特許第6543314号(P6543314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543314
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】流体変化を検出するための診断システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/05 20060101AFI20190628BHJP
【FI】
   A61B5/05 A
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-194014(P2017-194014)
(22)【出願日】2017年10月4日
(62)【分割の表示】特願2014-553492(P2014-553492)の分割
【原出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-20174(P2018-20174A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2017年11月1日
(31)【優先権主張番号】61/588,516
(32)【優先日】2012年1月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514181956
【氏名又は名称】セレブロテック メディカル システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ワイス リチャード
(72)【発明者】
【氏名】レヴィンソン ミッチェル
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0193575(US,A1)
【文献】 特開昭56−027509(JP,A)
【文献】 特開平01−212341(JP,A)
【文献】 特開2011−030106(JP,A)
【文献】 特表2001−502832(JP,A)
【文献】 特開2007−272413(JP,A)
【文献】 特開2002−062323(JP,A)
【文献】 実開昭60−037905(JP,U)
【文献】 国際公開第2010/103461(WO,A1)
【文献】 特表2011−526191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05
H01Q 7/00
H01Q 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部における流体媒体における変化を監視する診断システムであって、
患者の頭部に設置されるヘッドセットと、
前記ヘッドセットに取り付けられ、且つ第1の信号に応答して第1の時間的に変化する磁場を発生させて前記流体媒体に送信するよう構成された第1の送信器と、
前記第1の送信器から離れた位置で前記ヘッドセットに取り付けられ、且つ第2の信号に応答して第2の時間的に変化する磁場を発生させて前記流体媒体に送信するよう構成された第2の送信器と、
前記第1の送信器及び第2の送信器の内の少なくとも一方から前記流体媒体を横切って位置付けられ、前記第1の送信器から第1の時間的に変化する磁場を受信し、受信された第1の時間的に変化する磁場に応答した第3の信号を発生させるか、或いは受信された第2の時間的に変化する磁場に応答した第4の信号を発生させるよう構成された第1の受信器と、
前記ヘッドセットに取り付けられた第2の受信器であって、前記第1の送信器と同心状にある、前記第2の受信器、
前記送信された第1の及び第2の時間的に変化する磁場の複数の周波数に対して、前記送信された第1の時間的に変化する磁場と前記受信された第1の時間的に変化する磁場との間の第1の位相シフトと、前記送信された第2の時間的に変化する磁場と前記受信された第2の時間的に変化する磁場との間の第2の位相シフトとを決定するよう構成されたプロセッシングユニットと、
前記第1の送信器、前記第2の送信器、及び前記受信器を、前記患者の頭部に結合するように構成された複数の安定化装置と、
を備える、診断システム。
【請求項2】
前記第1の送信器、前記第2の送信器、前記第1の受信器又は前記第2の受信器の少なくとも1つが、シールド伝送線路を備る、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記シールド伝送線路が、第2の導体を少なくとも部分的に囲むシールドとして第1の導体を備え、前記第2の導体が、前記受信した第1及び第2の時間的に変化する磁場に応答した前記第3及び第4信号を提供する、請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記シールド伝送線路が、2つの接地平面間に結合されたプリント回路基板上にストリップ線路を含み、前記シールド伝送線路が、ループ形状を有し、前記シールド伝送線路が、約200MHzを上回る最低固有共振周波数を有する、請求項2に記載の診断システム。
【請求項5】
前記2つの接地平面間に複数のバイアを更に備える、請求項4に記載の診断システム。
【請求項6】
前記ループ形状が、2.54センチ(1インチ)の直径を有する、請求項4に記載の診断システム。
【請求項7】
前記ループ形状が、シングルターンループである、請求項4に記載の診断システム。
【請求項8】
前記シールド伝送線路が、前記プリント回路基板の第1の層に位置付けられた第1のループを含み、前記システムが更に、前記プリント回路基板の第2の層に位置付けられ且つストリップ線路を用いて形成された第2のループを備え、前記第1及び第2のループからのリード線が差動増幅器に結合される、請求項4に記載の診断システム。
【請求項9】
前記シールド伝送線路に結合され且つ前記シールド伝送線路の出力を平衡化するよう構成されたバランを更に備える、請求項2に記載の診断システム。
【請求項10】
前記シールド伝送線路の出力が、50Ωの出力インピーダンスを効果的に有するように平衡化される、請求項2に記載の診断システム。
【請求項11】
前記複数の安定化装置が、
前記ヘッドセットと結合されていて、前記ヘッドセットが前記患者の頭部に置かれた時に、前記第1の送信器と前記患者の頭部との間に配置されるように構成された第1のスペーサと、
前記ヘッドセットと結合されていて、前記ヘッドセットが前記患者の頭部に置かれた時に、前記第2の送信器と前記患者の頭部との間に配置されるように構成された第2のスペーサと、
前記ヘッドセットと結合されていて、前記ヘッドセットが前記患者の頭部に置かれた時に、前記第1の受信器又は前記第2の受信器と前記患者の頭部との間に配置されるように構成された第3のスペーサと、を更に含む、請求項1に記載の診断システム。
【請求項12】
前記第1の送信器に結合され且つ該第1の送信器に近接して位置付けられた第1のアナログデジタルコンバータと、
前記第2の送信器に結合され且つ該第2の送信器に近接して位置付けられた第2のアナログデジタルコンバータと、
前記第1の受信器に結合され且つ該第1の受信器に近接して位置付けられた第3のアナログデジタルコンバータと、
前記第2の受信器に結合され且つ該第2の受信器に近接して位置付けられた第4のアナログデジタルコンバータと、
を更に備える、請求項1に記載の診断システム。
【請求項13】
前記第1の送信器と前記第2の送信器とが前記ヘッドセットの互いに反対の側部に位置付けられている、請求項1に記載の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、非侵襲性の診断医療装置、システム、及び方法に関する。より具体的には、本開示の一部の実施形態は、磁気誘導位相シフト分光法(「MIPS」)を用いて脳内又は身体の他の部分の流体の変化を監視する装置、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの様々な医療機関において、発生した体液の変化を非侵襲式に検出できることが有利となる。例えば、多くの場合、集中治療室の患者の頭蓋内の流体変化を監視することが重要である。これらの患者に対する標準的な治療は、頭蓋にドリルで孔を開けて、頭蓋内圧(ICP)監視のようなプローブ、又は脳内の流体に対する化学的変化を測定するためのマイクロダイアリシスもしくは「licox」プローブを挿入することを必要とする侵襲的監視を含む。出血又は浮腫によって生じることになるような脳流体変化を検出する際に現在商業的に利用可能な非侵襲性の測定技術は存在せず、また、多くの脳損傷は、侵襲的監視のため頭蓋にドリルで孔を開ける必要がある程には重篤ではない。従って、脳損傷の多くの患者について、可能性のある有害な浮腫又は出血の増大があったときに臨床スタッフに警報を発するのに利用可能な連続監視技術は存在しない。むしろ、これらの患者は通常、臨床的神経検査を利用した看護スタッフにより監視され、脳内の流体の増加によって観測可能な脳機能障害を引き起こして初めて医師又は看護師が対応することができる。換言すると、頭蓋内流体変化自体を監視するのに現在利用可能である方法は存在せず、従って、このような変化を補償する能力は制限される。
【0003】
これまでに、脳流体の異常を診断するのにMIPSが提案されている。提案の装置についてこれまでに幾つかの特許が付与されており、原型的装置に関する有望な科学的研究が文献に記載されている。例えば、Rubinsky他は、米国特許第7,638,341号、第7,910,374号、及び第8,101,421号においてこの目的でのMIPSの使用を説明しており、これらの開示内容は、引用により全体が本明細書に組み込まれる(本明細書では「Rubinsky特許」と呼ばれる)。しかしながら、脳治療又は他の医療区域を専門とする臨床医にこのような装置の期待される利点を提供するMIPS技術をベースとする実用的な量産の医療装置は未だ現れていない。
【0004】
真空中で電磁放射線の進む速度は、透磁率と誘電率の積の平方根の逆数に等しいことが、Albert Einsteinによって最初に唱えられた。この式によって、およそ3×108メートル/秒である周知の光速の値が得られる。しかしながら、電磁場が媒質を伝播するのに必要とされる有限時間は時間遅延をもたらし、これは、受信器で検知される電磁場と、比較される送信器から放出される電磁場との間で位相シフト(例えば、オフセット又は遅延)が示される。換言すると、電磁場は通常、真空中で最も速く伝播し、送信器と受信器との間に何らかの物質又は媒質が存在する場合には伝播がより遅くなる。この減速の量は、媒質の相対透磁率と相対誘電率の積の平方根に逆比例する。
【0005】
生体物質の物質組成はほぼ全て非磁性であり、相対透磁率はおよそ1である。従って、生体物質による時間遅延/位相シフトの変動は、主として、電磁場が通過する経路に沿った平均相対誘電率に依存することができる。相対誘電率は、様々な組織タイプ及び体液によって異なる。生体物質の誘電率はまた、時間的に変化する電磁場の周波数に依存し、また周囲温度に依存することができる。体液の相対誘電率は、ほとんどの脳組織よりも高く、従って、脳内の流体レベルの変化は、脳又は他の媒質を伝播するときの電磁場の全体の位相シフトに比較的大きな作用をもたらす可能性がある。
【0006】
約200MHzを下回る無線周波数(「RF」)の周波数では、脳の対向する側部間の距離は、正常に伝播する横電磁波の一波長よりも短い。これは、近接場として知られ、この領域において電磁波は完全には形成されていない。この近接場磁場の伝播事例において、伝播時間及び位相変化は、主として、誘電率ではなく経路中の組織及び体液の損失係数により決定付けられる。損失係数は、複素誘電率及び導電率の虚部の関数である。エネルギーの消散の物理的機構は、変化する界磁極性への分極分子の一定再配列である。従って、所与の物質についての損失係数は、概してそのイオン含有量に依存する。脳組織及び脳液のイオン含有量は各物質で異なる。相対誘電率の変動と組み合わせると、脳内の種々の生体組織及び脳液は、低周波の近接場伝播と高周波通常伝播の場合の両方において相変化からみたときに、固有の位相シグネチャを示す。位相遅延を引き起こす物理的特性の大きな相違に起因して、200MHzを下回るRF周波数と上回るRF周波数の両方を用いたマルチスペクトル測定により、微量な脳内液だけでなく、少量の血液、脳脊髄液(CSF)又は出血又は浮腫に起因した脳の空洞内に蓄積する他の液体のような液体含有量の正確な性質の下位分類の特性評価が可能になる。
【0007】
この場合も同様に、体内の流体変化の診断におけるMIPSの使用の研究にもかかわらず、これを実施するためのMIPS技術をベースとした実用上の医療装置は現在のところ存在しない。このような技術に対する強い必要性がある。理想的には、医療装置の解決策は、脳及び/又は身体の他の部位における非侵襲性の流体変化検出に使用できるように、性能、利便性、及び製造容易性を改善したMIPSシステムを提供することになる。これらの目的の少なくとも一部は、本明細書で記載される実施形態によって対処されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,638,341号明細書
【特許文献2】米国特許第7,910,374号明細書
【特許文献3】米国特許第8,101,421号明細書
【特許文献4】特表2011−526191
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/0193575
【特許文献6】特開平01−212341
【特許文献7】特開昭56−027509
【特許文献8】特開2011−030106
【特許文献9】特開2007−272413
【特許文献10】特開2002−062323
【特許文献11】実開昭60−037905
【特許文献12】特表2001−502832
【発明の概要】
【0009】
一般に、電磁場のMIPS測定は、身体部位における流体レベルの変化を検出するのに用いることができる。身体の種々の部分における検出した流体レベルの変化を用いて、病状を監視又は評価することができ、場合によっては、検出した流体レベルの変化を用いて、患者に施すべき治療又は外科治療を決定又は調整することができる。例えば、脳内の異常な流体変化は、脳卒中又は脳損傷に起因した出血、浮腫、又は虚血などの異常に関する治療の決定を助けるのに用いることができる。他の身体部位において、異常な流体レベルの変化の検出は、鬱血性心不全、リンパ浮腫、及びその他多くのものなどの疾患の治療を助けるのに用いることができる。
【0010】
本開示は、位相シフト測定の絶対精度だけでなく、位相シフト測定の再現性をも改善する方法及びシステムを提供する。本開示はまた、位相シフトを発生する機構の物理的特性、並びに脳を損傷した患者に生じる生体内プロセスに対する位相シフトの相関性に関するより詳細な説明を含む。定量的位相シフト測定データを脳の健康に関する定量的評価に変換する実用的な方法も提示される。
【0011】
位相シフトは、流体変化に伴って生じる組織の電気的特性への変化を測定するのに良好な方法であるが、本明細書で記載される種々の実施形態は、代替として、このような変化を測定するのに他の技法を用いることができる。例えば、一部の実施形態において、組織の電気的特性に対する変化を測定するのに振幅の変化を用いることもできる。RF検出器にて受信する放射線の振幅は、放射体からの距離、放射及び受信アンテナの幾何形状及び向き、並びに経路中の種々の物質のタイプ及び幾何形状の影響を受ける。より低いRF周波数では、ほとんどの生体物質の吸収は極めて小さい。しかしながら、物質における導電性又は電磁場損失が大きい場合には、より著しい吸収が存在する。放射経路における物質の形状及び粒度により、散乱又は屈折レンズ現象を引き起こす可能性があり、これはまた、検出される放射線の振幅に強い影響を及ぼす。位相の変化は、振幅の減衰よりもより有意な作用があり、解読するのがより容易でもある。しかしながら、振幅データは、個々の位相測定のときに又は他の目的で放射体と検出器が適切に整列されるのを確保するための品質チェックとして有用とすることができる。よって、本開示は、主として位相シフト測定に焦点を当てることにするが、種々の実施形態は、代替として、又はこれに加えて他の技法を利用することができる。
【0012】
本開示は、非侵襲的で非接触の方法を用いて患者の脳を通過した後の時間的に変化する電磁場の位相シフトを測定する手段を提供する。電磁場は、患者の頭部の一方側に置かれ、時間的に変化する入力電流(例えば、正弦波型信号)を時間的に変化する磁場に変換する小型送信器によって生成することができる。患者の頭部の他方側に置かれた小型受信器又は検出器は、1つの実施形態において、患者の頭部を通過した後の磁場を検出して、この磁場を受信した時間的に変化する電流に変換する。受信した時間的に変化する磁場の周波数は、送信した時間的に変化する磁場の周波数と同じとなるが、2つの磁場の間には位相角のシフトが存在し、これは、信号の周波数と、送信器から受信器へ磁場が伝播するときに通過する媒質とに依存する。種々の実施形態において、送信及び/又は受信時に磁場を測定するために電流の代わりに実効電圧を用いてもよい。
【0013】
送信器における電流と、受信器における電流は、サンプリング信号によって決まる適切なサンプリングレート及びインターバルで1又はそれ以上のアナログデジタル(A−D)コンバータによりサンプリングすることができる。アナログ電気信号からデジタルデータへの変換は、一部の実施形態において、患者の頭部の近傍に位置する送信器及び/又は受信器に近接して行うことができる。次いで、放射及び受信した磁場の収集されたデジタルサンプルは、一部の実施形態において、デジタル信号バスを介して遠隔のプロセッシングユニットに送られて処理することができる。他の実施形態において、アナログ電気信号は、送信器及び受信器から同軸ケーブルを通じて遠隔プロセッシングユニットにおけるADコンバータへ送られる。
【0014】
本明細書で記載される媒質の変化を監視する診断システムの1つの実施形態において、本システムは、第1の信号に応答して、時間的に変化する磁場を生成し媒質に送信するよう構成された送信器を含む。本システムはまた、送信器とは反対側の媒質の側部に位置付けられた受信器を含み、該受信器にて受信した磁場に応答して第2の信号を発生するよう構成される。本システムはまた、送信した時間的に変化する磁場の複数の周波数について送信磁場と受信磁場の間の位相シフトを求めるよう構成されたプロセッシングユニットを含む。送信器及び受信器のうちの少なくとも1つは、シールド伝送線路を用いて形成されたループを含む。
【0015】
一部の実施例において、伝送線路は、第2の導体を少なくとも部分的に密封するシールドとして第1の導体を含むことができ、第2の導体は、変化する磁場に応答して信号を提供する。伝送線路は、同軸ケーブル、ツイストシールドペア線、二軸ケーブルのうちの1つを含むことができ、及び/又は第1の導体は、第2の導体の周りでファラデー箱を形成することができる。シールド伝送線路は、一部の実施例において2つの接地平面間に結合されたプリント回路基板上にストリップ線路を含むことができ、2つの接地平面間には複数のバイアが存在することができる。ループは、およそ1インチの直径を有することができ、シングルターンループとすることができ、及び/又は200MHzを上回る最低固有共振周波数を有することができる。一部の実施例において、ループは、プリント回路基板の第1の層に位置付けられた第1のループとすることができ、システムは更に、プリント回路基板の第2の層に位置付けられ且つストリップ線路を用いて形成される第2のループを含むことができ、第1及び第2のループ両方からのリード線は、差動増幅器に結合される。プリント回路基板はまた、プリント回路基板のループの上方と下方に位置付けられた複数の接地シールド面を含むことができる。接地シールド面は各々、円形のボイドを定めることができ、該円形ボイドの内径は、ループの内径よりも小さい。バラン(平衡不平衡変圧器)は、ループに結合され、該ループの出力の平衡をとるように構成することができ、及び/又はループの出力は、事実上50Ωの出力インピーダンスを有するように平衡をとることができる。
【0016】
また、一部の実施例において、システムは、送信器に結合され且つ送信器に近接して位置付けられた第1のアナログデジタルコンバータを含むことができ、また、受信器に結合され且つ受信器に近接して位置付けられた第2のアナログデジタルコンバータを含むことができる。第1のアナログデジタルコンバータと送信器は単一のプリント回路基板に結合することができる。プロセッシングユニットは、サンプリング信号を発生するよう構成されたサンプリング信号発生器を含むことができ、サンプリング信号は、送信及び受信した磁場をアンダーサンプリングする周波数を有する。プロセッシングユニットは更に、送信及び受信磁場の複数のそれぞれのサンプルを平均化し、平均の送信磁場と平均の受信磁場との間の位相シフトを求めるよう構成することができる。プロセッシングユニットは、サンプリング信号を発生するよう構成されたサンプリング信号発生器を含むことができ、サンプリング信号は、送信及び受信磁場をコヒーレントサンプリングするようにされる。プロセッシングユニットは更に、送信及び受信磁場のサンプルの高速フーリエ変換を計算し、それぞれの計算した高速フーリエ変換の位相成分を比較することにより位相シフトを求めるように構成することができる。
【0017】
一部の実施形態において、送信器は第1の送信器とすることができ、時間的に変化する磁場は第1の時間的に変化する磁場とすることができ、システムは更に、第3の信号に応答して第2の時間的に変化する磁場を発生して媒質に送信するよう構成された第2の送信器も含むことができ、第2の送信器は、第1の送信器からオフセットされている。第1の送信器によって発生され送信される第1の時間的に変化する磁場の第1の周波数は、第2の送信器によって発生され送信される第2の時間的に変化する磁場の第2の周波数とは異なることができる。一部の実施例において、受信器は第1の受信器とすることができ、システムは更に、受信磁場に応答して第3の信号を発生するよう構成された第2の受信器を含むことができ、第2の受信器は、第1の受信器からオフセットされている。プロセッシングユニットは、第1及び第2の受信器での受信磁場に流体応答した変化の位置を三角測量するよう構成することができる。
【0018】
一部の実施例において、プロセッシングユニットは、送信器、受信器、又は患者の移動から生じることになる求められた位相シフトの誤差を低減するよう構成することができる。システムは、送信器又は受信器に結合された加速度計を含むことができ、プロセッシングユニットは、加速度計が送信器又は受信器の有意な動きを検出した時間期間に相当するデータを除外することができる。プロセッシングユニットは、送信磁場と受信磁場との間の求められた位相シフトが、媒質内の生体変化の起こり得ない結果であるようなものである時間期間に相当するデータを除外することができる。プロセッシングユニットは更に、エアスキャンに応答して診断システムを初期化するよう構成することができる。
【0019】
一部の実施例において、受信器は第1の受信器とすることができ、システムは更に、送信器に近接して位置付けられ、送信磁場に応答し且つ送信器に近接した磁場の位相を示す第3の信号を発生するよう構成された第2の受信器を含むことができる。第2の受信器は、第1の受信器内に同心状にすることができる。
【0020】
一部の実施例において、プロセッシングユニットは、第1の信号を合成するよう構成された第1のFPGAと、第2の信号から第1の複数のサンプルと、送信磁場の位相を示す第2の複数のサンプルとを収集し平均化するよう構成された第2のFPGAと、平均化した第1及び第2の複数のサンプルに基づいて位相測定を決定するよう構成された第3のFPGAと、第1、第2、及び第3のFPGAに結合され且つ第1、第2、及び第3のFPGAを制御するよう構成されたマイクロコントローラと、を含むことができる。
【0021】
本明細書で記載される患者の流体変化を監視する診断システムの別の実施形態において、システムは、ヘッドセットと、該ヘッドセットと結合され且つ第1の信号に応答して時間的に変化する磁場を発生させて患者に送信するよう構成された送信器とを含むことができる。受信器はまた、ヘッドセットと結合され、ヘッドセットが患者の頭部に装着されたときに送信器に対して患者の頭部の反対の側部にほぼ位置するようにされて、受信器にて受信磁場に応答した第2の信号を発生するよう構成されるようになる。少なくとも1つのスペーサが、送信器と患者の頭部及び受信器と患者の頭部との間に配置され、プロセッシングユニットは、送信された時間的に変化する磁場の複数の周波数について送信磁場と受信磁場の間の位相シフトを求めるよう構成される。
【0022】
一部の実施例において、ヘッドセットは、弾性ヘッドバンドを含むことができ、システムはまた、送信器及び受信器を患者の頭部に結合する安定化装置を含むことができる。安定化装置は、患者の頭部に適合し、送信器及び受信器を所定位置に保持することができ、スペーサは、プラスチック製ディスクとすることができる。
【0023】
本明細書で記載される患者の頭蓋内流体を監視する方法の別の実施形態において、本方法は、第1の時間的に変化する磁場を送信器から受信器に送信するステップを含み、送信器及び受信器は、ヘッドセットを介して患者の頭部のほぼ対向する側部に結合され、少なくとも1つのスペーサが、送信器と患者の頭部及び受信器と患者の頭部との間に配置される。本方法はまた、受信器にて第1の磁場を受けるステップと、送信された時間的に変化する磁場の複数の周波数について送信磁場と受信磁場との間のベースライン位相シフトを決定するステップと、を含む。本方法はまた、第1の時間的に変化する磁場が送信された後の何れかの時点で第1の時間的に変化する磁場を送信器から受信器に送信するステップと、受信器で第2の磁場を受信するステップと、送信された時間的に変化する磁場の複数の周波数について送信磁場と受信磁場との間の新しい位相シフトを決定するステップと、を含む。本方法はまた、ヘッドセットと結合されたプロセッサを用いて新しい位相シフトをベースライン位相シフトと比較するステップと、プロセッサを用いて新しい位相シフトとベースライン位相シフトとの間の比較に基づき頭蓋内流体に臨床的に有意な変化が生じたかどうかを判定するステップと、臨床的に有意な変化が生じたと判定された場合にプロセッサを介して信号を発生するステップと、を含む。
【0024】
一部の実施例において、本方法はまた、受信器又はその近傍でヘッドセットに直接結合されたアナログデジタルコンバータを用いて受信磁場を変換するステップを含むことができ、更に、送信器又はその近傍でヘッドセットに直接結合されたアナログデジタルコンバータを用いて送信磁場を変換するステップを含むことができる。信号を発生するステップは、警報を発するステップを含むことができる。
【0025】
一部の実施形態において、第1及び第2の磁場は、約20MHzから約300MHzの周波数範囲にある。また、本方法は、第1の時間的に変化する磁場を送信するステップの前に、ヘッドセットが患者に結合されていない間に送信器から受信器へ較正磁場を送信することによりヘッドセットを初期化するステップを含むことができる。送信器又は受信器の少なくとも一方は、プリント回路基板上のストリップ線路を用いて形成されたループを含むことができ、該ループは、およそ1インチの直径を有し、シングルターンループである。
【0026】
一部の実施例において、本方法は更に、動き検出部材を用いて患者の動きを検出するステップと、検出した動きに基づいてプロセッサに信号を送信するステップと、プロセッサを用いて患者の検出した動きから新しい位相シフトとベースライン位相シフトとの比較を識別するステップと、を含むことができる。
【0027】
一部の実施例において、本方法は更に、プロセッサを用いて送信及び受信磁場のサンプルの高速フーリエ変換を計算するステップと、計算したそれぞれの高速フーリエ変換の位相成分を比較することにより第1及び第2の位相シフトを決定するステップとを含むことができる。一部の実施例において、患者の頭部とヘッドセットの結合は、頭部上に弾性ヘッドバンドを位置決めするステップを含むことができ、送信器及び受信器は、弾性ヘッドバンドに装着され、スペーサは、送信器及び受信器の各々と結合され、ヘッドバンドが頭部上に位置付けられたときに送信器及び受信器と患者の頭部との間に配置されるようになる。
【0028】
一部の実施例において、方法の各ステップは、長期にわたって流体を監視するために長期にわたり複数回繰り返すことができる。本方法はまた、信号の発生に基づいて治療を推奨するステップを含むことができ、治療は、頭蓋内流体の量を低減するために患者に送達されるマンニトールの量とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】1つの実施形態による、身体内の流体変化を監視するためのシステムのブロック図である。
図1A】1つの実施形態による、図1のシステムで使用する患者用ヘッドピースの斜視図である。
図1B】1つの実施形態による、図1のシステムで使用する別の患者用ヘッドピースの分解斜視図である。
図2A図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図2B図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図2C図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図2D図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図2E図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図2F図1のシステムで使用する送信器トランスデューサ及び受信器センサの実施形態を示す図である。
図3】1つの実施形態による、位相シフト検出装置の回路図である。
図4】1つの実施形態による、図1のシステムで使用する波形アベレージャプロセッサの簡易論理図である。
図5】1つの実施形態による、図1のシステムで使用する位相シフト測定の簡易論理図である。
図6】1つの実施形態による、図1のシステムの動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
特定の詳細事項について、本開示の特定の実施形態の十分な理解を提供するために以下で説明する。しかしながら、本開示の一部の実施形態は、これらの特定の詳細事項がなくとも実施することができる。その上、本開示の特定の実施形態は、例証として提供され、本開示の範囲をこれらの特定の実施形態に限定するよう用いられるべきではない。場合によっては、公知の回路、制御信号、タイミングプロトコル、及びソフトウェアオペレーションは、本明細書を不必要に複雑にするのを回避するために、詳細には示されていない。
【0031】
図1は、人間の脳内の流体変化を検出するのに用いることができるシステム100の1つの実施形態のブロック図である。本明細書では、多くの場合、脳内の流体変化を検出するためのシステム100の使用に焦点を当てているが、システム100のこの実施形態又は代替の実施形態は、身体の何れかの他の部位における流体変化を検出/監視するのに用いることもできる。従って、本明細書で提供される脳に関する例示的な説明は、請求項に記載される本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0032】
システム100は、一部の実施例において、ラップトップ型コンピュータ102、プロセッシングユニット104、及び患者ヘッドピース106を含むことができる。システム100は、例えば、ラップトップ型コンピュータ102上で動作する、Windows(登録商標)ベースのLab View言語プログラムによって制御することができる。プログラムは、ラップトップ型コンピュータ102の画面上に表示されるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を生成する。システム100を作動させる臨床医は、弾性ヘッドバンド又は包帯と同様とすることができるヘッドピース106を患者に載置した後、マウスコントロールにより監視を開始することができる。監視の開始後、プログラムは、ラップトップ型コンピュータ102上に位相シフトのログを記録し、臨床医に警報を発して是正措置を提案する適切な方法を適用するので、無人で作動することができる。
【0033】
ラップトップ型コンピュータ102は、プロセッシングユニット104に対するUSBシリアルリンクを有することができる。USBシリアルリンクは、適用可能な医療装置要件に適合するよう電気的に絶縁することができる。プロセッシングユニット104は、国際標準と適合する標準的な一般的AC電源接続から電力を得ることができる。プロセッシングユニット104の内部電子回路の全てに電力を供給する医療グレード低電圧DC電源が存在することができ、患者隔離、ライン−中性線、シャーシ、及び患者漏洩並びにアース−接地導通、EMI感受性及びエミッションに適用可能な標準、並びに他の標準医療装置要件に適合する。
【0034】
ラップトップ型コンピュータ102は、位相シフトデータ収集を開始し、他の関連データ及びステータス情報と共にラップトップ型コンピュータ102のハードドライブ上のファイル内にデータのログを記録することができる。
【0035】
ラップトップ型コンピュータ102上のGUIは、システム100の動作を制御することができ、臨床医に患者ヘッドピース106の導入及びシステム100全体の準備セルフテストを誘導するコントロール及びステータス表示を含むことができる。セルフテストを合格した場合、臨床医は、監視を開始するよう命令される。監視中、位相シフト角対周波数のデータがUSBインタフェースから集められ、データに対して適切なステータス及び警報方法が適用される。臨床医には、追加措置又は緊急対応が表示されているかどうかを通知することができる。後で参照するために、位相シフト対周波数のデータ及び追加のステータス情報のログがラップトップ型コンピュータ102に記録される。データの「サニティーチェック」及び他の組み込み試験機能をバックグラウンドで連続的に実行することができ、障害が生じた場合には、種々のレベルの重大度によって、ワーニング又はシステム100の割り込み動作が発生することになる。
【0036】
一部の実施例において、図1に例示するように、プロセッシングユニット104及び患者ヘッドピース106におけるハードウェア及びファームウェアのアーキテクチャを最適化して、最小数のカスタム電子回路部品を使用しながら、所望の位相測定精度及び安定性を達成することができる。例えば、1つの実施形態において、並びに図1を参照すると、システム100は、複数の高度に集積化された既製の小型部品を含むことができる。システム100は、プロセッシングユニット104において3つのフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)110、112、114を含むことができ、3つのFPGAは、適切なファームウェアでプログラムされる。第1のFPGA110は、送信器120に提供されることになる時間的に変化する信号を合成して磁場を発生することができ、第2のFPGA112は、送信及び受信磁場のデジタルサンプルを収集し平均化することができ、第3のFPGA114は、送信及び受信磁場を表す送信及び受信信号間の位相シフトを測定することができる。
【0037】
マイクロコントローラ118もまた、プロセッシングユニット104に含めることができ、3つのFPGA110、112、114の動作を監視し、ラップトップ型コンピュータ102と(例えば、位相データ結果を転送することにより)通信することができる。マイクロコントローラ118は、外部のラップトップ型コンピュータ102(電気的に絶縁されたUSBインタフェースを介して)とヘッドピース106からのデータのリアルタイム信号処理に使用されるFPGA110、112、114との間にインタフェースを提供することができる。マイクロコントローラ118はまた、電源オン、データ収集開始、周波数合成器110のセットアップ、内部温度監視、電源監視、並びに他のシステムステータス監視及び障害検出タスクを含む、基本ユーザ制御に対するインタフェースのような他の補助機能を実施することができる。
【0038】
プロセッシングユニット104は、一部の実施例において、より大型の集積部品から製造することができる。1つの実施形態において、プロセッシングユニット104は、Techtronix Arbitrary Waveform Generator model 3252のような既製の電子信号発生器と、LeCroy Model 44xiのようなデジタルオシロスコープとを含むことができる。
【0039】
図1に例示したシステム100のアーキテクチャは、比較的融通性があり、データ収集、データ処理、及びデータ解釈(例えば、臨床的警報)の全ての段階における改善を比較的簡単なソフトウェア又はファームウェア修正によって行うことを可能にする。FPGA110、112、114は、データ収集及び処理をほぼリアルタイムで進めるために並列プロセッサとして効果的に機能することができる。従って、マイクロコントローラ118を介してラップトップ型コンピュータ102に送信されて後で参照するためにアーカイブされる位相データの量が低減され、これによりラップトップ型コンピュータ102上でデータを処理するために必要な計算時間を短縮することができる。その結果、このことによって、データの整合性をチェックし、是正措置を取る必要性に対して臨床医に警報を発するのに必要な方法を適用するためにラップトップ型コンピュータ102を解放することができる。
【0040】
図1のプロセッシングユニット104は、比較的融通性のある実施形態として例示し説明してきたが、他の実施例においては、診断システム100は、診断システム100において使用するように設計されたカスタム電子回路部品を備えた埋め込みシステムとすることができる。例えば、1又はそれ以上のADコンバータは、プロセッシングユニット104内に配置することができ、該プロセッシングユニット104は、ヘッドピース106と物理的に異なる別個のものとすることができ、或いは、ヘッドピース106と統合することができる(例えば、ヘッドピース106は、カスタムシステム100において、位相シフト情報を取り込んで処理するのに必要な電子回路及び処理装置の全てを含むことができる)。一般に、あらゆる好適なアーキテクチャを用いることができる。
【0041】
再度図1を参照すると、システム100はまた、1又はそれ以上の送信器120及び1又はそれ以上の受信器124を備えたヘッドピース106を含むことができ、その詳細について以下で詳しく説明する。1つの実施例において、ヘッドピース106は、単一の送信器120及び単一の受信器124を含むが、他の実施例では、ヘッドピース106は、複数の送信器120及び/又は複数の受信器124を含む。例えば、ヘッドピース106は、1つの送信器120と2つの受信器124とを含むことができる。複数の受信器124が患者の頭部上の異なる位置に配置される場合には、これらの受信器124により、臨床医は、流体変化(例えば、欠陥又は腫瘍からの脳内出血)の位置を三角測量し及び/又は患者の脳の生体インピーダンスを撮像することが可能になる。他の実施例において、ヘッドピース106は、異なる又は同様の周波数の磁場を生成できる複数の送信器120を含むことができる。異なる周波数が使用される場合には、単一又は複数の受信器124が複数の送信された周波数を識別し、例えば、流体変化のタイプを更に識別可能にすることができる。
【0042】
一部の実施例において、患者の頭部上の何れかに位置付けられた受信器124に加えて、患者の頭部の送信器120と同じ側部に追加の受信器を位置付け(例えば、受信器は、送信器120内に同心とすることができ、又は送信器120を囲むことができ、或いは、送信器120とは別個の平面に位置付けることができる)、送信器(図1には図示せず)からの送信磁場の測定値を得るようにすることができる。他の実施例において、放射磁場は、送信器120上に存在する電流及び/又は電圧を測定することなど、別の方法で送信器120からサンプリングすることができる。一部の実施例において、図1を参照すると、送信器120及び/又は受信器124の1又はそれ以上に対して、それぞれの送信器120及び/又は受信器124自体に近接してADコンバータ122、126を含み、例えば、ADコンバータは、一部の実施例において、それぞれの送信器120又は受信器124と同じプリント回路基板上に位置付けることができる。
【0043】
しかしながら、他の実施例において、アナログ信号は、別個のプロセッシングユニット(例えば、図1に示すプロセッシングユニット104)に接続された1又はそれ以上の同軸ケーブル(又は他の伝送線路)を通過し終わるまではデジタル信号に変換されない。これらの実施例において、種々の技術を利用して、例えば、送信器120からの送信磁場を示す信号を搬送する同軸ケーブルと、受信器124からの測定磁場を示す信号を搬送する同軸ケーブルとの間のクロスカップリングを低減することができる。例えば、比較的可撓性のあるRF−316ダブルシールドケーブルを用いて、2つのケーブル間の絶縁を向上させることができ、又は他の実施例では3つのシールドケーブルを用いることもできる。別の選択肢として、受信器124及び/又は送信器120からの同軸ケーブルの周りに高可撓性のPVC又はシリコーン管体を設けることができる。
【0044】
図1に示されるヘッドピース106を再度参照すると、再現可能な測定値とするために、システム100の作動中の送信器120及び受信器124の移動が位相シフト測定における誤差をもたらす可能性があるので、これらの移動がないことが重要とすることができる。このような誤差を克服するために、送信器120及び受信器124は、一部の実施例において、例えば、ヘルメット140に似た装置において堅固な方法で装着することができ、その1つの実施例が図1Aに例示されている。ヘルメット140は、送信器120及び受信器124が互いに対して及び患者の頭部に対して固定状態を確実に保持できるようにするのに必要な支持及び剛性を提供することができる。しかしながら、このようなヘルメット140は、横たわった状態の患者が使用するには心地よくなく又は実用的ではない可能性がある。また、一部の臨床的症状で必要とされる可能性がある数日間の間ヘルメット140を患者が装着するのは実際的ではない可能性がある。
【0045】
従って、代替の実施形態において、図1Bを参照すると、送信器120及び受信器124は、弾性バンド129のようなヘッドセット129を用いて患者の頭部に対して保持される。送信器120及び受信器124は、例えば、ヘッドセット129のポケットの内部に固定することにより、又はステッチ、リベット又は他の締結具を用いることによりヘッドセット129上に装着することができる。送信器120及び受信器124は、プラスチック又は布などの非導電性スペーサ材料127を組み込むことにより、皮膚の表面から一定距離で離間して配置することができる。スペーサ127は、例えば、送信器120/受信器124と皮膚との間の静電容量の変動性を低減するために、送信器120及び受信器124間の皮膚からの一定の距離を維持する目的に適うことができる。スペーサ127は、例えば、一部の実施形態において、プラスチックのアクリルディスクとすることができる。これに加えて、又は代替として、ゴム、医療用接着剤、又は他の材料をスペーサ127に用いることができ、これらは、送信器120及び受信器124の皮膚との接合面に配置し、使用中に送信器120及び受信器124が移動しないようにするのを助けることができる。ヘッドセット129は、一部の実施例において、前額部にわたる患者の頭部又は後頭部の周りに配置することができ、或いは、異なるバンド又は他の装置を、患者の腕又は脚の周りを含む、他の配置で配置することができる。換言すると、あらゆる好適な位置決め装置を用いて、調査中の患者の身体部位に近接して送信器120及び受信器124を適切に位置決めすることができ、その内、本明細書で記載されるヘッドセット106、129及びヘッドバンド129は単に例証に過ぎない。頭頂部にわたす顎ストラップ又は接続部などの追加の特徴要素をヘッドセット129に付加し、追加の安定性を提供し、その上に追加の送信器120又は受信器124を装着させる特徴要素を設けることができる。患者は、枕の上に横たわっていることが多いので、電子回路部品及びケーブル終端に好都合な位置は、頭頂部である可能性が高い。例えば、各耳に近い箇所からブリッジを作成し、患者が横になっている表面から離れて頭頂部に電子回路を装着できるようにすることができる。軽量の低背型部品を用いて、使いやすさを最大にし、また、所定位置にあるときに患者の頭部でヘッドセットが移動する傾向を最小限にするようにすることができる。
【0046】
ヘッドセット129の設計において、ヘッドバンド129は、弾性、ゴム、アクリル、ラテックス、又は他の可撓性材料から作ることができ、弾性又は非弾性とすることができる。ヘッドセット129は、ヘッドセットをシステムの使い捨て部品とすることができるよう、低価格材料から製造することができる。代替として、ヘッドセット129は、再利用可能とすることができる。再利用可能である場合、バンド129は、患者毎に清浄にすることができ、又は同じ患者で定期的に清浄にすることができるように、洗浄可能とすることができる。洗浄可能材料は、プラスチック、ゴム、シリコーン、布、又は他の材料を含むことができる。ヘッドピース106はまた、電子回路部品を固定し、患者又は臨床スタッフの邪魔にならないようにケーブルを通す装着手段を含むことができる。
【0047】
送信器120/受信器124と患者との間の相対的な動きを低減するためにヘッドバンド129が使用されるものを含む、一部の実施形態において、1又はそれ以上の安定化装置128を用いることができる。安定化装置128は、送信器120及び/又は受信器124を所定位置に保持するよう、患者の身体に合わせてカスタム成形することができる。安定化装置128の1つの実施例として、熟練の臨床医は、同じ材料から作られた整形外科用ギプスと同様の低融点プラスチックを用いて送信器120/受信器124を設置することができる。長時間にわたり重合させる材料など、或いは、整形外科用ギプス又は副子を作るのに使用される材料のような熱又は化学反応による活性剤と共に、他のカスタムに形状可変の材料及び方法を用いることができる。
【0048】
次に、図1Bの分解図を参照すると、ヘッドセット129を用いた1つの実施形態の動作を説明するが、脚又は腕の周りに巻かれた包帯など、身体の他の部分における流体変化を監視するのに同様のバンド129を用いることができることは、理解されるであろう。各送信器120/受信器124は、最初に、例えば、スクリュー又は接着剤のような他の留め具によりそれぞれのスペーサ127に結合することができる。次いで、送信器120及びそれぞれのスペーサ127は、患者の頭部に位置付けることができ、安定化装置128は、送信器を安定化して移動を阻止するのを助けるために、送信器120/スペーサ127の周りに位置付けることができる。安定化装置128は、送信器120/スペーサ127の周りに位置付ける前に貼り付けるために水中に浸すか又は他の前準備をする必要がある可能性がある。安定化装置128が送信器120/スペーサ127を固定すると、別の安定化装置128を同様に用いて、同様の方式で受信器124及びスペーサ127を安定化することができる。安定化装置128は、安定化機能を働かせるために凝固又は完全乾燥させることができる。次いで、ヘッドバンド129のようなヘッドセットは、安定化装置128及び送信器120/スペーサ127並びに受信器124及びスペーサ127の周りに巻き付けることができる。しかしながら、一部の実施形態において、安定化装置を使用しなくてもよく、代わりに、ヘッドバンド129を用いて受信器124/スペーサ127及び送信器120/スペーサ127を患者の頭部に直接位置付けることができる。更に別の実施形態において、上述したように、ヘッドバンド129は、ヘッドバンド129は、送信器120及び受信器124用のポケットを含むことができ,ヘッドバンド129の材料自体が、スペーサとして機能する。また、一部の実施形態において、ヘッドバンド129は、患者の頭部上でのヘッドバンド129の滑動を阻止するのを助けるために、ヘッドバンド129の内側に非スリップ材料を施工させることができる。
【0049】
本明細書で記載される装置及び方法は、種々の実施形態において、身体の全ての部分における流体測定(多くの場合、流体変化測定)及び複数の医療診断用途のために用いることができる。放射体及び検出器コイルの構成は、種々の実施形態において、身体の部位及び/又は関連する診断用途に適切であるように修正することができる。例えば、腕などの四肢に関連する用途において、又は組織中の浅い深さでの液体含有量を測定することがより重要とすることができる場合には、放射体コイル及び検出器コイルは、関心組織の同じ側に配置することができる。同一平面配列が適切とすることができる。コイルは、遙かに短い距離で分離することができるので、受け取られる信号強度は遙かに大きくなり、コイルのサイズを小さくすることができる。種々の代替の実施形態において、コイルは、異なる直径を有するコイルを用いて横並びの同一平面配列、又は同心状の同一平面配列とすることができる。一部の実施形態において、調査中の身体部分の形状に一致するような僅かな角度を有してコイルの平面を配置することがより適切とすることができる。
【0050】
ここで図6を参照して、システム100の動作の1つの実施例を概略的に説明するが、図6に例示する種々の動作は、以下でより詳細に説明され、この動作の種々の代替の方法及び動作モードもまた、以下で説明することは理解されるであろう。動作501から始まり、システム100が電源オンにされ、セルフテストを実施する。システム100がテストを不合格になった場合には、動作502において、ラップトップ型コンピュータ102上に停止及び不合格インジケータが表示される。システム100が電源オンセルフテストを合格した場合、動作504に進む。また、システム100の動作全体を通じて、動作503における連続ステータス監視を実行することができ、システム100に障害があるとステータス監視が判定した場合には、システムは、動作502において、停止及び不合格の指標を表示することができる。
【0051】
システム100が電源オンセルフテストを合格して動作504に進むと、動作504において、周波数合成FPGA110が初期化され、送信信号を送信器120に提供し始める。波形アベレージャFPGA112は、動作505において、送信器120及び受信器124から波形を収集し平均化し始めることができる。平均化された波形は、位相シフト測定FPGA114に提供することができ、動作506において送信器120の波形と受信器124の波形との間で位相シフトが始まっていることを判定することができ、動作507において、関心のある最終位相計算が算出される。動作508において、位相計算は、ラップトップ型コンピュータ102に提供することができる。動作505後のあらゆる時点で、周波数合成器FPGA110は、別の周波数を送信器120に提供することができ、プロセスは、次の周波数について繰り返すことができる。従って、複数の周波数を送信器120から放出させて、続いて位相シフトを計算することができる。位相シフト測定FPGA114が前回の周波数からの波形間の位相シフトを測定している間、或いは、周波数合成FPGA110は、繰り返しの動作504において次の周波数を提供することができ、或いは、動作508において、位相計算がラップトップ型コンピュータに提供されるまでは、周波数合成FPGAが第2の周波数を提供することができない。代替の実施形態において、放射体は、調和周波数と同時に単一の周波数を放射することができ、すなわち、複数の周波数発生器を用いることにより、高速フーリエ変換(FET)のような技法を用いて後で分離するようにする。複数の周波数の同時放射は、ノイズ消去、動き除去、及び他の目的に有利とすることができる。
【0052】
(送信器及び受信器)
脳液診断における誘導位相シフト測定ベースのシステム100に適切な1つの電磁周波数範囲は、約20MHz〜300MHzの無線周波数(RF)であるが、1MHzと500MHzの間、3MHzと300MHzの間、及びその他など、別の周波数を用いることもできる。選択された周波数は、人間の組織における比較的低い吸収率、静電結合及び信号線クロストークなどの良好な信号対ノイズ係数、並びに正確な位相測定の容易さを提供することができる。
【0053】
従来、これらの周波数範囲にある磁場を放射(及び検知)する送信器(及び対応する受信器)の特定の実施例は、コイル面が頭部の周囲に平行になるように置かれた少数の円形巻きの薄い誘導コイルから構成されていた。(例えば、上記で引用により本明細書に組み込まれたRubinsky特許を参照。)これらの従来の送信器及び受信器のコイルは、10cm又はそれ以上の直径と、5又はそれ以上の巻数とを有していた。しかしながら、これらの比較的大きな送信器及び受信器のコイルは、扱いが難しく、その上、人間の脳液のMIPS検出において関心のある周波数範囲内に共振点を有していた。送信器及び受信器のコイルがこれらの固有共振周波数のうちの1つの周波数付近の周波数にて動作している場合には、測定される位相シフトは、主として、コイルの自己寄生容量の大きさの関数となる場合があり、コイルの何れかの動き及び/又は環境影響に起因した僅かな変化によって、位相シフトの大きな変化を引き起こし、位相シフト測定における許容できないノイズを生じる恐れがある。
【0054】
従って、本開示の一部の実施形態において、送信器120及び/又は受信器124の最低固有共振周波数は、送信される磁場の目的とする周波数よりも高くすることができる。一部の実施例において、送信器120は、磁場発生器又はトランスデューサとしてコイルを含むことができる。対称性の観点から、この同じ又は同様のコイルは、受信器124における磁場センサとしての機能を果たすことができる。何れの場合においても、コイルの直径又は巻き(すなわち、ループ)の数が減少すると、第1の自己共振周波数は一般に高くなる。従って、この最高限度は、極めて小さな直径を有する単一のループを有するコイルの場合である。しかしながら、ループ直径が減少すると、ループによって交差される磁束量は、直径の二乗比に等しい分だけ減少する。同様に、ループの誘導電圧が減少し、結果として受信器124における磁場センサとして機能するループからの信号がより小さくなる。従って、直径の低減には実用上の限界が存在する。しかしながら、一部の実施形態において、自己共振周波数を更に高くすることは、送信器120/受信器124の構成において伝送線路技術を用いることにより達成することができる。
【0055】
広い帯域幅にわたって比較的一定の位相シフトが得られるように設計されたコイルに対する代替策は、直並列ネットワークに外部応答構成要素を加え、単一周波数又は少数の離散的周波数での位相シフトから同調を外すようにすることである。この概念は、個々の周波数の近似値がシステム全体を設計する前に既知であり、離散的周波数の数が小さい場合に最も良く機能する。切り換え式又はモータ駆動式の調整可能構成要素を用いることにより、位相シフト調整は、自動的にソフトウェアによって制御することができる。一定位相シフトに調整する利点は、コイルのサイズ及び形状の選択肢の自由度がより向上することである。より大型のコイルを用いることで検出される信号強度が増大し、サンプリングされる脳部分又は他の身体部分に最適に適合する磁場形状を提供することができる。
【0056】
1つの実施形態において、図2Aを参照すると、高い自己共振周波数及び自己共振周波数を下回る関連の安定位相応答を有する単一のループ250は、同軸ケーブル、プリント回路基板に埋設されたストリップ線路、ツイストシールドペア線、二軸ケーブル、又は三軸ケーブルなどのシールド伝送線路を用いて構成することができる。ループ250は、送信器120の磁場発生器又は受信器124の磁場センサとして用いることができる。シールド伝送線路は、シールド251として第1の導体を含むことができ、該シールドは、第2の導体を少なくとも部分的に囲む。第1の導体又はシールド251は、接地することができ、第2の導体の周りにファラデー箱を形成することができる。第2の導体は、磁場の変化に応答した出力信号を提供することができ、ファラデー箱によって、外部の静電効果及び静電結合からシールドすることができる。例えば、1つの実施形態において、埋設ストリップ線路の単一ループ250は、プリント回路基板において2つの接地平面の間に挟み込むことができる。複数のバイアが2つの接地平面の間に延びることができ、バイアの間隔は、送信及び/又は受信される電磁場の波長によって決まり、バイアと2つの接地平面は共に、埋設ストリップ線路ループ250の周りに有効静電気又はファラデー箱を形成する。他の実施形態において、外側シールド(同軸ケーブルのように)を有する他のタイプの伝送線路を用いてファラデー箱を形成し、従って、ループ250上の外部静電効果を低減することができる。
【0057】
送信器120又は受信器124の単一ループ250の実施形態において、ループ250の電圧は、単一ループ250の誘導特性に起因してループ250の電流と同相ではない場合がある。この位相誤差は、以下で説明するように、診断システム100の初期化中に検出し考慮することができる。しかしながら、送信器の単一ループ250の一部の実施形態において、図2Bを参照すると、この位相誤差を補正する必要性を排除するために、バラン変圧器254を付加することができる。更に別の実施形態において、図2Cを参照すると、第2の独立した小型同心ループ260を用いて、送信磁場を検知し、この磁場を示す電流をADコンバータに提供する。第2の同心送信器ループ260は、一部の実施例において、対応する受信器ループ(例えば、受信器124)と同じサイズにされ、これらの間に比例した信号及び良好な一様性を提供することができ、他方、他の実施例では、受信器ループは、受信磁場により敏感であるようにするために、第2の同心送信器ループ260よりも大きくすることができる。第2の同心送信器ループ260を有する送信器120において、図2Dを参照すると、バラン変圧器264は、検知電圧及び電流の平衡をとるために、この第2の同心ループ260に対しても同様に用いることができる。更に、単一巻き受信器ループ250において、バラン254は、図2Bの送信器ケーブルについて図示されたものと同様に、性能についても平衡をとるために追加することができる。
【0058】
ここで図2Eを参照すると、別の実施形態において、伝送線路の概念は、単一ループのシングルエンドデバイスの構築から、受信器124として使用するため(又は、対称的に、平衡送信器120として使用するため)にダブルエンド又は「平衡」にすることができる二重ループ270の構築にまで拡張することができる。図2Eにおいて、4つの導電(例えば、銅)層271、272、273、274は、図示のようにプリント回路基板上に形成することができ、垂直にスタックされたときに、誘電材料(図2Eには図示せず)の3つの層が4つの導電層271、272、273、274と結合される。最上層271及び最下層274は、接地され、従って、電気的シールドを形成することができる。その上、小さな線形破断部271a、274aが、最上層271及び最下層274の両方に存在することができ、接地平面271、274が追加の短絡巻線のようには機能していない。最上接地層271と最下接地層274との間に+ループ273と−ループ272を位置付けることができ、2つのループ272、273からのリード線は、平衡増幅器(図2Eには図示せず)に結合される。+ループ273と−ループ272は、一部の実施例において、センタータップにすることができる。2つのループ272、273の内径は、およそ1インチとすることができ、2つの接地平面271、274における円形ボイドの内径よりも僅かに大きくすることができる。一部の実施形態において、誘電材料の厚さ及び誘電率、ループ272、273を形成する導電材料の幅及び厚さ、接地平面271、274の間隔、及びその他は、結合される伝送線路に一致させるために二重ループ270がおよそ50Ωのインピーダンスを有するように選ぶことができる。このようにして、二重ループ構造270の自己共振周波数は、一部の実施例において、200MHzを上回ることができる。
【0059】
図2Eを更に参照すると、受信器124において磁気センサとして使用される二重ループ270において、環境EMI発生源又は近隣の導体又は磁気材料の動きに起因した磁場の環境変化からのシステム100に結合された外部ノイズは、2つのループ272、273が結合される差動増幅器のコモンモード除去によって低減することができる。従って、受信器124として使用されるときにループ272、273に結合された差動増幅器を有することにより、リモートプロセッシングユニット104(例えば、1又はそれ以上のADコンバータがヘッドピース106内に直接的に配置されていないシステムにおいて)への伝送に好適なレベルに出力信号レベルを維持しながら、ループ272、273の直径を低減することを可能にすることができる。増幅器の電力利得は、一部の実施形態において、およそ40dbとすることができる。対象の電力レベルに対して40dbの利得を提供する低コスト広帯域増幅器は、20MHz〜200MHzの周波数範囲にわたってごく僅かな位相シフト変動で複数の供給業者から小型パッケージで容易に入手可能である。
【0060】
図2Fを参照すると、図示されるように、平衡受信器124用に使用される二重ループ270は、磁場発生送信器120と類似の用途に応用される。送信器120を構成する平衡手法は、二重ループの対向する巻線方向による送信磁場のコモンモードノイズキャンセルをもたらし、従って、他の場合では環境的要因による静電又は磁気ピックアップから生じる可能性がある送信磁場のノイズを低減することができる。
【0061】
図2E及び図2Fを更に参照すると、一部の実施形態において、2つのループ272、273は、異なる平面で形成することができ、或いは、他の実施形態では、2つのループは、同心の円形ストリップ線路トレースを有して同じ平面内に作製することができる(従って、PC基板を作製するのに必要な層の数が低減される)。この同心状設計は、送信器120、及び/又は受信器124で用いることができる。
【0062】
また、図2A図2Fの何れかを参照して、アナログデジタル変換が送信器120又は受信器124に近接して行われない実施例において、抵抗減衰器が表面実装抵抗器によってPC基板に付加され、アナログ信号が伝送されるケーブルにおける送信器信号対受信器信号のクロスカップリングの低減を助けることができ、これにより位相測定の精度及び安定性の向上を促進することができる。基板実装の減衰器は、嵩高の別個のモジュール減衰器と比べて実質的にサイズ及びコストを低減することができる。また、引き続きアナログデジタル変換が送信器120又は受信器124に近接して行われない実施例に関して、図2A図2Fの何れかを再度参照すると、1又はそれ以上の増幅器を設けて、送信器120及び/又は受信器124からの信号を増幅し、ケーブルを通じて外部アナログデジタルコンバータ122、126への信号の減衰を低減することができる。引き続きアナログデジタル変換が送信器120又は受信器124に近接して行われない実施例に関して、図2E及び2Fに例示する「平衡」送信器及び受信器は、同軸線路の特性インピーダンス50Ωで終端されているので、送信器120及び受信器124の電圧は、送信器及び受信器の電流と同相とすることができる。
【0063】
ここで図3を参照すると、代替の設計は、ループ250と同じプリント回路基板上に増幅器256を含むことができる。ループ250と同じプリント回路基板上に増幅器256を含める(すなわち、受信器124として使用される)ことにより、信号対ノイズ比を向上させる助けとすることができ、アナログデジタル変換がヘッドピース106から遠隔で行われる実施形態において特に有用とすることができる。増幅器256はまた、アナログデジタル変換がループ250に近接して行われる実施形態においても用いることができる。上述のように、バラン変圧器(図3には図示していない)もまた、プリント回路基板上でループ250と増幅器256との間に含めることができ、これによりコイルを「平衡」モードで差動させる助けとすることができる。平衡モードでは、容量結合電磁干渉ピックアップ又は信号レベルにおける動きにより誘導される変動は、通常は平衡差動信号の正負のリード線の両方に等しく結合されることに起因して、低減又は相殺することができる。
【0064】
(初期化:遠隔固定位相誤差に対するエアスキャン)
上記に示されるように、診断システム100は、一部の実施例において、送信器120を個々に、受信器124を個々に、送信器120及び受信器124を互いに、並びに送信器120及び受信器124を他の関連する電子回路と共になどで較正するよう初期化することができる。例えば、リード長の変動並びに送信器120及び受信器124からの信号経路における増幅器時間遅延を初期化中に検出し、信号処理中に信号から除去して、データの固定オフセット誤差を防ぐことができる。また、シングルターンループ250における(測定した)電圧及び電流間のあらゆる位相シフトを検出することができる。
【0065】
初期化は、1つの実施形態において、送信器120及び受信器124がこれらの間に空気のみを挟んで位置付けられる「エアスキャン」とすることができ、送信器120及び受信器124は、平均的な患者の頭部上に置かれた場合にこれらが存在するであろう距離だけ離れて位置付けられる。従って、離間して配置されると、異なる周波数の範囲で位相シフトデータが収集され(誤差は異なる周波数にわたって一定であるか、又は変化する可能性があるので)、その後、収集されたエアスキャン値は、システム100のあらゆる位相シフト誤差を補正するために信号処理中に使用することができる(例えば、システム100の作動中に得られた値からこれらエアスキャン値を差し引くことによる)。初期化は、ADコンバータ122、126が送信器120及び受信器124に近接してヘッドピース106内にある場合、及びADコンバータ122、126がヘッドピース106の外部にある場合などに行うことができる。
【0066】
(駆動及びサンプリング信号の生成)
上述のように、診断システム100は、種々の組織型及び体液によってもたらされる位相シフトは周波数と共に変化する可能性があるので、複数の周波数の送信された時間的に変化する磁場についての位相シフトデータを収集する。図1に例示する診断システム100は、プロセッシングユニット104内にフレキシブル周波数合成器100を設けているが、周波数合成器110は、例えば、ヘッドピース106内に設けてもよい。この周波数合成器110は、一部の実施例において、約20MHz〜200MHz(或いは、代替として、約20MHz〜300MHz、又は約10MHz〜300MHz、或いは、幾つかの他の好適な範囲の何れか)の範囲にわたって最小1MHzの分解能を有することができる。標準のデジタル位相ロックループ技法を用いて、単一安定水晶クロック発振器から選択可能な周波数を得ることができる。上述のように、合成器110のデジタル部分は、プロセッシングユニット104のFPGA110のうちの1つで実施することができる。合成器110は、送信器120において磁場を発生させるための方形波基本クロック信号とサンプリング信号の両方を生成することができる。サンプリング信号は、一部の実施形態において、磁場発生信号から僅かにオフセット(例えば、10KHz)した周波数とすることができる。磁場を発生させるための方形波信号は、一部の実施形態において、そのレベルを補正するために増幅することができ、またより高次の調波を除去して、1又はそれ以上の基本周波数の低歪み正弦波を得ることができる。
【0067】
時間領域データのFFT処理のような周波数領域技法を用いて位相を計算する他の場合では、基本周波数の高調波を強調することが有利とすることができる。これらの実施形態において、基本周波数合成器の後に追加の回路を加え、方形波又はパルス波形の立ち上がり時間又は立ち下がり時間をより速くし、これにより高次調波の相対振幅及び数を増大させることができる。上述のように、この実施形態は、RFのシングルバーストを有する「櫛形」の周波数の生成を可能とし、フーリエ技法を用いた放射体及び検出器から取り込まれた時間領域データの処理により、「櫛形」の各周波数について同時発生の時間相関位相差データセットが得られる。複数の周波数からの位相データのこの同時取り込みは、各周波数についての位相データがそれぞれ異なる時間に測定される個々の周波数スキャンに影響を及ぼすことになる動きアーチファクト又は他の作用から患者の脳液に関する所望のデータを分離するのに優れた利点をもたらすことができる。この場合における異なる時間での各周波数のサンプリングはノイズを発生させ、検出又は除去するのが難しい場合がある。
【0068】
磁場を発生させるのに使用される信号は通常周期的であるので、単一サイクルの波形から位相情報を取り込むために、当該信号の周波数よりも多くの頻度のサンプリング周波数を用いる必要はなく、代わりに、一部の実施例においては、アンダーサンプリング技法を利用してもよい。アンダーサンプリングは、増幅器利得の大部分及びオーディオ又はビデオ信号変調が電子回路の遙かに低い中間周波数段(IF)で実施される現行のラジオで使用されているヘテロダイン法に似ている。実際には、アンダーサンプリングにより、信号の位相情報を阻害することなく、システムは、より長い時間期間にわたって同じ又は同様の数のサンプル点を収集できるようになる。
【0069】
アンダーサンプリングを用いることにより、高精度に位相角を測定するために単一サイクルの波形から十分な位相サンプルを取り込むことが必要となる可能性がある高速ADコンバータ(高価で、多くの異なる有線接続を必要とする場合がある)の必要性を排除することができる。低速のADコンバータを用いることができる場合、上述のように、送信器120及び受信器124のループ250、270に近接してADコンバータ122、126を位置付けることが商業的及び物理的に実用可能とすることができる。
【0070】
従って、一部の実施形態において、送信及び受信磁場信号の一方又は両方は、(例えば、各サイクルで1つ又はそれ未満のサンプルで)アンダーサンプリングすることができ、従って、波形の平均記録は、1サイクルと比べて遙かに長い時間間隔で取得されるサンプルを用いて取り込むことができる。アンダーサンプリングを達成するために、送信信号及びサンプリング信号の両方は、共通のクロック信号から得ることができ、サンプリング信号は、正確には、送信信号周波数(又は分数調波)から僅かにオフセットされている。オフセットが、送信信号の第1の調波周波数から10KHzである場合、100マイクロ秒の時間期間後の結果は、f/10000の個々のサンプルで反復送信波形の1サイクルの有効画となる。100MHzの送信信号周波数及び100.010MHzのサンプル周波数では、送信波形の単一サイクルで10,000のアンダーサンプリングされた個々のサンプルは、360/10000すなわち0.036度の分解能で離間している。アンダーサンプリングに対する1つの代替策として、ADコンバータ122、126の前に標準の非線形ミキシング技法を用いた周波数変換を利用することもできる。
【0071】
他の実施例において、磁場発生器信号の周波数とサンプリング信号の周波数とを他の方法で関連付けることができ、その1つの実施例について、周波数領域信号処理法を参照しながら以下で説明する。更に別の実施例において、サンプリング周波数は、比較的一定とすることができる(例えば、210MHz、他方、発生周波数は、広範囲にわたって変化することができる)。
【0072】
(送信及び受信アナログ信号のデジタルデータへの変換)
一部の実施形態において、送信及び受信信号間の電子位相シフト測定は、アナログ信号処理法を用いて実施することができるが、他の実施例では、位相シフト測定は、上述のように、1又はそれ以上のADコンバータ122、126を介してアナログデータをデジタルデータに変換した後に実施することができる。次いで、デジタル波形を処理して関連する位相シフト情報を得ることができる。アナログデータではなくデジタルデータを処理することにより、例えば、ランダムノイズの影響を低減するため、更に、適切な技法を用いて60Hz付近の周波数のAC線路ピックアップのような非ランダム周期的ノイズを低減するために、多くの波形サイクルのサンプリング及び平均化を容易にすることができる。また、波形データのノイズを低減した後、デジタル信号処理を用いて正確な位相測定を得るのに利用できる相関などの多くの方法がある。
【0073】
本明細書で記載される診断システム100の一部の実施例において、送信及び受信信号両方のAD変換は、磁場の生成及び/又は検出の時点の実現可能な限り近くで実施される。例えば、AD変換は、プリント回路基板に一体化されて配置され、それぞれ送信器120及び受信器124を含む小型のモノリシックシングルチップADコンバータ122、126によってヘッドピース106において実施することができる。送信器120用のADコンバータ122は、例えば、1つの実施例において送信器120の平衡出力にわたる電圧を差動的にサンプリングすることができる。受信器124用のADコンバータ126は、例えば、受信器124に結合された広帯域幅信号増幅器の出力に位置付けることができる。ADコンバータ122、126を遠隔プロセッシングユニット104ではなくヘッドピース106上に配置することによって(但し、本明細書で記載される他の実施形態で行うことができる)、アナログ信号をADコンバータ122、126に搬送するケーブルに対する動き、曲げ、又は環境変化に関連する位相シフトの作用を低減又は排除可能にすることができる。低減又は排除できる他の誤差発生源は、終端点での小さなインピーダンス不整合に起因したケーブル長に関連する定常波共振、及び波形歪みに起因して位相誤差を発生する、相互接続ケーブルに対する送信及び受信信号間のクロスカップリングを含む。ADコンバータ122、126が送信器120及び受信器124に近接して位置付けられていない実施形態において同様の利点を実現するためには、単一のケーブルを用いて、プロセッシングユニット104における送信器及び受信器のADコンバータ122、126にサンプリング信号を取り込むことができ、及び/又は一部の実施形態において、2つのADコンバータ122、126間に高品質の半剛体ケーブルを用いることができる。
【0074】
(全体動作及びパイプライン方式)
再度図1を参照すると、波形データ(一部の実施形態において、アンダーサンプリングすることができる)は、送信及び受信磁場の両方において取り込むことができ、取り込んだ波形は、リアルタイム(又は実質的にリアルタイム)で少なくとも部分的に処理することができる。本明細書で説明されるように、1つのFPGA112は、ノイズ低減のため多くのサイクルにわたり2つの波形の各々についてデータを平均化することができる。次いで、別のFPGA114は、相関技法を使用し、平均化波形データを用いた位相シフト測定を実施することができる。一部の実施形態において、複数の周波数サンプルにわたる位相データ収集のデータスループットを迅速化するために、パイプライン技法を用いることができる。送信器120は、第1の所望の周波数で時間的に変化する磁場を発生することができ、必要数の波形平均をこの第1の周波数で波形アベレージャFPGA112により実施することができる。
【0075】
アベレージャFPGA112が送信器120及び受信器124からのサンプルデータ点の全てを収集及び平均化した後、これらを位相シフト測定FPGA114に転送することができる。一部の実施形態において、単一の送信周波数のみが患者の流体変化の診断に使用されるが、他の実施形態では、所望のスペクトル範囲内で複数の異なる送信周波数が生成され、対応するデータを収集することができる。複数の送信周波数を有するこのような実施形態においては、第1の送信周波数に対する位相決定は、位相シフト測定FPGA114において(第1の送信周波数の間に得られたデータを用いて)進めることができ、周波数合成器FPGA110によって、送信器120は、スペクトルスキャンの第2の所望の周波数を有する磁場を発生させるようになり、第2の送信周波数からの波形データは、波形アベレージャFPGA112によって平均化される(このためパイプライン方式)。他の実施形態において、1つの送信周波数に対する波形平均は、第2の周波数に対する複数のサンプル記録と実質的に同時に行うことができる。一般に、多くの異なるタイプのパイプライン方式(例えば、信号発生、取得、及びデータ処理のうちの2又はそれ以上の部分を実質的に同時に実施する)を用いることができる。しかしながら、他の実施形態において、パイプライン方式が存在しなくてもよく、診断システム100は、第2の送信周波数に移る前に、単一の送信周波数に関するデータの全ての送信、収集、平均、及び処理を行うことができる。
【0076】
パイプライン方式が使用されるかどうかに関係なく、異なる送信周波数を使用するプロセスは、所望のスペクトル周波数スキャンであらゆる数の送信周波数に対して繰り返すことができ、また、スペクトルスキャン内の1又はそれ以上の周波数に対して繰り返すことができる。各周波数に対して計算した位相シフトは、一部の実施例において、位相シフト測定FPGA114からラップトップ型コンピュータ102に直接転送することができる。
【0077】
(信号処理−平均化)
送信器120及び受信器124の比較的小さなサイズ、並びに送信磁場の比較的低い出力(送信磁場は、特に、RF放射線への曝露から患者を保護する必要性、及びシステム100からの電磁場放射を最小限にする必要性に起因して低出力である)に起因して、送信器120及び/又は受信器124にて測定した磁場は、比較的小さな振幅と比べて比較的多くのノイズ量を有する可能性がある。ノイズは、増幅器の入力サーマルノイズ、EMIピックアップからのバックグラウンドノイズなどを含むことができる。一部の実施例において、ノイズは、実際の位相シフトを基準とした位相シフト測定に対してかなりの割合をもたらす可能性がある。例えば、1mlの流体変化は、0.3度の位相シフトに相当することができ、従って、送信及び受信信号におけるノイズが予想される位相シフトの大部分であるか、又は予想位相シフトを超過する場合には、ノイズは、データを許容不能状態にする可能性がある。
【0078】
ノイズを低減するために、本明細書で記載される診断システム100は、一部の実施形態において、多くのサイクルの送信及び受信磁場(例えば、32,000サンプルのような、10,000サンプルの複数倍)をサンプリングすることができ、ランダムノイズを実質的に低減するために個々のサンプルを平均化することができる。一部の実施例において、合計のサンプリング時間間隔は、60HzAC電力の1期間のほぼ整数倍にまで拡張し、60Hzに関連する電磁干渉ピックアップの影響を低減することができる。以下で説明するように、これらの波形は、時間領域において互いに乗算し合うこと、並びに他の周波数領域平均化法を含む、何れかの適切な平均化法によって平均化することができる。
【0079】
ここで図4を参照すると、波形アベレージャFPGA112の簡易論理図の1つの実施形態300が示されている。勿論、他の実施形態において、カスタム電気回路を利用してデータを平均化することができ、該カスタム電気回路は、ヘッドピース106、プロセッシングユニット104、ラップトップ型コンピュータ102、又は別の好適な場所に配置することができる。しかしながら、図4は、波形アベレージャFPGA112に実装されて、送信波形サンプルをADコンバータでデジタル化した後に平均化することができる論理回路の1つの実施例を示している。同様の論理回路300を用いて、受信波形サンプルをデジタル化した後に平均化することができる。波形アベレージャFPGA112に対する入力はADコンバータと波形アベレージャFPGA112との間に必要な配線を低減するために、ADコンバータからのLow Voltage Differential Signaling(LVDS:低電圧差動信号伝送)タイプのフォーマットとすることができる。LVDSフォーマットでは、単一波形データ点を表すデジタルデータの各ワードは、最初に、以下で説明するデシリアライズロジックによってシリアルデータからパラレルデータに変換することができる。
【0080】
図4に示す論理回路は、ADコンバータからのデータ転送クロックによりクロック制御される同期式直列入力並列出力型シフトレジスタ301を含む。次いで、並列データワードがメモリバッファ302に転送され、送信波形の完全な1サイクルを構成するのに必要な個々の波形サンプルの最大数を扱うのに十分な容量を有する。加算器303は、データワードがレジスタ301から出たとき、又はメモリバッファ302に完全に読み込まれた後に、メモリバッファ302における波形サンプルの全ての和を集計するのに用いることができる。各波形和のメモリ位置は、オーバーフロー無しでの和の予想される最大数に対処できるビットのワードサイズを有することができる。例えば、12ビット分解能のADコンバータ及び4096の波形和は、24ビットメモリワードサイズを必要とする。送信信号サンプルに対する波形メモリに目的とする数の波形の和を集計した後(及び別個に、受信信号サンプルは波形アベレージャにおいて同様に合計される)、両方の波形の記憶内容は、位相シフト測定FPGA114にシリアル転送される。一部の実施例においては、次の処理ステップでは、平均化波形におけるデータ点の相対振幅のみが関連することがあるので、平均化された波形の数で除算することは必要ではない場合がある。このことに起因して、全体の位相シフト決定の精度に有意な影響を及ぼすことなく、平均化波形データ点の各々から適切な数の最下位ビットを削除することもできる。
【0081】
(信号処理−位相シフト決定)
ここで図5を参照すると、位相シフト測定FPGA114はまた、2つの循環シフトレジスタ401、402、乗算器403、及び加算器404を含むことができる。位相シフト測定FPGA114はまた、個々の送信平均波形データ点と受信平均波形データ点の積の和を2つの波形間の調整可能位相シフトを用いて計算するように構成された論理回路を含むことができる。FPGAを用いて、積の和がゼロに最も近く且つ位相シフトに対する積の和の傾きが負であるような位相シフトを見つけることができる。
【0082】
周波数f及び位相シフトΦを有する2つの正弦波の積についての以下の三角法による識別を考察する。
【0083】
sin u sin v=1/2[cos(u−v)−cos(u+v)](ここで、u=2πft+Φ、及びv=2πft) (式1)
=1/2[cos(Φ)−cos(2π(2f)t+(Φ)] (式2)
【0084】
積の第1項は、位相シフトのみに依存するDC項である。第2項は、元の周波数の完全な1サイクルにわたり平均するとゼロになる2倍の周波数での別の正弦波である。第1項(余弦波)はまた、位相角(Φ)が+90°又は−90°の何れかであるときにゼロである点に留意されたい。更に、位相角変化d(sin u sin v)/dΦに対する積の傾きは、Φ=+90°で負であり、Φ=−90°で正である。
【0085】
繰り返し処理によって、FPGAは、送信波と受信波が+90°位相シフトに最も近いnoffsetの値を求めることができる。オフセットがnoffsetのサンプル、及び完全な1つの360°波形のntサンプルにおいて、位相シフトは、以下の式を用いて計算される。
位相シフト=90°+(noffset/nt)*360° (式3)
【0086】
決定の分解能は、サンプルの数を制限する可能性がある(分解能=360°/nt)。分解能が測定の必要な精度に対し不十分である場合、補間を用いて、積の和が正確にゼロになるnoffsetの小数値を見つけることができる。
【0087】
(位相シフト測定における周波数領域信号処理法)
上記で説明したように(位相シフトデータを得るために波形を共に平均化及び乗算するセクションを参照)、送信器120及び受信器124両方からの測定しデジタル化した磁場トレースの信号処理は、時間領域に進むことができる。しかしながら、他の実施形態において、信号は、例えば高速フーリエ変換(FFT)を用いて周波数領域で処理することもできる。
【0088】
フーリエ領域解析の1つの実施形態において、送信器120及び受信器124からの信号は、例えば、比較的高い分解能(例えば、14ビット)の約200MHzのサンプリングレードでデジタル化される。ADコンバータ及びデータ取り込み電子回路は、比較的小さなプリント回路組立体パッケージに含めることができる。取り込まれたデータは、高速USBシリアルリンクを介してラップトップ型コンピュータ102に転送することができる。次いで、時間領域処理は、ラップトップ型コンピュータ102上での周波数領域処理に置き換えられ、波形間の位相シフトを計算することができる。
【0089】
データがラップトップ型コンピュータ102上にあると、送信器及び受信器の時間領域波形の各々に対するFFTを計算することができる(しかしながら、他の実施形態では、FFTは、FPGA又はADコンバータに近接した他のプロセッサによって計算することができる)。抵抗及び無効周波数領域データを表す結果として得られる実部及び虚部解は、デカルト座標から極座標に変換され、従って、波形の振幅及び位相の周波数領域プロットを得ることができる。各波形の位相は、関心のある周波数についての位相の周波数プロットから得ることができる。基本周波数がオフスケールにある場合、サンプリング周波数と送信波動場周波数との間の差分周波数を用いることができる。例えば、210MHzのサンプル周波数は、0〜105MHzの周波数範囲を有するFFTをもたらし、基本周波数は、送信波動場周波数がこの範囲にあるときの位相シフトに使用される。差分周波数は、送信波動場周波数が、周波数範囲(例えば105MHz〜315MHz)の上限点にある場合に使用される。
【0090】
送信波及び受信波動場信号の両方のFFTが計算された後、次に、関心のある特定の周波数についての位相シフトは、変換された送信器及び受信器波形から得られる位相値の差から計算することができる。種々の周波数領域における位相情報の一部の符号反転は、シフトを計算する際に必要とされる場合がある点に留意されたい。
【0091】
送信器120及び受信器124からのサンプルについてFFTを計算できるようにするために、サンプリング及び送信波形に使用される周波数は、コヒーレントサンプリングを可能にするように決定され、その結果、送信及び受信波形の両方が、繰り返し波形の整数の完全な時間期間を含み、波形に対して収集されるサンプル数が2の偶数乗であるようにすることができる。コヒーレントサンプリングを実施する1つの方法は、prime1/ftransmit=prime2/freceiveであるように送信器及び受信器のサンプリング周波数を選ぶことである。素数prime1及びprime2、並びにサンプルの数は、一部の実施形態において極めて大きくすることができ、これにより信号周波数における許容可能値の間の間隔を小さくすることができる(例えば、調整分解能をおよそ1Hzにすることができる)。これは、安定した周波数源と、整数周波数逓倍器、整数分周器、及び位相ロックループの適切な組み合わせとを兼ね備えることによるなど、デジタル周波数合成法を用いて達成することができる。
【0092】
コヒーレントサンプリングを用いると、位相計算の理論上の精度は、時間領域波形のサンプル数とADコンバータのデジタル分解能とによってのみ制限することができる。DCノイズ源及び1/fノイズのような低周波数ノイズ源は、周波数領域処理法により本質的に排除することができる。コヒーレントサンプリングの使用はまた、高調波及び相互変調積の周波数成分が計算位相における関心のある周波数の最上位にある可能性を低減させる。更に、位相決定にFFT周波数領域解を用いることにより、測定した送信及び受信磁場の大きさ又は振幅に関する情報をもたらすことができる。振幅値の比を用いて、対数db電力比単位で表すことができる送信磁場の減衰を決定することができる。
【0093】
(時間領域における代替の信号処理)
時間領域における1つの追加の代替信号処理法として、位相シフト測定は、1又はそれ以上の比較的低コストのアナログ位相検出器を介して、又は送信及び受信波動場信号のゼロ交差間の時間遅延を測定することにより実施することができる。例えば、積分位相検出器回路は、正弦波をクリッピング(例えば、追加の高利得で)することにより送信及び受信波動場の正弦波を方形波に変換し、次いで、アナログ排他的OR(XOR)ゲートを用いて送信器からのクリッピング/方形波を受信器からのクリッピング/方形波と比べる増幅器を含むことができ、ここでXORゲートによって提供されるパルス幅は、送信及び受信磁場間の位相シフトを表す。
【0094】
(動きに起因する位相測定誤差の低減)
位相測定誤差の原因となる要因の中で多くのものは、患者の動きから動き、送信器120の移動、受信器124の移動、接続又は伝送ケーブルの曲げ、その他に関連している。例えば、患者と送信器120/受信器124との間の相対移動は、磁力線が患者の頭部を通過するときの磁力線の経路長及び位置の変動をもたらす。送信器120付近及び/又は受信器124付近を移動する導電体又は磁性体はまた、磁力線が送信器120から受信器124に通過するときに磁力線の形状を変化させる可能性がある。
【0095】
一部の実施形態において、患者の移動に起因するアーチファクトを低減する方法を配備することができる。これらのアルゴリズムは、例えば、変化率又は他の特性によって決定付けられるような生体変化の結果であるはずのない関心の周波数スペクトル(例えば、約30MHz〜300MHz、又は約20MHz〜200MHz)にわたる差動位相シフトデータの統計的変動を検出することができる。従って、この閾値化型の方法は、真の生体変化以外の原因によって損なわれたデータを排除するのに用いることができる。
【0096】
別の実施例として、FFT処理の振幅部分から得られた減衰データは、アルゴリズムにおいて、位相シフトデータにおける動きアーチファクトの検出及び補正を助けるために、周波数スペクトラムにわたって変化するように実施することにより利用することができる。
【0097】
更に別の実施例として、追加的に又は代替的に、電子加速度計を用いて、送信器120、受信器124、患者、又は伝送ケーブルのうちの1又はそれ以上の動きを検出することができる。一部の実施例において、加速度計は、送信器又は受信器と同じプリント回路基板に結合することができる(例えば、MEMS型加速度計を用いて)。
【0098】
閾値レベルを上回るあらゆる動きを検出することに加えて、相対的差異について、送信器/受信器加速度計データと患者加速度計データとの間の関係を調べることができる。例えば、患者及び送信器/受信器の両方で検知された小さな振幅変化は、僅かな影響のものとすることができる。一部の患者の動きは、ほぼ必ず存在する(例えば、昏睡状態の患者の呼吸による)。しかしながら、より大きな又は無相関の加速度計の測定値は、データ除去又は補正の起動に用いることができる。患者の近くの完全に独立した物体の別個の動きはまた、データ中の動きアーチファクトを提示する可能性があるので、位相データの統計的分析に基づく幾つかのタイプの動き検出及び補正が依然として必要とすることができる。
【0099】
(臨床医に警報するための医療診断方法)
本明細書で記載されるシステム100は、とりわけ、例えば、患者の頭部内の流体含有量(「頭蓋内流体」)の変化によって誘起される位相シフトの変化を測定するのに用いることができる。位相データを分析して、流体の変化が臨床医のユーザに問題となっている組織変化を示すかどうかに関して決定する幾つかの方法を利用することができる。例えば、患者が最初に病院に到着したときに、1又はそれ以上の周波数についての患者の一方側に位置付けられた送信器120から送信される磁場と、患者の他方側に位置付けられた受信器124にて受け取った磁場との間の位相シフトのベースライン測定値を記録することができる。次いで、臨床医によって、後続のスキャン中に生じる測定位相シフトのあらゆる有意な変化を追跡して傾向を調べ、患者の臨床症状を理解する助けとすることができ、特定の閾値、パターン、又は傾向によって警報を起動することができる。最も有用な流体変化情報を臨床医に提供するために、多くの方法を利用し最適化することができる。例えば、位相が、特定の度数よりも多くシフトした場合、システムは、アラームを鳴らして、患者が臨床的に有意な出血又は浮腫を有する可能性があることを臨床医に警報することができる。一部の症状では、位相シフトの変化率が閾値を超えたかどうかを臨床医に警報することが有用とすることができる。
【0100】
異なる周波数の位相シフトは、例えば、本明細書において引用により全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,638,341号で記載されるように、様々な流体変化に伴って変化することができる。位相シフトの特定のパターンは、特定の臨床症状と関連することができる。例えば、出血又は浮腫のような症状は、ある周波数での位相角の増大によって明確に示され、異なる周波数では同時に減少する。異なる周波数での位相シフトの比を用いると、流体のタイプ及びどのように変化しているかに関する情報を提供することができる。例えば、第1の周波数での位相シフトと第2の周波数での位相シフトの比は、血液成分の評価、浮腫と出血の区別、又は他の流体変化に対する良好なパラメータとすることができる。例えば、生理食塩水の位相シフト周波数応答は、血液の位相シフト周波数応答とは異なり、従って、臨床医は、患者の脳空洞内の血液いと生理食塩水含有物の変化を別々に識別することを可能にすることができる。水量の変化は、一部の事例において位相シフトに比較的僅かな影響を及ぼす可能性があるが、イオン溶液中の電解質濃度はより顕著な影響を及ぼす可能性がある。
【0101】
位相シフトパターンはまた、時間依存とすることができる。仮定的臨床症状は、一部の時間期間において位相シフトの増大と、次いで一部の他の時間期間後のベースラインへの復帰とによって特徴付けることができる。ベッドからの起き上がり、食事、採血、又は訪問者との会話のような患者の活動などのノイズ要因は、ベースラインからの位相シフト測定値の変化を引き起こす可能性がある。臨床上の意味のある流体変化は、様々な活動に伴うパターンを調べることによりノイズと区別することができる。
【0102】
種々の周波数での位相シフトデータ、これらの位相シフトの比又は他の関数、及び/又は時間ベースの方法の組み合わせを用いることは、組織及び/又は流体変化に関するある範囲の有用な情報を臨床医に提供するために様々な実施形態において全て組み合わせて最適化することができる。次いで、臨床医は、臨床的問題を診断するため医用イメージングなどのより特別な診断技法を用いることにより組織変化に対応することができる。
【0103】
一部の事例では、流体及び/又は組織変化情報に応じて、治療を変えることができる。例えば、本明細書で記載される診断システムは、大脳動脈における血栓を溶解するために抗凝血剤を飲んでいる患者の流体変化を監視することができる。システムが脳内出血を検出した場合、抗凝血剤を低減又は停止して出血を管理するのを助けることができ、血管手術のような他の治療介入を実施して出血を止めることができる。別の実施例として、脳浮腫を生じ始めた患者は、浮腫を制御又は低減する医療的介入を受けることができ、又は、流体を排出するための外科手術を受け、或いは更に、浮腫に起因した脳内圧を低減するための半頭蓋切開術を行う場合がある。
【0104】
臨床医は、一部の場合、流体変化情報を用いて、診断システムからのフィードバックで何が効果的であるかを調べることにより投薬量を管理することができる。例えば、脳から水を引き出して脳内圧を低減するのにマンニトールを使用する場合、治療臨床医は、本明細書で記載される診断システムを使用して、薬剤に応答して患者の脳水がどのように変化しているかに関するフィードバックを受け取るようにすることができる。
【0105】
同様に、本明細書で記載される診断システムからのフィードバックに応じて投与量が制御される場合、血圧管理用の薬、電解質濃度、及び他のパラメータをより効果的に管理することができる。例えば、脳性ナトリウム濃度は、静脈高張又は低張食塩水を用いて制御することができる。イオン濃度に対する変化は、1又はそれ以上の周波数での位相角のシフト、又は位相角のシフトの一部の関数として検出することができる。このような情報は、患者を良好に管理するための医師へのフィードバックとして用いることができる。
【0106】
本開示の特定の実施形態を例証の目的で本明細書において説明してきたが、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく種々の修正を行うことが可能である。例えば、本出願は、本明細書で記載されるシステム及び方法の1つの可能性がある用途として人間の脳内の流体変化を監視する複数の実施例を含むが、本開示は、人間の身体の他の部位(例えば、腕、脚、肺、その他)の流体の変化の監視、他の動物(例えば、羊、豚、牛、その他)の流体の変化の監視、及び他の医療診断機関を含む、多数の他の用途において広く応用される。例えば、腕の流体の変化は、送信器及び受信器を含む包帯で腕を巻くことにより検出することができる。
【0107】
本明細書で記載されるシステム及び方法を用いることができる他の医療診断機関の幾つかの実施例は、人間の身体の所与の部位における特定の流体、組織(例えば、筋肉、脂肪、実質器官、その他)、又は他の固体物質(例えば、腫瘍)の絶対比率の決定、及び物体の相対誘電率及び/又は相対透磁率の決定などを含む。別の臨床的用途は、内出血の検出、流体(例えば、血液、細胞外液、細胞内液、その他)の異なるタイプ間の区別、脳浮腫及びリンパ浮腫を含む浮腫の評価、並びにこのような症状から結果として生じる鬱血性心不全のような肺流体蓄積を含む、広範囲にわたる監視及び診断用途を含む。これらの用途の全て及び更に多くのことは、本明細書で記載される種々の実施形態によって対処することができる。従って、請求項の範囲は、本明細書で与えられる特定の実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0108】
120 送信器
124 受信器
127 非導電性スペーサ材料
128 安定化装置
129 ヘッドセット
図1
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4
図5
図6