特許第6543213号(P6543213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543213表面硬化処理方法および表面硬化処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543213
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】表面硬化処理方法および表面硬化処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/26 20060101AFI20190628BHJP
   C23C 8/32 20060101ALI20190628BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20190628BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20190628BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C23C8/26
   C23C8/32
   C21D1/06 A
   C21D1/76 M
   C21D1/74 Q
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-90078(P2016-90078)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197822(P2017-197822A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591080531
【氏名又は名称】株式会社日本テクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 均
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−014854(JP,A)
【文献】 特開2013−007065(JP,A)
【文献】 特開2015−025161(JP,A)
【文献】 特開2016−023327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00−12/02
C21D 1/06
C21D 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを収容した熱処理炉内を所定の処理温度に保持した状態で、アンモニアを含むベースガスを前記熱処理炉内に供給する、または前記ベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に前記熱処理炉内に供給する窒化工程と、
前記熱処理炉内を前記処理温度に昇温後、前記窒化工程の前に前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するパージ工程と、を有し
前記パージ工程では、予めタンク内に貯留した所定量の前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給することを特徴とする、
表面硬化処理方法。
【請求項2】
前記パージ工程では、前記熱処理炉内を大気圧以下に減圧後、前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給することを特徴とする、
請求項1に記載の表面硬化処理方法。
【請求項3】
前記熱処理炉内を前記処理温度に昇温後、所定の均熱時間が経過した後に、前記パージ工程を行うことを特徴とする、
請求項1又は2に記載の表面硬化処理方法。
【請求項4】
気密状態でワークを収容する熱処理炉と、
前記熱処理炉内を加熱する加熱装置と、
アンモニアを含むベースガスを前記熱処理炉内に供給する、または前記ベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に前記熱処理炉内に供給する処理ガス供給装置と、
前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するパージ装置と、
前記熱処理炉内を所定の処理温度に昇温後、前記処理ガス供給装置からの前記ベースガスまたは前記ベースガスおよび前記添加ガスの供給を開始する前に、前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するように前記パージ装置を制御する制御装置と、を備え
前記パージ装置は、前記熱処理炉内に供給する所定量の前記ベースガスを貯留するタンクを備えることを特徴とする、
表面硬化処理装置。
【請求項5】
前記パージ装置は、前記熱処理炉内の雰囲気ガスを吸引して前記熱処理炉内を大気圧以下に減圧するポンプを備えることを特徴とする、
請求項に記載の表面硬化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスにより鋼の表面層に窒素を侵入させて表面を硬化させる表面硬化処理方法および表面硬化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスにより鋼の表面層に窒素(N)を侵入させて表面を硬化させる手法として、ガス窒化(純窒化)およびガス軟窒化が知られている。このうち、ガス窒化は、窒化鋼や合金鋼等の比較的高級な鋼材を対象としたものであり、窒素を侵入させることによって鋼中に含まれるアルミニウム(Al)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)等の窒化物を主に生成し、これらの窒化物を含んだ拡散層を形成することで表面を硬化させる手法である。一方、ガス軟窒化は、炭素鋼等の比較的低級な鋼材を対象としたものであり、窒素を侵入させることによってFe2−3NやFeN等の窒化鉄を生成し、これらの窒化鉄を含んだ化合物層を形成することで表面を硬化させる手法である。また、ガス軟窒化では鋼中に窒素が拡散して固溶した拡散層が化合物層の下に形成される。
【0003】
窒化に使用される雰囲気ガスとしては、ガス窒化では一般にアンモニアガス(NH)が使用されており、次の(a)式の反応によって鋼中に窒素が供給される。
2NH → 2N+3H ・・・(a)
【0004】
一方、ガス軟窒化においては、ガス窒化よりも鋼中への窒素の侵入を促進する必要があることから、鋼の表面にアンモニアの分解の触媒となる炭化物や酸化物を生成すべく、アンモニアガスにRXガス(吸熱変性ガス)や炭酸ガス(CO)を加えたものが雰囲気ガスとして使用される。一般的には、アンモニアガスとRXガスを略1:1で混合したガス、アンモニアガスと窒素ガスを略1:1で混合したベースガスに炭酸ガスを3〜5%程度添加したガス、およびアンモニアガスに炭酸ガスを3〜5%程度添加したガス等が、ガス軟窒化における雰囲気ガスとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
RXガス中には一酸化炭素(CO)が含まれており、この一酸化炭素は次の(b)式に示されるブードア反応によって炭素を供給し、触媒となる炭化物の生成に寄与する。
2CO → CO+C ・・・(b)
【0006】
また、ブードア反応によって生じた二酸化炭素または雰囲気ガス中に添加された二酸化炭素は、RXガス中に含まれる水素(H)または上記(a)式によって生じた水素と次の(c)式のように反応し、水蒸気(HO)および一酸化炭素(CO)が生成される。
+CO → HO+CO ・・・(c)
【0007】
そして、上記(c)式の反応により生成された水蒸気は触媒となる酸化物の生成に寄与し、一酸化炭素は上記(b)式のブードア反応により、触媒となる炭化物の生成に寄与することとなる。
【0008】
また、ガス窒化およびガス軟窒化における雰囲気ガスの窒化力を示す窒化ポテンシャルKは、雰囲気ガスのアンモニア分圧(アンモニア濃度)PNH3および水素分圧(水素濃度)PH2から、次の(d)式によって求められる。
=PNH3/PH23/2 ・・・(d)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−302756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のガス窒化およびガス軟窒化では、一般に昇温中の雰囲気ガスを窒素(N)等の不活性ガスとし、昇温後、それまでの雰囲気ガスにアンモニアガスを追加していきながら窒化を行うことから、雰囲気ガスの窒化ポテンシャルKが必要な値まで上昇するのに時間を要すると共に、必要な窒化ポテンシャルKを維持するのに大量のアンモニアガスを必要とするという問題があった。また、昇温時の雰囲気ガス中の不要な成分や処理対象の鋼材表面における付着物等がアンモニアガスの供給開始後も残存しやすいため、高精度の処理を行うことが困難となる場合があった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、迅速、且つ、高精度のガス窒化およびガス軟窒化を安価に行うことが可能な表面硬化処理方法および表面硬化処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明は、ワークを収容した熱処理炉内を所定の処理温度に保持した状態で、アンモニアを含むベースガスを前記熱処理炉内に供給する、または前記ベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に前記熱処理炉内に供給する窒化工程と、前記熱処理炉内を前記処理温度に昇温後、前記窒化工程の前に前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するパージ工程と、を有することを特徴とする、表面硬化処理方法である。
【0013】
(2)本発明はまた、前記パージ工程では、前記熱処理炉内を大気圧以下に減圧後、前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給することを特徴とする、上記(1)に記載の表面硬化処理方法である。
【0014】
(3)本発明はまた、前記パージ工程では、予めタンク内に貯留した所定量の前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の表面硬化処理方法である。
【0015】
(4)本発明はまた、前記熱処理炉内を前記処理温度に昇温後、所定の均熱時間が経過した後に、前記パージ工程を行うことを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面硬化処理方法である。
【0016】
(5)本発明はまた、気密状態でワークを収容する熱処理炉と、前記熱処理炉内を加熱する加熱装置と、アンモニアを含むベースガスを前記熱処理炉内に供給する、または前記ベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に前記熱処理炉内に供給する処理ガス供給装置と、前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するパージ装置と、前記熱処理炉内を所定の処理温度に昇温後、前記処理ガス供給装置からの前記ベースガスまたは前記ベースガスおよび前記添加ガスの供給を開始する前に、前記熱処理炉内の雰囲気ガスを排出して前記ベースガスを前記熱処理炉内に供給するように前記パージ装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする、表面硬化処理装置である。
【0017】
(6)本発明はまた、前記パージ装置は、前記熱処理炉内の雰囲気ガスを吸引して前記熱処理炉内を大気圧以下に減圧するポンプを備えることを特徴とする、上記(5)に記載の表面硬化処理装置である。
【0018】
(7)本発明はまた、前記パージ装置は、前記熱処理炉内に供給する所定量の前記ベースガスを貯留するタンクを備えることを特徴とする、上記(5)または(6)に記載の表面硬化処理装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る表面硬化処理方法および表面硬化処理装置によれば、迅速、且つ、高精度のガス窒化およびガス軟窒化を安価に行うことが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る表面硬化処理装置の構成を示した概略図である。
図2】表面硬化処理方法のタイムチャートの一例を示した図である。
図3】(a)SCM435の硬さ試験の結果を示したグラフである。(b)SCM435の断面の顕微鏡写真である。
図4】(a)FCD600の硬さ試験の結果を示したグラフである。(b)FCD600の断面の顕微鏡写真である。
図5】(a)FCD700の硬さ試験の結果を示したグラフである。(b)FCD700の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る表面硬化処理装置1の構成を示した概略図である。本実施形態の表面硬化処理装置1は、ガス窒化およびガス軟窒化のいずれも行うことが可能に構成されている。図1に示されるように、表面硬化処理装置1は、熱処理炉10と、熱処理炉10に各種ガスを供給するガス供給装置20と、熱処理炉10内の雰囲気ガスを排出する排気装置30と、表面硬化処理装置1の各部を制御する制御装置40とを備えている。
【0023】
熱処理炉10は、被処理材であるワーク100を収容して加熱すると共に、炉内10aの雰囲気ガスによってガス軟窒化を行うものである。熱処理炉10は、炉内10aが外部から気密状態に保たれると共に、適宜の断熱材によって保温されるように構成されている。また、炉内10aは、適宜の治具11等に載置された状態で複数のワーク100を収容可能に構成されている。
【0024】
熱処理炉10には、炉内10aを加熱する加熱装置(例えば電熱線ヒータ)12と、炉内10aの温度を測定する温度計(例えば熱電対)13と、炉内10aの圧力を測定する圧力計14と、炉内10aの水素(H)濃度を測定する水素濃度計15と、炉内10aの雰囲気ガスを攪拌する攪拌装置(例えばファン)16とが設けられている。なお、水素濃度計15は、測定ガスと標準ガスの熱伝導率の差に基づいて水素濃度を検出する熱伝導式のものであり、水素濃度の連続的な測定が可能となっている。
【0025】
ガス供給装置20は、炉内10aを最初にパージするための不活性ガスと、ワーク100表面の酸化や窒化を防止するための還元性ガスと、ワーク100中に侵入させる窒素(N)を供給するためのベースガスと、ガス軟窒化においてワーク100の表面に触媒を生成するための添加ガスとを炉内10aに供給するものである。ガス供給装置20は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給系統21と、還元性ガスを供給する還元性ガス供給系統22と、ベースガスを供給する第1のベースガス供給系統23および第2のベースガス供給系統24と、添加ガスを供給する添加ガス供給系統25とを備えている。
【0026】
不活性ガス供給系統21は、所定の供給流量で炉内10aに不活性ガスを供給するものである。不活性ガス供給系統21は、不活性ガスを収容したガスボンベ等からなる不活性ガス供給源21aと、不活性ガス供給源21aと炉内10aを繋ぐ供給配管21bとを備えている。そして、供給配管21bの途中には、不活性ガスの流量を調整するための流調弁21cと、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁21dと、不活性ガスの流量を測定する流量計21eとが設けられている。
【0027】
還元性ガス供給系統22は、所定の供給流量で炉内10aに還元性ガスを供給するものである。還元性ガス供給系統22は、還元性ガスを収容したガスボンベ等からなる還元性ガス供給源22aと、還元性ガス供給源22aと炉内10aを繋ぐ供給配管22bとを備えている。また、供給配管22bの途中には、還元性ガスの流量を調整するための流調弁22cと、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁22dと、還元性ガスの流量を測定する流量計22eとが設けられている。
【0028】
第1のベースガス供給系統23は、所定の供給流量で炉内10aにベースガスを供給するものである。第1のベースガス供給系統23は、ベースガスを収容したガスボンベ等からなるベースガス供給源23aと、ベースガス供給源23aと炉内10aを繋ぐ供給配管23bとを備えている。また、供給配管23bの途中には、ベースガスの流量を調整するための流調弁23cと、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁23dと、ベースガスの流量を測定する流量計23eとが設けられている。
【0029】
第2のベースガス供給系統24は、レシーバタンク24aを備え、このレシーバタンク24a内に貯留した所定量のベースガスを減圧した炉内10aに供給することで真空パージを行うものである。第2のベースガス供給系統24は、ベースガス供給源23aと炉内10aを繋ぐ供給配管24bを備えており、レシーバタンク24aは供給配管24bの途中に設けられている。レシーバタンク24aの上流側および下流側の供給配管24bには、御装置40に制御されて開閉する電磁弁24cおよび電磁弁24dがそれぞれ設けられている。また、レシーバタンク24aには、レシーバタンク24a内の圧力を測定する圧力計24eが設けられている。
【0030】
添加ガス供給系統25は、所定の供給流量で炉内10aに添加ガスを供給するものである。添加ガス供給系統25は、添加ガスを収容したガスボンベ等からなる添加ガス供給源25aと、添加ガス供給源25aと炉内10aを繋ぐ供給配管25bとを備えている。また、供給配管25bの途中には、添加ガスの流量を調整するための流調弁25cと、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁25dと、添加ガスの流量を測定する流量計25eとが設けられている。
【0031】
不活性ガスは、不活性ガス供給系統21から炉内10aに供給されることで窒化を行う前に炉内の雰囲気ガスを排出して置換するためのガスである。本実施形態では、不活性ガスとして窒素(N)を使用しているが、例えばアルゴン等のその他の不活性ガスを使用するようにしてもよい。また、不活性ガス供給源21aは、例えば圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption;PSA)により空気中から窒素を分離する窒素ガス発生装置であってもよい。
【0032】
還元性ガスは、不活性ガスと共に炉内10aに供給されることで昇温時および均熱時のワーク100表面における酸化や窒化を防止し、その後ベースガスを炉内10aに供給して窒化を行う際の窒化のバラツキを低減するためのものである。すなわち、窒化の前に不活性ガスと共に還元性ガスを炉内10a供給することで、炉内10aに残存する酸素(O)や水(HO)、不活性ガス中に混入した不純物等と反応させて除去することができるため、昇温時および均熱時のワーク100表面における不要な化合物の生成を防止し、ベースガスによる窒化を効率的且つ高精度に行うことが可能となる。
【0033】
本実施形態では、還元性ガスとして、アンモニア(NH)を使用しているが、例えば水素(H)や一酸化炭素(CO)等のその他の還元性ガスや、水素および一酸化炭素を含むRXガス(吸熱変成ガス)等を還元性ガスとして使用してもよい。但し、後述するベースガスとの統一化による装置等の簡素化およびコストの低減等を考慮すると、還元性ガスはアンモニアであることが好ましい。
【0034】
ベースガスは、ワーク100の表面で分解して活性な窒素原子を生成し、ワーク100中へ侵入させるためのものである。従来、ガス窒化およびガス軟窒化においてはアンモニアがベースガスとして一般に使用されており、本実施形態でもアンモニアを単体でベースガスとして使用している。なお、アンモニアと窒素やアルゴン等の不活性ガスの混合ガスをベースガスとしてもよい。また、還元性ガス供給源22aとベースガス供給源23aを共通化してもよい。
【0035】
添加ガスは、ガス軟窒化においてベースガスに添加されるガスであり、アンモニアの分解を促進する触媒となる酸化物や炭化物をワーク100の表面に生成するためのガスである。本実施形態では、二酸化炭素を単体で添加ガスとして使用しているが、二酸化炭素と窒素やアルゴン等の不活性ガスの混合ガスを添加ガスとしてもよい。RXガスを添加ガスとして使用する場合、ベースガスと略同量の添加ガスを炉内10aに供給する必要があるが、二酸化炭素または二酸化炭素と不活性ガスの混合ガスを添加ガスとすることで、ベースガスに対する添加ガスの供給量をきわめて少量とすることができるため、炉内10aの水素濃度に基づく窒化ポテンシャルKの制御を高精度に行うことが可能となる。
【0036】
また、例えばアセチレン(CH≡CH)、プロピン(CHC≡CH)、1−ブチン(CHCHC≡CH)、エチレン(HC=CH)およびブタジエン(CH=CH−CH=CH)等の鎖式不飽和炭化水素を添加ガスとして使用してもよい。二重結合または三重結合を有する鎖式不飽和炭化水素は、鋼に吸着しやすく反応性に富み、さらに分子中に酸素原子を含まないことから、鎖式不飽和炭化水素を添加ガスとして使用することで、低露点雰囲気での処理が可能となる。
【0037】
従って、添加ガスとして鎖式不飽和炭化水素を使用することで、触媒となる炭化物を効率的に生成しつつ、窒化を阻害する過剰な酸化物の生成を防止することが可能となる。また、鎖式不飽和炭化水素は、その高い吸着性により二酸化炭素を使用した場合よりも添加ガスの供給量を1/10程度まで減少させることができるため、炉内10aの水素濃度に基づく窒化ポテンシャルKの制御をより高精度に行うことが可能となる。
【0038】
なお、分子量が増すと安定性が減少して煤を発生しやすくなる点、三重結合を有する方が吸着性に富む点、および入手の容易さ等を考慮すると、鎖式不飽和炭化水素の中でも特にアセチレンが添加ガスとして好ましい。
【0039】
排気装置30は、炉内10aの雰囲気ガスを排出することで、炉内10aの圧力を調整するものである。排気装置30は、ガス供給装置20からの各ガスの供給中に雰囲気ガスを排出して炉内10aを大気圧以上の所定の圧力に保持する第1の排気系統31と、真空パージを行う際に雰囲気ガスを吸引して炉内10aを大気圧以下の所定の圧力に減圧する第2の排気系統32と、第1の排気系統31または第2の排気系統32から排出された雰囲気ガス中に残留するアンモニアを分解する分解炉33と、分解炉33から排出された可燃性ガスを燃焼させる燃焼塔34とを備えている。
【0040】
第1の排気系統31は、炉内10aと分解炉33を繋ぐ排気配管31aを備えており、排気配管31aの途中には、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁31bが設けられている。第2の排気系統32は、炉内10aと分解炉33を繋ぐ排気配管32aを備えており、排気配管32aの途中には、制御装置40に制御されて開閉する電磁弁32bが設けられている。また、電磁弁32bと分解炉33の間の排気配管32aには、制御装置40に制御されて動作する真空ポンプ32cが設けられている。
【0041】
制御装置40は、適宜のマイコンまたはPC等から構成され、表面硬化処理装置1全体を制御するものである。制御装置40は、温度計13の信号出力に基づいて加熱装置12を制御し、熱処理炉10内を予め設定された処理温度Tに昇温し、保持する。制御装置40はまた、ガス供給装置20の各電磁弁21d〜25dを制御し、不活性ガス、還元性ガス、ベースガスおよび添加ガスの炉内10aへの供給を所定のタイミングで開始または停止する。
【0042】
制御装置40はまた、水素濃度計15の信号出力に基づいて第1のベースガス供給系統23の電磁弁23dおよび添加ガス供給系統25の電磁弁25dを制御し、炉内10aの窒化ポテンシャルKを所定の範囲内に保持する。制御装置40はまた、圧力計14の信号出力に基づいて第1の排気系統31の電磁弁31bを制御し、炉内10aを予め設定された圧力に保持する。
【0043】
制御装置40はまた、第2のベースガス供給系統24の圧力計24eの信号出力に基づいて電磁弁24cを制御し、真空パージ用のベースガスをレシーバタンク24aに貯留する。そして、制御装置40は、所定のタイミングで第2の排気系統32の電磁弁32bおよび真空ポンプ32c、ならびに第2のベースガス供給系統24の電磁弁24dを制御して、炉内10aの真空パージを行う。
【0044】
なお、上述の構成により本実施形態では、第1のベースガス供給系統23および添加ガス供給系統25が本発明の処理ガス供給装置を構成している。また、本実施形態では、第2のベースガス供給系統24および第2の排気系統32が、本発明のパージ装置を構成している。
【0045】
次に、本実施形態の表面硬化処理方法の具体的な手順について説明する。
【0046】
図2は、本実施形態の表面硬化処理方法のタイムチャートの一例を示した図である。なお、図2における「ベースガス」とは、第1のベースガス供給系統23から供給されるベースガスを示しており、「真空パージ用ベースガス」とは、第2のベースガス供給系統24から供給されるベースガスを示している。
【0047】
本実施形態の表面硬化処理方法には、ガス窒化およびガス軟窒化の両方が含まれるが、ガス窒化とガス軟窒化の違いは、窒化工程においてベースガスのみを炉内10aに供給するか、ベースガスおよび添加ガスを炉内10aに供給するかの違いのみである。従って、以下、ガス軟窒化を行う場合の例について説明する。
【0048】
ガス軟窒化に際しては、予め流調弁21c〜23c、25cの開度を調整して不活性ガス、還元性ガス、ベースガスおよび添加ガスの供給流量を設定しておく。各ガスの供給流量は、特に限定されるものではなく、炉内10aの容積やワーク100の表面積、必要な化合物層の厚み等に応じて適宜に設定すればよい。
【0049】
各ガスの供給流量が適切に設定されているならば、ガス軟窒化を開始する。制御装置40は、まず不活性ガス供給系統21の電磁弁21dおよび還元性ガス供給系統22の電磁弁22dを開いて炉内10aに不活性ガスおよび還元性ガスを供給すると共に、第1の排気系統31の電磁弁31bを適宜に開閉して炉内10aの雰囲気ガスを不活性ガスと還元性ガスの混合ガスに置換する。炉内10aの雰囲気ガスが不活性ガスと還元性ガスの混合ガスに略置き換わったならば、炉内10aにワーク100を配置する。ワーク100の配置は、図示を省略した搬送装置によって行われる。
【0050】
熱処理炉10内にワーク100が配置されたならば、昇温工程を行う。昇温工程では、制御装置40は加熱装置12を制御し、予め設定された昇温時間tをかけて予め設定された処理温度Tまで炉内10aを昇温する。この間、制御装置40は、不活性ガス供給系統21および還元性ガス供給系統22からの不活性ガスおよび還元性ガスの供給を継続すると共に、第1の排気系統31の電磁弁31bを制御して炉内10aを所定の圧力に保持する。
【0051】
制御装置40はまた、昇温工程中の適宜のタイミングで第2のベースガス供給系統24の電磁弁24cを開いてレシーバタンク24a内にベースガスを供給する。そして、レシーバタンク24a内が所定の圧力に到達したならば、制御装置40は電磁弁24cを閉じる。これにより、所定量のベースガスがレシーバタンク24a内に貯留される。
【0052】
炉内10aが処理温度Tとなったならば、均熱工程を行う。均熱工程では、制御装置40は加熱装置12を制御して炉内10aを処理温度Tに保持する。また、制御装置40は、不活性ガス供給系統21および還元性ガス供給系統22からの不活性ガスおよび還元性ガスの供給を継続すると共に、第1の排気系統31による炉内10aの圧力制御を継続する。均熱工程は予め設定された均熱時間tの間、継続される。
【0053】
このように、均熱工程を所定時間設けることで、ワーク100の温度ムラを低減し、パージ工程後の窒化工程における窒化バラツキを抑えることが可能となる。なお、均熱時間tの長さは特に限定されるものではなく、炉内10aの容積やワーク100の表面積等に応じて適宜に設定すればよい。
【0054】
均熱時間tが経過したならば、パージ工程を行う。パージ工程では、制御装置40はまず不活性ガス供給系統21の電磁弁21dおよび還元性ガス供給系統22の電磁弁22dを閉じて炉内10aへの不活性ガスおよび還元性ガスの供給を停止する。そして、これと略同時に、第1の排気系統31の電磁弁31bを閉じると共に第2の排気系統32の電磁弁32bを開き、真空ポンプ32cを起動して炉内10aの雰囲気ガスを吸引する。
【0055】
炉内10aの圧力が予め設定された圧力まで低下し、雰囲気ガスが十分に排出されたならば、制御装置40は第2の排気系統32の電磁弁32bを閉じて真空ポンプ32cを停止する。そしてこれと略同時に、第2のベースガス供給系統24の電磁弁24dを開いてレシーバタンク24a内のベースガスを炉内10aに供給すると共に、第1の排気系統31による炉内10aの圧力制御を再開する。これにより、炉内10aの雰囲気ガスがベースガスに置換され、炉内10aが予め設定された圧力まで復圧する。すなわち、真空パージが行われる。
【0056】
なお、制御装置40は、パージ工程中も加熱装置12による加熱を継続する。また、パージ工程に要する時間であるパージ工程時間tは、炉内10aの容積および真空ポンプ32cの能力によって決定される。本実施形態では、パージ工程におけるベースガスの供給をレシーバタンク24aから行うことで、炉内10aの迅速な復圧を可能とし、処理時間を短縮するようにしている。
【0057】
このように、パージ工程を設けることで、次の窒化工程における窒化を効率的且つ高精度に行うことが可能となる。すなわち、雰囲気ガス中の不要な成分やワーク100表面の不要な付着物等を排出し、炉内10aおよびワーク100表面をクリーニングすることで、窒化工程における窒化ポテンシャルKの制御を高精度化すると共に、ワーク100表面における炭化物の生成および窒素の侵入を効率化することが可能となる。
【0058】
また、第2のベースガス供給系統24からのベースガスの供給によって炉内10aを復圧することで、炉内10aの雰囲気ガスの窒化ポテンシャルKを急速に上昇させることができるため、窒化工程中に第1のベースガス供給系統23から供給されるベースガスの使用量を大幅に低減すると共に、窒化工程に要する時間(窒化時間t)を短縮することが可能となる。
【0059】
さらに、炉内10aを処理温度Tまで昇温した後にパージ工程を行うことで、炉内10aを復圧させるのに必要なベースガスの量を低減することが可能となる。すなわち、パージ工程において第2のベースガス供給系統24から供給されるベースガスを炉内10aの熱により膨張させることができるため、例えば処理温度Tが570℃の場合には炉内容積の1/3程度(標準状態)のベースガスで炉内を大気圧以上の所定の圧力まで復圧させることができる。これにより、本実施形態では、迅速、且つ高精度のガス軟窒化を可能としながらも、ベースガスの総使用量を従来の1/2以下まで低減することが可能となっている。
【0060】
本実施形態ではまた、炉内10aを一旦大気圧以下まで減圧することで、雰囲気ガスの排出を確実にし、上述のクリーニング効果を高めるようにしている。また、第2のベースガス供給系統24にレシーバタンク24aを設け、減圧後の炉内10aにこのレシーバタンク24a内からベースガスを供給することで、炉内10aの復圧を迅速に行うことを可能としている。
【0061】
なお、必要な窒化ポテンシャルKによっては、パージ工程における復圧をベースガスおよび不活性ガスで行うようにしてもよい。この場合、第2のベースガス供給系統24のレシーバタンク24a内にベースガスと共に不活性ガスを貯留するようにしてもよいし、第2のベースガス供給系統24と同様の構成の第2の不活性ガス供給系統を設け、ベースガスおよび不活性ガスを個別に供給するようにしてもよい。また、パージ工程においてベースガスと共に添加ガスを供給するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0062】
炉内10aの雰囲気ガスがベースガスに略置き換わり、炉内10aが復圧したならば、窒化工程を行う。窒化工程では、制御装置40はまず、第2のベースガス供給系統24の電磁弁24dを閉じると共に、第1のベースガス供給系統23の電磁弁23dおよび添加ガス供給系統25の電磁弁25dの開閉制御を開始する。すなわち、ベースガスおよび添加ガスの炉内10aへの供給のオン−オフ制御を開始する。制御装置40はまた、第1の排気系統31による炉内10aの圧力制御を継続して炉内10aを予め設定された圧力に保持すると共に、加熱装置12を制御して炉内10aを処理温度Tに保持する。
【0063】
上述のように炉内10aはベースガスによって復圧されているため、窒化工程開始時における雰囲気ガスの窒化ポテンシャルKは高く、水素濃度は十分に低いものとなっている。従って、制御装置40は、まず炉内10aの水素濃度が予め設定された上限値に到達するのを待ち、ワーク100中への窒素の侵入に伴って炉内10aの水素濃度が予め設定された上限値に達したならば、第1のベースガス供給系統23の電磁弁23dおよび添加ガス供給系統25の電磁弁25dを開いて、所定の供給流量でベースガスおよび添加ガスの供給を開始する。その後、ベースガスおよび添加ガスの供給により、炉内10aの水素濃度が予め設定された下限値に達したならば、制御装置40は電磁弁23d、25dを閉じて、ベースガスおよび添加ガスの供給を停止する。また、ワーク100中への窒素の侵入に伴い、炉内10aの水素濃度が予め設定された上限値に達したならば、制御装置40は電磁弁23d、25dを開いて、ベースガスおよび添加ガスの供給を再開する。
【0064】
窒化工程中は、このように制御装置40がベースガスおよび添加ガスの供給をオン−オフ制御することで、炉内10aの雰囲気ガスの窒化ポテンシャルKを予め設定された範囲内に保持する。なお、窒化ポテンシャルKは、炉内10aの水素濃度(水素分圧)PH2から、次の(e)式によって求められる。
=(3−4PH2)/3PH23/2 ・・・(e)
【0065】
上述のように、還元性ガスから生じた水素はパージ工程において炉内10aから排出されているため、窒化工程中は水素濃度計15の検出した水素濃度から窒化ポテンシャルKを高精度に求めることが可能となっている。すなわち、本実施形態では、還元性ガスによって窒化前のワーク100表面における酸化や窒化を防止することで窒化のバラツキを低減し、窒化ポテンシャルKの制御に影響を及ぼさないようにしている。
【0066】
なお、炉内10aの水素濃度の上限値および下限値は、特に限定されるものではなく、炉内10aの容積やワーク100の表面積、必要な化合物層の厚み等に応じて適宜に設定すればよい。また、ベースガスおよび添加ガスの供給をオン−オフ制御するのではなく、ベースガスのみをオン−オフ制御するようにしてもよい。また、水素濃度計15に代えてアンモニア濃度計を設け、炉内10aのアンモニア濃度(アンモニア分圧)に基づいて窒化ポテンシャルKnを制御するようにしてもよい。
【0067】
窒化工程は、予め設定された窒化時間tの間、継続される。窒化時間tの長さは、特に限定されるものではなく、炉内10aの容積やワーク100の表面積、必要な化合物層の厚み等に応じて設定される。
【0068】
窒化時間tが経過したならば、冷却工程を行う。冷却工程では、制御装置40はまず、第1のベースガス供給系統23の電磁弁23dおよび添加ガス供給系統25の電磁弁25dを閉じると共に、不活性ガス供給系統21の電磁弁21dおよび還元性ガス供給系統22の電磁弁22dを開く。これにより、ベースガスおよび添加ガスの供給が停止され、不活性ガスおよび還元性ガスの供給が開始される。なお、冷却工程で不活性ガス供給系統21の電磁弁12dのみを開き、炉内10aに不活性ガスのみを供給して処理することも可能である。
【0069】
制御装置40はまた、第1の排気系統31による炉内10aの圧力制御を継続して炉内10aを予め設定された圧力に保持する。制御装置40はまた、窒化時間tが経過したタイミングで加熱装置12による加熱を停止し、予め設定された冷却時間tをかけて炉内10aを予め設定された温度まで降温させる。炉内10aを予め設定された温度まで降温させたならば、炉内10aからワーク100を取り出す。
【0070】
以上の手順により、1ロットのワーク100に対するガス軟窒化が完了する。制御装置40は、次のロットのワーク100を処理する場合は、不活性ガスおよび還元性ガスの供給を継続し、上記手順を繰り返す。表面硬化処理装置1を停止する場合には、制御装置40は不活性ガスおよび還元性ガスの供給を停止する。
【0071】
なお、不活性ガスの供給流量に対する還元性ガスの供給流量の割合は、特に限定されるものではないが、ワーク100表面における酸化や窒化を効果的に防止するためには、還元性ガスの供給流量は、標準状態における体積流量で不活性ガスの供給流量の3%以上20%以下の範囲内であることが好ましく、5%以上15%以下の範囲内であればより好ましい。
【0072】
また、ガス軟窒化において第1のベースガス供給系統23からのベースガスの供給流量に対する添加ガスの供給流量の割合は、特に限定されるものではないが、添加ガスが少なすぎる場合は触媒となる酸化物や炭化物が適切に生成されず、多すぎる場合には炉内10aに大量の煤が発生するスーティング(Sooting)が生じることとなる。
【0073】
従って、添加ガスの供給による触媒の効果とスーティングの発生防止のバランスを考慮すると、添加ガスの供給流量は、添加ガスが二酸化炭素である場合には、標準状態における体積流量でベースガスの供給流量の2.0%以上7.0%以下の範囲内であることが好ましく、2.5%以上6.0%以下の範囲内であればより好ましい。また、添加ガスがアセチレンである場合には、添加ガスの供給流量は、標準状態における体積流量でベースガスの供給流量の0.2%以上0.7%以下の範囲内であることが好ましく、0.25%以上0.6%以下の範囲内であればより好ましい。
【0074】
ガス窒化を行う場合の具体的な手順は、上述の手順において添加ガス供給系統25の制御を省略したものとなる。すなわち、ガス窒化を行う場合、制御装置40は窒化工程において第1のベースガス供給系統23からベースガスのみを炉内10aに供給すると共にベースガスの供給のみをオン−オフ制御し、それ以外の手順はガス軟窒化を行う場合と同一である。また、この結果、ガス窒化を行う場合においても、ガス軟窒化を行う場合と同様の効果を奏することとなる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の表面硬化処理方法は、ワーク100を収容した熱処理炉10内(炉内10a)を所定の処理温度Tに保持した状態で、アンモニアを含むベースガスを熱処理炉10内に供給する、またはベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に熱処理炉10内に供給する窒化工程と、熱処理炉10内を処理温度Tに昇温後、窒化工程の前に熱処理炉10内の雰囲気ガスを排出してベースガスを熱処理炉10内に供給するパージ工程と、を有している。
【0076】
また、本実施形態の表面硬化処理装置は、気密状態でワークを収容する熱処理炉10と、熱処理炉10内を加熱する加熱装置12と、アンモニアを含むベースガスを熱処理炉10内に供給する、またはベースガスを二酸化炭素もしくは鎖式不飽和炭化水素を含む添加ガスと共に熱処理炉10内に供給する処理ガス供給装置(第1のベースガス供給系統23および添加ガス供給系統25)と、熱処理炉10内の雰囲気ガスを排出してベースガスを熱処理炉10内に供給するパージ装置(第2のベースガス供給系統25および第2の排気系統32)と、熱処理炉10内を所定の処理温度Tに昇温後、処理ガス供給装置からのベースガスまたはベースガスおよび添加ガスの供給を開始する前に、熱処理炉10内の雰囲気ガスを排出してベースガスを熱処理炉10内に供給するようにパージ装置を制御する制御装置40と、を備えている。
【0077】
このような構成とすることで、窒化工程の前に炉内10aおよびワーク100表面をクリーニングすると共に窒化ポテンシャルKnを急速に上昇させることが可能となるため、ガス窒化およびガス軟窒化を迅速、且つ高精度に行うことができる。また、ベースガスの使用量を従来よりも低減することが可能となるため、ガス窒化およびガス軟窒化を安価に行うことができる。
【0078】
また、パージ工程では、熱処理炉10内を大気圧以下に減圧後、ベースガスを熱処理炉10内に供給する。また、パージ装置(第2のベースガス供給系統25および第2の排気系統32)は、熱処理炉10内の雰囲気ガスを吸引して熱処理炉10内を大気圧以下に減圧するポンプ(真空ポンプ32c)を備えている。このようにすることで、パージ工程において雰囲気ガスを確実に排出することが可能となるため、炉内10aおよびワーク100表面のクリーニング効果を高め、次の窒化工程における窒化を効率的且つ高精度に行うことができる。
【0079】
また、パージ工程では、予めタンク(レシーバタンク24a)内に貯留した所定量のベースガスを熱処理炉10内に供給する。また、パージ装置(第2のベースガス供給系統25および第2の排気系統32)は、熱処理炉10内に供給する所定量のベースガスを貯留するタンク(レシーバタンク24a)を備えている。このようにすることで、パージ工程において炉内10aを迅速に復圧することが可能となるため、処理時間を短縮することができる。
【0080】
また、本実施形態の表面硬化処理方法では、熱処理炉10内を処理温度Tに昇温後、所定の均熱時間tが経過した後に、パージ工程を行う。このようにすることで、ワーク100の温度ムラを低減し、次の窒化工程における窒化を効率的且つ高精度に行うことができる。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の表面硬化処理方法および表面硬化処理装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0082】
また、上記実施形態において示した作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したものに過ぎず、本発明による作用および効果は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、本実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
本実施例では、上記実施形態の表面硬化処理装置1を使用し、図2に示すタイムチャートに沿ってガス軟窒化を行った。テストピースには、SCM435、FCD600およびFCD700の三種類の材質を使用した。各テストピースについて、窒化工程における窒化ポテンシャルKの目標値を0.94、1.97、2.95、3.93および4.93に設定したガス軟窒化をそれぞれ行った後、マイクロビッカース硬度計による硬さ試験、および光学顕微鏡による組織観察を行った。
【0085】
不活性ガスには窒素ガスを使用し、還元性ガスおよびベースガスにはアンモニアを単体で使用し、添加ガスには二酸化炭素を単体で使用した。不活性ガスの供給流量は2.4m/時間に設定し、還元性ガスの供給流量は、0.3m/時間に設定した。ベースガスの供給流量は2.4m/時間に設定した。添加ガスの供給流量は、窒化ポテンシャルKの目標値を2.95に設定した処理では4.5リットル/分に、それ以外の処理では8.3リットル/分に設定した。処理温度(軟窒化温度)は、570℃に設定し、均熱時間tは30分に、窒化時間tは120分に設定した。パージ工程時間tは、約30分であった。
【0086】
硬さ試験の測定荷重は0.1kgfとし、表面からの距離が0.025mm、0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.3mmおよび0.5mmとなる7箇所について測定を行った。組織観察では、表面近傍の断面を観察し、写真を撮影した。
【0087】
図3(a)はSCM435の硬さ試験の結果を示したグラフであり、図3(b)はSCM435の断面の顕微鏡写真である。図4(a)はFCD600の硬さ試験の結果を示したグラフであり、図4(b)はFCD600の断面の顕微鏡写真である。図5(a)はFCD700の硬さ試験の結果を示したグラフであり、図5(b)はFCD700の断面の顕微鏡写真である。
【0088】
硬さ試験の結果、表面近傍の硬さがSCM435ではHV650程度となり、FCD600ではHV480程度となり、FCD700ではHV500程度となることが確認された。また、いずれの材質においても良好な硬さ分布が得られることが確認された。また、組織観察の結果、いずれの材質においても表面近傍に白い化合物層が良好に形成されていることが確認された。また、いずれの材質においても窒化ポテンシャルKの目標値が大きい程、化合物層の厚みが大きくなっており、炉内10aの水素濃度に基づく窒化ポテンシャルKの制御によって、化合物層の厚みを調整可能であることが確認された。
【0089】
すなわち、本発明の表面硬化処理方法および表面硬化処理装置によれば、高精度のガス軟窒化を短時間で効率的に行うことが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る表面硬化処理方法および表面硬化処理装置は、鋼の表面硬化の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 表面硬化処理装置
10 熱処理炉
23 第1のベースガス供給系統
24 第2のベースガス供給系統
24a レシーバタンク
25 添加ガス供給系統
32 第2の排気系統
32c 真空ポンプ
100 ワーク
T 処理温度
均熱時間
図1
図2
図3
図4
図5