【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE ESTADUAL PAULISTA‘‘JULIO DE MESQUITA FILHO’’ ‐ UNESP
【文献】
Amol V. Patil,Immittance Electroanalysis in Diagnostics,Analytical Chemistry,2014年12月 9日,Vol.87/Iss.2,PP.944-950
【文献】
Joshua Lehr,Label-free Capacitive Diagnostics: Exploiting Local Redox Probe State Occupancy,Analytical Chemistry,2014年 2月 3日,Vol.86/Iss.5,PP.2559-2564
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の感知法であって、前記物質がそこに前記受容体部分が特異的に結合することが可能な標的種であり、且つ前記方法が前記担体媒体中の前記標的種の濃度を測定するための方法である前記感知法。
請求項4に記載の感知法であって、前記標的種がCRPタンパク質、インスリンおよび神経変性、癌、心筋梗塞、糖尿病および一般的外傷のうち1つまたはそれ以上のマーカーからなる群から選択される前記感知法。
請求項1に記載の感知法であって、前記物質がレクチンタンパク質、糖酵素および炭水化物結合抗体から選択され、且つ前記受容体部分が炭水化物部分である前記感知法。
請求項6に記載の感知法であって、前記作用電極がそれぞれが異なる炭水化物部分によって官能基化された複数の作用電極を含むグリコアレイの一部を形成する前記感知法。
請求項8に記載の感知法であって、前記作用電極がそれぞれが前記受容体部分で官能基化された複数の作用電極を含むアレイの一部を形成し、これにより前記アレイが複数の薬剤候補の同時スクリーニングにおける使用に適している前記感知法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の任意選択的且つ好ましい特性をここに記載する。別段言及しない限り、本願に記載する特性のいずれも、本願に記載する他の特性のいずれかと組み合わせることが可能である。
【0020】
(感知法)
電気化学的インピーダンス分光法(EIS)は、当業者に既知の技術である。一般に、変動交流電位を、作用電極と対極の間のバイアス(または直流)電位に印可する。一般に、EICは一定範囲の交流周波数ωにわたるスキャニングを包含する。入力シグナル(典型的には変動電位)の出力シグナル(典型的には変動電流)に対する比率よりインピーダンスを算出することができる。一般的に、入力シグナルと出力シグナルの間には位相差があるので、インピーダンスは実数部分(時にZ’と呼ばれる)と虚数部分(時にZ”と呼ばれる)を有する複素関数Z
*とみなすことができる。
【0021】
印加する変動交流電位の周波数の範囲は1mHzから10MHzでありうる。典型的には正弦波の形態にある印加交流電位の振幅は1mVから100mV、任意選択として5mVから50mV、任意選択として5mVから20mV、任意選択として5mVから15mV、任意選択として8mVから12mV、任意選択として約10mVでありうる。
【0022】
EIS測定を実施する際、バイアス電位(または直流電位)を任意の所望の数値に設定することができる。この直流またはバイアス電位は、本願では印加電位と呼ばれる。本発明の方法は、印加電位の範囲にわたって複素インピーダンスの複数の測定値を得ること(これによりその後の印加電圧にわたる積分が可能となる)を包含し、すなわち選択された相異なる電圧のそれぞれにおいて多数のEIS測定値が得られる。典型的には、EISによって得られた複素インピーダンスの複数の測定値は、少なくとも3測定値、好ましくは少なくとも10またさらに少なくとも20測定値などの少なくとも5測定値であり、すなわち印加電位の範囲は典型的には少なくとも3つの異なる印加電位、好ましくは少なくとも10またはさらに少なくとも20の異なる印加電位などの少なくとも5つの異なる印加電位である。
【0023】
複数のZ
*測定値を、複素キャパシタンスの実数成分の複数の測定値C’に変換するステップにおいては、(固定/単独)選択周波数ωにおけるC’測定値を用いる。当業者であれば周知であるように、C’は典型的にはωが変化するにつれて変化する(すなわちC’はωの関数である)。適切な選択周波数ωは、当然ながら個別の電極の構成および試みる感知法の性質に依存することになる。しかし、適切な選択周波数ωの決定は定型的である。当業者は、たとえば得られるC’の値が十分に高く(例:定型的EISスキャンにおける印加周波数範囲にわたって最も高いC’にあるかまたはそれに近い)且つ/またはプローブしようとする電極の局所環境の特定の特徴に反応するωの値を特定することなどが、容易に可能であろう。Z
*の複数の測定値を複素キャパシタンスの虚数成分C”の複数の測定値に変換する際には、同様の原理が適用される。
【0024】
選択周波数ωにおけるZ
*のC’および/またはC”への変換は定型的であり且つ技術上周知である。具体的には、標準的な実践的EIS分析においては、特定の電位における複素インピーダンス関数Z
*(ω)は、式C
*(ω)=1/iωZ
*(ω)を用いて、フェーザ法でその実数および虚数成分と共に複素キャパシタンスC
*(ω)に変換される。
【0025】
たとえば、C’、C”またはC’とC”の任意の組み合わせを印加電圧に対してプロットする「グラフ下面積法」および/または経験的に導出されたデータを積分するための周知であり且つ定型的なコンピュータ化アルゴリズムなどを用いて、印加電圧の関数としてのC’および/またはC”の測定値の積分も定型的に実施することができる。
【0026】
選択周波数ωにおけるC’およびC”の印加電圧の関数としての積分は、感知に適した「積分測定値」を提供し、すなわちEIS測定を実施する際に、電極の局所環境の報告に用いることができることが確認されている。具体的には、C’の積分から導出された積分測定値は、系の状態密度(DOS)と関連し、すなわち(実施例の
図1に例示されるように)量子キャパシタンスを反映する。C”の積分から導出された積分測定値は、(実施例の
図2に例示されるように)系のコンダクタンスと関連する。
【0027】
実践上は、時に、選択した周波数ωにおけるC’およびC”の一方のみを、印可した電圧の関数として積分することにより積分測定値を得ることが好ましいことがある。したがって、第1の好ましい実施形態においては、選択した周波数ωにおいて、複数のZ
*測定値は複素キャパシタンスの実数成分C’の複数の測定値に変換され、またこれらの測定値は積分測定値を得るための印加電圧の関数として変換される。さらに、第2の好ましい実施形態においては、選択した周波数ωにおいて、複数のZ
*測定値は複素キャパシタンスの虚数成分C”の複数の測定値に変換され、またこれらの測定値は積分測定値を得るための印加電圧の関数として変換される。
【0028】
しかし、C’およびC”の両者を用いることができるので、選択した周波数ωにおいて、C’とC”の任意の組み合わせを印可した電圧の関数として積分することにより、積分測定値を得ることができることが、当業者にあきらかとなる。たとえば、C’およびC”の数値の任意の和(ただしC’および/またはC”は任意の負または正の定数で重み付けされることがある)またはC’およびC”の値の任意の倍数または商を用いることができる。
【0029】
したがって、本願で用いる用語「量子キャパシタンス感知法」は、積分測定値が量子キャパシタンスではなく系のコンダクタンスを反映するように、選択されたωにおいて印加電圧の関数としてC”のみの積分によって積分測定値が得られる方法、さらには上記に説明するようにC’のみの積分またはC’およびC”の任意の組み合わせを積分することによって積分測定値が得られる方法を包含することを理解すべきである。
【0030】
作用電極の局所環境を評価するステップは、典型的には積分測定値と1つまたはそれ以上の参照値を比較することによって実施される。参照値は、電極の局所環境がすでに既知である条件下で1つまたはそれ以上の対応する積分測定値を得ることによって得ることができる。換言すると、参照値は、当該方法を試験条件下で実施する際に得られる積分測定値を、特定の既知の条件下であれば得られる予測測定値で校正するために用いられる。局所環境の評価は、定性的性質であることも定量的性質であることもある。感知用途での使用を目的とした機器の校正は、EISに基づく方法に含めて、技術上周知であり且つ定型的である。
【0031】
(作用電極の構築)
作用電極は、感知エレメントで官能基化された電極基板を含む。
【0032】
電極基板は任意の電気導電性材料を含みうる。基板は金属または炭素を含む。金属は元素形態の金属であることも金属合金であることもある。基板の全体は、任意選択として金属または炭素を含む。基板は遷移金属を含みうる。基板は周期表の9族から11族のいずれかから選択される遷移金属を含みうる。基板は、レニウム、イリジウム、パラジウム、白金、銅、インジウム、ルビジウム、銀、および金から選択されるがこれに限定されない金属を含みうる。基板は金、銀および白金から選択される金属を含みうる。基板は、エッジ面熱分解グラファイト、底面熱分解グラファイト、ガラス状炭素、ホウ素ドーピングダイヤモンド、高配向性熱分解グラファイト、炭素粉末およびカーボンナノチューブから選択されうる、炭素含有材料を含みうる。好ましい実施形態においては、基板は金を含み、たとえば基板は金基板である。
【0033】
電極表面(すなわち基板表面)は、たとえば陥凹、突出および細孔のない全般的に平坦な表面を含む、平面状でありうる。そのような基板表面は、たとえば、任意選択的に微粒子の粒径が研磨ステップ毎に減少する連続ステップによる、微粒子の噴霧などの微粒子による研磨といった技術によって容易に作成することができる。微粒子は、たとえばダイヤモンドなどの炭素材料を含んでもよく、且つ/または粒径10μmまたはそれ以下、任意選択的に5μmまたはそれ以下、任意選択的に3μmまたはそれ以下、任意選択的に1μmまたはそれ以下、任意選択的に0.5μmまたはそれ以下、任意選択的に0.1μmまたはそれ以下の粒径を有する粒子を有してもよい。研磨後、基板表面を、たとえば超音波処理で、任意選択的に水などの適切な液状媒体内で、たとえば少なくとも1分、たとえば約1分から10分の時間中洗浄する。任意選択的に、基板表面は研磨剤、たとえば酸性、溶液を用いて、たとえば研磨後に、また超音波洗浄を用いる場合はそのステップ後に洗浄しうる。研磨剤溶液は、水などの適切な液状媒体中のたとえばH
2SO
4などの無機酸、および/またはH
2O
2など過酸化物を含む。任意選択的に、基板は電気化学的に研磨することができ、これは微粒子による研磨、たとえば超音波処理および/または研磨剤溶液を用いた洗浄のうち1つまたはそれ以上を包含する任意のステップの後であってもよい。電気化学的研磨は、安定した還元ピークに達するまでの、たとえば0.5Vまたはそれ以上、任意選択的に1Vまたはそれ以上、任意選択的に1.25Vまたはそれ以上の上限電位、および0.5Vまたはそれ以下、任意選択的に0.25Vまたはそれ以下、任意選択的に0.1Vまたはそれ以下の下限電位などの、上限電位と下限電位の間のサイクリングを包含しうる。
【0034】
電極基板は感知エレメントによって官能基化される。感知エレメントは電極表面に拘束される。感知エレメントは、電極基板と組み合わせて、EISを実施する際に電気化学的レスポンスを生成することが可能である。さらに、印加電位に対する電気化学的レスポンスは電極の局所環境の変化に鋭敏である。
【0035】
これらの電極の特性は、感知エレメントを確実に電極表面と電子的に共役させることにより達成することができる。「電子的に共役する」は、電子が電極表面と感知エレメント間で再分布できることを意味する。したがって、電極表面を感知エレメントで官能基化することにより電極を生成するとき、電極表面と感知エレメントの間で電子の再分布が発生する。同様に、電極表面と感知エレメントの間の電子の再分布は、電極の局所環境に変化、具体的には基板または感知される環境パラメータに対応する変化があるときに発生する。
【0036】
一般的に、感知エレメントは、電子の化学的電位が電極のそれと異なる任意の化学化合物によって構成される。電極と所与の化学化合物は非常に短い距離、すなわちたとえば2nm未満などの、10nm未満といったナノスケール以内で分離されなければならない。この短い距離は、変換シグナルの量子化された性質を決定する。それは、実際にナノスケール距離内の散乱領域により、2つのエネルギー状態(電極プローブの状態と化学化合物それ自体の状態)を接続する。
【0037】
その結果、典型的に、感知エレメントのそれぞれが0.5から10nmといった10nmまたはそれ以下、好ましくはたとえば1から3nmなどの1から5nmのサイズを有する。前記のサイズは、典型的には、電極の表面と結合した感知エレメントの末端から電極表面と結合していない感知エレメントの末端までの直線として延伸する最大サイズである。典型的には、各感知エレメントの全サイズ(すなわち測定可能な全てのサイズ)が0.5から10nmといった10nmまたはそれ以下、好ましくはたとえば1から3nmなどの1から5nmのサイズを有する。
【0038】
感知エレメントは、感知エレメント(すなわち化学化合物および化学リンカー)が0.5から10nmといった10nmまたはそれ以下、好ましくはたとえば1から3nmなどの1から5nmの上記のサイズを有するという条件で、短い前記化学リンカーを介して電極表面と共役する、電子の化学電位が電極のそれと異なる前記化学化合物から構成されうる。
【0039】
典型的には、ほぼ無限の電子状態密度(「DOS」)を有するとみなすことのできる下層の電極基板と対照的に、感知エレメントは有限且つ拘束されたDOSを有する。したがって典型的には、感知エレメントは電極基板と異なり、すなわち導電性金属または炭素基板ではない。適切な感知エレメントの例は、酸化還元活性種、分子フィルム、ナノ粒子、グラフェン、カーボンナノチューブ、および量子ドットである。そのような物質による電極基板の官能基化は技術上周知であり、且つ定型的技術を用いて達成することができる。
【0040】
適切な酸化還元活性種の代表的な例は、オスミウムによる酸化還元系、その誘導体を含むフェロセン、キノンおよびポルフィリンを含む。キニンの誘導体はp−ベンゾキノンおよびヒドロキノンを含む。好ましくは、酸化還元活性種はフェロセンまたはその誘導体、たとえばそのアルキル(例:C
1〜6アルキル)またはアシル誘導体である。最も好ましくは、酸化還元活性種はフェロセンである。
【0041】
重要なことに、感知エレメントは酸化還元活性種を含みうるものの、感知エレメントが酸化還元活性であることは必須でない。したがって、本発明の1つの実施形態においては、作用電極は感知エレメントで官能基化されるものの、作用電極はいかなる酸化還元活性種によっても官能基化されない。たとえば、本実施形態の感知エレメントは分子フィルム、ナノ粒子、グラフェン、カーボンナノチューブ、および量子ドットから選択されうる。たとえば、感知エレメントは酸化還元活性種を含まない。
【0042】
1つの好ましい実施形態においては、感知エレメントはグラフェンを含む。たとえば、電極基板はしばしば金を含み(たとえば基板は金基板でありうる)且つ感知エレメントはグラフェンを含む。グラフェンは酸化型、すなわちグラフェンオキシドとして存在しうる。
【0043】
作用電極は、電極基板と感知エレメントの間に排置された中間層をさらに含みうる。中間層は、たとえばシステインなどの特定の化合物の自己構成単分子膜でありうる。当該化合物は絶縁体とも呼ばれることもある。
【0044】
1つの実施形態においては、電極基板は金を含み、作用電極は電極基板上に排置された中間層をさらに含み、また中間層上に排置された感知エレメントはグラフェンを含む。グラフェンは酸化型、すなわちグラフェンオキシドとして存在しうる。中間層は、典型的にはシステインを含む。
【0045】
用語「感知エレメント」は用語「ナノスケール単位」と互換的に用いることができ、これは電極表面で官能基化された材料の性質も記述する。
【0046】
(感知法の用途)
本発明の原理は幅広く適用することができる。具体的には、物理的物質または物理的物質以外の環境パラメータのいずれも感知することができる。ほとんどあらゆる物質または環境パラメータは、その物質の量またはパラメータの変化が作用電極の局所環境の変化をもたらし、且つそれゆえに感知エレメントと電極基板の間の電子分布の変化をもたらすのであれば、これを感知することができる。したがって、作用電極はそのために用いることになる意図する感知法について設計することができる。
【0047】
(物理的物質の感知)
1つの実施形態においては、方法は化学物質、すなわち化学化合物または化学化合物群を感知するための方法である。この実施形態においては、ステップ(A)において作用電極が物質を含みうる担体媒体と接触し、また印加電位に対する感知エレメントの電気化学的レスポンスは前記物質の存在に対して鋭敏である。担体媒体が物質を含有する場合、特定の積分測定値が得られる。担体媒体が物質を含有しない場合、積分測定値は異なる。同様に、担体媒体中の物質の濃度が変化するにつれて積分測定値の変化が発生する。
【0048】
担体媒体は、好ましくは液状であるが、気体媒体も可能である。担体液(または気体)は、その中で物質が懸濁または溶解(または分散)することのできる任意の液体(または気体)でありうる。1つの実施形態においては、担体液は水を含む。1つの実施形態においては、担体液は生体液を含む。生体液は、ヒトまたは動物でありうる対象から得られた液状物でありうる。1つの実施形態においては、担体液は非希釈生体液を含む。本文脈における非希釈生体液は、たとえばヒトまたは動物などの対象から得られ、他の液体で希釈されていない生体液である。生体液は血液、尿、涙液、唾液、汗および脳脊髄液から選択されうる。任意選択として、担体媒体は、たとえばヒトまたは動物などの対象から得られた生体液および希釈液を含む。希釈液は、対象から生体液を得た後に生体液に添加しうる。希釈液は、水と、たとえばエタノールなどのアルコールなどのアルコールから選択される液状媒体などの液状媒体を含みうる。担体媒体は、さらに緩衝剤を含みうる。緩衝剤はリン酸を含みうる。
【0049】
本発明のこの方法の好ましい態様においては、作用電極は前記物質と結合することのできる受容体部分を含み、且つ印加電位に対する感知エレメントの電気化学的レスポンスは、前記物質と受容体部分との結合に対して鋭敏である。好ましくは、受容体部分は物質と特異的に結合することが可能である。「物質と特異的に結合することが可能である」は、典型的には、担体媒体内に存在する任意の他の物質に対する結合定数より少なくとも50倍以上高い、好ましくは少なくとも100倍高い、より好ましくはさらに少なくとも200倍高い、当該物質に対する結合定数を有することを意味する。
【0050】
受容体部分は、感知エレメントそれ自体に含まれることもあれば、またはその代わりに、電極基板が感知エレメントおよび感知エレメントと異なる受容体部分の双方によって官能基化されることもある。
【0051】
受容体部分の例は、抗体、抗体フラグメント、核酸、アプタマー、オリゴ糖、ペプチド、およびタンパク質を含む。好ましくは、受容体部分は抗体、核酸およびペプチドから選択される。最も好ましくは、受容体部分は抗体である。
【0052】
抗体または抗体フラグメントは、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスのうち1つまたはそれ以上から選択しうる。好ましい実施形態においては、抗体または抗体フラグメントはIgG型である。抗体は対象化合物と特異的に結合する。抗体または抗体フラグメントは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジおよびウマから選択される哺乳類を含むがこれに限定されない哺乳類に由来しうる。アプタマーは、ペプチドアプタマー、DNAアプタマーおよびRNAアプタマーから選択しうる。
【0053】
抗体は、たとえば抗αシヌクレイン抗体(抗α−sync)でありうる。
【0054】
明らかに、所与の電極のための受容体部分の選択は、対象物質の本質、すなわち対象標的によって決定される。
【0055】
たとえば、標的はαシヌクレイン(α−sync)とすることもあり、この場合受容体部分は典型的に抗α−syncを含むかまたはこれにより構成される。
【0056】
1つの実施形態においては、作用電極は受容体部分を含み;感知エレメントはグラフェンを含み;且つ電極基板は金を含む。受容体部分は上記でさらに定義される通りであり、たとえば抗α−syncを含むこともあればこれにより構成されることもある。グラフェンは酸化型、すなわちグラフェンオキシドが受容体部分の結合を促進しうるので、この形態として存在しうる。
【0057】
作用電極は、電極基板上、電極基板と感知エレメントの間に排置された中間層をさらに含みうる。中間層は、典型的にはシステインを含む。
【0058】
(診断用途などを目的とした標的種の検出)
物質は、標的種、すなわち任意選択的に1つまたはそれ以上の他の非標的種と共に、担体媒体中に存在することもあれば存在しないこともあり、且つユーザーが検出/感知することを所望する種とすることできる。最も典型的には、方法は前記担体媒体中の前記標的種の濃度を判定するための方法である。
【0059】
この方法を用いて一定範囲の標的種を検出できるものの、1つの特に有用な態様は診断対象種の検出である。生理学的試料中のバイオマーカーの高感度検出は、診断において常に増大する関心事である。本発明の方法は、具体的には対象バイオマーカーと特異的に結合することの可能な受容体部分によって官能基化された電極基板を提供することにより、特異的バイオマーカーの高感度且つ高選択性感知(および濃度の測定)を目的として用いることができる。
【0060】
標的種の例は、CRPタンパク質、インスリンおよび神経変性、癌、心筋梗塞、糖尿病および一般的外傷のうち1つまたはそれ以上のマーカーからなる群から選択される種を含む。
【0061】
より一般的には、本発明の方法に従った検出に適した標的種はタンパク質、ポリペプチド、抗体、ナノ粒子、薬剤、毒素、有害ガス、有害化学物質、爆発物、ウイルス粒子、細胞、多細胞生物、サイトカインおよびケモカイン、生殖母細胞(ganietocyto)、オルガネラ、脂質、核酸配列、オリゴ糖、代謝経路の中間化学物質、および巨大分子を含む。好ましい実施形態においては、標的種は、生体分子、より適切には生体巨大分子、最も適切にはポリペプチドを含むか、ほぼこれにより構成されるか、またはこれにより構成される。バイオマーカーは、特に対象となる生体分子の1例である。
【0062】
標的分子がタンパク質であるかまたはこれを含む場合、タンパク質は天然タンパク質、変性タンパク質、タンパク質フラグメント、および原核または真核生物に発現したタンパク質から選択しうるが、これに限定されない。タンパク質は、当技術における通常の意味を有し、且つ最も好ましくは、「タンパク質」はポリペプチド分子を指す。そのようなポリペプチドはグリコシル化;リン酸化または他のそのような修飾といった修飾を含みうる。
【0063】
標的種が抗体である場合、抗体はIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスのうち1つまたはそれ以上から選択しうる。
【0064】
標的種がナノ粒子である場合、ナノ粒子は絶縁、金属または半導体ナノ粒子のうち1つまたはそれ以上から選択することができるが、これに限定されない。
【0065】
標的種が薬剤である場合、薬剤はアルコール(例:エタノール)、アンフェタミン、硝酸アミル、ヘロイン、ケタミン、アナボリックステロイド、LSD、溶媒、大麻、コカイン(塩酸コカインまたは「コーク」など)、たばこ、精神安定剤、クラック(すなわちコカイン遊離塩基)、エクスタシーおよび/またはγヒドロキシ酪酸塩・エステル(gammhydroxybutylate:GHB)から選択しうるが、これに限定されない。一部の実施形態においては、その代わりに薬剤は医療用物質でありうる。
【0066】
標的種は候補薬剤、たとえば特定の活性または性質について本発明を用いて試験またはスクリーニングしうる、化学的または生物学的実体でありうる。
【0067】
標的種が毒素である場合、毒素は動物、植物、または細菌に由来する1つまたはそれ以上の毒素から選択しうるが、これに限定されない。
【0068】
標的種がウイルス粒子である場合、ウイルス粒子はゲノムの有無にかかわらない1つまたはそれ以上のウイルス粒子から選択しうるが、これに限定されない。
【0069】
標的種が細胞である場合、細胞は多能性前駆細胞、ヒト細胞(例:B細胞、T細胞、肥満細胞、食細胞、好中球、好酸球、マクロファージ、内皮細胞)、癌細胞(例:肝臓、頸骨、膵臓、直腸結腸、前立腺、表皮、脳、乳房、肺、精巣、腎臓、膀胱癌に由来する細胞)、非ヒト由来の単細胞生物、藻類、菌類、細菌、植物細胞、寄生虫卵、プラズモディウムおよびマイコプラズマのうち1つまたはそれ以上から選択しうるが、これに限定されない。
【0070】
標的種がオルガネラである場合、オルガネラは核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、リソソーム、ファゴソーム、細胞内膜、細胞外膜、細胞骨格、核膜、クロマチン、核基質および葉緑体のうち1つまたはそれ以上から選択しうるが、これに限定されない。
【0071】
標的種が脂質である場合、脂質はシグナル伝達脂質、構造脂質、リン脂質、糖脂質および脂肪酸のうち1つまたはそれ以上から選択しうるが、これに限定されない。
【0072】
標的種が核酸配列である場合、核酸配列はDNA、cDNA、RNA、rRNA、mRNA、miRNAおよびtRNAのうち1つまたはそれ以上から選択しうるが、これに限定されない。
【0073】
標的種がオリゴ糖である場合、オリゴ糖はヒト、動物、植物、菌類または細菌に由来する1つまたはそれ以上のオリゴ糖から選択しうるが、これに限定されない。
【0074】
標的種は、特定の疾患を指摘する任意の抗原または分析物でありうる。標的は、たとえばC反応性タンパク質(CRPタンパク質)、アンジオテンシンI変換酵素(ペプチジルジペプチダーゼA)1;アディポネクチン;終末糖化産物特異的受容体;α−2−HS−糖タンパク質;アンジオゲニン、リボヌクレアーゼ、RNアーゼAファミリー、5;アポリポタンパクA−l;アポリポタンパクB(Ag(x)抗原を含む);アポリポタンパクE;BCL2−関連Xタンパク質;B−cell細胞CLL/リンパ腫2;補体C3;ケモカイン(C−Cモチーフ)リガンド2;CD14、可溶性;CD40、可溶性;cdk5;、ペントラキシン関連、カテプシンB;ジペプチジルペプチダーゼIV;表皮成長因子;エンドグリン;Fas;フィブリノーゲン;フェリチン;成長ホルモン1;アラニンアミノトランスフェラーゼ;肝細胞増殖因子;ハプトグロビン;熱ショック70kDaタンパク質1B;細胞間接着分子1;インスリン様成長因子1(ソマトメジンC);インスリン様成長因子1受容体;インスリン様成長因子結合タンパク質1;インスリン様成長因子結合タンパク質2;インスリン様成長因子結合タンパク質3;インターロイキン18;インターロイキン2受容体、α;インターロイキン2受容体、β;インターロイキン6(インターフェロン、β2);インターロイキン6受容体;インターロイキン6シグナルトランスデューサー(gp130、オンコスタチンM受容体);インターロイキン8;アクチビンA;レプチン(肥満相同体、マウス);プラスミノーゲン活性化因子、組織;プロオピオメラノコルチン(副腎皮質刺激ホルモン/β−リポトロピン/α−メラニン細胞刺激ホルモン/β−メラニン細胞刺激ホルモン/β−エンドルフィン);プロインスリン;レジスチン;セクレチンe(内皮接着分子1);セレクチンP(顆粒膜タンパク質140kDa、抗原CD62);セルピンペプチダーゼ阻害因子、クレードE(ネキシン、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1型)、メンバー1;血清/糖質コルチコイド調節キナーゼ;性ホルモン結合グロブリン;トランスフォーミング成長因子、β1(カムラチ−エンゲルマン病);TIMPメタロペプチダーゼ阻害因子2;腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー、メンバー1B;血管細胞接着分子1(VCAM−1);血管内皮成長因子;ファクターII;ファクターV、ファクターVIII、ファクターIX、ファクターXI、ファクターXII、F/フィブリン分解産物、トロンビン−アンチトロンビンIII複合体、フィブリノーゲン、プラスミノーゲン、プロトロンビン、およびフォン・ウィレブランド因子などから選択しうる。糖尿病にとって有用なマーカーは、たとえばC反応性タンパク質;グルコース;インスリン;TRIG;GPT;HSPA1B;IGFBP2;LEP;ADIPOQ;CCL2;ENG;HP;IL2RA;SCp;SHBG;およびTIMP2を含む。現在好ましい標的種は、CRPタンパク質、インスリンおよび神経変性、癌、心筋梗塞、糖尿病および一般的外傷のうち1つまたはそれ以上のマーカーからなる群から選択される標的種を含む。
【0075】
標的種は、たとえば抗αシヌクレイン抗体(抗α−sync)を含むこともあれば、これにより構成されることもある。標的種がα−syncであるかまたはこれを含む場合、受容体部分は抗α−sync抗体を含むかまたはこれにより構成される。
【0076】
標的種は糖尿病をモニタリングすることと関連する標的でありうる。1つの実施形態においては、標的はグルコース、インスリン、インターロイキン2受容体α(IL2−RA)、C反応性タンパク質(CRP)および糖化ヘモグロビン(HbA1c)から選択しうる。標的種がグルコースである場合、受容体部分は、たとえばGDH−FAD分析の分子認識エレメントまたはグルコース/ガラクトース結合タンパク質(「GGBP」)から選択しうる(Scholle,et al.,Mol. Gen. Genet 208:247−253(1987))。標的がIL−2RAである場合、受容体部分はIL−2RAに特異的なモノクローナル抗体を含むかまたはこれにより構成される。標的種がC反応性タンパク質であるかまたはこれを含む場合、好ましくはこれはヒトC反応性タンパク質である。標的種がC反応性タンパク質であるかまたはこれを含む場合、受容体部分は抗CRPを含むかまたはこれにより構成されうる。標的種がインスリンであるかまたはこれを含む場合、受容体部分はインスリン抗体を含むか又はこれにより構成されうる。
【0077】
(グリコアレイによる方法)
本発明の方法は、グリコアレイを包含する用途においても使用することができる。グリコアレイは、各アレイ単位が特異的な炭水化物部分(他のアレイ単位における炭水化物部分と異なる)を含むアレイである。本発明の文脈においては、アレイは複数の別個にアドレス指定できる電気化学的系を含み、それぞれの作用電極は炭水化物部分である受容体部分によって官能基化される。たとえば、炭水化物部分のアレイは、ヒトなどの生物のグリコームまたはグリコームの一部を構成しうる。
【0078】
したがって、本発明の方法の1つの実施形態においては、(感知される)物質はレクチンタンパク質、糖酵素および炭水化物結合抗体から選択される一方で、受容体部分は炭水化物部分である。さらに本感知法では、作用電極は、異なる炭水化物部分によってそれぞれ官能基化された複数の作用電極を含むグリコアレイの一部を形成しうる。したがって方法は、グリコアレイに含まれる各作用電極上でステップ(A)〜(D)の方法を実施することを含みうる。
【0079】
(薬剤スクリーニング/発見)
本発明のための方法の他の用途は、薬剤スクリーニングおよび創薬の分野にある。薬剤スクリーニングを目的としたアレイによる既知の系においては、各アレイ単位が、薬剤候補がそこに結合すれば薬剤候補が治療上対象となりうることが明確に示される、到達可能な受容体部分を含む。たとえば、タキソール−チューブリンモデルに基づく既知のスクリーニング法がある。このモデルにおいては、既知の抗癌剤タキソールとチューブリンプロテシンとの相互作用活性を、新規薬剤候補と比較する参照として用いる。
【0080】
具体的には、本発明の方法においては、(感知される)物質は薬剤候補であってもよく、且つ受容体部分は既知の参照薬剤と結合することの可能な部分であってもよい。したがって、薬剤候補の受容体部分との結合が感知されれば、既知の参照薬剤と同様の様態で挙動する(またしたがってさらなる研究に値する)薬剤候補と相関するであろう。対照的に、結合できないことはその薬剤候補の除外に至ることがある。
【0081】
本感知法において、作用電極は、前記受容体部分でそれぞれ官能基化された複数の作用電極を含むアレイの一部を形成してもよく、これにより前記アレイは複数の薬剤候補の同時スクリーニングの使用に適していることが認識される。このアレイ設定により、多数の薬剤候補を高いスループットで一度にスクリーニングすることが可能となる。
【0082】
(環境パラメータの感知)
さらなる実施形態においては、方法は電極の局所環境における環境パラメータの変化を感知するための方法である。そのような環境パラメータの例は、局所環境の温度、局所環境の光度(例:可視光強度、またはその代わりまたはそれに加えて紫外線強度)および局所環境における湿度を含む。
【0083】
そのような方法においては、光、温度または環境/表面水の相互作用が、感知エレメントにおいて測定されるDOSまたは電子密度(DOSの積分から得られる)に影響する。電気化学的レスポンスにおける随伴変化は測定可能であり、且つその後の用途を目的として容易に校正することができる。
【0084】
(装置)
本発明は、典型的には本発明の感知法である、感知法における使用を目的とした装置も提供する。この装置は、その作用電極が感知エレメントによって官能基化された電気化学分光器、すなわち本発明の方法を実施するために特に適合された電気化学分光器を含む。作用電極は本願に記載される。
【0085】
装置は、(a)印加電位の範囲にわたる複素インピーダンスZ
*の複数の測定値を含む入力データを、前記の電気化学的分光器から受信するよう構成された受信器;および(b)(i)前記の複数のZ
*測定値を、選択した周波数ωにおける複素キャパシタンスの実数および/または虚数成分であるC’および/またはC”の複数の測定値に変換し、且つ(ii)前記のC’、C”、またはC’とC”の組み合わせの測定値を選択した周波数ωにおいて印可した電圧の関数として積分して積分値を得るよう構成されたプロセッサをさらに含む。受信器およびプロセッサはコンピュータの一部とすることができる。受信器およびプロセッサの機能性は、本発明の方法からの入力データを受信し、且つ本願に記載の方法でこれらのデータを処理して積分測定値とするようコンピュータをプログラミングすることにより達成することができる。
【0086】
受信器は、分光器から直接的に、またはたとえば分光器が作成したデータファイルからデータを読み取ることにより間接的に入力データを受信することができる。
【0087】
「プログラミング」は、入力データを受信し、複素キャパシタンスの実数および/または虚数部分C’および/またはC”に変換し、且つ積分して積分測定値を得るステップを自動的に、たとえばユーザーの介入なしに遂行するための指示を提供するコンピュータ読み取り可能コードがコンピュータに装備されることを意味する。コンピュータは、たとえば適切なコンピュータプログラムによってプログラミングされた物理コンピュータを含む。そのプログラムは、たとえば、コンピュータまたはコンピュータのネットワークによる実行を目的として、記憶媒体上に提供することも可能である。記憶媒体は、ハードディスクなどのコンピュータ自体の不可分の一部、または光学ディスクまたはUSBフラッシュメモリデバイスなどのポータブル記憶デバイスなどのリムーバブル記憶媒体とすることも可能である。
【0088】
したがって装置は、それにより操作者が電気化学的分光器を用いて必要な本発明の方法のステップ(A)のEIS測定を実施し、且つその後のステップを次に自動的に実施して感知法を完了する、本発明の方法を遂行するために用いることができる。
【0089】
コンピュータは、さらに前記積分測定値から生成されるデータを出力するようさらにプログラミングしうる。その出力は、ディスプレイに対するものおよび/またはコンピュータファイルに対するものおよび/または他のデバイスへのデータストリームとしてのものでありうる。そのようなデータは、積分測定値それ自体に対応する単純な数値データを含みうる。またその代わりに、データは、試験中の系において感知される物質の有無または濃度の表示または感知される環境パラメータの定性的または定量的表示を含みうる。当業者に明らかとなるように、積分測定値に関する校正(参照)値を用いて追加的にプログラミングすることにより、そのようなデータを提供するようコンピュータを定型的にプログラミングすることができる。
【0090】
さらに、本発明はコンピュータ読み取りコードを記憶する記憶媒体を提供する。このコードが実行されるとき、本願に定義する受信器およびプロセッサ(すなわち上記に説明されるコンピュータのような)に、本発明の装置における受信器およびプロセッサと関連したステップを実施させることが可能である。
【実施例1】
【0091】
作用電極は以下のように作成した。ペンタデカンチオールと11−フェロセニルウンデカンチオールの溶液でインキュベートすることにより、金電極基板上に混合自己構成単分子膜(SAM)を生成した。受容体面は、これらを抗CRPに浸漬することによって作成した。
【0092】
少量のC反応性タンパク質(CRP)を、PBS中0nmol/Lから8.0nmol/Lの範囲の濃度で界面に添加した(具体的には、0、0.5、1.0、2.0、4.0および8.0nmol/Lの濃度で測定値を測定した)。参照電極としてAg/AgCl、対極として白金、および上記の作用電極の3電極構成を用いて、ポテンシオスタットで電気化学的測定を実施した。全ての実験は3回ずつ遂行し、図中に示す測定値はそれに応じて算術平均した平均値である。
【0093】
電気化学的インピーダンス分光測定は、+0.2Vと+0.8Vの間の電位の範囲にわたり、Ag/AgClに対して15mV刻みの電位、および定常周波数20mHzで実施した。
【0094】
こうして
図1および2のDOSを得た。
図1(b)の形状は、20mHzにおける複素キャパシタンスの実数部分から直接構築した。具体的には、DOSの形状は量子キャパシタンス形状、すなわちe
2DOSを反映する。直線は、実験データの(ここでは点線で示す)、熱的線幅拡大の効果を組み入れたガウス分布に対するフィッティングである。したがって、電子密度:N(熱的線幅拡大を伴う)は、ガウス分布の積分として以下のように得られ:
【数1】
式中:g
r(μ
e)はDOS関数(
図1bに示すように電位の関数としてのガウス分布)、E
rは電極に随伴する酸化還元種の酸化還元電位であり、k
Bはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、且つμ
eは電位とμ
e=−CVの関係にある電極内の電子の化学電位である。
【0095】
その後、
図1(a)に示すように、NはCRP濃度の関数とみなした。具体的には、分子層体積(11−フェロセニル−ウンデカンチオール分子層については長さ3.5nmを用いた)によって正規化された
図1(b)の曲線の積分によって、電子密度を算出した。
【0096】
図2は、20mHzにおける複素キャパシタンスの虚数キャパシタンス項から構築され;酸化還元フィルムのコンダクタンスを説明する(
図2(a)を参照)。コンダクタンスの積分も電子密度を提供する。電子密度は、分子フィルムにおける結合事象を感知する手段も提供する(
図2(b)に示す分析曲線を参照のこと)。
【実施例2】
【0097】
発明者らは、キャパシタンス分光測定法の方法論を用いることにより、分子の量子化状態およびその占有(量子キャパシタンス)を実験的に評価し、且つこのシグナルをバイオセンサー用途のトランスデューサーとして利用することが可能であることを立証しており;測定されたキャパシタンスが環境の任意の変化(静電的または化学的)に対して非常に鋭敏であるため、これを実施することができる。さらに発明者らは、系の量子キャパシタンスおよび量子化抵抗の双方が、到達可能な量子分子状態を電極/プローブに伝達し、トランスデューサーシグナルとして用いることができることも立証している。発明者らは、密度関数理論(量子力学的方法論)にしたがって、電子密度の関数、
【数2】
は以下に示すようにキャパシタンス分光測定法と密接に関係することも理解し
【数3】
式中、
【数4】
は2つの寄与因子
【数5】
(量子)および
【0098】
【数6】
(静電)を含む電気化学的キャパシタンスである。電極と接続された、制限された電子状態またはナノスケールサイズを含む任意の小型化デバイスは、
【数7】
に含まれる量子力学状態がいくつかの外部事象(たとえばタンパク質の結合)によって変化するという条件で、感知フォーマットに潜在的に用いることができることを受ける。発明者らは、作用電極プローブ上に載置されたグラフェンシートの場合、
図3に例示するように、それと結合するタンパク質が分析物(標的タンパク質)の受容体の役割を果たす時、系がそのような変化に対して非常に鋭敏となることができることを、本願において立証する。この系においては、量子力学状態のエネルギー、キャパシタンスおよび抵抗(グラフェンの電子状態と金/プローブ電極の電子状態の共役と関連する)は、トランスデューサーシグナルとして用いることができる。これは
図4に例示される。
【0099】
デバイスは、インキュベーション時間8時間以内に、中間的自己構成単分子膜(システインより作製される
図3の絶縁層)を経て、グラフェン水中分散剤を滴下することにより、(機械的および電気化学的に研磨された)金電極上にグラフェンオキシドを排置することによって製作することができる。両性イオン性単量体CBMAを静電的集合によって(負に荷電したグラフェンオキシド末端上で)電極上に固定した後、受容体を電極上に結合し、低汚損面を作成することができる。受容体種(抗α−sync)の固定の前に、表面修飾電極をH
2Oですすぎ、窒素気流で乾燥させる。その後、末端カルボキシル基を、脱イオン水中の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(0.4M)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(0.1M)で40分間活性化し、その後PBS溶液中のそれぞれの受容体分子1μMと1時間室温で反応させた。その後、界面を1Mエタノールアミン(pH約8.5)に浸漬してあらゆる未反応の活性化カルボキシル基を非活性化し、測定の前にPBSで洗った(
図3に模式的に示す)。
(
図4の)各パラメータ、すなわち量子キャパシタンス
【数8】
量子コンダクタンス
【数9】
および表面エネルギー
【数10】
[式(1)も参照]について得られたレスポンス(R)を、標的濃度(α−sync)の範囲にわたって評価した。これらのパラメータのそれぞれについて導電シグナルを正規化するために、相対レスポンスを用いた。すなわち、共鳴周波数における標的の各濃度についての相対レスポンス(RR)は、
【数11】
が最大化する場合、したがって以下のように計算される。
【数12】
式中
【数13】
は分析物のない場合のパラメータの初期値(ブランク測定)を表し、且つ
【数14】
は、同じ周波数
【数15】
において受容体官能基化電極を対応する標的濃度に曝露した後のパラメータ値である。
「RR」を標的濃度にわたって収集することにより、
図4に示すようにパラメータのそれぞれに対して分析曲線をプロットすることが可能であった。