特許第6543263号(P6543263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543263様々な使用範囲の充電状態(SOC)を有する複数のセルを備えるバッテリの、充電状態の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543263
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】様々な使用範囲の充電状態(SOC)を有する複数のセルを備えるバッテリの、充電状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20190628BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20190628BHJP
   G01R 31/36 20190101ALI20190628BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20190628BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20190628BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20190628BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20190628BHJP
【FI】
   G01R31/382
   G01R31/385
   G01R31/36ZHV
   H02J7/00 X
   H02J7/02 H
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   !B60L3/00 S
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-555751(P2016-555751)
(86)(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公表番号】特表2017-510800(P2017-510800A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】FR2015050566
(87)【国際公開番号】WO2015132544
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2018年3月8日
(31)【優先権主張番号】1451892
(32)【優先日】2014年3月7日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リュシー, マルク
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/167833(WO,A1)
【文献】 特開2012−173250(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051135(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/027449(WO,A1)
【文献】 特開2008−308122(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0027048(US,A1)
【文献】 特開2009−124933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/36
H02J 7/00
H02J 7/02
H01M 10/48
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の電気化学セル(C、...C)を備えるバッテリであって、各セル(C、...C)が最小許容充電状態値(BSOCmin)と最大許容充電状態値(BSOCmax)との間に保持された充電状態(SOC)を有するバッテリの充電状態(SOCpack)の評価方法であって、前記方法は、
− 所与の時点において、前記セルの端子間の電圧から、最小セル電圧(UCmin)と最大セル電圧(UCmax)を決定するステップ、
− 前記最小セル電圧(UCmin)を有する前記セルの最小充電状態(SOCmin)と、最大セル電圧(UCmax)を有する前記セルの最大充電状態(SOCmax)とを計算するステップであって、前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)は前記最小充電状態(SOCmin)と前記最大充電状態(SOCmax)の間にある、計算するステップ、を含み、
前記方法は、前記セルの健全性を表す少なくとも1つの物理量に応じて、及び/または、前記バッテリの温度に応じて、各セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)及び前記最大許容充電状態値(BSOCmax)を調整するステップ、及び
前記最大セル電圧(UCmax)を有する前記セルの前記最大充電状態(SOCmax)が前記セルの前記最大許容充電状態値(BSOCmax)よりも大きい場合、及び、前記最小セル電圧(UCmin)を有する前記セルの最小充電状態(SOCmin)が前記セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)よりも小さい場合、前記方法は、前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)に「利用不能」という値を帰属させることを含むステップを含むことを特徴とする、バッテリの充電状態(SOCpack)の評価方法。
【請求項2】
− 前記最小セル電圧(UCmin)を有する前記セルの前記最小充電状態(SOCmin)が、前記セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)よりも小さい場合に、前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)を前記最小充電状態(SOCmin)に合わせるステップ、及び/または、
− 前記最大セル電圧(UCmax)を有する前記セルの前記最大充電状態(SOCmax)が、前記セルの前記最大許容充電状態値(BSOCmax)よりも大きい場合に、前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)を前記最大充電状態(SOCmax)に合わせるステップ、
を含む、少なくとも1つのステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記最大セル電圧(UCmax)を有する前記セルの前記最大充電状態(SOCmax)が前記セルの前記最大許容充電状態値(BSOCmax)以下である場合、及び、前記最小セル電圧(UCmin)を有する前記セルの前記最小充電状態(SOCmin)が前記セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)以上である場合、前記評価方法は、以下の関係によって、所与の時点kにおける前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)を評価することを含むステップを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記セルの健全性を表す前記少なくとも1つの物理量は、前記セルの前記端子間で測定された電圧、及び/または前記セルを流れる電流(IBAT)、及び/または前記セルに関する温度であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記最小及び最大許容充電状態値(BSOCmin、BSOCmax)と、前記セルの前記健全性を表す前記少なくとも1つの物理量との間の対応は、既定であり、好ましくは数値表中で既定されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項6】
− 前記最小許容充電状態値(BSOCmin)と前記最大許容充電状態値(BSOCmax)との間で規定される使用範囲は、前記セルの前記健全性及び前記セルの経年の進行に応じて広くなり、及び/または、
− 前記使用範囲は、前記バッテリの前記温度が比較的低く、既定の温度閾値未満である場合に、限定される
ことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
直列に接続された複数の電気化学セル(C、...C)を備えるバッテリであって、前記複数の電気化学セル(C、...C)の各々が、最小許容充電状態値(BSOCmin)と最大許容充電状態値(BSOCmax)との間で保持された充電状態(SOCpack)を有するバッテリの、充電状態の評価システムであって、前記システムが、
− 前記バッテリの電流測定値(IBAT)を提供可能な電流センサと、
− 前記バッテリの温度測定値(TBAT)を提供可能な1または複数の温度センサと、
− 前記セルの端子間の電圧から最小セル電圧(UCmin)と最大セル電圧(UCmax)を収集可能な電子制御ユニット(ECU)であって、前記最小セル電圧(UCmin)、前記電流測定値(IBAT)、及び前記バッテリの前記温度測定値(TBAT)によって前記セルの最小充電状態(SOCmin)を評価可能な第2の評価モジュール(20)、前記最大セル電圧(UCmax)、前記電流測定値(IBAT)、及び前記バッテリの前記温度測定値(TBAT)によって前記セルの最大充電状態(SOCmax)を評価可能な第3の評価モジュール(30)、並びに、前記最小充電状態(SOCmin)と前記最大充電状態(SOCmax)に応じて、及び、第4のモジュール(40)によって決定される前記最小許容充電状態値(BSOCmin)と前記最大許容充電状態値(BSOCmax)に応じて、前記充電状態(SOCpack)を決定可能な第5の評価モジュール(50)であって、前記第4のモジュール(40)は、前記セルの健全性を表す少なくとも1つの物理量に応じて、及び/または、前記バッテリの前記温度測定値(TBATに応じて、各セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)と前記最大許容充電状態値(BSOCmax)を調整可能な、第5の評価モジュールを備えるとともに、前記最大セル電圧(UCmax)を有する前記セルの前記最大充電状態(SOCmax)が前記セルの前記最大許容充電状態値(BSOCmax)よりも大きい場合、及び、前記最小セル電圧(UCmin)を有する前記セルの最小充電状態(SOCmin)が前記セルの前記最小許容充電状態値(BSOCmin)よりも小さい場合、前記バッテリの前記充電状態(SOCpack)に「利用不能」という値を帰属させるように構成される電子制御ユニット(ECU)と、を備える、システム。
【請求項8】
前記最小セル電圧(UCmin)と前記最大セル電圧(UCmax)のみを前記電子制御ユニット(ECU)に直接送達することが可能な、第1のモジュール(10)を含むことを特徴とする、請求項に記載の評価システム。
【請求項9】
請求項またはに記載の評価システムを備えることを特徴とする、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列に接続された複数の電気化学セルを備えるバッテリの充電状態を評価するための方法及びシステムに関する。
【0002】
本発明は、バッテリのタイプに関わらず適用が可能で、非排他的に広く車両に適用される。具体的には、本発明は、特に自動車及びコンピュータといった産業部門に適用され得、車載であるかどうかに関わらず、任意のシステムに対して適用可能である。
【背景技術】
【0003】
電気自動車及びハイブリッド自動車の非限定的な分野において、トラクションバッテリ管理システムの主要な挑戦の1つは、バッテリの充電状態(SOC(state of charge)とも呼ばれる)を評価することである。この情報は「バッテリゲージ」の形態でダッシュボード上に表示され、これにより運転者は、残存走行可能距離をキロメートルで知ることができる。電気自動車の走行可能距離は燃焼動力自動車の走行可能距離を大幅に下回るため、可能な限り信頼性の高い情報を提供することによって運転者に再確認させることが重要である。実際、バッテリゲージの評価における誤差によって、運転者が好ましからざる状況(ガス欠)、あるいは危険な状況(追い越し時のパワー喪失)にさえ置かれる結果を招く可能性がある。
【0004】
今日、直列に接続されたN個の電気化学セルC(iは1とNの間の整数)を含むバッテリの充電状態SOCpackは、従来の方式で、全体として考慮されるバッテリに関する測定結果に基づいて評価される。こうして、第1の装置は、直列のセルの組全体の端子間で測定される、バッテリが加える総電圧UBATを測定し、電流センサ及び温度センサはそれぞれ、バッテリを流れる電流IBAT及びバッテリの温度TBATをそれぞれ測定する。充電状態SOCpackの評価値は、これら3つの測定値に基づき、アンペア時測定法、またはカルマンフィルタリングタイプのモデリングなどの従来の方法を用いて、ソフトウェアユニットによって計算される。したがって、全体的測定値に基づくこのタイプの評価は、セルの充電状態の平均値におおよそ一致する。
【0005】
バッテリを構成する電気化学セルは、その構造により、セルの容量分布及び内部抵抗の点で互いに異なるという特性を有し、加えて、バッテリ内におけるセルの配置の結果として、経験する温度の変異は様々である。結果として、これらのセルは、必然的に互いに異なる充電状態を有する。バッテリが非平衡であると言われるのは、このためである。非平衡状態においては、バッテリの使用範囲は、最高の程度まで充電されたセルと、最低の程度まで充電されたセルによって設定される。この場合には、全体的測定値に基づく評価は誤りとなる。
【0006】
さらに想定される評価装置では、セルの非平衡性を考慮に入れることによって、各セルの充電状態からバッテリの充電状態値を推定するように、各セルの充電状態を個別に評価することが推奨される。このタイプの装置は、理想的には、バッテリを構成する各セルCの端子間の電圧UからUまでを同時に測定する第1の機器、バッテリのN個のセルを流れる電流IBATをそれぞれ測定する電流センサ、及びバッテリを構成する各セルCの温度Tを与える温度センサを備える。各セルCの充電状態SOCの評価値は、U、T及びIBATの各測定値に基づき、アンペア時測定法、またはカルマンフィルタリングタイプのモデリングなどの従来の方法を用いて、N個のソフトウェアユニットによって計算される。次いで、バッテリの充電状態SOCpackは、ソフトウェアユニットによってもたらされるN個の充電状態SOCに基づいて、計算モジュールによって評価される。これらの装置は、確かにより正確ではあるが、より高価でもあり、ソフトウェアの点でより複雑でもある。これらは、バッテリを構成する各セルの端子間の電圧の測定値、及び各セルの挙動を記述するための進歩したモデル(特にカルマンフィルタリング)を必要とする。電気自動車に使用されるセルなど、高電圧バッテリの場合には、基本セル(現代のバッテリでは96個のバイセル)の数が多いことにより、装置のコストはかなり高額になる。
【0007】
最後に、この分野では、バッテリの充電状態を評価するための方法が知られている。この方法の中では、最高の程度まで充電されたセルの最大充電状態SOCmaxに関する評価と、最低の程度まで充電されたセルの最小充電状態SOCminに関する評価とに基づいて、バッテリの充電状態SOCpackを再構築することが可能である。充電状態SOCpackの値は、最小充電状態SOCminが0に近づくときには0に近づき、最大充電状態SOCmaxが1に近づくときには1に近づく。このタイプの方法は、仏国特許出願公開第2990516号明細書で、本出願人によって開示されている。この方法は、固定値である最小許容充電状態値BSOCmin及び最大許容充電状態値BSOCmaxを使用し、それによって、特にセルの経年状態に関わりなくバッテリ内に貯蔵されたエネルギーの最大量を一定値で保持することが不可能であるため、この方法は最善ではないということは留意されてきた。ガス欠または追い越し中のパワー喪失といった、好ましくない状況(これらの状況は、バッテリの充電状態の評価が不十分であることによって生じるであろう)を招く可能性があるため、ユーザにとっては、最大エネルギー貯蔵量の変動性は有害である。
【発明の概要】
【0008】
この文脈において、本発明の目的は、セル間の非平衡を考慮に入れてバッテリの充電状態を正確に評価するための安価な方法を提案することによって、先行技術の欠点を克服することにある。具体的には、本発明の目的は、ユーザが、車両の残存走行可能距離が旅程を完了するのに十分かどうかを評価するのを妨げるような落ち着かない状況に陥るのを防ぐため、貯蔵エネルギーの最大量が概して一定である方法を提供することである。本書が標的とするさらなる目的は、セルの健全性、特にセルの経年状態を考慮に入れることによって、各セルの充電状態の使用範囲を調整することである。最後に、本発明は、この方法を実行するのに必要なプロセッサの数を限定するために、セルまたはバッテリの充電状態の評価に基づいて、バッテリの充電状態を評価するための方法を提案することを企図する。
【0009】
提案される解決方法では、直列に接続された複数の電気化学セルを備えるバッテリであって、各セルが最小許容充電状態値と最大許容充電状態値との間に保持された充電状態を有するバッテリの、充電状態の評価方法が、
− 所与の時点において、セルの端子間の電圧から、最小セル電圧と最大セル電圧を決定するステップ、
− 最小セル電圧を有するセルの最小充電状態と、最大セル電圧を有するセルの最大充電状態とを計算するステップであって、バッテリの充電状態は前記最小充電状態と前記最大充電状態の間にある、計算するステップ、
− セルの健全性を表す少なくとも1つの物理量に応じて、及び/または、バッテリの温度に応じて、各セルの前記最小許容充電状態値及び前記最大許容充電状態値を調整するステップ、を含む。
【0010】
この解決方法によって、上記の諸問題を克服することが可能になる。
【0011】
より正確には、セルの健全性を表す物理量に応じた、各セルの最小許容充電状態値と前記最大許容充電状態値の調整によって、前記セルを含むバッテリの充電状態の評価の不確実性を最小化するように充電状態の使用範囲を思慮深く選択するため、各セルの健全性を考慮に入れることが可能になる。この手法によって、電気自動車またはハイブリッド自動車で従来どおりに使用されているバッテリの残存走行可能距離を、より確実に評価することが可能になる。セルの充電状態の使用範囲が、前記セルのそれぞれの健全性に依存していることによって、バッテリの貯蔵エネルギー最大量を、実質的に一定に保持することが可能になる。さらに、この方法によって、各セルの健全性に応じて、そのうえ最小限の装備によって、バッテリの最小及び最大充電状態を調整することが可能になる。例として、セルと直列に配置された電流センサ、バッテリの温度を測定するためのセンサ、最小セル電圧及び最大セル電圧のみを測定可能な電子部品、並びに、電流センサによって得られた電流測定値と、温度センサによって得られた温度測定値と、最小セル電圧測定値及び最大セル電圧測定値とを収集する、バッテリの充電状態管理のためのシステムによって、わずかな計算リソースで、この結果に到達することが可能になる。
【0012】
一実施形態においては、方法は、
− 最小セル電圧を有するセルの最小充電状態が、前記セルの最小許容充電状態値よりも厳密に小さい場合に、バッテリの充電状態を最小充電状態値に合わせるステップ、及び/または、
− 最大セル電圧を有するセルの最大充電状態が、前記セルの最大許容充電状態値よりも厳密に大きい場合に、バッテリの充電状態を最大充電状態値に合わせるステップ、
を含む、少なくとも1つのステップを含む。
【0013】
別の実施形態においては、最大セル電圧を有するセルの最大充電状態が前記セルの最大許容充電状態値以下である場合、及び、最小セル電圧を有するセルの最小充電状態が前記セルの最小許容充電状態値以上である場合、評価方法は、以下の関係によって、所与の時点kにおけるバッテリの充電状態(SOCpack)を評価することを含むステップを含む。
【0014】
本発明の一実施形態においては、最大セル電圧を有するセルの最大充電状態が前記セルの最大許容充電状態値よりも厳密に大きい場合、及び、最小セル電圧を有するセルの最小充電状態が前記セルの最小許容充電状態値よりも厳密に小さい場合、方法は、バッテリの充電状態に「利用不能」という値を帰属させることを含むステップが含む。
【0015】
一実施形態においては、セルの健全性を表す前記少なくとも1つの物理量は、このセルの端子間で測定された電圧、及び/またはこのセルを流れる電流、及び/またはこのセルに関する温度である。
【0016】
一実施形態においては、最小及び最大許容充電状態値と、セルの健全性を表す前記少なくとも1つの物理量との間の対応は、既定であり、好ましくは数値表中で既定である。
【0017】
一実施形態においては、
− 最小許容充電状態値と最大許容充電状態値との間で規定される使用範囲は、セルの健全性及びセルの経年の進行に応じて広くなり、及び/または、
− 前記使用範囲は、バッテリの温度が比較的低く、既定の温度閾値未満である場合に、限定される。
【0018】
本発明の第2の主題もまた目標とされており、その中では、直列に接続された複数の電気化学セルを備えるバッテリであって、各セルが最小許容充電状態値と最大許容充電状態値との間で保持された充電状態を有するバッテリの、充電状態の評価システムが、
− バッテリの電流測定値を提供可能な電流センサと、
− バッテリの温度測定値を提供可能な1または複数の温度センサと、
− セルの端子間の電圧から最小セル電圧と最大セル電圧を収集可能な電子制御ユニットであって、最小セル電圧、電流測定値、及びバッテリの温度測定値によってセルの最小充電状態を評価可能な第2の評価モジュール、最大セル電圧、電流測定値、及びバッテリの温度測定値によってセルの最大充電状態を評価可能な第3の評価モジュール、並びに、最小充電状態と最大充電状態に応じて、及び、第4のモジュールによって決定される最小許容充電状態値と最大許容充電状態値に応じて、充電状態を決定可能な第5の評価モジュールであって、第4のモジュールは、セルの健全性を表す少なくとも1つの物理量に応じて、及び/または、バッテリの温度に応じて、各セルの前記最小許容充電状態値と前記最大許容充電状態値を調整可能な第5の評価モジュール、を備える電子制御ユニットと、を備える。
【0019】
一実施形態においては、システムは、最小セル電圧と最大セル電圧のみを電子制御ユニットに直接送達することが可能な、第1のモジュールを含む。
【0020】
第3の主題によると、上記の実施形態の任意の1つによる評価システムを備える車両もまた、目標とされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】バッテリが始動状態にある第1の状況と、バッテリが満充電である第2の状況と、バッテリが放電完了している第3の状況とが存在する先行技術による、バッテリの充電状態の評価方法を示す。バッテリの充電状態の使用範囲は、発火または劣化の早発のいかなる危険も回避するため、所与の電圧及び充電状態の範囲内に維持されなければならないという、セルに固有の使用上の制約によって、最高の程度まで充電されたセル、または最低の程度まで充電されたセルによって設定されるということが、本書で示される。示されているそれぞれの状況に関して、実際の使用範囲は96%である。
図2】先行の評価方法による、バッテリの放電フェーズ中で、セルの充電状態の使用範囲が0%から100%の間である、最小セル電圧を有するセルの最小充電状態(SOC_min)、最大セル電圧を有するセルの最大充電状態(SOC_max)、及び最小充電状態と最大充電状態の間に含まれるバッテリの充電状態(SOC_pack)の、時間に応じた経過を示すグラフである。
図3】先行の方法による、セルの充電状態の使用範囲が20%と80%の間である、図2のグラフと同様のグラフを示す。
図4】本発明の方法による、同じくセルの充電状態の使用範囲が20%と80%の間である、図2のグラフと同様のグラフを示す。図2中の円は、バッテリが20%または80%の充電状態を有するときの、セルの最小及び最大充電状態と、バッテリの充電状態との間の一致を示す。
図5】本発明の方法による、セルの充電状態の使用範囲が30%と70%の間である、図4のグラフと同様のグラフを示す。
図6】本発明による方法を実施するための手段を備えるシステムの、基本的な図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降、直列に接続されたN個の電気化学セルC〜Cを備えるバッテリが検討される。動作中には、したがって同量の電流IBATがN個のセルを通過し、バッテリの端子間での電圧UBATは、N個のセルの端子間で得られるN個の電圧UからUの合計に、全ての時点で一致する。
【0023】
本発明によると、バッテリの充電状態の評価は、所与の時点におけるN個のセル電圧の、2つの具体的な値に基づいて得られる。1つは、最小セル電圧と呼ばれ、全てのセル電圧の中の最小値に相当する。もう1つは、最大セル電圧と呼ばれ、全てのセル電圧の中の最大値に相当する。これらの2つの値は、それぞれUCmin及びUCmaxで表される。セルC〜Cのそれぞれは、最小許容充電状態値BSOCminと最大許容充電状態値BSOCmaxからなる充電状態の使用範囲の内にある、充電状態SOCを有する。セルをこの使用範囲の内で動作させることによって、潜在的な劣化からセルを保護することが可能になる。
【0024】
バッテリの充電状態SOCpackが直接的または間接的に依存する物理量は、実際に規定することが可能である。この物理量自体は、関連するセルの充電状態が上昇するときに最大充電状態SOCmaxに関連する重みが増加することと、関連するセルの充電状態が低下するときに最小充電状態SOCminに関連する重みが増加することとを確保する重み付け要素を含む方程式に従って、解析的に、直接的または間接的に、最小充電状態SOCmin及び最大充電状態SOCmaxに依存する。こうして、最小セル電圧UCmin及び最大セル電圧UCmaxが、所与の時点に関して、セルの端子間の電圧から最初に規定される。次いで、最小セル電圧UCminを有するセルの最小充電状態SOCmin、及び最大セル電圧UCmaxを有するセルの最大充電状態SOCmaxが計算される。バッテリの充電状態SOCpackは、前記最小充電状態SOCminと前記最大充電状態SOCmaxの間である。
【0025】
本発明は、この充電状態が、関連するセルの最大許容充電状態値BSOCmaxに相当する既定の最大使用閾値に近似する場合に、最大充電状態SOCmaxに関連する重みが最大となり、この充電状態SOCminが、関連するセルの最小許容充電状態値BSOCminに相当する既定の最小使用閾値に近似する場合に、最小充電状態SOCminに関連する重みが最大となることを、確保することを意図する。この2つの間で、物理量の変動は連続的で、且つ急変動なしでなければならない。最小セル電圧UCminによって最小充電状態SOCminを決定し、最大セル電圧UCmaxによって最大充電状態SOCmaxを決定することを可能にする計算ステップが終わると、次に、最小充電状態SOCmin、最大充電状態SOCmax、前記最小許容充電状態値BSOCmin、及び前記最大許容充電状態値BSOCmaxに応じて、バッテリパックの充電状態値SOCpackを調整することが可能になる。
【0026】
本発明によると、各セルの、前記最小許容充電状態値BSOCmin及び前記最大許容充電状態値BSOCmaxは、可変である。より正確には、これらの値BSOCmin及びBSOCmaxは、セルの健全性を表す少なくとも1つの物理量に応じて、及び/またはバッテリの温度TBATに応じて、調整される。実際、セルのこの健全性は、当該セルの経年状態を規定する。
【0027】
図6は、本発明による方法を実施するための手段を備える評価システムの、基本的な図を示す。評価システムは、最小セル電圧UCmin及び最大セル電圧UCmaxを印加可能なバッテリを構成する各セルC...Cの各端子に接続された第1のモジュール10を備える。第1のモジュール10は、好ましくは、MIN−MAX機能を実行可能な、即ち、N個のセルの電圧を測定する必要をまったく有さずに、最小セル電圧UCmin及び最大セル電圧UCmaxを決定可能で、直接、電子制御ユニットECUに対して送達可能な、構成要素である。この第1のモジュール10は、アナログ構成要素またはソフトウェア構成要素であり得る。第1のモジュール10は、好ましくは、値UCmin及びUCmaxを有する2つのセルを特定することが可能であり、それによって、なお同様に正確でありながらもより少ない計算能力しか必要としない方法を採ることを可能にする。
【0028】
システムはまた、バッテリの電流の測定値IBATを提供可能な電流センサ(図示せず)、及びバッテリの温度の1以上の測定値TBATを提供可能な1以上の温度センサ(図示せず)も備える。
【0029】
そのため、電子制御ユニットECUは通常、電流測定値IBAT、バッテリの温度測定値TBAT並びに、最小セル電圧UCmin及び最大セル電圧UCmaxを収集する。電子制御ユニットECUは、第2の評価モジュール20によって、最小セル電圧UCmin、電流測定値IBAT、及びバッテリの温度測定値TBATに基づいて、セルの最小充電状態SOCminを計算する。第3の評価モジュール30は、最大セル電圧UCmax、電流測定値IBAT、及びバッテリの温度測定値TBATに基づいて、セルの最大充電状態SOCmaxを計算する。これらの第2及び第3の評価モジュール20、30は、当該3つの値に基づいて、セルの充電状態の評価、それぞれSOCmin、SOCmaxを計算する。最大充電状態SOCmax及び最小充電状態SOCminは、通常、カルマンフィルタリングによって、または当業者に知られた任意の他の手法によって、バッテリの電流IBATを統合することによって評価される。
【0030】
好ましくは電子制御ユニットECU内にある第4の計算モジュール40は、セルの健全性、とりわけセルの経年状態に関する情報を受信する。この第4の計算モジュール40に入力される物理量は、セル電圧、電流測定値IBAT、バッテリの温度測定値TBAT、セルの放電時間、バッテリパックの最大容量、バッテリの内部抵抗の増加の評価、または、セル及びバッテリパックの経年の特徴を示す任意の他の量である。第4のモジュール40による、最小許容充電状態値BSOCmin及び前記最大許容充電状態値BSOCmaxの計算は、特定された2つのセルの付近の温度を考慮に入れることによって、及びその最大容量を使用することによって、さらに精密化され得る。
【0031】
これらの物理量のうちの少なくとも1つに基づいて、この第4のモジュール40は、セルの使用範囲を規定する、最小許容充電状態値BSOCmin及び前記最大許容充電状態値BSOCmaxを調整し、それによって当該セルの経年状態を考慮に入れることを可能にする。このタイプの配置は、バッテリの使用可能エネルギーの最大量を実質的に一定のレベルで維持するのに役立つ。
【0032】
一実施形態においては、最小許容充電状態値BSOCminと最大許容充電状態値BSOCmaxとの間で規定される使用範囲は、セルの健全性及びセルの経年の進行に応じて、より広くなる。別の実施形態においては、前記使用範囲は、バッテリの温度が比較的低く既定の温度閾値を下回る場合に、例えばO°Cといった寒冷条件下での、性能に関連する特性、及び/または、バッテリを構成する電気化学セルの経年に応じて、限定される。使用範囲を変更するためにこの情報を処理するのは、第4のモジュール40である。
【0033】
電子制御ユニットECU内の第5の評価モジュール50は、一方で、前記第2及び第3の評価モジュール20、30によって提供された最小充電状態SOCmin及び最大充電状態SOCmaxの評価を、また他方では、最小許容充電状態値BSOCmin及び最大許容充電状態値BSOCmaxを受信し、これらの値に基づいて、バッテリの充電状態SOCpackの評価を計算する。この第5の評価モジュール50の機能の1つは、セルが最大値BSOCmaxに近づいたときにより大きな重みを情報SOCmaxに与え、反対に、セルが最小値BSOCminに近づいたときにより大きな重みを情報SOCminに与えるように、(各セルのSOCの使用範囲を規定する)信号BSOCmin及びBSOCmaxに応じて値SOCmin、SOCmaxを重みづけすることである。これらの2つの極端なケースの間で、バッテリの充電状態SOCpackは、セルの値SOCmin及びSOCmaxに制限されて、値を急に変化させることなく、連続的に変化しなければならない。名目的な使用範囲の外では、即ち、最低の程度まで充電されたセルがBSOCminよりも低い充電状態SOCに達したとき、または最高の程度まで充電されたセルがBSOCmaxよりも高い充電状態SOCに達したときには、バッテリの充電状態SOCpackは、最も制限的なセルの変化量(それぞれSOCminまたはSOCmax)に従わなければならない。
【0034】
この結果に到達するため、第5のモジュール50は、アルゴリズムを実施する。
【0035】
幾つかの場合において、
・ SOCmin≧BSOCmin且つSOCmax≦BSOCmaxの場合、以下の式が当てはまる。
ここでは、SOCmin、SOCmax、BSOCmin、及びBSOCmaxは、それぞれ、最小充電状態、最大充電状態、最小許容充電状態値BSOCmin、及び最大許容充電状態値BSOCmaxの、不連続の時点kにおける標本値である。
・ SOCmin<BSOCmin且つSOCmax≦BSOCmaxの場合、以下の関係が当てはまる。
・ SOCmin≧BSOCmin且つSOCmax>BSOCmaxの場合、以下の関係が当てはまる。
・ SOCmin<BSOCmin且つSOCmax>BSOCmaxの場合、バッテリの充電状態SOCpackは、利用不能と考えられる。当該バッテリは、非平衡であると言われる。なぜならば、最高の程度まで充電されたセルが最大許容充電状態値BSOCmaxを超過している一方、最低の程度まで充電されたセルは最小許容充電状態値BSOCminを下回っているからである。このタイプのバッテリは実際には使用不能で、少なくとも再平衡化を必要とする。
【0036】
バッテリの充電状態SOCpackを評価するためにこのタイプのアルゴリズムを使用することによって、2つの異なる値BSOCmin及びBSOCmax図4及び5に示す変動をとることが可能になる。即ち、SOCpackはSOCminとSOCmaxの間で連続的に変動し、BSOCminに近づくときにSOCmin値に寄っていき、BSOCmaxに近づくときにSOCmaxに寄っていく。正常ゾーンの外では、SOCpackはSOCminに等しいか(SOCmin<BSOCminの場合)、またはSOCmaxに等しい(SOCmax>BSOCmaxの場合)。
【0037】
図4は、0.2に等しい値BSOCminと、0.8に等しい値BSOCmaxとの間の使用範囲における、バッテリの充電状態SOCpackの評価結果を示す。本発明による評価方法及び/またはシステムに関して、バッテリの充電状態SOCpackが、0.2以下の値に関しては最小充電状態SOCminを追随し、0.8以上の値に関しては最大充電状態SOCmaxを追随することは、留意される。バッテリの充電状態SOCpackは、セルの健全性に応じて変更され得る使用範囲に、自動的に適合する。
【0038】
図5は、0.3に等しい値BSOCminと、0.7に等しい値BSOCmaxとの間の使用範囲における、バッテリの充電状態SOCpackの同等の評価結果を示す。バッテリの充電状態SOCpackの変動は予測された変動に一致し、評価は変更された使用範囲に、自動的に適合する。
【0039】
結果が図2及び3に示されている先行技術の方法と比較すると、ここでのバッテリの充電状態SOCpackの評価は、十分ではない。実際、最低の程度まで充電されたセルのバッテリの充電状態SOCminが0.2(即ち最小許容充電状態値BSOCmin)に達するとき、当該バッテリの充電状態SOCpackは0.2より厳密に大きい。同様に、最高の程度まで充電されたセルのバッテリの充電状態SOCmaxが0.8に達するとき、当該バッテリの充電状態SOCpackは0.8より厳密に小さい。この先行技術の方法では、これらの使用範囲は考慮に入れられない。結果として、この方法では、セルの健全性や、時間の経過に伴う経年状態の進行は考慮に入れられない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6