特許第6543309号(P6543309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543309サイジング剤付着炭素繊維束及びその製造方法並びにこのサイジング剤付着炭素繊維束を用いる圧力容器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543309
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】サイジング剤付着炭素繊維束及びその製造方法並びにこのサイジング剤付着炭素繊維束を用いる圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/16 20060101AFI20190628BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20190628BHJP
   D06M 15/51 20060101ALI20190628BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20190628BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20190628BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20190628BHJP
【FI】
   D06M23/16
   D06M15/564
   D06M15/51
   D06M15/55
   B29C70/32
   D06M101:40
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-156269(P2017-156269)
(22)【出願日】2017年8月11日
(62)【分割の表示】特願2012-282905(P2012-282905)の分割
【原出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-9280(P2018-9280A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】尾山 太郎
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274520(JP,A)
【文献】 特開2002−339222(JP,A)
【文献】 特開2003−278032(JP,A)
【文献】 特開平08−284071(JP,A)
【文献】 特開2002−069754(JP,A)
【文献】 特許第3047731(JP,B2)
【文献】 特開昭50−029882(JP,A)
【文献】 特開昭47−030986(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013691(WO,A1)
【文献】 特開2004−106552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715、101/40
B29C 70/00−70/88
B29B 11/16、15/08−15/14
C08J 5/04−5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨界張力が70〜90mN/mである炭素繊維束にサイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
1.2< I/S <2.0 ・・・(1)
(ここで、サイジング剤発光カウント数(I)とは、サイジング剤付着炭素繊維束をその軸に沿って2等分に切り割った際の断面部において測定される発光カウント数をいい、サイジング剤発光カウント数(S)とは、その切り割った炭素繊維束の非断面部において測定される発光カウント数をいう)
の関係を満たすことを特徴とするフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイジング剤が付着した炭素繊維束(以下、「サイジング剤付着炭素繊維束」ともいう)及びその製造方法並びにこのサイジング剤付着炭素繊維束を用いるCFRP製圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維や芳香族ポリアミド繊維等の強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料は、その高い比強度、比剛性を利用して、一般産業、自動車、スポーツ・レジャー、航空宇宙等の各分野において広く用いられており、これらの複合材料の工業的な用途は、近年、さらに拡大しつつある。複合材料の用途の拡大とともに、コンポジット物性を高く発現させる複合材料の製造方法に対する要求が高くなっている。
【0003】
炭素繊維複合材料は、優れた機械的性質を有しているため、価格の低下とともに金属材料に代替されつつある。特に、軽くて強い特徴を生かし、コンクリート構造物の補修材、風力発電用の羽根、輸送用乗り物のボディやシャフトのような構造材、各種FRP製圧力容器等への開発が盛んに行われており、それら用途の中でも炭素繊維を用いたCFRP製圧力容器は小型軽量化が可能であるため、水素や天然ガスを燃料とする自動車の燃料貯蔵用の圧力容器等として広く開発が行われている。
【0004】
このようなFRP製圧力容器は、芯材となるライナーの外表面に、マトリックス樹脂を含浸させた繊維を巻き付けるフィラメントワインド成形法(以下、「FW成形法」ともいう)によって主に製造されている。このFW成形法は、ガラス繊維を用いて圧力容器を製造する場合に広く採用されてきた成形法であるが、炭素繊維を用いて圧力容器を製造する場合にも採用されている。しかし、炭素繊維を用いてFW成形法により製造した圧力容器には、炭素繊維の持つ優れた繊維物性が十分に反映されていないという問題がある。
【0005】
特許文献1には、炭素繊維の繊維径を細くし、繊維表面に襞を形成することにより、樹脂含浸性を向上させる方法が開示されている。しかし、炭素繊維の繊維径を細くしても、樹脂含浸性は十分に改善されない。
【0006】
特許文献2には、高い引張強度を有するFW成形用炭素繊維束が開示されている。FW成形法においては、炭素繊維束に高い張力をかけて樹脂を含浸させている。そのため、工程中の固定ガイドやローラー等との擦過によって、炭素繊維束には毛羽立ちや糸切れが生じやすい。炭素繊維束の毛羽立ちや糸切れは、工程通過性や工程安定性を悪化させるだけでなく、最終成形物である圧力容器の性能にも悪影響を及ぼす。即ち、高い引張強度を有する炭素繊維束の物性を、複合材料の性能に十分に反映させることができない。そのため、FW成形法に用いられる炭素繊維には、耐擦過性、耐糸切れ性が求められる。
【0007】
耐擦過性、耐糸切れ性を向上させるために、炭素繊維束にサイジング剤を付与することは従来から広く行われている。例えば、特許文献3には、サイジング剤付与工程と乾燥工程とを交互に繰り返すサイジング剤の付与方法が開示されている。しかし、特許文献3で開示される方法では、炭素繊維束の外層部にサイジング剤が多く付着してしまい、炭素繊維束の内層部におけるサイジング剤の付着量が低下している。そのため、この炭素繊維束は、炭素繊維束の外層部に存在するサイジング剤によって、樹脂の含浸が妨げられやすい。その結果、得られる複合材料の性能は、炭素繊維束の物性を十分に反映したものとはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−69754号公報
【特許文献2】特許第3047731号公報
【特許文献3】特開2009−242964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐擦過性及び耐糸切れ性を高く保持しつつも高い樹脂含浸性を有する、FW成形法に特に適したサイジング剤付着炭素繊維束及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記サイジング剤付着炭素繊維束を用いて、FW成形法によりCFRP製圧力容器を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、サイジング剤が付着したFW成形用の炭素繊維束において、その内層部に十分な量のサイジング剤を付着させるとともに、外層部のサイジング剤付着量を抑制することにより、耐擦過性及び耐糸切れ性を高く保持したまま、樹脂含浸性を高くすることができることを見出した。そして、このようなサイジング剤付着炭素繊維束は、サイジング浴に炭素繊維束を浸漬した後、この炭素繊維束に気体を吹き付けて、炭素繊維束に付着するサイジング剤の一部を除去することにより製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記課題を解決する本発明を以下に記載する。
【0012】
〔1〕 炭素繊維束にサイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴とするフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束。
【0013】
〔2〕 サイジング剤を含むサイジング浴に炭素繊維束を浸漬して前記炭素繊維に前記サイジング剤を付着させた後、気体を吹き付けて前記炭素繊維束に付着する前記サイジング剤の一部を除去することを特徴とする〔1〕に記載のフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。
【0014】
〔3〕 前記炭素繊維束の臨界張力が65〜95mN/mである〔2〕に記載のフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。
【0015】
〔4〕 前記サイジング浴に前記炭素繊維束を浸漬する回数が2〜10回である〔2〕に記載のフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。
【0016】
〔5〕 サイジング剤を含むサイジング浴に炭素繊維束を浸漬して前記炭素繊維に前記サイジング剤を付着させた後、気体を吹き付けて前記炭素繊維束に付着する前記サイジング剤の一部を除去することにより、
前記炭素繊維束に前記サイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすサイジング剤付着炭素繊維束を得る工程と、
前記サイジング剤付着炭素繊維束に樹脂を含浸させて樹脂含浸炭素繊維束を得る工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束を、中空部を有するライナーの外表面に巻回する工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束に含浸している前記樹脂を硬化する工程と、
を有することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【0017】
〔6〕 前記炭素繊維束の臨界張力が65〜95mN/mである〔5〕に記載の圧力容器の製造方法。
【0018】
〔7〕前記サイジング浴に前記炭素繊維束を浸漬する回数が2〜10回である〔5〕又は〔6〕に記載の圧力容器の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、樹脂含浸性が高く、かつ耐擦過性及び耐糸切れ性が高い。そのため、このサイジング剤付着炭素繊維束は、FW成形に特に適する。そして、このサイジング剤付着炭素繊維束を用いてFW成形法により製造するCFRP製圧力容器の性能は、炭素繊維の繊維物性が十分に反映されたものとなる。
【0020】
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法によれば、樹脂含浸性が高く、かつ耐擦過性及び耐糸切れ性が高いサイジング剤付着炭素繊維束を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束及びその製造方法と、FW成形法による圧力容器の製造方法について説明する。
【0022】
(1)サイジング剤付着炭素繊維束
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、その外層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(S)と、内層部におけるカソードルミネッセンス法(以下、「CL法」ともいう)により測定されるサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴としている。なお、以下、I/Sをサイジング剤発光強度比ともいう。
【0023】
ここで、CL法により測定されるサイジング剤発光カウント数について説明する。CL法とは、電子線を試料に照射した際に放出される紫外・可視・近赤外領域の発光を検出する測定方法である。高分子化合物においては、共役二重結合を持つ分子が発光を示し、この発光量の積算値は、発光するサイジング剤分子の量に比例する。そのため、サイジング剤付着炭素繊維束の内層部と外層部とにおける発光量の積算値を比較することにより、サイジング剤付着炭素繊維束の内層部と外層部とにおけるサイジング剤の付着量比を測定することができる。なお、CL法により測定されるサイジング剤付着炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とは、サイジング剤付着炭素繊維束をその軸に沿って2等分に切り割った際の断面部において測定される発光カウント数をいい、外層部のサイジング剤発光カウント数(S)とは、その切り割った炭素繊維束の非断面部において測定される発光カウント数をいう。
【0024】
炭素繊維束の内層部に十分な量のサイジング剤が存在することで、樹脂を炭素繊維束内層部まで十分に含浸させるに足るエントロピーを得ることができる。I/Sが2.0以上になると、内層部のサイジング剤が過剰となりフィラメント同士を拘束するバインド効果が強くなる。その結果、樹脂を含浸させる際にサイジング剤付着炭素繊維束が十分に開繊されず、樹脂の含浸が不十分になる。
【0025】
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、サイジング剤によって付与される耐擦過性と耐糸切れ性とを高く保持しているため、FW成形工程における固定ガイドやローラー等との擦過による損傷を受け難い。また、このサイジング剤付着炭素繊維束は、外層部に付着したサイジング剤の一部を除去しているため、その外層部から内層部に向って樹脂を含浸させ易い。そのため、樹脂の含浸漏れを生じ難い。その結果、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束を用いて製造される炭素繊維複合材料は、炭素繊維の本来有している繊維物性が十分に反映されて、性能の高いものとなる。
【0026】
このような炭素繊維束は、以下の方法によって製造することができる。
【0027】
(2)サイジング剤付着炭素繊維束の製造方法
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法は、
複数の炭素繊維フィラメントからなる炭素繊維束をサイジング浴に浸漬する工程と、
該サイジング浴から引き揚げた炭素繊維束に気体を吹き付けることにより、炭素繊維束に付着しているサイジング剤の一部を除去する工程と、
を有して成る。上記工程を経て製造されるサイジング剤付着炭素繊維束は、その外層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(S)と
、内層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴としている。
【0028】
<炭素繊維>
本発明で用いられる炭素繊維は特に限定されないが、ピッチ系、レーヨン系、ポリアクリルニトリル(PAN)系等の炭素繊維が使用できる。操作性及び工程通過性、機械強度を向上させるには、PAN系の炭素繊維が好ましい。また、炭素繊維束のフィラメント数は、1000〜50000フィラメントが好ましく、3000〜30000フィラメントが特に好ましい。単繊維フィラメントの直径は、4〜15μmが好ましく、5〜11μmが特に好ましい。ストランド引張強度は、400〜600kgf/mmが好ましく、450〜550kgf/mmが特に好ましい。弾性率は、20〜35kgf/mmが好ましく、24〜30kgf/mmが特に好ましい。
【0029】
このような炭素繊維は、市販品を用いてもよいが、以下の方法で前駆体繊維を紡糸し、これを耐炎化及び炭素化して製造することもできる。
【0030】
(前駆体繊維)
炭素繊維の製造に用いる前駆体繊維としては、PAN系繊維が好ましく用いられる。具体的には、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有し、その他の単量体を10質量%以下含有する単量体を単独又は共重合した紡糸原液を紡糸口金から紡出して製造する、PAN系の粗原料繊維が好ましい。その他の単量体としては、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸エステルが例示される。
【0031】
紡糸方法としては、湿式、乾湿式、乾式紡糸方法のいずれの方法も用いることができるが、最終的に得られる炭素繊維が表面に襞を形成して樹脂との接着性が期待できるので、湿式紡糸方法が好ましい。なお、紡糸溶液としては、30〜60質量%の塩化亜鉛溶液に上記アクリル系重合体を溶解したものが好ましい。
【0032】
なお、必要に応じて、紡糸ノズルに異型口金(例えば亀甲型)を用いて紡糸しても良い。また、紡糸原液の不純物を除去するために紡糸原液を濾過しても良い。紡糸原液の濾過は、工程安定化、強度・弾性率等の改善に大きく寄与する。そのため、得られる炭素繊維の繊維表面の多孔質化よりも、工程安定化、強度・弾性率等の改善が求められる場合には特に有効である。
【0033】
上記粗原料繊維は、張力をかけながら洗浄処理及び湿熱延伸処理を施すが、洗浄工程及び湿熱延伸工程におけるトータル延伸倍率は10〜15倍とすることが好ましい。
【0034】
(耐炎化処理)
得られた前駆体繊維は、引き続き加熱空気中、220〜300℃、好ましくは230〜260℃で熱処理して耐炎化繊維を得る。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で処理されるが、高強度・高弾性率の炭素繊維を得るためには、延伸倍率0.95〜1.30がより好ましい。
【0035】
(炭素化処理)
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法によって炭素化される。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは酸素濃度が0.05体積ppm未満の不活性ガス雰囲気下で昇温し、炭素化炉で徐々に温度を高めると共に、耐炎化繊維の張力を制御して焼成する。焼成温度は、600〜2000℃が好ましく、1000〜1700℃が特に好ましい。不活性ガスは、窒素が廉価であるため好ましい。
【0036】
本製造方法において用いる炭素繊維束は、その臨界張力が65〜95mN/mであることが好ましく、70〜90mN/mであることが特に好ましい。この範囲の臨界張力の炭素繊維束は、その内層部に十分な量のサイジング剤を含浸させることができる。炭素繊維束の臨界張力が65mN/m未満である場合、サイジング剤との濡れ性が低くなるため、炭素繊維束に十分な量のサイジング剤が付与されない。その結果、炭素繊維束とマトリックス樹脂との親和性が低下して、炭素繊維の本来有する繊維物性が炭素繊維複合材料の性能に十分に反映されない場合がある。また、臨界張力が95mN/mを超える場合、サイジング剤との濡れ性は高くなるが、脆弱層と呼ばれる構造的に弱い酸化層が炭素繊維表面に形成される。その結果、得られる炭素繊維複合材料の性能が低下する場合がある。
【0037】
炭素繊維束の臨界張力を上記範囲にするためには、炭素繊維の製造工程において、炭素化処理後、表面処理を行うことが好ましい。表面処理の手法は特に限定されないが、薬液を用いる液相酸化、又は電解液溶液中で炭素繊維を陽極として電解処理する電解酸化、気相状態でプラズマ処理する気相酸化等を用いることができる。これらのうち、生産性、処理の均一性、安全性の観点から、電解酸化を用いることが好ましい。電解処理で用いる電解液の電解質は特に限定されないが、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸; 酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、マレイン酸等の有機酸; 硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等のアンモニウム塩又はアンモニア; 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等のアルカリ水酸化物; 炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機塩; マレイン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩; を単独又は2種類以上の混合物として用いることができる。
【0038】
電解液の温度は、0〜100℃が好ましく、25〜45℃が特に好ましい。また、電解質の濃度は、5〜25質量%が好ましく、8〜12質量%が特に好ましい。電解処理は複数の電解槽を使用して行うことが好ましい。設備及びコスト、条件設定の煩雑さを考慮すれば、2〜10槽を使用することが好ましい。電気量は、炭素繊維1gに対して、0.5クーロン以上であることが好ましく、2〜100クーロンであることが特に好ましい。
【0039】
上記電解処理を行うにあたっては、電解処理の前に電解処理で用いる電解液を炭素繊維束に予備含浸させておくことが好ましい。この予備含浸は、電解液を炭素繊維束の内層部に含浸させることができれば、どのような方法で行っても良い。しかし、炭素繊維は表面疎水性が高いため、電解液を単に満たした電解槽に炭素繊維束を通すだけでは、炭素繊維束の内層部に電解液が十分に含浸されない場合がある。そのため、炭素繊維束を電解槽に通すにあたっては、電解槽内の電解液に乱流を生じさせておくことが好ましい。乱流を生じさせる方法としては、シャワー、振動子の使用が挙げられる。
【0040】
<サイジング剤付与工程>
本発明において用いられるサイジング剤としては、複合材料に用いるマトリックス樹脂に応じて選択することが好ましい。例えば、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0041】
上記樹脂は有機溶剤溶液として、又は水分散液として用いる。安全、環境等を考慮すると水分散液として用いることが好ましい。
【0042】
炭素繊維束へのサイジング剤の付与方法としては、連続式とバッチ式とが挙げられるが、生産性が高い連続式で行うことが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法においては、炭素繊維束のサイジング浴への浸漬回数は、複数回であることが好ましく、2〜10回であることがより好ましく、3〜5回であることが特に好ましい。1回の浸漬では、炭素繊維束の内層部に十分な量のサイジング剤が含浸されず、内層部の炭素繊維が十分にサイジング剤で被覆され難い。その結果、炭素繊維束の耐擦過性やマトリックス樹脂との親和性が不十分になる。また、10回を超える浸漬は、工程数が増加して生産性が低下する。各サイジング浴に含まれるサイジング剤は、同一であっても異なっていても良いが、同一であることが好ましい。
【0044】
サイジング浴への浸漬時間は、特に限定するものではないが、浸漬時間が長くなることは、工程が長くなることと同義であるので、5秒以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の製造方法においては、炭素繊維束のサイジング浴への複数回の各浸漬は連続的に行われ、各浸漬工程間に乾燥工程が存在しない。各浸漬工程間に乾燥工程が存在する場合、炭素繊維束の外層部に先ずサイジング剤が付着し、該乾燥工程でこれが乾燥することにより、内層部へのサイジング剤の含浸を妨げる。その結果、最終的に得られる炭素繊維複合材料において、炭素繊維束の内層部にマトリックス樹脂が十分に含浸せず、炭素繊維複合材料の性能が不十分になる。なお、後述する気体の吹き付けは、その吹き付け時間が1秒以下とごく短時間であるため、本発明においては上記の乾燥工程に該当しない。
【0046】
なお、サイジング剤の濃度及び温度や、浸漬時における炭素繊維束の張力等はサイジング剤の付着量が適性範囲内となるように適宜調整される。
【0047】
<サイジング剤除去工程>
サイジング剤が付着した炭素繊維束は、そのサイジング剤の一部が除去される。サイジング剤の除去は、サイジング剤が付着した炭素繊維束を連続的に走行させながら、炭素繊維束に向けて気体を吹き付けることによって行われる。より具体的には、炭素繊維束を平ローラーの円周面に接触させ、かつ、平ローラーの円周面に接触する炭素繊維束に向けて気体を吹き付けることによって行われる。これにより、炭素繊維束の外層側に付着しているサイジング剤の一部が除去される。その結果、炭素繊維束の内層部に十分な量のサイジング剤を含むとともに、外層部のサイジング剤付着量が減じられたサイジング剤付着炭素繊維束が得られる。
【0048】
カソードルミネッセンス法(以下、「CL法」ともいう)により測定されるこのサイジング剤付着炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とは、下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・式(1)
の関係を満たしており、下式(2)
0.9< I/S <1.8 ・・・式(2)
の関係を満たすことが好ましく、下式(3)
1.0< I/S <1.6 ・・・式(3)
の関係を満たすことが特に好ましい。
【0049】
吹き付ける気体の風速は、炭素繊維束表面において15〜50m/秒であることが好ましい。風速が15m/秒以上である場合、炭素繊維束外層部の余剰なサイジング剤を十分に除去することができる。その結果、この炭素繊維束は、樹脂含浸工程において、内層部への樹脂の浸透性が向上する。風速が50m/秒を超える場合は、炭素繊維ストランドに乱れが生じ、毛羽立ちや、平ローラーへの巻き付きが起こり易い傾向がある。
【0050】
気体の吹き付け時間は、0.01〜1秒であることが好ましく、0.05〜0.5秒であることが特に好ましい。
【0051】
余剰のサイジング剤が除去された後のサイジング剤付着炭素繊維束における前記サイジング剤の付着量は、0.8〜3.0質量%であり、1.0〜2.0質量%であることが好ましい。サイジング剤の付着量が0.8質量%未満である場合、サイジング剤が炭素繊維を十分に覆うことが出来ない場合がある。その結果、炭素繊維束の耐擦過性が低下し、複合材料成形工程中において毛羽の発生が顕著になる傾向がある。また、サイジング剤の付着量が3.0質量%を超える場合、サイジング剤のバインダー効果が強過ぎて、炭素繊維束内への樹脂の浸透性が低下する場合がある。その結果、炭素繊維束の繊維物性が最終的に得られる炭素繊維複合材料の性能に反映され難い傾向がある。
【0052】
炭素繊維束の繊維物性を炭素繊維複合材料の性能に十分に反映させるには、マトリックス樹脂を炭素繊維束内層部に十分に含浸させ、複合材料の性能に寄与しない繊維を生じさせないことが必要である。そのためには、炭素繊維束内層部にマトリックス樹脂が含浸されるに足りるエントロピーが不可欠である。炭素繊維よりも、サイジング剤の方がマトリックス樹脂との親和性が高い。そのため、炭素繊維束内層部に十分な量のサイジング剤が付着するとともに、炭素繊維束外層部に付着したサイジング剤が減じられている状態を作り出すことにより、炭素繊維束内層部までマトリックス樹脂を十分に呼び込むことができる。その結果、炭素繊維束の繊維物性を最終的な炭素繊維複合材料の性能に十分に反映させることができる。
【0053】
(3)FW成形法による圧力容器の製造方法
本発明においてCFRP製圧力容器は、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束を用いてFW成形法により製造される。即ち、炭素繊維束に樹脂を含浸させながらライナー等に巻き付けた後、この樹脂を硬化させることによって製造される。このFW成形法は、工程中のローラーやガイドとの擦過によって炭素繊維束の損傷を引起し易い。炭素繊維束が損傷すると工程通過性や工程安定性が低下するだけでなく、得られる炭素繊維複合材料の性能も低下する。
【0054】
前記サイジング剤付着炭素繊維束には、十分な量のサイジング剤が含浸されている。そのため、ローラーやガイドとの擦過が生じても、サイジング剤付着炭素繊維束に毛羽立ちや糸切れが生じ難い。また、サイジング剤付着炭素繊維束は、その外層部に付着しているサイジング剤量が少ない。そのため、このサイジング剤は、樹脂を含浸させる際の障害とならない。
【0055】
本発明においては、CFRP製圧力容器は前記サイジング剤付着炭素繊維束を用いてFW成形法により製造される。本発明においては、予め製造されたサイジング剤付着炭素繊維束を用いても良いし、サイジング剤付着炭素繊維束の製造と、FW成形法によるCFRP製圧力容器の製造とが連続的に行われても良い。
【0056】
樹脂は、開繊ローラー等を用いてサイジング剤付着炭素繊維束を開繊しながら含浸させることが好ましい。
【0057】
樹脂(マトリックス樹脂)としては、熱硬化性樹脂が好ましい。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂を用いることができる。また、樹脂には、硬化剤、脱泡剤等の添加剤を添加しても良い。硬化温度、効果時間などは従来公知であり、使用する樹脂に応じて適宜調整される。
【0058】
本発明におけるCFRP製圧力容器の製造方法では、中空部を有するライナーの外表面に、樹脂が含浸されたサイジング剤付着炭素繊維束(以下、「樹脂含浸炭素繊維束」ともいう)がライナーの軸方向に配置される繊維強化樹脂層(A)及び/又は、樹脂含浸炭素繊維束がライナーの軸方向に対してヘリカルに配置される繊維強化樹脂層(B)が積層される。なお、繊維強化樹脂層(A)及び/又は繊維強化樹脂層(B)の積層構成は、所望の圧力容器の性能に応じて適宜決定される。
【0059】
その後、樹脂含浸炭素繊維束に含浸されている樹脂は、その樹脂に応じた硬化方法によって硬化されて、CFRP製圧力容器が製造される。
【0060】
このようにして製造されるCFRP製圧力容器は、炭素繊維束の優れた繊維物性が十分に反映される。本製造方法で製造されるCFRP製圧力容器の理論破壊圧に対する実破壊圧は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の評価方法は、次の通りである。
【0062】
[CL法により測定されるサイジング剤の発光カウントの測定]
CL法によるサイジング剤の発光カウントの測定には、トプコン製 カラー蛍光電子顕微鏡を使用した。サイジング剤付着炭素繊維束をカーボンテープ上に固定して測定サンプルとした。測定条件は、加速電圧5kV、絞り径50μm、電流モードLCT−S、ピクセルサイズ3、分光機スリットオープン、1000倍とし、グレーティング分光法により280±10nmで3分間の積算発光量を測定した。
【0063】
[圧力容器破壊強度の評価方法]
長さ504mm、外径160mm、肉厚2mmのボンベ形状アルミニウムライナーに、サイジング剤付着炭素繊維束を、以下の樹脂組成から成る樹脂に含浸させながら、バックテンション4kg/束、ワインディング速度0.5m/secの速度でフープ層を1.6cmピッチで1層巻き付けた後、ヘリカル層を1層積層した。その後、120℃の硬化炉で11時間硬化させて、破壊強度評価用圧力容器を得た。
樹脂組成:
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 ・・・100質量部
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物・・・80質量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、油化シェルエポキシ株式会社製のEPON828(商品名)を使用した。4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物としては、LINDAU CHEMICAL INC.製のLindride52(商品名)を使用した。
【0064】
この破壊強度評価用圧力容器を、バースト試験装置を用いて45MPa/secで水圧をかけて、実破壊圧(P)を測定した。この測定は、各実施例及び比較例毎に3回実施し、それぞれ平均値を求めた。
【0065】
[タンク破壊強度発現率の計算]
Algor FEA ソフトウェアを使用し、有限要素解析で圧力容器の理論破壊圧(P)を計算した。この理論破壊圧(P)と上記実破壊圧(P)の値から下式(3)
タンク破壊強度発現率(%) = P/P × 100 ・・・式(3)
によりタンク破壊強度発現率を計算した。
【0066】
[臨界張力の測定方法]
炭素繊維束の臨界張力は、毛管浸透法により求めた。試験液としては、JIS K6768に記載の液体、水(73.0mN/m)、メタノール(22.6mN/m)、ホルムアミド(58.0mN/m)、エチレングリコールモノエチルエーテル(30.0mN/m)を使用した。
【0067】
[サイジング剤の付着量の測定]
サイジング剤付着炭素繊維束のチョップを約5g採取し、質量(W1)を測定した。予め恒量にした坩堝の質量(W2)を量った後、前記チョップを坩堝に入れ、窒素雰囲気下で450±5℃の熱風循環式乾燥機内で30分熱処理を行った。デシケーター内で室温まで冷却し、炭素繊維チョップが入った坩堝の質量(W3)を測定した。下式(4)
サイジング剤付着量(%)=(W1+W2-W3)/(W3-W2)×100 ・・・式(4)
によりサイジング剤付着量を計算した。
【0068】
[炭素繊維の樹脂含浸ストランド強度]
サイジング剤付着炭素繊維束の樹脂含浸ストランド強度は、JIS・R・7608に規定された方法により測定した。
【0069】
[ファズの測定方法]
サイジング剤付着炭素繊維束を、125gの重りを乗せたウレタンシートの間を50フィート/分の速度で2分間走行させ、ウレタンシートに溜まった炭素繊維量を測定した。
【0070】
[MPFの測定方法]
サイジング剤付着炭素繊維束を、200gの張力をかけながら、5本のピンガイドの間を50フィート/分の速度で2分間走行させた後、125gの重りを乗せたウレタンシートの間を通し、ウレタンフォームに溜まった炭素繊維量を測定した。
【0071】
[実施例1]
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・オイリング・乾燥後、トータル延伸倍率が14倍になるようにスチーム延伸を行い、0.65デニールの繊度を有するフィラメント数24,000の前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、240〜250℃の温度範囲内で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、300〜1200℃の温度範囲内で炭素化処理を行い、未電解処理炭素繊維束を得た。前記未電解処理炭素繊維束を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液とし、シャワーを用いて電解質溶液水面を乱流状態としたオーバーフロー浴に含浸した後、総電気量50クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は76mN/mであった。
【0072】
この炭素繊維束をエポキシ変性ウレタンを主剤とするサイジング浴(濃度33g/l)にディップ方式により3回浸漬した。2回目及び3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.8m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm、ストランド強度4700MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が1.5のサイジング剤付着炭素繊維束を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0073】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は52MPaであり、タンク破壊強度発現率は101.7%と非常に高い値であった。
【0074】
[実施例2]
実施例1で得た電解酸化処理後の炭素繊維束を、不飽和ポリエステルを主剤とするサイジング浴(濃度33g/l)にディップ方式により3回浸漬した。3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.1m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm、ストランド強度4600MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が1.0のサイジング剤付着炭素繊維束を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0075】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は48MPaであり、タンク破壊強度発現率は95.7%と非常に高い値であった。
【0076】
[実施例3]
実施例1で得た炭素繊維前駆体繊維を用い、得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、240〜250℃の温度範囲内で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、300〜1300℃の温度範囲内で炭素化処理を行い、未電解処理炭素繊維を得た。
【0077】
前記未電解処理炭素繊維束を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液とし、シャワーを用いて電解質溶液水面を乱流状態としたオーバーフロー浴に含浸した後、総電気量60クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は78mN/mであった。
【0078】
電解酸化処理後の炭素繊維束を、エポキシ変性ウレタンを主剤とするサイジング浴(濃度33g/l)にディップ方式により3回浸漬した。3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.5m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.81g/cm、ストランド強度4600MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.9のサイジング剤付着炭素繊維束を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0079】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は43MPaであり、タンク破壊強度発現率は92.3%と非常に高い値であった。
【0080】
[実施例4]
実施例3で得た電解酸化処理後の炭素繊維束を、不飽和ポリエステルを主剤とするサイジング浴(濃度32g/l)にディップ方式により3回浸漬した。2回目及び3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.8m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.81g/cm、ストランド強度4600MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が1.2のサイジング剤付着炭素繊維を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0081】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は45MPaであり、タンク破壊強度発現率は99.4%と非常に高い値であった。
【0082】
[実施例5]
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、電解液を炭素繊維束に含浸させることなく、電解質溶液として8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質水溶液として用い、総電気量30クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を行った。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は75mN/mであった。
【0083】
電解酸化処理後の炭素繊維束を、エポキシ変性ウレタンを主剤とするサイジング浴(濃度34g/l)にディップ方式により1回浸漬した。ローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.8m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm、ストランド強度4400MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.8のサイジング剤付着炭素繊維を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0084】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は47MPaであり、タンク破壊強度発現率は88.2%であった。
【0085】
[比較例1]
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液として用い、実施例1と同様に電解液を炭素繊維束に含浸させた。その後、総電気量15クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は66mN/mであった。
【0086】
電解酸化処理後の炭素繊維束を、エポキシ変性ウレタンを主剤とするサイジング浴(濃度37g/l)にディップ方式により1回浸漬した。その後、ローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速2.8m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm、ストランド強度5300MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.7のサイジング剤付着炭素繊維を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0087】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は47MPaであり、タンク破壊強度発現率は81.0%であった。
【0088】
比較例1では、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.7と低く、サイジング剤が炭素繊維束内層部に十分に含浸していなかったため、得られた圧力容器のタンク破壊強度発現率は低い値となった。
【0089】
[比較例2]
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、電解液を炭素繊維束に含浸させることなく、電解質溶液として8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液として用い、総電気量10クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は40mN/mであった。
【0090】
電解酸化処理後の炭素繊維束を、エポキシ変性ウレタンを主剤とするサイジング浴(濃度38g/l)にディップ方式により1回浸漬した。その後、ローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた(風速3.5m/0.1秒)。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm、ストランド強度5000MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.6のサイジング剤付着炭素繊維を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
【0091】
このサイジング剤付着炭素繊維束を用いて、前述の圧力容器破壊強度の評価方法に従って、破壊強度評価用圧力容器を製造した。得られた破壊強度評価用圧力容器について内圧試験を行ったところ、破壊強度は47MPaであり、タンク破壊強度発現率は80.0%であった。
【0092】
比較例2では、サイジング剤発光強度比(I/S)が0.6と低く、サイジング剤が炭素繊維束内層部に十分に含浸していなかったため、得られた圧力容器のタンク破壊強度発現率は低い値となった。
【0093】
【表1】