特許第6543375号(P6543375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6543375ケモカインレセプターと細胞接着分子を発現するCD3陰性細胞の集団、およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6543375
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ケモカインレセプターと細胞接着分子を発現するCD3陰性細胞の集団、およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20190628BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20190628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   C12N5/0783
   A61K35/17 A
   A61P35/00
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-59624(P2018-59624)
(22)【出願日】2018年3月27日
【審査請求日】2018年6月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516061713
【氏名又は名称】株式会社ガイアバイオメディシン
(73)【特許権者】
【識別番号】596029111
【氏名又は名称】米満 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】米満 吉和
(72)【発明者】
【氏名】原田 結
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−027385(JP,A)
【文献】 Scand. J. Immunol.,2007年,vol.65, no.2,pp.126-138
【文献】 J. Immunol.,2006年,vol.177, no.11,pp.7833-7840
【文献】 Immunology,2009年,vol.126, no.4,pp.458-465
【文献】 Oncotarget,2015年,vol.6, no.15,pp.13835-13843
【文献】 Hum. Gene Ther. Methods,2013年,vol.24, no.2,pp.241-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性、Integrin α1陽性、Integrin α3陽性及びIntegrin β3陰性であり且つCD3陰性である細胞を含む、細胞集団。
【請求項2】
CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性、CD11a高発現性及びCD11c高発現性であり且つCD3陰性である細胞を含み、高発現性は、末梢血から得た、実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団における発現との比較により判断される、細胞集団。
【請求項3】
前記細胞集団において、CD3及びCD19からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が5%未満である、請求項1又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記細胞集団において、CD4、CD8、CD14、CD19及びCD36からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞が除去された、請求項1からの何れか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
固形腫瘍への浸潤に使用するための、請求項1からのいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の細胞集団、および医薬として許容される添加物を含む、医薬組成物。
【請求項7】
固形腫瘍に浸潤している、CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性及びIntegrin α1陽性、Integrin α3陽性及びIntegrin β3陰性であり且つCD3陰性である細胞。
【請求項8】
固形腫瘍を治療するために用いられる請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
固形腫瘍細胞を殺すために用いられる、請求項6又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
初代単核球細胞集団を調製する工程と、
初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程と、
初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程と、
前記CD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、
請求項1からに定義の細胞集団の製造方法。
【請求項11】
初代単核球細胞集団を調製する工程と、
初代単核球細胞集団から、CD3、CD4、CD14、CD19、CD20、CD36、CD66b、CD123、HLA−DR及びglycophorin A陽性細胞を除去する工程と、
前工程の細胞が除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、
請求項1からに定義の細胞集団の製造方法。
【請求項12】
初代単核球細胞集団を調製する工程と、
初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程と、
初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程と、
前記CD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、
請求項6、8及び9に定義の医薬組成物の製造方法。
【請求項13】
初代単核球細胞集団を調製する工程と、
初代単核球細胞集団から、CD3、CD4、CD14、CD19、CD20、CD36、CD66b、CD123、HLA−DR及びglycophorin A陽性細胞を除去する工程と、
前工程の細胞が除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、
請求項6、8及び9に定義の医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケモカインレセプターと細胞接着分子を発現するCD3陰性細胞の集団とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性のリンパ球であり、腫瘍細胞やウイルス感染に対する初期防御機構を担っている。
【0003】
患者自身から採取したNK細胞を、外での培養により数百倍〜数千倍に増殖・活性化させ、患者に戻すNK細胞療法が、副作用の比較的少ない治療方法として注目されている。通常、正常な成人の末梢血の1回のアフェレーシスからは約1×1010個の単核球が回収でき、末梢血単核球中のNK細胞の構成比率を約7%とすると、7×108個のNK細胞が得られる。一方、患者の体重を60kgとすると、6×106個〜4.8×109個のNK細胞が必要であるといわれる。そこで、ドナーから得たNK細胞を培養増幅して、標的細胞を死滅させるのに十分なNK細胞を得る技術の開発が進められている。例えば、特許文献1は、NK細胞を含む細胞集団を調製する工程と、NK細胞を含む細胞集団からT細胞を除去する工程と、除去された残りの細胞を、2500IU/mLから2813IU/mLのIL−2を含む培地で培養する工程とを含むことを特徴とする、NK細胞の増幅方法を提案する。
【0004】
また、ex vivo培養されたNK細胞は、in vitroでは腫瘍細胞株に対し細胞傷害性を示すものの、臨床での治療効果が十分でない場合がある。そのため、NK細胞の活性を高める培養技術が提案されている。例えば、特許文献2は、NK細胞を含む細胞の集団を、少なくとも1つの増殖因子、ならびに、効果的な濃度、効果的な暴露時期および効果的な暴露継続期間のニコチンアミドおよび/または他のニコチンアミド成分とともに培養し、CD62Lの上昇した発現、上昇した遊走応答、上昇したホーミングおよびin vivo保持、より大きい増殖、増大した細胞傷害活性のうちの少なくとも1つがもたらされる、NK細胞のex vivo培養方法を提案する。
【0005】
免疫細胞療法用の免疫細胞として、NK細胞の他に、キメラ抗原受容体発現するように遺伝的に改変されたT細胞(CAR−T)が研究されている。この技術では、ターゲットとなる腫瘍の持つ抗原に特異性をもたないT細胞を遺伝的に改変することにより、ターゲットとなる腫瘍の持つ抗原に特異性を獲得したエフェクターT細胞を末梢血から大量に作成することができる。しかし、CAR−T細胞療法は固形腫瘍にはあまり治療効果がない場合があり、この原因の一つとして、CAR−T細胞が固形腫瘍に到達しないことが挙げられている(非特許文献1)。CAR−T細胞の腫瘍へのホーミングに関しては、遺伝子改変の間に、ケモカインレセプターが欠失し、腫瘍細胞への走化性が低下する可能性があると報告されている(非特許文献2)。一方、CCR2bを形質導入して機能的ケモカインレセプターを発現させたCAR−T細胞では、腫瘍への移行が増加し、抗腫瘍活性が上昇したことが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
非特許文献4は、最もよく知られているヒト末梢血由来CD56陽性のNK細胞におけるケモカインレセプター発現を調査している。この研究では、CD56lowNK細胞は、主にCXCR1/CXCR2+及びCXCR3/CCR5-/+であり、ほとんどのCD56highNK細胞がCXCR1/CXCR2-及びCXCR3/CCR5+であると報告されている。また、CD56low及びCD56highNK細胞の両方で、CCR4-及びCCR6-であったことも報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−27385号公報(特許第5572863号)
【特許文献2】特表2013−515497号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Melero I. et al., Cancer Discovery 2014;4:522-526.
【非特許文献2】Jena B. et al., Blood, 2018;116:1035-1044.
【非特許文献3】Moon E. et al., Clin Cancer Res, 2011;17(14):4719-4730.
【非特許文献4】Lima M. et al., Journal of Immunology Research, Volume 2015, Article ID 839684, 18 pages
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CAR−T細胞は、遺伝子操作により、抗原特異性の他に、走化性など所望の機能を獲得する可能性があるが、遺伝子治療用製品として扱われ、品質及び安全性の確保に厳しい指針が定められており、開発にコストと時間がかかるという問題がある。
【0010】
また、NK細胞はin vitroで腫瘍細胞株に対し細胞傷害活性を示すことが確認されても、in vivoでの抗腫瘍活性が十分でないという問題がある。これは、NK細胞が、腫瘍に対する走化性が弱く、且つ固形腫瘍に浸潤しないことが原因であると考えられる。
【0011】
これまでに、NK細胞の培養効率を高める技術や、NK細胞の活性を高める培養技術が提案されているが、これらの技術により製造されたNK細胞は、依然として臨床での使用に十分なものではない。培養技術を用いて、より高い抗腫瘍活性を有する免疫細胞を提供することが課題としてある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む、細胞集団。
[2]CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞が、更にCD11c高発現性である、[1]に記載の細胞集団。
[3]CD3及びCD19からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が5%未満である、[1]又は[2]に記載の細胞集団。
[4]CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含み、
CD4、CD8、CD14、CD19及びCD36からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞が除去された、細胞集団。
[5]固形腫瘍に浸潤している、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞。
[6][1]から[4]のいずれか一に記載の細胞集団、および医薬として許容される添加物を含む、医薬組成物。
[7]初代単核球細胞集団を調製する工程と、
初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程と、
初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程と、
CD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、
CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞の集団の製造方法。
[8]固形腫瘍への浸潤に使用するための、[1]から[4]のいずれか一に記載の細胞集団。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の14日間培養細胞(postcultured)における、ケモカインレセプターの発現。対照は、培養していないprimary NK細胞である。
図1B】本発明の14日間培養細胞(postcultured)における、細胞接着分子の発現。対照は、培養していないprimary NK細胞である。
図2】本発明の14日間培養細胞(postcultured)におけるCD3陽性細胞及びCD19陽性細胞の含有率。対象は、PBMCである。
図3】抗GD2抗体、primary NK細胞及び本発明の14日間培養細胞(postcultured)による、固形腫瘍塊(IMR32 spheroid)の細胞傷害アッセイにおいて、1、6、12、18、21時間のタイムポイントで撮影した、固形腫瘍塊(IMR32 spheroid)の写真。
図4A】primary NK細胞及び本発明の14日間培養細胞(postcultured)による、固形腫瘍塊(IMR32 spheroid)の細胞傷害アッセイにおいて、21時間のタイムポイントで撮影した、固形腫瘍塊(IMR32 spheroid)の写真。エフェクター細胞なしの系における固形腫瘍塊(IMR32 spheroid)の写真を対照として示す。
図4B】7AAD染色による死細胞のフローサイトメトリー解析。
図4C】primary NK及び本発明の14日間培養細胞(postcultured)による細胞傷害活性。
図5】in vivo固形腫瘍モデルの治療スケジュール。
図6】in vivo固形腫瘍モデルにおける治療効果。(A)腸間膜の全体像。腸が環状に映っており、その内側に腸間膜が存在する。(B)腸間膜のGFP陽性領域の全画素の総密度。
図7】改良製造方法での培養開始後10日目の細胞。
図8】(A)NK様+Mono、濃縮NK様、及び濃縮Monoの細胞傷害活性。(B)CD107a陽性率。
図9】濃縮NK様細胞集団、及びNK様+mono細胞集団を材料とする製造方法で作成したNK様細胞におけるケモカインレセプター発現確認。CCR5、CCR6及びCXCR3について、濃縮NK様細胞のチャートを矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[CCR5陽性、CCR6陽性、CXCR3陽性及びCD3陰性である細胞の集団]
本発明は、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む、細胞集団を提供する。CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を、「CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞」、又は単に「CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-」と表す場合がある。表面抗原マーカーの記載について使用する「/」は「及び、且つ」を意味し、例えば「CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-」は「CCR5+であり、CCR6+であり、CXCR3+であり、且つCD3-である」の意味である。
【0016】
(ケモカインレセプター)
CCR5、CCR6及びCXCR3は、ケモカインレセプターである。ケモカイン及びケモカインレセプターは、炎症や免疫応答での細胞遊走、造血幹細胞の骨髄へのホーミングなどに関わる。ケモカインは、白血球、リンパ球、NK細胞、T細胞などを、組織に遊走させるために必要な物質であり、ケモカインレセプターは、細胞の表面でケモカインを受けとめ、細胞内へ各種シグナルを伝達する。
【0017】
CCR5及びCCR6は、単球、マクロファージ及び樹状細胞などが持つこと、並びにCXCR3はT細胞及びNK細胞などが持つことが、報告されている(Nagarsheth N, et al. Nat Rev Immunol. 2017)。CCR5に関しては、傷害性T細胞の固形腫瘍へのホーミングに重要であることが報告されている(Gonzaelez-Martin A, et al. Oncoimmunology. 2012)。CCR6に関しては、CD103と共にCCR6の腫瘍内誘導が、腫瘍部位におけるT細胞の保持に役割を果たすことが報告されている(Franciszkiewicz K, et al. Cancer Res. 2012)。
【0018】
CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、後述するように、腫瘍細胞株に対する傷害活性が高いという特徴がある。これは、既知のNK細胞でも観察される特徴である。しかしながら、これまでにCCR6陽性のNK細胞は報告されていない。例えば、非特許文献4は、CD56陽性NK細胞がCCR6陰性であることを報告している。従って、本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、既知のNK細胞の集団とは、少なくともCCR6陽性である点で区別することができる。本発明のCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団を、特にCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-NK様細胞の集団、又は単にNK様細胞の集団と呼ぶ場合がある。ここで、既知のNK細胞は、T細胞受容体(TCR)、T細胞普遍的マーカーであるCD3を発現しておらず、更に膜免疫グロブリンであるB細胞受容体を発現していない大型の顆粒性リンパ球であり、一部にはCD16陰性集団が存在するものの通常ヒトではCD16陽性であり、かつCD56陽性である。NK細胞であるか否かは、当業者であれば、細胞表面マーカーの発現パターン等に基づき容易に判断することができる。
【0019】
表面マーカーに関し、陽性であることは、+で表され、陰性であることは−で表されることがある。例えば、CCR5陽性は、CCR5+と表され、CCR5陰性は、CCR5-と表されることがある。陽性は、高発現性(high)である場合と低発現性(low)である場合を含む。陽性、陰性、高発現性、低発現性は、フローサイトメトリー法により得られるチャートに基づき、判断することができる。チャートに現れる位置は、機器の電圧設定、感度設定、使用抗体クローン、染色条件、使用色素等により変動することがあるが、当業者であれば、得られたチャートにおいて一群と認められる細胞集団を切り分けないように適宜線引きすることができる。
【0020】
目的のマーカーの発現が、陽性であるか陰性であるかの判断には、アイソタイプ・コントロール(Isotype control)抗体を用いた場合をネガティブ・コントロールとして用いて判断することができる。Isotype control抗体は特定の抗原とは反応しない抗体である。一般に、抗体を用いた実験においては、ターゲット以外のタンパク質との非特異的な結合や、細胞表面上の Fc レセプターとの結合によって、バックグラウンドが発生する可能性がある。ネガティブ・コントロールとなる抗体を使用した系と比較することにより、目的の抗原に対する一次抗体の反応が特異的であることが明確になる。またバックグラウンドの影響が排除され、シグナルの強さを正確に解釈することができる。
【0021】
本明細書において「細胞集団」とは、複数個の細胞、例えば1×105cells以上の細胞で構成される一群をいう。本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、様々な細胞密度に調製することができる。例えば、1×105cells/mL以上に調製することができる。
【0022】
CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞の数は、好ましくは1×106cells以上であり、より好ましくは5×106cells以上であり、さらに好ましくは1×107cells以上である。CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞の数はまた、ヒトへの投与に適した1×106cells〜1×1010cellsとすることができる。また、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団における細胞密度は、1×105cells/mL以上であり、好ましくは2×105cells/mL以上であり、より好ましくは5×105cells/mL以上である。ヒトへの点滴のためには、5×105cells/mL程度とすることができる。細胞密度の上限値は、例えば1×1010cells/mL以下とすることができる。CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団における細胞密度はまた、培養や凍結保存に適した1×106〜1×108cells/mLとすることができ、またヒトへの投与に適した1×105〜1×109cells/mLとすることができる。
【0023】
目的のマーカーの発現の程度(低発現性であるか、高発現性であるか)は、同一条件で測定した対照細胞の集団の結果との比較により、判断することができる。対照細胞の集団の例は、本明細書の実施例に記載したprimary NKのような、末梢血から得た、実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団である。
【0024】
一定期間培養された細胞の集団におけるCCR6の発現の程度は、フローサイトメトリーを用い、その細胞集団におけるCCR6発現量を、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団(対照。CCR6陰性であることが知られている。)におけるCCR6発現量と比較して判断することができる。一定期間培養された細胞の集団におけるCCR6の発現が二峰性になっており、二峰とも対照より発現量が高い場合、低発現性と高発現性があると判断することができる。
【0025】
本発明で提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞は、CCR6高発現性であるか、CCR6低発現性であることができる。また、本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、CCR6高発現性であるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団、およびCCR6低発現性であるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団の双方を含んでいてもよい。双方を含む細胞集団は、フローサイトメトリー法でCCR6に関して解析すると、二峰性となる。
【0026】
また、本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞は、CCR5陽性及びCXCR3陽性であることができる。加えて、CCR5高発現性及びCXCR3高発現性である場合があってもよい。高発現性であることは、マクロファージやMDSCなどの骨髄球系細胞におけるCCR5及びCXCR3の発現との比較により判断することができる。
【0027】
本発明で提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞は、CXCR1及びCXCR2からなる群から選択されるいずれかが陰性であることができる。本発明で提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれる細胞は、CCR2、CCR4及びCXCR4からなる群から選択されるいずれかが陰性であるか、あるいは極めて低発現性であることができる。
【0028】
本発明で提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、後述するNK様細胞の集団の製造方法により得ることができる。後述するNK様細胞の集団の製造方法は、初代単核球細胞の集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程を含むが、単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかの除去は必要でない場合がある。
【0029】
本発明で提供される細胞集団に含まれる細胞は、天然由来であることができる。本発明において、天然由来である細胞とは、非遺伝子組み換え細胞であるか、外来遺伝子導入動物若しくは形質転換細胞に由来しない細胞であるか、又は細胞融合技術により作成されていない細胞であることを表すが、天然に存在する細胞そのものという意味ではなく、培養技術により製造された細胞であることを意味する。非遺伝子組換え細胞とは、本発明において、遺伝子改変技術を用いて人為的に個体の遺伝情報を変化させた動物の血液から分離した単核球を用いて製造された細胞ではないことを意味する。また、血液から分離した単核球や造血幹細胞に対し、遺伝子改変技術を用いて人為的に遺伝情報を改変して製造された細胞の集団でもない。外来遺伝子導入動物又は形質転換細胞に由来しない細胞とは、本発明において、外来遺伝子を生物又は細胞に導入する工程を経ないで作成された細胞であることを意味する。細胞融合技術により作成されていない細胞とは、細胞融合により生じた細胞でも、それに由来する細胞でもないことを意味し、例えば細胞融合などによる細胞表面抗原の発現調節を行っていないことを意味する。
【0030】
(細胞接着分子)
本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がCD11c高発現性であることができる(CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh)。CD11cは、integrin αXとしても知られている細胞接着分子である。CD11cは、単球、マクロファージ、顆粒球、ミエロイド系樹状細胞に発現することが知られている。CD11cは、CD18と結合して、細胞接着などに関与することが知られている。
【0031】
一定期間培養された細胞の集団におけるCD11cの発現の程度は、フローサイトメトリーを用い、その細胞集団におけるCD11c発現量を、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団(対照。CD11c低発現性であることが知られている。)におけるCD11c発現量と比較して判断することができる。一定期間培養された細胞の集団におけるCD11cの発現が対照より発現量が高い場合、高発現性があると判断することができる。
【0032】
本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がさらにIntegrin α1、Integrin α3、Integrin α4、Integrin α5、CD11a、CD18、ICAM-1、及びIntegrin β1からなる群から選択されるいずれかが高発現性であることができる。末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団(対照。Integrin α1、Integrin α3、Integrin α4、Integrin α5、CD11a、CD18、ICAM-1、Integrin β1が陰性又は低発現性であることが知られている。)との比較により、高発現性があると判断することができる。
【0033】
CD11a/CD18は別名LFA−1と呼ばれ、Tリンパ球に分布し、ICAM−1又はICAM−4と相互作用して、白血球の接着や走化性に関与し、免疫寛容を誘導することが知られている。Integrin α4/Integrin β1は別名VLA−4と呼ばれ、フィブロネクチン、VCAM−1等と相互作用して、リンパ球、単球、好酸球の炎症部位への遊走に関与することが知られている。Integrin α1/Integrin β1は別名VLA−1と呼ばれ、広範な細胞に分布し、コラーゲン、ラミニンと相互作用して、神経突起伸長やリンパ球浸潤に関与することが知られている。Integrin α3/Integrin β1は別名VLA−3と呼ばれ、広範な細胞に分布し、ラミニン−5、TSP、uPARと相互作用して、腎臓や肺の形態形成、癌の浸潤や転移に関与することが知られている。
【0034】
本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がCD11a/CD18高発現性であることができる。本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がIntegrin α4/Integrin β1高発現性であることができる。本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がIntegrin α1/Integrin β1高発現性であることができる。本発明により提供されるCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む細胞集団は、該CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞がIntegrin α3/Integrin β1高発現性であることができる。
【0035】
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high /Integrin α1high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high/Integrin α1high/Integrin α3high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high/Integrin α1high/Integrin α3high/Integrin α4high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high/Integrin α1high/Integrin α3high/Integrin α4high/Integrin α5high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high/Integrin α1high/Integrin α3high/Integrin α4high/Integrin α5high/ICAM-1high、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11chigh/CD11ahigh/CD18high/Integrin α1high/Integrin α3high/Integrin α4high/Integrin α5high/ICAM-1high/Integrin β1high細胞の集団であることができる。本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団に含まれるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞は、CD16及びCD56からなる群から選択されるいずれか一つ又は両方が陽性であることができる。
【0036】
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、CD3及びCD19からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が10%未満であることができる。細胞集団中、これらの細胞の比率は、フローサイトメトリー法により分析することができる。細胞集団中のCD3及びCD19からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が5%未満であることが好ましく、2%未満であることがより好ましい。細胞集団中のCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞の比率がより高い方が、腫瘍細胞傷害活性が高いと考えられるためである。
【0037】
(走化性及び浸潤)
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、腫瘍部位への上昇した走化性を持つことができる。また、本発明により提供されるNK様細胞の集団は、腫瘍塊に浸潤することができる。腫瘍塊への浸潤とは、腫瘍塊の内部に細胞(例えば、免疫細胞)が侵入している状態を意味する。
【0038】
腫瘍部位への走化性は、細胞遊走アッセイにより評価することができる。細胞遊走アッセイは、腫瘍細胞の存在下で、トランスウェル法などにより実施することができる。
【0039】
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団と比較して、腫瘍部位への上昇した走化性を有することができる。本発明者らの検討によると、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団と比較して、本発明により提供されるNK様細胞の集団において、ケモカインレセプターCCR5、CXCR3及びCCR6の発現が高いことが、腫瘍部位への上昇した走化性と関係していると考えられる。
【0040】
腫瘍塊への浸潤は、腫瘍細胞株から作成したスフェロイドに対する細胞傷害アッセイにより評価することができる。スフェロイドは、三次元細胞培養された細胞凝集塊であり、細胞間の相互作用と、細胞外マトリックスが発達している。また、外縁部にはタイトジャンクションが存在する場合があり、内部は低酸素状態かつ低pHとなることで、代謝や機能活性が、より生体内の組織に近いと考えられる。腫瘍スフェロイドは、薬物開発のための次世代のin vitro実験モデルとして期待されている(Hirschhaeuser F. et al., J Biotechnol. 2010 Jul 1;148(1):3-15; Xiang X. et al., 2011 PLoS ONE 6(1): e14640. doi:10.1371/journal.pone.0014640; Milotti E, Chignola R., 2010 PLoS ONE 5(11):e13942. doi:10.1371/journal.pone.0013942)。例えば、本発明により提供されるNK様細胞を蛍光標識し、スフェロイド内部への移行を観察することができる。末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞はスフェロイドに浸潤しないが、本発明により提供されるNK様細胞はスフェロイドに浸潤することができる。固形腫瘍への浸潤には細胞接着分子LFA−1/VLA−4が重要であると考えられている(Sackstein R, et al. Lab Invest. 2017)。本発明者らの検討によると、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団と比較して、本発明により提供されるNK様細胞の集団において、細胞接着分子の発現が高いことが、スフェロイドへの浸潤と関係していると考えられる。
【0041】
固形腫瘍塊として、IMR32細胞株(ヒトMYCN増幅神経芽腫細胞株)から形成したスフェロイドを使用した細胞傷害アッセイにおいて、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞は、スフェロイドの周辺に存在したが、浸潤しなかった。また、抗GD2抗体(Unituxin(登録商標))は、単独でIMR32細胞株を傷害可能とされている(Doronin et al., BMC Cancer 2014, 14:295)が、スフェロイドを形成したIMR32に対しては、顕微鏡下では細胞が傷害されたような形態変化は観察されなかった。一方で本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、スフェロイドに浸潤しており、アッセイ開始の12時間以降でスフェロイドが崩壊し始めた。
加えて、スフェロイドに対する細胞傷害活性は、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞に比較して、本発明により提供されるNK様細胞の集団では、非常に高かった。また、スフェロイドに対する細胞傷害活性は、本発明により提供されるNK様細胞の集団と抗体を併用した系と抗体を併用しない系の両系において、有意差はなかった。
【0042】
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、上記のとおり、高い細胞傷害活性を発揮しうる。細胞傷害活性とは、特に記載した場合を除き、対象細胞(エフェクター細胞、E)の標的細胞(T)に対する溶解能を指す。細胞傷害活性は、エフェクター細胞により死に至った標的細胞の百分率(%)で表すことができ、次式により求められる。
(エフェクター細胞と共培養した場合の細胞死−自然細胞死(陰性コントロール))/(最大細胞死(陽性コントロール)−自然細胞死(陰性コントロール))×100
【0043】
本発明により提供されるNK様細胞をエフェクター細胞として、固形腫瘍塊に対する細胞傷害活性を測定する場合は、標的細胞は、IMR32細胞株のスフェロイドの他、グリオーマ、乳がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん等の腫瘍細胞株から作成したスフェロイドなどを使用できるが、これらに限定されない。用いることができるスフェロイドの大きさは、直径150〜500μm程度であることができるが、これに限定されない。エフェクター細胞と標的細胞、生細胞と死細胞は、放射性物質、蛍光色素等で標識した抗体等の試薬により、区別し、また定量することができる。NK様細胞をエフェクター細胞とするときの細胞傷害活性は、例えばIMR32細胞株のスフェロイドを標的とし、インキュベート時間は、8から48時間、好ましくは12〜24時間の条件で測定することができる。
【0044】
本発明は、固形腫瘍に浸潤している、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を提供する。従来のNK細胞は固形腫瘍に対し奏功しないと考えられているが、本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団は、固形腫瘍に浸潤して、腫瘍細胞を傷害することができる。固形腫瘍への浸潤は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞が腫瘍塊(スフェロイド)の内部に移行することが観察され、さらに腫瘍塊の形状が経時的に変化し、腫瘍塊が崩壊することにより判断できる。腫瘍細胞が傷害されたことは、フローサイトメトリーによる死細胞の数の増加により確認することができる。
【0045】
(in vivoでの固形腫瘍に対する治療効果)
本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-NK様細胞の集団は、in vivoでの固形腫瘍に対する治療効果を有することができる。
【0046】
in vivoでの固形腫瘍に対する治療効果は、免疫不全マウスなどの動物にヒト腫瘍細胞を移植し、経過を観察することにより評価することができる。予防効果については、移植と同時にNK様細胞の集団の投与を行って評価してもよい。または、治療効果については、5日程度、腫瘍の成長を確認してからNK様細胞の集団投与を行い評価してもよい。評価は、安楽死させたマウスを解剖し、蛍光標識された腫瘍細胞を観察することにより実施することができる。
【0047】
in vivoでの治療計画は、動物に対して、単回または複数回、投与する場合がある。独立した単回投与によるか、連続注入によるかに関わらず、NK様細胞の集団は、1kgあたり1×105cells〜1×108cellsが初期候補用量となる。NK様細胞の集団とともに、IL−2を投与することができる。IL−2は、投与されたNK様細胞の活性を動物内で維持するために投与されることができる。IL−2は、1頭あたり1,000〜10,000IUが初期候補用量となる。In vivoでの治療計画では、任意の適切な手段によって、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与を採用することができる。治療効果の評価は、蛍光標識された腫瘍細胞を観察すること、及び/又は蛍光陽性領域の画素数を算出することにより行うことができる。
【0048】
本発明により提供されるNK様細胞の集団は、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団に比較して、免疫不全マウスに移植されたSKOV3細胞(ヒト卵巣がん細胞株)の数を減少させることができる。本発明により提供されるNK様細胞の集団は、免疫不全マウスに移植されたSKOV3細胞(ヒト卵巣がん細胞株)をほぼ消滅させることができる。免疫不全マウスに移植されたSKOV3細胞は、無治療の場合は、腫瘍結節を形成していることが確認されているが、本発明により提供されるNK様細胞の集団で治療されたマウスでは、SKOV3細胞はほぼ消滅しており、腫瘍結節は観察されなかった。in vitroで示された腫瘍塊への浸潤能と、in vivoでの治療効果の結果から、本発明により提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-NK様細胞の集団は、固形腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を傷害することができるといえる。
【0049】
[NK様細胞の集団の製造方法]
本発明は、初代単核球細胞集団を調製する工程と、初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程と、初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程と、当該CD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団を、IL−2を含む培地で培養する工程とを含む、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞の集団の製造方法を提供する。
【0050】
(初代単核球細胞集団)
本発明の製造方法において、初代単核球細胞集団は、被験者から採取された血球細胞から単核球を分離する工程によって得ることができる。血球細胞は、末梢血、臍帯血、骨髄およびリンパ節からなる群から選択されるいずれかから採取される場合がある。血球細胞は末梢血からアフェレーシス法により採取される場合がある。培養前の初代単核球細胞集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞を含まないものであることができる。
【0051】
本発明の製造方法において、初代単核球細胞集団は、胚性幹細胞、成体幹細胞および人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞と、臍帯血単核球と、末梢血単核球とからなる群から選択される少なくとも1種類の細胞から調製される場合がある。初代単核球細胞集団のドナーである被験者は、レシピエントである患者自身か、該患者の近縁者か、患者とは血縁関係のない者かに由来する場合がある。被験者は、健常者と、疾患に罹患した患者との場合がある。本発明により提供されるNK様細胞は、レシピエントの主要組織適合性抗原(MHC)と、キラー免疫グロブリン様受容体(Killer Immunoglobulin−like Receptor:KIR)とが不一致であるドナーに由来する場合がある。
【0052】
(CD3陽性の除去、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかの除去)
本発明の製造方法において、初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程により、T細胞及び/又はNKT細胞を除去することができる場合がある。T細胞の除去は、CD3陽性細胞のほか、CD4陽性細胞及びCD8陽性細胞から選択される1種、又は2種を除去する工程によって達成される場合がある。また、本発明の製造方法において、初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程について、単球の除去は、CD14陽性細胞、CD36陽性細胞、及びHLA−DR陽性細胞から選択される1種、2種、又は3種の細胞を除去する工程によって達成される場合がある。B細胞の除去は、CD19陽性細胞及びCD20陽性細胞から選択される1種又は2種の細胞を除去する工程によって達成される場合がある。
【0053】
本発明の製造方法において、CD3陽性細胞の除去と、単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかの除去は、同時に行ってもよいし、別々の工程で行ってもよい。単球の除去とB細胞の除去は、同時に行ってもよいし、別々の工程で行ってもよい。
【0054】
本発明のNK様細胞の製造方法は、初代単核球細胞集団から樹状細胞、顆粒球及びマクロファージからなる群から選択されるいずれかを除去する工程を含む場合がある。樹状細胞、顆粒球及びマクロファージからなる群から選択されるいずれかの除去は、CD66b陽性細胞、CD123陽性細胞、及びHLA−DR陽性細胞から選択される1種、2種又は3種の細胞を除去する工程によって実施される場合がある。
【0055】
本発明のNK様細胞の製造方法は、初代単核球細胞集団から造血前駆細胞を除去する工程を含む場合がある。造血前駆細胞を除去する工程は、CD34陽性細胞を除去する工程によって達成される場合がある。
本発明のNK様細胞の製造方法は、初代単核球細胞集団から赤血球及び赤芽球系前駆細胞を除去する工程を含む場合がある。赤血球及び赤芽球系前駆細胞を除去する工程は、glycophorin A陽性細胞を除去する工程によって達成される場合がある。
【0056】
初代単核球細胞集団は、当業者に知られたさまざまな手順を用いて調製することができる。例えば、臍帯血および末梢血のような血液から単核球を回収する際には、比重遠心法を用いることができる。さらに初代単核球細胞集団、及び初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団は、細胞表面マーカーに対する特異的抗体で免疫蛍光染色を行い、セルソーターまたはフローサイトメーターを用いて単離・同定できる。また、初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団は、Invitrogen社から販売されるDynal社製Dynabeads(商標)や、ミルテニーバイオテック社のCliniMACS(商標)を含むがこれらに限定されない免疫磁気ビーズを用いて、特定の細胞表面抗原を発現する細胞を分離除去して調製されてもかまわない。
【0057】
また、T細胞、NKT細胞、単球、B細胞、樹状細胞、顆粒球、マクロファージ、赤血球、赤芽球系前駆細胞または造血前駆細胞に対する特異的結合パートナーを利用して、T細胞、NKT細胞、単球、B細胞、樹状細胞、顆粒球、マクロファージ、赤血球、赤芽球系前駆細胞または造血前駆細胞を選択的に傷害または死滅させる場合がある。
【0058】
なお、初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞を除去する工程と、初代単核球細胞集団から単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかを除去する工程は、CD3陽性細胞、単球及びB細胞をともに除去する工程であってもかまわない。CD3陽性細胞、単球及びB細胞を除去する工程は、他の細胞タイプ、例えば、赤血球、赤芽球系前駆細胞、造血前駆細胞、樹状細胞、顆粒球、マクロファージおよびNKT細胞からなる群から選択されるいずれかをCD3陽性細胞、単球及びB細胞とともに除去する工程であってもかまわない。
【0059】
(培地)
初代単核球細胞集団からCD3陽性細胞、並びに単球及びB細胞からなる群から選択されるいずれかが除去された残りの細胞集団を培養するために用いる細胞培養用培地は、KBM501培地(コージンバイオ株式会社。IL−2を1,750JRU/ml含む。ヒトNK細胞Primary Culture用)、CellGro SCGM培地(セルジェニックス、岩井化学薬品株式会社)、X−VIVO15培地(ロンザ、タカラバイオ株式会社)、コスメディウム008 (コスモバイオ。IL−2を1,750JRU/ml含む。ヒトNK細胞Primary Culture用)、CTS AIM V Medium GibcoTM CTSTM AIM VTM Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック。T細胞および樹状細胞を増殖・操作するための既知組成の無血清培地)、CTS OpTmizer T Cell Expansion Basal Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック。ヒトTリンパ球の成長および増殖用)、IMDM、MEM、DMEM、RPMI−1640等を含むが、これらに限定されない。
【0060】
培地には、インターロイキン−2(IL−2)が、本発明の目的を達成できる濃度で添加される場合がある。IL−2の濃度は、100IU/mL〜5000IU/mLの場合がある。IL−2の濃度は、2500IU/mL〜2813IU/mLの場合があってもよい。IL−2は、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。IL−2の濃度は、国内標準単位(JRU)および国際単位(IU)で示される場合がある。1IUが約0.622JRUである。
【0061】
培地には、被験者の自家血清、BioWhittaker社その他から入手可能なヒトAB型血清や、日本赤十字社から入手可能な献血ヒト血清アルブミンが添加される場合がある。自家血清およびヒトAB型血清は1〜10%の濃度で添加されることが好ましく、献血ヒト血清アルブミンは1〜10%の濃度で添加されることが好ましい。培地に含まれる血清は、ヒト血清または非ヒト動物血清であり得るが、ヒト血清アルブミンであることが好ましい。血清に替えて、コアフロント社その他から入手可能な血小板抽出物(UltraGroTM等)を用いることができる。血小板抽出物は1〜10%の濃度で添加されることが好ましい。
【0062】
培地には、NK様細胞の集団の増幅効果を損なわないことを条件として、適切なタンパク質、サイトカイン、抗体、化合物その他の成分が含まれる場合がある。サイトカインは、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−21(IL−21)、幹細胞因子(SCF)、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3L)からなる群から選択される場合がある。IL−3、IL−7、IL−12、IL−15、IL−21、SCFおよびFlt3Lは、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。
【0063】
培地は、無血清培地であることが好ましい。無血清培地は、血清アルブミン、トランスフェリン、およびインスリンを含んでいることが好ましい。リンパ球を培養するための無血清培地が開発、市販されており、本発明においてそれらを利用することができる。無血清培地の好ましい例の一つは、基礎培地に、ヒトT細胞の増殖をサポートする組成として市販されているCTS Immune Cell SR(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したものである。培地に含まれる血清アルブミンは、ヒト血清アルブミンまたは非ヒト動物血清アルブミンであり得るが、ヒト血清アルブミンであることが好ましい。
【0064】
培養は、フィーダーレス培養により行うことができる。培養にフィーダー細胞を用いると、製造された細胞の集団に感染のリスクが生じるためである。
培地の交換又は添加もしくは補充は、所望の細胞数のNK様細胞が得られることを条件として、培養開始後いつ行われてもかまわないが、3〜5日毎が好ましい。
【0065】
培養の際に用いる培養容器は、商業的に入手可能なディッシュ、培養用バッグ、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートを含むが、これらに限定されない。培養条件は、NK様細胞の増幅効果を損なわないことを条件として特に限定されないが、37℃、5%CO2および飽和水蒸気雰囲気下の培養条件が一般的である。培養期間は、NK様細胞の集団中の細胞を所望の細胞数まで増幅することを条件として、特に限定されない。培養期間は、培養条件により変化してもよい。37℃、5%CO2および飽和水蒸気雰囲気下の培養条件であれば、培養期間4〜15日間であることができる。培養期間の上限は、21日前後であることができる。
【0066】
培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+/Integrin α3+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+/Integrin α3+/Integrin α4+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+/Integrin α3+/Integrin α4+/Integrin α5+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+/Integrin α3+/Integrin α4+/Integrin α5+/ICAM-1+細胞の集団であることができる。培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-/CD11c+/CD11a+/CD18+/Integrin α1+/Integrin α3+/Integrin α4+/Integrin α5+/ICAM-1+/Integrin β1+細胞の集団であることができる。また、これらのNK様細胞の集団に含まれるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-細胞は、CD16及びCD56からなる群から選択されるいずれか又は両方が陽性であることができる。
【0067】
培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含み、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19及びCD36からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞が除去された、細胞集団であることができる。また、培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含み、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19及びCD36からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が10%未満であることができる。これらの細胞の比率は、フローサイトメトリー法により分析することができる。細胞集団中のCD3、CD4、CD8、CD14、CD19及びCD36からなる群から選択されるいずれかが陽性である細胞の比率が5%未満であることが好ましく、2%未満であることがより好ましい。細胞集団中のCCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞の比率がより高い方が、腫瘍細胞傷害活性が高いと考えられるためである。
【0068】
本発明の製造方法で得られたNK様細胞の集団は、所望のCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-NK様細胞の集団を、優先的に培養し増幅させるという意味において、濃縮NK様細胞の集団であるといえる。
【0069】
培養により得られた所定のNK様細胞の集団は、目的のNK様細胞に加えて、NK細胞前駆体、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞等を含む場合がある。培養後、目的のNK様細胞、またはその集団が、例えば比重遠心法、免疫磁気ビーズ、FACS、フローサイトメトリー等を用いて選択される場合がある。例えば、抗CD3抗体、抗CD16抗体、抗CD34抗体、抗CD36抗体、抗CD69抗体、抗CD94抗体、抗CD107a抗体、抗KIR3DL1抗体、抗KIR3DL2抗体、抗KIR2DL3抗体、抗KIR2DL1抗体、抗KIR2DS1抗体、抗KIR2DL5抗体、抗NKp46抗体、抗NKp30抗体、抗NKG2D抗体等を用いて、目的のNK様細胞の集団が選択的に分離される場合がある。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体等の場合がある。目的のNK様細胞の集団の選択は、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞その他の細胞を選択的に除去して行われる場合がある。
【0070】
[NK様細胞の集団の利用]
本発明は、NK様細胞の集団、および医薬として許容される添加物を含む、医薬組成物を提供する。医薬として許容される添加物としては、例えば等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、凍結保護剤、抗生物質等を例示できる。具体的には、水、エタノール、塩化ナトリウム、ブドウ糖、アルブミン等が挙げられる。本発明の医薬組成物に含まれるNK様細胞の集団は、上記の、本発明によって提供されるCCR5+/CCR6+/CXCR3+/CD3-NK様細胞の集団であることが好ましい。また本発明の医薬組成物に含まれる細胞集団は、腫瘍細胞傷害活性が高いNK様細胞の集団であることが好ましく、固形腫瘍に浸潤するNK様細胞の集団であることがより好ましい。
【0071】
本発明の医薬組成物は、本発明の製造方法によって製造されるNK様細胞と異なるHLA遺伝子型を有する、患者に投与される場合がある。
【0072】
医薬組成物は、典型的には、NK様細胞を溶液に懸濁した形態である。NK様細胞を懸濁するための溶液は、例えば、DMSOを含む凍結用保護液、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地、血清等が一般的である。溶液は、医薬品および医薬部外品として薬学的に許容される担体を含む場合がある。
【0073】
本発明の医薬組成物は、感染症、または癌を治療するために用いられる場合がある。本発明の医薬組成物はまた、NK様細胞に感受性を有するさまざまな疾患の治療に適用することができる。本発明の医薬組成物はまた、NK様細胞に感受性を有するさまざまな疾患の予防に適用することができる。疾患は、例えば、口腔癌、胆嚢癌、胆管癌、肺癌、肝臓癌、大腸癌、腎臓癌、膀胱癌、白血病や、ウイルス、細菌等による感染症を含むが、これらに限定されない。本発明の細胞療法は、単独か、あるいは外科療法、化学療法、放射線療法、抗体医薬品等と組み合わせて実施される場合がある。本発明の医薬組成物を用いた細胞療法において、NK様細胞は、例えば、静脈、動脈、皮下、腹腔内等へ投与される場合がある。
【0074】
本発明の医薬組成物は、IL−2製剤とともに投与することができる。IL−2製剤は、遺伝子組換え型であってもよく、テセロイキン(遺伝子組換え)であることができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、必ずしも抗体医薬品と併用しなくても、高い治療効果が期待できる。既知のNK細胞による細胞傷害の機構の一つとして、抗体依存性細胞傷害(Antibody dependent cellular cytotoxicity、ADCC)が知られている。NK細胞はその細胞表面上にFc受容体(CD16)を有するが、ADCCは、NK細胞がFc受容体を介して標的細胞に結合した抗体に結合し、標的細胞の傷害を行う機構である。ADCC活性を期待して、既知のNK細胞とCD16に親和性の高い抗体を併用する場合がある。しかしながら、本発明のNK様細胞の集団は、抗体を併用せずとも高い細胞傷害活性を有する。本発明の医薬組成物に含まれるNK様細胞の集団は、末梢血から得た実質的な培養を行なっていないNK細胞の集団と比較して腫瘍部位への上昇した走化性を持ち、さらには腫瘍塊に浸潤することが分かっている。細胞傷害アッセイでは、NK様細胞の集団と抗体を併用した系とNK様細胞の集団を単独で使用した系において、両系で高い細胞傷害活性が示されたが、有意差はなかった。これは、ADCC活性を誘発しなくとも、NK様細胞が腫瘍細胞に対し高い細胞傷害活性を有することを示している。
【0076】
本発明の医薬組成物は、抗体医薬品と併用することができる場合がある。本発明の医薬組成物と併用できる抗体の具体例としては、ibritumomabtiuxetan、iodine131、catumaxomab、blinatumomab、muromonab−CD3、abciximab、rituximab、basiliximab、infliximab、cetuximab、brentuximab、siltuximab、dinutuximab、obiltoxaximab、daclizumab、palivizumab、trastuzumab、gemtuzumab、alemtuzumab、omalizumab、efalizumab、bevacizumab、natalizumab、tocilizumab、ranibizumab、eculizumab、certolizumabpegol、mogamulizumab、pertuzumab、trastuzumab、obinutuzumab、vedolizumab、pembrolizuma、idarucizumab、mepolizumab、elotuzumab、daratumumab、ixekizumab、reslizumab、adalimumab、panitumumab、golimumab、ustekinumab、canakinumab、ofatumumab、denosumab、ipilimumab、belimumab、raxibacumab、ramucirumab、nivolumab、secukinumab、evolocumab、alirocumab、およびnecitumumabを挙げることができる。
【0077】
本発明の医薬組成物と併用することができる抗体は、CD16に親和性の高いものであることが好ましい。また、本発明の医薬組成物において、抗体の少なくとも一部は、NK様細胞に結合していてもよい場合がある。
【0078】
本発明の医薬組成物の製造は、医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則に適合した条件(good manufacturing practice、GMP)および再生医療等製品の製造管理および品質管理の基準(Good Gene, Cellular, and Tissue−based Products Manufacturing Practice、GCTP)で実施されることが好ましい。
【0079】
本発明は、固形腫瘍の治療に使用するための医薬の製造における、NK様細胞の集団の使用を提供する。本発明は、固形腫瘍の浸潤に使用するための、NK様細胞の集団を提供する。
本発明は、患者に治療的有効量のNK様細胞の集団を投与する工程を含む、患者の固形腫瘍の治療及び予防のための方法を提供する。本発明のNK様細胞の集団は、固形腫瘍の腫瘍細胞を傷害することができるため、患者の固形腫瘍の治療及び予防に有用である。
本発明は、上記治療用途又は研究用途における使用のためのキットを提供する。キットは、バック、バイアル及びチューブなど1つ又は複数の容器を含むことができる。容器は、本発明により提供される細胞集団を、任意選択により医薬として許容される添加物とともに含む医薬組成物として含むことができる。キットは、本発明により提供される細胞の集団を含む容器を、別の薬剤又は抗体医薬品との組合せで含むことができる。キットは、任意選択により、本明細書に記載する治療用途又は研究用途に関するラベル又は説明書とともに細胞集団を含む。
【0080】
本発明において、臍帯血および末梢血の全血の採取と、自家血清の調製と、全血からの単核球の調製と、該単核球の培養前後の細胞数の測定と、培養前後の単核球中のNK細胞、T細胞、造血前駆細胞その他の細胞タイプの構成比率の測定と、NK様細胞の増幅倍率の算出と、測定誤差や有意性についての統計解析とは、当業者に周知のいかなる方法を使用して実施されてもかまわない。
【0081】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
<<ケモカインレセプターの発現確認>>
健常人ボランティアの末梢血を比重遠心により分離し、末梢血単核球(以下、PBMC)を得た。PBMCから、CliniMACS CD3(ミルテニーバイオテック社, カタログ番号130-017-601)を1×107細胞あたり5μL使用してCD3陽性細胞を除去し(ここで回収した細胞を「Primary NK」と表す)、残りの細胞を培養した。培養は、細胞を5×105細胞/mLの密度でKBM-501(コージンバイオ、5% AB Serum添加)に懸濁し、6ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 140675)または、T-75フラスコ(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 156499)を用いて14日間培養(9日目に培地添加)した。この細胞集団の細胞を、「14日間培養細胞」及び「本発明の細胞」と表す。
【0083】
ケモカインレセプターの解析は、14日間培養終了後の本発明の細胞、及びコントロールとして培養前に回収した細胞である「Primary NK」を使用した。解析は、フローサイトメトリー法で行い、BD LSRFortessaTM セルアナライザー(BDバイオサイエンス社)を使用した。14日間培養細胞及びPrimary NKの蛍光標識は、各細胞を、表1に示す各抗体をPBS(和光純薬工業)に終濃度 1μg / mLに懸濁した抗体溶液中で、2〜8℃で30分間、暗所でインキュベーションすることにより行った。
【0084】
【表1】
【0085】
結果を図1Aに示した。14日間培養した本発明の細胞は、ケモカインレセプターCCR5、CCR6、及びCXCR3を強発現し、CCR2を弱発現した。CXCR1及びCXCR2は発現しなかった。
一般にCCR5、CCR6、CXCR3はMDSC(Myeloid-derived suppressor cells)やTregといった免疫抑制性の細胞集団が持ち、これらの細胞は生体内ではCold tumorと呼ばれる状態の腫瘍組織に多く存在することが知られる。本発明の細胞はこれらと同様の走化性を持つことが考えられることから、免疫治療が極めて奏功しにくいとされるCold tumorにも効率よく浸潤し、傷害が可能であることが想定される。
【0086】
<<細胞接着分子群の発現確認>>
細胞接着分子群の解析には、実施例1と同様に14日間培養した本発明の細胞、及びコントロールとしてPrimary NKを使用した。フローサイトメトリー法により解析を行った。蛍光標識に用いた抗体を表2に記載する。蛍光標識は、上記と同様の手順で行った。
【0087】
【表2】
【0088】
結果を図1Bに示した。14日間培養した本発明の細胞は、細胞接着分子ICAM1, Integrin α1, LFA-1α、Integrin β2、Integrin α3, Integrin αX, Integrin β2, PECAM-1, Integrin α5, Integrin α4およびIntegrin β1を強発現した。
腫瘍組織への浸潤には、血管外への漏出に続き間質の通過、腫瘍細胞塊への接着並びに侵入といった複数の要所での細胞同士の接着あるいは細胞外マトリックスとの接着が必要になり、本発明で得られた細胞はそのいずれをも可能とする接着分子発現パターンを有するものと考えられる。
【0089】
[実施例2]
<<CD3陽性細胞及びCD19陽性細胞の含有率>>
CD3陽性細胞及びCD19陽性細胞の含有率を解析するため、実施例1と同様に14日間培養した本発明の細胞を使用し、コントロールとしてはPBMCを使用した。蛍光標識に用いた抗体は、PE標識抗ヒトCD3抗体(Biolegend, 300408)及びPerCP-Cy5.5標識抗ヒトCD19抗体(Biolegend, 302230)である。蛍光標識は、実施例1と同様の手順で行った。
結果を図2に示す。14日間培養した本発明の細胞に含まれるCD3陽性細胞は0.025%であり、CD19陽性細胞は0.28%であった。一方で、培養をしていないPBMCに含まれるCD3陽性細胞は64.7%であり、CD19陽性細胞は8.57%であった。
【0090】
[実施例3]
<<固形腫瘍塊への浸潤確認>>
IMR32 spheroidを標的として、本発明の細胞の浸潤を観察した。
IMR32細胞(ヒトMYCN増幅神経芽腫細胞株)をトリプシンEDTAにより剥離し、RPMI(10% FBS)にて100μL中3×103細胞となるように調製し、EZ-Bind Shut II(登録商標)マイクロプレート(IWAKI, Cat. 4870-800LP)に播種し、37℃で48〜72時間培養してIMR32 spheroidを形成させた。IMR32 spheroidは、384ウェルマイクロプレート(フィルムボトム、ハイコンテントイメージング用)(CORNING, Cat. 4518)に200μLチップを用いて1ウェルあたり1個を移植し、37℃で1〜2時間程度インキュベーションして底面に接着させた。
【0091】
標的細胞の細胞傷害アッセイに用いた本発明の細胞は、実施例1に記載の方法にて誘導した。コントロールとして用いたNK細胞の集団(primary NKと表す)は健常人ボランティアの末梢血から比重遠心により分離したPBMCをEasySepTM Human NK Cell Enrichment Kit(STEMCELL Technologies, Cat. 19055)にて処理し、単離した。本発明の細胞とprimary NKは、PKH26 Red 蛍光細胞リンカーキット(一般細胞膜用)(SIGMA-ALDOLICH, Cat. PKH26GL, 以下PKH26)にて染色した。
【0092】
IMR32 spheroidを付着させた384ウェルマイクロプレートの1ウェルにつき、本発明の細胞又はprimary NKをそれぞれ1×104細胞/20μL(KBM-501, 5% AB Serum)注入し、37℃で21時間インキュベーションすることにより、IMR32 spheroidの細胞傷害アッセイを実施した。画像の記録はBZ-9000(KEYENCE)にてIMR32 spheroidに本発明の細胞、primary NK、抗GD2抗体をそれぞれアプライ後、1、6、12、18、21時間のタイムポイントで撮影し、記録した。抗GD2抗体は、dinutuximab (UnituxinTM、UnitedTherapeutics社)を使用し、終濃度10μg/mLとなるように添加した。
【0093】
結果を、図3に示した。PKH26染色した本発明の細胞が、IMR32 spheroid内部へ侵入していることがわかる。また、アッセイ開始の12時間以降で腫瘍塊が中心部を含めて崩壊し始めている。PKH26染色したprimary NKは、IMR32 spheroid表面に集まっているが、内部には侵入していない。抗GD2抗体(Unituxin(登録商標))は、Spheroidを形成したIMR32に対しては、顕微鏡下では傷害活性は観察されなかった。
【0094】
[実施例4]
<<固形腫瘍塊への傷害活性確認>>
標的のIMR32 spheroidは、実施例3に記載のとおり調製し、384ウェルマイクロプレートに付着させた。本発明の細胞及びprimary NKは、実施例3に記載のとおり調製し、PHK26染色した。IMR32 spheroidの細胞傷害アッセイは、本発明の細胞又はprimary NKのみ添加、本発明の細胞又はprimary NKと抗GD2抗体を添加、抗GD2抗体のみ添加の5群で行い、エフェクター細胞も抗GD2抗体も添加しないものを対照(コントロール)として用意した。本発明の細胞又はprimary NKは、IMR32 spheroidを付着させた384ウェルマイクロプレートの1ウェルにつき、1×104細胞/20μL(KBM-501, 5% AB Serum)を添加した。抗GD2抗体は、dinutuximab (UnituxinTM、UnitedTherapeutics社)を使用し、終濃度10μg/mLとなるようにMR32 spheroidを付着させた384ウェルマイクロプレートに添加した。細胞傷害アッセイは37℃で21時間インキュベーションすることにより行った。
【0095】
細胞傷害アッセイ後、遠心分離(500 g, 5分間, 4℃)し、上清を除去後、PBSで希釈した7-AAD溶液(Beckman Coulter, A07704)を添加、懸濁し、室温で10分間インキュベートした。フローサイトメーター(BD LSR Fortessa、BDバイオサイエンス社)を用いて測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
細胞傷害活性は、次式で計算した。なお、以下の実施例でも同様に計算した。
(エフェクター細胞とインキュベートした場合の標的細胞の細胞死−自然細胞死(陰性コントロール))/(最大細胞死(陽性コントロール)−自然細胞死(陰性コントロール))×100
【0096】
結果を図4A〜Cに示す。本発明の細胞が、抗GD2抗体の有無にかかわらず、IMR32 spheroid内部へ侵入し、中心部を含めて崩壊し始めている(図4A下段)。primary NKは、抗GD2抗体の有無に関わらずIMR32 spheroid表面に集まっているものの内部には侵入していないが、抗GD2抗体の存在下では非存在下と比較してよりIMR32 spheroidの周辺に集積していることが観察された(図4A中段)。
本発明の細胞は、抗GD2抗体の有無にかかわらず、primary NKと比較して、高い細胞傷害活性を示した(図4C)。
【0097】
[実施例5]
<<in vivo固形腫瘍モデルによる治療効果確認>>
GFP導入されたヒト卵巣がん細胞株であるSKOV3細胞を、RPMI1640で培養した。6〜7週齢のNOGマウスの腹腔内に、SKOV3細胞(GFP標識されたヒト卵巣がん細胞株、RPMI1640で培養)を1×105細胞/200μL(PBSで調製)で移植した。移植した日をday0とする。その後、day5(5日後)に本発明の細胞またはPrimary NKを2.5×106細胞/200μL(PBSで調製)で、腹腔内(i.p.)投与した。また、day5, 6, 7にはhIL-2(イムネース、シオノギ製薬株式会社)を1頭あたり5,000IU投与した。コントロール群にはday0以降、細胞およびhIL-2の投与を行わなかった。治療スケジュールを図5に示す。
【0098】
Day21にマウスを安楽死させ、解剖し、腸間膜をBZ-9000(キーエンス)により撮影し、GFP陽性領域をImageJにて定量した。撮影時には10cm dish上に腸間膜を広げ、2倍の対物レンズを使用し、全ての撮影/解析を一定条件(撮影機材、撮影面積、励起波長、露光時間、解析時のフィルタリング並びにThreshold)の下で実施した。定量化されたデータについてJMPソフトを用いて統計解析を行った。One-way ANOVA(分散分析)の後、Tukey-Kramer法(多重比較検定)を用いた。
【0099】
結果を図6A及びBに示す。無治療及びPrimary NKを投与したマウスの腸間膜には、腫瘍結節が観察されるが、本発明の細胞を投与したマウスの腸間膜では、腫瘍結節が観察されなかった。腸間膜のGFP陽性領域の全画素の総密度は、無治療のマウスが最も高く、次いでPrimary NKを投与されたマウスが高く、本発明の細胞を投与されたマウスでは低い。無治療のマウスとPrimary NKを投与されたマウスとの間に有意差がなかったが、無治療のマウス及びPrimary NKを投与されたマウスと、本発明の細胞を投与されたマウスとの間には、有意差があった(p<0.01)。これらの結果は、本発明の細胞投与により、免疫不全マウスに移植されたSKOV3細胞が消滅したことを示している。in vivo固形腫瘍モデルにおける、本発明の細胞の治療効果が確認された。
【0100】
[実施例6]
<<細胞集団の改良製造方法>>
以下のとおり、細胞を調製し、3タイプの細胞集団を作製した。
1) 以下に示す2) および3) の方法で得られる細胞を1:1で混合したもの(以下、「NK様+mono」と表す)。
2) PBMCからEasySepTM Human Monocyte Enrichment Kit WITHOUT CD16 DEPLETION(STEMCELL, Cat. 19058)を使用してCD2, CD3, CD19, CD20, CD56, CD66b, CD123, glycophorin A陽性細胞を除去後、5×105細胞/mLの密度でKBM-501(5% AB Serum)に懸濁し、Nunc Easy Flask 75 FILIT NUNCLON DSI(Thermo Fisher Scientific, Cat. 156944)もしくはNunc MULTIDISH 6 NUNCLON DELTA SI(Thermo Fisher Scientific, Cat. 140675)にて14日間培養したもの(以下、「濃縮mono」と表す)。
【0101】
3) PBMCからEasySepTM Human NK Cell Enrichment Kit(STEMCELL, Cat. 19055)を使用してCD3, CD4, CD14, CD19, CD20, CD36, CD66b, CD123, HLA-DR, glycophorin A陽性細胞を除去後、5×105細胞/mLの密度でKBM-501(5% AB Serum)に懸濁し、Nunc Easy Flask 75 FILIT NUNCLON DSI(Thermo Fisher Scientific, Cat. 156944)もしくはNunc MULTIDISH 6 NUNCLON DELTA SI(Thermo Fisher Scientific, Cat. 140675)にて14日間培養したもの(以下、「濃縮NK様」と表す)。
【0102】
培養開始後10日目の細胞の写真を図7に示す。濃縮Mono群以外の2群では典型的な活性化リンパ球様の形態をした細胞が多数確認される。濃縮Mono群については大型で接着の強い骨髄球系の細胞が多数確認されるが、浮遊した比較的小型の細胞も確認できる。いずれも培養コンディションは良好であり、KBM-501中での増殖が適切に行われており、目立ったアポトーシスは見受けられない。
【0103】
<<傷害活性測定、CD107a陽性率測定>>
K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細胞株)を10%FBS(ニチレイバイオサイエンス, 171012-500ML)および100ユニットのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン(ナカライテスク, 26253-84)を含むRPMI1640培地(和光純薬工業, 189-02025)(以下、10%FBS/RPMI1640とする)にて1×106細胞/mLの濃度に調製した。調製したK562細胞に、PKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit(Sigma)を用いて染色し、2×106細胞/mLとなるように調製した。
【0104】
上記の3タイプの細胞集団(NK様+mono、濃縮NK様、濃縮mono)のいずれか1タイプとK562細胞の群、上記の3タイプの細胞集団(NK様+mono、濃縮NK様、濃縮mono)のいずれか1タイプのみの群、陰性コントロールとしてK562細胞のみの群、陽性コントロールとしてK562細胞を10%ホルマリンで固定した群を用意した。
【0105】
上記の3タイプの細胞集団(NK様+mono、濃縮NK様、濃縮mono)のいずれか1タイプとK562細胞とは細胞数比で1:1となるように96ウェルプレートに添加後、混合し、37℃で2時間反応させた。手順としては、初めにK562細胞をプレートに添加し、次に200μg/mLのAPC標識抗ヒトCD107a抗体※(Biolegend, 328620)を終濃度1μg/mLとなるように添加し、最後に上記の3種類の細胞集団(NK様+mono、濃縮NK様、濃縮mono)を添加した。培養後、遠心分離(500 g, 5分間, 4℃)し、上清を除去後、PBSで希釈した7-AAD溶液(Beckman Coulter, A07704)を添加、懸濁し、室温で10分間インキュベートした後に洗浄した。フローサイトメーター(BD LSR Fortessa、BDバイオサイエンス社)を用いて測定を行い、FlowJoソフトウェアで解析した。
結果を、図8A及びBに示す。NK様+mono細胞集団及び濃縮NK様細胞集団が、高い細胞傷害活性を示した。
※:CD107aはNK細胞内顆粒に存在し、脱顆粒(パーフォリン、グランザイム放出)時に細胞膜表面上に移行するので、CD107aが陽性であるということは、対象をNKが攻撃したことを間接的に示す。
【0106】
<<ケモカインレセプターの発現確認>>
本実施例の改良製造方法(濃縮NK様細胞集団、及びNK様+mono細胞集団を材料とする製造方法)で作成したNK様細胞における、ケモカインレセプターCCR4、CCR5、CCR6、CXCR3及びCXCR4の発現について、実施例1に記載の手順で実験を行った。
結果を図9に示す。本実施例の改良製造方法により、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性の細胞を含む細胞集団を得ることができた。また、ドナーにより、CCR6の発現性が異なる場合があることが分かった。
【要約】
【課題】細胞傷害活性がより高い免疫細胞を提供する。高い効果の期待できるNK細胞療法のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を含む、細胞集団を提供する。本発明は、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞が、更にCD11c高発現性である、細胞集団を提供する。本発明は、固形腫瘍に浸潤している、CCR5陽性、CCR6陽性及びCXCR3陽性であり且つCD3陰性である細胞を提供する。本発明はまた、このような細胞集団および医薬として許容される添加物を含む、医薬組成物を提供する。
【選択図】図3
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9