として、好ましくは、10μm未満であり、特に好ましくは、5μm未満のものを使用することができる。平均粒子径は、顕微鏡写真の画像解析によって得られた投影面積と同等の投影面積を有する球の径で表した。
【0022】
分散溶媒としては、ナトリウムを微粒子として分散、又はナトリウムを液体の状態で不溶性溶媒に分散でき、かつ、出発化合物であるカップリング対象化合物とSD由来の溶媒和電子との反応を阻害しない限り、当該技術分野で公知の溶媒を使用することができる。例えば、ノルマルデカン、ノルマルヘキサン、ノルマルへプタン、ノルマルペンタン等のノルマルパラフィン系溶媒、キシレン、トルエン等の芳香族系溶媒や、テトラヒドロチオフェン等の複素環化合物溶媒、又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0023】
分散溶媒は、極性溶媒であるDMIと混合すると二層に分離する無極性溶媒であることが好ましい。更には、DMIと混合すると二層に分離する共に上層側に移行する、比重がDMIよりも小さなものが好ましい。DMIの比重(20/20)は1.0570〜1.0590であり、分散溶媒の比重はそれよりも小さいものが好ましく、特には1.05以下、更には0.95以下であることが好ましい。これにより、SDとDMIとの混合物は二層に分離し、SDの中のナトリウムがDMIに溶解して生じた溶媒和電子を含んだ層の上部に、SDの分散溶媒の層が形成される。これにより溶媒和電子を含んだ下層が空気と遮断され、本実施形態に係る電子供与体を空気中でも容易に取り扱うことが可能となると共に、不純物の混入を抑制できるため反応効率も向上させることができる。更に、溶媒和電子を含んだ下層のみを反応装置に投入することでSDの分散溶媒を簡便に分離することができ、反応生成物からSDの分散溶媒を分離するための工程を設ける必要がない。これにより、カップリング反応等の酸化還元反応を、更に、安定的、効率的、かつ、簡便に行うことができる。
【0024】
SDは、クロロベンゼンに対して2.1モル当量以上でヘキサン等の反応溶媒中で反応させた場合に、添加したクロロベンゼンに対するフェニルナトリウムの収率が99.0%以上となる活性を有するものを使用することが好ましい。このような高活性なSDを使用することにより、更に効率的にカップリング反応を行うことができる。SDの活性を高く維持するためには、好ましくは、ステンレス等の金属やガラスバイアル等のガスバリア性の高い容器に保管することが好ましい。しかしながら、ガスバリア性の低い容器に保管することを排除するものではなく、その場合には、SDの製造後、速やかに、例えば数週間内、好ましくは3週間内のものである。
【0025】
DMIは、五員環の環状尿素構造を有し、2-イミダゾリジノンの2個の窒素原子にメチル基を導入した構造を有する無色透明の非プロトン性極性溶媒である。また、DMIは、引火点が高く取り扱いが容易であるうえ、優れた溶解力を有し、強酸、強塩基に対して安定である。
【0026】
DMIは、市販されているものを使用してもよいし、当該技術分野で公知の方法、例えば、ジクロロエタンとメチルアミンとの反応により得られるN,N'-ジメチルエチレンジアミンと二酸化炭素を反応させる方法等のN,N'-ジメチルエチレンジアミンのカルボニル化等によって製造したものを使用してもよい。
【0027】
本実施形態に係る電子供与体において、SDとDMIの混合の割合は、電子供与体の用途等に応じて適宜設定することができる。好ましくは、DMI:SDのモル比を1:1〜5:1となる量で混合することができる。例えば、本実施形態に係る電子供与体をピリジンのカップリング反応を介した4,4'-ビピリジンの合成のために利用する場合には、DMI:SDのモル比を、2:1以上、例えば、2.5:1となる量で混合することができる。ここで、SDの物質量は、SD中に含まれるナトリウム金属換算での物質量を意味する。
【0028】
本実施形態に係る電子供与体は、SDとDMIとの混合物からなるものとして構成してもよいし、SDとDMI以外の各種添加剤を適宜配合したものとして構成してもよい。添加剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。添加剤としては、SDとDMIとの混合物が有する電子供与体としての機能を損なわないものである限り特に制限はなく、例えば、芳香族成分や、トリオレイン酸ソルビタン等の界面活性剤、酸化防止剤等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0029】
本実施形態に係る電子供与体において、SDとDMIの混合により、DMI中でナトリウム粒子は金属がイオンと電子に分かれ鮮やかな青色を呈する溶液となる。このとき、電子はDMIの分子によって囲まれることで安定化された溶媒和の状態となる。SDとDMIの混合方法は、DMI中にSD中に含まれるナトリウム粒子が均一に溶解し、安定した溶媒和電子を生じることができる限り、特に制限はない。好ましくは、DMIに、SDを滴下等により加えていき、必要に応じて振とう又は撹拌等を行ってSDとDMIを混合する。SDとDMIの混合に際して、混合時間や温度等の条件は特に制限はなく、室温でも速やかに混合し溶媒和電子を得ることができる。
【0030】
一方、DMIに固体の金属ナトリウムを添加しても、金属ナトリウムはDMIに溶解せず、溶媒和電子を生成せず、電子供与体として機能しない。したがって、本実施形態の電子供与体はDMIとSDとの組み合わせによってのみ、その機能を発揮することができる。
【0031】
〔電子供与体の利用〕
本実施形態に係る電子供与体は、酸化還元反応に利用することができ、例えば、芳香族化合物や芳香族複素環化合物等のカップリング反応に好適に利用することができる。また、芳香環の脱芳香族化、及び、アルケンやアルキンの水素化等の還元反応にも好適に利用することができる。更に、本実施形態に係る電子供与体は、重合反応における重合開始剤としても好適に利用することができる。
【0032】
(カップリング反応への利用)
カップリング対象化合物としては、特に制限はないが、例えば、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、脂環式複素環、芳香族炭化水素、又は、芳香族複素環化合物等を対象とすることができる。特に好ましくは、芳香環構造を有する芳香族化合物や芳香族複素環化合物である。カップリング反応は、好ましくは、炭素−炭素結合の形成によるものであるが、その他の原子による結合の形成、例えば、窒素−窒素結合の形成によるものであってもよい。また、ホモカップリング及びクロスカップリングの別は問わない。
【0033】
脂肪族炭化水素化合物は、直鎖及び分枝の別を問わず、飽和及び不飽和の別も問わない。また、その鎖長についても特に制限はない。置換基を有する場合、置換基の数及び導入位置についても特に制限はない。脂肪族炭化水素化合物としては、これらに限定するものではないが、好ましくは炭素原子数1〜20個、特に好ましくは炭素原子数3〜20個のアルカン、アルケン、アルキンが例示される。具体的には、アルカンとしては、メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、2-メチルプロパン、n-ペンタン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルプロパン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチルヘキサン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,2,3,3-テトラメチルブタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、へプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、及び、エイコサン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アルケンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、及び、デセン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アルキンとしては、エチン(アセチレン)、プロピン(メチルアセチレン)、ブチン、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニン、及び、デシン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0034】
脂肪族炭化水素化合物は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。
置換基としては、置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、脂環式複素環基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、ハロゲノ基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、脂環式複素環オキシ基、芳香族複素環オキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基は、脂環式複素環チオ基、芳香族複素環チオ基、アルキルアミノ基、シクロアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基、脂環式複素環アミノ基、芳香族複素環アミノ基、アシル基等が例示されるが、これらに限定するものではない。
【0035】
なお、脂肪族炭化水素基は上記で示された脂肪族炭化水素化合物から1又は複数の水素原子を除いた原子団が挙げられ、脂環式炭化水素基、脂環式複素環基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、下記で示される脂環式炭化水素化合物、脂環式複素環化合物、芳香族炭化水素化合物、芳香族複素環化合物から1又は複数の水素原子を除いた原子団が挙げられる。
【0036】
ハロゲノ基は、具体的には、クロロ基、ブロモ基、フルオロ基、又は、ヨード基であるが、好ましくは、クロロ基である。
【0037】
アルコキシ基は、好ましくは炭素原子数1〜10個のアルコキシ基が例示され、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。シクロアルコキシ基は、好ましくは炭素原子数3〜10個のシクロプロポキシ基が例示され、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基は、好ましくは炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基が例示され、具体的には、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アラルキルオキシ基は、好ましくは炭素原子数7〜11個のアラルキルオキシ基が例示され、具体的には、ベンジルオキシ基、及び、フェネチルオキシ基が挙げられる。脂環式複素環オキシ基、及び、芳香族複素環オキシ基は、複素環部として下記で示される脂環式複素環化合物及び芳香族複素環化合物が挙げられる。
【0038】
アルキルチオ基は、好ましくは炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基が例示され、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。シクロアルキルチオ基は、炭素原子数3〜10個のシクロアルキルチオ基が例示され、具体的には、シクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アリールチオ基は、好ましくは炭素原子数6〜20個のアリールチオ基が例示され、具体的には、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。アラルキルチオ基は、好ましくは炭素原子数7〜11個のアラルキルチオ基が例示され、具体的には、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。脂環式複素環チオ基、及び、芳香族複素環チオ基は、複素環部として下記で示される脂環式複素環化合物及び芳香族複素環化合物が挙げられる。
【0039】
脂環式炭化水素化合物は、環構成原子間の結合は飽和及び不飽和の別は問わず、環員数についても特に制限はない。また、単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。脂環式炭化水素化合物としては、これらに制限するものではないが、好ましくは炭素原子数3〜10個、特に好ましくは3〜7個のシクロアルカン、及び、シクロアルケニル基、好ましくは炭素原子数4〜10個、特に好ましくは4〜7個のシクロアルケニル基等が例示される。具体的には、シクロアルカンとして、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロへプタン、シクロオクタン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。シクロアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0040】
脂環式炭化水素化合物は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。
また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素化合物の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0041】
脂環式複素環化合物は、環構成原子として1個又は複数個のヘテロ原子を有する非芳香族複素環化合物である。単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。環構成原子間の結合は飽和及び不飽和の別は問わず、環員数についても特に制限はない。ヘテロ原子は、環構成原子としてナトリウムと反応しないものである限り特に制限はない。ヘテロ原子の数は特に制限はなく、ヘテロ原子の位置についても制限はない。ヘテロ原子としては、好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が例示される。例えば、炭素原子数が、好ましくは2〜7個、特に好ましくは、2〜5個、ヘテロ原子数が、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個である脂環式複素環化合物が挙げられる。なお、複数個のヘテロ原子を有する場合には、同一種類の原子であっても異なる種類の原子であってもよい。脂環式複素環化合物としては、単環の四員環式のアゼチジン、五員環式のピロリジン、六員環式のピペリジン、ピペラジン等の含窒素脂環式複素環化合物、単環の三員環式のオキシラン(オキサシクロプロパン)、四員環式のオキセタン(トリメチレンオキシド)、五員環式のテトラヒドロフラン、六員環式のテトラヒドロピラン等の含酸素脂環式複素環化合物、単環の五員環式のテトラヒドロチオフェン等の含硫黄脂環式複素環化合物、単環の六員環式のモルホリン等の含窒素酸素脂環式複素環化合物、単環の六員環式のチオモルホリン等の含窒素硫黄脂環式複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0042】
脂環式複素環は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素化合物の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0043】
芳香族炭化水素化合物は、芳香環を有する限り特に制限はない。単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。環員数についても特に制限はない。例えば、炭素原子数が、好ましくは6〜22個、特に好ましくは、6〜14個である芳香族炭化水素化合物が挙げられる。芳香族炭化水素化合物としては、単環式の六員環ベンゼン等、二環式のナフタレン、ペンタレン、インデン、アズレン等、三環式のビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン等、四環式のフルオランテン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、ナフタン(テトラセン)等、五環式のペリレン、テトラフェニレン、六環式のペンタセン等、七環式のルビセン、コロネン、ヘプタセン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0044】
芳香族炭化水素化合物は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。
また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素化合物の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0045】
芳香族複素環化合物は、環構成原子として1個又は複数個のヘテロ原子を有する芳香族複素環化合物である。単環だけでなく、縮合環やスピロ環等の環集合を持つものも含まれる。環員数についても特に制限はない。ヘテロ原子は、環構成原子としてナトリウムと反応しないものである限り特に制限はない。ヘテロ原子の数は特に制限はなく、ヘテロ原子の位置についても制限はない。ヘテロ原子としては、好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が例示される。例えば、炭素原子数が、好ましくは1〜5個、特に好ましくは、3〜5個、ヘテロ原子数が、好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個である芳香族複素環化合物が挙げられる。なお、複数個のヘテロ原子を有する場合には、同一種類の原子であっても異なる種類の原子であってもよい。
【0046】
例えば、単環式の芳香族複素環化合物としては、五員環式のピロリン、ピラゾール、ピリジン、イミダゾール等、六員環式のピラジン、ピリミジン、ピリダジン等の含窒素芳香族複素環化合物、五員環式のフラン等の含酸素芳香族複素環化合物、五員環式のチオフェン等の含硫黄芳香族複素環化合物、五員環式のオキサゾリン、イソオキサゾリン、フラザン等の含窒素酸素芳香族複素環化合物、五員環式のチアゾール基、イソチアゾール基等の含窒素硫黄芳香族複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定するものではない。特に好ましくは、ピリジンである。
【0047】
多環式の芳香族複素環化合物としては、二環式のインドリジニル基、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン等、三環式のカルバゾール、カルボリン、フェナトリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン等の含窒素芳香族複素環化合物、二環式のベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾピラン等の含酸素芳香族複素環化合物、二環式のベンゾチオフェン等、三環式のチアントレン等の含硫黄芳香族複素環化合物、二環式のベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール等の含窒素酸素芳香族複素環化合物、二環式のベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、三環式のフェノチアジン等の含窒素硫黄芳香族複素環化合物、三環式のフェノキサチイン等の含酸素硫黄芳香族複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0048】
芳香族複素環化合物は、置換基を有していてもよい。置換基は、1個又は複数個を有していてよく、複数個の置換基を有する場合には、互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換基の位置についても特に制限はない。置換基は、脂肪族炭化水素化合物の置換基として例示したものと、同様のものが挙げられる。
【0049】
カップリング反応は、本実施形態に係る電子供与体にカップリング対象化合物を接触させることにより進行する。本実施形態に係る電子供与体は、非プロトン性極性溶媒であるDMIを含んで構成されることから、反応に際して他の溶媒を反応溶媒として別途添加する必要はない。しかしながら、必要に応じて、ノルマルパラフィン系やシクロパラフィン系等のパラフィン系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、アミン系溶媒、複素環化合物溶媒等の当該技術分野で公知の溶媒を添加することを妨げるものではない。エーテル系溶媒としては、シクロペンチルメチルエーテル、2-メチルテトラヒドロピレン、テトラヒドロフラン等を好ましく使用することができる。パラフィン系溶媒としては、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、及び、ノルマルデカン等が特に好ましい。芳香族系溶媒としては、キシレン、トルエン及びベンゼン等が好ましく、クロロベンゼンやフルオロベンゼン等のハロゲン化芳香族系溶媒を利用することができる。アミン系溶媒としては、エチレンジアミン等を好ましく使用することができる。複素環化合物溶媒としては、テトラヒドロチオフェン等を利用することができる。また、これらは1種類のみを添加してもよいし、2種以上を併用し混合溶媒として添加することもできる。
【0050】
カップリング反応の反応温度は、特に限定されず、出発化合物であるカップリング対象化合物やSDの種類や量、並びに反応圧力等により適宜設定することができる。具体的には、反応温度は、DMIや必要に応じて添加した反応溶媒の沸点を越えない温度に設定することが好ましい。加圧下では大気圧下での沸点よりも高くなるため反応温度を高い温度で設定することができる。反応は、室温で行うこともでき、好ましくは0〜100℃であり、特に好ましくは20〜80℃、更に好ましくは室温〜50℃である。特段の加熱や冷却等のための温度制御手段を設ける必要はないが、必要に応じて、温度制御手段を設けても良い。副反応の抑制等を図るため、必要に応じて、低温、好ましくは0℃付近で行っても良い。
【0051】
カップリング反応の反応時間についても、特に限定されず、出発化合物であるカップリング対象化合物やSDの種類や量、並びに反応圧力や反応温度等に応じて適宜設定すればよい。通常は、15分間〜24時間、好ましくは20分間〜6時間で行われる。
【0052】
本実施形態に係る電子供与体は、特に、SDの分散溶媒としてDMIと混合すると二層に分離する無極性溶媒であって、DMIよりも比重が小さいものを利用した場合には、溶媒和電子を含んだ層の上部にSD由来の分散溶媒の層が形成されることから、大気下で安定して扱うことができる。しかしながら、高活性なカップリング中間体等が、空気の混入に起因する水分によりプロトン化されることがある等のため、必要に応じて、アルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0053】
本実施形態に係る電子供与体との反応終了後、反応液に水素供与体を添加して本実施形態に係る電子供与体を失活させた後、空気酸化することにより目的とするカップリング生成物を得ることができる。水素供与体としては、本実施形態に係る電子供与体との反応生成物に水素を与え、自身は脱水素される物質である限り、当該技術分野で公知の物質を使用することができる。例えば、水やアルコール類を使用することができる。アルコール類としては、好ましくは炭素数1〜6程度の低級アルコールを使用できる。
【0054】
得られたカップリング生成物は、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等、当該技術分野で公知の精製手段により精製してもよい。また、未反応で残存した出発化合物であるカップリング対象化合物を回収し、再度、カップリング反応に供するように構成してもよい。このとき、カップリング反応時と同様にアルゴンガスや窒素ガス等を充填した不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0055】
本実施形態に係る電子供与体は、特に、好ましくはピリジンのカップリング反応に利用することができる。
図1に、ピリジンのカップリング反応による4,4'-ビピリジン合成の反応機構図を示す。ここで、SDのナトリウムから受け取った電子は溶媒和電子として、DMI中で安定化される。これにより、カップリング反応が効率よく進行することができる。
下記実施例でも示す通り、本実施形態に係る電子供与体を利用することにより、カップリング生成物である4,4'-ビピリジンの収率を7割程度(Na効率で)まで向上させることができる。ここで、本実施形態に電子供与体とピリジンとの反応に際しては、例えば、DMI:ピリジン:SD=1.5〜5:3〜7:1、特には2.5:5:1の比率で反応させることが好ましい。
【0056】
(芳香環の脱芳香族化、及び、アルケンやアルキンの水素化等の還元反応への利用)
本実施形態に係る電子供与体は、芳香環の脱芳香族化、及び、アルケンやアルキンの水素化等の還元反応への利用することができる。金属ナトリウム等のアルカリ金属を液体アンモニアに添加すると発生する溶媒和電子の強力な還元力を利用するバーチ還元の代替として利用することができる。還元反応は、本実施形態に係る電子供与体に還元対象化合物接触させることにより進行する。還元反応の反応温度及び反応時間等の反応条件は、特に制限はないが、上記したカップリング反応の反応条件に準じて、出発化合物である還元対象化合物やSDの種類や量等に応じて適宜設定することができる。例えば、DMI:還元対象化合物:SD=2〜8:1:2〜8、特には2〜6:1:2〜6の比率で反応させることが好ましい。
【0057】
(重合開始剤として利用)
本実施形態に係る電子供与体は、重合開始剤として利用することができ、特には、アニオン重合の開始剤として利用することができる。
【0058】
重合対象となるモノマーとして、求電子性の置換基を持つ化合物を好ましく利用することができる。好ましくは、分子内に不飽和結合を含むモノマーを例示することができる。
具体的には、スチレンやα-メチルスチレン等のスチレン誘導体等のビニル系モノマー、ブタジエン等のジエン系モノマー、アクリル酸エステル等のアクリル系モノマー等が挙げられるが、これらに限定するものではない。また、モノマーは1種類単独であっても、2種類以上を併用してもよい。したがって、重合反応は、ホモ重合であっても、ブロック共重合や交互共重合、ランダム共重合、グラフト共重合等の共重合であってもよい。特に好ましくは、スチレンの重合反応の重合開始剤として利用することができ、ポリスチレンの合成を効率的に行うことができる。
【0059】
重合反応は、本実施形態に係る電子供与体にカップリング対象化合物を接触させることにより進行する。重合反応の反応温度及び反応時間等の反応条件は、特に制限はないが、上記したカップリング反応の反応条件に準じて、出発化合物であるモノマーやSDの種類や量等に応じて適宜設定することができる。
【0060】
本実施形態に係る電子供与体は、SDをDMIと混合することにより、溶媒和電子が生成し強い還元力を発揮することができる。したがって、本実施形態に係る電子供与体を利用することにより、芳香族化合物や複素環化合物等のカップリング反応、及び、芳香環の脱芳香族化、アルケンやアルキンの水素化等の酸化還元反応を安定的かつ効率的に行うことができ、収率よくカップリング生成物等の生成物を得ることできる。更に、重合開始剤として利用することができ、スチレン誘導体をはじめとする芳香族ビニル系モノマーの重合反応を安定的かつ効率的に行うことができる。また、本実施形態に係る電子供与体は、取り扱いが容易なSDを使用することにより、温和な条件下で、煩雑な化学的手法を必要とせず、少ない工程数で簡便かつ短時間にカップリング反応等の酸化還元反応を行うことができる。更に、有毒性や発がん性を有する試薬類を含まない安全な電子供与体であることから、取り扱いに際して高コストな設備や装置等を必要としない。したがって、本実施形態に係る電子供与体は、経済的かつ工業的にも非常に有利である。また、ナトリウムは、地球上に極めて広く分布していることから、サステナビリティーにも優れた電子供与体である。
【0061】
従来において、例えば、アミン系溶媒、特には、エチレンジアミン等の1級アミンや2級アミンを溶媒として使用した場合には、SDが窒素原子の隣の水素原子を攻撃することによりアミンからプロトンを引き抜く。これにより、SDが反応対象物(基質)に作用することにより生成されたラジカルアニオンが、もとの基質に戻る。そのため、SDだけが消費されることとなり反応効率が低下し、反応生成物の収率の低下の要因となっている。一方、DMIとSDの混合物である本実施形態の電子供与体は、DMIは安定な溶媒であることからアミン系溶媒等で問題となるプロトンの引き抜き等の問題は生じず、電子供与体として効率的に働くことができる。これにより、カップリング生成物等の生成物の収率が向上する。
【0062】
このように、本実施形態に係る電子供与体は強い還元力を有するものであり、医農薬及び電子材料等の機能性材料の合成等、様々な技術分野において利用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例におけるSDとしては、金属ナトリウムを微粒子としてノルマルパラフィン油に分散させた分散体を使用し、SDの物質量は、SDに含まれる金属ナトリウム換算での数値である。
【0064】
(事前検討例1)基質ピリジンでのカップリング反応における溶媒の検討
本事前検討例では、
図2に要約する検討条件により、基質としてピリジンを用いたカップリング反応により4,4'-ビピリジンの合成を検討した。上記先行技術文献として例示した本発明者らによる特開2017-71591号において、溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略する場合がある)とエチレンジアミン(以下、「EDA」と略する場合がある)の混合溶媒を用いてピリジンのカップリング反応によりビピリジンを合成したことが記載されている。そこで、本事前検討例ではTHFとEDAの比率を変化させ、ピリジンのカップリング反応による4,4'-ビピリジンの合成の検討を行った。
【0065】
(検討番号1〜6)
ピリジン(0.5mmol)に対して2モル当量のSDとの反応において、反応溶媒としてTHFとEDAの混合溶媒(THF:EDA=1.3:0.7(検討番号1、4)、THF:EDA=1.0:1.0(検討番号2、5)、又は、THF:EDA=0.7:1.3(検討番号3、6))を用いて、所定の反応時間(3時間(検討番号1〜3)、又は、6時間(検討番号4〜6))50℃で反応させた。反応終了後、GC-MSにより生成物の濃度を測定し、4,4'-ビピリジン、未反応で残存したピリジン、及び、分子量80(M.W.80)の中間体の割合(%)を算出した。
【0066】
その結果、
図2に示す通り、4,4'-ビピリジンの割合は、17.9%(検討番号1)、26.3%(検討番号2)、26.9%(検討番号3)、24.9%(検討番号4)、23.3%(検討番号5)、32.7%(検討番号6)であった。検討番号1〜6は、いずれの検討条件においても4,4'-ビピリジンの割合は約2〜3割程度と低いものであった。
【0067】
(事前検討例2)基質2-クロロピリジンでのカップリング反応における溶媒の検討
本事前検討例では、上記事前検討例に続き、
図3に要約する検討条件により、基質として2-クロロピリジンを用いたカップリング反応により4,4'-ビピリジンの合成を検討し、THFとEDAの混合溶媒において両者の比率を変化させ、2-クロロピリジンのカップリング反応による4,4'-ビピリジンの合成の検討を行った。
【0068】
(検討番号1〜6)
2-クロロピリジン(0.5mmol)に対して2モル当量のSDとの反応において、反応溶媒としてTHF:EDAの混合溶媒(THF:EDA=1.3:0.7(検討番号1、4)、THF:EDA=1.0:1.0(検討番号2、5)、又は、THF:EDA=0.7:1.3(検討番号3、6))を用いて、所定の反応時間(3時間(検討番号1〜3)、又は、6時間(検討番号4〜6))50℃で反応させた。反応終了後、GC-MSにより生成物の濃度を測定し、4,4'-ビピリジン、未反応で残存した2-クロロピリジン、及び、ピリジンの割合(%)を算出した。
【0069】
その結果、
図3に示す通り、4,4'-ビピリジンの割合は、26.8%(検討番号1)、35.9%(検討番号2)、36.8%(検討番号3)、30.7%(検討番号4)、36.2%(検討番号5)、36.5%(検討番号6)であった。検討番号1〜6は、いずれの検討条件においても4,4'-ビピリジンの割合は約3〜4割程度と事前検討例1と同様に低いことが理解できる。
【0070】
詳細には示さないが、THF:EDA=1.0:1.0、又は、THF:EDA=0.7:1.3を反応溶媒とし、SDの添加量を1、1.5、又は、4モル当量として、上記と同様に反応させ、4,4'-ビピリジンの合成を検討した。いずれの検討条件においても、4,4'-ビピリジンの割合は3〜4割程度であり収率の面で十分ではなく、また、SDの添加量が1モル当量と少ない場合には、2-クロロピリジンの大半(50〜75%)が未反応で残存した。
【0071】
事前検討例3.基質ピリジンでのカップリング反応における溶媒の検討
本事前検討例では、上記事前検討例に続き、
図4に要約する検討条件により、ピリジンを用いたカップリング反応により4,4'-ビピリジンの合成を検討した。本事前検討例では、アミンの利用可能性について検討を行った。まず、ピリジンにSDを添加し反応を行い4,4'-ビピリジンの合成を行った(検討番号1〜6)。続いて、
図5に要約する検討条件により、アミン系溶媒を添加して反応を行い4,4'-ビピリジンの合成を行った(検討番号7〜13)。アミン系溶媒としては、詳細には示さないが1級及び2級アミンではSDがアミンからプロトンを引き抜き、SDが基質に作用することにより生成されたラジカルアニオンがもとの基質に戻るため、SDだけが消費されNa効率が低下することが判明したため、本事前検討例では3級アミンの利用可能性を検討した。3級アミンとしては、N,N,N',N'-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン(以下、「TMEDA」と略する場合がある)、又は、トリエチルアミン(以下、「TEA」と略する場合がある)を使用した。
【0072】
(検討番号1〜6)
ピリジン(40 mmol(検討番号1、3、5)、又は、80 mmol(検討番号2、4、6))に、SD(8.0 mmol(検討番号1、5)、8.1 mmol(検討番号2)、7.9 mmol(検討番号3、4)、又は、8.4 mmol(検討番号6))を添加して、所定の反応温度(20℃(検討番号1、2)、30℃(検討番号3、4)、50℃(検討番号5、6))で6時間反応させた。反応終了後、GC-MSにより4,4'-ビピリジン及び未反応で残存したピリジンの濃度を測定すると共に、Na効率を算出し生成物を評価した。更に、ピリジン収支を算出し、物質収支の観点からも評価を行った。
【0073】
Na効率は、理論上、モル当量で1のSDに対して0.5のビピリジンが生成できることから、〔Na効率(%)={2×4,4'-ビピリジンの生成量(mmol)/添加したSD(mmol)}×100〕により算出することができる。
【0074】
ピリジン収支は、〔ピリジン収支(%)=[{(2×4,4'-ビピリジンの生成量(mmol)+を未反応のピリジン回収量(mmol))/ピリジンの添加量(mmol)}×100]〕により算出することができる。
【0075】
その結果、
図4に示す通り、Na効率は、6%(検討番号1)、5%(検討番号2)、7%(検討番号3)、8%(検討番号4)、15%(検討番号5)、及び、19%(検討番号6)であった。検討番号1〜6は、いずれの検討条件においてもNa効率が5〜20%程度であった。また、粘度の上昇により撹拌が不十分となるという問題が生じ、粘度上昇を抑制するためヘキサンを添加した場合には2,2'-ビピリジンが副生成した。
【0076】
(検討番号7〜13)
ピリジン(16 mmol(検討番号7〜10)、又は、40 mmol(検討番号11〜13))に、SD(7.8 mmol(検討番号7〜9)、8.0 mmol(検討番号10)、2.0 mmol(検討番号11〜13))をアミン(TMEDAを16 mmol(検討番号7、9)、8 mmol(検討番号10)、1 mmol(検討番号11)、2 mmol(検討番号12)、5 mmol(検討番号13)、又は、TEAを16 mmol(検討番号8))の存在下で添加して、所定の反応時間(6時間(検討番号7、8)、又は、24時間(検討番号9〜13))20℃で反応させた。反応終了後、4,4'-ビピリジン及び未反応で残存したピリジンの濃度を測定すると共に、Na効率を算出し生成物を評価した。更に、ピリジン収支を算出し、物質収支の観点からも評価を行った。なお、Na効率、及び、ピリジン収支は上記の通り算出した。
【0077】
その結果、
図5に示す通り、Na効率は、14%(検討番号7)、5%(検討番号8)、19%(検討番号9)、8%(検討番号10)、11%(検討番号11)、6%(検討番号12)、及び、9%(検討番号13)であった。また、ピリジン収支は、54%(検討番号7)、82%(検討番号8)、35%(検討番号9)、68%(検討番号10)、56%(検討番号11)、48%(検討番号12)、及び、63%(検討番号13)であった。3級アミンを添加した場合においては、ピリジン収支が低下し物質収支の観点から好ましくなく、また、Na効率も低いことが理解できる。したがって、アミン系溶媒の添加は好ましくないことが判明した。
【0078】
事前検討例4.基質ピリジンのカップリング反応におけるSD添加量の検討
本事前検討例では、上記事前検討例に続き、
図6に要約する検討条件により、基質としてピリジンを用いたカップリング反応により4,4'-ビピリジンの合成を検討した。ピリジンに添加するSD量を変化させて反応を行い、4,4'-ビピリジンの合成を行った(検討番号1〜5)。
【0079】
(検討番号1〜5)
ピリジン(40 mmol(検討番号1〜3)、80 mmol(検討番号4)、又は、120 mmol(検討番号5))に、SD(8.0 mmol(検討番号1、2)、4.1 mmol(検討番号3、4)、又は、4.2 mmol(検討番号5))を添加して、所定の反応時間(6時間(検討番号1)、24時間(検討番号2)、又は、144時間(検討番号3〜5))20℃で反応させた。反応終了後、4,4'-ビピリジン及び未反応で残存したピリジンの濃度を測定すると共に、Na効率を算出し生成物を評価した。更に、ピリジン収支を算出し、物質収支の観点からも評価を行った。なお、Na効率、及び、ピリジン収支は上記の通り算出した。
【0080】
その結果、
図6に示す通り、Na効率は、11%(検討番号1)、13%(検討番号2)、19%(検討番号3)、41%(検討番号4)、及び、15%(検討番号5)であった。検討番号4では、4.1 mmolのSDから0.84 mmolの4,4'-ビピリジンが合成でき、Na効率が41%程度まで向上した。更に、ピリジン収支も良好であった。しかしながら、更なるNa効率の向上が期待された。
【0081】
実施例1.DMI及びSDの混合物を含む電子供与体による基質ピリジンのカップリング反応
本実施例では、
図7に要約する合成条件により、DMI及びSDの混合物を含む電子供与体を利用して基質ピリジンのカップリング反応により4,4'-ビピリジンの合成を検討した。
【0082】
(実験番号1)
窒素置換したフラスコに3.0 mmolのDMIを加え、続いて1.0 mmolのSDを滴下し、反応液が青緑から濃緑色になったところで、3.3 mmolのピリジン(4.5 M)を加えて撹拌した。
ピリジン添加後に反応液は赤褐色となり、最終的には青紫色に変化した。40℃での反応開始6時間後に、水に反応液を滴下して失活し、そのまま一晩空気酸化させた。その後、トルエンを用いて溶媒抽出し、GC-MSにより4,4'-ビピリジンの濃度を測定し、Na効率を算出し生成物を評価した。なお、Na効率は、上記の通り算出した。その結果、
図7に示す通り、39%のNa効率で4,4'-ビピリジンを得た。
【0083】
(実験番号2)
2.5 mmolのDMI、1.0 mmolのSD、3.0 mmolのピリジン(4.8 M)を用いた以外は、実験番号1と同様に反応を行い、Na効率を算出した。その結果、37%のNa効率で4,4'-ビピリジンを得た。
【0084】
(実験番号3)
2.5 mmolのDMI、1.0 mmolのSD、5.0 mmolのピリジン(6.4 M)を用いた以外は、実験番号1と同様に反応を行い、Na効率を算出した。その結果、74%のNa効率で4,4'-ビピリジンを得た。
【0085】
(実験番号4)
2.5 mmolのDMI、1.0 mmolのSD、7.0 mmolのピリジン(7.5 M)を用いた以外は、実験番号1と同様に反応を行い、Na効率を算出した。その結果、53%のNa効率で4,4'-ビピリジンを得た。
【0086】
(実験番号5)
2.5 mmolのDMI、1.0 mmolのSD、10.0 mmolのピリジン(8.5 M)を用いた以外は、実験番号1と同様に反応を行い、Na効率を算出した。その結果、66%のNa効率で4,4'-ビピリジンを得た。
【0087】
実験番号1〜5において、DMI:ピリジン:SD=2.5:5:1の条件のときに、Na効率が74%と最も高く、効率よくカップリング反応が進行することが理解できる。また、2,2'-ビピリジン等の副生成物の生成を抑制することもできた。
【0088】
実施例2.DMI及びSDの混合物を含む電子供与体による基質の還元反応
本実施例では、
図8に要約する合成条件により、DMI及びSDの混合物を含む電子供与体を利用して基質の還元反応を検討した。
【0089】
(実験番号1)
窒素置換したフラスコに0.5 mmolの基質としてのアントラセン、3モル当量のtBuOH 、6モル当量のDMI、0.5 mlのTHFを加えた後、室温で撹拌しながら、3モル当量のSDを添加した。SD添加後、直ちに発熱と共に反応液はSD/DMIに特徴的な青色を呈した。かかる呈色は30秒以内に消失し、反応が終了したと判断した。10分後に、メタノール、水を順次添加して、反応を停止した。得られた生成物である4a,9,9a,10-テトラヒドロアントラセンを
1H NMRにより測定し、収率を算出した。収率は、反応系に添加した基質から理論的に生成することができる生成物に対する、実際に取得できた生成物の割合(%)として算出した。その結果、91%の収率で生成物を得た。
【0090】
(実験番号2)
基質として、1,2-ジフェニルエチレンを用いた以外は、実験番号1と同様に反応を行い生成物として1,2-ジフェニルエタンを得、収率を算出した。その結果、90%の収率で生成物である1,2-ジフェニルエタンを得た。
【0091】
実験番号1〜2において、DMI及びSDの混合物が電子供与体として作用し、還元反応が効率よく進行していることが理解できる。
取扱い容易で温和な条件の下、簡便な操作で短時間に、経済的かつ効率的に、カップリング反応を行うことができる電子供与体および電子供与体を用いた4,4'-ビピリジンの合成方法を提供する。ナトリウムを分散溶媒に分散させた分散体と1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとの混合物を含む電子供与体、及び、この電子供与体を用いた4,4'-ビピリジンの合成方法。