特許第6543224号(P6543224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543224
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】環境試験装置及び空調装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20190628BHJP
   F24F 11/72 20180101ALI20190628BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20190628BHJP
【FI】
   G01N17/00
   F24F11/72
   F24F11/74
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-119153(P2016-119153)
(22)【出願日】2016年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-223553(P2017-223553A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】末成 友良
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−311732(JP,A)
【文献】 特開2007−225496(JP,A)
【文献】 特開2004−251631(JP,A)
【文献】 特開昭57−149943(JP,A)
【文献】 特開2006−064571(JP,A)
【文献】 特表2003−506687(JP,A)
【文献】 特開2014−025861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 − 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物を設置する試験室と、当該試験室の送風環境に関する情報を検知する送風情報検知手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、
前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する環境試験装置において、
前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、
前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、
前記移行期制御モードには加速モードがあり、
前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以上であることを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
被試験物を設置する試験室と、当該試験室の送風環境に関する情報を検知する送風情報検知手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、
前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する環境試験装置において、
前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、
前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、
前記移行期制御モードには減速モードがあり、
前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以下であることを特徴とする環境試験装置。
【請求項3】
前記移行時回転数は前記標準回転数とは異なるものであって前記新規目標風速に応じて決定され、前記移行時回転数と前記標準回転数との差は、前記新規目標風速に対応する前記標準回転数に対して所定割合の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
前記移行期制御モードには加速モードと減速モードがあり、
前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数以上であり、前記減速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項5】
前記移行期制御モードには加速モードと減速モードがあり、
前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度よりも広く、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度よりも狭く、
前記加速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数よりも高く、前記減速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数よりも低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記現状目標風速と前記新規目標風速の差が一定以上である場合に前記移行期制御モードが実行されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項7】
PID制御装置を有し、前記開度調節手段の開度が前記PID制御装置によって制御されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項8】
試験室に対して空気を送風する空調装置であって、前記試験室の送風環境に関する情報を入力する送風情報入力手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、
前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する空調装置において、
前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、
前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、
前記移行期制御モードには加速モードがあり、
前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以上であることを特徴とする空調装置。
【請求項9】
試験室に対して空気を送風する空調装置であって、前記試験室の送風環境に関する情報を入力する送風情報入力手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、
前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する空調装置において、
前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、
前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、
前記移行期制御モードには減速モードがあり、
前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以下であることを特徴とする空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験室内に特定の環境を作り出し、被試験物を所望の環境にさらすことができる環境試験装置、及び試験室内に調整された空気を供給する空調装置に関するものである。
本発明の環境試験装置及び空調装置は、試験室内を通風環境にして環境試験を行う用途に適したものである。
【背景技術】
【0002】
製品や部品等の性能や耐久性を調べる試験として、環境試験が知られている。環境試験は、環境試験装置と称される設備を使用して実施される。環境試験装置は、例えば高温環境や、低温環境、高湿度環境等を人工的に作り出すものである。
環境試験装置には、温度や湿度を整える空調部が試験室と一体になったものや、試験室とは別に空調装置を持ち、空調部と試験室が分かれたものがある。
【0003】
ところで航空機や車両、汽車等は、飛行時や走行時に各部に風が当たる。そこで航空機や車両等の走行時等の環境を再現するため、試験室内に通風環境を作り、その中に被試験物をさらして環境試験を実施する場合がある。通風環境を作ることができる装置には例えば特許文献1に開示されたものがある。
通風環境を作る環境試験装置は、被試験物自体の大きさが大きかったり、被試験物を駆動する装置が大型である場合があり、試験室と空調部が別体となったものが採用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−311732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、試験室内に通風環境を作りだすことができる環境試験装置100の概念図である。なお図1に示す環境試験装置100は、本発明者らが試作したものであり、市販品そのものではない。
【0006】
環境試験装置100は、前記した様に試験室2と空調部3が別体である。環境試験装置100では、空調部3と試験室2との間が循環流路(空気流路)5で接続されている。
試験室2は、被試験物を設置する試験空間6を有している。試験空間6は、断熱壁7によって覆われている。
試験室2内には、風速センサー(送風情報検知手段)8が設けられている。
試験室2には、送風導入口10と、送風排出口11がある。
【0007】
空調部3は、内部に通風空間(図示せず)を有し、その中に空調機器18が内蔵されている。空調機器18には冷却装置12と加湿装置13と加熱ヒータ15が含まれる。従って空調部3は、冷却装置12、加湿装置13、加熱ヒータ15、及び送風機16を備えている。送風機16はインバータ制御されており、モータの回転数を変更して送風量を増減することができる。
空調部3は、試験室2側に送風する空気供給口20と、試験室2から戻された空気を空調部3内に導入する空気戻り口21を有している。
空調部3は、空気戻り口21から通風空間(図示せず)に空気を導入し、通風空間を通過する間に空気の温度及び湿度を調整し、送風機16によって空気供給口20から送風する機能を有している。
【0008】
環境試験装置100は、試験室2と空調部3が別体であり、両者の間が循環流路5で接続されたものである。
即ち空調部3の空気供給口20と、試験室2の送風導入口10との間が往き側空気流路22で接続されている。また試験室2の送風排出口11と空調部3の空気戻り口21の間が戻り側空気流路25で接続されている。往き側空気流路22及び戻り側空気流路25はいずれもダクトである。
【0009】
往き側空気流路22には往き側開度調節手段30が設けられている。また戻り側空気流路25には戻り側開度調節手段33が設けられている。往き側開度調節手段30及び戻り側開度調節手段33は、いずれもモータダンパーであり、開度を任意に変更することができる。
試作した環境試験装置100では、往き側開度調節手段30及び戻り側開度調節手段33は、いずれもPID制御装置によって制御されている。環境試験装置100では、往き側開度調節手段30と戻り側開度調節手段33が同期的に開閉するので、以下、両者を総称して開度調節手段30,33と称する場合がある。
【0010】
環境試験装置100では図示しない入力装置で、試験室2の環境が設定される。環境試験装置100においては、設定温度、設定湿度に加えて、目標風速が入力される。
環境試験装置100では、試験室2内の風速センサー8で被試験物に当たる風の風速が検知され、当該風速が送風機16と開度調節手段30,33にフィードバックされて、試験室2内の風速が目標風速となる様に調節される。
原則的には、風速センサー8で検知された風速が目標風速を下回る場合には送風機16の回転速度が増加されると共に開度調節手段30,33の開度が開かれる。
また原則的には、風速センサー8で検知された風速が目標風速を上回る場合には送風機16の回転速度を低下すると共に開度調節手段30,33の開度が狭められる。
【0011】
環境試験装置100は、試験室2内の風速を任意に設定することができる。また試験中に、試験室2内の風速を変更することもできる。例えば現状の風速(現状目標風速)が、10m/sであるところ、これを新規目標風速たる11m/sに上昇させることができる。逆に現状目標風速が、11m/sであるところ、これを新規目標風速10m/sに降下させることもできる。
しかしながら、例えば現状目標風速及び実際の風速が3m/sであり、これを新規目標風速たる15m/sに上昇させたい場合や、現状目標風速が15m/sであり、これを新規目標風速3m/sに降下させたい場合の様に、変動幅が大きい場合には、現状目標風速から新規目標風速に変化させるのに要する時間が掛かりすぎる場合があった。この理由を検討したところ、次の様な要因があることが判明した。
【0012】
即ち試作した環境試験装置100では、風速センサー8で検知された風速が開度調節手段30,33にフィードバックされている。ここで開度調節手段30,33は、モータダンパーであり、略全閉状態から全開状態まで開度を変更することができる。
そのため例えば現状目標風速が低い状態であるならば、送風機16が低速で回転し、且つ開度調節手段30,33は開度が小さい状態となっている場合がある。
これに対して新規目標風速が現状目標風速に比べて大幅に速い場合、送風機16の回転速度を上げてを高速で回転し、且つ開度調節手段30,33の開度を大きく広げる必要がある場合がある。
ここで送風機16の回転数は応答性が高く、早期に設定の高速回転状態に至る。これに対して開度調節手段30,33は応答性が低く、開度が強く絞られた状態から大きく開度を開くのに時間が掛かる。
【0013】
さらに加えて、開度調節手段30,33の開度を広げる際に、一時的に開き動作が遅くなったり、一時的に開き動作が止まってしまったり、逆に閉じ方向に動作してしまう場合があった。また開度調節手段30,33がハンチングして開き方向の動作と閉じ方向の動作を繰り返してしまう場合もあった。さらに風速変化がオーバーシュート状態となる場合もあった。
この理由は、送風機16の応答速度と開度調節手段30,33の応答速度の相違に起因すると予想される。
即ち送風機16は応答速度が速いので速やかに回転数が変化し、試験室2の風速が急速に増加する。また開度調節手段30,33は、PID制御装置によって制御されている。即ち比例制御と、積分制御と、微分制御によって開度調節手段30,33の開度が調整されている。
ここで、PID制御装置は微分制御を含んでいるから、試験室2の風速が急速に増加すると、この変化を抑制する方向に開度調節手段30,33を動作させてしまう場合がある。そのため試験室2の風速が新規目標風速に達していないにも係わらず、試験室2の風速の変化勾配(微分成分)の大きさから開度調節手段30,33を開く動きを止めてしまう場合がある。
【0014】
また試作した環境試験装置100では、開度調節手段30,33の開度と送風機16の回転速度を共に変更するから、目標風速が低い場合、送風機16の回転速度が低速であって低く、その一方で開度調節手段30,33の開度が大きい状態で試験室2内の風速が目標風速に安定している場合がある。
【0015】
この様に目標風速が低い場合であって、送風機16の回転速度が低く、開度調節手段30,33の開度が大きい状態で試験室2内の風速が目標風速に安定している状態から、新規目標風速が高速に切り換えられる場合を想定する。
この場合、仮に送風機16の回転速度が高速、開度調節手段30,33が中程度の開度となって試験室2内の風速が安定すると仮定すると、送風機16は低速から高速に向かって移行し、開度調節手段30,33は全開状態から半開状態に向かって移行する。
【0016】
ここで送風機16は応答速度が速いので、速やかに低速から高速に移行する。これに対して開度調節手段30,33が全開状態から半開状態に移行するには時間が掛かり、送風機16が高速状態となっているにも係わらず、開度調節手段30,33は全開状態から少し閉じ方向に動作したに過ぎない状態となる場合がある。
その結果、試験室2内の風速がオーバーシュートしてしまう場合がある。
【0017】
またPID制御装置の比例制御の作用や、微分制御の作用により、開きはじめた開度調節手段30,33が逆に閉じ方向に動作する場合もある。さらに開度調節手段30,33がハンチングしてしまう場合もある。
【0018】
PID制御のパラメータが適切であるならば、開度調節手段30,33の動作も適切なものとなるであろうが、送風機16の回転速度の変化量が大きい場合には、適切なパラメータを見つけることが困難であったり、そもそも適切なパラメータが存在しない場合もある。
即ちPID制御を行うためには、比例制御のパラメータたるP値と、積分制御のパラメータたるI値と、微分制御のパラメータたるD値を設定する必要がある。しかしながら、PID制御において各パラメータの作用は相関し、制御対象の特性に応じたPIDパラメータの最適値を求めるためには経験や知識が要求される。
【0019】
本発明は上記した問題に注目し、現状目標風速と新規目標風速の差が大きい場合であっても、短時間の内に試験室内の風速を新規目標風速に収束させることができる環境試験装置及び空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、被試験物を設置する試験室と、当該試験室の送風環境に関する情報を検知する送風情報検知手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する環境試験装置において、前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、前記移行期制御モードには加速モードがあり、前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以上であることを特徴とする環境試験装置である。
また請求項2に記載の発明は、被試験物を設置する試験室と、当該試験室の送風環境に関する情報を検知する送風情報検知手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する環境試験装置において、前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、前記移行期制御モードには減速モードがあり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以下であることを特徴とする環境試験装置である。
【0021】
ここで「試験室内の風速が新規目標風速に達するか新規目標風速に対して一定範囲に至る」には、試験室内の風速が新規目標風速に達した場合、試験室内の風速は新規目標風速に到達してはいないが相当に近づいた場合、試験室内の風速変化量が過剰であり、新規目標風速を越えて変化した場合を含む。
本発明の環境試験装置では、運転モードとして、通常制御モードと移行期制御モードがある。通常制御モードは、標準回転数又はその近傍で送風機を回転しつつ開度調節手段を制御して試験室内の風速を調整する運転モードである。通常制御モードによると、試験室内の送風環境が僅かに変化して目標風速から外れた場合、迅速にそれを修正することができる。
移行期制御モードは、試験中に目標風速を変更する場合に実行される運転モードである。移行期制御モードは、目標風速を変更する場合に必ず実行されるものである必要はなく、変更幅が大きい場合に限定して実行されることが望ましい。
移行期制御モードでは、開度調節手段により空気流路の開度を一定開度範囲に制限する。そのため開度調節手段の動作は、原則的にフィードバック制御によらないので、迅速である。また前記した様に送風機の応答は速いので、早期に新規目標風速又はその近傍に至る。試験室内の風速が新規目標風速に達するか新規目標風速に対して一定範囲に至ると、移行期制御モードを解除し、通常制御モードが実行される。そのため試験室内の風速が安定する。
【0022】
請求項に記載の発明は、前記移行時回転数は前記標準回転数とは異なるものであって前記新規目標風速に応じて決定され、前記移行時回転数と前記標準回転数との差は、前記新規目標風速に対応する前記標準回転数に対して所定割合の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置である。
【0023】
本発明によると、移行時回転数が標準回転数に対して過剰にかけ離れたものとならないから、ハンチングを起こしにくい。
【0024】
前記した請求項1及び請求項2に記載の発明は、移行期制御モードには加速モード又は減速モードがあり、加速モードは現状目標風速に比べて新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、減速モードは現状目標風速に比べて新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、加速モードにおける開度調節手段の開度範囲は標準開度以上であり、減速モードにおける開度調節手段の開度範囲は標準開度以下であることを特徴の一つとしている。
【0025】
請求項4に記載の発明は、前記移行期制御モードには加速モードと減速モードがあり、前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数以上であり、前記減速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0026】
請求項5に記載の発明は、前記移行期制御モードには加速モードと減速モードがあり、前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度よりも広く、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度よりも狭く、前記加速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数よりも高く、前記減速モードにおける前記移行時回転数は前記標準回転数よりも低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0027】
請求項乃至5に記載の発明によると、試験室内の風速が早期に新規目標風速に到達する。
【0028】
前記現状目標風速と前記新規目標風速の差が一定以上である場合に前記移行期制御モードが実行されることが望ましい(請求項6)。
【0029】
PID制御装置を有し、前記開度調節手段の開度が前記PID制御装置によって制御されることが望ましい(請求項7)。
【0030】
同様の課題を解決するもう一つの発明は、試験室に対して空気を送風する空調装置であって、前記試験室の送風環境に関する情報を入力する送風情報入力手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する空調装置において、前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、前記移行期制御モードには加速モードがあり、前記加速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が速い場合に実施される移行期制御モードであり、前記加速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以上であることを特徴とする空調装置である(請求項8)。
また請求項9に記載の発明は、試験室に対して空気を送風する空調装置であって、前記試験室の送風環境に関する情報を入力する送風情報入力手段と、空調部と、回転数を増減可能な送風機と、前記空調部と前記試験室の間で空気を流通させる空気流路と、当該空気流路の開度を増減する開度調節手段を有し、前記空調部の空気を前記送風機で前記試験室に送風し、前記回転数と、前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を目標風速に調整する空調装置において、前記目標風速に対応する前記送風機の標準回転数があり、前記標準回転数は前記開度調節手段を所定の標準開度とした際に前記試験室内の風速が前記目標風速になると想定される回転数であり、前記標準回転数又はその近傍で前記送風機を回転しつつ前記開度調節手段を制御して前記試験室内の風速を調整する通常制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、前記開度調節手段により前記空気流路の開度を一定開度範囲に制限し、前記送風機を所定の移行時回転数で回転して前記試験室内の風速を前記新規目標風速に近づける移行期制御モードによる運転が可能であり、前記試験室内の風速が前記新規目標風速に達するか前記新規目標風速に対して一定範囲に至ると、前記移行期制御モードを解除し、前記通常制御モードを実行するものであり、前記移行期制御モードには減速モードがあり、前記減速モードは前記現状目標風速に比べて前記新規目標風速が遅い場合に実施される移行期制御モードであり、前記減速モードにおける前記開度調節手段の開度範囲は前記標準開度以下であることを特徴とする空調装置である。
【0031】
請求項8、9に記載の発明によると、試験室内の風速を早期に新規目標風速に到達させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の環境試験装置及び空調装置によると、試験室の現状目標風速と新規目標風速の差が大きい場合であっても、短時間の内に試験室内の風速を新規目標風速に収束させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態及び開発過程で試作した環境試験装置の原理図である。
図2】本発明の実施形態の環境試験装置で採用する制御装置のブロック図である。
図3】(a)は本発明の実施形態の環境試験装置における試験室内の風速と送風機の回転数との相関関係及び標準回転数と移行時回転数の関係を示すグラフであり、(b)はその環境試験装置における試験室内の風速と開度調節手段の標準開度及び移行時開度の関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態の環境試験装置の動作を示すフローチャートである。
図5】(a)は本発明の他の実施形態の環境試験装置における試験室内の風速と送風機の回転数との相関関係及び標準回転数と移行時回転数の関係を示すグラフであり、(b)はその環境試験装置における試験室内の風速と開度調節手段の標準開度及び移行時開度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の環境試験装置1の機械的構成は、試作した環境試験装置100と同一である。本実施形態の環境試験装置1と試作した環境試験装置100との相違点は、風速の制御方法である。本実施形態の環境試験装置1は、空調装置26を制御する制御装置27を有している。図2に示す様に、制御装置27は、往き側開度調節手段30を制御するPID制御装置35と、戻り側開度調節手段33を制御するPID制御装置36を備えている。
また制御装置27は、制御部28を備えている。制御部28は、送風情報入力手段と、モータ制御手段及び記憶手段として機能する。また制御部28には動作プログラムが記憶されている。以下、説明する。
【0035】
本実施形態の環境試験装置1についても、図示しない入力装置で、試験室2の環境が設定される。環境試験装置1においても、設定温度、設定湿度に加えて、目標風速が入力される。
そして環境試験装置1を駆動すべく運転スイッチをオンし、各機器を起動する。環境試験装置1を構成する機器の内、空調部3の空調機器18は、従来と同様に設定温度及び設定湿度の空気を試験室2に送り出すべく制御される。
即ち空調部3内の冷却装置12と加湿装置13と加熱ヒータ15は、試験室2内の温度及び湿度が設定値に一致する様に、PID制御される。
また風速センサー(送風情報検知手段)8の信号が制御装置27の送風情報入力手段に入力されていて試験室2内の風速が監視され、試験室2内の風速が目標風速に一致する様に、送風機16と、往き側循環開度調節手段30、戻り側循環開度調節手段33が制御される。即ち送風機16の回転数が制御装置27のモータ制御手段で制御される。また往き側循環開度調節手段30、戻り側循環開度調節手段33がPID制御装置35,36によって制御される。
【0036】
本実施形態では、運転モードとして、通常制御モードと、移行期制御モードがある。また移行期制御モードとして、加速モードと減速モードが用意されている。これらの動作モードは動作プログラムに則って実施される。
通常制御モードは、主として試験室2内の送風環境が安定している場合に実行される運転モードであり、標準回転数で送風機16を回転しつつ開度調節手段30,33をPID制御して試験室2内の風速を微調整する運転モードである。
【0037】
ここで送風機16の標準回転数について説明する。標準回転数は、目標風速に対応する送風機の標準回転数であり、開度調節手段30,33を所定の標準開度とした際に試験室2内の風速が目標風速になると想定される回転数である。
開度調節手段30,33の標準開度は任意であるが、予想される試験室2内の送風の変動方向を考慮して定められる。
例えば、外乱によって試験室2内の送風が目標風速に対して下方に変動する場合が多いときは、送風量を上方に修正する余裕幅を大きくするために、標準開度を低めに定める。逆に試験室2内の送風が目標風速に対して上方に変動する場合が多いときは、送風量を下方に修正する余裕幅を大きくするために、標準開度を高めに定める。
いずれとも言えない場合には、標準開度を可動範囲の中間近傍に定める。本実施形態では、標準開度を全開状態を基準として50%(パーセント)開度としているが、本発明は、この開度に限定されるものではない。
【0038】
図3(a)の実線は、開度調節手段30,33の開度を仮に50%(パーセント)に固定した場合の送風機16の回転数と試験室2内の風速の相関関係を示している。図3(a)の実線が標準回転数であり、通常制御モードにおいては送風機16の回転数が標準回転数となる様に制御される。
【0039】
なお通常制御モードにおいては、前記した様に開度調節手段30,33がPID制御され、開度が変化する。そのため通常制御モードにおいては、開度調節手段30,33の開度はなりゆきである。しかしながら、そもそも標準回転数は、開度調節手段30,33の開度を標準開度に固定した場合に試験室2内に目標風速を発生させる回転数であるから、通常制御モードにおいては、開度調節手段30,33の開度は標準開度を中心として変化することとなる。
仮に標準開度が50%であるならば、通常制御モードにおいては、開度調節手段30,33の開度は50%を中心として変化することとなる。
即ち通常制御モードにおいては、送風機16の回転数が標準回転数となる様に制御され、実際の試験室2内の風速が風速センサー8でモニターされ、試験室2内の風速が目標風速に一致する様に開度調節手段30,33がPID制御され、開度調節手段30,33の開度が変化する。しかし実際上、外乱が小さい場合は、開度調節手段30,33の開度は50%を中心として変化することとなる。
【0040】
図3(b)の実線は標準開度であり、通常制御モードを実行した場合であって、外乱が小さい場合の開度調節手段30,33の開度と、試験室2内の風速の関係を示している。前記した様に、通常制御モードにおいては試験室2内の風速が目標風速に一致する様に開度調節手段30,33の開度がフィードバック制御(PID制御)されて変化するが、外乱が小さい場合は、開度調節手段30,33の開度は標準開度たる50%前後に収束する。
【0041】
標準回転数は、環境試験装置1の設置条件によって変わるので、環境試験装置1を試運転する際に実験によって求めることが望ましい。試験室2内の風速と標準回転数の関係や、実際の数値が、制御装置27の記憶手段に記憶されている。
なお図3(a)の実線は、Y=100X+200の直線である。
本実施形態で採用する送風機16は駆動モータがインバータ制御されており、送風機16(モータ)の回転数を無段階に変更することができる。
また送風機16の回転数は、インバータ制御における目標周波数と1対1の関係にあるから、送風機16の回転数に代わって、インバータ制御の目標周波数が図示しない記憶手段に記憶されていてもよい。
【0042】
移行期制御モードは、試験中に目標風速を変更する場合に実行される運転モードである。ただし移行期制御モードは、試験中に目標風速を変更する場合に常に実行されるのではなく、目標風速の変動幅が大きい場合に限って実行される。
【0043】
移行期制御モードを実行する基準となる目標風速の変動量は、0.5m/s乃至5m/s程度であり、より望ましくは1m/s乃至2m/s程度である。
加速モードと減速モードによって移行期制御モードを実行する基準となる目標風速の変動量を変えてもよい。
【0044】
また移行期制御モードを実行する基準となる目標風速の変動幅を変動割合で定めてもよい。例えば、現状目標風速を基準として新規目標風速が5%(パーセント)から50%(パーセント)であり、より望ましくは、現状目標風速を基準として新規目標風速が10%(パーセント)から20%(パーセント)としてもよい。
【0045】
移行期制御モードでは、開度調節手段30,33のフィードバック制御(PID制御)が解除され、所定の移行時開度に固定される。本実施形態では、図3(b)の様に加速モードと減速モードによって移行時開度が異なる。図3(b)の様に移行時開度は、加速モードにおいては標準開度よりも高く(広く)、減速モードにおいては標準開度よりも低い(狭い)。
移行時開度は、標準開度に対してプラスマイナス5%(パーセント)から15%(パーセント)程度であることが推奨される。
本実施形態では、移行時開度は、標準開度に対してプラスマイナス10%(パーセント)である。
具体的には、加速モードにおける移行時開度は、標準開度(50%)に対して10%増しの55%であり、減速モードにおける移行時開度は、標準開度(50%)に対して10%減の45%である。
【0046】
より詳細に説明すると、加速モードでは標準開度を1とし、この10%増しの開度とする。即ち全開FOに対して標準開度は、0.5FOであり、加速モードにおける移行時開度は、「0.5FO(1+0.1)」であり、全開FOに対して55%の開度である。
同様に減速モードにおける移行時開度は、「0.5FO(1−0.1)」であり、全開FOに対して45%の開度である。
【0047】
加速モードにおける移行時開度の標準開度に対する割合と、減速モードにおける移行時開度の標準開度に対する割合は異なっていてもよい。例えば加速モードにおける移行時開度が、標準開度(50%)に対して6%増しの53%であり、減速モードにおける移行時開度は、標準開度(50%)に対して12%減の44%であってもよい。
【0048】
通常制御モードの際には、開度調節手段30,33はフィードバック制御されているから、例えば開度が30%となっている場合がある。この状態において、加速モードに切り替わると、30%であった開度がただちに移行時開度たる55%に変化し、開度が固定される。同様に例えば開度が30%となっている状態において、減速モードに切り替わると、30%であった開度がただちに移行時開度たる45%に変化し、開度が固定される。
【0049】
また移行期制御モードでは、送風機16の回転数が標準回転数から、移行時回転数に変わる。
移行時回転数は、新規目標風速に応じて決定される回転数である。
移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて高め、あるいは低めの回転数である。具体的には、加速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて高めであり、減速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて低めである。
本実施形態では、加速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて毎分40回転(r.p.m)早く、減速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて毎分40回転(r.p.m)遅い。
本実施形態では、加速モードにおける移行時回転数を示す直線は、Y=100X+240の直線である。減速モードにおける移行時回転数を示す直線は、Y=100X+160の直線である。
【0050】
加速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数と同じであってもよいが、本実施形態の様に、加速モードにおける移行時回転数は、標準回転数に比べて高めであり、減速モードにおける移行時回転数は、新規目標風速の標準回転数に比べて低めであることが望ましい。
また加速モードにおける移行時回転数と標準回転数との差と、減速モードにおける移行時回転数と標準回転数との差は異なっていてもよい。
【0051】
送風機16はインバータ制御されており、モータの回転数を無段階に変更することができるが、移行期制御モードにおいては、送風機16の回転数は移行時回転数に固定される。
【0052】
次に、環境試験装置1の動作を図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
本実施形態では、試験室2内の送風環境が安定している場合には、ステップ1の様に通常制御モードで運転が行われる。
通常制御モードでは、送風機16は、回転数が標準回転数に固定されて運転される。そして開度調節手段30,33がPID制御され、試験室2内の風速が調整される。
【0053】
即ち送風機16を一定の標準回転数で回転し、試験室2内の風速が風速センサー8でモニターされ、試験室2内の風速が目標風速に一致する様に開度調節手段30,33がPID制御される。なお外乱が小さい場合には、開度調節手段30,33の開度は50%を中心として変化する。
通常制御モードにおいては、送風機16は、試験室2内の実際の風速に係わらず標準回転数で回転する様に制御される。一方、開度調節手段30,33は、試験室2内の風速が目標風速に一致する様に開度が変化する。
【0054】
ステップ2で、試験中に目標風速が変更されたか否かが監視される。そしてステップ2で、目標風速がされると、ステップ3に移行し、目標風速の変動量が大きいか否かが判断される。
目標風速の変動量が小さい場合には、通常制御モードで対応しても短時間で新規目標風速に到達するので、ステップ1に戻り、通常制御モードを維持する。
これに対して、目標風速の変動量が大きい場合には、通常制御モードで対応すると新規目標風速に到達するのに長時間を要することとなるので、ステップ4以降に移行し、運転モードを通常制御モードから移行期制御モードに変更する。
【0055】
まずステップ4で、目標風速の変更方向が、上昇側であるか下降側であるかを判定する。目標風速の変更方向が、上昇側である場合は、ステップ5以下に移行し、加速モードを実行する。また目標風速の変更方向が、下降側である場合は、ステップ15以下に移行し、減速モードを実行することとなる。
【0056】
仮に目標風速の変更方向が上昇側である場合は、ステップ5以下に移行し、運転モードが加速モードに変更される。
そしてステップ6に移行し、移行時回転数が演算又は所定の記憶手段から呼び出される。ステップ6においては、加速モード用の移行時回転数が演算される。そしてステップ7に移行し、送風機16の回転数が移行時回転数に変更され、この移行時回転数で固定される。
【0057】
そしてステップ8に移行し、開度調節手段30,33のフィードバック制御が停止される。
さらにステップ9に移行し、開度調節手段30,33の開度が、移行時開度に変更される。即ちそれまでの開度調節手段30,33の開度に係わらず、開度調節手段30,33の開度が、加速モードにおける移行時開度たる55%に変更される。ステップ8で、開度調節手段30,33のフィードバック制御が停止されているから、開度調節手段30,33を動作するモータは高速回転し、開度調節手段30,33の開度は、短時間の内に移行時開度たる55%に至る。
ステップ7で送風機16の回転数が標準回転数から移行時回転数に増速され、且つ開度調節手段30,33の開度が一定以上確保されるから、試験室2内の風速は急速に増加し、短時間の内に新規目標風速に到達する。
【0058】
ステップ10で、試験室2内の風速が新規目標風速に到達したことが確認されると、ステップ11に移行し、通常運転モードに復帰する。
即ちステップ12で新規目標風速における標準回転数が求められ、ステップ13で送風機16の回転数が移行時回転数から標準回転数に減速される。
さらにステップ14に移行し、開度調節手段30,33のフィードバック制御を再開する。
【0059】
以上、目標風速の変更方向が上昇側である場合について説明したが、目標風速の変更方向が下降側であっても同様の動作が行われる。
簡単に説明すると、目標風速の変更方向が下降側である場合には、ステップ4からステップ15以下に移行し、運転モードが減速モードに変更される。
そしてステップ16に移行し、移行時回転数が演算又は所定の記憶手段から呼び出される。ステップ16においては、減速モード用の移行時回転数が演算される。そしてステップ17に移行し、送風機16の回転数が移行時回転数に変更され、この移行時回転数で固定される。
【0060】
そしてステップ18に移行し、開度調節手段30,33のフィードバック制御が停止される。
さらにステップ19に移行し、開度調節手段30,33の開度が、移行時開度に変更される。即ちそれまでの開度調節手段30,33の開度に係わらず、開度調節手段30,33の開度が、減速モードにおける移行時開度たる45%に変更される。
【0061】
ステップ10で、試験室2内の風速が新規目標風速に到達したことが確認されると、ステップ11に移行し、通常運転モードに復帰する。以下、前記した場合と同様であり、ステップ12で新規目標風速における標準回転数が求められ、ステップ13で送風機16の回転数が移行時回転数から標準回転数に減速される。
さらにステップ14に移行し、開度調節手段30,33のフィードバック制御を再開する。
【0062】
以上説明した実施形態では、往き側空気流路22と戻り側空気流路25にそれぞれ開度調節手段30,33が設けられているが、いずれか一方だけに開度調節手段30,33が設けられているものであってもよい。一方だけに開度調節手段を設ける場合には、往き側空気流路22に開度調節手段30を設けることが望ましい。
【0063】
また往き側空気流路22と戻り側空気流路25を接続するバイパス空気流路を有するものであってもよい。
【0064】
以上説明した実施形態では、試験室2と空調部3が別体であるが、両者は一体のものであってもよい。
【0065】
以上説明した実施形態の環境試験装置1は、試験室2内の温度と湿度の双方を制御することができるものであるが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、温度又は湿度のいずれか一方を制御するものであってもよい。さらには温度も湿度も制御しないものであってもよい。
【0066】
以上説明した実施形態の環境試験装置1は、試験室2内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、開度調節手段30,33による空気流路の開度を極めて狭い一定開度範囲に制限した。即ち環境試験装置1では、試験室2内の風速を現状目標風速から新規目標風速に変化させる際に、開度調節手段30,33による空気流路の開度を一定値に固定した。しかしながら本発明はこの構成に限定されるものではなく、ある程度の変動幅を許容するものであってもよい。
送風機16の移行時回転数についても同様であり、ある程度の変動幅を許容するものであってもよい。
【0067】
以上説明した実施形態では、ステップ10で、試験室2内の風速が新規目標風速に到達したことが確認されてからステップ11に移行し、通常運転モードに復帰したが、通常運転モードに復帰させるタイミングは、より早くても遅くてもよい。
例えば、試験室2内の風速が新規目標風速に到達する前に通常運転モードに復帰させてもよい。また試験室2内の風速が新規目標風速のラインを越えて上昇又は下降した後に通常運転モードに復帰させてもよい。
【0068】
上記した実施形態では、移行時回転数は、標準回転数に対して一定の回転数を足すか引いた回転数としたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、他の関数に応じて算出されるものであってもよい。例えば図5(a)に示すグラフの様に、標準回転数に対して一定の割合の数値を移行時回転数としてもよい。
【0069】
移行時開度についても同様であり、前記した実施形態では標準開度に対して一定の開度を足すか引いた開度としたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、他の関数に応じて算出されるものであってもよい。例えば図5に示すグラフの様に、標準開度に対して一定の割合の開度を移行時開度としてもよい。
【0070】
以上説明した実施形態では、開度調節手段30,33の標準開度の一例として50%開度を例示した。前記した様に、本発明は標準開度を50%開度に限定するものではなく、使用者の設定や、使用者が頻繁に設定する目標風速の変更領域に応じて標準開度を変えてもよい。例えば、標準開度を40%開度に設定したり、60%開度に設定してもよい。
【0071】
環境試験装置1が、仮に試験室2内に微風から弱風、強風、暴風に至るまで広範囲の通風環境を作ることができるものであったとしても、使用者が頻繁に試験する風速領域が例えば強風から暴風といった高い風速領域である場合がある。この様な使用環境である場合には、標準開度は、高め(広め)であることが望ましく、例えば60%前後に標準開度を設定してもよい。この様に標準開度が60%開度という様に高い場合には、送風機16の回転数を下げることができ、消費電力が低減される。また送風機16の騒音も低減される。
開度調節手段30,33の標準開度が高い場合には、移行時開度は標準の場合に比べて全体的に高い開度に設定される。例えば加速モードにおける移行時開度が70%開度で、減速モードにおける移行時開度が50%開度という場合もある。
【0072】
逆に使用者が頻繁に試験する風速領域が微風から弱風といった低い風速領域である場合もある。この様な使用環境である場合には、標準開度は、比較的低い(狭い)ことが望ましく、例えば40%前後に標準開度を設定してもよい。
開度調節手段30,33の標準開度が低い場合には、移行時開度は標準の場合に比べて全体的に低い開度に設定される。例えば加速モードにおける移行時開度が50%開度で、減速モードにおける移行時開度が35%開度という場合もある。
【0073】
上記した実施形態では、通常制御モードの場合、開度調節手段30,33がPID制御され、開度が変化するが、予め開度にある程度の制限を設けてもよい。例えば変化幅を標準開度を中心として高低それぞれ20%という様に制限してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 環境試験装置
2 試験室
3 空調部
8 風速センサー(送風情報検知手段)
16 送風機
18 空調機器
26 空調装置
22 往き側空気流路
25 戻り側空気流路
30 往き側開度調節手段
33 戻り側開度調節手段
35,36 PID制御装置
図1
図2
図3
図4
図5