特許第6543555号(P6543555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543555
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】防煙装置
(51)【国際特許分類】
   A62C 2/06 20060101AFI20190628BHJP
   E06B 9/02 20060101ALI20190628BHJP
   E06B 5/16 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   A62C2/06 508
   E06B9/02 H
   E06B5/16
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-210182(P2015-210182)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2017-79950(P2017-79950A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188547
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】川西 庄一郎
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−019597(JP,U)
【文献】 実開平06−048702(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0150533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00−99/00
E06B 5/16
E06B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内に設置されて、開口部を防煙状態にすることが可能な防煙装置であって、
第1防煙カーテンと、
第2防煙カーテンと、を備え、
前記第1防煙カーテンは、略方形状で耐熱性の防煙シートである第1防煙シートと、当該第1防煙シートの一辺に設けられた第1固定部材を有し、
前記第2防煙カーテンは、略方形状で耐熱性の防煙シートである第2防煙シートと、当該第2防煙シートの一辺に設けられた第2固定部材を有し、
前記開口部の天井の部分に前記第1防煙シートの他辺及び前記第2防煙シートの他辺が固定され、
前記第1防煙シートを巻き回さずに、前記第1固定部材が天井の部分に着脱可能に固定され、
前記第2防煙シートを巻き回さずに、前記第2固定部材が前記第1固定部材の固定場所とは逆方向の天井の部分に着脱可能に固定され、
前記第1固定部材と前記第2固定部材の天井の部分への固定が解放されると、前記第1防煙カーテン及び前記第2防煙カーテンが前記開口部で垂れ下がり、前記開口部を防煙状態にする防煙装置。
【請求項2】
前記開口部を防煙状態とした際に、前記第1防煙カーテンと前記第2防煙カーテンが互いに重なる被り部を有することを特徴とする請求項1に記載の防煙装置。
【請求項3】
前記開口部を防煙状態とした際に、前記第1防煙シート及び前記第2防煙シートの側部が湾曲して前記開口部の側壁部分に当接することを特徴とする請求項1または2に記載の防煙装置。
【請求項4】
前記開口部を防煙状態とした際に垂れ下がった前記第1固定部材及び前記第2固定部材の高さは、前記開口部における手すりよりも高い位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防煙装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災発生の際に避難者を煙から守る防煙装置に関する。
【0002】
入院患者や高齢者等の要介助者は災害弱者であり、病院や高齢者施設において火災発生時の避難の際に、健常者に比べて移動に時間が掛かる。とくに、車椅子の利用者にとって、廊下等での移動は水平避難であるため、比較的移動しやすいが、階段等を降りる垂直避難は自力では困難であり、介助者が必要となる。車椅子利用者の階段降下は、介助者にとっても大変な作業となる。火災時の避難において、人員が豊富で介助者が多数いれば問題ないが、とくに小さな施設においては、人員確保が難しく、特に夜間にはごく少数の人員での対応になってしまう。近年、高齢者向け福祉施設では、火災事故が発生すると多くの死者が発生している。
【0003】
これに対して、火災発生時の避難の際に、逃げ込むエリアである一時避難エリアを形成して、要介助者も一旦安全な一時避難エリアに全員誘導した後に、時間をかけて屋外へ完全に避難するという運用もできる。ただし、一時避難エリアとして、いわゆる防火区画を形成しようとすると、原則として耐火構造の場所で、開口部を防火戸で閉鎖することが必要になる。こういった堅牢な構造による一時避難エリアの確保は、重厚で、高額の費用が発生し、特に小さな施設においては強度面や費用面で設置することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭49−35779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、垂れ幕により防煙する技術が記載されている。しかし、特許文献1の垂れ幕は、扉に設けたシャッターボックスの巻込み軸に巻かれて設置されているため軸の保持機構が必要となって構造的に複雑であり、火災時に確実に垂れ幕を下すことが困難であった。加えて、垂れ幕とシャッターボックスとの間に隙間が発生してしまうため、その隙間を塞ぐ構造が必要になるとともに、設置してから年月を経ると、垂れ幕下部の重錘によって垂れ幕が徐々に下がってしまう可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、以下の構成を有する。
【0007】
(1)本発明は、屋内に設置されて、開口部を防煙状態にすることが可能な防煙装置であって、第1防煙カーテンと、第2防煙カーテンと、を備え、前記第1防煙カーテンは、略方形状で耐熱性の防煙シートである第1防煙シートと、当該第1防煙シートの一辺に設けられた第1固定部材を有し、前記第2防煙カーテンは、略方形状で耐熱性の防煙シートである第2防煙シートと、当該第2防煙シートの一辺に設けられた第2固定部材を有し、前記開口部の天井の部分に前記第1防煙シートの他辺及び前記第2防煙シートの他辺が固定され、前記第1防煙シートを巻き回さずに、前記第1固定部材が天井の部分に着脱可能に固定され、前記第2防煙シートを巻き回さずに、前記第2固定部材が前記第1固定部材の固定場所とは逆方向の天井の部分に着脱可能に固定され、前記第1固定部材と前記第2固定部材の天井の部分への固定が解放されると、前記第1防煙カーテン及び前記第2防煙カーテンが前記開口部で垂れ下がり、前記開口部を防煙状態にする防煙装置である。
【0008】
本発明によれば、防煙シートを天井面から展開することが可能であり、比較的単純で安価な構造の火災時に防煙カーテンを展開する防煙装置を実現することができる。
【0009】
(2)また、本発明は、前記開口部を防煙状態とした際に、前記第1防煙カーテンと前記第2防煙カーテンが互いに重なる被り部を有することを特徴とする(1)に記載の防煙装置である。
【0010】
本発明によれば、第1防煙カーテンと第2防煙カーテンの間に隙間を設けずに、煙の進入を防ぐことができる。
【0011】
(3)また、本発明は、前記開口部を防煙状態とした際に、前記第1防煙シート及び前記第2防煙シートの側部が湾曲して前記開口部の側壁部分に当接することを特徴とする(1)または(2)に記載の防煙装置である。
【0012】
本発明によれば、開口部の壁側部分と防煙シートとの間に隙間が生じず、隙間からの煙の進入を防ぐことができる。
【0013】
(4)また、本発明は、前記開口部を防煙状態とした際に垂れ下がった前記第1固定部材及び前記第2固定部材の高さは、前記開口部における手すりよりも高い位置であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の防煙装置である。
【0014】
本発明によれば、病院や高齢者施設等の手すりが設置されている施設においても、展開時に防煙カーテンが手すりに干渉しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価な設備により火災発生時に要介助者等を避難させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】天井に設けられた設置状態の防煙装置を床方向から見た図。
図2図1におけるA−A線断面図。
図3】開口部を防煙状態とした際の第1防煙カーテン1、第2防煙カーテン2を面方向から見た図。
図4図3におけるB−B線断面図。
図5】実施形態の変形例におけるB−B線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形が行われてもよい。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
本実施形態は、屋内に設置されて、開口部を防煙状態にすることが可能な防煙装置である。開口部は、例えば高齢者向け福祉施設における居室が並ぶ廊下から階段にかかる箇所であって、この施設にはスプリンクラ設備が設けられていて、火災時の熱はスプリンクラ設備からの放水によって抑え込まれる。
【0018】
図1は、天井に設けられた設置状態の防煙装置を床方向から見た図である。第1防煙カーテン1は、略方形状で耐熱性の防煙シートである第1防煙シート11と、第1防煙シート11の一辺に設けられた第1固定部材12を有している。また同様に、第2防煙カーテン2は、略方形状で耐熱性の防煙シートである第2防煙シート21と、第2防煙シート21の一辺に設けられた第2固定部材22を有している。第1防煙シート11と第2防煙シート21の他辺は、開口部の天井の部分である枠体上部41に固定されている。設置状態において、第1固定部材は天井の部分に着脱可能に固定されており、第2固定部材は、第1固定部材の固定場所とは逆方向の天井の部分に着脱可能に固定されている。この時、第1防煙シートと第2防煙シートは巻き回されていない。また、第1防煙シート11と第2防煙シート21の横幅は枠体上部41の幅よりもやや大きく、側壁部分である枠体側部42と接する場所では第1防煙シート11と第2防煙シート21の側部が上向きとなるように湾曲している。
【0019】
第1防煙シート11と第2防煙シート21は、ポリエステルのシートにポリ塩化ビニル樹脂をコーティングしたものであり、防煙性とともに透明性を備えている。また、摂氏80〜120度の高温でもほぼ変化せず、寸法安定性と視認性を損なわない耐熱性を有している。第1防煙シート11と第2防煙シート21が透明性を有していることにより、一時避難エリアの側から煙等の様子をうかがうことができるとともに、避難してくる要介助者等を視認して受け入れることができる。また、一時避難エリアの反対側からは、何人程度の要介助者等が避難しているか等の一時避難エリア内の様子を視認することができる。
【0020】
図2は、図1におけるA−A線断面図である。枠体上部41と鉄板5は天井に固定されている。第1固定部材12と第2固定部材22には磁石(図示せず)が内蔵されており、鉄板5に着脱可能に固定されている。この磁石としてはネオジム磁石を用いるが、適切な固定強度があればどのようなものでも良い。一方、第1防煙シート11と第2防煙シート21は枠体上部41に固定されている。第1固定部材12と第2固定部材22には、先端に引き球が設けられた引き紐6が取り付けられている。引き紐6は邪魔にならないように壁近くで垂下するように設けられることが好ましい。
病院や高齢者施設等で火災が発生すると、看護師や介護者等の介助者は要介助者を一時避難エリアへ避難させてから引き紐6を引く。これにより、第1固定部材12と第2固定部材22は鉄板5から解放され、展開して防煙状態となる。
【0021】
図3は、開口部を防煙状態とした際の第1防煙カーテン1、第2防煙カーテン2を面方向から見た図である。垂下した第1防煙カーテン1と第2防煙カーテン2により、開口部3の上部が閉鎖されて防煙状態となっている。この時、中央部では、第1防煙カーテン1と第2防煙カーテン2が互いに重なって被り部7となる。本実施の形態において、第1防煙カーテン1及び第2防煙カーテン2は、枠体上部41と枠体側部42を有した枠体4を用いて設置されている。これによって、既存の施設に追加設置する場合にも、壁面や天井面を加工せずに設置することが可能であり、設置位置を移動させたい場合に対応しやすい。
【0022】
病院や高齢者施設等には壁面に手すりが設けられている場合が多い。本実施の形態では展開状態で手すり8に当たらないように、第1固定部材12と第2固定部材22の高さは、手すり8より高い位置となっている。この結果、第1防煙カーテン1および第2防煙カーテン2の長さは短く、それぞれが天井面を占める幅は少なくてすむ。また、被り部7で第1固定部材12と第2固定部材22が着脱可能に固定されるように、磁石は適切な方向と配置で第1固定部材12と第2固定部材22に内蔵されている。なお、第1防煙カーテン1および第2防煙カーテン2の下端を手すり8より高くすることで下部の開口は大きくなるが、火災の煙は天井の近傍を移動するため、一時避難した災害弱者が階段を下りるまでの時間として防煙機能を果たすことができる。
【0023】
図4は、図3におけるB−B線断面図である。第1固定部材12と第2固定部材22が着脱可能に固定されているため、被り部7では第1防煙シート11と第2防煙シート21が密着している。また、第1防煙シート11と第2防煙シート21の横幅は枠体上部41の幅よりもやや大きいため、その側部に湾曲9が生じる。これにより、第1防煙シート11と第2防煙シート21は側壁部分である枠体側部42に当接するため、側壁部分との隙間による煙の進入を防ぐ。
【0024】
図5は、実施形態の変形例におけるB−B線断面図である。変形例においては、第1防煙シート11と第2防煙シート21における被り部7に縦方向の凸条71を設けている。これにより被り部7での密着度が増すため、煙の進入をより一層防ぐごとができる。凸条71の代わりに、第1固定部材と第2固定部材の互いに向き合う位置に磁石を設けて展開状態で互いに磁着するようにしても良い。
【0025】
第1固定部材12と第2固定部材22の天井の部分への固定は、着脱可能であれば磁石によらなくてもよい。なお、電磁式の機構を採用し、図示しない火災受信機からの作動信号によって、火災発生時に自動的に解放する機構としてもよい。また、固定は天井に直接固定してもよく、何らかの部材を介してもよい。防煙カーテンは複数であれば何枚であってもよい。さらに、実施の形態では展開状態の第1防煙シート11と第2防煙シート21は湾曲9により枠体側部42に密着するようにしたが、枠体側部42の幅を狭くして、直接的に壁に密着するようにしてもよい。また、枠体4を設けずに、直接的に第1防煙シート11と第2防煙シート21を天井に固定してもよい。第1防煙シート11と第2防煙シート21は、実施態様のように透明性を有していてもよいが、透明性がなくてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 第1防煙カーテン、11 第1防煙シート、12 第1固定部材、2 第2防煙カーテン、21 第2防煙シート、22 第2固定部材、3 開口部、4 枠体、41 枠体上部、42 枠体側部、5 鉄板、6 引き紐、7 被り部、71 凸条、8 手すり、9 湾曲
図1
図2
図3
図4
図5