特許第6543103号(P6543103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543103
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】吸音体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20190628BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   G10K11/16 130
   E04B1/86 D
   E04B1/86 E
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-121146(P2015-121146)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-3948(P2017-3948A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】日高 孝之
(72)【発明者】
【氏名】中川 武彦
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−165848(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0103723(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16 − 11/172
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ抵抗200〜2000[g/s・cm3]の多孔質で板状の厚さL+dの基材に対し、
前記基材の音波到来側に塗料塗布て形成厚さtの塗膜に、前記基材に達する半径rの細孔を開口率Ωとなるように多数穿設た膜体を設ける吸音体を製造する吸音体の製造方法であって、
自由空気中の波長定数をk、前記細孔内のうち前記膜体に対応する部分の波長定数をk1、前記細孔内のうち前記基材に対応する部分の波長定数をk2、前記基材の波長定数をk3、前記細孔内のうち前記膜体に対応する部分の特性インピーダンスをW1、前記細孔内のうち前記基材に対応する部分の特性インピーダンスをW2、前記吸音体の全体の音響インピーダンスをZ、前記細孔の入口の音響インピーダンスをZ1、前記細孔の終端の音響インピーダンスをZ2、前記細孔の側壁の音響インピーダンスをZ3、前記膜体の表面の音響インピーダンスをZ4、自由空気中の音圧をp、前記細孔の入口の音圧をp1、前記細孔の終端の音圧をp2、音速をc、前記細孔の半径をr0、前記細孔の入口の軸方向の粒子速度をu1、前記細孔の終端の軸方向の粒子速度をu2、自由空気の密度をρ、空気の粘性係数をη、ベッセル関数をJ1、前記細孔の入口の放射インピーダンスをZR、第1種Struve関数をH1、前記細孔内の空気流による摩擦項をrm、角速度をω、虚数単位をi、並列結合を//、右辺による左辺の置き換えを→としたときに、
前記基材の厚さL+d、前記膜体の厚さt、前記細孔の半径r、及び、前記開口率Ωを、下記の(1)〜(7)式から算出する吸音体の製造方法。
【数1】

【数2】
【請求項2】
前記基材の厚さL+d=8[mm]以上、前記膜体の厚さt=0.02〜1[mm]、前記細孔の半径r=1[mm]以下、及び、前記細孔による開口率Ω=2.0[%]以下とた請求項1記載の吸音体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸音体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内空間の壁や天井等に使用可能な内装用吸音材の一例として、特許文献1には、吸音部材を有する基材の表面に内装仕上材としての壁紙を接着した後、壁紙の表面から少なくとも吸音部材にまで達する通気穴を形成した構成の化粧音響吸音板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−18813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、上述した吸音板を有する基材として、ロックウールボード、グラスウールボード、発泡板等の吸音部材を用いることが記載されている。ロックウールボードやグラスウールボードは、繊維状の材料を樹脂等によって結合して板状に形成したものであり、表面(壁紙を接着する面)にエンボス加工によって複数種類の大きさの孔(裏面までは貫通しない凹部)が形成された構成が一般的である。
【0005】
このように、基材は、表面の平滑性が低く、表面にその全面に亘って多数の凹部が存在していることから、図14に示すように、基材100の表面に壁紙102を接着し、基材100まで達する通気穴104,106を形成した場合、基材100の表面のうち凹部でない部分、すなわち壁紙102が基材100に密着している部分に形成された通気穴104は、壁紙102に対応する層104Aと基材100に対応する層104Bの二層構造となる。一方、基材100の表面のうち凹部が存在している部分、すなわち壁紙102が基材100と離間している部分に形成された通気穴106は、壁紙102に対応する層106A、壁紙102と基材100との間隙に対応する層106B、及び、基材100に対応する層106Cの三層構造となる。
【0006】
従って、特許文献1に記載の吸音部材は、基材の表面の平滑性が低いために、個々の通気穴が、基材の表面のうちの何れの部分(壁紙が基材に密着している部分又は壁紙が基材と離間している部分)に形成されたかに応じて、個々の通気穴の形成に伴って生ずる吸音性能が相違することになる。このため、特許文献1に記載の吸音部材は、個々の通気穴の形成に伴って生ずる吸音性能が相違することで、吸音部材全体として所期の吸音性能が発揮されないことがある、という問題があった。
【0007】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、基材の表面の平滑性が低いことが吸音性能に悪影響を及ぼすことを抑制できる吸音体の製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明に係る吸音体の製造方法は、流れ抵抗200〜2000[g/s・cm3]の多孔質で板状の厚さL+dの基材に対し、前記基材の音波到来側に塗料塗布て形成厚さtの塗膜に、前記基材に達する半径rの細孔を開口率Ωとなるように多数穿設た膜体を設ける吸音体を製造する吸音体の製造方法であって、自由空気中の波長定数をk、前記細孔内のうち前記膜体に対応する部分の波長定数をk1、前記細孔内のうち前記基材に対応する部分の波長定数をk2、前記基材の波長定数をk3、前記細孔内のうち前記膜体に対応する部分の特性インピーダンスをW1、前記細孔内のうち前記基材に対応する部分の特性インピーダンスをW2、前記吸音体の全体の音響インピーダンスをZ、前記細孔の入口の音響インピーダンスをZ1、前記細孔の終端の音響インピーダンスをZ2、前記細孔の側壁の音響インピーダンスをZ3、前記膜体の表面の音響インピーダンスをZ4、自由空気中の音圧をp、前記細孔の入口の音圧をp1、前記細孔の終端の音圧をp2、音速をc、前記細孔の半径をr0、前記細孔の入口の軸方向の粒子速度をu1、前記細孔の終端の軸方向の粒子速度をu2、自由空気の密度をρ、空気の粘性係数をη、ベッセル関数をJ1、前記細孔の入口の放射インピーダンスをZR、第1種Struve関数をH1、前記細孔内の空気流による摩擦項をrm、角速度をω、虚数単位をi、並列結合を//、右辺による左辺の置き換えを→としたときに、前記基材の厚さL+d、前記膜体の厚さt、前記細孔の半径r、及び、前記開口率Ωを、下記の(1)〜(7)式から算出する。
【数1】

【数2】
【0009】
請求項1記載の発明は、基材が、流れ抵抗が200〜2000[g/s・cm3]の多孔質で板状で厚さL+dとされている。流れ抵抗が上記範囲の多孔質で板状の材料としては、一例として、板状に成形されたロックウールが挙げられる。また、請求項1記載の発明は、基材の音波到来側に塗料が塗布されて厚さtの塗膜が形成される。これにより、基材の音波到来側の表面に多数の凹部が存在していたとしても、基材の音波到来側への塗料の塗布時に凹部の中に塗料が入り込むことで、膜厚がほぼ均一で、凹部が存在している箇所においても基材に密着した状態になっている塗膜が形成される。
【0010】
また、請求項1記載の発明は、上記の塗膜に、基材に達する半径rの細孔が開口率Ωとなるように多数穿設されて膜体が形成される。これにより、基材の音波到来側の表面のうち、凹部でない部分に穿設された細孔も、凹部が存在している部分に穿設された細孔も、膜体に対応する層と基材に対応する層の二層構造となるので、細孔の穿設に伴って生ずる吸音性能が個々の細孔毎にばらつくことが抑制される
【0013】
そして、請求項1記載の発明は、前記基材の厚さL+d、前記膜体の厚さt、前記細孔の半径r、及び、前記細孔による開口率Ωを、前出の(1)〜(7)式から算出する。
【0014】
前出の(1)〜(7)式は、本願発明者等が本発明に係る吸音体の製造方法により製造した吸音体を解析することで導出した演算式であり(導出過程については後述する)、請求項記載の発明は、前出の(1)〜(7)式から基材の厚さL+d、膜体の厚さt、細孔の半径r及び細孔による開口率Ωを算出するので、基材の表面の平滑性が低いことが吸音性能に悪影響を及ぼすことを抑制することができ、本発明に係る吸音体を所期の吸音性能が得られるように製造することを容易に実現することができる。
【0015】
請求項記載の発明は、請求項記載の発明において、前記基材の厚さL+d=8[mm]以上、前記膜体の厚さt=0.02〜1[mm]、前記細孔の半径r=1[mm]以下、及び、前記細孔による開口率Ω=2.0[%]以下とている。
【0016】
本発明に係る吸音体の製造方法により製造した吸音体において、基材の厚さL+d、膜体の厚さt、細孔の半径r及び細孔による開口率Ωについての上記の数値範囲は、本願発明者等が先の(1)〜(7)式から望ましい吸音性能が得られるように算出した数値範囲であり(数値範囲の根拠については後述する)、請求項記載の発明は、本発明に係る吸音体の製造方法により製造した吸音体における基材の厚さL+d、膜体の厚さt、細孔の半径r及び細孔による開口率Ωを上記の数値範囲内としていることで、望ましい吸音性能の吸音体を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、基材の表面の平滑性が低いことが吸音性能に悪影響を及ぼすことを抑制できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る吸音体の斜視図である。
図2】吸音体を部分的に拡大して示す断面図である。
図3】吸音体の製造装置を示す概略図である。
図4】吸音体の検討解析に用いたモデルを示す概略図である。
図5】吸音体のモデルにおける仮想グリッドの近似を示す概略図である。
図6】吸音体の吸音特性の実測値と計算値を各々示す線図である。
図7】吸音体の吸音特性の実測値と計算値を各々示す線図である。
図8】吸音体の吸音特性の実測値と計算値を各々示す線図である。
図9】基材の流れ抵抗を変化させた場合の吸音体の吸音特性の変化を示す線図である。
図10】膜体の厚さを変化させた場合の吸音体の吸音特性の変化を示す線図である。
図11】細孔の半径を変化させた場合の吸音体の吸音特性の変化を示す線図である。
図12】開口率を変化させた場合の吸音体の吸音特性の変化を示す線図である。
図13】基材の厚さを変化させた場合の吸音体の吸音特性の変化を示す線図である。
図14】従来技術の問題点を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には、本実施形態に係る吸音体10が示されている。吸音体10は、本発明における基材の一例としての岩綿吸音板12を備えている。
【0020】
岩綿吸音板12は、無機質繊維の岩綿(ロックウール)を主原料とする多孔質で、板状に成型され、エンボス加工や吹き付け塗装等の表面仕上げがされた内装材である。吸音体10の基材としては、流れ抵抗が200〜2000[g/s・cm3]の範囲内で、厚さL+dが8[mm]以上の範囲内の岩綿吸音板12が適用される。本実施形態では、一例として、流れ抵抗=500[g/s・cm3]、厚さL+d=10[mm]の岩綿吸音板12を適用している。
【0021】
なお、本発明における基材は、多孔質の板状で、流れ抵抗及び厚さL+dが上記の数値範囲内の材料であればよく、岩綿吸音板12以外に、グラスウール、軟質ウレタンフォーム等であってもよい。
【0022】
本実施形態に係る吸音体10は、建設物に形成された屋内空間の天井面又は壁面に配設される。岩綿吸音板12の表裏面のうち、吸音体10が屋内空間に配設された状態で音波到来側となる表面(表面仕上げがされ、屋内空間の内側へ向けられる面)には、塗料が塗布されて乾燥されることで塗膜14が形成されている。この塗膜14には、底部が岩綿吸音板12に達する細孔16が多数穿設されている。なお、塗膜14及び細孔16は本発明における膜体18の一例を構成している。
【0023】
膜体18は、膜体18(塗膜14)の厚さtが0.02〜1[mm]の範囲内となるように塗料が塗布される。本実施形態では、一例として、膜体18(塗膜14)の厚さt=0.1[mm]とされている。
【0024】
また、細孔16は、細孔16の半径rが1[mm]以下で、かつ細孔16による開口率Ω=2.0[%]以下となるように塗膜14に穿設される。本実施形態では、一例として、細孔16の半径r=1[mm]、細孔16による開口率Ω=1[%]とされている。
【0025】
図1に示すように、岩綿吸音板12の音波到来側の表面は、岩綿吸音板12の製造時のエンボス加工により、その全面に亘って多数の凹部12Aが形成されている。一方、膜体18の塗膜14は、岩綿吸音板12の表面に塗料が塗布されて乾燥されることで形成されているので、岩綿吸音板12の表面への塗料の塗布時に凹部12Aの中に塗料が入り込むことで、膜厚がほぼ均一で、図2に示すように、凹部12Aが形成された箇所においても岩綿吸音板12の表面に密着した状態になっている。
【0026】
これにより、図2に示すように、岩綿吸音板12の表面のうち、凹部12Aが形成されていない部分に穿設された細孔16も、凹部12Aが形成されている部分に穿設された細孔16も、膜体18に対応する層20と岩綿吸音板12に対応する層22の二層構造となる。従って、個々の細孔16を穿設することで生ずる吸音性能がおよそ均一となるので、岩綿吸音板12の表面に形成された凹部12Aが吸音性能に及ぼす影響が抑制され、吸音体10全体として所期の吸音性能が得られる。
【0027】
また、岩綿吸音板12の流れ抵抗=500[g/s・cm3]は、吸音体10の吸音性能が望ましい特性となるように本願発明者等が算出した岩綿吸音板12の流れ抵抗=200〜2000[g/s・cm3]の範囲内の値であり、岩綿吸音板12の厚さL+d=10[mm]は、吸音体10の吸音性能が望ましい特性となるように本願発明者等が算出した岩綿吸音板12の厚さL+d=8[mm]以上の範囲内の値であり、膜体18の厚さt=0.1[mm]は、吸音体10の吸音性能が望ましい特性となるように本願発明者等が算出した膜体18の厚さt=0.02〜1[mm]の範囲内の値である。
【0028】
また、細孔16の半径r=1[mm]は、吸音体10の吸音性能が望ましい特性となるように本願発明者等が算出した細孔の半径r≦1[mm]の範囲内の値であり、細孔16による開口率Ω=1[%]は、吸音体10の吸音性能が望ましい特性となるように本願発明者等が算出した細孔16による開口率Ω≦2.0[%]の数値範囲内の値である。従って、本実施形態に係る吸音体10は、望ましい特性を示す吸音性能が得られる。
【0029】
次に図3を参照し、吸音体10を製造する製造装置30について説明する。製造装置30は、吸音体10(岩綿吸音板12)の搬送路が形成され、当該搬送路の途中に配置された塗布部32と、当該塗布部32よりも前記搬送路の搬送方向下流側に配置された穿孔部34と、を含んでいる。
【0030】
塗布部32は、岩綿吸音板12の厚さL+d分の間隔を空けて配置され、塗布部32内に送り込まれた岩綿吸音板12(表面仕上げがされた岩綿吸音板12)を挟持して搬送する搬送ローラ36,38と、搬送ローラ38の近傍に岩綿吸音板12の表面と対向する向きで配置された複数の吐出ノズル40,42と、を含んでいる。なお、図3では吐出ノズル40,42を各々1個ずつ示しているが、個々の吐出ノズル40,42は、実際には図3の紙面奥行方向(岩綿吸音板12の搬送方向に直交する幅方向)に沿って配列された複数の吐出ノズルを含んでいる。
【0031】
吐出ノズル40は、図示しない下塗り剤供給部から供給された下塗り剤を岩綿吸音板12の表面へ向けて噴射することで、岩綿吸音板12の表面に、当該表面の全面に亘って下塗り剤を塗布する。また、吐出ノズル42は、図示しない塗料供給部から供給された塗料を岩綿吸音板12の表面へ向けて噴射することで、岩綿吸音板12の表面に、当該表面の全面に亘って塗料を塗布する。岩綿吸音板12の表面に塗布した塗料が乾燥することで形成される塗膜14の厚さt=塗布した塗料の量÷塗布面積である。本実施形態では、塗膜14の厚さt=0.1[mm]となるように、岩綿吸音板12の搬送速度も考慮して吐出ノズル42からの塗料の噴射量が調整されている。
【0032】
なお、図3では吐出ノズル42を吐出ノズル40の近傍に示しているが、吐出ノズル40によって岩綿吸音板12の表面に塗布された下塗り剤が乾燥した後に、吐出ノズル42によって岩綿吸音板12の表面に塗料が塗布されるように、吐出ノズル42を吐出ノズル40と離間させてもよいし、吐出ノズル40と吐出ノズル42との間に下塗り剤を乾燥させる乾燥部を設けてもよい。また、塗布部32内に送り込まれる岩綿吸音板12の表面仕上げの程度によっては、吐出ノズル40(岩綿吸音板12の表面への下塗り剤の塗布)を省略してもよい。
【0033】
一方、塗布部32と穿孔部34との間には、吐出ノズル42によって岩綿吸音板12の表面に塗布された塗料を乾燥させる乾燥部が設けられており(図示省略)、岩綿吸音板12は、塗布部32で表面に塗布された塗料が乾燥されて塗膜14が形成された状態で穿孔部34へ送り込まれる。
【0034】
穿孔部34は、穿孔部34内を搬送される岩綿吸音板12の下面を支持する支持ローラ44と、周面に穿孔針46が多数本立設され支持ローラ44と岩綿吸音板12の厚さL+d分の間隔を空けて配置された穿孔ローラ48と、を含んでいる。穿孔部34へ送り込まれた岩綿吸音板12は、支持ローラ44によって支持されると共に、岩綿吸音板12の移動に従動して回転する穿孔ローラ48に立設された穿孔針46により、塗膜14から岩綿吸音板12まで達する細孔16が塗膜14に多数穿設され、膜体18が形成されて吸音体10が製造される。
【0035】
本実施形態では、穿孔針46により、塗膜14から岩綿吸音板12まで達する半径r=1[mm]の細孔16が穿設されるように、個々の穿孔針46の太さ及び長さが定められている。また、本実施形態では、細孔16による開口率Ω=1[%]となるように、穿孔ローラ48の周面上における穿孔針46の立設密度が定められている。
【0036】
以上の工程により製造された吸音体10は、建設現場へ搬出され、建設物の屋内空間の壁や天井に、膜体18が形成された表面が音波到来側(屋内空間の内側)を向く向きで配設される。製造装置30で吸音体10を製造する場合、岩綿吸音板12の表面への塗料の塗布や細孔16の穿設を建設物の施工現場で行う場合と比較して、塗膜14の厚さtや細孔16による開口率Ωのばらつきを小さくすることができ、吸音性能のばらつきが小さい吸音体10を得ることができる。
【0037】
また、特許文献1に記載の技術は、吸音板を構成する壁紙を既存の製品群から選択しようとしても、個々の製品は厚さが決まっているので、吸音板を構成する壁紙を上記の製品群に含まれていない中間の厚さにすることはできない。このため、吸音板を構成する壁紙を上記の製品群に含まれていない中間の厚さにしたい場合には、中間の厚さの壁紙を新たに製造する必要がある、という課題がある。
【0038】
これに対し、本実施形態に係る吸音体10は、岩綿吸音板12に塗料を塗布することで塗膜14を形成する構成であるので、塗膜14の厚さtは岩綿吸音板12に塗布する塗料の量に応じて定まり(塗膜14の厚さt=塗料の塗布量÷塗布面積)、塗膜14の厚さtを自由かつ容易に調整できる、という効果も有している。
【0039】
なお、図3では、周面に穿孔針46が多数本立設された穿孔ローラ48を岩綿吸音板12の移動に従動して回転させることで、細孔16を穿設する構成を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、穿孔針を多数本立設した平板状の部材を岩綿吸音板12の塗膜14が形成された面と対向配置し、岩綿吸音板12を間欠搬送させ、岩綿吸音板12の停止時に平板状の部材を岩綿吸音板12の塗膜14形成面と接近・離間するように往復移動させて細孔16を穿設し、平板状の部材が岩綿吸音板12から離間した状態で岩綿吸音板12を一定距離搬送することを繰り返す構成を採用してもよい。
【実施例】
【0040】
次に、本願発明者等が本発明に係る吸音体に対して行った解析検討について説明する。この解析検討では、請求項2に記載した前出の(1)〜(7)式を導出し、導出した数式の妥当性を確認する実験を行った後、妥当性を確認した数式を用い、本発明に係る吸音体の各パラメータ(設計変数)の値を変化させたときの吸音体の吸音特性の変化を確認するシミュレーションを行い、請求項3に記載した各パラメータの数値範囲を導出した。以下では、まず(1)〜(7)式の導出過程を説明する。
【0041】
図4には、(1)〜(7)式の導出に用いた吸音体のモデル50を示す。吸音体のモデル50は、実施形態で説明した吸音体10のうち、塗膜14に穿設された単一の細孔16及び当該単一の細孔16の周囲の一部分をモデル化したものであり、岩綿吸音板12を模した基材部52、塗膜14(膜体18)を模した膜体部54、及び、細孔16を模した開口56を含んでいる。
【0042】
吸音体のモデル50は、解析対象の問題を単純化するため、開口56が一定の半径rの円筒状とされ、膜体部54の表面から基材部52の深さdの位置まで連続しているものとされている。すなわち、開口56は、円筒状の軸線に沿った前半部が膜体部54に囲まれた膜体部領域56B、後半部が基材部52に囲まれた基材部領域56Aとされている。
【0043】
以下では、波長定数をk、特性インピーダンスをWで表し、波長定数k、特性インピーダンスWに添え字が無いとき(k,W)は自由空気中の値、添え字「1」が付されているとき(k1,W1)は開口56の膜体部領域56B内の値、添え字「2」が付されているとき(k2,W2)は開口56の基材部領域56A内の値、添え字「3」が付されているとき(k3,W3)には基材部52内の値とする。
【0044】
また、音響インピーダンスをZで表し、音響インピーダンスZに添え字が無いとき(Z)は吸音体のモデル50の表面における値(系全体の音響インピーダンス)、添え字「1」が付されているとき(Z1)は開口56の入口における値、添え字「2」が付されているとき(Z2)は開口56の底部における値、添え字「3」が付されているとき(Z3)には開口56の基材部領域56Aの側壁における値、添え字「4」が付されているとき(Z4)には膜体部54の表面における値とする。
【0045】
更に、空気の特性インピーダンスρcで正規化した特性インピーダンスWを正規化特性インピーダンスw、空気の特性インピーダンスρcで正規化した音響インピーダンスZを正規化音響インピーダンスzで表す。
【0046】
吸音体のモデル50において、吸音体のモデル50の表面における音響インピーダンス(系全体の音響インピーダンス)Zは、前出の(1)式に示すように、開口56の入口における音響インピーダンスZ1と膜体部54の表面における音響インピーダンスZ4の並列結合で表される。(1)式において、Ωは開口56による開口率であり、膜体部54を音響的に剛とみなせれば、(1)式に示すようにZ=Z1/Ωとなる。
【0047】
次に、吸音体のモデル50のうち、開口56の入口及び開口56の底部における音圧pと軸方向の粒子速度uに関しては、伝達マトリックスを用いて、前出の(2)式で表すことができる。なお、(2)式において、tは開口56のうち膜体部領域56Bの長さ、dは開口56の基材部領域56Aの長さであり、開口56の入口における音響インピーダンスZ1は前出の(3)式で表される。
【0048】
このとき、開口56の膜体部領域56B内における波長定数k1及び特性インピーダンスW1は、開口56の膜体部領域56Bの側壁が音響的に剛であると仮定すれば、軸方向に対する粘性損失βを考慮して次の(8)式で与えられ、粘性損失βは次の(9)式で与えられる。
【0049】
【数3】
【0050】
但し、(9)式において、ρは自由空気の密度、ηは空気の粘性係数(18×10-5[g/cm・s] at 20[°C])である。
【0051】
なお、基材部52として利用可能な実際の多孔質の材料において、図4に示す吸音体のモデル50のように開口56の半径rを明確に規定できるのか、ひいては、(2)式のマトリクス表現が可能なのかという疑義が生じる可能性がある。これに対しては、径の異なる2本の開口(管路)内の音の伝搬に関し、その接続部で生じる放射インピーダンスの実部が1になることが知られているので、マトリックス演算によるインピーダンス合成計算が成立すると考えて良い。
【0052】
また、吸音体のモデル50においては、音場の対称性から、1個の細孔に対応する音響的な仮想グリッド(図5の左図に破線で示す)の境界で、法線方向の粒子速度は相殺して0となると期待できる。すなわち、仮想グリッドを等半径の円筒で近似し(図5の右図参照)、仮想グリッドの境界を側壁が剛な管への接続問題に置き換えることが可能である。
【0053】
一方、開口56の基材部領域56A内における波長定数k2及び特性インピーダンスW2は次の(10)式で与えられる。
【0054】
【数4】
【0055】
また、(10)式におけるz3(=Z3/ρc)は、開口56の基材部領域56Aの側壁における音響インピーダンスZ3を空気の特性インピーダンスρcで正規化した正規化音響インピーダンスであり、音響インピーダンスZ3は次の(11)式で与えられる。
【0056】
【数5】
【0057】
上記の(11)式において、Rは隣り合う開口56の距離の1/2であり、開口56による開口率ΩとΩ=πr2/4R2という関係がある。また、(11)式におけるJ1とY1はベッセル関数である。
【0058】
仮に、開口56が吸音材のモデル50の表面にランダムに分布している場合は、距離Rに代えてR=(r/2)√(π/Ω)を(11)式へ代入すれば、開口56が表面にランダムに分布している吸音材のモデル50(表面に細孔16がランダムに穿設された吸音体10)に対しても、開口率Ωを近似的に設計変数として取り扱うことができる。なお、距離Rが、開口56の基材部領域56Aの側壁における音響インピーダンスZ3へ及ぼす数値的影響は、実用上かなり小さい。
【0059】
また、開口56の底部における音響インピーダンスZ2は、基材部52のうち基材部領域56Aを除いた部分の長さ(厚さ)をLとし、基材部52の背後に剛壁が接していると仮定したとき、次の(12)式で与えられる。
【0060】
【数6】
【0061】
なお、(12)式のうち音響インピーダンスZ2を規定する数式における右辺第2項の級数は、m=n=0の場合を除外すると共に、kmnが実数の範囲での和をとる。高次モードを与える第2項は、寸法上の制約からその項数は数項に限られる。但し、これが及ぼす数値的影響は比較的大きい。また、aは細孔16の中心の間の平均長さ、J1は次数1のベッセル関数である。
【0062】
また、孔が空けられた板状の部材(例えば、吸音体のモデル50では膜体部領域56B及び基材部領域56Aの部分に相当)の背後に、多孔質の部材が直接接している場合と、微小な空気層を介して多孔質の部材が存在している場合と、では空気流の相違に起因して吸音特性の違いが生じることが知られている。孔が空けられた板状の部材の背後に微小な空気層を介して多孔質の部材が存在している場合については、前出の(12)式のうち音響インピーダンスZ2を規定する数式を、右辺第2項を空気層とし、その背後に多孔質の部材が存在している数式に変形すれば数値的に検討できる。
【0063】
一方、開口56の入口における音響インピーダンスZ1には、放射インピーダンスZRを付け加える必要がある。ここでは、剛な無限大バッフル中の円形ピストンの式を用いる。このとき、隣り合う開口56との相互作用の影響が存在するが(開口56間の距離がある程度離れている場合)、本実施例で説明している吸音体のモデル50ではその数値的影響は無視できる。放射インピーダンスZRは次の(13)式で与えられる。
【0064】
【数7】
【0065】
なお、(13)式において、H1は第1種Struve関数である。また、開口56のうちの膜体部領域56Bには空気流による摩擦項rmが生じ、これは次の(14)式で与えられる。
【0066】
【数8】
【0067】
以上を要約すると、開口56の入口における音響インピーダンスZ1は前出の(5)式で表される。また、吸音体のモデル50における垂直入射吸音率α0とランダム入射吸音率αsは次の(15)式で与えられる。
【0068】
【数9】
【0069】
次に、本願発明者等が実施した、前出の各数式の妥当性を確認する実験について説明する。この実験では、吸音体の試験体を製作し、製作した吸音体の試験体の吸音特性(垂直入射吸音率α0の周波数特性)を測定し、前出の各数式から計算される吸音特性との比較を行った。
【0070】
吸音体の試験体の岩綿吸音板としては、厚さL+d=9,12,15[mm]の岩綿吸音板を用い、膜体部の厚さt=0.15[mm]とした。また、半径r=0.3[mm]の細孔を手動ドリルにより穿設した(細孔の穿設ピッチは5[mm])。試験体の垂直入射吸音率α0の測定には内径100[mm]の金属製円筒音響管を用い、ISO-10534-2に準拠して2マイクロフォン法により測定した。この際、試験体と音響管の管壁とに間隙が存在することによる誤差の発生を抑制するため、試験体の周囲にはワセリンを塗布・充填した。製作した試験体の数量は、厚さL+dが互いに異なる岩綿吸音板毎に2個であり、その算術平均値を求めた。なお、それぞれ2個の試験体における垂直入射吸音率α0の差は小さく、無視できる範囲であった。
【0071】
結果を図6図8に示す。図6図8から明らかなように、岩綿吸音板の厚さL+d=9,12,15[mm]の各条件において、前出の各数式から計算した吸音特性(各図に実線で示す)は、製作した試験体に対して測定を行うことで得られた吸音特性(各図に点で示す)との差が小さく、前出の各数式の妥当性が確認された。
【0072】
続いて、本発明に係る吸音体の各設計変数の値を変化させたときの吸音体の吸音特性の変化を確認するシミュレーションを行うことで得られた、各設計変数の数値範囲について説明する。
【0073】
図4に示す吸音体のモデル50において、主要な設計変数は、基材部52(岩綿吸音板12)の流れ抵抗、膜体部54(塗膜14)の厚さt、開口56(細孔16)の半径r、開口56(細孔16)による開口率Ω、基材部52(岩綿吸音板12)の厚さL+dと考えられる。これらの設計変数を変化させた場合の吸音体の吸音特性(垂直入射吸音率α0の周波数特性)の変化を計算した結果を順に説明する。
【0074】
図9には、基材部52の流れ抵抗を50〜2000[g/s・cm3]の範囲で変化させた場合の吸音特性の変化を計算した結果を示す。なお、基材部52の流れ抵抗以外の設計変数は、膜体部54の厚さt=0.1[mm]、開口56の半径r=0.1[mm]、開口56による開口率Ω=1[%]、基材部52の厚さL+d=10[mm]とした。図9に示すように、吸音体の吸音特性は、基材部52の流れ抵抗の変化に対して鋭敏に変化しており、基材部52の流れ抵抗が200[g/s・cm3]未満の範囲では、垂直入射吸音率α0が高い値を示す周波数帯域が狭帯域化している。このため、基材部52の流れ抵抗としては200〜2000[g/s・cm3]の範囲が適切である。
【0075】
図10には、膜体部54の厚さtを0.1〜4[mm]の範囲で変化させた場合の吸音特性の変化を計算した結果を示す。なお、膜体部54の厚さt以外の設計変数は、基材部52の流れ抵抗=500[g/s・cm3]、開口56の半径r=0.1[mm]、開口56による開口率Ω=1[%]、基材部52の厚さL+d=10[mm]とした。図10に示すように、膜体部54の厚さtが小さくなるに従って、垂直入射吸音率α0の最大値が高くなると共に、垂直入射吸音率α0が最大値になる周波数も高くなっている。なお、図10に示す周波数範囲では、膜体部54の厚さtを更に小さくしても垂直入射吸音率α0の変化は飽和する。このため、膜体部54の厚さtとしては0.02〜1[mm]の範囲が適切である。
【0076】
図11には、開口56の半径rを0.05〜2.5[mm]の範囲で変化させた場合の吸音特性の変化を計算した結果を示す。なお、開口56の半径r以外の設計変数は、基材部52の流れ抵抗=500[g/s・cm3]、膜体部54の厚さt=0.1[mm]、開口56による開口率Ω=1[%]、基材部52の厚さL+d=10[mm]とした。図11に示すように、開口56の半径rが大きくなるに従って、垂直入射吸音率α0が高い値を示す周波数帯域が狭帯域化しており、垂直入射吸音率α0が最大値になる周波数も低くなっている。このため、開口56の半径rとしては1[mm]以下の範囲が適切である。
【0077】
図12には、開口56による開口率Ωを0.1〜5[%]まで変化させた場合の吸音特性の変化を計算した結果を示す。なお、開口56による開口率Ω以外の設計変数は、基材部52の流れ抵抗=500[g/s・cm3]、膜体部54の厚さt=0.1[mm]、開口56の半径r=0.1[mm]、基材部52の厚さL+d=10[mm]とした。図12に示すように、開口56による開口率Ωが大きくなるに従って、垂直入射吸音率α0が最大値になる周波数が高くなると共に、図12に示す周波数範囲における垂直入射吸音率α0が低下していき、吸音体として実用性も低下していっている。このため、開口56による開口率Ωとしては2.0[%]以下の範囲が適切である。
【0078】
図13には、基材部52の厚さL+dを5〜25[mm]の範囲で変化させた場合の吸音特性の変化を計算した結果を示す。なお、基材部52の厚さL+d以外の設計変数は、基材部52の流れ抵抗=500[g/s・cm3]、膜体部54の厚さt=0.1[mm]、開口56の半径r=0.1[mm]、開口56による開口率Ω=1[%]とした。図13に示すように、基材部52の厚さL+dが小さくなると垂直入射吸音率α0が高い値を示す周波数帯域が狭帯域化している(特に基材部52の厚さL+d=5[mm]の場合)。このため、基材部52の厚さL+dとしては8[mm]以上の範囲が適切である。
【符号の説明】
【0079】
10 吸音体
12 岩綿吸音板
14 塗膜
16 細孔
18 膜体
50 モデル
52 基材部
54 膜体部
56 開口
56A 基材部領域
56B 膜体部領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14