特許第6543191号(P6543191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543191
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】色相制御したβ−カロテン調合物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/44 20160101AFI20190628BHJP
   A23L 2/58 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   A23L5/44
   A23L2/58
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-529204(P2015-529204)
(86)(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公表番号】特表2015-528292(P2015-528292A)
(43)【公表日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】IL2013000066
(87)【国際公開番号】WO2014033703
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年8月2日
(31)【優先権主張番号】61/693,291
(32)【優先日】2012年8月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507137232
【氏名又は名称】ライコード・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザック,エフード
(72)【発明者】
【氏名】ブラギンスキー,ベラ
(72)【発明者】
【氏名】セドロブ,ターニャ
(72)【発明者】
【氏名】ゼルカ,モリス
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−086505(JP,A)
【文献】 特開2007−289064(JP,A)
【文献】 特表2009−501534(JP,A)
【文献】 特開2008−063476(JP,A)
【文献】 特開平09−084566(JP,A)
【文献】 特開平10−182493(JP,A)
【文献】 特開2012−105548(JP,A)
【文献】 E. Pelizzetti,Fine Particles Science and Technology,Kluwer Academic Publishers,1996年,pp.761-775
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
A23L 5/40−5/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1つ以上のカロテノイド類の液中固体分散液と(b)1つ以上のカロテノイド類の液中液分散液との混合物を含む水分散性着色料調合物であって、前記液中固体分散液中の平均粒径は600nm未満であり、液中液分散液の平均液滴直径は200nm未満であり、およびカロテノイド類は、β−カロテンおよびルテインからなる群から選択され、固体カロテノイド粒子は、親水コロイド中に封入されていない、水分散性着色料調合物。
【請求項2】
液中固体分散液中のカロテノイド類は、親水コロイド中に封入されていない、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項3】
液中固体分散液は、水性媒体中にカロテノイド結晶を含み、および前記水性媒体が場合により1つ以上の界面活性剤をさらに含んでいてよい、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項4】
液中液分散液は、糖エステル、サポニン、脂肪酸ポリグリセロールエステル、親水コロイドおよびポリオールのうちの1つ以上を含む水溶液中に分散した、油中で混合されたカロテノイドを含む、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項5】
カロテノイドは、β−カロテンである、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項6】
カロテノイドは、ルテインである、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項7】
カロテノイド類は、β−カロテンおよびルテインを含む、請求項1に記載の水分散性着色料調合物。
【請求項8】
前記調合物は、液体形にある、請求項1に記載の調合物。
【請求項9】
着色料調合物を作製するための方法であって、前記着色料調合物の色相は制御することができ、
a)液体媒体中のカロテノイド液中固体分散液を作製する工程であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有し、および固体カロテノイド粒子は親水コロイド中に封入されていない工程;
b)液体媒体中のカロテノイド液中液分散液を作製する工程であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する工程;
c)前記液中固体分散液を前記液中液分散液と混合する工程を含み、
前記着色料調合物の色相は、所望の色相を得るために、工程(c)で得られた混合物中の液中固体分散液対液中液分散液の比率を変化させることによって制御され、および前記カルテノイドは、β−カロテン、ルテインまたはこれらの混合物である方法。
【請求項10】
カロテノイドは、β−カロテンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程c)の後に、
d)前記液中液分散液と前記液中固体分散液の混合物を乾燥する工程
をさらに含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
食品もしくは飲料製品を着色する際に使用するための請求項1に記載の分散性β−カロテン調合物。
【請求項13】
所望の色相の水分散性β−カロテン調合物を作製する際に使用するためのキットであって、
a)β−カロテン液中液分散液を含む容器であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する容器;
b)液中固体のβ−カロテン液中固体分散液を含む容器であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有しており、β−カロテンは親水コロイド中に封入されていない容器、および
c)所望の色相の調合物を得るために前記2つの容器の内容物を組み合わせるための取扱説明書
を含むキット。
【請求項14】
請求項1に記載の水分散性β−カロテン調合物を含む食品もしくは飲料製品。
【請求項15】
食品もしくは飲料製品を着色するための方法であって、前記製品の色相を制御することができ、前記方法は、
a)液体媒体中のβ−カロテン液中固体分散液を提供する工程であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有し、および前記β−カロテンは親水コロイド中に封入されていない工程;
b)液体媒体中のβ−カロテン液中液分散液を提供する工程であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する工程;
c)工程(a)および(b)において規定した2つの分散液を着色対象の食品もしくは飲料製品に加える工程を含み、
工程(c)における分散液の添加は、前記添加の前に各分散液を一緒に混合する工程、または各分散液を前記食品もしくは飲料製品に個別に添加する工程のいずれかによって実施することができ;および
前記調合物の色相は、所望の色相を得るために、工程(c)において食品もしくは飲料製品に添加される液中固体分散液対液中液分散液の比率を変化させることによって制御される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド類、特にβ−カロテンを含む水分散性調合物ならびに食品および飲料製品を着色するための前記調合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイド類は、食用着色剤として周知であり、黄色と赤色の間で変化する色相を有する。着色料として広範に使用されるカロテノイドであるβ−カロテンの色相は、典型的には黄色と橙色の間である。
【0003】
β−カロテン含有媒体の色相を決定する1つの要素は、この油性もしくは水性担体相中にあるβ−カロテンの物理的状態である。そこで、このような媒体の色相は、β−カロテンがこの中に存在する媒体の連続相内のβ−カロテンの物理的細分化に依存して、大きく変動する可能性がある。
【0004】
1クラスとしてのカロテノイド類の化学的安定性は相当に低いので、カロテノイド類が食品加工において使用される場合は、所定の所望の色相を達成する困難さとこれらの結果を再現する困難さの二重の問題を引き起こす。
【0005】
食品産業においてカロテノイド類を着色剤として使用する場合に遭遇するまた別の重要な問題は、所望の色相がいったん達成されても、カロテノイドもしくはこのカロテノイドを用いて着色された食品が例えば低温殺菌によって加工されると、前記色相が頻回に変化する可能性があることである。
【0006】
先行技術では、これらの問題を解決するための様々な戦略が提案されてきた。
【0007】
US5,364,563は、粉末状カロテノイド製剤を製造するための新規な方法であって、高沸点油中のカロテノイドの懸濁液を最長30秒間にわたり過熱蒸気と接触させ、引き続いてコロイドの水溶液中の過熱蒸気との接触によって生成された油中の前記カロテノイドの液化溶液を乳化し、この後に前記乳化液を噴霧して粉末に乾燥させる方法を開示している。
【0008】
US4,844,934は、水分散性カロテノイド調合物が、カロテノイドを担体油中に高温で飽和に達するまで溶解させ、水性保護コロイドを用いてこの溶液を迅速に乳化してこの後に水分を除去する工程によって作製されることを開示しているが、このとき使用される保護コロイドはアスコルビン酸を含む長鎖脂肪酸のエステルと冷水可溶性であるデンプン製品との混合物である。この製品は、食品を着色するために使用することができ、クリーミングに対して安定性である。
【0009】
US5,968,251は、冷水分散性粉末の形態にあるカロテノイド製剤が、a)カロテノイドの分子分散性溶液を、乳化剤および/または食用油を用いて、または用いずに、揮発性の水混和性有機溶媒中において高温で作製し、この中に保護コロイドの水溶液を添加すると、この後に親水性溶媒成分が水相内に移動し、結果としてカロテノイドの疎水性相がナノ分散相として生じる工程、b)生じたヒドロゾルを、あらかじめこのヒドロゾルを0℃から30℃へ冷却して、または冷却せずに、40℃から90℃で加熱する工程、およびc)溶媒および水分を加熱したヒドロゾルから除去し、これを水分散性乾燥粉末に変換させる工程によって製造されることを開示している。
【0010】
US5,976,575は、カロテノイド粒径を低下させるためにカロテノイド類と油の混合物を粉砕する工程、この混合物を封入混合物を用いて乳化する工程、およびこの乳化液を乾燥させる工程によって製造されるカロテノイド類を含有する乾燥粉末を開示している。封入混合物には、デンプン封入剤、糖および酸化防止剤が含まれる。生じる水分散性粉末は、高濃度のカロテノイド類を含有しているが、けれども酸化から保護される。
【0011】
上記の米国特許において記載された全ての系は、製造工程中にカロテノイドのための担体または溶媒として油を使用することに留意されたい。US5,976,575に記載されたように、カロテノイド類は、カロテノイド類を安定化させるために結晶形態よりもむしろ油分散液で供給されることが多い。
【0012】
しかし、油分散液を開示および教示しているこれらの先行技術刊行物はいずれも、上記で考察した3つの問題、つまり所望の色相を容易に達成すること、所望の色相をバッチ毎に再現すること、および食品もしくは飲料製品が低温殺菌などの過酷な処理方法にかけられた場合に前記色相を維持すること全てのための解決策を提供しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,364,563号明細書
【特許文献2】米国特許第4,844,934号明細書
【特許文献3】米国特許第5,968,251号明細書
【特許文献4】米国特許第5,976,575号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記を考えると、上述の問題を克服するβ−カロテン調合物を作製するための新規な方法に対するニーズが依然として存在する。
【0015】
本発明の目的は、このような方法および調合物を提供することである。
【0016】
本発明のまた別の目的は、上記の利点を有することに加えて、さらに先行技術の調合物および方法を用いて可能であった任意の所定の色相のためにより低い濃度のβ−カロテンの使用を許容する調合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、今では予想外にも、β−カロテン含有液中液(liquid−in−liquid)分散液とβ−カロテンの液中固体(solid−in−liquid)分散液との混合液が、高度に安定性の着色料調合物を生成することを見いだした。さらに、この調合物は食品もしくは飲料製品に液体形で加えることができ、これによりこの色特性を着色料調合物中の液中液分散液対液中固体分散液の比率を制御する手段によってあらかじめ決定できる製品を生成できることもまた見いだされた。なおこの上に、先行技術調合物と比較すると、同一色特性を有する製品を達成するために必要とされるβ−カロテンの量が有意に低下した。最後に、この調合物(液体形および乾燥粉末形の両方)は、予想外にも低温殺菌後に安定性であり、色相または他の色特性の変化を伴わないことが見いだされた。
【0018】
そこで、本発明は、主として、(a)β−カロテンの液中固体分散液と(b)β−カロテンの液中液分散液との混合物を含む水分散性着色料調合物であって、前記液中固体分散液中の平均粒径は約600nm未満であり、液中液分散液の平均液滴直径は約200nm未満である水分散性着色料調合物に関する。本発明の着色料調合物の大多数の実施形態では、β−カロテン(もしくは他のカロテノイド、例えばルテイン)は、封入されていない形態にあることに留意されたい。親水コロイド(もしくは他の)材料におけるこの封入の欠如は、以下で説明するように、本明細書に開示した調合物についての機能的有意性を有する。
【0019】
上記に開示した調合物の1つの好ましい実施形態では、液中固体分散液の平均粒径は、400nm未満である。さらに別の好ましい実施形態では、液中液懸濁液中の平均液滴直径は、約120nm未満である。
【0020】
本発明のこの態様のまた別の好ましい実施形態では、液中固体分散液および液中液分散液の一方または両方は、β−カロテンに加えて、またはβ−カロテンの代わりに(つまり、β−カロテンの非存在下で)ルテインまたはルテインエステルを含有していてよい。
【0021】
本発明の調合物、方法および工程において使用されるβ−カロテン、ルテインおよびルテインエステルは、これらの任意の適切な結晶形であってよく、天然源から入手されてよい、または人工的に製造されてよい。
【0022】
1つの好ましい実施形態では、着色料調合物は、液体形にある。また別の好ましい実施形態では、着色料調合物は、乾燥粉末形にある。
【0023】
着色料調合物の1つの好ましい実施形態では、液中固体分散液は、水性媒体中にカロテノイド結晶を含んでおり、前記水性媒体は場合により1つ以上の界面活性剤をさらに含んでいてよい。
【0024】
着色料調合物の1つの好ましい実施形態では、液中液分散液は、糖エステル、サポニン、脂肪酸ポリグリセロールエステルおよびポリオールのうちの1つ以上を含む水溶液中に分散した、油中で混合されたカロテノイドを含んでいる。
【0025】
また別の態様では、本発明は、着色料調合物を作製するための方法であって、前記調合物の色相は制御することができ、
a)流体媒体中のカロテノイド液中固体分散液を作製する工程であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有し、およびカロテノイド粒子は親水コロイド(もしくは他の)材料中に封入されていない工程;
b)不混和性液体媒体中のカロテノイド液中液分散液を作製する工程であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する工程;
c)前記液中固体分散液を前記液中液分散液と混合する工程を含み、
このとき前記液中固体分散液の色相は前記液中液分散液の色相とは相違し;
前記調合物の色相は、所望の色相を得るために、工程(c)で得られた混合物中の液中固体分散液対液中液分散液の比率を変化させることによって制御され;および
前記カルテノイドはβ−カロテン、ルテインまたはこれらの混合物である方法を提供する。
【0026】
また別の態様によると、本発明は、前記工程によって作製された水分散性β−カロテン調合物を提供する。
【0027】
また別の態様では、本発明は、本発明による水分散性β−カロテン調合物の着色料としての使用に関する。この態様の1つの好ましい実施形態では、上記に開示した方法から得られるβ−カロテン調合物は、液体形で使用されてよい。また別の好ましい実施形態では、水分を液体調合物から除去することができ、これにより前記調合物の乾燥粉末形を生成できる。好ましくは、本発明の調合物は、食品および/または飲料を着色するために使用される。しかし他の実施形態では、本調合物は、医薬調合物、例えばカプセル剤および錠剤を含む他の製品を着色するために使用されてもよい。
【0028】
また別の態様では、本発明は、所望の色相の水分散性β−カロテン調合物を作製する際に使用するためのキットであって、
a)β−カロテン液中液分散液の容器であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する容器;
b)液中固体のβ−カロテン液中固体分散液の容器であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有しており、β−カロテンは親水コロイド材料中に封入されていない形態にある容器、
c)所望の色相の調合物を得るために2つの容器の内容物を結合するための取扱説明書を含むキットをさらに提供する。
【0029】
さらにまた別の態様では、本発明は、本発明の水分散性β−カロテン調合物を含む食品もしくは飲料製品にも関する。
【0030】
上記に記載した、および以下で(2つの分散液の混合物に関して)より詳細に記載した同一利点を有する同一着色作用は、さらにまた2つの異なる分散液(即ち、液中液分散液および液中固体分散液)が着色対象の食品もしくは飲料に個別に加えられた場合にも得ることができる。結果として、本発明は、食品もしくは飲料製品を着色するための方法であって、前記製品の色相は制御することができ、前記方法は、
a)液体媒体中のβ−カロテン液中固体分散液を提供する工程であって、前記分散液は600nm未満の平均粒径を有し、β−カロテンは封入されていない形態にある工程;
b)液体媒体中のβ−カロテン液中液分散液を提供する工程であって、前記分散液は200nm未満の平均液滴直径を有する工程;
c)工程(a)および(b)において規定した2つの分散液を着色対象の食品もしくは飲料製品に加える工程を含み、
工程(c)における分散液の添加は、前記添加の前に各分散液を一緒に混合する工程、または各分散液を前記食品もしくは飲料製品に個別に添加する工程のいずれかによって実施することができ;および
前記調合物の色相は、所望の色相を得るために、工程(c)において食品もしくは飲料製品に添加される液中固体分散液対液中液分散液の比率を変化させることによって制御される方法をさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、上記で説明したように、先行技術調合物に比較して幾つかの利点を有する、新規な水分散性β−カロテン調合物を提供する。特に、本調合物の作製における2つの別個の分散液の使用は、前記調合物および前記調合物が添加される最終食品もしくは飲料製品両方の色および色相特性の正確な制御を許容する。さらに、着色された食品もしくは飲料製品を作製するための本発明の液体調合物の使用は、所望の色相を達成するために、先行技術の調合物および方法を使用した場合に色相を達成するために必要とされるより有意に低い濃度のβ−カロテンの使用を許容する。これに関連して、驚くべきことに、本発明の液体調合物の色相および濃度は、同一量の従来型先行調合物、例えばDSM社によって製造されたCWS(冷水可溶性)β−カロテン調合物と比較すると、概して30から300%高い。最後に、本発明の調合物の色特性(例えば、色相および色強度)は、液体製剤または乾燥製剤のいずれで使用されても、前記調合物が添加されている製品が低温殺菌および/または均質化にかけられた場合に安定性である。個別に、またはまとめて考えた場合、本発明の上記の特性は、食品および飲料工業にとって、所望の色相を達成するために必要とされるカロテノイドの量が低下することを考えると、上記の特性が正確に規定された安定性の色特性を備える製品の作製を潜在的に低い財務コストで許容するために、極めて有益である。
【0032】
1つの実施形態によると、本発明の水分散性カロテノイド調合物の使用は、食品および飲料において使用するための食用着色料としてである。
【0033】
また別の実施形態によると、本発明の水分散性β−カロテンは、医薬品の製造において医薬として許容される着色料として使用されてよい。
【0034】
上記で説明したように、本発明のβ−カロテン含有着色料調合物は、2種の異なる成分、(1)β−カロテン含有液中液分散液および(2)β−カロテン含有液中固体分散液を結合する工程によって作製される。
【0035】
本発明の液中液分散液は、以下のように作製することができる。β−カロテンは、油、例えば中鎖トリグリセリド(MCT)油、ヒマワリ油または任意の他の植物油中で、および/または混合トコフェロール類もしくはトコフェリルアセテート(TA)もしくはD−L−トコフェロールを含む大豆、ヒマワリまたは菜種油由来の酵素加工レシチンリゾレシチンと混合される。得られた混合物は、次に油中のβ−カロテン溶液を得るために約140℃から155℃の範囲内、好ましくは約150℃の温度へ加熱される。前記油溶液は、80℃から100℃の範囲内、好ましくは約90℃の温度にある、糖エステルおよび/またはサポニン類および/または脂肪酸のポリグリセロールエステルならびにアラビアゴム、セネガルゴムおよび構造的に類似の親水コロイドおよびスクロースもしくはグルコースもしくはマルチトースおよびグリセロールおよび/または他のポリオールを含有する水溶液に添加される。結合した均質混合物および水溶液は、安定性のカロテノイド含有液中液分散液を得るために均質化される。この分散液の平均液滴直径は、200nm未満であった。
【0036】
本発明の液中固体分散液は、以下のように作製することができる。β−カロテン結晶は、1種以上の界面活性剤と一緒に、グリセロール−水媒体中で1μ未満、好ましくは200から400nmへ微粉砕された。使用される界面活性剤は、様々なタイプのスクロースエステル、脂肪酸のポリグリセロールエステルおよび例えば大豆、ヒマワリ、カノーラもしくは菜種由来の脱油レシチンを含むがこれらに限定されない任意の適切なタイプの界面活性剤であってよい。
【0037】
本発明者らによって、親水コロイド、例えばデンプン、乳タンパク質、植物性およびマメ科タンパク質、ポリペプチドなどによる(液中固体分散液中での)カロテノイド粒子の封入は、最終着色料調合物における色強度の低下をもたらすことが見いだされた。例えば、加工デンプンによるβ−カロテンの封入およびこの後の乾燥させる工程は、実質的に色強度を低下させることが見いだされた。
【0038】
封入されていないβ−カロテンを用いて作製された調合物:
L=66.5;a=25.1;b=37.5;
加工デンプン中に封入されたβ−カロテンを含有する液中固体相を用いて作製された調合物:
L=60.2;a=20.4;b=30.6
【0039】
上記の結果から明らかなように、封入は、「a」および「b」色パラメータの低下をもたらした。理論によって結び付けようとしなくても、この不利益な変化は、固体粒子の透明度の低下、即ち親水コロイドカプセルによるマスキングに起因すると考えられる。
【0040】
上記を考慮すると、液中固体調合物中の固体粒子の親水コロイド封入の欠如が本発明の極めて重要な特徴であると理解できる。
【0041】
本発明のまた別の重要な特徴は、液中固体および固体中液体分散液各々の極めて小さな粒径および液滴直径である。粒径および液滴直径における(先行技術調合物に比較した。)この低下は、色強度の大きな増加をもたらし、これによって使用されるβ−カロテン量の(およそ30から300%の)大きな節約を可能にする。本発明において達成された極めて小さな液滴直径は、本調合物の作製において使用された界面活性剤の結果であるといえる部分もある。
【0042】
本発明の多数の好ましい実施形態では、本液中液調合物の油相は、前記調合物の30重量%を超える濃度で存在する。
【0043】
先行技術による水分散性カロテノイド調合物の色相を修飾するための手段は、例えば異性体比を修飾するなどの化学的方法によるが、本発明は、混合物中の液中液分散液対液中固体分散液の比率を単純に変化させることによって色相を修飾するための手段を提供する。さらに、本発明は、必要とされる色相を提供するために、様々な比率を使用して推奨粒径でルテインもしくはルテインエステルの液中液分散液と混合された所定の粒径の水分散性β−カロテン調合物を得るための方法を提供する。
【0044】
そこで、β−カロテンを参照しながら本明細書に記載した方法、工程、組成物およびこれらの使用は、さらにまた前記β−カロテンとルテインおよび/またはルテインエステルとの混合物にも、さらに(即ち、β−カロテンの代わりに)ルテインおよび/またはルテインエステル単独にも当てはまるので、このためこれらは本発明の範囲内に含まれる。そこで、1つのカロテノイド(例えば、β−カロテン)の液中液分散液を第2カロテノイド(例えば、ルテイン)の液中固体分散液と混合し、この後に水分を除去すると、水分散性カロテノイド調合物を得ることができる。このような液体調合物の粉末としての色相は、液中液分散液対液中固体分散液の比率によって制御することができる。
【0045】
例えば低温殺菌などの加工処理中には、従来型の粉末調合物(例えば、CWS(冷水可溶性)およびCWD(冷水分散性)などのDSM社製の10%のβ−カロテン)の色強度が低下することを理解されたい。これは本発明によって作製された液中液の液体分散液および液中固体の分散液の組み合わせ調合物の場合には起こらない。そこで、本発明の調合物を使用することで、使用されるβ−カロテン量の大きな(30から300%の)節約を達成できる。
【実施例】
【0046】
呈色試験のための装置、
ColorQuest XE、HunterLab社、米国
透過については1cmキュベットおよび反射ポートについては5cm
Illuminant D65
試験したパラメータ:LカラースケールおよびLカラースケール。Lは、明度である。Lの最大値は100であり、完全拡散反射体を表す。Lの最小値は0であり、黒色を表す。aおよびb軸は、特定の数値限界を有していない。正のaは赤色であり、負は緑色である。正のbは黄色であり、負は青色である。C値、彩度およびh(色相)値、色相角は、Lカラースケールのaおよびbから計算する。全色差ΔΕは、サンプルと標準物質のL間の差を考慮に入れた単一値である。
【0047】
【数1】
色分析および色安定性については、ΔL、ΔC、ΔΕおよびΔΗを使用する。これらは、L、C、Eおよびhにおけるサンプルと標準物質の差である。
【0048】
紫外可視分光光度計(thermosscintific社、Evolution 2001)
1mLの前記希釈着色飲料を1cmのキュベット内で同一希釈率の着色していない同一の前記飲料に比較して測定すると0.6から0.8の吸光度単位が得られた。
最大吸光度を測定する。
E1=(最大吸光度×希釈率)/飲料における色濃度(%)を計算する。
【0049】
[実施例1]
液中固体分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、1kgのデカグリセロールモノオレエート、2kgの糖エステル(PS750型)、100gのビタミンCおよび20kgの水を完全に混合してボールミル内で粉砕すると、均質混合物が得られた。粉砕したβ−カロテンの粒径は、0.3から0.6μmであった。
【0050】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=56.9 a=38.2 b=28.5
【0051】
液中液分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、1kgの中鎖トリグリセリドMCT油、1kgのデカグリセロールモノオレエートおよび0.7kgのD−α−トコフェロールを透明な溶液が得られるまで、150℃へ持続的に撹拌しながら加熱した。
【0052】
2kgの糖エステルおよび3kgのアラビアゴムを15kgの温水(70から80℃)中に溶解させた。
【0053】
β−カロテン透明溶液を冷却せずに強力に混合しながら糖エステル−アラビアゴム溶液に添加し、生じた混合液を高圧ホモジナイザー内で直ちに均質化した。平均液滴直径は、500nm未満であった。
【0054】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=72.3 a=10.7 b=38.5
【0055】
[実施例2]
液中固体分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、1.5kgの脱油大豆レシチン、2kgの糖エステル、100gのビタミンCおよび20kgの水を完全に混合し、ボールミル内で粉砕すると、均質混合物が得られた。粉砕したβ−カロテンの粒径は、0.2から0.6μmであった。
【0056】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=43.2 a=40.4 b=33.5
【0057】
液中液分散液:1kgの結晶質β−カロテン、2.4kgのMCT油、1.4kgの酵素加工レシチンおよび0.3kgのトコフェロールの混合物を透明な溶液が得られるまで、150℃へ持続的に撹拌しながら加熱した。
【0058】
0.6kgの糖エステルを6kgの温水(70から80℃)中に溶解させ、10kgのスクロースおよび7kgのグリセロールを添加した。
【0059】
β−カロテン透明溶液を冷却せずに高剪断ミキサーを使用しながら水相に添加し、生じた混合液を高圧ホモジナイザー内で直ちに均質化した。平均液滴直径は、200nm未満であった。
【0060】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=83.5 a=4.5 b=45.8
【0061】
[実施例3]
液中固体分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、1.5kgの脱油ヒマワリレシチン、2kgの糖エステル、100gのビタミンCおよび20kgの水を完全に混合してボールミル内で粉砕すると、均質混合物が得られた。粉砕したβ−カロテンの粒径は、0.2から0.6μmであった。
【0062】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=45.5 a=41.2 b=37.5
【0063】
液中液分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、2.1kgのMCT油、1kgの酵素加工レシチンおよび0.3kgのトコフェロールの混合物を透明な溶液が得られるまで、150℃へ持続的に撹拌しながら加熱した。
【0064】
1kgのQ−Naturele 200(サポニン抽出物)を4kgの温水(70から80℃)中に溶解させ、4kgのスクロースおよび5kgのグリセロールを添加した。
【0065】
β−カロテン透明溶液を冷却せずに高剪断ミキサーを使用しながら水相に添加し、生じた混合液を高圧ホモジナイザー内で直ちに均質化した。平均液滴直径は、200nm未満であった。
【0066】
1L中に10mgのβ−カロテンを含む水溶液について色パラメータを試験した。
=82.5 a=11.5 b=51.2
【0067】
[実施例4]
液中固体分散液:
1kgの結晶質β−カロテン、1.5kgの脱油ヒマワリレシチン、2kgの糖エステル、100gのビタミンCおよび20kgの水を完全に混合してボールミル内で粉砕すると、均質混合物が得られた。粉砕したβ−カロテンの粒径は、0.2からから0.6μmであった。
【0068】
1Lの水中に10mgのβ−カロテンを含む溶液について色パラメータを試験した。
=45.5 a=41.2 b=37.5
【0069】
液中液分散液:
1kgのマリーゴールド含油樹脂、1kgのMCT油および0.3kgのトコフェロールの混合物を透明な溶液が得られるまで、150℃へ持続的に撹拌しながら加熱した。
【0070】
1.1kgのQ−Naturele 200(サポニン抽出物)を4.5kgの温水(70から80℃)中に混合させ、4.5kgのスクロースおよび5kgのグリセロールを添加した。
【0071】
β−カロテン透明溶液を冷却せずに高剪断ミキサーを使用しながら水相に添加し、生じた混合液を高圧ホモジナイザー内で直ちに均質化した。平均液滴直径は、200nm未満であった。
【0072】
1Lの水中に10mgのβ−カロテンを含む溶液について色パラメータを試験した。
=58.8 a=8.6 b=50.8
【0073】
[応用実施例]
5%のオレンジジュース飲料を1つのモデルとして選択した。
【0074】
a)オレンジジュース濃縮液、糖シロップ、オレンジフレーバ−油および下記のβ−カロテン調合物からなる化合物を作製した。
【0075】
a.1)β−カロテン調合物。
【0076】
a.1.1)安定剤としてデンプンを用いて作製された従来型粉末形のCWSのβ−カロテン(例えば、DSM社によって製造されたCWS 10% β−カロテン調合物)を使用して、最終飲料を3、5および10ppmのβ−カロテンを用いて着色した。
【0077】
a.1.2)選択した組み合わせ(1から99%)でのβ−カロテン液中液の分散液とβ−カロテン液中固体分散液の混合物の液体形を使用して、最終飲料を2、3、5および10ppmのβ−カロテンで着色した。
【0078】
b)着色化合物を第1段が200barsおよび第2段が50barsの2段式加圧ホモジナイザー内で均質化した。
【0079】
c)ボトル詰めシロップは、均質化した着色化合物、糖シロップ、有機酸、アスコルビン酸(最終製品中で200ppm)および安定剤として添加したペクチンを使用して作製した。
【0080】
d)ボトル詰めシロップを水で希釈すると、所望の最終飲料が生じた。
【0081】
e)この飲料を温浴中で85℃へ低温殺菌した。
【0082】
f)500mLのペットボトルに迅速に充填して密封した。
【0083】
g)密封ボトルを氷浴中で25℃未満へ直ちに冷却した。
【0084】
h)これらのボトルは昼光照明保管庫内に保存した。
【0085】
i)下記の一連の分析を実施した。
【0086】
I1)比色計によるL.a.bスケール(Hunter Lab社)
I2)比色計による色調値(Hunter Lab社)
I3)比色計による色強度値(Hunter Lab社)
I4)分光光度計による色強度値(E1:1法)
【0087】
[応用実施例1]
液中液分散液と液中固体分散液(どちらも実施例1由来)の60:40の比率での混合は、(DSM社から入手した。)10% CWS由来の10ppmのβ−カロテンに比較して、10ppmで同一色相を生じさせる調合物を生成した。この飲料の低温殺菌後に、DSM社製粉末の色相は大きく変化したが、液中液分散液と液中固体分散液の混合物は安定性の色相を保持した。
【0088】
[応用実施例2]
β−カロテン液中液分散液とβ−カロテン液中固体分散液(実施例2)の60:40の比率での液体形の混合物を使用して、3、5および10ppmのβ−カロテンを用いて最終飲料を着色した。
【0089】
β−カロテンを用いて着色した非低温殺菌対低温殺菌オレンジジュース:
【0090】
【表1】
【0091】
1.結果は、CWS調合物の色強度(L値)が低温殺菌後に全レベルで有意に低下したが(L値は上昇した。)、液体分散液混合物の色強度が有意には変化しなかったことを示している。
【0092】
2.結果は、CWS調合物の赤色色調(「a」値)が低温殺菌後に全レベルで有意に低下したが(「a」値は低下した。)、液体分散液混合物の赤色色調は有意には変化しなかったことを示している。
【0093】
3.結果は、CWS調合物の黄色色調(「b」値)が低温殺菌後に全レベルで有意に増加したが(「b」値は増加した。)、液体分散液混合物の黄色色調は有意には変化しなかったことを示している。
【0094】
液中液分散液と液中固体分散液の50:50混合物の粉末状DSM社製10% CWS/S対液体形由来の5および10ppmのβ−カロテンを用いて着色した低温殺菌オレンジジュース飲料のL.a.bおよび色相値およびE1:1測定値:
【0095】
【表2】
【0096】
1.結果は、液中液分散液と液中固体分散液の混合物(天然および人工)を使用した5ppmのβ−カロテンにより着色した5%オレンジジュースの色相値がDSM社製10% CWS/S(人工)由来の10ppmのβ−カロテンを用いて着色したジュースの色相値に近いことを示している。
【0097】
2.結果は、液中液および液中固体分散液の混合物(天然および人工)から作製した5ppmのβ−カロテンを用いて着色したオレンジジュースのE1:1値がDSM社製10% CWS/S(人工)由来の同一量のβ−カロテンを用いて着色した5%オレンジジュースのE1:1値より38から72%高いことを示している。
【0098】
3.結果は、液中液分散液と液中固体分散液の混合物(天然および人工)から作製した10ppmのβ−カロテンにより着色したオレンジジュースのE1:1値がDSM社製10% CWS/S(人工)由来の同一量のβ−カロテンを用いて着色した5%オレンジジュースのE1:1値より66から107%高いことを示している。
【0099】
4.これらの結果は、液中液分散液と液中固体分散液の混合物の液体形由来のβ−カロテンを用いて着色した5%ジュースの色相および強度がDSM社製10% CWS/S由来のβ−カロテンを用いて着色した5%ジュースの色相および強度より有意に高いことを示している。
【0100】
5.これらの結果は、液中液分散液と液中固体分散液の混合物を用いて着色した5%オレンジジュースの色相および強度がDSM社製10% CWS/Sを用いて着色した同一ジュースと匹敵したという官能的観察を確証している。
【0101】
6.結果は、液体状のβ−カロテン液中液分散液と液中固体分散液の調合物混合物の使用によって、DSM社製10% CWS/Sの使用と比較してβ−カロテンの少なくとも30%のコスト節約を達成できることを示している。
【0102】
7.結果は、液体状のβ−カロテン液中液分散液と液中固体分散液調合物混合物の人工および天然調合物が同様に挙動することを示している。
【0103】
[実施例−粉末製剤]
冷水可溶性粉末
300gの液中固体分散液および700gの液中液分散液を混合し、強力に撹拌しながら100gの加工デンプンを添加した。この混合物を次に直ちにスプレー乾燥させると、冷水可溶性の安定性粉末が得られた。スプレー乾燥作業は、従来型スプレー乾燥装置において実施した。
【0104】
本明細書によって本発明の実施形態について記載してきたが、本発明は、本発明の精神から逸脱することなく、または特許請求項の範囲を超えることなく、多数の修飾、変更および改変を加えて実施できることは明白であろう。