特許第6543119号(P6543119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543119
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ステントグラフト
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20190628BHJP
【FI】
   A61F2/07
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-138551(P2015-138551)
(22)【出願日】2015年7月10日
(65)【公開番号】特開2017-18330(P2017-18330A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514175852
【氏名又は名称】有限会社PTMC研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛治
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05290305(US,A)
【文献】 特開平03−236836(JP,A)
【文献】 特開2001−224610(JP,A)
【文献】 特表2001−511044(JP,A)
【文献】 国際公開第00/067674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状をなすグラフトと、該グラフトの両端部間に亘って管軸方向に間欠的に配置した複数の弾性リングとを具備し、前記弾性リングが鞍状に変形し、それに応じてグラフトが折り畳まれることによってデリバリーシース内に収容されるステントグラフトであって、
前記弾性リングよりも剛性が低い補助弾性線材をさらに具備し、該補助弾性線材が、前記グラフトのいずれか一方又は両方の端部にのみ配置されていることを特徴とするステントグラフト。
【請求項2】
前記補助弾性線材が、周方向に間欠的に配設された複数の第1線材要素を具備し、各第1線材要素が、端部に配置された複数の弾性リングに交差するようにして接続されていることを特徴とする請求項1記載のステントグラフト。
【請求項3】
前記補助弾性線材が、管軸方向に凹凸が繰り返されるようにしてグラフトを周回する無端環状をなすものであり、その凹部及び凸部を形成する複数の第2線材要素と、前記凹部及び凸部の間を連結する前記第1線材要素とからなるものであることを特徴とする請求項1記載のステントグラフト。
【請求項4】
前記補助弾性線材が、両端の弾性リングにおける湾曲部位の頂点近傍を避けて配置されていることを特徴とする請求項1記載のステントグラフト。
【請求項5】
前記第1線材要素及び第2線材要素がそれぞれ8本ずつ設けられていることを特徴とする請求項3記載のステントグラフト。
【請求項6】
前記補助弾性線材の隣り合う凸部と凸部との間に、前記弾性リングにおける湾曲部位の頂点が位置するように構成してあることを特徴とする請求項5記載のステントグラフト。
【請求項7】
凹部を形成する第2線材要素の周方向の長さが、凸部を形成する第2線材要素の周方向の長さよりも大きく設定されていることを特徴とする請求項6記載のステントグラフト。
【請求項8】
前記第1線材要素が管軸方向に略沿って延びるものであり、前記第2線材要素が第1線材要素から滑らかに湾曲して隣の第1線材要素に接続されていることを特徴とする請求項3記載のステントグラフト。
【請求項9】
血管の下流側に配置される開口径が、中間部の径よりも小さく設定してあることを特徴とする請求項1記載のステントグラフト。
【請求項10】
大動脈弓部に装着されて大動脈瘤を内側から覆うものであり、前記グラフトから分岐して、大動脈弓部から分岐する血管に挿入される分岐管をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のステントグラフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に埋め込んで用いられるステントグラフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動脈等の血管内に装着されるステントグラフトには、血管への留置後、血管の動きや血流・血圧の変化等によって、凹むとか折れ曲がるとかいった不測の変形が生じることがないように、ある程度の形状維持性や剛性(要するに、”固さ”)が必要とされる一方、血管の拡縮や動きがあっても、これに追随して血管内壁に密着できるという”柔らかさ”が要求される。
【0003】
例えば、形状維持性に重きをおいた”固い”ステントグラフトとして、特許文献1に示すように、弾性金属ステントがジグザグの三角波状をなすように管状グラフトを周回するタイプのもの(いわゆるZステントを用いたもの)や、特許文献2に示すように、ステントが菱形メッシュ構造をなすものが知られている。
【0004】
ところが、このような” 固い”ステントグラフトは、血管の動きや曲がり形状に対応しにくく、血管との密着性が悪いという欠点がある。その結果、ステントグラフトと血管内壁との隙間に血液が浸入したり、Zステントの場合であれば、ステントの折曲角部分が血管を傷つけたりすることすらある。
【0005】
一方、”柔らかさ”に重きをおいたステントグラフトとしては、特許文献3に示すようなものが知られている。このステントグラフトは、所定間隔で配置した複数の弾性リングからなるステントによって管状グラフトを支持させたものである。
【0006】
ところが、このような”柔らかい”ステントグラフトは、血管との密着性はよいものの、血管の動きや血流・血圧の変化等によって開口端部が不測に傾く場合がある。開口端部が傾くと、ステントグラフトと血管内壁との間に隙間ができ、そこに血液が浸入したり、浸入した血流に押されてステントグラフトが移動してしまったりすることがある。開口端部が傾く際には、開口端からいくつかのリングにおいて、それらの一側面がわの間隔が、対向側面がわの間隔に比べて小さくなる。
【0007】
ステントグラフトの交換や新たな治療は、以上のような不具合が、留置施術後、生じることに一因がある。
【0008】
また、これらを複合させたハイブリッド的なものが特許文献4や特許文献5にアイデアとして開示されている。これらは、端部にのみ前記Zステントを用い、中間部に螺旋状のステントを用いたものである。
【0009】
しかしながら、これら特許文献4、5に記載されたハイブリッド的なステントグラフトは、該ステントグラフトを患部に搬送するためのできるかどうかが不明であり、実用上、大きな問題があると考えられる。その理由は以下のとおりである。
デリバリーシースに収容すべく、このステントグラフトを径方向に収縮させる場合、Zステントは、かなり剛性が高いので、主として山部分のみがさらに折れ曲がって、ジグザグの山と山とが近づくように変形する。その結果、このZステントで補強された端部領域においてグラフトは、縦に折り目が入るように折り畳まれ、軸方向に変形することはZステントに阻害されてほとんどできない。
一方、螺旋状ステントは、径方向に収縮させる際に、例えば鞍状に変形するので、軸方向にも必ず変形する。したがって、螺旋状ステントに支持された中間領域において、グラフトは、螺旋状ステントの変形に連れて軸方向にも変形することとなる。
【0010】
そうすると、特許文献4、5に記載されたような、ハイブリッド的なステントグラフトを、径方向に収縮させるべく折り畳む場合、以下のような齟齬が発生する。
すなわち、中間部の螺旋状ステントは、鞍状に変形するので、それに引っ張られてグラフトも軸方向に変形しようとするが、両端部のZステントが、グラフトのこの軸方向の変形を阻害しようとする。したがって、この種のステントグラフトは、極めて折り畳みにくいであろうし、仮に折り畳めたとしても、折り畳んだ収縮径が非常に大きくなり、デリバリーシースに収容できない場合が生じると予想される。
【0011】
その証左に、特許文献4、5にはデリバリーシースにステントグラフトを収容した場合の詳細図は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2007/022495
【特許文献2】国際公開WO2013/129445
【特許文献3】国際公開WO96/36387
【特許文献4】特開2011−177520号公報
【特許文献5】特表2011−502572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであって、柔らかさを有しながら、それによる欠点を解消し、従来のものに比べ、飛躍的に長い期間、体内に留置されて齟齬なく機能するステントグラフトを提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明に係るステントグラフトは、管状をなすグラフトと、該グラフトの両端部間に亘って管軸方向に間欠的に配置した複数の弾性リングとを具備し、前記弾性リングが鞍状に変形し、それに応じてグラフトが折り畳まれることによってデリバリーシース内に収容されるステントグラフトであって、前記弾性リングよりも剛性が低い補助弾性線材をさらに具備し、該補助弾性線材が、端部に配置された複数の弾性リングに直接的又は前記グラフトを介して接続されていることを特徴とするものである。
【0015】
このようなものであれば、仮に血流などによる軸方向の力が開口縁に部分的に加わって開口を傾けようとしても、前記補助弾性線材が、開口端部に配置された弾性リング間のピッチを所定の間隔に保つので、開口が傾くといった不測の事態を防止できる。
しかも、この補助弾性線材は、弾性リングよりも剛性が低く、側面からの力を受けると容易に変形するので、血管の曲がりに応じて柔軟に曲がることもできる。
したがって、弾性リングによる血管内壁への良好な密着性や形状柔軟性といったこの種の”柔らかい”ステントグラフトの特徴を損なうことなく、血液の漏洩やステントグラフトの不測の移動を防止できる。そしてその結果、体内に留置されて後、長期間に亘って齟齬なく機能することができるようになる。
【0016】
さらに、この補助弾性線材の剛性が弾性リングよりも小さく、弾性リングが鞍状に湾曲するときのグラフトの変形を大きく阻害することがないので、小さく折り畳んでデリバリーシース内に収容することも無理なくできる。
【0017】
開口の傾きをより確実に低減させるためには、前記補助弾性線材が、周方向に間欠的に配設された複数の第1線材要素を具備し、各第1線材要素が、端部に配置された複数の弾性リングに交差するようにして接続されていることが好ましい。
【0018】
前記補助弾性線材は、不連続な複数の第1線材要素のみからなるものでもよいが、その場合、第1線材要素の先端によって血管に傷が生じる恐れがある。また、開口の傾きを防止するために各第1線材要素の剛性をかなり大きくしなければならず、折り畳みに齟齬が生じる恐れもある。
【0019】
これを一挙に解消するには、前記補助弾性線材が、管軸方向に凹凸が繰り返されるようにしてグラフトを周回する無端環状をなし、その凹部及び凸部を形成する複数の第2線材要素と、前記凹部及び凸部の間を連結する前記第1線材要素とからなるものであることが望ましい。
【0020】
なぜならば、第1線材要素と第2線材要素とが連続することによって、補助弾性線材自身が立体構造となり、構造的な剛性を有するようになるので、この補助弾性線材によって支持された開口端部の形状維持性や形状回復機能が高くなり、開口の傾き防止機能が増すからである。また、補助弾性線材が無端なので、血管に傷をつけるといったことも防止できる。加えて、補助弾性線材の立体的構造によって形状維持性が向上するので、補助弾性線材自身の剛性を最低限にすることができ、その分、折り畳みが容易になって折り畳み径も小さくできるという効果をも奏し得る。
【0021】
弾性リングを折り畳むときに最も変形する部位は、湾曲部位の頂点近傍であり、特に最も端の弾性リングにおいて、その湾曲部位の変形抵抗となるものが存在すると、弾性リングひいてはステントグラフトの折り畳みや拡開に齟齬が生じ得る。これを回避するには、前記補助弾性線材が、この湾曲部位を避けて配置されていることが望ましい。
好適な具体的態様としては、前記第1線材要素及び第2線材要素がそれぞれ8本ずつ設けられているものを挙げることができる。
【0022】
弾性リングにおける湾曲部位の頂点近傍を避ける具体的な配置としては、前記補助弾性線材の隣り合う凸部と凸部との間に、前記弾性リングにおける湾曲部位の頂点が位置するように構成したものを挙げることができる。
【0023】
弾性リングにおける湾曲部位の頂点近傍に補助弾性線材が配置されることを確実に避けるには、弾性リング避ける凹部を形成する第2線材要素の周方向の長さが、凸部を形成する第2線材要素の周方向の長さよりも大きく設定されているものが好ましい。
【0024】
補助弾性線材の立体的な構造強度を向上させるとともに、尖った角部分が形成されないようにして血管に不測の損傷を与えることを防止するには、前記第1線材要素が管軸方向に略沿って延びるものであり、前記第2線材要素が第1線材要素から滑らかに湾曲して隣の第1線材要素に接続されているものが好適である。
【0025】
湾曲や管軸方向に沿った屈伸を容易ならしめ、血管への密着性を向上させたり、該ステントグラフトの設置後における血管内での不測の移動を防止したりするには、略周回する複数の折り目が前記グラフトに設けてあり、前記折り目のピッチが、前記弾性リングのピッチよりも小さく設定してあるものが好ましい。
【0026】
ステントグラフトの設置後、その後端部(血管下流側)に対応する血管に新たに損傷が生じる場合がある。本発明者の鋭意検討の結果、ステントグラフトにおける血管の下流側に配置される外径を、中間部の径よりも小さく設定することによって、前記損傷を大幅に低減できる。この効果は、解離性動脈瘤の治療において特に顕著となる。
【0027】
湾曲や管軸方向に沿った屈伸を容易ならしめ、血管への密着性を向上させたり、該ステントグラフトの設置後における血管内での不測の移動を防止したりするには、前記グラフトにおいて、略周回する折り目が管軸方向に所定ピッチで複数設けてあり、前記折り目のピッチが、前記弾性リングのピッチよりも小さく設定してあるものが望ましい。
大動脈弓部の瘤や解離に対しては、従来、カテーテルによるステントグラフトの留置が難しく、開胸手術による人工血管の装着が一般的であったが、大動脈弓部に装着されて血管壁を内側から覆う主管と、前記主管の上流側開口端部から分岐して、大動脈弓部から分岐するいずれか1以上の動脈(左鎖骨下動脈、左総頚動脈、腕頭動脈)に挿入される分岐管を具備したものであれば、開胸することなく、カテーテルによるステントグラフトの留置が可能になるという画期的な効果が見込まれる。
本願発明において、ステントは、前述した複数の弾性リングのみならず、弾性螺旋リングによって構成されるものでもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、補助弾性線材が、開口端部に配置された弾性リング間のピッチを所定の間隔に保つので、開口が傾くといった不測の事態を防止できる。
しかも、この補助弾性線材は、弾性リングよりも剛性が低く、径方向の力を受けると容易に変形するので、血管の曲がりに応じて柔軟に曲がることもできる。
したがって、弾性リングによる血管内壁への良好な密着性や形状柔軟性といったこの種の”柔らかい”ステントグラフトの特徴を損なうことなく、血液の漏洩やステントグラフトの不測の移動を防止できることとなり、長期間(10年以上)に亘る使用が可能となる。
【0029】
また、補助弾性線材は、弾性リングよりも剛性が低く、弾性リングの湾曲や拡開に係る変形を阻害しないので、デリバリーシース内に収容すべく折り畳むことが無理なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態におけるステントグラフトの拡開状態を示す全体図。
図2】同実施形態におけるステントグラフトの部分破断させた斜視図。
図3】同実施形態におけるステントグラフトの折畳状態に至る途中図。
図4】同実施形態におけるステントグラフトの折畳状態を示す斜視図。
図5】同実施形態における補助弾性線材の形状を説明するために、ステントグラフトを平面に展開した展開図。
図6】同実施形態におけるステントグラフトを血管の病変部位に搬送・設置する方法を説明するための説明図。
図7】同実施形態におけるステントグラフトを血管の病変部位に搬送・設置する方法を説明するための説明図。
図8】同実施形態におけるステントグラフトを血管の病変部位に搬送・設置する方法を説明するための説明図。
図9】同実施形態におけるステントグラフトを血管の病変部位に搬送・設置する方法を説明するための説明図。
図10】同実施形態におけるステントグラフトを搬送チューブに取り付ける方縫を説明するための説明図。
図11】同実施形態におけるステントグラフトを搬送チューブに取り付ける方縫を説明するための説明図。
図12】同実施形態におけるステントグラフトを搬送チューブに取り付ける方縫を説明するための説明図。
図13】本発明の第2実施形態におけるステントグラフトを大動脈弓部に留置した状態を示す全体図。
図14】本発明の他の実施形態における補助弾性線材の形状を説明するために、ステントグラフトを平面に展開した展開図。
図15】本発明のさらに他の実施形態における補助弾性線材の形状を説明するために、ステントグラフトを平面に展開した展開図。
図16】本発明のさらに他の実施形態における補助弾性線材の形状を説明するために、ステントグラフトを平面に展開した展開図。
図17】本発明のさらに他の実施形態におけるステントグラフトを大動脈弓部に留置した状態を示す全体図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0032】
<第1実施形態>
本実施形態に係るステントグラフト100は、図1図2に示すように、両端が開放された管状をなすグラフト1(人工血管)と、このグラフト1の形状を維持すべく該グラフト1に取り付けたステント2とを具備したものであり、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤等の病変がある血管Bにカテーテル200(図5図8に示す。)を通じて搬送され、解放されることによって、自身の拡開力と血圧より広がって血管B内壁に張り付き、該血管B部位を内側からを覆って人工的な血管Bとして機能する。
【0033】
前記グラフト1は、例えば、耐久性がよく、組織反応の少ない樹脂シートを管状に形成したものであり、図2に部分的に破断させて示すように、周方向に沿った多数の折り目11を予め設けて蛇腹状にすることにより、湾曲や管軸方向に沿った屈伸を容易ならしめてある。なお、前記シートの素材としては、繊維の編織物、不織布、多孔質シートなどを挙げることができる。また、このグラフト1を構成するシートの表面を、ヘパリン、コラーゲン、アセチルサリチル酸、ゼラチン等の抗血栓性材料で被覆処理しても構わない。
【0034】
ステント2は、複数の弾性リング21からなるものであり、これら弾性リング21が前記グラフト1の一方の開口端から他方の開口端に亘って、所定間隔(ここでは略一定間隔であるが、一定間隔でなくともよい。)で配設してある。
【0035】
前記弾性リング21は、例えば、所定の弾性を有する金属製の芯材の周囲を樹脂膜で覆った円環状のものである。該芯材は、極細径の金属線(図示しない)を複数重(多重)に巻き回して形成したものである。その素材としては、ステンレス、タンタル、チタン、白金、金、タングステンなどの金属やその合金を挙げることができる。このように、芯材を複数重巻きの細径金属線で構成することによって、単一線で形成した一重巻きのものと比べ、耐久性が向上し、また、仮に破損しても、部分破断が生じるだけで、即座にその機能が失われないという効果を得られる。なお、この弾性リング21を、前記グラフト1同様、抗血栓性材料で被覆処理しても構わない。
【0036】
かかる弾性リング21は、グラフト1に対し、若干移動可能に取り付けることが望ましい。その理由は、弾性リング21がグラフト1に対し少しだけ自由に動けるように取り付けてある方が、折り畳みや拡開がスムーズになるからである。逆に、弾性リング21がグラフト1に対しわずかな移動すら許さないように連続的に固着されていると、折り畳みにくくなるとか、小さく折り畳む(特に径方向に小さく折り畳む)ことが難しくなるとか、カテーテル200から出したときに血管B内で拡開しなくなるとかいった不測の事態が生じ得る。
【0037】
そのために、この実施形態では、例えば縫着糸Pによって、弾性リング21の複数箇所(ここでは1つの弾性リング12に対して4箇所)のみを間欠的にグラフト1に縫着してある。縫着箇所の詳細については後述する。
【0038】
前記弾性リング21は、グラフト1の内周面に取り付けてある。もちろん、弾性リング21をグラフト1の外周面に取り付けてもよいが、そうすると、グラフト1が弾性リング21から部分的に離れて内側に凹むのを防止するために、弾性リング21の縫着箇所を多数設けなければならなくなる。その結果、弾性リング21のグラフト1に対する移動自由性が損なわれがちになるうえ、製造時間も大幅に増える。さらに、弾性リング21が血管Bに直接当たることになるので、血管Bを傷つけやすくなる可能性もでてくる。
【0039】
そこで、本実施形態では、前述したように、弾性リング21をグラフト1内周面に取り付け、縫着箇所及び製造時間を最小限に留めるとともに、血管Bの破損防止をも図っている。
【0040】
ただし、上流端(以下、前端ともいう。)及び下流端(以下、後端ともいう。)に配置された弾性リング21については、他の弾性リング21と同様に、グラフト1に高々数箇所で間欠的に縫着するだけでは、縫着箇所以外のところからグラフト1がめくれたり、その結果、血液が漏洩したりする恐れが生じる。
【0041】
そこで、この実施形態では、図1図2に示すように、グラフト1と同等のシート素材で作成した環状の収容管3に弾性リング21を周方向にスライド可能に収容し、その収容管3をグラフト1の端部に多数箇所において縫い付けるなどして連続的に接合している。このことによって、弾性リング21のグラフト1に対する若干の移動を許容しつつ、弾性リング21とグラフト1との周方向の連続的な取り付けを実現している。
【0042】
このように構成されたステントグラフト100は、デリバリーシース(カテーテル200)内に収容するために、径を縮小させた折畳状態にすることができるようにしてある。
【0043】
この折畳状態では、前記弾性リング21が全て同じ向きに鞍状に湾曲し、それに応じてグラフト1も変形する。ここでいう「鞍状」に湾曲するとは、図3図4に示すように、弾性リング21が2つ折となる向きに湾曲するとともに、さらにそれが2つ折になる向きに湾曲して、山谷が交互に4つずつ現われるように変形することをいう。なお、以下では、弾性リング21において、鞍状に変形した場合に湾曲して山部及び谷部を形成する一定範囲を湾曲部位Wと称し、前記湾曲部位Wの間に位置して湾曲程度が小さい部位を中間部位Mと称する。
【0044】
図3図4からわかるように、拡開状態と折畳状態との間で弾性リングが変形する過程で、その湾曲部位W(特に前記山部の頂点と谷部の頂点)が最も変形する一方、中間部位は変形が小さい。
【0045】
しかして、この変形が大きい箇所でグラフト1を弾性リング21に接続すると、グラフト1が弾性リング21の大きな変形に追随して変形しなければならなくなるので、弾性リング21を変形させるための抵抗が大きくなる。その結果、ステントグラフト100が、折り畳みにくくなるとか、拡開しにくくなるとか、折り畳んでも径を十分小さくできないとか、グラフト1に無理な力が作用して破損するとかいった問題が生じ得る。
【0046】
そこで、この実施形態では、弾性リング21における最も変形の小さい箇所、すなわち、中間部位Mの中央(前記山部の頂点と谷部の頂点との中央)においてのみグラフト1を弾性リング21に縫着して、前記問題点の解決を図っている。ただし、前述したように、両端の弾性リング21はその限りではない。
次に、このステントグラフト100を病変部位に搬送する方法について,図6図9を参照して説明する。
【0047】
まず、ステントグラフト100を、その内部に挿通させた搬送チューブ300に取り付け、その状態で折り畳んでカテーテル200の先端部に収容する。前記搬送チューブ300は、中空樹脂製のものであり、封止されたその先端部がカテーテル200の先端から突出するように設定される。
【0048】
次に、このように搬送チューブ300及びステントグラフト100が収容されたカテーテル200を血管B内に挿入し、図6に示すように、該カテーテル200の先端部を病変部位にまで到達させる。
【0049】
次に、図7図8に示すように、カテーテル200のみを引き戻して、ステントグラフト100を血管B内で解放する。このことによって、ステントグラフト100は、折畳状態から、自身の拡開力(ステント2の弾性復帰力)と血圧によって径が拡がった拡開状態となり、血管病変部位の内壁に密着する。
【0050】
最後に、図9に示すように、拡開状態となったステントグラフト100を搬送チューブ300から取り外し、その後、搬送チューブ300及びカテーテル200を回収する。
なお、図8図9において弾性リング21は、完全には拡開しておらず、若干撓んでいるが、血管Bが血圧変動などによって拡開したときでも、その内壁にグラフト1を確実に密着させるためである。したがって弾性リング21の径は、血管Bの通常内径よりもやや大きく設定してある。
【0051】
ここで、前述したステントグラフト100を搬送チューブ300に着脱するための着脱構造について説明しておく。この着脱構造は、図10図12等に示すように、搬送チューブ300の内部を挿通する係止ワイヤ301と、前記搬送チューブ300に設けた窓302と、基端部が搬送チューブ300に固着された複数(ここでは4本。ただし、図10図11では、煩雑を避けるため、着脱紐303は2本しか表示していない。)の着脱紐303と、ステントグラフト100の開口縁部に設けられた複数(ここでは4つ)の引っ掛け孔304とを利用して構成されたものである。
【0052】
前記係止ワイヤ301は鋼線であり、手元で押引操作することにより、搬送チューブ300の中を進退できるようにしてある。窓302は、搬送チューブ300の一部を切り欠いて形成したものであり、この窓302から、内部の係止ワイヤ301が露出するようにしてある。
【0053】
着脱紐303は、少なくとも先端部に輪を形成したもの(ここでは全部が輪になっている。)であり、その基端部が、前記搬送チューブ300における窓302の近傍(ここでは窓302よりも手元側)に固定されている。
引っ掛け孔304は、ステントグラフト100の前端開口縁部に糸を環状にして取り付けることにより形成したものである。
次に、このステントグラフト100を搬送チューブ300に取り付ける工程を説明する。
【0054】
まず、図10に示すように、前記着脱紐303をその先端からステントグラフト100における開口縁部の4箇所に設けられた引っ掛け孔304にそれぞれ通す。
その一方で係止ワイヤ301を操作して、搬送チューブ300に設けた窓302にその先端が露出するようにしておく。
【0055】
次に、前記引っ掛け孔304を通した着脱紐303の先端輪を、図11に示すように、前記窓302に入れて係止ワイヤ301の先端部に掛ける。全ての着脱紐303を掛けた後、図12に示すように、係止ワイヤ301を繰り出してその先端が窓302を通過し、搬送チューブ300の奥(さらに先端)にまで至るようにする。このようにして、引っ掛け孔304を通った着脱紐303の先端輪が、搬送チューブ300の窓302から露出した係止ワイヤ301の途中に係止され、ステントグラフト100は、着脱紐303を介して搬送チューブ300に取着されることとなる。
【0056】
他方、ステントグラフト100を搬送チューブ300から取り外すには、係止ワイヤ301を、その先端が窓302よりも手元側に位置するように引っ張る。このことによって、着脱紐303の先端輪が、係止ワイヤ301から外れ、ステントグラフト100が搬送チューブ300から離脱可能な状態になる。
【0057】
前記引っ掛け孔304は、折畳状態における中間部位M(より具体的には、中間部位Mの真ん中)に設けてある。この箇所であれば、折畳状態でも拡開状態でも、軸からの距離が変わることがなく、4本の着脱紐303を常に均等な張り状態に保つことができる。2本の着脱紐303であれば、湾曲部位Wの頂点に引っ掛け孔304を配置してもよい。
【0058】
なお、搬送チューブ300及びカテーテル200を回収する前に、バルーン(図示しない)を搬送チューブ300に案内させてステントグラフト100内に搬送し、膨らませて、ステントグラフト100の血管B内壁への密着確実化を図っても構わない。
以上が、このステントグラフト100の具体的な構造及びその搬送・設置方法である。
【0059】
しかしてこの実施形態では、図1等に示すように、ステント2よりも細く、かつ剛性の小さい金属製の補助弾性線材5を、グラフト1の端部外周面(少なくとも前端部外周面)に、周回するように取り付けて(縫い付けて)ある。
その取り付け(縫い付け)ピッチは、ここでは、弾性リング間のピッチよりも小さくしてある。
【0060】
詳述する。
この補助弾性線材5は、図1図4に斜視図、図5に展開図を示すように、凹凸が繰り返されながらグラフト1を周回する無端環状をなすものであり、より具体的には、前記凹部(b)及び凸部(a)を形成する8本の第2線材要素52と、凹部(b)及び凸部(a)の間を連結する8本の第1線材要素51からなる。
【0061】
前記第1線材要素51は、ここでは、管軸方向に略沿って延伸するものであり、端部に位置する複数(2つ〜5つ)の弾性リング21に交差するように配置してある。そして、隣り合う第1線材要素51間の間隔が、一定ではなく、広い間隔と狭い間隔が交互に繰り返されるように構成してある。
【0062】
第2線材要素52は、間隔の狭い第1線材要素51間においては、その先端間、すなわちグラフト1における開口側の端間に、開口側に向かってやや膨らむように湾曲して架け渡されて前記凸部(a)を形成するものであり、間隔の広い第1線材要素51間においては、その基端間に、反開口側に向かってやや膨らむように湾曲して架け渡されて前記凹部(b)を形成するものである。
【0063】
そして、隣り合う第1線材要素51の間であってそれらの先端間に前記第2線材要素52が架け渡されていない部位、すなわち、間隔の広い第1線材要素51間が、ステント2における湾曲部位Wに位置するように、前記補助弾性線材5を配置している。
【0064】
さらにこの実施形態では、血管Bの下流側に配置される後端外径が、中間部の径よりも小さく設定してあり、ステントグラフト100の後端開口部外周と血管Bとの間に隙間が生じるようにしてある。
【0065】
上述した構成のステントグラフト100によれば、拡開状態において、補助弾性線材5が、立体構造となって形状維持機能を発揮し、開口部分における複数の弾性リング21をそれらの距離が変わらないように維持するので、開口部分が管軸に対して傾くことを抑制できる。
【0066】
より噛み砕いて説明する。
弾性リング21だけでは、径方向への拡開力は得られるものの弾性リング21自身が傾くことを抑制することが難しいから、ステントグラフトを設置するときや、血流、血管の動き等によって不測の力が作用すると、開口部分に配置されているいくつかの弾性リング21が、例えば管軸方向に対して垂直な所期の姿勢から傾く可能性がある。その結果、開口部分が傾いて血管Bとの間に隙間が生じ、血液の漏洩やステントグラフトの不測の移動が生じ得る。
【0067】
これに対し、このステントグラフト100によれば、前述したように、前記補助弾性線材5が、開口部分における複数の弾性リング21に亘って取り付けられ、弾性リング21間の距離が変化しないように支持するので、各弾性リング21の傾きが抑制され、開口が管軸方向に略垂直となるように維持される。
【0068】
また、該補助弾性線材5は、拡開状態において、管軸方向に凹凸が形成される無端環状の立体構造であるから、その構造に起因した形状維持性が高く、この形状維持性の高い補助弾性線材5に支持されたステントグラフトの開口端部も形状維持性が高くなるので、傾きにくくなるということもできる。
【0069】
一方、この補助弾性線材5は、前述したように、拡開状態における形状維持性を向上させて開口の傾きを防止できる一方で、折り畳みにくさをほとんど助長させないという効果も有する。なぜならば、前記立体構造によって形状維持性をある程度発揮できるので、補助弾性線材5自身の剛性は最低限でよく、例えば、この実施形態のように弾性リング21の1/2以下という非常に柔軟な素材を採用できるからである。
【0070】
折り畳み容易性についていえば、この実施形態では、補助弾性線材5の配置によってもその容易性が担保されている。
その理由を詳述する。
前述したように、弾性リング21は湾曲部位W(4箇所)が最も変形する。したがって、この湾曲部位Wの変形を阻害すると、このステントグラフト100の折畳/展開がスムーズに行われなくなる。
【0071】
しかして、この弾性リング21の変形を阻害するものは、両端の弾性リング21近傍におけるグラフト1、すなわち、グラフト1の端部であり、この部分のグラフト1の変形容易性が弾性リング21の変形容易性に大きく関連することとなる。
【0072】
具体的に説明すると、両端を除く弾性リング21は、4箇所で間欠的にグラフト1に縫着されているだけであり、しかもその縫着箇所は、折り畳みに伴う変形の小さい中間部位Mであるから、該弾性リング21は、グラフト1とは実質的に関係なく変形する。したがって、両端部を除くグラフト1は、弾性リング21の変形の際の大きな抵抗とはなり得ない。
【0073】
一方、両端の弾性リング21は、前述したように、グラフト1に全周に亘って取り付けられており、その変形にグラフト1が追随して変形する。したがって、前述したように、グラフト1の端部における変形容易性が弾性リング21の変形容易性に大きく関連するわけである。
【0074】
その中でも、折り畳みに伴う変形の大きい湾曲部位Wにおけるグラフト1端部の変形容易性は、弾性リング21の変形容易性に強い影響を与える。一方、グラフト1の端部であっても、中間部位Mにおけるグラフト端部は、弾性リング21がそもそもあまり変形しないから、その変形容易性にはほとんど寄与しない。
【0075】
しかしてこの実施形態では、グラフト1が弾性リング21に追随して変形しなくてはならない部分で、かつ、その変形が大きい部分、すなわち、グラフト1の端部における湾曲部位Wには、補助弾性線材5を配置しないようにしてあるので、該補助弾性線材5が、弾性リング21の変形をほとんど阻害しない。
【0076】
この実施形態において、補助弾性線材5のグラフト1の端部に配置されている部分は、前記第2線材要素52のうちの凸部(a)のみであり、これは、弾性リング21の湾曲部位Wを避けて、中間部位Mに相当する領域に配置されている。
【0077】
このように、本実施形態に係るステントグラフト100によれば、補助弾性線材5によって、拡開状態における端部の形状維持性を向上させているので、弾性リング21を用いたこの種のステントグラフト100の特徴である柔軟性及び血管B内壁への密着性を阻害することなく、その欠点である開口部分の不測の傾きを防止でき、体内に留置した後、長期間、齟齬なく機能させることが可能となる。
【0078】
しかも、拡開状態と折畳状態との間での変形容易性を担保すべく補助弾性線材5の形状、配置及び剛性が巧みに設定してあるので、細く折り畳めて、例えば施術の容易性を維持できるとともに、血管B内で円滑かつ確実に拡開させることができるようになる。
その他に、このステントグラフト100によれば、以下のような効果も得られる。
前記補助弾性線材5が無端環状をなしており、尖端がないので、血管Bの損傷が生じにくい。
【0079】
グラフト1が蛇腹状をなしており、柔軟性に富むので、血管Bの動き(特に伸び縮み)に追随し易く、血管Bの内壁に確実に密着できる。その結果、ステントグラフト100が当初設置部位から不測に移動するといったことを防止できる。
【0080】
ステントグラフト100の設置後、その後端部(血管Bの下流側)に対応する血管Bに新たに損傷が生じる場合がある。その頻度は、ステントグラフト100の先端部及び中間部に比べ高く、その確固たる原因は不明ではある。しかしながら、本発明者の鋭意検討の結果、ステントグラフト100の後端部の外径を、上述したように、対応する血管Bの内径よりも小さく設定することによって、前記損傷を大幅に低減させた。この効果は、解離性動脈瘤の治療において特に顕著となる。
【0081】
4本の着脱紐303によって、ステントグラフト100の前端開口縁をパラシュートのラインのように搬送チューブ300に取り付けているので、ステントグラフト100の前端開口が血管の軸に対して垂直になりやすく、ステントグラフト100をより確実に適切に設置することができる。
【0082】
<第2実施形態>
次に本願発明の第2実施形態を説明する。
【0083】
本実施形態に係るステントグラフト100は、(遠位)弓部大動脈瘤Aを内側から覆うように配設されるものである。
【0084】
具体的に説明する。
このステントグラフト100は、図13に示すように、大動脈弓部Bに装着されて大動脈瘤Aを内側から覆う主管101と、該主管101の上流側一端部から分岐して左鎖骨下動脈B1に挿入される分岐管102とを具備したものである。
【0085】
前記主管101の基本構造は、前記第1実施形態における単管のステントグラフトと同じである。すなわち、この主管101は、第1グラフト1Aと、この第1グラフト1Aに取り付けられた複数の弾性リング21Aと、前記第1グラフト1Aにおける上流側開口端部及び下流側開口端部のそれぞれに配設した補助弾性線材5を具備したものである。
【0086】
この主管101には、管軸方向に沿って延伸する樹脂弾性線9が分岐管102とは反対側の外側周面に取り付けてあり、この樹脂弾性線9の収縮力により、拡開状態においてこの主管101が大動脈弓部Bに沿って湾曲するように構成してある。
【0087】
かかる主管101は、その上流端が、左鎖骨下動脈B1と左総頸動脈B2との間に位置づけられるとともに、そこから大動脈弓部Bに沿って下流に延び、その下流端が、大動脈瘤Aよりも下流となるように配置される。
【0088】
前記分岐管102は、第2グラフト1Bとこの第2グラフト1Bに取り付けられた複数の第2弾性リング21Bとを具備したものである。なお、この分岐管102の先端部には、補助弾性線材は設けられていない。
そして、この分岐管102の基端が、前記主管101の上流側開口端部に配設された補助弾性線材5における間隔の広い第1線材要素51間、すなわち湾曲部位Wに取り付けられている。この分岐管102が取り付けられた湾曲部位Wは、折り畳み状態において先端側に突出するように曲がる部位ではなく、凹むように曲がる部位である。
その理由を説明する。段落0049で説明したように、主管101の開口端は、大動脈弓部Bに留置したときに、やや撓んだ状態となる。このとき、折り畳み状態のときの癖によって、湾曲部位Wがやや湾曲する。より具体的にいえば、4つの湾曲部位Wのうち、対向する一対は先端側に突出し、他の一対は凹むこととなる。この凹んだ一対の湾曲部位Wの一方に分岐管102が取り付けられるから、他方の凹んだ湾曲部位Wが、大動脈弓部Bの最も曲がりの強い小湾側内壁に位置することになる。これを逆、つまり、突出する湾曲部位Wが小湾側内壁に位置するような配置にすると、突出する湾曲部位Wが、小湾側内壁の曲がりに追随できず、小湾側内壁からめくれる可能性が生じる。この可能性を可及的に小さくするために、上述した湾曲部位Wに分岐管102を取り付けているわけである。
【0089】
しかして、この実施形態によれば、前記補助弾性線材5による効果が特に顕著となる。
その理由を説明する。
(遠位)弓部大動脈瘤Aの場合、その上流すぐから左鎖骨下動脈B1、左総頸動脈B2、右腕頭動脈B3が次々と分岐しているため、大動脈瘤Aを覆う主管101は、その上流側に長く延伸させることができない。しかも、大動脈弓部Bは強く曲がっている。そうすると、主管101のしかもその端部を血管が強く曲がっている部位Hに配置しなければならない。
【0090】
こういった曲がり部位Hに、従来の”柔らかい”ステントグラフトの端部を配置すると、開口部がより傾き易くなり、そこから血液が漏洩したり、その結果、ステントグラフトがずれたりする。一方、”固い”ステントグラフトでは、曲がり部位Hにフィットさせることがそもそも難しい。したがって従来は、この部位の大動脈瘤や大動脈解離に対しては、カテーテルによるステントグラフトの留置が極めて難しいという事情があった。
【0091】
これに対し、本実施形態のステントグラフト100は、”柔らかい”ので、曲がり部位Hに対応して血管にフィットするうえ、補助弾性線材5によって開口端部の傾きを確実に防止できる。
【0092】
しかも、この実施形態では、主管101から分岐した分岐管102が左鎖骨下動脈B1に入って、いわば位置決め部材的な役割を果たすので、ステントグラフト100を、事前に精査した患者の血管形状に対応した形状にしておくことによって、血管に、より確実にフィットさせることができる。
【0093】
こういった理由から、本実施形態にかかるステントグラフト100によれば、弓部大動脈瘤Aに対して、開胸することなく、カテーテルによるステントグラフト100の留置が可能になるという画期的な効果が見込まれる。
【0094】
なお、本発明は、前記各実施形態に限られるものではない。
例えば、前記補助弾性線材を後端開口部分に取り付けてもよい。第2実施形態であれば分岐管の開口端部にもこの補助弾性線材を取り付けてかまわない。
【0095】
前記補助弾性線材5の形状であるが、図14に示すように、第1線材要素51は、前記実施形態のように、管軸と完全に平行でなくともよく、やや斜めでもよい。また、図15に示すように、第1線材要素51は、直線でなくともよく、やや湾曲していてかまわない。
加えて、隣り合う第1線材要素の幅の狭い部分が、湾曲部位に対応するように、構成してもよいし、第1線材要素を周方向に等間隔に設けても良い。
補助弾性線材は、前記実施形態では、グラフトに縫い付けていたが、グラフトには取り付けることなく、弾性リングに直接取り付けても良い。
【0096】
さらに、補助弾性線材5は、無端環状をなしていなくてもよい。例えば図16に示すように、補助弾性線材5が、管軸方向と略平行に延びる直線状またはやや湾曲する複数の線材要素53からなる不連続なものでもかまわない。この場合、弾性線材要素53は、湾曲部位Wを避けて配置することが好ましく、その場合は、線材要素53は4本でよい。
前記実施形態では、補助弾性線材5をグラフト1の外周面に取り付けたが、グラフトの内周面に取り付けてもよい。
ステントを螺旋状のものにしてもよい。
【0097】
ステントグラフトの後端開口縁にも前端開口縁と同様の着脱構造を設けて良い。その場合、牽引紐(第2の牽引紐)を係止するための第2の搬送チューブをカテーテル200に通し、その第2の搬送チューブに窓を設けて内部を挿通する第2係止ワイヤに前記第2の牽引紐を引っ掛ければよい。
前記第2実施形態では、左鎖骨下動脈に挿入される1分岐管付きのステントグラフトを用いたが、それ以外に、例えば瘤が左総頸動脈や右腕頭動脈におよぶ場合は、それに対応して2分岐、3分岐のステントグラフトにしても構わない。図17に2分岐のステントグラフト100を示す。
また、前記第2実施形態では、分岐管を主管の上流側開口端部から延出させていたが、瘤が上行大動脈にある場合、分岐管を主管の下流側開口端部から延出させたものが好ましい。
以上のような場合でも、主管の上流端部あるいは下流端部は、曲がりの強い大動脈弓部に置かれるので、端部に設けた補助弾性線材が十分に機能して、同様の作用効果が発揮される。
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0098】
100・・・ステントグラフト
1・・・グラフト
2・・・ステント
21・・・弾性リング
5・・・補助弾性線材
51・・・第1線材要素
52・・・第2線材要素
200・・・カテーテル(デリバリーシース)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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