(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記請求項1乃至5のいずれかに記載の振動波形データ間の同期ずれ量計算方法で求められた前記同期ずれ量に基づいて、前記第2振動波形データを補正して、前記第1振動波形データとの同期をとる工程を含む振動波形データ間の同期補正方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。本実施形態の振動波形データ間の同期ずれ量計算方法(以下、単に「計算方法」ということがある)は、構造物の異なる位置に設置された複数の振動計で測定された振動波形データについて、振動波形データ間の同期ずれ量を計算するための方法である。
図1は、振動計が設置された構造物の一例を示す断面図である。
【0018】
構造物1としては、住宅やビル等の建物1Bである場合が例示される。本実施形態の建物1Bは、床下空間2、及び、床下空間2の上に配置された居室3を含んで構成されている。
【0019】
床下空間2は、基礎5と、基礎5に支持された1階の床6と、床6の下方に配置された土間7とで囲まれて構成されている。また、居室3は、床6と、床6の上方に配置される屋根8と、土台(図示省略)を介して固定される外壁9と、外壁9、9間に配置される間仕切り壁(図示省略)とで区分されている。本実施形態の居室3は、1階の居室3Aと、2階の居室3Bとを含んで構成されているが、このような態様に限定されない。
【0020】
本実施形態において、構造物1に与えられる振動は、地震である場合が例示される。従って、構造物1の振動源11は、地盤12(又は、地盤12に配置される基礎5)で構成される。
【0021】
本実施形態の振動計15は、地震による構造物1の振動(揺れ)を、振動波形データとして測定しうる地震計として構成されている。なお、振動計15は、振動(地震)発生を検知して、振動発生時のみに振動波形データを測定するものでもよいし、振動未発生時も含めて常時測定するものでもよい。
【0022】
振動計15は、構造物1の異なる位置に複数設置されている。本実施形態の振動計15は、構造物1の振動系において、入力側(本実施形態では、振動が入力される振動源11側)に設置された第1振動計15Aと、出力側(本実施形態では、構造物1の耐震診断等の振動評価対象位置(例えば、居室3))に設置された第2振動計15Bとを含んで構成されている。本実施形態の第1振動計15Aは、土間7に設置されている。また、第2振動計15Bは、居室3(本実施形態では、2階の居室3B)に設置されている。これにより、第1振動計15Aで測定された入力側の第1振動波形データ(波形の時間関数)と、第2振動計15Bで測定された出力側の第2振動波形データ(波形の時間関数)とをそれぞれ取得することができる。
【0023】
本実施形態の構造物1には、振動波形データ間の同期ずれ量を計算するための制御手段16が設けられている。
図2は、制御手段16の概念図である。制御手段16は、CPU(中央演算装置)からなる演算部17と、制御手順等が予め記憶されている記憶部18と、記憶部18から制御手順を読み込み可能なメモリ19とを含んで構成されている。計算結果等は、例えば、ディスプレイ装置20(
図1及び
図2に示す)や、居住者のスマートフォン(図示省略)等に表示される。
【0024】
また、制御手段16には、振動計15(本実施形態では、第1振動計15A及び第2振動計15B)が接続されている。これにより、振動計15で測定された振動波形データは、制御手段16に伝達され、記憶部18に記憶される。本実施形態では、振動計15と、制御手段16とが無線によって接続されている。これにより、振動計15と制御手段16との間でケーブル等を配線する必要がないため、振動計15を容易かつ安価に設置しうる。
【0025】
本実施形態の制御手段16は、
図1に示されるように、構造物1(本実施形態では、居室3)に設置されているが、このような態様に限定されるわけではない。制御手段16は、例えば、振動計15(本実施形態では、第1振動計15A及び第2振動計15B)がインターネット等を介して接続されたサーバ(クラウドサーバ)として構成されてもよい。
【0026】
図3は、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)の一例を示すグラフである。
図4(a)は、
図3の第1振動波形データx(t)の部分拡大図である。
図4(b)は、
図3の第2振動波形データy(t)の部分拡大図である。
図3、
図4(a)及び
図4(b)において、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、振動加速度と時間との関係を示している。
【0027】
図2に示されるように、第1振動計15Aと制御手段16との間、及び、第2振動計15Bと制御手段16との間が、それぞれ無線で接続されている場合、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との間に、時間軸のずれ(同期ずれ)が生じやすい。
【0028】
また、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)を用いて、例えば、構造物1(建物1B)の耐震診断等の解析を行うには、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との間の同期をとる必要がある。第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との間の同期をとるには、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との間の同期ずれ量(時間軸のずれ量)を求め、第2振動波形データy(t)を補正する必要がある。
【0029】
図1に示されるように、第2振動計15Bは、出力側に設置されているため、
図3及び
図4(a)、(b)に示されるように、第2振動波形データy(t)が、第1振動波形データx(t)に比べて、構造物1が有する振動特性の影響を大きく受ける。このため、第1振動波形データx(t)の波形と第2振動波形データy(t)の波形とが大きく異なる。従って、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量を精度よく求めることは困難であった。
【0030】
本実施形態の計算方法では、構造物1が有する振動特性の影響を考慮して、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量を求めている。
図5は、計算方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態において、計算方法の一連の処理は、制御手段16(
図1及び
図2に示す)によって行われている。
【0031】
本実施形態の計算方法では、先ず、
図3に示されるように、第1振動計15A(
図1に示す)で測定された第1振動波形データx(t)と、第2振動計15B(
図1に示す)で測定された第2振動波形データy(t)とが取得される(工程S1)。上述したように、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、制御手段16の記憶部18(
図2に示す)に記憶されている。工程S1では、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)が、記憶部18からメモリ19(
図2に示す)に読み込まれる。
【0032】
第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、振動(地震)の発生から時間の経過とともに、非線形応答になる傾向がある。このような非線形応答の領域(時間領域)では、同期ずれ量を精度よく求めることが難しい場合がある。このため、第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、線形応答の領域(時間領域)に限定して取得されてもよい。なお、時間領域の長さについては、線形応答になっている領域内であれば、適宜設定することができる。
【0033】
次に、本実施形態の計算方法では、構造物1の振動特性である伝達関数が求められる(伝達関数計算工程S2)。
図6は、伝達関数計算工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0034】
本実施形態の伝達関数計算工程S2では、先ず、第1振動波形データx(t)に対する第2振動波形データy(t)の伝達関数の振幅応答倍率が求められる(工程S21)。第1振動波形データx(t)に対する第2振動波形データy(t)の伝達関数は、構造物1の振動特性である伝達関数の推定値(以下、単に、「推定値」ということがある。)H(ω)として扱うことができる。また、振幅応答倍率では、推定値H(ω)について、振動加速度の倍率を周波数毎に示される。
【0035】
本実施形態の工程S21では、先ず、振幅応答倍率を求めるに先立ち、推定値H(ω)が求められる。推定値H(ω)は、下記式(1)に基づいて求めることができる。
【0036】
【数1】
ここで、
X(ω):第1振動波形データx(t)をフーリエ変換した関数
Y(ω):第2振動波形データy(t)をフーリエ変換した関数
X(ω)
*:X(ω)の共役複素数
Y(ω)
*:Y(ω)の共役複素数
【0037】
上記式(1)において、G
xx(ω)は、第1振動波形データx(t)のパワースペクトル推定値である。また、G
xy(ω)は、第1振動波形データ及び第2振動波形データy(t)のクロススペクトル推定値である。推定値H(ω)は、クロススペクトル推定値G
xy(ω)を、パワースペクトル推定値G
xx(ω)で除することで求められる。
【0038】
次に、工程S21では、下記式(2)に基づいて、推定値H(ω)の振幅応答倍率(振幅比)|H(ω)|が求められる。
【0039】
【数2】
ここで、
HR(ω):H(ω)の実部
HI(ω):H(ω)の虚部
【0040】
振幅応答倍率|H(ω)|は、推定値H(ω)の実部HR(ω)の二乗と、推定値H(ω)の虚部HI(ω)の二乗との加算値について、平方根をとったものである。
図7は、伝達関数の推定値H(ω)の振幅応答倍率|H(ω)|と周波数との関係を示すグラフである。
【0041】
次に、本実施形態の伝達関数計算工程S2では、構造物1の振動特性である伝達関数が同定される(工程S22)。上記式(2)で求められた振幅応答倍率|H(ω)|は、推定値H(ω)の位相差φ(ω)に比べて、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれの影響が小さい傾向がある。このような観点より、本実施形態の工程S22では、振幅応答倍率|H(ω)|に基づいて、伝達関数を同定している。
【0042】
工程S22では、先ず、構造物1の全体が一様に振動する(揺れる)1質点系であると仮定して、下記式(3)の同定式(理論式)を用いて伝達関数の振幅応答倍率が同定される。
【0044】
工程S22では、最小二乗法に基づいて、振幅応答倍率|H(ω)|と、上記式(3)の振幅応答倍率|H_(ω)|との誤差(2乗和)が最小となるように、固有円振動数ω
n、及び、減衰定数hがフィッティングされる。これにより、構造物1の振幅応答倍率|H_(ω)|が同定される。
図8は、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|と周波数との関係を示すグラフである。
【0045】
次に、工程S22では、下記式(4)に基づいて、伝達関数H_(ω)の位相差が求められる。
【0047】
上記式(4)において、固有円振動数ω
n及び減衰定数hには、上記式(3)で求められた固有円振動数ω
n及び減衰定数hが代入される。これにより、伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)が求められる。
【0048】
工程S22では、上記式(3)の振幅応答倍率|H_(ω)|と、上記式(4)の位相差φ_(ω)とによって、上記式(1)の推定値H(ω)を同定した伝達関数H_(ω)が求められる。伝達関数H_(ω)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0049】
このように、本実施形態の伝達関数計算工程S2では、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれの影響が小さい振幅応答倍率|H(ω)|に基づいて、伝達関数H_(ω)が同定されるため、例えば、推定値H(ω)の位相差φ(ω)から同定される場合に比べて、伝達関数H_(ω)を確実に同定することができる。
【0050】
次に、本実施形態の計算方法では、第2振動波形データy(t)から伝達関数H_(ω)の影響を除去した第3振動波形データy
C(t)が求められる(除去工程S3)。
図9は、除去工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0051】
本実施形態の除去工程S3では、先ず、第2振動波形データy(t)をフーリエ変換した第1関数Y(ω)が求められる(工程S31)。第1関数Y(ω)としては、上記式(1)において、第2振動波形データy(t)をフーリエ変換した関数Y(ω)を用いることができる。さらに、本実施形態の工程S31では、下記式(5)に基づいて、第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|と、第1関数Y(ω)の位相スペクトルθ(ω)とが求められる。
【0053】
上記式(5)において、振幅スペクトル|Y(ω)|、及び、位相スペクトルθ(ω)は、第1関数Y(ω)の実部Re{Y(ω)}と、第1関数Y(ω)の虚部Im{Y(ω)}とによって定義されている。振幅スペクトル|Y(ω)|及び位相スペクトルθ(ω)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0054】
次に、本実施形態の除去工程S3では、第1関数Y(ω)を伝達関数(応答成分)H_(ω)で割り戻した第2関数Y
C(ω)が求められる(工程S32)。上記式(3)の伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|は、上記式(5)の第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|と同一形式に揃えられている。上記式(4)の伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)は、上記式(5)の第1関数Y(ω)の位相スペクトルθ(ω)と同一形式に揃えられている。これにより、工程S32では、下記式(6)に基づいて、第1関数Y(ω)を、伝達関数H_(ω)で割り戻すことができる。
【0056】
上記式(6)では、第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|を、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|で除した値と、第1関数Y(ω)の位相スペクトルθ(ω)と伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)との差の余弦の値とを乗じることで、第2関数Y
C(ω)の実部Re{Y
C(ω)}が求められる。
【0057】
また、上記式(6)では、第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|を、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|で除した値と、第1関数Y(ω)の位相スペクトルθ(ω)と伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)との差の正弦の値とを乗じることで、第2関数Y
C(ω)の虚部Im{Y
C(ω)}が求められる。
【0058】
これらの実部Re{Y
C(ω)}及び虚部Im{Y
C(ω)}により、工程S32では、第2関数Y
C(ω)(即ち、Re{Y
C(ω)}+Im{Y
C(ω)}・i)が求められる。第2関数Y
C(ω)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0059】
次に、本実施形態の除去工程S3では、第2関数Y
C(ω)を逆フーリエ変換した第3振動波形データ(波形の時間関数)y
C(t)が計算される(工程S33)。
図10は、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の一例を示すグラフである。
図10において、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)は、
図3に示した第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)と同様に、振動加速度と時間との関係を示している。
【0060】
第3振動波形データy
C(t)の波形は、
図3に示した第2振動波形データy(t)の波形に比べて振動加速度が小さくなり、第1振動波形データx(t)の波形に近似している。これは、第3振動波形データy
C(t)が、第2振動波形データy(t)から構造物1の伝達関数H_(ω)の影響が除去されているためである。第3振動波形データy
C(t)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0061】
次に、本実施形態の計算方法では、第1振動波形データx(t)と第3振動波形データy
C(t)との相関に基づいて、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量が求められる(工程S4)。本実施形態の工程S4では、先ず、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の相互相関関数Rxy
C(τ)が求められる。
【0062】
相互相関関数Rxy
C(τ)は、第1振動波形データx(t)と、第3振動波形データy
C(t)との類似性を確認するためのものであり、下記式(7)によって定義される。
【0064】
上記式(7)において始端t1及び終端t2は、任意に決定されうる。
図11は、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の相互相関関数Rxy
C(τ)と、遅れ時間τとの関係を示すグラフである。
図11に示したグラフにおいて、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の相関が最も高くなる遅れ時間τで、相互相関関数Rxy
C(τ)が最大値となる。従って、工程S4では、相互相関関数Rxy
C(τ)が最大となる遅れ時間τを、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量として求めている。
図11の例において、同期ずれ量は、−0.2秒である。同期ずれ量は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0065】
このように、本実施形態の計算方法では、構造物1が有する振動特性の影響を考慮して、互いに波形が近似する第1振動波形データx(t)と第3振動波形データy
C(t)との相関をとっているため、例えば、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)とを直接相関をとっていた従来の方法に比べて、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量を精度よく求めることができる。
【0066】
本実施形態の工程S4では、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の相互相関関数Rxy
C(τ)が求められることにより、同期ずれ量が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、下記式(8)に基づいて、第1振動波形データx(t)及び第3振動波形データy
C(t)の波形の振幅の差の2乗積分R2xy
C(τ)を計算し、R2xy
C(τ)が最小となる遅れ時間τを同期ずれ量として求めてもよい。
【0068】
これまでの実施形態では、工程S22において、構造物1(
図1に示す)が1質点系であると仮定し、
図7に示した推定値H(ω)の振幅応答倍率|H(ω)|を、上記式(3)の同定式を用いて、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|が同定されたが、このような態様に限定されるわけではない。
図12は、2質点系における推定値の振幅応答倍率|H(ω)|と周波数との関係の一例を示すグラフである。
【0069】
構造物1(
図1に示す)が2質点系である場合、
図12に示されるように、振幅応答倍率|H(ω)|の頂点25が2つ存在する。なお、各頂点25のうち、振幅応答倍率|H(ω)|が大きい頂点25を形成する周波数の領域26Aほど、振幅応答倍率|H(ω)|が小さい頂点25を形成する周波数の領域26Bに比べて、伝達関数H_(ω)への影響が大きい。
【0070】
このような場合、工程S22では、各頂点25の振幅応答倍率|H(ω)|を比較して、振幅応答倍率|H(ω)|が大きい頂点25を形成する周波数の領域26Aのみを対象に、上記式(3)の同定式を用いて、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|が同定されてもよい。これにより、構造物1(
図1に示す)が2質点系である場合でも、振幅応答倍率|H_(ω)|を容易に同定することができる。なお、振幅応答倍率|H(ω)|が小さい頂点25を形成する周波数の領域26Bは、ノイズとしてみなせるため、計算精度を維持することができる。
【0071】
また、構造物1が多質点系である場合、上記式(3)の同定式(理論式)で伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|を同定することができない。このため、コンピュータ(制御手段16)を用いたシミュレーションによって、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|が同定されてもよい。
【0072】
シミュレーションでは、例えば、構造物1を、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素で離散化した構造物モデル(図示省略)を、
図3に示した第1振動波形データx(t)に基づいて振動させて、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|が同定される。数値解析法としては、有限要素法が採用されているが、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用することもできる。
【0073】
構造物モデル(図示省略)の設定(モデリング)は、例えば、構造物1の設計データ(例えば、CADデータ)と、メッシュ化ソフトウェアとを用いることにより、容易に実施することができる。また、構造物モデルの振動計算は、例えば、 MIDAS IT 社製の midas Gen などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。これにより、工程S22では、構造物1が多質点系であっても、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|を同定することができる。
【0074】
図13は、第3振動波形データy
C(t)の他の例を示すグラフである。構造物1の構成等により、
図4(b)に示した第2振動波形データy(t)にノイズが含まれていると、第2振動波形データy(t)から求められる第3振動波形データy
C(t)のノイズが大きくなりやすい。このような第3振動波形データy
C(t)は、第1振動波形データx(t)と相関をとることが難しくなる。このため、第1振動波形データx(t)と第3振動波形データy
C(t)との相関を求める工程S4に先立ち、第3振動波形データy
C(t)のノイズが除去されるのが望ましい。
【0075】
第3振動波形データy
C(t)のノイズを除去する方法については、適宜選択することができる。この実施形態では、第2振動波形データy(t)をフーリエ変換した第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|のノイズが除去される。
【0076】
このように、第1関数Y(ω)の振幅スペクトル|Y(ω)|のノイズが除去されることにより、第1関数Y(ω)を伝達関数H_(ω)で割り戻した第2関数Y
C(ω)、さらには、第2関数Y
C(ω)を逆フーリエ変換した第3振動波形データy
C(t)のノイズが除去されうる。
【0077】
ノイズが除去された第3振動波形データy
C(t)の波形は、ノイズが除去される前の第3振動波形データy
C(t)の波形に比べて、第1振動波形データx(t)の波形に近似する。これにより、この実施形態では、第1振動波形データx(t)と第3振動波形データy
C(t)との相関を、より確実に求めることができる。
【0078】
次に、同期ずれ量を用いた振動波形データ間の同期補正方法(以下、単に「補正方法」ということがある。)について説明する。
図14は、補正方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0079】
本実施形態の補正方法では、工程S4で求められた第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量に基づいて、第2振動波形データy(t)が補正される(工程S5)。工程S5では、同期ずれ量(この例では、−0.2秒)に基づいて、第2振動波形データy(t)が時間軸方向にスライドされる。
図15は、補正前の第2振動波形データy(t)、及び、補正後の第2振動波形データy(t)の一例を示すグラフである。
【0080】
このように、工程S5では、第2振動波形データy(t)の時間軸のずれを補正することができるため、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)と、
図4(b)の第2振動波形データy(t)との同期をとることができる。また、出力側の第2振動波形データy(t)は、例えば、第2振動計15Bが異なる振動評価対象位置(例えば、居室3)にそれぞれ設置された場合、第2振動計15B毎に異なる傾向があるのに対して、入力側(振動源側)の第1振動波形データx(t)は原則として一つである。本実施形態では、振動評価対象位置毎に、第2振動波形データy(t)を補正することができるため、第1振動波形データx(t)と、第2振動波形データy(t)との同期を確実にとることができる。
【0081】
そして、本実施形態の補正方法では、互いに同期がとられた第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、例えば、構造物1(建物1B)の耐震診断等の解析等に用いられる(工程S6)。
【0082】
これまでの実施形態の計算方法では、第2振動波形データy(t)から伝達関数H_(ω)の影響を除去した第3振動波形データy
C(t)を求めて、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量が求められたが、このような態様に限定されない。例えば、第1振動波形データx(t)に伝達関数H_(ω)の影響が考慮された第4振動波形データx
C(t)を求めて、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量が求められてもよい。
図16は、本発明の他の実施形態の振動波形データ間の同期ずれ量計算方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0083】
この実施形態の計算方法では、伝達関数計算工程S2の後、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)に伝達関数H_(ω)の影響が考慮された第4振動波形データx
C(t)が求められる(考慮工程S7)。
図17は、考慮工程S7の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0084】
この実施形態の考慮工程S7では、先ず、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)をフーリエ変換した第3関数X(ω)が求められる(工程S71)。第3関数X(ω)としては、上記式(1)において、第1振動波形データx(t)をフーリエ変換した関数X(ω)を用いることができる。さらに、本実施形態の工程S71では、下記式(9)に基づいて、第3関数X(ω)の振幅スペクトル|X(ω)|と、第3関数X(ω)の位相スペクトルθ(ω)とが求められる。
【0086】
上記式(9)において、振幅スペクトル|X(ω)|、及び、位相スペクトルθ(ω)は、第3関数X(ω)の実部Re{X(ω)}と、第3関数X(ω)の虚部Im{X(ω)}とによって定義されている。振幅スペクトル|X(ω)|及び位相スペクトルθ(ω)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0087】
次に、この実施形態の考慮工程S7では、第3関数X(ω)に伝達関数(応答成分)H_(ω)を掛け合わせた第4関数X
C(ω)が求められる(工程S72)。上記式(3)の伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|は、上記式(9)の第3関数X(ω)の振幅スペクトル|X(ω)|と同一形式に揃えられている。上記式(4)の伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)は、上記式(9)の第3関数X(ω)の位相スペクトルθ(ω)と同一形式に揃えられている。これにより、工程S72では、下記式(10)に基づいて、第3関数X(ω)に、伝達関数H_(ω)を掛け合わせることができる。
【0089】
上記式(10)では、第3関数X(ω)の振幅スペクトル|X(ω)|に、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|を乗じた値と、第3関数X(ω)の位相スペクトルθ(ω)と伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)との和の余弦の値とを乗じることで、第4関数X
C(ω)の実部Re{X
C(ω)}が求められている。
【0090】
また、上記式(10)では、第3関数X(ω)の振幅スペクトル|X(ω)|に、伝達関数H_(ω)の振幅応答倍率|H_(ω)|を乗じた値と、第3関数X(ω)の位相スペクトルθ(ω)と伝達関数H_(ω)の位相差φ_(ω)との和の正弦の値とを乗じることで、第4関数X
C(ω)の虚部Im{X
C(ω)}が求められている。
【0091】
これらの実部Re{X
C(ω)}及び虚部Im{X
C(ω)}により、工程S72では、第4関数X
C(ω)(即ち、Re{X
C(ω)}+Im{X
C(ω)}・i)が求められる。第4関数X
C(ω)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0092】
次に、この実施形態の考慮工程S7では、第4関数X
C(ω)を逆フーリエ変換した第4振動波形データ(波形の時間関数)x
C(t)が計算される(工程S73)。第4振動波形データx
C(t)の波形は、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)に構造物1の伝達関数H_(ω)の影響が考慮されているため、第1振動波形データx(t)の波形に比べて振動加速度が大きくなり、
図4(b)に示した第2振動波形データy(t)の波形に近似する。第4振動波形データx
C(t)は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0093】
次に、この実施形態の計算方法では、
図16に示されるように、
図4(b)に示した第2振動波形データy(t)と、図示しない第4振動波形データx
C(t)との相関に基づいて、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量が求められる(工程S8)。この実施形態の工程S8では、先ず、これまでの実施形態と同様に、下記式(11)に基づいて、第2振動波形データy(t)及び第4振動波形データx
C(t)の相互相関関数Ryx
C(τ)が求められる。
【0095】
そして、工程S8では、相互相関関数Ryx
C(τ)が最大となる遅れ時間τを、
図4(a)に示した第1振動波形データx(t)と、
図4(b)に示した第2振動波形データy(t)との同期ずれ量として求められる。なお、同期ずれ量は、前実施形態と同様に、下記式(12)に基づいて、第2振動波形データy(t)及び第4振動波形データx
C(t)の波形の振幅の差の2乗積分R2yx
C(τ)を計算し、R2yx
C(τ)が最小となる遅れ時間τを同期ずれ量として求めてもよい。同期ずれ量は、メモリ19(
図2に示す)に記憶される。
【0097】
また、第2振動波形データy(t)と第4振動波形データx
C(t)との相関を求める工程に先立ち、第4振動波形データx
C(t)のノイズが除去されてもよい。第4振動波形データx
C(t)のノイズを除去する方法については、例えば、これまでの実施形態の第3振動波形データy
C(t)のノイズを除去する方法を採用することができる。
【0098】
次に、この実施形態の同期ずれ量を用いた振動波形データ間の同期補正方法について説明する。
図18は、本発明の他の実施形態の補正方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0099】
この実施形態の補正方法では、工程S8で求められた第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量に基づいて、
図4(b)に示した第2振動波形データy(t)が補正される(工程S5)。工程S5では、
図14に示した前実施形態の補正方法と同一の処理手順で実施される。これにより、工程S5では、
図4(a)の第1振動波形データx(t)と、第2振動波形データy(t)との同期をとることができる。そして、互いに同期がとられた第1振動波形データx(t)及び第2振動波形データy(t)は、これまでの実施形態の補正方法と同様に、構造物1(建物1B)の耐震診断等の解析等に用いられる(工程S6)。
【0100】
これまでの実施形態の工程S5では、第1振動波形データx(t)と第2振動波形データy(t)との同期ずれ量に基づいて、第2振動波形データy(t)が補正される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、入力側(振動源側)の第1振動波形データx(t)と、出力側の第2振動波形データy(t)とがそれぞれ一つである場合、前記同期ずれ量に基づいて、第1振動波形データx(t)が補正されてもよい。
【0101】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0102】
図19は、実施例及び比較例の振動波形データを取得するのに用いられる構造物1の一例を示す図である。構造物1は、抵抗32、ダッシュポッド33、及び、錘(質量)34を含んでいる。構造物1の一端側には、錘34が接続されている。構造物1の他端側には、地盤35が接続されている。錘34と地盤35との間には、抵抗32及びダッシュポッド33が配置されている。このような構造物1は、地盤35の揺れにより、錘34を振動させる(揺らす)ことができる。構造物1の仕様は、次のとおりである。
錘の重さ:10トン
抵抗の剛性:4000kN/m
ダッシュポットの減衰定数:5%
入力波形:K−NET小千谷EW観測波(2004年新潟県中越地震)
【0103】
この構造物1の地盤35側には、第1振動計(図示省略)が取り付けられている。また、構造物1の錘34には、第2振動計(図示省略)が取り付けられている。そして、地盤35を揺らすことにより、錘34を振動させ、第1振動波形データ及び第2振動波形データがそれぞれ取得された(実験例)。
【0104】
この実験例において、第1振動計(図示省略)及び第2振動計(図示省略)は、制御手段16に有線で接続されており、第1振動波形データ及び第2振動波形データの同期がとられている(即ち、同期ずれ量は、0秒である)。このため、第2振動波形データの時間軸を+0.2秒スライドさせることにより、第1振動波形データと第2振動波形データとの間に、擬似的に同期ずれを生成した(即ち、同期ずれ量は、−0.2秒である)。
【0105】
図5、
図6、及び、
図9に示した処理手順に従って、同期ずれを有する第1振動波形データ及び第2振動波形データについて、同期ずれ量が求められた(実施例1)。実施例1では、第2振動波形データから構造物1の振動特性である伝達関数の影響を除去した第3振動波形データが求められた。そして、第1振動波形データと第3振動波形データとの相関に基づいて、第1振動波形データと第2振動波形データとの同期ずれ量が求められた。
【0106】
図16、
図6、及び、
図17に示した処理手順に従って、同期ずれを有する第1振動波形データ及び第2振動波形データについて、同期ずれ量が求められた(実施例2)。実施例2では、第1振動波形データに伝達関数の影響が考慮された第4振動波形データが求められた。そして、第2振動波形データと第4振動波形データとの相関に基づいて、第1振動波形データと第2振動波形データとの同期ずれ量が求められた。
【0107】
また、比較のために、構造物の振動特性である伝達関数の影響を考慮せずに、同期ずれを有する第1振動波形データと第2振動波形データについて、同期ずれ量が求められた(比較例)。
【0108】
テストの結果、実施例1及び実施例2の同期ずれ量は、いずれも−0.2秒であった。他方、比較例の同期ずれ量は、−0.23秒であった。従って、実施例1及び実施例2は、比較例に比べて、同期ずれ量を精度よく求めることができた。