特許第6543120号(P6543120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543120
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20190628BHJP
   C10M 169/00 20060101ALI20190628BHJP
   C10M 107/38 20060101ALN20190628BHJP
   C10M 129/50 20060101ALN20190628BHJP
   C10M 119/22 20060101ALN20190628BHJP
   C10M 113/02 20060101ALN20190628BHJP
   C10M 113/12 20060101ALN20190628BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20190628BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20190628BHJP
【FI】
   C10M169/04
   C10M169/00
   !C10M107/38
   !C10M129/50
   !C10M119/22
   !C10M113/02
   !C10M113/12
   !C10M115/08
   C10N10:02
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:08
   C10N30:12
   C10N40:02
   C10N50:10
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-138888(P2015-138888)
(22)【出願日】2015年7月10日
(65)【公開番号】特開2017-19933(P2017-19933A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100080698
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 治親
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(72)【発明者】
【氏名】天利 裕行
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−268370(JP,A)
【文献】 特開2008−266656(JP,A)
【文献】 特開2003−262228(JP,A)
【文献】 特開平02−158692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油がパーフルオロポリエーテルであって、安息香酸ナトリウムが、グリース組成物の全質量に対して、0.1〜40.0質量%添加されていることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
増ちょう剤として、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、シリカ、メラミンシアヌレートから選ばれる少なくとも一種をさらに含有していることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
パーフルオロポリエーテルの40℃での動粘度が10〜1000mm/秒である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
転がり軸受用である請求項1〜のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、防錆性、安全性に優れ、高温環境下で使用するのに好適な、フッ素グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なフッ素グリースは、パーフルオロポリエーテルを基油に用い、増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂が使用され、必要に応じて防錆剤、酸化防止剤などの添加剤が処方されている。
【0003】
フッ素グリースは、優れた耐熱性を有していることから、自動車電装・補機、事務機器、コルゲートマシンなどの耐熱軸受用グリースとして主に使用されている。また、近年では食品機械用のグリースとしても使用されている。このような用途に使用されるフッ素グリースには、高温環境下における耐久性だけでなく、優れた防錆性、環境適合性、人体への安全性、コストパフォーマンスも要求される。
【0004】
フッ素グリースに添加する防錆剤としては、亜硝酸ナトリウムが幅広く使用されてきたが、亜硝酸ナトリウムは第二級アミンと反応し、環境負荷物質であるニトロソアミンを生成することが知られている。そのため、近年では亜硝酸ナトリウムの使用が制限され、亜硝酸ナトリウムに代わる防錆剤が求められている。また、亜硝酸ナトリウムに代わる防錆剤としては、これまでに各種の化合物が検討されている。
【0005】
例えば、分子末端に官能基を有するパーフルオロポリエーテル若しくはフルオロポリエーテル誘導体を使用することにより、高い腐食耐性を付与させたフッ素グリースが得られることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、芳香族スルホン酸または飽和脂肪族ジカルボン酸のCa塩またはNa塩を添加することで、防錆性に優れ、熱履歴を受けた後の防錆性も良好な潤滑剤組成物も提案されている(特許文献2)。
【0007】
さらに、以下に示す一般式(1)の脂肪族二塩基酸塩を0.1質量%以上、1.0質量%未満で添加することで、優れた防錆性を有し、蒸発減量が少ないフッ素グリース組成物も提案されている(特許文献3)。

(CH(COO)・・・(1)
(式中、nは1〜19の整数、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、mはMがアルカリ金属のときは2、アルカリ土類金属のときは1を示す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−272696号公報
【特許文献2】特開2006−241386号公報
【特許文献3】特開2008−13652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の潤滑グリースは、耐熱性が不十分であり、厳しい条件下では、防錆性も不足する。また、全ての原料がフッ素系の化合物であるため、コストは高価である。
【0010】
また、特許文献2に示す実施例において芳香族スルホン酸塩として使用されているジノニルナフタレンスルホン酸Caと石油スルホン酸Naに関しては、高温環境下における蒸発減量が多く、耐熱性が不十分である。また、これらの防錆剤はパーフルオロポリエーテルとは相溶性のない液体の防錆剤であるため、多量に添加すると長期間保管した場合、防錆剤が分離する懸念もある。さらに、飽和脂肪族ジカルボン酸塩として使用されているセバシン酸ナトリウムに関しては、食品機械用のグリースに使用する場合は添加量に制約が生じる。
【0011】
また、特許文献3に示すグリース組成物は、防錆剤の添加量が少ないため、評価条件によっては、十分な防錆性を発揮しないことがある。
【0012】
そこで、本発明者は、耐熱性、防錆性、安全性を両立させるために、鋭意検討した結果、パーフルオロポリエーテルおよび芳香族モノカルボン酸金属塩が耐熱性、防錆性、安全性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、耐熱性、防錆性に優れ、環境負荷物質の発生しない、安全性の高いフッ素グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、基油がパーフルオロポリエーテルであって、安息香酸ナトリウムが、グリース組成物の全質量に対して、0.1〜40.0質量%添加されていることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項1に記載のグリース組成物において、更に、増ちょう剤として、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、シリカ、メラミンシアヌレートから選ばれる少なくとも一種をさらに含有していることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項1又は2に記載のグリース組成物において、パーフルオロポリエーテルの40℃での動粘度が10〜1000mm/秒であることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するために請求項に記載の本発明は、請求項1〜のいずれか1項に記載のグリース組成物において、グリース組成物が転がり軸受用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るグリース組成物によれば、防錆剤として亜硝酸ナトリウムやセバシン酸ナトリウムを使用した従来のグリース組成物よりも安全性が高く、しかも、耐熱性及び防錆性のいずれをも犠牲にすることなく両立することができ、さらに、塩水が混入する環境下でも錆の発生を抑制すると共に高温環境下でも優れた耐久性を示すという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るグリース組成物について以下好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
[基油]
本発明に係るグリース組成物に使用する基油は、潤滑油として使用されるパーフルオロポリエーテルであれば、全て使用可能である。そして、好ましくは40℃における動粘度が10〜1000mm/秒であり、更に好ましくは40℃における動粘度が100〜600mm/秒である。40℃における動粘度が10mm/秒未満のものは、分子量が短いため、高温環境下における蒸発量が多くなり、高温での使用に適さない。また、40℃における動粘度が1000mm/秒を超えるものは、流動点が高くなり低温環境下での使用に適さない。もちろん、そのような使用環境を考慮した上で40℃における動粘度が10〜1000mm/秒でないものを用いることは可能である。また、グリース全体量に対する基油の割合は、50〜90質量%であることが好ましい。
【0020】
[芳香族モノカルボン酸金属塩]
本発明に係るグリース組成物に使用する芳香族モノカルボン酸金属塩は、芳香族モノカルボン酸が、例えば、安息香酸、ナフトエ酸、フェニル酢酸、トルイル酸、およびこれらの酸の誘導体であることが好ましい。また、金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の金属塩が挙げられる。具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウムなどが好ましい。また、グリース全体量に対する芳香族モノカルボン酸金属塩の割合は、通常は0.1〜40.0質量%であることが好ましい。更に好ましくは、2.0〜25.0質量%である。また、芳香族モノカルボン酸金属塩は防錆剤としての効果があるが、増ちょう剤として用いることもできる。
【0021】
[増ちょう剤]
本発明に係るグリース組成物に使用する増ちょう剤は、パーフルオロポリエーテルに分散し、半固体のグリース状にできるものであれば、全て使用できる。例えば、金属石けん、ウレア化合物、ナトリウムテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、メラミンシアヌレート、シリカなどが挙げられる。耐熱性を考慮した場合には、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、シリカ、メラミンシアヌレートが好ましい。また、グリース全体量に対する増ちょう剤の割合は、50質量%未満であることが好ましい。50質量%を超えると硬くなりすぎてしまい、グリースとしては使用しにくい。尚、芳香族モノカルボン酸金属塩だけでも、パーフルオロポリエーテルをグリース状にすることができるため、増ちょう剤を使用しなくても良い場合もある。
【実施例】
【0022】
次に、本発明に係るグリース組成物について、具体的な実施例を示しながら説明する。実施例1及び比較例1〜8では、下記の各種防錆剤を用いて耐熱性を評価した。
【0023】
[防錆剤]
防錆剤として以下のものを使用した。
安息香酸ナトリウム:(株)伏見製薬所製 安息香酸ナトリウム
亜硝酸ナトリウム:純正化学(株) 試薬特級 亜硝酸ナトリウム
セバシン酸ナトリウム:BASF社製 IRGACOR DSS G
芳香族スルホン酸カルシウム:KING社製 NA−SUL 729
PFPE誘導体A:Solvay社製 FOMBLIN DA305
PFPE誘導体B:Solvay社製 FOMBLIN DA306 VAC
PFPE誘導体C:Solvay社製 FOMBLIN DA308
PFPE誘導体D:Dupont社製 クライトックス157FS−L
PFPE誘導体E:Dupont社製 クライトックス157FS−H
【0024】
上記の各種防錆剤について、蒸発損失試験を実施した。
(1)蒸発損失試験
[試験条件]
10mLのビーカーに各種原料を0.30±0.01gを計量し、200℃の恒温槽で3時間の静置加熱し、取り出し後に重量減を測定した。試験結果は蒸発減量で、以下の5段階の評価とした。
評価A:蒸発減量2%未満
評価B:蒸発減量2%以上〜5%未満
評価C:蒸発減量5%以上〜10%未満
評価D:蒸発減量10%以上〜20%未満
評価E:蒸発減量20%以上
【0025】
また、各種原料の安全性は、米国の食品添加物リスト(EAFUS)への収載状況とNSFが規定しているHX−1への収載状況で判断した。
【0026】
(2)米国食品添加物リスト(EAFUS)
このリストに収載されている原料は、米国の食品添加物として認められた安全性の高い原料であり、食品機械用グリースにも適用できると判断した。この場合、使用する各種原料は食品添加物としての基準を満たすものを用いる。
【0027】
(3)NSF HX−1
上記の米国食品添加物リスト(EAFUS)に収載のない防錆剤については、NSFが規定しているHX−1への収載状況を確認した。HX−1に収載されている原料は、偶発的に食品に触れる可能性がある箇所で使用できる潤滑剤に使用できる原料・成分であり、収載のないものは、食品機械用グリースには使用できない、安全性の低い原料であると判断した。
【0028】
以上の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、実施例1の安息香酸ナトリウムは蒸発減量が1.4%と少なく、評価Aであり、耐熱性に優れていることが分かる。また、米国食品添加物リストにも収載されており、安全性の高い防錆剤である。比較例1の亜硝酸ナトリウムに関しては、蒸発減量が0.8と少なく、評価Aであり、米国食品添加物リストにも収載されてはいるが、第二級アミンと反応し、環境負荷物質であるニトロソアミンを生成することから、近年では使用が制限されている。比較例2のセバシン酸ナトリウムに関しては、蒸発減量が2.3で評価Bであり、耐熱性と安全性ともに、わずかに劣る。その他のものは、蒸発減量が多く、耐熱性が大幅に劣る。
【0031】
次に、実施例2〜5、比較例9〜17では、下記の各種原料を用いてグリースを調製し、防錆性の評価を行った。
【0032】
[基油]
パーフルオロポリエーテル(PFPE)
DuPont社製 クライトックスGPL105
動粘度(40℃)160mm/秒
【0033】
[増ちょう剤]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
DuPont社製 ドライフィルムGT
平均粒径4〜12μm 一次粒径0.2μm以下
【0034】
[防錆剤]
安息香酸ナトリウム:(株)伏見製薬所製 安息香酸ナトリウム
亜硝酸ナトリウム:純正化学(株) 試薬特級 亜硝酸ナトリウム
セバシン酸ナトリウム:BASF社製 IRGACOR DSS G
芳香族スルホン酸カルシウム:KING社製 NA−SUL 729
PFPE誘導体A:Solvay社製 FOMBLIN DA305
PFPE誘導体B:Solvay社製 FOMBLIN DA306 VAC
PFPE誘導体C:Solvay社製 FOMBLIN DA308
PFPE誘導体D:Dupont社製 クライトックス157FS−L
PFPE誘導体E:Dupont社製 クライトックス157FS−H
【0035】
グリースの調製方法は、基油、増ちょう剤、防錆剤の各種原料を十分に混合した後に、3本ロールミルを通して、グリース組成物を得た。
【0036】
(4)軸受防錆
グリースを塗布してなじみ運転させた円錐ころ軸受を、1質量%の塩水に10秒間浸漬させ、高湿環境下で静置させた。試験後に軸受を取り出し、外輪転走面を目視で観察した。評価は外輪転走面を32区画に分割し、そのうち何区画に錆が発生しているかで、錆発生率を算出した。
軸受 : 4T−30204
グリース封入量: 4.0g
なじみ運転条件: Fa=10kgf 1750rpm 60秒
試験温度 : 40℃
試験湿度 : 100%RH
試験時間 : 48h
【0037】
各グリースの配合と軸受防錆の試験結果を表2〜4に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
防錆剤として、安息香酸ナトリウムを用いた実施例2〜5は、軸受防錆における発錆率が0〜3%と低く、防錆性に優れていることが分かる。また、防錆剤が添加されていない比較例9は発錆率が100%であり、PFPE誘導体を添加した比較例13〜17では、比較例15が、発錆率が56%、それ以外は75〜100%と防錆性が大幅に劣っていた。更に、比較例10〜12に関しては発錆率が16〜31%であり、実施例2〜5に比べて防錆性が劣る結果となった。
【0042】
以上のように、本発明に係るグリース組成物によれば、防錆剤として亜硝酸ナトリウムやセバシン酸ナトリウムを使用した従来のグリース組成物よりも安全性が高く、しかも、耐熱性及び防錆性のいずれも両立することができ、さらに、錆の発生を抑制し、高温環境下でも優れた耐久性を示すことがわかる。