(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543496
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】表面溶融炉の耐火壁修復方法及び表面溶融炉
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20190628BHJP
F27B 3/06 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
F27D1/16 A
F27D1/16 W
F27B3/06
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-67912(P2015-67912)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188709(P2016-188709A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋仁
(72)【発明者】
【氏名】寳正 史樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
(72)【発明者】
【氏名】篠原 健一郎
【審査官】
伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−292065(JP,A)
【文献】
特開平11−229021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/16
F27B 3/00− 3/28
F23G 5/00− 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火壁で被覆された側壁及び炉天井を備えた炉本体と、前記炉本体を内部から加熱するバーナとを有する表面溶融炉の耐火壁修復方法であって、
炉天井に設置されたノズル装置から操炉中に耐火壁表面に補修材を噴射して、少なくとも前記耐火壁の表面に保護層を形成する保護層形成工程と、
前記保護層形成工程の後に炉内温度を低下させて前記保護層を結晶化する耐火層生成工程と、
を備えている表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項2】
前記保護層形成工程では、補修材と灰とが前記保護層の原料として用いられ、前記補修材は塩基度が調整されている請求項1記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項3】
前記保護層形成工程で形成される保護層の塩基度が1以上に調整される請求項1または2記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項4】
前記保護層形成工程で形成される保護層の塩基度が2以上に調整される請求項3記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項5】
前記耐火層生成工程は、操炉状態から炉内温度を800℃に低下することで実行される請求項1から4の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項6】
前記耐火層生成工程で生成される結晶化した保護層の組成にラーナイトまたはゲーレナイトが含まれる請求項1から5の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項7】
前記保護層形成工程及び耐火層生成工程は、前記表面溶融炉のメンテナンスに合わせて実行される請求項1から6の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項8】
前記ノズル装置から噴射される補修材に灰が含まれる請求項1から7の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法に用いられ、耐火壁で被覆された側壁及び炉天井を備えた炉本体と、前記炉本体を内部から加熱するバーナとを有する表面溶融炉であって、
前記耐火壁表面に向けて補修材を噴射するノズル機構を装脱自在に取り付ける取付け部を前記炉天井に備えている表面溶融炉。
【請求項10】
前記ノズル機構は先端が耐火壁に向く補修材供給管と、前記補修材供給管を冷却する冷却ジャケットを備え、前記取付け部に取り付けた状態で前記補修材供給管を回動させる回動機構と、前記回動機構により回動される前記補修材供給管の回動角度を示す指示部を備えている請求項9記載の表面溶融炉。
【請求項11】
前記ノズル機構は前記補修材供給管を回動駆動するモータを備え、前記指示部は前記モータに連動して前記補修材供給管の回動角度を示すように構成されている請求項10記載の表面溶融炉。
【請求項12】
前記炉体は側壁及び炉天井を備えた内筒と、底部に出滓口が形成された外筒を備えて構成され、前記内筒と外筒とが相対回転自在に配置され、前記内筒と外筒との間に被溶融物の供給路が形成されている請求項9から11の何れかに記載の表面溶融炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面溶融炉の耐火壁修復方法及び表面溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、表面溶融炉は、1600℃程度の高温に耐える耐火壁で被覆された側壁及び炉天井を備えた内筒と、底部に出滓口が形成された外筒とが相対回転自在に配置され、前記内筒と外筒との間に被溶融物の供給路が形成されている。
【0003】
炉天井に取り付けた燃焼バーナにより炉内が約1300℃前後の温度に維持され、内筒と外筒の相対回転によって供給路に蓄積された被溶融物が炉内に切り出されて、表面から溶融して底部中央に形成された出滓口から滴下するように構成されている。
【0004】
表面溶融炉では都市ごみ焼却炉で生じた焼却主灰や飛灰、汚水処理設備で生じた汚泥ケーキ等が被溶融物として溶融処理される。これらの溶融処理過程で内筒に形成された耐火壁は非常な高温に晒され、炉内で舞い上がる被溶融物が付着溶融して1600℃程度の高温に耐える耐火壁であっても灰との反応で融点が低下して損傷を来し、特に側壁部の耐火壁に著しい損傷を与えていた。
【0005】
そのため、定期的に耐火壁の張替工事や修復工事が必要とされ、メンテナンスコストが嵩むという問題がった。
【0006】
特許文献2には、有機性廃棄物を一次ガス化する流動層を用いたガス化炉と、流動層ガス化炉にて得られたガス状物を導入し高温下にて二次ガス化する高温酸化炉とを有し、高温酸化炉の炉壁は水管が内蔵されたボイラ壁構造または水冷ジャケット構造とする高温酸化炉に対する炉壁セルフコーティング技術が開示されている。
【0007】
詳述すると、高温酸化炉で生成されるスラグもしくは溶融飛灰の一部或いは外部から搬入した焼却灰を、低温ガス化炉、高温酸化炉或いは両炉間のガス状物経路に供給する灰循環供給ラインを設け、高温酸化炉に導入されるガス状物に同伴させることにより、二次ガス化時に炉壁に堆積灰コーティング層を常時形成するように構成されている。
【0008】
当該炉壁セルフコーティング技術は、炉内の耐火レンガ壁表面に固化灰で構成されるコーティング層を形成する技術であり、コーティング層を形成するために耐火レンガ壁に水管を埋め込み炉壁の表面近傍の温度をコーティング層を形成する温度に調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−63436号公報
【特許文献2】特開平11−35949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2に開示された炉壁セルフコーティング技術は、炉壁を冷却して炉内の耐火レンガ壁表面に固化灰で構成されるコーティング層を形成する技術であり、高温に晒される耐火壁に溶融灰が付着することにより耐火壁自体が変成して経年的に劣化が進むという問題があり、またコーティング層が厚くなるとその重みで耐火壁から剥離して落下しその際に耐火レンガ壁が損傷するという問題もあった。そのため定期的な大規模補修作業を回避することができなかった。
【0011】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、長期にわたり大規模補修作業を回避可能な表面溶融炉の耐火壁修復方法及び表面溶融炉を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による表面溶融炉の耐火壁修復方法の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、耐火壁で被覆された側壁及び炉天井を備えた炉本体と、前記炉本体を内部から加熱するバーナとを有する表面溶融炉の耐火壁修復方法であって、炉天井に設置されたノズル装置から操炉中に耐火壁表面に補修材を噴射して、少なくとも前記耐火壁の表面に保護層を形成する保護層形成工程と、前記保護層形成工程の後に炉内温度を低下させて前記保護層を結晶化する耐火層生成工程と、を備えている点にある。
【0013】
保護層形成工程で操炉中にノズル装置から噴射される補修材が耐火壁表面に溶融付着して保護層が形成され、耐火層生成工程で炉内温度を低下させることにより保護層が結晶化されて新たな耐火層が形成される。従って、長期にわたり耐火壁を張り替えるような大規模な補修工事が不要になる。
【0014】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記保護層形成工程では、補修材と灰とが前記保護層の原料として用いられ、前記補修材は塩基度が調整されている点にある。
【0015】
被溶融物に含まれる焼却灰等や被溶融物から生成する灰は、補修材とともに内壁部に溶着して保護層を形成するようになり、補修材によって保護層が容易に溶融しないような塩基度に調整される。
【0016】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記保護層形成工程で形成される保護層の塩基度が1以上に調整される点にある。
【0017】
塩基度が1以上に調整されることにより、耐火壁に形成された保護層が少なくとも運転中の炉内の溶融温度で溶融することが回避される。
【0018】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第三の特徴構成に加えて、前記保護層形成工程で形成される保護層の塩基度が2以上に調整される点にある。
【0019】
耐火壁に形成された保護層が少なくとも運転中の炉内の溶融温度で溶融することがより確実に回避される。
【0020】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記耐火層生成工程は、操炉状態から炉内温度を800
℃に低下することで実行される点にある。
【0021】
操炉状態で耐火壁の表面に形成された補修材による保護層が、800
℃に炉内温度が低下することにより結晶化される。
【0022】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記耐火層生成工程で生成される結晶化した保護層の組成にラーナイトまたはゲーレナイトが含まれる点にある。
【0023】
耐火壁に形成される保護層の組成に融点が約2000℃のラーナイトまたは融点が約1450℃のゲーレナイトが含まれると、耐熱性の高い耐火壁として長期にわたり耐火物の張替メンテナンスが不要になる。
【0024】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記保護層形成工程及び耐火層生成工程は、前記表面溶融炉のメンテナンスに合わせて実行される点にある。
【0025】
表面溶融炉を長期停止するメンテナンスの前であって供給路に貯留された被溶融物が溶融処理されているときに保護層形成工程が実行され、その後溶融炉が停止し、炉内温度が低下すると、耐火壁に形成された保護層の温度が低下して結晶化し、融点の高い耐火層が形成されるようになる。
【0026】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記ノズル装置から噴射される補修材に灰が含まれる点にある。
【0027】
例えば、炉内で飛散する被溶融物由来の灰が少ないときや炉の停止に向けた被溶融物の供給されないときであっても、補修材に灰を混ぜてノズル装置から噴射することにより、適切に保護層が形成されるようになる。
【0028】
本発明による表面溶融炉の第一の特徴構成は、同請求項9に記載されたように、上述した第一から第八の何れかに記載の表面溶融炉の耐火壁修復方法に用いられ、耐火壁で被覆された側壁及び炉天井を備えた炉本体と、前記炉本体を内部から加熱するバーナとを有する表面溶融炉であって、前記耐火壁表面に向けて補修材を噴射するノズル機構を装脱自在に取り付ける取付け部を前記炉天井に備えている点にある。
【0029】
補修材を噴射するノズル機構が取付け部を介して炉天井に装脱自在に取り付けられているので、必要な場合にのみ取り付ければよく、常時設置する場合に比べてノズル機構の劣化を回避することができる。
【0030】
同第二の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記ノズル機構は先端が耐火壁に向く補修材供給管と、前記補修材供給管を冷却する冷却ジャケットを備え、前記取付け部に取り付けた状態で前記補修材供給管を回動させる回動機構と、前記回動機構により回動される前記補修材供給管の回動角度を示す指示部を備えている点にある。
【0031】
指示部により指示される補修材供給管の回動角度を目途に補修材供給管を回動させることで、少なくとも回動により補修材供給管と対向可能な耐火壁全域にわたって欠落することなく保護層を形成できるようになる。
【0032】
同第三の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、上述の第二の特徴構成に加えて、前記ノズル機構は前記補修材供給管を回動駆動するモータを備え、前記指示部は前記モータに連動して前記補修材供給管の回動角度を示すように構成されている点にある。
【0033】
モータを駆動することにより容易に補修材供給管の耐火壁との対向方向を調整できるようになる。
【0034】
同第四の特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記炉体は側壁及び炉天井を備えた内筒と、底部に出滓口が形成された外筒を備えて構成され、前記内筒と外筒とが相対回転自在に配置され、前記内筒と外筒との間に被溶融物の供給路が形成されている点にある。
【発明の効果】
【0035】
以上説明した通り、本発明によれば、長期にわたり大規模補修作業を回避可能な表面溶融炉の耐火壁修復方法及び表面溶融炉を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】(a)は本発明による表面溶融炉の平面図、(b)は正断面図
【
図3】(a),(b)はノズル機構の冷却構造を示す説明図
【
図8】(a),(b)は別実施形態を示し、表面溶融炉の要部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明による表面溶融炉の耐火壁修復方法及び表面溶融炉の実施形態を説明する。
図1(a),(b)には、表面溶融炉の一例である回転式表面溶融炉1が示されている。当該表面溶融炉1は被溶融物として焼却灰や下水汚泥を溶融処理する炉で、耐火壁で被覆された側壁21及び炉天井22を備えた内筒20と、底部12に出滓口13が形成された外筒10とが同一軸心周りに相対回転自在に配置され、内筒20の周壁部と外筒10の周壁11部との間に被溶融物が堆積する供給路2が形成されている。この内筒20と外筒10とで炉本体が形成されている。
【0038】
ホッパー通路40から供給され供給路2に堆積した被溶融物が、内筒20に対して外筒10がモータ50により回動することにより、炉内にすり鉢状に切り出され、炉天井22の中心周りに約120度の角度で設けられた三か所のバーナ取付け部24に設置された3本のバーナ24aで約1300℃に加熱されることにより表面から溶融し、炉底12の中央部に形成された出滓口13から水槽60に滴下して水砕スラグになる。炉内で生じた燃焼ガスが煙道70から排気されて後段の二次燃焼装置で二次燃焼される。
【0039】
外筒10は有底筒状の金属構造体の内側に耐火壁が形成され、底部のうち出滓口13の周囲に水冷管14が設けられている。内筒20は筒状の側壁21と天井部22とがフランジで連結するように構成され、側壁21及び天井部22も金属構造体の内側に耐火壁が形成され、それぞれに水冷管23が設けられている。
【0040】
天井部20には炉内監視用の産業用テレビカメラやレベル計、温度計等の測定機器を取り付ける取付け部25が中心周りに約120度の角度で三か所に配置されている。当該取付け部25に耐火壁表面、少なくとも天井部20や側壁21に向けて補修材を噴射するノズル機構30を装脱自在に取り付けるように構成されている。
【0041】
図2に示すように、ノズル機構30は先端38が耐火壁に向けて屈曲した補修材供給管36と、補修材供給管36を冷却する冷却ジャケット37と、冷却ジャケット37を被覆する耐火物層39を備え、取付け部25に取り付けた状態で補修材供給管36を回動させる回動機構33と、回動機構33により回動される補修材供給管36の回動角度を示す指示部33aを備えている。
【0042】
補修材供給管36の基端側には補修材供給部32と空気供給部31が設けられ、補修材が空気とともに補修材供給管36の先端38側から噴射されるように構成されている。
【0043】
回動機構33が補修材供給管36と回動可能にギヤ34,35で連結された電動モータ33bで構成され、さらに電動モータ33bに代えて指示部33aを目視して手動操作で補修材供給管36を回動する操作部33dとを備えている。
【0044】
図3(a),(b)に示すように、冷却ジャケット37の冷却水流入路37aから流入した冷却水は仕切り壁37cに沿って下方に流下し、仕切り壁37cの開放下端から冷却水流出路37bを上昇して補修材供給管36を冷却するように構成されている。
【0045】
図4に示すように、補修材供給管36から噴射された補修材は、主に内筒20の側壁21に形成された耐火壁の表面に向けて噴射され、側壁21近傍で未溶融の被溶融物表面から飛散する被溶融物である灰や、下水汚泥が溶融炉内で加熱されることにより生じた灰と補修材とが反応して耐火壁の表面に付着して保護層Lが形成されるようになる。尚、飛散する被溶融物由来の灰が少ないときや炉の停止に向けた被溶融物の供給されないときには、補修材に灰を混ぜて補修材として噴射してもよい。
【0046】
図5(a),(b)に示すように、一か所の取付け部に取り付けたノズル機構30により側壁の1/3に保護層Lが形成可能に構成され、三か所の夫々に同時または順番にノズル機構30を取り付けて補修材を噴射することにより側壁及び側壁近くの天井部の全周に保護層Lが形成されるようになる。
【0047】
以下、ノズル機構を用いた耐火壁修復方法について詳述する。
本発明による表面溶融炉1の耐火壁修復方法は、操炉中に、炉天井に設置されたノズル装置から耐火壁表面に補修材を噴射して、少なくとも耐火壁である炉天井や側壁の表面に保護層を形成する保護層形成工程と、保護層形成工程の後に炉内温度を低下させて保護層を結晶化する耐火層生成工程とを備えている。そして、保護層形成工程及び耐火層生成工程は、表面溶融炉の温度が下がる長期停止前、特に定期的メンテナンスの開始前に実行される。
【0048】
被溶融物が都市ごみ焼却炉で生じた焼却主灰及び飛灰である場合、被溶融物の主成分がSiO
2,Al
2O
3,CaOとなり、これらは1100℃から1300℃で溶融し、飛散した一部の灰が外筒の側壁及び側壁近傍の炉天井に付着して耐火壁を損傷するようになる。損傷の程度は約0.3mm/日程度で、一年間で約100mm程度になる。
【0049】
この種の表面溶融炉は、約3か月に一度、煙道の清掃等のメンテナンスのために被溶融物を約1300℃で溶融処理する操炉から約800℃程度に温度を低下する休止状態またはバーナーを停止して完全に停止する停止状態に移行する。
【0050】
そこで、保護層形成工程及び耐火層生成工程が表面溶融炉の約3か月に一度の定期的な停止である定期的メンテナンスの開始前に実行されるように構成され、そのたびに20〜30mmの保護層が形成されるように構成されている。このように構成すると、3か月の間に損傷した約25mmの耐火物を補修した保護層(耐火層)が形成される。
【0051】
炉内に供給された焼却灰等の被溶融物は、炉内の熱によって表面から溶融するのであるが、炉内へ供給された直後の被溶融物は燃焼ガスの流れ等によって内筒の近傍で飛散する。飛散した被溶融物に含まれる灰が補修材とともに内壁部に溶着して保護層を形成するようになり、補修材によって保護層が容易に溶融しないような塩基度に調整される。
【0052】
保護層形成工程では、炉内で飛散する焼却灰や飛灰、溶融処理によって下水汚泥から生成される灰が保護層を形成する耐火層原料として用いられ、補修材として消石灰が供給されるように構成することが好ましい。消石灰等の塩基度調整用の助剤により保護層の塩基度が1以上に、好ましくは2以上に調整される。ここで、塩基度とはCaO/SiO
2の比であり、塩基度が高いと融点が上がることを示す指標である。つまり、補修材としての消石灰と焼却炉の比率を補修材の噴射量で調整して保護層の塩基度を調整する。
【0053】
表面溶融炉の定期的メンテナンスの開始前であって供給路に貯留された被溶融物が溶融処理されているときに保護層形成工程が実行され、その後メンテナンスのために炉が立ち下げられるときに耐火層生成工程が実行され、炉内温度が800℃程度に低下することにより耐火壁に形成された保護層の温度が低下して結晶化し、融点の高い耐火層、つまり結晶化した保護層が形成されるようになる。
【0054】
図6には、補修材として消石灰のみを供給して耐火壁に保護層を形成し、耐火層生成工程で結晶化した耐火層を成分分析した結果が示されている。1台のノズル機構で
図5(a)に示すような±60度の範囲に形成された耐火層を約12度間隔でサンプリングしてその組成を調査した結果である。
【0055】
その結果、耐火層には約20%から25%のラーナイト(Ca
2SiO
4)の結晶が生成され、約25%から50%のゲーレナイト(Ca
2Al
2SiO
7)の結晶が生成されていることが判明している。
【0056】
図7に示すように、ラーナイト(Ca
2SiO
4)は融点が約2000℃の結晶であり、約1300℃で操炉される表面溶融炉では十分な耐火性能を備えていると評価できる。ゲーレナイト(Ca
2Al
2SiO
7)は融点が約1450℃であり、通常の操炉状態で十分な耐火層として機能すると評価できる。
【0057】
従って、耐火層生成工程で生成される耐火層の組成は、少なくともラーナイトが20重量%含まれることが好ましく、25重量%以上含まれることがさらに好ましい。尚、同図に示すように、通常表面溶融炉で溶融されるスラグの組成は一点鎖線の円で囲まれる範囲、つまり融点が1100℃〜1300℃の範囲である。
【0058】
保護層形成工程で補修材として供給される消石灰が保護層の塩基度を調整する助剤として機能し、耐火壁に付着したCa,Al,Si等を主成分とする溶融物の組成が調整され、耐火層生成工程で結晶化して耐火層になる。従って、長期にわたり耐火壁を張り替えるような大規模な補修工事が不要になる。
【0059】
上述したように、保護層形成工程で形成される保護層の塩基度が1以上に調整されることが好ましく、塩基度が2以上に調整されることがさらに好ましい。耐火壁に形成された保護層が少なくとも運転中の炉内の溶融温度で溶融することが回避されるようになる。
【0060】
保護層形成工程でノズル機構から噴射される補修材は、消石灰等の塩基度調整助剤に限るものではなく、耐火層を形成する材料となる珪砂、酸化アルミナ、酸化カルシウム等の少なくとも何れかが含まれるものであってもよい。被溶融物が下水汚泥のような灰負荷の小さなものであれば、積極的に耐火層を形成する材料を補修材として供給することが好ましい。また、必要に応じてリン成分を供給することによっても堅固な耐火層が形成できるようになる。
【0061】
上述した実施形態では、「操炉中」とは溶融炉で被溶融物を溶融処理するための運転中という概念で説明したが、被溶融物を溶融処理せずに炉内温度を1300℃程度に維持する保持運転も「操炉」の概念に含まれ、保持運転中に消石灰と焼却灰を混ぜて塩基度を調整した補修材を噴霧して保護層を形成してから炉内温度を低下させて耐火層を形成してもよい。
【0062】
上述した実施形態では、回転式表面溶融炉に基づいて本発明を説明したが、本発明は、回転式表面溶融炉1にその適用が限定されるものではなく、炉本体に耐火壁を備えた表面溶融炉であれば他のタイプの表面溶融炉にも適用できることは言うまでもない。
【0063】
例えば、
図8(a)に示すように、炉の底部12の中央部に出滓口13が形成され、被溶融物を投入する複数の押込み投入機構80を底部12の周囲に配置された表面溶融炉1に適用することも可能である。当該表面溶融炉は、炉底部12と一体に構成された外筒10と、炉天井22と一体に構成された内筒20の双方が固定され、押込み投入機構80によって炉室内に被溶融物が供給されるタイプである。
【0064】
また、
図8(b)に示すように、炉底部12の端部に出滓口13が形成され、対向側に被溶融物を投入する複数の押込み投入機構80が配置された表面溶融炉1に適用することも可能である。
図8(a),(b)の何れも炉天井22にノズル機構30が着脱自在に取り付けられている。
【0065】
上述した実施形態では、炉天井にノズル装置を設置したが、側壁にノズル装置を設置して炉天井を補修するように構成してもよい。
【0066】
上述した各実施形態は、本発明の一例に過ぎず、該記載により本願発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的構成は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:表面溶融炉
10:外筒
11:周壁
12:底部
13:出滓口
14:水冷管
20:内筒
21:側壁
22:炉天井
23:水冷管
30:ノズル機構
31:空気供給部
32:補修材供給部
33:回動機構
36:補修材供給管
37:冷却ジャケット
38:先端
39:耐火物層