特許第6543134号(P6543134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543134
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】セシウムの分離方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20190628BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20190628BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   B09C1/02ZAB
   B09C1/08
   G21F9/28 Z
   G21F9/28 521A
   G21F9/28 525A
   G21F9/28 525B
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-162083(P2015-162083)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-39085(P2017-39085A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年8月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年2月19日 平成26年度国立大学法人福島大学共生システム理工学類産業システム工学専攻物質・エネルギー系 卒業研究発表会にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年3月5日 ウェブサイトのアドレス(http://www3.scej.org/meeting/80a/prog/room_XD3.html#XD303)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年3月21日 化学工学会第80年会 ポスターセッションD―環境,エネルギー,熱工学,安全―(講演番号XD303)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 理夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 諒
(72)【発明者】
【氏名】安齋 陽治
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−132249(JP,A)
【文献】 特開昭52−133500(JP,A)
【文献】 特開2015−118010(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027652(WO,A1)
【文献】 特開2014−032110(JP,A)
【文献】 特開2013−134055(JP,A)
【文献】 特開2013−050313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C1/00−1/10、
G21F9/00−9/36、
A62D1/00−9/00、
C02F11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウム含有土壌と、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含み、加熱して少なくとも一部が液状となった溶融剤とを接触させ、
その後、前記セシウム含有土壌から抽出したセシウムを含む溶融剤と前記セシウム含有土壌からセシウムが抽出されたセシウム非含有土壌とを分離するセシウムの分離方法。
【請求項2】
前記分離を、前記セシウム非含有土壌をすくい上げるまたはふるいを通すことにより行う請求項1に記載のセシウムの分離方法。
【請求項3】
前記分離後に、前記セシウム非含有土壌の表面を洗浄液で洗浄する請求項2に記載のセシウムの分離方法。
【請求項4】
前記接触後に、前記セシウムを含む溶融剤中に前記セシウム非含有土壌を沈殿させてから冷却して前記セシウムを含む溶融剤を固形化させ、次いで前記分離を行う請求項1に記載のセシウムの分離方法。
【請求項5】
前記接触後に冷却して前記セシウムを含む溶融剤を固形化させ、次いで洗浄液を加えて、前記セシウムを含む溶融剤を洗浄液に溶解させることにより前記分離を行う請求項1又は4に記載のセシウムの分離方法。
【請求項6】
前記洗浄液が水である請求項3又は5に記載のセシウムの分離方法。
【請求項7】
酸の存在下で前記セシウム含有土壌と前記溶融剤とを接触させる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のセシウムの分離方法。
【請求項8】
前記酸が、硝酸である請求項7に記載のセシウムの分離方法。
【請求項9】
前記セシウム含有土壌が、石である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のセシウムの分離方法。
【請求項10】
前記セシウムが放射性セシウムである請求項1乃至9のいずれか1項に記載のセシウムの分離方法。
【請求項11】
前記溶融剤が、リン酸二水素一カリウムである請求項1乃至10のいずれか1項に記載のセシウムの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム含有土壌からセシウムを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により、福島県を中心にヨウ素(131I)、セシウム(134Cs、137Cs)、ストロンチウム(90Sr)などの放射性物質が飛散した。この飛散した放射性物質の分離は、現在、我が国の喫緊の課題となっている。特に主要な放射性物質であって、約30年という長い半減期を有するセシウム137(137Cs)の環境中、特に、セシウム含有土壌からのセシウムの分離について、現在、各種機関により様々なアプローチが検討されている。
【0003】
現況、放射性物質の濃度が高い表層の土壌を剥ぎ取って、仮置き場や中間貯蔵設備に移動させ保管することが行われている。しかし、この方法では、膨大な量のセシウム含有土壌が発生し、保管場所の確保が困難である。
【0004】
また、セシウム含有土壌の移動、集積、保管を不要とする方法として、リン酸二水素一カリウム水溶液にセシウム含有土壌、硝酸を加えてpH2に調整し、約100℃に加熱して攪拌しながら2時間保持し、セシウム含有土壌からセシウムを抽出する方法(特許文献1)や、セシウム含有土壌にリン酸二水素一カリウム及び硫酸アンモニウムを含む水溶液を加えて加熱し、セシウム含有土壌から放射性セシウムを抽出する方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−118010号公報
【特許文献2】国際公開第2013/027652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1,2に記載の方法ではセシウムの分離率が十分ではなく、セシウムを効率良く分離することができなかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、セシウム含有土壌からセシウムを効率良く分離することができるセシウムの分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下によって前記課題を解決することを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明のセシウムの分離方法は、セシウム含有土壌と、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含み、加熱して少なくとも一部が液状となった溶融剤とを接触させ、その後、前記セシウム含有土壌から抽出したセシウムを含む溶融剤と前記セシウム含有土壌からセシウムが抽出されたセシウム非含有土壌とを分離する。
【0010】
本発明において、前記分離を、前記セシウム非含有土壌をすくい上げるまたはふるいを通すことにより行うことが好ましい。
【0011】
本発明において、前記分離後に、前記セシウム非含有土壌の表面を洗浄液で洗浄することが好ましい。
【0012】
本発明において、前記接触後に、前記セシウムを含む溶融剤中に前記セシウム非含有土壌を沈殿させてから冷却して前記セシウムを含む溶融剤を固形化させ、次いで前記分離を行うことが好ましい。
【0013】
本発明において、前記接触後に冷却して前記セシウムを含む溶融剤を固形化させ、次いで洗浄液を加えて、前記セシウムを含む溶融剤を洗浄液に溶解させることにより前記分離を行うことが好ましい。
【0014】
本発明において、前記洗浄液が水であることが好ましい。
【0015】
本発明において、酸の存在下で前記セシウム含有土壌と前記溶融剤とを接触させることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記酸が、硝酸であることが好ましい。
【0017】
本発明において、前記セシウム含有土壌が石であることが好ましい。
【0018】
本発明において、前記セシウムが放射性セシウムであることが好ましい。
【0019】
本発明において、前記溶融剤が、リン酸二水素一カリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セシウム含有土壌からセシウムを効率良く分離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
本発明の一実施形態(以下、本実施形態)に係るセシウムの分離方法は、セシウム含有土壌と、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含み、加熱して少なくとも一部が液状となった溶融剤とを接触させ(接触処理)、その後、セシウム含有土壌から抽出したセシウムを含む溶融剤とセシウム含有土壌からセシウムが抽出されたセシウム非含有土壌とを分離する(分離処理)。
【0023】
セシウム含有土壌はセシウムを含有し、このセシウムは、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137も含み、放射性セシウムであってもよい。本実施形態において、セシウム含有土壌と少なくとも一部が液状となった溶融剤とを接触させることにより、セシウム含有土壌中のセシウムイオン(以下、単にセシウムという場合がある)が、溶融剤に移行する。この移行は、溶融剤中の陽イオンとセシウムの置換反応によってもたらされるものと考えられる。また、セシウム非含有土壌とは、セシウム含有土壌からセシウムが抽出されたものであり、セシウム含有土壌よりもセシウムの含有量が少ないものである。
【0024】
セシウムはアルカリ金属であることから、溶融剤の陽イオンには、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に属し、かつ、イオン半径が近いNa,Mg、K、Caから選ばれる1種以上を用いる。また、セシウムと同じく1価の陽イオンであるNHも、セシウムと置換反応がおこるため、上記の他、陽イオンとしてNHも選択できる。
【0025】
また、溶融剤には陰イオンとして、リン酸、硫酸、及びシュウ酸から選ばれる1種以上を用いる。セシウムは、土壌中のケイ酸塩またはアルミノケイ酸塩の層間に挟まれる形で含有されている場合が多く、上記陰イオンは、そのケイ酸塩またはアルミノケイ酸塩の層間距離を広げる役割を果たす。そのため、上記陰イオンが存在することにより、上記陽イオンとセシウムの置換がスムーズに行われる。
【0026】
[接触処理]
本実施形態では、セシウム含有土壌と、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含み、少なくとも一部が液状となった溶融剤とを接触させる。この処理系において、例えば、溶融剤としてリン酸二水素一カリウムを用いる場合、溶融剤とセシウム含有土壌との接触温度を制約する水分(沸点100℃)がほとんど存在しないため、リン酸二水素一カリウム水溶液を用いた場合よりも高い接触温度で接触させることができる。そのため、リン酸二水素一カリウム水溶液を用いた場合よりもセシウム含有土壌からセシウムがより脱離しやすくなり、セシウムイオンと陽イオンとのイオン交換反応が促進され、溶融剤とセシウム含有土壌を攪拌しなくとも、セシウム含有土壌からのセシウムの分離率を飛躍的に向上させることができる。以下、セシウム含有土壌と、溶融剤とを混合したもの、すなわちセシウム含有土壌と、溶融剤とが接触しているものを混合物という。
【0027】
セシウム含有土壌を溶融剤に接触させる方法は、特に限定されない。例えば、セシウム含有土壌と、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む溶融剤の粉末とを混合して混合物を得、得られた混合物を加熱して上記溶融剤の粉末を少なくとも一部液状にし、その温度を保持すればよい。あるいは、加熱して少なくとも一部を液状化させた溶融剤にセシウム含有土壌を添加してもよい。
【0028】
溶融剤の少なくとも一部を液状とするには、例えば、常圧下においては、溶融剤として用いる化合物の融点以上の温度に加熱すればよく、それ以外に特に限定されない。
【0029】
また、上述のように、予めセシウム含有土壌と溶融剤を接触させてから加熱して溶融剤の少なくとも一部を液状化させる場合には、融点降下の影響等により、溶融剤が液状化する温度は、通常、溶融剤として用いる化合物の融点よりも低下する。例えば、リン酸二水素一カリウム(融点252℃)を含む溶融剤とセシウム含有土壌とを混合した混合物を加熱する場合は、一気圧下ではおおよそ200℃以上の温度で加熱することにより、溶融剤の少なくともその一部を液状化させることができる場合がある。また、後述する酸をより多く添加することにより、溶融剤の融点をより降下させることもできる。
【0030】
さらに、加熱に用いる装置は特に限定されないが、例えば、溶融剤とセシウム含有土壌を混合させてから加熱を行う場合には、熱風乾燥器、電気炉など公知の装置を用いることができる。
【0031】
少なくとも一部が液状化した溶融剤とセシウム含有土壌の接触時間は、特に限定されない。量にもよるが、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分〜4時間である。
【0032】
本実施形態では、酸の存在下で、少なくとも一部が液状となった溶融剤とセシウム含有土壌を接触させるのが好ましい。これにより、セシウム含有土壌に含まれている有機物が分解され、セシウムが脱離・置換しやすくなる。
【0033】
酸を存在させる方法は、特に限定されない。例えば、セシウム含有土壌と酸とを接触させた後に、さらに溶融剤と接触させてもよいし、溶融剤に酸を添加しておいて、酸を添加した溶融剤とセシウム含有土壌を接触させてもよい。また、セシウム含有土壌と溶融剤を接触させた後に、酸を添加してもよい。
【0034】
セシウム含有土壌中の有機物を分解させるという観点から、セシウム含有土壌と酸を接触させ、その後に溶融剤を接触させる方法が好ましい。
【0035】
酸としては、無機酸又は有機酸のいずれであってもよい。無機酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などが挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、シュウ酸などが挙げられる。なかでも、セシウムの分離率をより向上させる点で硝酸が好ましい。
【0036】
酸の含有量は、セシウム含有土壌100質量部に対して、好ましくは5〜70質量部、より好ましくは10〜50質量部である。
【0037】
(セシウム含有土壌)
セシウム含有土壌は、例えば、原子力発電所の事故や核兵器の実験により環境中に放出されたセシウムで汚染されたものなどが挙げられる。具体的には、田畑などの農地土壌;下水処理場や浄水場などの施設や、池、湖、沼などに発生する汚泥;石などを含む。セシウム含有土壌は草の根や葉などの不純物が含まれていてもよい。なかでも、セシウム含有土壌は粒径が大きいものが好ましく、例えば石であるのがより好ましい。セシウム含有土壌が石であれば、セシウムの分離効率が高い。また、後述のように、液状化した溶融剤のプールに石を投入し、すくい上げる方法や、ふるいを通す方法によりセシウム非含有土壌の分離が容易にかつ連続的に可能である。その他、液状化した溶融剤に石を投入し、その石の重みで沈殿させた後に、冷却して溶融剤を固形化させて固形化した混合物を得、この固形化した混合物のうち、石が局所的に多く存在する部位のみ、すなわち石が沈殿している下部のみを切断して固形化した混合物から石を粗分離することも容易となる。
【0038】
また、分離処理において、後述するように、固形化した混合物に洗浄液を加えてセシウムを含む溶融剤とセシウム非含有土壌とを分離する場合でも、セシウム含有土壌が石であればセシウム非含有土壌も石であるので、より容易に分離することができる。さらに、石は、通常、表面のみがセシウムで汚染されており、セシウムを抽出しやすい。ここで、石とは、セシウム含有土壌を、目開き1mm以上のJIS標準篩を用いて分級した際、この目開きのJIS標準篩を通過できない粒径のものをいい、好ましくは、目開き2mm以上のJIS標準篩を通過できない粒径のものである。
【0039】
なお、本分離方法によれば、放射性同位体であるか否かによらず、いずれのセシウムも分離することが可能であることは明らかである。
【0040】
(溶融剤)
溶融剤としては、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩、硫酸塩、及びシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであれば、特に限定されない。すなわち、Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩;Na、Mg、K、Ca、NHの硫酸塩;及びNa、Mg、K、Ca、NHのシュウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであれば、特に限定されない。
【0041】
Na、Mg、K、Ca、NHのリン酸塩としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一マグネシウム、リン酸二マグネシウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸一カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウムなどが挙げられる。
【0042】
Na、Mg、K、Ca、NHの硫酸塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0043】
Na、Mg、K、Ca、NHのシュウ酸塩としては、例えば、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0044】
これらの化合物のうち、リン酸二水素一カリウムは、既に農地等で使われているリンやカリウムなどの肥料成分を含み、人体や生態系への影響の懸念がないため、環境負荷を抑えることができる。さらにカリウムイオンは化学的性質及びイオン直径がセシウムイオンに似ており、接触処理の際、リン酸二水素一カリウムの溶融塩に含まれるカリウムイオンがセシウム含有土壌に吸着したセシウムイオンの脱離を促進させることができる。さらに、リン酸二水素一カリウムは融点が252℃と低いことから低温で液状化するため、分離処理が低温で実施可能である。これらのことより、溶融剤として好ましくはリン酸二水素一カリウムを用いる。
【0045】
セシウム含有土壌のセシウムを含有している箇所の表面が、液状化した溶融剤と接触できさえすれば、その溶融剤の用いる量は特に限定されない。
【0046】
目安として、例えば、溶融剤としてリン酸二水素一カリウムを用い、それとセシウム含有土壌を混合してから加熱する場合は、その溶融剤の混合割合は、セシウム含有土壌100質量部に対して好ましくは50〜300質量部、より好ましくは100〜250質量部である。
【0047】
[分離処理]
本実施形態では、接触処理後、セシウム含有土壌から抽出したセシウムを含む溶融剤と、セシウム含有土壌からセシウムが抽出されたセシウム非含有土壌とを分離する。
【0048】
セシウムを含む溶融剤とセシウム非含有土壌とを分離する分離方法は、特に限定されない。例えば、接触後に、セシウムを含む溶融剤が液状化する温度よりも低い温度に冷却して、セシウムを含む溶融剤を固形化させ、次いで洗浄液を加えて、セシウムを含む溶融剤を洗浄液に溶解させることにより、液状物(以下、洗浄溶液)と固形物に固液分離させ、洗浄溶液から固形物を分離する方法などが挙げられる。この固形物は、主にセシウム非含有土壌を含む。また、この洗浄溶液は、洗浄液にセシウムや溶融剤などが溶解したものを含む。
【0049】
洗浄液としては、セシウムを含む溶融剤を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤やそれらの混合液、及びそれらにpH調整剤などの添加物を加えたものが挙げられるが、中でも溶融剤の溶解性が高い点、取扱いの点(例えば、廃水処理を施して循環使用することも含む)で水が好ましい。固形物と洗浄溶液とを固液分離する方法としては、特に限定されないが、例えば、固形化した混合物に洗浄液を加えて攪拌し、その後、固形物と洗浄溶液が十分に分離するまで静置させ、その後、ろ過などの公知の手段で固液分離しさえすればよい。
【0050】
あるいは、接触後にセシウムを含む溶融剤の液状を保持したまま、セシウム非含有土壌を溶融剤からすくいあげることにより、液状の混合物からセシウム非含有土壌を分離する方法、または液状の混合物ごとふるいに通すことにより、液状の混合物からセシウム非含有土壌を分離する方法などが挙げられる。そして、接触後に、分離したセシウム非含有土壌の表面を洗浄液で洗浄することが好ましい。この洗浄に用いる洗浄液は、先述の洗浄液として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0051】
そのほか、接触後に、液状化した溶融剤中にセシウム非含有土壌を沈殿させてから、セシウムを含む溶融剤の液状化する温度以下に冷却し、セシウムを含む溶融剤を固形化させて、固形化した混合物を得、この固形化した混合物のうち、セシウム非含有土壌が局所的に多く存在する部位のみ、すなわちセシウム非含有土壌が沈殿している下部のみを取り出すことで、固形化した混合物からセシウム非含有土壌を粗分離することもできる。そして、固形化した混合物から取り出したセシウム非含有土壌をさらに上記のように洗浄液を用いて、セシウム非含有土壌の表面に付着しているセシウムを含む溶融剤をセシウム非含有土壌から分離することもできる。
【0052】
また、固液分離させ、洗浄溶液から固形物を分離する場合、分離した固形物に、さらに洗浄液を加えて固形物と洗浄溶液とに固液分離させて洗浄溶液を回収する洗浄を複数回行ってもよい。この洗浄に用いる洗浄液は、先述の洗浄液として例示したものと同様のものを用いることができ、分離処理で用いた洗浄液と同じものを用いるのが好ましい。
【0053】
[吸着処理]
本実施形態では、分離処理で回収した液状物に含まれるセシウムは、通常の方法で処理することができる。例えばセシウム吸着材と接触させ、液状物に含まれるセシウムをセシウム吸着材へ吸着させてそれを処理することもできる。吸着剤として、例えば、特開2015−118010号公報に記載の吸着剤を用いることもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0055】
実施例においては、放射性セシウムの含有量に着目してセシウムの分離を行っているが、放射性の有無により、セシウムの分離率に差異が生じないのは言うまでもない。
【0056】
[放射性セシウム含有量の測定]
放射性セシウム含有量の測定は、NaIシンチレーション検出器(ATOMTEX社)を用いて行った。測定された放射性セシウム含有量は、セシウム134とセシウム137の合量である。
【0057】
[放射性セシウムの分離率の算出式]
放射性セシウムの分離率は、下記式(I)で表される。
放射性セシウムの分離率(%)=[{抽出溶液中の放射性セシウム含有量(Bq)+洗浄溶液中の放射性セシウム含有量(Bq)}/セシウム含有土壌の放射性セシウム含有量(Bq)]×100 ・・・(I)
【0058】
[セシウム含有土壌]
セシウム含有土壌として、避難指示区域である飯館村の水田の土壌を採取し、草の根を除去した後、採取した土壌を環境試料採取法(文部科学省,1983)に基づき105℃に設定した乾燥器内で乾燥させたものを用いた。このセシウム含有土壌の放射性セシウム含有量は17000〜22000Bq/kg(1700〜2200Bq/100g)であった。各実施例・比較例で用いたセシウム含有土壌の放射性セシウム含有量を表1〜5に示す。
【0059】
(比較例1〜6)
セシウム含有土壌100gにリン酸二水素一カリウム2M水溶液を表1に示す固液比の割合で加え、さらに硝酸を加えてpHを2.0に調整した混合水溶液を得た。この混合水溶液を熱風乾燥器内で沸騰する温度まで加熱し、この状態を2時間保持した(加熱処理)。比較例1,3,5では、この加熱処理の際に混合水溶液を攪拌せずに静置した。一方、比較例2,4,6では、この加熱処理の際に混合水溶液を攪拌した。攪拌速度は500rpmに設定した。
【0060】
次いで、混合水溶液中の固形物と液状物とが十分に分離するまで静置し、液状物(以下、抽出溶液)を回収した。次いで、抽出溶液から分離した固形物に1Lの熱湯(洗浄液)を加えて攪拌し固形物と液状物とが十分に分離するまで静置した後、液状物(以下、洗浄溶液)を回収する洗浄を2回繰り返した。その後、固形物を乾燥させた。
【0061】
回収した抽出溶液中の放射性セシウム含有量、2回の洗浄で回収した洗浄溶液を合せた洗浄溶液(2回分合計量)中の放射性セシウム含有量を測定した。この測定値を用いて放射性セシウムの分離率を上記(1)式より算出した。その結果を表1に示す。
【0062】
なお、表1中において、固液比1:2とは、セシウム含有土壌100gに対してリン酸二水素一カリウム2M水溶液を200g加えたことを意味し、固液比1:4とは、セシウム含有土壌100gに対してリン酸二水素一カリウム2M水溶液を400g加えたことを意味し、固液比1:8とは、セシウム含有土壌100gに対してリン酸二水素一カリウム2M水溶液を800g加えたことを意味する。
【0063】
(実施例1〜3、比較例7〜9)
(接触処理)
セシウム含有土壌100gに60質量%硝酸24mlを含有させた後、リン酸二水素一カリウム粉末136.09g(1mol)を加えて混合して混合物を得た。得られた混合物を、水を加えない状態で表2に示す接触温度で、混合物を攪拌せずに2時間保持した。この際、接触温度が100〜250℃である比較例8,9、実施例1では熱風乾燥器を用い、接触温度が300〜400℃である実施例2,3では電気炉を用いた。また、接触温度が21℃である比較例7では、混合物をそのまま大気中に放置した。
【0064】
その後、混合物を熱風乾燥器又は電気炉内から取り出し、室温で放置したところ、実施例1〜3では、接触処理前の混合物の形態と異なり、混合物は固形化していた。一方、比較例7〜9では、接触処理前後で混合物の形態に大きな変化は見られなかった。
【0065】
実施例1〜3では、混合物が固形化していることから、溶融剤として用いたリン酸二水素一カリウムの少なくとも一部が加熱により液状化してセシウム含有土壌と接触していたことが確認できた。一方、比較例7〜9では混合物の形態に変化はなかったことから、リン酸二水素一カリウムが液状化していないことが確認できた。
【0066】
(分離処理)
次いで、混合物に熱湯(洗浄液)1Lを加えて攪拌し固形物と液状物とが十分に分離するまで静置した後、液状物(洗浄溶液)を回収する分離処理を行った。次いで、分離した固形物に熱湯(洗浄液)1Lを加えて攪拌し固形物と液状物とが十分に分離するまで静置した後、液状物(洗浄溶液)を回収する洗浄を1回行った。その後、固形物を乾燥させた。
【0067】
分離処理で回収した洗浄溶液と、洗浄で回収した洗浄溶液とを合せた洗浄溶液(2回分合計量)中の放射性セシウム含有量を測定した。この測定値を用いて放射性セシウムの分離率を上記(1)式より算出した。なお、実施例1〜3,比較例7〜9では、リン酸二水素一カリウム水溶液を用いず、抽出溶液は存在しないため、上記(1)式中の抽出溶液中の放射性セシウム含有量は0Bqとして算出した。その結果を表2に示す。
【0068】
(実施例4〜7、比較例10〜11)
セシウム含有土壌100gに60質量%硝酸40mlを含有させた後、リン酸二水素一カリウム粉末272.18g(2mol)を加えて混合して混合物を得た他は、(実施例1〜3、比較例7〜9)と同様にして、乾燥させた固形物を得た。
【0069】
混合物を熱風乾燥器又は電気炉内から取り出し、室温で放置したところ、実施例4〜7では、接触処理前の混合物の形態と異なり、混合物は固形化していた。一方、比較例10〜11では、接触処理前後で混合物の形態に大きな変化は見られなかった。
【0070】
実施例4〜7では、混合物が固形化していることから、溶融剤として用いたリン酸二水素一カリウムの少なくとも一部が加熱により液状化してセシウム含有土壌と接触していたことが確認できた。一方、比較例10,11では混合物の形態に変化はなかったことから、リン酸二水素一カリウムが液状化していないことが確認できた。
【0071】
分離処理で回収した洗浄溶液と、洗浄で回収した洗浄溶液とを合せた洗浄溶液(2回分合計量)中の放射性セシウム含有量を測定した。この測定値を用いて(実施例1〜3、比較例7〜9)と同様にして放射性セシウムの分離率を上記(1)式より算出した。その結果を表3に示す。
【0072】
(実施例8〜10)
セシウム含有土壌をふるい分けし、粒径が1mm以上のセシウム含有土壌100g(実施例8)、粒径が0.3mm以上1mm未満のセシウム含有土壌100g(実施例9)、粒径が90μm以上0.3mm未満のセシウム含有土壌100g(実施例10)を用いた他は、(実施例4〜7、比較例10〜11)と同様にして、セシウムを分離し、乾燥させた固形物を得た。
【0073】
混合物を熱風乾燥器又は電気炉内から取り出し、室温で放置したところ、実施例8〜10では、接触処理前の混合物の形態と異なり、混合物は固形化していた。
【0074】
実施例8〜10では、混合物が固形化していることから、溶融剤として用いたリン酸二水素一カリウムの少なくとも一部が加熱により液状化してセシウム含有土壌と接触していたことが確認できた。
【0075】
分離処理で回収した洗浄溶液と、洗浄で回収した洗浄溶液とを合せた洗浄溶液(2回分合計量)中の放射性セシウム含有量を測定した。この測定値を用いて(実施例1〜3、比較例7〜9)と同様にして放射性セシウムの分離率を上記(1)式より算出した。その結果を表4に示す。
【0076】
(実施例11,12)
セシウム含有土壌100gに60質量%硝酸40mlを含有させる代わりに、セシウム含有土壌100gに水40mlを含有させた他は、実施例6,7と同様にして、セシウムを分離し、乾燥させた固形物を得た。なお、実施例11,12で添加した水の量は少ないため、この水分は比較例1〜6のように溶融剤とセシウム含有土壌との接触温度を制約するものではない。
【0077】
混合物を熱風乾燥器又は電気炉内から取り出し、室温で放置したところ、実施例11,12では、接触処理前の混合物の形態と異なり、混合物は固形化していた。
【0078】
実施例11,12では、混合物が固形化していることから、溶融剤として用いたリン酸二水素一カリウムの少なくとも一部が加熱により液状化してセシウム含有土壌と接触していたことが確認できた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
比較例1〜6では、セシウム含有土壌をリン酸二水素一カリウム2M水溶液に接触させたので、接触温度(約100℃)が低く、表1に示すように、放射性セシウムの分離率が54%以下であった。さらに加熱処理の際に混合水溶液を攪拌せずに静置した比較例1,3,5と、加熱処理の際に混合水溶液を攪拌した比較例2,4,6とで、放射性セシウムの分離率に大きな差はなく、ともに放射性セシウムの分離率が低かった。
【0085】
比較例7〜11では、接触温度が低く(21℃〜200℃)、接触処理中、リン酸二水素一カリウムは粉末のままであったので、表2,3に示すように、放射性セシウムの分離率が50%に満たなかった。
【0086】
一方、実施例1〜7では、接触温度が高く(200℃〜400℃)、セシウム含有土壌をリン酸二水素一カリウムの溶融塩に接触させたので、表2,3に示すように、放射性セシウムの分離率が68%以上であった。特にセシウム含有土壌100gに硝酸40mlを含有させた後、リン酸二水素一カリウム粉末2molを加えて混合した実施例4〜7では、放射性セシウムの分離率が76%以上であり、放射性セシウムの分離率が非常に高かった。
【0087】
なお、実施例4では、接触温度が200℃とリン酸二水素一カリウムの融点よりも低い温度での加熱であったが、硝酸の添加量が多かったために、融点降下によりリン酸二水素一カリウムの少なくとも一部が加熱により液状化したことが確認できるとともに、放射性セシウムの分離率が76%と高割合となった。
【0088】
実施例8〜10では、セシウム含有土壌の粒子径ごとに放射性セシウムの分離率を比較したところ、粒径が大きいほど放射性セシウムの分離率が高かった。
【0089】
さらに、実施例11,12では、酸を添加せずとも、放射性セシウムを分離できることを確認した。比較例1〜6のように、リン酸二水素一カリウム水溶液を用いた場合は、非酸性水溶液の場合はセシウムの分離が必ずしも十分にはできないが、本発明においては、酸性条件下でなくともセシウムを分離することが可能である。