(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
図1及び
図2は、本発明の第1実施形態におけるエンジンの斜視図及び平面図である。
図3は
図2のI−I断面図である。尚、
図3は、ピストンが上死点付近に位置した状態にあるときのエンジンを示している。また、本実施形態において、上側とは、エンジンが最も長く使用される状態(正立状態)における鉛直上側と略一致する。
【0010】
エンジン1は、OHV(Over Head Valve)形式の4ストロークエンジンであり、空冷式である。
エンジン1は、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2の長手方向の一端側(下端側)に配置されてクランク室3を形成するクランクケース4と、シリンダブロック2の長手方向の他端側(上端側)に配置されてシリンダブロック2と共に燃焼室5を形成するシリンダヘッド6と、を備える。
【0011】
本実施形態では、シリンダブロック2、クランクケース4及びシリンダヘッド6は、それぞれ別体で構成され、ボルトにより連結されている。
クランクケース4の下端には、潤滑用のオイルを貯留するオイルケース7が連結されている。
【0012】
シリンダブロック2の下端にはクランクケース4が設けられており、これらシリンダブロック2とクランクケース4とでクランク軸9が回転可能に支持されている。
具体的には、クランク軸9の両端部は、クランクケース4の内部に形成されたクランク室3から突出するように配置されている。本実施形態では、クランク軸9のうちクランク室3から突出した両端部がシリンダブロック2及びクランクケース4により挟まれて回転可能に支持されている。
尚、本実施形態では、クランク軸9の一方の端部(後述するバルブ駆動室30側の端部)が、シリンダブロック2とクランクケース4とにより、後述するベアリング40を介して回転可能に支持されている。この詳細については、
図5を用いて後述する。
【0013】
シリンダブロック2内には、円柱状の空間を有するシリンダ10が設けられている。シリンダ10にはピストン11が上下方向に往復移動可能に挿入されている。ピストン11は、クランク室3のクランク軸9にクランクウェブ12とコンロッド13とを介して連接されている。これにより、ピストン11の往復移動がクランク軸9の回転運動に変換されている。また、ピストン11の往復移動によって、クランク室3内の圧力(気圧)が変動する。
【0014】
シリンダヘッド6には吸気ポート15及び排気ポート16が設けられている。吸気ポート15は気化器(図示せず)に連通している。排気ポート16はマフラ17に連通している。また、シリンダヘッド6には、吸気ポート15を開閉する吸気バルブ18と、排気ポート16を開閉する排気バルブ19とが配設されている。
【0015】
また、シリンダヘッド6には、吸気バルブ18及び排気バルブ19を収容する動弁室20が形成されている。動弁室20は、シリンダヘッド6と動弁室カバー21とにより形成されている。
【0016】
吸気バルブ18及び排気バルブ19には、これら吸気バルブ18及び排気バルブ19を駆動するための動弁機構25(
図6参照)が連設されている。
動弁機構25は、クランク軸9に固着されたバルブ駆動ギヤ26と、バルブ駆動ギヤ26によって駆動されるカムギヤ27と、カムギヤ27の一端部に連設されたカム28と、このカム28により揺動され、シリンダブロック2に回動可能に支持された一対のカムフォロア(図示せず)と、シリンダブロック2の頭部に設けられたロッカー軸(図示せず)に支持されて一端を吸気バルブ18及び排気バルブ19の弁頭に当接させる一対のプッシュロッド(図示せず)と、吸気バルブ18及び排気バルブ19のそれぞれを閉弁方向に付勢する弁ばね(図示せず)と、を含んで構成される。
【0017】
動弁機構25を構成する各部のうち、バルブ駆動ギヤ26、カムギヤ27及びカム28は、バルブ駆動室30内に収容されている。バルブ駆動室30は、クランク室3の側方に配置されている。ここで、バルブ駆動室30は、シリンダブロック2、クランクケース4及びバルブ駆動室カバー(図示せず)により形成されている。
動弁機構25を構成する各部のうち、プッシュロッド及び弁ばねは、動弁室20内に収容されている。動弁室20は、燃焼室5の上方に配置されている。
【0018】
ここで、動弁機構25が、本発明の「吸気・排気の各バルブ機構」に対応する。また、バルブ駆動ギヤ26、カムギヤ27及びカム28が、本発明の「吸気・排気の各バルブ機構の駆動部品」に対応する。
【0019】
オイルケース7は、四方及び下方を囲んだ筺体により形成されている。クランクケース4にオイルケース7を装着することで、これらのケース4、7により、オイル溜め室32が形成される。オイル溜め室32には、潤滑用のオイルが貯留される。
クランクケース4のうち、クランク軸9を回転可能に収容する半円筒状の部分が、クランク室3とオイル溜め室32とを仕切る第1仕切壁33となる。
【0020】
図3に示すように、クランク室3とオイル溜め室32とは、第1仕切壁33によって仕切られている。第1仕切壁33は、半筒形状をなして形成されている。すなわち、第1仕切壁33は、クランク室3側で、このクランク室3内に収容されたクランクウェブ12を回転可能に収容する役目を果たし、これに伴い、オイル溜め室32側に突出する曲面部ができる。そして、この曲面部の中央部34が、オイル溜め室32側に最も突出している。
【0021】
半円筒形状の第1仕切壁33の中央部34には、クランク室3とオイル溜め室32とを連通する第1開口部35が貫通形成されている。
第1開口部35は、第1仕切壁33におけるピストン11の投影面内に位置している。すなわち、燃焼室5側から第1仕切壁33を見たときに、ピストン11によって隠れる領域内に、第1開口部35が貫通形成されている。
【0022】
第1開口部35は、ピストン11の中心部の真下に位置することが好ましい。換言すれば、第1開口部35の中心軸と、ピストン11の中心軸とが、同一軸線上に位置することが好ましい。
【0023】
尚、本実施形態では、第1開口部35の断面形状が円形状であるが、第1開口部35の断面形状はこれに限らず、例えば矩形状であってもよい。
また、本実施形態では、第1開口部35は、1つの貫通孔により構成されているが、この他、2つ以上の貫通孔により構成されてもよい。
【0024】
半円筒形状の第1仕切壁33の下面には、第1開口部35の周囲を囲むように筒状部36が設けられている。筒状部36は、第1仕切壁33の下面より下方に向けて張り出している。
尚、本実施形態では、筒状部36が円筒状であるが、筒状部36の形状はこれに限らず、例えば矩形筒状であってもよい。
【0025】
オイル溜め室32には、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部100が設けられている。ミストオイル発生量調整部100は、筒状部材101により構成されている。
【0026】
図4(A)は筒状部材101の上面図である。
図4(B)は筒状部材101の側面図である。
円筒状の筒状部材101は、その上面101aが開口して上下方向に延びている。尚、本実施形態では、筒状部材101が円筒状であるが、筒状部材101の形状はこれに限らず、例えば矩形筒状であってもよい。
【0027】
筒状部材101は、その下面101bがオイル溜め室32の底面32a(換言すれば、オイルケース7の底面)に固定されている。それゆえ、ミストオイル発生量調整部100(筒状部材101)は、オイル溜め室32の底面32aから立設されている。ここで、オイル溜め室32の底面32aは、オイル溜め室32の内壁の一部をなす。また、筒状部材101が、本発明の「凸部」に対応する。
尚、本実施形態では、ミストオイル発生量調整部100(筒状部材101)をオイルケース7に取り付ける構成としたが、この他、ミストオイル発生量調整部100(筒状部材101)をオイルケース7の一部として一体的に形成してもよい。
【0028】
本実施形態では、筒状部材101の上端部は、オイル溜め室32内のオイル面より上方に露出している。しかしながら、筒状部材101については、その上面がオイル面と同等又はオイル面より下方に位置するようにして、筒状部材101の略全体がオイル溜め室32内のオイル中に入るようにしてもよい。
【0029】
筒状部材101には、その上端から下部まで延びる切り欠き部102が形成されている。ここで、この切り欠き部102は、本発明の「オイル流路部」に対応するものであり、筒状部材101の内外を連通してオイルの通過(特に、水平方向でのオイルの通過)を許容する。従って、筒状部材101によって囲まれた領域内へのオイルの流入は切り欠き部102を介して行われ得る。尚、切り欠き部102については、筒状部材101の上端から下端まで延びるスリット状であってもよい。
【0030】
筒状部材101の上面101aは、第1開口部35の下面35aに相対している。
本実施形態では、筒状部材101の内径が、第1開口部35の内径よりも大きい。しかしながら、筒状部材101の内径については第1開口部35の内径以下であってもよい。
本実施形態では、第1開口部35は、第1仕切壁33における筒状部材101の投影面内に位置する。すなわち、オイルケース7の底面側から第1仕切壁33を見たときに、筒状部材101によって隠れるか囲まれる領域内に第1開口部35が貫通形成されている。
【0031】
尚、クランク室3内の正圧時にクランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射される気体については、エンジン1の回転数が高くなるほど、オイル面への衝突面積が広がる傾向がある。この点を考慮して、本実施形態では、エンジン1の低回転時に第1開口部35を通って噴射される気体が筒状部材101になるべく衝突しないように、かつ、エンジン1の高回転時に第1開口部35を通って噴射される気体が筒状部材101になるべく衝突するように、筒状部材101の内径及び外径などの寸法が決められている。
【0032】
筒状部材101は、第1開口部35及びピストン11の真下に位置することが好ましい。換言すれば、筒状部材101の中心軸と、第1開口部35の中心軸と、ピストン11の中心軸とが、同一軸線上に位置することが好ましい。
【0033】
図5は、本実施形態のエンジン1のクランク軸9を回転可能に支持するベアリング40を示す図である。
クランク室3とバルブ駆動室30とは、第2仕切壁42によって仕切られている。第2仕切壁42は、シリンダブロック2とクランクケース4とにより構成される。
【0034】
第2仕切壁42のうち、シリンダブロック2の下端部には、半円状の断面形状をなす上側開口部43が形成されている。
第2仕切壁42のうち、クランクケース4の上端部には、半円状の断面形状をなす下側開口部44が形成されている。
【0035】
第2開口部45は、半円状の上側開口部43と、半円状の下側開口部44とにより構成されて、断面形状が円形状である。
第2開口部45は、第2仕切壁42を貫通して、クランク室3とバルブ駆動室30とを連通する。
【0036】
第2仕切壁42の第2開口部45には、ベアリング40が挿入されている。すなわち、第2仕切壁42の第2開口部45内には、ベアリング40が設けられている。
ベアリング40は、その内輪と外輪との間に間隙を有し、かつ、その複数のボール間に間隙を有する、開放型のボールベアリングである。それゆえ、ベアリング40は、ミストオイル(ミスト状のオイル)の通過を許容する。
【0037】
ベアリング40は、その内輪にクランク軸9の一方の端部(バルブ駆動室30側の端部)が挿入されて、クランク軸9を回転可能に支持する。
それゆえ、クランク軸9の一方の端部(バルブ駆動室30側の端部)は、シリンダブロック2とクランクケース4とにより、ベアリング40を介して回転可能に支持される。
ここで、クランク軸9の一方の端部のうち、バルブ駆動室30内に位置する部分には、バルブ駆動ギヤ26が固着されている。尚、
図5では、バルブ駆動ギヤ26によって駆動されるカムギヤ27の図示を省略している。
【0038】
次に、本実施形態におけるエンジン1の潤滑装置50について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態におけるエンジン1の潤滑装置50の概略説明図である。
エンジン1の潤滑装置50は、ピストン11の往復動によるクランク室3内の圧力変動を利用して、オイル溜め室32に貯留されたオイルを循環させて、エンジン1の各部を潤滑する。
【0039】
オイル溜め室32と動弁室20との間には、オイルを循環させる循環経路61が設けられている。この循環経路61は、第1開口部35、第2開口部45、バルブ駆動室30、動弁室20、送油通路62、及び、クランク室3により構成されている。
【0040】
ピストン11の上死点側への移動に起因してクランク室3内が負圧状態になると、オイル溜め室32内のミストオイルは、第1開口部35を通って、クランク室3に供給される。
この後、ピストン11の下死点側への移動に起因してクランク室3内が正圧状態になると、クランク室3内のミストオイルが、第2開口部45を通って、バルブ駆動室30及び動弁室20に供給される。
【0041】
ここで、第2開口部45内にはベアリング40が設けられている(
図5参照)。これにより、クランク室3内のミストオイルのうち、粒径が比較的大きなミストオイルは、ベアリング40にて掻き落とされるので、クランク室3からバルブ駆動室30への流通が規制される。一方、クランク室3内のミストオイルのうち、粒径が比較的小さなミストオイルは、ベアリング40の内輪と外輪との間の間隙、及び、複数のボール間の間隙を通って、バルブ駆動室30に供給される。
動弁機構25を構成するバルブ駆動ギヤ26、カムギヤ27、カム28、プッシュロッド及び弁ばねは、循環経路61を流れるミストオイルにより潤滑される。
【0042】
動弁室20の内側には、動弁室20内に滞留するオイルを吸引する吸引通路64が配設されている。吸引通路64とクランク室3との間には、送油通路62が配設されている。
送油通路62は、その一端側の開口端部が吸引通路64に連設されて、他端側がクランク室3に連設されている。ここで、送油通路62の他端側の開口端部は、ピストン11が上死点に達する際、全開する位置に配置されている。
【0043】
動弁室20に滞留するミストオイルは、ピストン11の上死点への移動に起因してクランク室3内が負圧状態になるときに、送油通路62の開口より吸い込まれて、吸引通路64及び送油通路62を介してクランク室3へ送られる。
クランク室3内に送られたオイルは、第1開口部35を介してオイル溜め室32に戻る。
【0044】
動弁室20の内側には、オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを燃焼室5に排出するための排出通路65が配設されている。排出通路65は、その一端側66が動弁室20内に連設されて、他端側がエアクリーナ67に連設されている。ここで、エアクリーナ67は前述の気化器の上流側に設けられており、空気中のごみ等を除去する機能を有する。
【0045】
エアクリーナ67に送られた、オイル分を含むブローバイガスは、エアクリーナ67内に設けられたオイルセパレータ68により、ブローバイガスとオイルとに気液分離される。分離されたオイルは、エアクリーナ67とクランク室3とを連通する還流通路70を通ってクランク室3に送られる。ここで、還流通路70のクランク室3側の開口端部は、ピストン11が上死点に達する際、全開する位置に配置されている。それゆえ、オイルセパレータ68で分離されたオイルは、ピストン11の上死点への移動に起因してクランク室3内が負圧状態になるときに、還流通路70を介して吸い込まれて、クランク室3へ送られる。一方、オイルセパレータ68で分離されたブローバイガスは、燃焼室5で燃焼されてからマフラ17を介して外部へ排出される。
【0046】
ピストン11の下死点側への移動に起因してクランク室3内が正圧状態になると、クランク室3内の高圧の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。換言すれば、ピストン11の下死点側への移動に伴って押し出されるクランク室3内の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。この噴射された気体が、オイル溜め室32内のオイルに衝突して、ミストオイルが発生する。
【0047】
ここで、筒状部材101によるミストオイルの発生量を調整について説明する。
エンジン1の低回転時には、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される気体の量が少なく勢いも弱くなりかねない。それゆえ、仮に筒状部材101がない場合には、当該気体がオイル面に衝突すると、そのエネルギーの大部分がオイルの流動に使われてしまい、オイルのミスト化を十分に行えない可能性がある。この点、本実施形態では、筒状部材101自体が、その内側(すなわち筒状部材101によって囲まれた領域内)に存在するオイルの流動を抑制するじゃま板として機能する。これにより、第1開口部35から噴射される気体の量が少なく勢いが弱い場合であっても、筒状部材101によって囲まれた領域内のオイル面に当該気体を衝突させることができるので、当該気体の衝突のエネルギーがオイルの流動に使われることを抑制することができ、ひいてはオイルのミスト化を促進することができる。すなわち、エンジン1の低回転時であっても、筒状部材101を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量の低下を抑制して、当該発生量を最適化することができる。尚、本実施形態では、エンジン1の低回転時に第1開口部35を通って噴射される気体が筒状部材101になるべく衝突しないように筒状部材101の内径及び外径などの寸法が決められているので、当該気体の勢いが筒状部材101への衝突によって弱まることを抑制することができる。従って、エンジン1の低回転時において、筒状部材101は、主として、クランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射された気体が衝突するオイルの流動を抑制することにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を増やすように調整する。
【0048】
一方、エンジン1の高回転時には、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される気体の量が多く勢いも過大となりかねない。それゆえ、仮に筒状部材101がない場合には、当該気体がオイル面に効率良く衝突してしまい、オイルが過剰にミスト化され、ひいては、オイルが過剰に消費されるおそれがある。この点、本実施形態によれば、エンジン1の高回転時に第1開口部35を通って噴射される気体が筒状部材101になるべく衝突するように筒状部材101の内径及び外径などの寸法が決められていることにより、当該気体が筒状部材101に衝突して分散しやすいので、当該気体の勢いを抑制することができる。それゆえ、筒状部材101がない場合に比べてオイルのミスト化が抑制され、ひいては、オイルの過剰消費を抑制することができる。すなわち、エンジン1の高回転時であっても、筒状部材101を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの過大な発生を抑制して、ミストオイルの発生量を最適化することができる。従って、エンジン1の高回転時において、筒状部材101は、主として、クランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射された気体を衝突させて分散させることにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を減らすように調整する。
【0049】
本実施形態によれば、エンジン1の潤滑装置50は、ピストン11の上下動によって内部の圧力が変動するクランク室3と、クランク室3の下方に配置されて潤滑用のオイルを貯留するオイル溜め室32と、クランク室3とオイル溜め室32とを仕切る第1仕切壁33と、第1仕切壁33を貫通してクランク室3とオイル溜め室32とを連通する第1開口部35と、クランク室3内の正圧時にクランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射された気体を分散させることにより、又は、当該噴射された気体が衝突するオイルの流動を抑制することにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部100(筒状部材101)と、を備える。このミストオイル発生量調整部100によって、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0050】
また本実施形態によれば、ミストオイル発生量調整部100(筒状部材101)は、オイル溜め室32の内壁に設けられている。また、ミストオイル発生量調整部100は、オイル溜め室32の底面32aから立設された凸部(筒状部材101)である。これにより、簡素な構成で、ミストオイル発生量調整部100を形成することができる。
【0051】
また本実施形態によれば、前記凸部は上面101aが開口した筒状部材101により構成され、筒状部材101の上面101aが第1開口部35の下面35aに相対する。これにより、第1開口部35から噴射された気体の少なくとも一部を、オイル溜め室32内の筒状部材101内のオイル(筒状部材101によって囲まれた領域内のオイル)に衝突させることで、ミストオイルの発生量を調整することができる。
【0052】
また本実施形態によれば、筒状部材101には、筒状部材101の内外を連通してオイルの通過を許容するオイル流路部(切り欠き部102)が形成されている。これにより、オイル溜め室32内の筒状部材101内(筒状部材101によって囲まれた領域内)にオイル流路部(切り欠き部102)を介して安定的にオイルを供給することができる。
【0053】
また本実施形態によれば、前記凸部(筒状部材101)は、その上端部が、オイル溜め室32内のオイル面より上方に露出している。これにより、第1開口部35から噴射された気体の少なくとも一部を前記凸部(筒状部材101)に衝突させて当該気体の勢いを抑制することができるので、ミストオイルの発生量を調整することができる。
【0054】
また本実施形態によれば、第1開口部35は、第1仕切壁33における凸部(筒状部材101)の投影面内に位置する。これにより、第1開口部35から噴射された気体を、オイル溜め室32内の筒状部材101内のオイル(筒状部材101によって囲まれた領域内のオイル)に安定的に衝突させることができる。
【0055】
また本実施形態によれば、エンジン1の潤滑装置50は、クランク室3の側方に配置されて吸気・排気の各バルブ機構の駆動部品を収容するバルブ駆動室30と、クランク室3とバルブ駆動室30とを仕切る第2仕切壁42と、第2仕切壁42を貫通してクランク室3とバルブ駆動室30とを連通する第2開口部45と、を更に備える。エンジン1の潤滑装置50では、クランク室3内の負圧時に、オイル溜め室32内のミストオイルが第1開口部35を通ってクランク室3に供給される。また、エンジン1の潤滑装置50では、クランク室3内の正圧時に、クランク室3内のミストオイルが第2開口部45を通ってバルブ駆動室30に供給される。これにより、簡素な構成で、オイル溜め室32内で生成されたミストオイルを、クランク室3内及びバルブ駆動室30内に供給することができる。
【0056】
また本実施形態によれば、第1仕切壁33は、第1開口部35の周囲を囲むように第1仕切壁33の下面より下方に張り出す筒状部36を有する。これにより、エンジン1の倒立運転時などに、オイル溜め室32内のオイルが第1開口部35を通ってクランク室3内に過剰に流入することを抑制することができる。
【0057】
また本実施形態によれば、第2開口部45内には、クランク軸9を回転可能に支持するベアリング40が設けられる。ベアリング40は、ミストオイルの通過を許容する開放型のボールベアリングである。これにより、クランク室3内のミストオイルのうち、粒径が比較的小さなミストオイルが、ベアリング40の内輪と外輪との間の間隙、及び、複数のボール間の間隙を通って、バルブ駆動室30に供給されるので、バルブ駆動室30及び動弁室20へのオイルの過度の供給を抑制することができる。
【0058】
尚、本実施形態では、エンジン1のシリンダ10内でピストン11が上下移動する範囲の体積(行程容積)に基づいて、第1開口部35の寸法、開口面積、形状などを設定してもよい。
また、本実施形態では、筒状部材101に形成されるオイル流路部の一例として切り欠き部102を用いて説明したが、オイル流路部の構成はこれに限らない。例えば、
図7に示すように、オイル流路部として、筒状部材101に連通孔(孔部)105を形成して、筒状部材101の外側から内側へのオイルの通過を許容してもよい。ここで、
図7(A)及び(B)は本実施形態の変形例における筒状部材101の上面図及び側面図である。
【0059】
次に本発明の第2実施形態におけるエンジンの潤滑装置について、
図8を用いて説明する。
図8は、本実施形態におけるエンジン1の断面図であり、前述の
図2のI−I断面に対応するものである。
図1〜
図7に示した第1実施形態と異なる点について説明する。
【0060】
オイル溜め室32には、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部200が設けられている。ミストオイル発生量調整部200は、円柱状の柱状部材201により構成されている。
柱状部材201は円柱状であり、上下方向に延びている。尚、本実施形態では、柱状部材201が円柱状であるが、柱状部材201の形状はこれに限らず、例えば矩形柱状であってもよい。
【0061】
柱状部材201は、その下面がオイル溜め室32の底面32a(換言すれば、オイルケース7の底面)に固定されている。それゆえ、ミストオイル発生量調整部200(柱状部材201)は、オイル溜め室32の底面32aから立設されている。ここで、オイル溜め室32の底面32aは、オイル溜め室32の内壁の一部をなす。また、柱状部材201が、本発明の「凸部」に対応する。
尚、本実施形態では、ミストオイル発生量調整部200(柱状部材201)をオイルケース7に取り付ける構成としたが、この他、ミストオイル発生量調整部200(柱状部材201)をオイルケース7の一部として一体的に形成してもよい。
【0062】
本実施形態では、柱状部材201の上端部は、オイル溜め室32内のオイル面より上方に露出している。しかしながら、柱状部材201については、その上面がオイル面と同等又はオイル面より下方に位置するようにして、柱状部材201の略全体がオイル溜め室32内のオイル中に入るようにしてもよい。
【0063】
柱状部材201の上面201aは、第1開口部35の下面35aに相対している。
本実施形態では、柱状部材201の外径が、第1開口部35の内径と同等である。しかしながら、柱状部材201の外径については、第1開口部35の内径よりも小さくてもよく、又は、第1開口部35の内径よりも大きくてもよい。
また、第1開口部35は、第1仕切壁33における柱状部材201の投影面内に位置するようにしてもよい。すなわち、オイルケース7の底面側から第1仕切壁33を見たときに、柱状部材201によって隠れる領域内に第1開口部35が貫通形成されてもよい。
【0064】
柱状部材201は、第1開口部35及びピストン11の真下に位置することが好ましい。換言すれば、柱状部材201の中心軸と、第1開口部35の中心軸と、ピストン11の中心軸とが、同一軸線上に位置することが好ましい。
【0065】
本実施形態では、ピストン11の下死点側への移動に起因してクランク室3内が正圧状態になると、クランク室3内の高圧の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。換言すれば、ピストン11の下死点側への移動に伴って押し出されるクランク室3内の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。この噴射された気体の少なくとも一部が、オイル溜め室32内の柱状部材201の上面201aに衝突して、当該気体が分散されることで、当該気体の勢いが抑制される。この結果、ミストオイルの発生量を減らすようにミストオイルの発生量が調整される。すなわち、本実施形態では、柱状部材201は、オイル溜め室32内に噴射された気体を分散させることにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整する。
【0066】
例えば、エンジン1の高回転時には、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される気体の量が多く勢いも過大となりかねない。それゆえ、仮に柱状部材201がない場合には、当該気体がオイル面に効率良く衝突してしまい、オイルが過剰にミスト化され、ひいては、オイルが過剰に消費されるおそれがある。この点、本実施形態によれば、柱状部材201が設けられていることにより、当該気体の一部が柱状部材201の上面201aに衝突して分散するので、当該気体の勢いを抑制することができる。それゆえ、柱状部材201がない場合に比べてオイルのミスト化が抑制され、ひいては、オイルの過剰消費を抑制することができる。すなわち、エンジン1の高回転時などに、柱状部材201を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの過大な発生を抑制して、ミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0067】
特に本実施形態によれば、エンジン1の潤滑装置50は、ピストン11の上下動によって内部の圧力が変動するクランク室3と、クランク室3の下方に配置されて潤滑用のオイルを貯留するオイル溜め室32と、クランク室3とオイル溜め室32とを仕切る第1仕切壁33と、第1仕切壁33を貫通してクランク室3とオイル溜め室32とを連通する第1開口部35と、クランク室3内の正圧時にクランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射された気体を分散させることにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部200(柱状部材201)と、を備える。このミストオイル発生量調整部200によって、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0068】
また本実施形態によれば、ミストオイル発生量調整部200(柱状部材201)は、オイル溜め室32の内壁に設けられている。また、ミストオイル発生量調整部200は、オイル溜め室32の底面32aから立設された凸部(柱状部材201)である。これにより、簡素な構成で、ミストオイル発生量調整部200を形成することができる。
【0069】
また本実施形態によれば、前記凸部は柱状部材201により構成され、柱状部材201の上面201aには、第1開口部35から噴射された気体が衝突する。これにより、当該気体が柱状部材201の上面201aにて分散されるので、例えばエンジン1の高回転時に、柱状部材201を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの過大な発生を抑制して、ミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0070】
次に本発明の第3実施形態におけるエンジンの潤滑装置について、
図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態におけるエンジン1の断面図であり、前述の
図2のI−I断面に対応するものである。
前述の第2実施形態と異なる点について説明する。
【0071】
オイル溜め室32には、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部300が設けられている。ミストオイル発生量調整部300は、上端部が頂部をなす楔状部材301により構成されている。
楔状部材301は、例えば金属板を折り曲げて形成されており、V字形の断面形状をなして、クランク軸9と略平行に延びている。
【0072】
楔状部材301は、図示しないブラケットを介して、クランクケース4及び/又はオイルケース7に固定されている。それゆえ、ミストオイル発生量調整部300(楔状部材301)は、オイル溜め室32の内壁にブラケット(図示せず)を介して設けられている。
【0073】
本実施形態では、楔状部材301は、オイル溜め室32内のオイル面より上方に位置しており、かつ、第1開口部35の下方に位置している。楔状部材301の頂部は、第1開口部35の下面35aに相対している。尚、第1開口部35は、第1仕切壁33における楔状部材301の投影面内に位置するようにしてもよい。すなわち、オイルケース7の底面側から第1仕切壁33を見たときに、楔状部材301によって隠れる領域内に第1開口部35が貫通形成されてもよい。
【0074】
楔状部材301は、第1開口部35及びピストン11の真下に位置することが好ましい。換言すれば、楔状部材301の頂部と、第1開口部35の中心軸と、ピストン11の中心軸とが、同一軸線上に位置することが好ましい。
【0075】
本実施形態では、ピストン11の下死点側への移動に起因してクランク室3内が正圧状態になると、クランク室3内の高圧の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。換言すれば、ピストン11の下死点側への移動に伴って押し出されるクランク室3内の気体が、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される。この噴射された気体の少なくとも一部が、オイル溜め室32内の楔状部材301に衝突して、当該気体が楔状部材301に沿って流れるなどして分散されることで、当該気体の勢いが抑制される。この結果、ミストオイルの発生量を減らすようにミストオイルの発生量が調整される。すなわち、本実施形態では、楔状部材301は、オイル溜め室32内に噴射された気体を分散させることにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整する。
【0076】
例えば、エンジン1の高回転時には、第1開口部35からオイル溜め室32内に噴射される気体の量が多く勢いも過大となりかねない。それゆえ、仮に楔状部材301がない場合には、当該気体がオイル面に効率良く衝突してしまい、オイルが過剰にミスト化され、ひいては、オイルが過剰に消費されるおそれがある。この点、本実施形態によれば、楔状部材301が設けられていることにより、当該気体の一部が楔状部材301に衝突するので、当該気体の勢いを抑制することができる。それゆえ、楔状部材301がない場合に比べてオイルのミスト化が抑制され、ひいては、オイルの過剰消費を抑制することができる。すなわち、エンジン1の高回転時などに、楔状部材301を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの過大な発生を抑制して、ミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0077】
特に本実施形態によれば、エンジン1の潤滑装置50は、ピストン11の上下動によって内部の圧力が変動するクランク室3と、クランク室3の下方に配置されて潤滑用のオイルを貯留するオイル溜め室32と、クランク室3とオイル溜め室32とを仕切る第1仕切壁33と、第1仕切壁33を貫通してクランク室3とオイル溜め室32とを連通する第1開口部35と、クランク室3内の正圧時にクランク室3内から第1開口部35を通ってオイル溜め室32内に噴射された気体を分散させることにより、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を調整するミストオイル発生量調整部300(楔状部材301)と、を備える。このミストオイル発生量調整部300によって、オイル溜め室32内でのミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0078】
また本実施形態によれば、ミストオイル発生量調整部300(楔状部材301)がオイル溜め室32にブラケット(図示せず)を介して設けられており、ミストオイル発生量調整部300には、第1開口部35から噴射された気体が衝突する。これにより、例えばエンジン1の高回転時に、ミストオイル発生量調整部300を用いて、オイル溜め室32内でのミストオイルの過大な発生を抑制して、ミストオイルの発生量を最適化することができる。
【0079】
尚、本実施形態では、ミストオイル発生量調整部300の一例として楔状部材301を挙げて説明したが、ミストオイル発生量調整部300の構成はこれに限らない。すなわち、ミストオイル発生量調整部300については、第1開口部35から噴射された気体が衝突して分散されることで、当該気体の勢いが抑制されて、ミストオイルの発生量が調整されるのであれば、任意の構成でよい。
【0080】
尚、前述の第1〜第3実施形態では、第1開口部35が1つである例を示したが、第1開口部35は複数であってもよい。また、前述の第1〜第3実施形態では第1開口部35がピストン11の上下移動軸に位置する例を示したが、第1開口部35は、ピストン11の上下移動軸から所定角度傾いた位置にあってもよい。
【0081】
また、前述の第1〜第3実施形態におけるエンジン1は、刈払機、穴掘機、コンクリートカッターなどの携帯型作業機にその駆動源として搭載可能である。また、エンジン1は、バックパックブロワ、スプレイヤ(噴霧機)、散粉機、背負い型刈払機などの背負い型作業機にその駆動源として搭載可能である。
【0082】
以上からわかるように、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。