(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下部構造体と上部構造体との相互間の免震層に免震装置が介装されることにより、前記下部構造体に対して前記上部構造体を、異なる方向又は異なる量で水平変位可能となるように構成された免震構造体と、前記免震構造体から離れた位置に設けられたエレベーター支持用のマストと、を相互に連結するための連結機構であり、
前記下部構造体又は前記上部構造体のいずれかの部分である構造体側連結部と、前記マストのいずれかの部分であるマスト側連結部とを相互に連結する連結手段であって、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、同一方向及び同一量での水平変位のみが可能となるように連結し、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値以上となった場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、異なる方向又は異なる量での水平変位が可能となるように連結する連結手段を備えており、
前記連結手段は、
前記構造体側連結部又は前記マスト側連結部のいずれか一方に設けられ、ルーズ孔を有する第1板状体と、
前記構造体側連結部又は前記マスト側連結部のいずれか他方に設けられ、ボルト孔を有する第2板状体と、
前記第1板状体のルーズ孔から前記第2板状体のボルト孔に挿通されるボルトであって、前記ルーズ孔に対して当該ルーズ孔の内部を移動可能に挿通されたボルトと、
前記第1板状体から前記第2板状体にかけて挿通されたせん断材と、を備え、
前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記せん断材によって前記第1板状体と前記第2板状体とが一体化されていることにより、前記構造体側連結部と前記マスト側連結部とを、同一方向及び同一量での水平変位のみを可能とし、
前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値以上となった場合には、前記第1板状体及び前記第2板状体からの力により前記せん断材が切断されて、前記ボルトが前記ルーズ孔の内部を移動可能となることにより、前記構造体側連結部と前記マスト側連結部とを、異なる方向又は異なる量での水平変位を可能とし、
前記連結手段を、前記マストの延設方向に沿って複数設け、
前記ルーズ孔の径を、当該ルーズ孔が設けられた前記連結手段の位置が前記免震層から離れる程、小さくした、
連結機構。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る連結機構の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
[実施の形態の基本的概念]
まずは、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、概略的に、中間免震構造が適用された免震構造体と、エレベーター支持用のマストとを相互に連結するための連結機構に関する。なお、このような免震構造体では、免震構造体を構成する下部構造体と上部構造体とが、免震層を介して相互に異なる方向又は異なる量で水平変位可能となっている。このように水平変位する場合としては、強風時や地震動発生時等といった様々な場合が考えられ得るが、本実施の形態においては、地震動発生時を想定して説明を行う。
【0016】
[実施の形態の具体的内容]
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。
【0017】
(構成)
図1は、本実施の形態に係る連結機構4が適用された免震構造体1の右側面図である。
図2は、連結機構4が適用された免震構造体1の平面図である。この
図1及び
図2に示すように、本実施の形態においては、免震構造体1と、エレベーター2を支持するマスト3が設けられており、連結機構4がこれらの免震構造体1とマスト3とを連結している。以下では、この
図1及び
図2を参照して、免震構造体1、エレベーター2、マスト3、及び連結機構4の構成について説明する。ここで、以下では、必要に応じて、これら
図1及び
図2におけるX−X’方向を「幅方向」と称し、特にX方向を「右方向」、X’方向を「左方向」と称する。また、Y−Y’方向を「奥行き方向」と称し、特にY方向を「前方向」、Y’方向を「後方向」と称する。また、Z−Z’方向を「高さ方向」と称し、特にZ方向を「上方向」、Z’方向を「下方向」と称する。
【0018】
(構成−免震構造体)
免震構造体1は、下部構造体1aと上部構造体1bとの相互間の免震層に免震装置1cが介装されることにより、前記下部構造体1aに対して前記上部構造体1bを、異なる方向又は異なる量で水平変位可能となるように構成された構造体である。この免震構造体1の用途は任意であり、下部構造体1aと上部構造体1bを同一の用途としても構わないが、本実施の形態では、下部構造体1aを商業施設として利用し、上部構造体1bを住宅として利用するものとして説明する。また、この免震構造体1の大きさ、形状、及び階数についても任意であるが、本実施の形態では図示の便宜上、下部構造体1a及び上部構造体1bのいずれも略同一の大きさの略直方体形状であるものとして説明する。具体的には、
図2に示すように、免震構造体1の躯体は、平面視においてエレベーター2やマスト3や連結機構4(以下、エレベーター2等)の全体を覆うように前後左右の四方に形成されており、この躯体の中央に位置する上下の吹き抜け部分にエレベーター2等が配置されている。なお、
図1において、1階から3階までの低層階、及び12階以上の高層階については、図示の便宜上省略している。
【0019】
また、免震層が設けられる階は任意であるが、本実施の形態においては、免震構造体1の7階と8階との間の免震階に免震層が形成されるものとして説明する。また、免震装置1cは、下部構造体1aと上部構造体1bとを相互に異なる方向又は異なる量で水平変位可能とする限りにおいて、任意の免震装置1cを用いる事ができ、本実施の形態においては積層ゴムであるものとして説明するが、これに限らず、滑り支承、転がり支承等を適用する事が可能である。なお、これらの免震構造体1や免震装置1c等の具体的な構成については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0020】
(構成−エレベーター)
エレベーター2は、人や物を搬送する、上下に昇降可能なエレベーター室を有する公知の揚重機である。このエレベーター2は、後述する2本のマスト3の間に配置されており、マスト3に対して連結されている。なお、このエレベーター2は、本設エレベーターも含む概念であるが、本実施の形態では、施工時等に一時的に建造される仮設エレベーターであるものとして説明する。また、エレベーター2の具体的な構成については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0021】
(構成−マスト)
マスト3は、免震構造体1から離れた位置に設けられたエレベーター支持用の公知のマストである。具体的には、このマスト3は、免震構造体1のエレベーター2の左右両側方の位置に1本ずつ配置されており、各マスト3はいずれも鉛直方向に沿って延設されている。ここで、マスト3はエレベーター2を支持可能な強度を有する限り任意の構成とする事が可能であるが、本実施の形態においては、複数の鉄骨を組み合わせたトラス構造部3aと、トラス構造部3aの周囲(右前方、右後方、左前方、及び左後方の計4箇所)に形成されて、それぞれがトラス構造部3aに対して溶接された4つの中実円筒体である支柱部3bと、を備えて形成されている。なお、左右のマスト3はいずれも相互に左右線対称に構成されているため、以下では、右方のマスト3を単にマスト3と称して説明し、左方のマスト3については説明を省略する。また、マスト3の具体的な構成については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0022】
(構成−連結機構)
連結機構4は、下部構造体1aと上部構造体1bとの相互間の免震層に免震装置1cが介装されることにより、下部構造体1aに対して上部構造体1bを、異なる方向又は異なる量で水平変位可能となるように構成された免震構造体1と、免震構造体1から離れた位置に設けられたエレベーター支持用のマスト3と、を相互に連結するための機構である。この連結機構4は、
図1に示すように、鉛直方向に沿って所定の間隔で並設されており、各連結機構4は、各階の床面と略同一レベルの位置に配置されている。より具体的には、
図2に示すように、エレベーター2の左右両側方の位置に、各マスト3に対して連結されている。なお、左右両側方の連結機構4はいずれも相互に略同一に構成されており、また、各階の連結機構4についてもいずれも相互に略同一に構成されているため、以下では、右方の一つの連結機構4を単に連結機構4と称して説明し、他の連結機構4については説明を省略する。なお、左側の連結機構4は、右側の連結機構4と完全に線対称にはなっておらず、具体的には、右側の連結機構4は免震構造体1における後方の躯体に取り付けられているのに対し、左側の連結機構4は免震構造体1における左方の躯体に取り付けられている。このように連結機構4は躯体のどの面に対して取り付けた場合も、同様の機構を備える事で同様の機能を有する構成とする事が可能である。また、免震構造体1における、この連結機構4によって接続される部分を「構造体側連結部」と称し、マスト3における、この連結機構4によって接続される部分を「マスト側連結部」と称する。
【0023】
ここで、
図3は、
図2の要部拡大図、
図4は、
図2のA−A矢視断面図、
図5は、
図2のB−B矢視断面図である。これらの
図3、
図4、及び
図5に示すように、連結機構4は、概略的に、構造体固定金具10、摺動金具20、補強金具30、壁繋ぎ金具40、及びマスト固定金具50を備えて構成されている。なお、
図4及び
図5においては、図示の便宜上、補強金具30の図示を省略している。
【0024】
(構成−連結機構−構造体固定金具)
構造体固定金具10は、連結機構4を免震構造体1側に固定するための部材であって、免震構造体1の壁面に当接するように配置されており、免震構造体1に対してアンカーボルト11で留められている。この構造体固定金具10は、連結機構4を安定的に固定する事が可能である限り任意の構成を採用する事ができるが、本実施の形態では金属製の長板をL型に折り曲げて形成されたアングルとして構成されている。そして、折り曲げられた一方の部分(以下、構造体固定金具鉛直部10a)が鉛直方向に沿うように、他方の部分(以下、構造体固定金具水平部10b)が水平方向に沿うように配置されている。
【0025】
ここで、構造体固定金具鉛直部10aは免震構造体1に当接しており、複数本(本実施の形態では4本)のアンカーボルト11により免震構造体1に固定されている。また、構造体固定金具水平部10bの上面の左端部には、摺動金具20の後述する第2摺動金具22が載置されており、当該構造体固定金具水平部10b及び第2摺動金具22はボルト12により相互にボルト締結されて接続されている。また、構造体固定金具水平部10bの上面の右端部には、補強金具30が載置されており、当該構造体固定金具水平部10b及び補強金具30はボルト13により相互にボルト締結されて接続されている。
【0026】
(構成−連結機構−摺動金具)
摺動金具20は、下部構造体1a又は上部構造体1bのいずれかの部分である構造体側連結部と、マスト3のいずれかの部分であるマスト側連結部とを相互に連結する連結手段である。この摺動金具20は、第1摺動金具21、第2摺動金具22、ボルト23、及びシャーピン24を備えて構成されている。
【0027】
第1摺動金具21は、マスト側連結部に設けられており、ルーズ孔21c(後述する)を有する第1板状体である。この第1摺動金具21は、壁繋ぎ金具40の側面の位置に、奥行き方向に沿って配置されており、壁繋ぎ金具40と第2摺動金具22とを相互に接続するように形成されている。この第1摺動金具21は、第1摺動金具21と第2摺動金具22とを相互に異なる方向又は異なる量で水平変位可能とする限り任意の構成を採用する事ができるが、本実施の形態では金属製の長板をL型に折り曲げて形成されたアングルとして構成されている。そして、折り曲げられた一方の部分(以下、第1摺動金具鉛直部21a)が鉛直方向に沿うように、他方の部分(以下、第1摺動金具水平部21b)が水平方向に沿うように配置されている。
【0028】
ここで、第1摺動金具水平部21bには、ルーズ孔21cが形成されている。このルーズ孔21cは、第1摺動金具21と第2摺動金具22とを異なる方向又は異なる量で水平変位させるための孔である。具体的には、ルーズ孔21cは、第1摺動金具水平部21bの長手方向に沿って二か所に並設されており、いずれのルーズ孔21cも後述する第2摺動金具22のボルト孔と平面視において同心円状に配置されている。ここで、当該ルーズ孔21cには、後述する第2摺動金具22のボルト孔に固定的に締結されたボルト23が挿通されており、このルーズ孔21cの径は、ボルト23の径よりも大きい径となっている。なお、このルーズ孔21cの径の詳細については後述する。
【0029】
また、第1摺動金具鉛直部21aには、第1連結部の長手方向(即ち、前後方向)に沿った長孔21dが形成されている。この長孔21dは第1摺動金具21の微細な位置調節を行うための長孔であって、ボルト43をこの長孔21dの範囲で挿通できることにより、第1摺動金具21を任意の位置で壁繋ぎ金具40に接続する事が可能となる。
【0030】
第2摺動金具22は、構造体側連結部に設けられており、ボルト孔(後述する)を有する第2板状体である。この第2摺動金具22は、構造体固定金具水平部10bの上面から第1摺動金具21の第1摺動金具水平部21bの上面に至るように配置されており、構造体固定金具水平部10bと第1摺動金具21とを相互に接続するように形成されている。この第2摺動金具22は、第1摺動金具21と第2摺動金具22とを相互に異なる方向又は異なる量で水平変位可能とする限り任意の構成を採用する事ができるが、本実施の形態では金属製の長板をL型に折り曲げて形成されたアングルとして構成されている。そして、折り曲げられた一方の部分(以下、第2摺動金具鉛直部22a)が鉛直方向に沿うように、他方の部分(以下、第2摺動金具水平部22b)が水平方向に沿うように配置されている。
【0031】
ここで、第2摺動金具水平部22bには、ボルト孔が形成されている。このボルト孔は、ボルト23を挿通するための孔であって、第2摺動金具水平部22bの長手方向に沿って二か所に並設されており、いずれのボルト孔も後述する第1摺動金具21のルーズ孔21cと平面視において同心円状に配置されている。なお、ボルト孔の径は、ボルト23の径と略同一であり、ボルト23はボルト孔に対して固定的に締結されている。
【0032】
ボルト23は、第1板状体のルーズ孔21cから第2板状体のボルト孔に挿通されるボルトであって、ルーズ孔21cに対して当該ルーズ孔21cの内部を移動可能に挿通された公知のボルトである。なお、このボルト23は、ルーズ孔21cの内部で移動可能な径(すなわち、ルーズ孔21cの内径よりも小さい径)を有する限り任意に構成する事が可能である。
【0033】
シャーピン24は、下部構造体1aに対する上部構造体1bの相対水平変位量が閾値以上となった場合には、第1摺動金具21及び第2摺動金具22からの力によってせん断破壊されることにより、第1摺動金具21と第2摺動金具22との接続を解除する、第1摺動金具21から第2摺動金具22にかけて挿通されたせん断材である。具体的には、シャーピン24は、前方のボルト孔のさらに前方側、及び後方のボルト孔のさらに後方側の計2か所に設けられており、第1摺動金具水平部21bから第2摺動金具水平部22bに至るように挿通された直径約5mm程度の金属棒である。なお、「閾値」の具体的な決定方法や具体的な値は任意であるが、例えば、「閾値」は、シャーピン24の固さ、形状、及び材質や、連結機構4同士の間隔等に基づいて変動し得る値であるため、これらの各条件を特定したシミュレーション解析や実験によって、適切な閾値を特定することができる。
【0034】
ここで、第1摺動金具水平部21bの2つのルーズ孔21cの下方には、
図5に示すように座金25が添え当てられている。この座金25は、平面視正方形状の金属製の板状体であって、少なくともルーズ孔21cの径よりも大きい辺を有している。そして、この座金25の板面には、上下に挿通するようにボルト23の径と同一の径の孔が形成されている。このような構成において、ボルト23は、座金25の孔、第1摺動金具水平部21bのルーズ孔21c、第2摺動金具水平部22bのボルト孔を通るように挿通されており、上端においてナット26で締結されている。なお、このナット26による座金25の締結力は、第1摺動金具21と第2摺動金具22とが相互に摺動可能な程度の強さである事を要する。このような構成により、下部構造体1aに対する上部構造体1bの相対水平変位量が閾値未満である場合(例えば、地震動非発生時)には、シャーピン24は第1摺動金具21と第2摺動金具22とを一体化するように接続し、一方、下部構造体1aに対する上部構造体1bの相対水平変位量が閾値以上となった場合(例えば、地震動発生時)には、シャーピン24がせん断破壊されてボルト23がルーズ孔21cの内部を水平に移動可能となることにより、第1摺動金具21と第2摺動金具22とを異なる方向又は異なる量での水平変位を可能とする。
【0035】
(構成−連結機構−補強金具)
補強金具30は、構造体固定金具10と摺動金具20とをより強固に接続するための補強手段である。この補強金具30は、構造体固定金具10の上面の右端部から、第2摺動金具22の上面における2つのボルト孔の相互間の位置に至るように配置されており、構造体固定金具10と第2摺動金具22とを相互に接続するように形成されている。この補強金具30は、接続を補強することが可能である限り任意の構成を採用する事ができるが、本実施の形態では金属製の長板をL型に折り曲げて形成されたアングルとして構成されている。そして、折り曲げられた一方の部分(以下、補強金具鉛直部30a)が鉛直方向に沿うように、他方の部分(以下、補強金具水平部30b)が水平方向に沿うように配置されている。そして、補強金具水平部30bの一方の端部は、構造体固定金具10の上面に対してボルト13によりボルト締結されて接続されており、補強金具水平部30bの他方の端部は、第2摺動金具水平部22bの上面に対して溶接接合されている。
【0036】
(構成−連結機構−壁繋ぎ金具)
壁繋ぎ金具40は、摺動金具20をマスト3に接続するための接続手段であって、摺動金具20とマスト3の相互間に介在されている。具体的には、壁繋ぎ金具40は、金属製の長板をコ字状に折り曲げて形成された2つのチャンネル41を前後に間隔を隔てて、かつ各々が鉛直方向に沿うように配置し、これらのチャンネル41同士を鉄骨等で相互に溶接接続して構成されている。ここで、チャンネル41の右側の側面には、鉛直方向に沿って複数の位置調節用孔42が設けられており、ユーザがこの中から選択した位置調節用孔42から、第1摺動金具鉛直部21aに設けられた長孔21dに至るようにボルト43を挿通して締結することにより、第1摺動金具21を任意の位置に接続する事ができる。
【0037】
(構成−連結機構−マスト固定金具)
マスト固定金具50は、壁繋ぎ金具40をマスト3に固定するためのマスト固定手段である。このマスト固定金具50は、壁繋ぎ金具40の2つのチャンネル41の左側面の上端及び下端の計4箇所に取り付けられており、各マスト固定金具50はそれぞれ同一に構成されている。具体的には、マスト固定金具50は、マスト3の上述した支柱部3bの径と同一の内径を有する中空の略円筒形状に構成されており、その内径を自在に変更可能とするネジ機構が設けられている。そして、このマスト固定金具50をマスト3の支柱部3bに取り付けた状態で、ネジ機構を締めて内径を小さくする事により、マスト固定金具50によって支柱部3bが締め付けられ、マスト固定金具50が支柱部3bに固定される。
【0038】
(作用)
続いて、上記のように構成された連結機構4の作用について説明する。
図6は、本実施の形態に係る連結機構4が適用された免震構造体1の右側面図であって、
図6(a)は、地震動非発生時、
図6(b)は、地震動発生時を示す図である。この
図6に示すように、以下では地震動非発生時と地震動発生時とを相互に比較して説明する。
【0039】
まず、地震動非発生時においては、
図6(a)に示すように下部構造体1aと上部構造体1bとの相対的な位置変位は無い。したがって、シャーピン24が切断されず、このシャーピン24によって第1摺動金具21と第2摺動金具22とが一体化され接続されている。
【0040】
一方、地震動発生時においては、
図6(b)に示すように下部構造体1aと上部構造体1bとの相対的な位置変位が生じる。なお、本実施の形態においては、下部構造体1aが初期位置(地震動非発生時の位置)に位置しているのに対して、上部構造体1bが初期位置から120[mm]前方へ移動している場合を例に挙げて説明する。
【0041】
ここでまず、本実施の形態に係る連結機構4を適用せず、ルーズ孔21c等を有さない従来のような機構(第1摺動金具21と第2摺動金具22とが緊結的に接続されている機構)を適用した場合について検討する。このような従来の機構では、下部構造体1aを構成する各構造体側連結部と、対応する位置の各マスト側連結部とは、一定の距離(2,000[mm])を保ったまま変位し、上部構造体1bを構成する各構造体側連結部と、対応する位置の各マスト側連結部とは、一定の距離(2,000[mm])を保ったまま変位する。したがって、地震動発生時には、マスト3における下部構造体1aと上部構造体1bの間の部分(すなわち、8階のマスト側連結部と7階のマスト側連結部との間の部分)に大きな傾きが生じてしまう。具体的には、8階のマスト側連結部は、上部構造体1bと一定の距離(2,000[mm])を保って上部構造体1bに追従して変位するので、初期位置よりも120[mm]前方の位置に在る。また、7階のマスト側連結部は、下部構造体1aと一定の距離(2,000[mm])を保って下部構造体1aに追従して変位するので、初期位置と同位置に在る。したがって、マスト3は、8階のマスト側連結部と、7階のマスト側連結部とを略直線的に結ぶように傾く。したがって、7階から8階の間のマスト3の傾きは、下記式(1)で表す事ができる。
120[mm]/7,570[mm]=1/63・・・(1)
【0042】
次に、本実施の形態に係る連結機構4を適用した場合について検討する。この場合、地震動発生時により下部構造体1aと上部構造体1bとが相互に異なる方向又は異なる量で水平変位する事に伴って、第1摺動金具21と第2摺動金具22とが相互に異なる方向又は異なる量で水平変位し、このことにより第1摺動金具21と第2摺動金具22とを相互に接続するシャーピン24にせん断力が加わる。そして、このせん断力が閾値(シャーピン24が耐え得るせん断力)以上となった場合には、シャーピン24が切断されてボルト23がルーズ孔21cの内部を水平に移動可能となることにより、第1摺動金具21と第2摺動金具22とを異なる方向又は異なる量での水平変位を可能とする。
【0043】
ここで、連結の位置が免震層に近い程、シャーピン24に加わるせん断力が大きく、免震層から遠い程、シャーピン24に加わるせん断力は小さい。本実施の形態では、免震層に近い連結機構4である6階から9階の連結機構4のシャーピン24が切断されたものとする。この場合、シャーピン24が切断されていない10階のマスト側連結部は、上部構造体1bと一定の距離(2,000[mm])を保って上部構造体1bに追従して変位するので、初期位置よりも120[mm]前方の位置に在る。また、シャーピン24が切断されていない5階のマスト側連結部は、下部構造体1aと一定の距離(2,000[mm])を保って下部構造体1aに追従して変位するので、初期位置と同位置に在る。また、シャーピン24が切断された6階から9階のマスト側連結部は、上述したようにシャーピン24が切れることにより、各構造体側連結部と相互に異なる方向及び相互に異なる量で変位可能となっているため、上部構造体1b又は下部構造体1aと一定の距離(2,000[mm])を保つことなく変位する。したがって、10階のマスト側連結部と5階のマスト側連結部とを略直線的に接続する位置上に、6階から9階のマスト側連結部が位置する。
【0044】
したがって、マスト3は、10階のマスト側連結部と、5階のマスト側連結部とを略直線的に結ぶように傾く。したがって、10階から5階の間のマスト3の傾きは、下記式(2)で表す事ができる。
120[mm]/21,110[mm]=1/176・・・(2)
【0045】
このように、本実施の形態に係る連結機構4によって、マスト3の傾きを小さくして、マスト3に加わる曲げ応力を小さくする事ができ、マスト3が変形してしまう事を防止する事が可能となる。なお、以上から分かるように、ルーズ孔21cの径は、下部構造体1aと上部構造体1bとが相互に異なる方向及び異なる量で変位した際に、ルーズ孔21cの内部に挿通されたボルト23が、ルーズ孔21cの内周と接触してしまわない程度の大きさである事が望ましい。また、
図6(b)の各連結機構4の位置には、構造体側連結部とマスト側連結部との距離[mm]の解析結果を図示している。この解析結果に示すように、連結機構4の位置が免震層から離れる程、初期位置との差異は小さくなる。したがって、ルーズ孔21cの径を、ルーズ孔21cが設けられた連結機構4の位置が免震層から離れる程、小さくしても良い。この事により、免震層からの距離に応じた適切な径のルーズ孔21cを用いる事が可能となる。
【0046】
なお、地震動が収束した後には、例えば、その後の任意のタイミングで行われる点検時に、折れたシャーピン24を新しいシャーピン24に差し替えることにより、容易に元の機構と同様の機構とする事が可能である。以上にて、連結機構4の作用の説明を完了する。
【0047】
(実施の形態の効果)
このように、本実施の形態の連結機構4によれば、摺動金具20は、相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、同一方向及び同一量での水平変位のみが可能となるように連結し、閾値以上となった場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、異なる方向又は異なる量での水平変位が可能となるように連結するので、通常時にはマスト3を構造的に支持する事ができると共に、地震動発生時のように上部構造体1bと下部構造体1aとが相対変位した場合にはマスト3に過度な力が作用してマスト3が変形してしまったり折れてしまったりする事態を防止する事が可能となる。
【0048】
また、下部構造体1aに対する上部構造体1bの相対水平変位量が閾値以上となった場合にシャーピン24が切断されることにより、ボルト23がルーズ孔21cの内部を移動可能となるので、極めて簡素な構成により、構造体側連結部とマスト側連結部とを異なる方向又は異なる量で水平変位させる事が可能となる。
【0049】
また、ルーズ孔21cの径は、免震層から離れた位置の摺動金具20である程小さいので、下部構造体1aと上部構造体1bとの相対的な変位の量に対して過大な径のルーズ孔21cを設ける必要がないため、過大な径のルーズ孔21cを設けるための手間や費用を削減可能となると共に、径の大きさに応じた過大な大きさの第1摺動金具21を使用せずに済み、部材費用等を削減可能となる。
【0050】
〔実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0051】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上述の内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。例えば、実施の形態に係る連結機構4によって、マスト3が変形してしまう事態を防止できない場合であっても、従来と異なる技術により連結機構4を施工できている場合には、本願発明の課題が解決されている。
【0052】
(寸法や材料について)
発明の詳細な説明や図面で説明した連結機構4の各部の寸法、形状、比率、材料等は、あくまで例示であり、その他の任意の寸法、形状、比率、材料等とすることができる。
【0053】
(連結機構について)
本実施の形態においては、連結機構4は、免震階を除く各階のスラブと同一レベルに一つずつ配置されているものとして説明したが、これに限られない。例えば、免震階にも同様の連結機構4を設けても構わないし、各階のスラブの間の位置等に連結機構4を設けても構わない。また、免震層からの距離が大きく、シャーピン24がせん断破壊される可能性の低い連結機構4については、ルーズ孔21cを設けなくても良い。
【0054】
(付記)
付記1の連結機構は、下部構造体と上部構造体との相互間の免震層に免震装置が介装されることにより、前記下部構造体に対して前記上部構造体を、異なる方向又は異なる量で水平変位可能となるように構成された免震構造体と、前記免震構造体から離れた位置に設けられたエレベーター支持用のマストと、を相互に連結するための連結機構であり、前記下部構造体又は前記上部構造体のいずれかの部分である構造体側連結部と、前記マストのいずれかの部分であるマスト側連結部とを相互に連結する連結手段であって、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、同一方向及び同一量での水平変位のみが可能となるように連結し、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値以上となった場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、異なる方向又は異なる量での水平変位が可能となるように連結する連結手段を備える。
【0055】
付記2の連結機構は、付記1に記載の連結機構において、前記連結手段は、前記構造体側連結部又は前記マスト側連結部のいずれか一方に設けられ、ルーズ孔を有する第1板状体と、前記構造体側連結部又は前記マスト側連結部のいずれか他方に設けられ、ボルト孔を有する第2板状体と、前記第1板状体のルーズ孔から前記第2板状体のボルト孔に挿通されるボルトであって、前記ルーズ孔に対して当該ルーズ孔の内部を移動可能に挿通されたボルトと、前記第1板状体から前記第2板状体にかけて挿通されたせん断材と、を備え、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記せん断材によって前記第1板状体と前記第2板状体とが一体化されていることにより、前記構造体側連結部と前記マスト側連結部とを、同一方向及び同一量での水平変位のみを可能とし、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対水平変位量が閾値以上となった場合には、第1板状体及び前記第2板状体からの力により前記せん断材が切断されて、前記ボルトが前記ルーズ孔の内部を移動可能となることにより、前記構造体側連結部と前記マスト側連結部とを、異なる方向又は異なる量での水平変位を可能とする。
【0056】
付記3の連結機構は、付記1又は2に記載の連結機構において、前記連結手段を、前記マストの延設方向に沿って複数設け、前記ルーズ孔の径を、当該ルーズ孔が設けられた前記連結手段の位置が前記免震層から離れる程、小さくした。
【0057】
(付記の効果)
付記1に記載の連結機構によれば、連結手段は、相対水平変位量が閾値未満である場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、同一方向及び同一量での水平変位のみが可能となるように連結し、閾値以上となった場合には、前記構造体側連結部に対して前記マスト側連結部を、異なる方向又は異なる量での水平変位が可能となるように連結するので、通常時にはマストを構造的に支持する事ができると共に、地震動発生時のように上部構造体と下部構造体とが相対変位した場合にはマストに過度な力が作用してマストが変形してしまったり折れてしまったりする事態を防止する事が可能となる。
【0058】
付記2に記載の連結機構によれば、下部構造体に対する上部構造体の相対水平変位量が閾値以上となった場合にせん断材が切断されることにより、ボルトがルーズ孔の内部を移動可能となるので、極めて簡素な構成により、構造体側連結部とマスト側連結部とを異なる方向又は異なる量で水平変位させる事が可能となる。
【0059】
付記3に記載の連結機構によれば、ルーズ孔の径は、免震層から離れた位置の連結手段である程小さいので、下部構造体と上部構造体との相対的な変位の量に対して過大な径のルーズ孔を設ける必要がないため、過大な径のルーズ孔を設けるための手間や費用を削減可能となると共に、径の大きさに応じた過大な大きさの第1板状体を使用せずに済み、部材費用等を削減可能となる。