特許第6543428号(P6543428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6543428-二次電池用負極活物質および二次電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6543428
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】二次電池用負極活物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20190628BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 D
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-502114(P2019-502114)
(86)(22)【出願日】2018年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2018029761
【審査請求日】2019年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-153044(P2017-153044)
(32)【優先日】2017年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】汪 旭
(72)【発明者】
【氏名】井門 文香
(72)【発明者】
【氏名】利根川 明央
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 安顕
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−069039(JP,A)
【文献】 特開2012−084519(JP,A)
【文献】 特開2015−064936(JP,A)
【文献】 特開2015−185445(JP,A)
【文献】 特開2012−216537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(6)を満たす、二次電池用負極活物質。
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状(lump)人造黒鉛Bとを含む。
(2)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満である。
(3)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下である。
(4)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下である。
(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である。
(6)50%径D50(A)が20μm以下であり、50%径D50(B)が35μm以下である。
【請求項2】
下記(1)〜(5)および(7)を満たす、二次電池用負極活物質。
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状(lump)人造黒鉛Bとを含む。
(2)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満である。
(3)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下である。
(4)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下である。
(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である。
(7)負極活物質のLcが30nm以上であり、負極活物質のI(110)/I(004)が0.06〜0.35であり、負極活物質のBET比表面積が1.6〜10.0m2/gであり、負極活物質の表面粗さRが4.0〜6.4であり、且つ負極活物質の体積基準粒度分布における50%径D50が8.0〜30.0μmである。
【請求項3】
鱗片状人造黒鉛AのLcが100nm超過300nm未満であり、塊状人造黒鉛BのLcが50nm超過85nm未満である、請求項1または2に記載の負極活物質。
【請求項4】
鱗片状人造黒鉛Aのアスペクト比が1.50超過、塊状人造黒鉛Bのアスペクト比が1.00〜1.50である、請求項1〜3のいずれかひとつに記載の負極活物質。
【請求項5】
鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)が0.10以下であり、塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)が0.30以上である、請求項1〜4のいずれかひとつに記載の負極活物質。
【請求項6】
鱗片状人造黒鉛AのBET比表面積が1.0〜7.0m2/gであり、塊状人造黒鉛BのBET比表面積が1.5〜10.0m2/gである、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の負極活物質。
【請求項7】
下記(1)〜(6)を満たす、二次電池用負極活物質の製造方法。
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとを混合することを含む。
(2)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下である。
(3)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下である。
(4)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満である。
(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である。
(6)50%径D50(A)が20μm以下であり、50%径D50(B)が35μm以下である。
【請求項8】
鱗片状人造黒鉛AのLcが100nm超過300nm未満であり、塊状人造黒鉛BのLcが50nm超過85nm未満である、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
鱗片状人造黒鉛Aのアスペクト比が1.50超過であり、塊状人造黒鉛Bのアスペクト比が1.00〜1.50である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)が0.10以下であり、塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)が0.30以上である、請求項7〜9のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項11】
鱗片状人造黒鉛AのBET比表面積が1.0〜7.0m2/gであり、鱗片状人造黒鉛BのBET比表面積が1.5〜10.0m2/gである、請求項10のいずれかひとつに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の二次電池用負極活物質を含む電池電極用炭素材料。
【請求項13】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の二次電池用負極活物質を含む電極。
【請求項14】
請求項13に記載の電極を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流負荷特性および直流抵抗特性に優れた二次電池を提供するために好適な負極活物質および該負極活物質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質にコバルト酸リチウムなどのリチウム塩が使用され、負極活物質に黒鉛などの炭素質材料が使用されている。黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛とがある。しかし、天然黒鉛または人造黒鉛からなる従来の負極活物質を使用した二次電池は、充放電レートが低かったり、レート特性が低かったりするので、近年強く求められている大電流負荷特性および直流抵抗特性を満足することができない。
【0003】
天然黒鉛は安価に入手できるという利点がある。しかし、天然黒鉛の表面がアクティブであるために初回充電時にガスが多量に発生し、初期効率が低く、さらに、サイクル特性も良くなかった。また、天然黒鉛は鱗片形状であるので電極に加工した場合一方向に配向してしまう。そのような電極を充電すると電極が一方向にのみ膨張し、性能を低下させる。また、充放電レートも低くなる。
【0004】
人造黒鉛も比較的安価に入手できる。人造黒鉛の代表例として、石油ピッチ、石炭ピッチ、石油コークス、石炭コークスの黒鉛化品を挙げることができる。しかし、人造黒鉛のひとつである高結晶性針状コークスからなる人造黒鉛は鱗片状になり配向しやすい。そのため、レート特性が低くなる。
【0005】
このような技術背景において、様々な二次電池用負極材が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1は、広角X線回折法による(002)面の面間隔(d002)が0.337nm未満、結晶子サイズ(Lc)が90nm以上、アルゴンイオンレーザーラマ ンスペクトルにおける1580cm-1 のピーク強度に対する1360cm-1 のピーク強度比であるR値が0.20以上、かつタップ密度が0.75g/cm3 以上であることを特徴とする電極用炭素材料を開示している。この電極用炭素材料は、処理前後の平均粒径比が1以下になるように粒径を減じ、かつ、処理によりタップ密度を高め、かつ、アルゴンイオンレーザラマンスペクトルにおける、1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比であるR値が処理により1.5倍以上となるような力学的エネルギー処理を行うことを特徴とする製造方法で得られるようである。
【0007】
特許文献2は、リチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズなどの球状カーボン材に担持させたことを特徴とするリチウム二次電池用負極体を開示している。
【0008】
特許文献3は、リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであり、かつ、そのアスペクト比が1.2〜5であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子を開示している。
【0009】
特許文献4は、X線回折法により求めた(002)面の平均面間隔が0.365nm以上の炭素質材料であり、該炭素質材料をH2 OとN2 の等モル混合ガス気流中で900℃において重量減少が60%になるまで反応させた後に残る炭素質物質のX線回折法により求めた(002)面の平均面間隔が0.350nm以下を示すことを特徴とする非水溶媒系二次電池電極用炭素質材料を開示している。
【0010】
特許文献5は、負極集電体と、前記負極集電体上に設けられた負極活物質層とを備え、前記負極活物質層は、ニードルコークスを黒鉛化することにより形成した鱗片状黒鉛と、コークスを黒鉛化することにより形成した粒状黒鉛と、バインダーとを含むことを特徴とする非水電解液二次電池用負極を開示している。
【0011】
特許文献6は、粒状黒鉛を核材とし、該核材の表面の全部または一部に鱗片状黒鉛が付着している黒鉛と、鱗片状黒鉛の集合物および/ または粒状黒鉛とが混合されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料を開示している。
【0012】
特許文献7は、粒子の短径に対する長径の長さの比であるアスペクト比が5以下である炭素材料Aと粒子の短径に対する長径の長さの比であるアスペクト比が6以上且つ80%粒子径(d80)が炭素材料Aの平均粒子径(d50)の1.7倍以上である鱗片状黒鉛Bとが含有されてなる非水系二次電池用負極材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−340232号公報
【特許文献2】特開平4−190555号公報
【特許文献3】特開2002−050346号公報
【特許文献4】特開平7−320740号公報
【特許文献5】特開2012−129167号公報
【特許文献6】特開2004−127723号公報
【特許文献7】特開2012−216532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の材料は、モバイル用途で電池を使用する場合の低電流密度での電気容量や中期サイクル特性については対応可能であるが、大型電池用途で使用する場合の大電流密度での電気容量や、長期サイクル特性に対応することは非常に難しい。特許文献5に記載の負極は、電極の空隙が低減されるため、充放電時の電解液の拡散が遅くなり、充電特性が低い。特許文献6に記載の負極材料は、鱗片状粒子が粒状核材に付着することにより充電特性が改善できるが、サイクル特性が低い。特許文献7の負極材料は、サイクル特性が低い。
【0015】
本発明は、高容量で大電流密度での充電レート特性と高温保存後の容量維持率に優れた二次電池を提供するために有用な負極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は下記の実施態様を含む。
[1] 下記(1)〜(5)を満たす、二次電池用負極活物質。
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状(lump)人造黒鉛Bとを含む。
(2)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満である。
(3)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下である。
(4)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下である。
(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である。
【0017】
[2] 鱗片状人造黒鉛AのLcが100nm超過300nm未満であり、塊状人造黒鉛BのLcが50nm超過85nm未満である、[1]に記載の負極活物質。
[3] 50%径D50(A)が20μm以下であり、50%径D50(B)が35μm以下である、[1]または[2]に記載の負極活物質。
[4] 鱗片状人造黒鉛Aのアスペクト比が1.50超過、塊状人造黒鉛Bのアスペクト比が1.00〜1.50である、[1]〜[3]のいずれかひとつに記載の負極活物質。
[5] 鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)が0.10以下であり、塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)が0.30以上である、[1]〜[4]のいずれかひとつに記載の負極活物質。
[6] 鱗片状人造黒鉛AのBET比表面積が1.0〜7.0m2/gであり、塊状人造黒鉛BのBET比表面積が1.5〜10.0m2/gである、[1]〜[5]のいずれかひとつに記載の負極活物質。
[7] 負極活物質のLcが30nm以上であり、負極活物質のI(110)/I(004)が0.06〜0.35であり、負極活物質のBET比表面積が1.6〜10.0m2/gであり、負極活物質の表面粗さRが4.0〜6.4であり、且つ負極活物質の体積基準粒度分布における50%径D50が8.0〜30.0μmである、[1]〜[6]のいずれかひとつに記載の負極活物質。
【0018】
[8] 下記(1)〜(5)を満たす、二次電池用負極活物質の製造方法。
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとを混合することを含む。
(2)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下である。
(3)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下である。
(4)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満である。
(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である。
【0019】
[9] 鱗片状人造黒鉛AのLcが100nm超過300nm未満であり、塊状人造黒鉛BのLcが50nm超過85nm未満である、[8]に記載の製造方法。
[10] 50%径D50(A)が20μm以下であり、50%径D50(B)が35μm以下である、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11] 鱗片状人造黒鉛Aのアスペクト比が1.50超過であり、塊状人造黒鉛Bのアスペクト比が1.00〜1.50である、[8]〜[10]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[12] 鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)が0.10以下であり、塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)が0.30以上である、[8]〜[11]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[13] 鱗片状人造黒鉛AのBET比表面積が1.0〜7.0m2/gであり、鱗片状人造黒鉛BのBET比表面積が1.5〜10.0m2/gである、[8]〜[12]のいずれかひとつに記載の製造方法。
【0020】
[14] 前記[1]〜[7]のいずれかひとつに記載の二次電池用負極活物質を含む電池電極用炭素材料。
[15] 前記[1]〜[7]のいずれかひとつに記載の二次電池用負極活物質を含む電極。
[16] 前記[15]に記載の電極を含む二次電池。
[17] 前記[15]に記載の電極を含む全固体二次電池。
【発明の効果】
【0021】
高容量で大電流密度での充放電特性と高温保存後の容量維持率に優れた二次電池を提供するために有用な負極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施態様の負極活物質を使用した電極の断面像の一例を示す図である。鱗片状人造黒鉛Aの一部を点線で囲んで示した。塊状人造黒鉛Bの一部を実線で囲んで示した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(二次電池用負極活物質)
本発明の実施態様にかかる負極活物質は鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとを含有するものである。
【0024】
[鱗片状人造黒鉛A]
本発明に用いられる鱗片状人造黒鉛Aは、鱗片状粒子を成している。本発明において、鱗片状粒子は、アスペクト比が、大きい粒子、好ましくは1.50を超える粒子である。鱗片状人造黒鉛Aのアスペクト比は、より好ましくは1.55以上、さらに好ましくは1.58以上である。
なお、アスペクト比の測定は次のような方法で行う。電子顕微鏡で写真撮影し、任意に選んだ領域内の20個の粒子について、それぞれの粒子の最長径をx(μm)、最短径をy(μm)としてx/y値を求め、20個の粒子のx/y値の平均値をアスペクト比とする。
【0025】
本発明に用いられる鱗片状人造黒鉛Aは、C軸方向の結晶サイズLcが、好ましくは100nm超過300nm未満、より好ましくは120nm超過270nm未満、さらに好ましくは140nm超過250nm未満である。Lcがこの範囲内にある鱗片状人造黒鉛Aは二次電池の電気容量の向上に大きく寄与する。
なお、C軸方向の結晶サイズLcは、粉末X線回折(XRD)法を用いて測定される(002)に由来するピークに基いて算出することができる。詳細は、日本学術振興会,第117委員会資料,117−71−A−1(1963)、日本学術振興会,第117委員会資料,117−121−C−5(1972)、「炭素」,1963,No.36,25−34頁に記載されている。
【0026】
鱗片状人造黒鉛Aは、50%径D50(A)が、好ましくは20μm以下、より好ましくは0.5μm〜20μm、さらに好ましくは3μm〜18μm、最も好ましくは5μm〜15μmである。
なお、50%径D50(A)は、溶媒中に黒鉛を分散させ、それをレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて得られる体積基準粒度分布から決定することができる。
【0027】
鱗片状人造黒鉛AのBET比表面積(SBET)は、好ましくは1.0〜7.0m2/g、より好ましくは1.5〜5.0m2/g、さらに好ましくは2.0〜3.0m2/gである。1.0m2/g以上の場合、初回充放電時の副反応の発生量が抑えられ初回クーロン効率のよい電池が得られる。7.0m2/g以下の場合、リチウムイオンの吸蔵・放出反応が阻害されづらく入出力特性に優れた電池が得られる。
なお、BET比表面積SBETは、窒素ガス吸着法を用いた比表面積計(例えば、ユアサアイオニクス製NOVA−1200)を用いて決定することできる。
【0028】
鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRは、好ましくは2.8〜5.1、より好ましくは3.0〜4.8、さらに好ましくは3.0〜4.0である。
なお、表面粗さRは、次の式によって定義される値である。
R=SBET/SD
ここで、SDは、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、マルバーン製マスターサイザー)を用いて得られる粒度分布のデータに基づいて次式によって算出することができる。
【0029】

iは粒径区分i(平均径di)の相対体積、ρは粒子密度、Dは粒径を、それぞれ表す。
【0030】
鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)は、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.03以下である。鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)が0.10以下であると塊状人造黒鉛Bと混合して得られる電極を適切な密度に調整しやすい傾向がある。
【0031】
本発明に用いられる鱗片状人造黒鉛Aは、市販の人造黒鉛から所定の物性値を有する人造黒鉛を選択してもよいし、市販のニードルコークスを黒鉛化することで製造してもよい。例えば、ニードルコークスを焼成し、所定の粒径になるように粉砕および分級し、2900℃以上で黒鉛化することで製造可能である。この場合には、結晶構造および表面粗さが所定の範囲となるようなニードルコークスを選定し、黒鉛化温度を調整することで、所定の物性値を有する鱗片状人造黒鉛Aを製造することが可能である。人造黒鉛のうちコークスを原料として粉砕、黒鉛化処理により得られた1次粒子からなる人造黒鉛は中実構造であることから、サイクル特性、高温保存特性に優れ好ましい。
【0032】
[塊状人造黒鉛B]
本発明に用いられる塊状人造黒鉛Bは、塊状粒子を成している。本発明において、塊状粒子は、アスペクト比が、1に近い粒子、好ましくは1.00以上1.50以下の粒子である。塊状人造黒鉛Bのアスペクト比は、より好ましくは1.20以上1.45以下、さらに好ましくは1.30以上1.43以下である。
【0033】
本発明に用いられる塊状人造黒鉛Bは、C軸方向の結晶サイズLcが、好ましくは50nm超過85nm未満、より好ましくは55nm超過80nm未満、さらに好ましくは60nm超過80nm未満である。Lcがこの範囲内にある塊状人造黒鉛Bは二次電池の大電流特性の向上に大きく寄与する。
【0034】
塊状人造黒鉛Bの50%径D50(B)は、好ましくは35μm以下、より好ましくは0.5μm〜35μm、さらに好ましくは5μm〜30μm、最も好ましくは10μm〜26μmである。50%径D50(B)は、50%径D50(A)と同じ方法で決定することができる。
【0035】
塊状人造黒鉛BのBET比表面積(SBET)は1.5〜10.0m2/gであることが好ましく、2.0〜5.0m2/gであることがさらに好ましく2.5〜4.0m2/gであることが最も好ましい。1.5m2/g以上の場合、初回充放電時の副反応の発生量が抑えられ初回クーロン効率のよい電池が得られる。10.0m2/g以下の場合、リチウムイオンの吸蔵・放出反応が阻害されづらく入出力特性に優れた電池が得られる。
【0036】
塊状人造黒鉛Bの表面粗さRは、好ましくは6.0〜9.0、より好ましくは6.5〜8.5、さらに好ましくは6.8〜8.2である。表面粗さRがこの範囲であると、電解液と接触する面積が大きくなり、リチウムがスムーズに挿入脱離され、電池の反応抵抗を小さくすることができる。
【0037】
塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.45以上、さらに好ましくは0.55以上である。塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)が0.30以上であると、電極集電体に対する配向が抑えられるため、Liの挿入が起こり易く入出力特性が優れ、また電極の膨張の抑えられた電池を得やすい傾向がある。
【0038】
本発明に用いられる塊状人造黒鉛Bは、市販の人造黒鉛から所定の物性値を有する人造黒鉛を選択してもよいし、市販のショットコークスを黒鉛化することで製造してもよい。例えば、ショットコークスを焼成し、所定の粒径およびアスペクト比になるように粉砕および分級し、2900℃以上で黒鉛化をすることで製造可能である。この場合には、結晶構造および表面粗さが所定の範囲となるようなショットコークスを選定し、黒鉛化温度を調整することで、所定の物性値を有する塊状人造黒鉛Bを製造することが可能である。人造黒鉛のうちコークスを原料として粉砕、黒鉛化処理により得られた1次粒子からなる人造黒鉛は中実構造であることから、サイクル特性、高温保存特性に優れ好ましい。
【0039】
本発明の負極活物質は、塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が、0.6超過1.0未満、好ましくは0.65超過0.90未満、より好ましくは0.65超過0.70未満である。
塊状人造黒鉛Bは形が円形または楕円形である。D50(A)/D50(B)が上記範囲内である塊状人造黒鉛Bと鱗片状人造黒鉛Aとを混ぜ合わせたときに鱗片状人造黒鉛Aの配向方向がランダムになる。その結果、充電特性が向上する。
【0040】
本発明の負極活物質は、鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が、0.03以上0.30以下、好ましくは0.05以上0.25以下である。この範囲であると、鱗片状人造黒鉛Aによる電気容量向上への寄与および塊状人造黒鉛Bによる大電流特性向上への寄与が大きい。
【0041】
本発明の負極活物質を用いて得られる負電極層は、例えば、図1に示すように、鱗片状人造黒鉛A(点線で囲まれた部分)が塊状人造黒鉛B(実線で囲まれ部分)に寄り掛かかった電極構造を成している。鱗片状人造黒鉛Aの配向性が下がり、充レート電特性が向上する。
【0042】
本発明の負極活物質は、I(110)/I(004)が、好ましくは0.06〜0.35、より好ましくは0.08〜0.32、さらに好ましくは0.10〜0.30である。
(110)/I(004)は、X線回折法で測定される(004)に由来するピークの強度に対する(110)に由来するピークの強度の比である。I(110)/I(004)は、配向性の指標である。I(110)/I(004)が小さいほど配向性が大きいことを示し、I(110)/I(004)が大きいほど配向性が小さいことを示す。
また、本発明の負極活物質のI(110)/I(004)は、鱗片状人造黒鉛AのI(110)/I(004)と塊状人造黒鉛BのI(110)/I(004)との算術平均値よりも大きい。
【0043】
本発明の負極活物質は、Lcが、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上である。Lcが大きいほど混合負極活物質に蓄えられる電気容量が大きい。
【0044】
本発明の負極活物質のBET比表面積は、下限が、好ましくは1.6m2/g、より好ましくは1.8m2/g、さらに好ましくは2.0m2/gであり、上限が、好ましくは10.0m2/g、より好ましくは5.0m2/g、さらに好ましくは3.0m2/gである。負極活物質のBET比表面積が1.6m2/g以上の場合、リチウムイオンの吸蔵・放出反応が阻害されづらく入出力特性に優れた電池が得られる。負極活物質のBET比表面積が10.0m2/g以下の場合、初回充放電時の副反応の発生量が抑えられ初回クーロン効率のよい電池が得られる。
【0045】
本発明の負極活物質の表面粗さRは、下限が、好ましくは4.0、より好ましくは4.1、さらに好ましくは4.2であり、上限が、好ましくは6.4、より好ましくは6.0、さらに好ましくは5.0である。負極活物質の表面粗さRが4.0以上であると、電解液と接触する面積が大きく、リチウムがスムーズに挿入脱離され、電池の反応抵抗を小さい傾向がある。負極活物質の表面粗さRが6.4以下であると、副反応が抑えられるため初期効率を大きい傾向がある。
【0046】
本発明の負極活物質の体積基準粒度分布における50%径D50は、下限が、好ましくは8.0μm、より好ましくは10.0μm、さらに好ましくは12.0μmであり、上限が、好ましくは30.0μm、より好ましくは28.0μm、さらに好ましくは25.0μmである。負極活物質の50%径D50が8.0μm以上の場合、初回充放電時の副反応の発生量が抑えられ、初回クーロン効率のよい電池を得易い傾向がある。負極活物質の50%径D50が30.0μm以下の場合、リチウムイオンの吸蔵・放出反応が阻害されづらく入出力特性に優れた電池を得やすい傾向がある。
【0047】
(二次電池用負極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係る負極活物質の製造方法は、前述の物性を有する、鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとを、前述の質量比B/(A+B)の範囲内において、混合することを含む。混合は、鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとが均一な状態になるまで行う。混合には、市販の混合機、攪拌機、ミキサーを用いることができる。混合するための装置としては、例えば、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ワンブレードミキサー、マルチパーパスミキサーなどを挙げることができる。
【0048】
(電池電極用炭素材料)
本発明の実施形態に係る電池電極用炭素材料は、本発明の負極活物質を含んでなる。本発明の電池電極用炭素材料は、本発明の負極活物質と他の電極用材料とを混ぜ合わせたものであってもよいが、本発明の負極活物質のみからなるものであることが好ましい。本発明の電池電極用炭素材料を用いて得られる二次電池は、高容量、高クーロン効率、および高温保存後の良好な容量保持特性が維持されたまま、改善された充放電レートおよび低減された直流抵抗を奏する。
【0049】
(電極用ペーストまたはスラリー)
本発明の好ましい実施態様における電極用ペーストまたはスラリーは、本発明の電池電極用炭素材料とバインダーとを含んでなる。電極用ペーストまたはスラリーは、本発明の電池電極用炭素材料とバインダーと溶媒を混練することによって得られる。
【0050】
電極用ペーストまたはスラリーに用いることができるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、SBR(スチレンブタジエンラバー)等のゴム系等公知のものが挙げられる。
バインダーの量は、塗布方法に応じて適宜設定することができる。例えば、バインダーの量は、本発明の電池電極用炭素材料100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部である。
電極用ペーストまたはスラリーに用いることができる溶媒は、バインダーのタイプに応じて適宜選択することができる。例えば、フッ素系ポリマーの場合はトルエン、N−メチルピロリドン等を用いることができる。SBRの場合は水等を用いることができる。その他の溶媒としてジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量は集電体に塗布しやすい粘度となるように適宜設定することができる。
混練には、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等公知の装置を使用することができる。電極用ペーストまたはスラリーは、シート状、ペレット状等の形状に成形することができる。
【0051】
(電極)
本発明の好ましい実施態様における電極は、本発明の電池電極用炭素材料と前記バインダーとを含有するものである。電極は、例えば、前記電極用ペーストまたはスラリーを集電体上に塗布し、乾燥し、加圧成形することによって得られる。
【0052】
集電体としては、例えばアルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス等の箔、メッシュなどが挙げられる。ペーストまたはスラリーの塗布厚は、通常、50〜200μmである。塗布厚が大きくなりすぎると、規格化された電池容器に負極を収容できなくなることがある。ペーストまたはスラリーの塗布方法は特に制限されず、例えばドクターブレードやバーコーターなどで塗布後、ロールプレス等で成形する方法等が挙げられる。
【0053】
加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧等を挙げることができる。加圧成形するときの圧力は1〜3t/cm2程度が好ましい。電極密度が高くなるほど体積あたりの電池容量が通常大きい傾向がある。しかし電極密度を高くしすぎるとサイクル特性が通常低下する傾向がある。本発明の好ましい実施態様における電極用ペーストを用いると電極密度を高くしてもサイクル特性の低下が小さいので、高い電極密度の電極を得ることができる。この電極用ペーストを用いて得られる電極の密度の最大値は、通常1.7〜1.9g/cm3である。このようにして得られた電極は、電池の負極、特に二次電池の負極に好適である。
【0054】
(6)電池、二次電池、全固体二次電池
前記電極を、構成要素(好ましくは負極)として、電池、二次電池または全固体二次電池に組み込むことができる。
リチウムイオン二次電池を具体例に挙げて本発明の好ましい実施態様における電池または二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解液または電解質の中に浸漬された構造をしたものである。負極には本発明の好ましい実施態様における電極が用いられる。
【0055】
リチウムイオン二次電池の正極には、公知の正極活物質が採用可能である。たとえば、リチウム含有遷移金属酸化物が採用可能であり、好ましくはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属元素のモル比が0.3〜2.2の化合物が採用可能である。
【0056】
リチウムイオン二次電池では正極と負極との間にセパレータを設けることがある。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものなどを挙げることができる。
電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用可能である。
【実施例】
【0057】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。 なお、実施例及び比較例では、Lc、D50、表面粗さR、BET比表面積、アスペクト比等の測定は、既に述べたとおりの方法によって行った。なお、D50はマルバーン製マスターサイザーを使用して測定した。BET比表面積は、ユアサアイオニクス製NOVA−1200を使用して測定した。また、電池特性の測定は以下の通りの方法で行った。
【0058】
<I(110)/I(004)
炭素粉末試料をガラス製試料板(試料板窓18×20mm、深さ0.2mm)に充填し、以下のような条件でXRD測定を行った。
XRD装置:Rigaku製SmartLab
X線種:Cu−Kα線
Kβ線除去方法:Niフィルター
X線出力:45kV、200mA
測定範囲:5.0〜10.0deg.
スキャンスピード:10.0deg./min.
得られた波形に対し、平滑化、バックグラウンド除去、Kα2除去を行い、プロファイルフィッティングを行った。その結果得られた(004)面のピーク強度I(004)と(110)面のピーク強度I(110)から配向性の指標となる強度比I(110)/I(004)を算出した。なお、各面のピークは以下の範囲のうち最大の強度のものをそれぞれのピークとして選択した。
(004)面:54.0〜55.0deg.
(110)面:76.5〜78.0deg
【0059】
1.コイン電池評価方法
a)ペースト作製:
負極活物質96.5質量部に昭和電工株式会社製Polysol(登録商標)を24.0質量部加え、プラネタリーミキサーにて混練し、主剤原液とした。
【0060】
b)電極作製:
主剤原液に水を加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上にドクターブレードを用いて150μm厚に塗布した。これを70℃で1時間真空乾燥させた。16mmφの大きさで打ち抜いて電極片を得た。該電極片を超鋼製プレス板で挟み、電極に対する圧力が約1×102〜3×102N/mm2(1×103〜3×103kg/cm2)となるようにプレスした。その後、120℃で12時間真空乾燥させて、評価用電極を得た。
【0061】
c)電池作製:
下記のようにして対極リチウムセルを作製した。なお以下の操作は露点−80℃以下の乾燥アルゴン雰囲気下で実施した。
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのコインセル(内径約18mm)内において、上記b)で作製した評価用電極とセパレータ(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム(セルガード2400))と金属リチウム箔をこの順で重ね合わせた。これに下記電解液を注加して試験用セルを得た。
【0062】
d)電解液:
EC(エチレンカーボネート)8質量部及びDEC(ジエチルカーボネート)12質量部の混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットル溶解させた。
【0063】
e)初期効率の測定試験:
先ず、レストポテンシャルから0.002Vまでを0.2mA/cm2(0.05C)でのCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。0.002Vに達した後、0.002VでのCV(コンスタントボルト:定電圧)充電を行った。電流値が25.4μAに低下した時点で充電を止めた。
次に、電流密度0.2mA/cm2(0.05C)で1.5Vまで定電流放電を行った。
これら充電と放電を25℃に設定した恒温槽内で行った。放電容量と充電容量の比率から初期効率を算出した。
【0064】
f)電気容量および大電流レート特性の測定試験:
先ず、レストポテンシャルから0.002Vまでを0.2mA/cm2(0.05C)でのCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。0.002Vに達した後、0.002VでのCV(コンスタントボルト:定電圧)充電を行った。電流値が25.4μAに低下した時点で充電を止めた。
次に、電流密度0.2mA/cm2(0.05C)で1.5Vまで定電流放電を行った。
これら充電および放電を25℃に設定した恒温槽内で行った。
電気容量は、0.2mA/cm2(0.05C)での充電電気量を単位面積当たりの活物質量で除して算出した。
【0065】
CC(コンスタントカレント:定電流)充電を2.0mA/cm2(0.5C)または3.2mA/cm2(0.8C)に変えた以外は上記と同じ方法で充電と放電を行った。2.0mA/cm2(0.5C)または3.2mA/cm2(0.8C)での充電電気量を0.2mA/cm2(0.05C)での充電電気量で除して大電流レート特性を算出した。
【0066】
2.ラミネートセル電池評価方法
a)負極のプレス
上記1.で作製した評価用電極を、約18時間後の電極密度が1.70g/cm3になるように、一軸プレス機によって、プレスして、負極を得た。プレス後、負極を、70℃で1時間真空乾燥させた。
【0067】
b)正極の作製
正極活物質としてコバルト酸リチウム(平均粒径5μm)97.5質量部、気相法炭素繊維(昭和電工製、VGCF(登録商標)−H)0.5質量部、カーボンブラック(イメリス・ジーシー・ジャパン製、C45)2.0質量部、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.0質量部をN−メチルピロリドンに分散させてペーストを得た。このペーストを塗布量19.2mg/cm2でアルミニウム箔上に塗工して正極極板を得た。正極極板を70℃で1時間真空乾燥させた。次に、正極極板を電極密度が3.55g/cm3となるようにロールプレス機でプレスして正極を得た。
【0068】
c)電池の作製
上記2.a)で作成した負極と、上記2.b)で作成した正極と、ポリプロピレン製セパレータとを用い、単層ラミネートセルを作製した。電解液には炭酸エチル、炭酸エチルメチル、炭酸ビニレンを30:70:1の体積比率で混合した溶媒にLiPF6を1mol/L溶解したものを使用した。
【0069】
)二極セルの容量測定:
セルを上限電圧4.15V、カットオフ電流値2.5mAとしてCC、CVモードにより0.2C(0.2C=0.25mA/cm2)で充電し、下限電圧2.8VでCCモードにより0.2C放電を行った。上記操作を計4回繰り返し、4回目の放電容量を二極セルの基準容量とした。試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。
【0070】
d)直流抵抗の測定
上記2.c)で作製した単層ラミネートセルに、50%充電状態において、異なる電流値の電流を流し、その電圧変化をオームの法則に従ってプロットして直流抵抗の値を算出した。
【0071】
e)高温保存特性の測定
上記2.c)で作製した単層ラミネートセルを上限電圧4.15V、カットオフ電流値2.5mAとしてCC、CVモードにより0.2C(0.2C=0.25mA/cm2)で充電した。充電したセルを60℃に設定した恒温槽で4週間静置後、下限電圧2.8VでCCモードにより0.2C放電し、容量を測定した。このときの容量を保存容量とした。保存容量を基準容量で除することにより、高温保存容量維持率(%)を算出した。
【0072】
(人造黒鉛1)
ニードルコークスを1100℃で焼成した後、ACM粉砕機(ホソカワミクロン社製)で20分間粉砕して分級し、さらに3300℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0073】
(人造黒鉛2)
ショットコークスを1000℃で焼成した後、ACM粉砕機で15分間粉砕して分級し、さらに3000℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0074】
(人造黒鉛3)
ニードルコークスを1000℃で焼成した後、ACM粉砕機で20分間粉砕して分級し、さらに3000℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0075】
(人造黒鉛4)
ショットコークスを1000℃で焼成した後、ジェットミル粉砕機で20分間粉砕して分級し、さらに3000℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0076】
(人造黒鉛5)
ニードルコークスを1100℃で焼成した後、ACM粉砕機で20分間粉砕して分級し、さらに3100℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0077】
(人造黒鉛6)
ニードルコークスを1000℃で焼成した後、ACM粉砕機で10分間粉砕して分級し、さらに2800℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0078】
(炭素材料1)
ショットコークスを1300℃で焼成した後、ACM粉砕機で20分間粉砕して分級して製造した。物性値を表1に示した。
【0079】
(複合黒鉛1)
ショットコークスにピッチ(軟化点200℃)を混合し、1000℃で焼成した後、ACM粉砕機で20分間粉砕して分級し、さらに3000℃で黒鉛化して製造した。物性値を表1に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1
材料Aとしての人造黒鉛1と材料Bとしての人造黒鉛2とを、質量比B/(A+B)が0.05となるように、V型混合機を用いて15分間混ぜ合わせて、負極活物質を得た。負極活物質の物性値および電池特性を表2および表3に示す。
【0082】
実施例2〜3、比較例1〜21
表2に示す、質量比の材料Aと材料Bに変えた以外は、実施例1と同じ方法で、負極活物質を得た。負極活物質の物性値および電池特性を表2および表3に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表2および表3に示すとおり、本発明の負極活物質を含有する電極を用いた二次電池(実施例1〜3)は、比較例1〜21において得られた負極活物質を用いた電極に比べて、大電流レート特性および電気容量が優れている。
本発明の負極活物質を用いた二次電池は、小型軽量であり高い放電容量、優れた大電流特性をもつため、携帯電話、携帯電子機器、電動工具、電気自動車、ハイブリッド自動車等の多岐にわたる範囲において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
A:鱗片状人造黒鉛
B:塊状人造黒鉛
【要約】
(1)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bとを含み、(2)塊状人造黒鉛Bの体積基準粒度分布における50%径D50(B)に対する鱗片状人造黒鉛Aの体積基準粒度分布における50%径D50(A)の比D50(A)/D50(B)が0.6超過1.0未満であり、(3)鱗片状人造黒鉛Aの表面粗さRが2.8以上5.1以下であり、(4)塊状人造黒鉛Bの表面粗さRが6.0以上9.0以下であり、且つ(5)鱗片状人造黒鉛Aと塊状人造黒鉛Bの合計質量に対する塊状人造黒鉛Bの質量の比B/(A+B)が0.03以上0.30以下である、二次電池用負極活物質。
図1