(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の製造方法では、平板となる強化繊維積層体の両側を湾曲させることで、上面、肩部及び側面を形成している。そして、湾曲して形成される強化繊維積層体の肩部に対して、強化繊維積層体の外側から押し圧を加える。強化繊維積層体の外側から押し圧を加えると、強化繊維積層体の肩部において、その厚さが薄くなる。このとき、強化繊維積層体の厚み方向の外側の周長が短くなる。厚み方向の外側の周長が短くなると、短くなった分だけ強化繊維積層体の余剰が発生し、この余剰によって、強化繊維積層体の肩部の外側に皺(リンクル)が発生し易くなることから、リンクル等の成形不良の発生を抑制することが困難となる。
【0005】
そこで、本発明は、湾曲するコーナー部における成形不良の発生を好適に抑制することができる複合材の成形方法、複合材の成形用治具及び複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合材の成形方法は、湾曲するコーナー部が形成される複合材の成形方法において、第1曲げ角度で湾曲する前記コーナー部を有すると共に繊維シートを積層した積層体に対して、前記コーナー部の外側から内側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第1賦形工程と、前記第1曲げ角度よりも小さな第2曲げ角度となるように、前記積層体の前記コーナー部を湾曲させ、前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第2賦形工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第1賦形工程において、第1曲げ角度となるコーナー部を有する積層体に対し、積層体の外側から内側に向かって板厚が薄くなることで、積層体の緻密化を図ることができる一方で、コーナー部の外側の周長が短くなる。そして、第2賦形工程において、積層体を第2曲げ角度で湾曲させることで、コーナー部の外側の周長を伸ばすことができる。このように、第1賦形工程において、コーナー部の外側の周長が短くなることで発生する積層体の余剰部分を、第2賦形工程において、コーナー部の外側の周長を伸ばし、積層体の余剰部分を引き延ばすことで、発生した積層体の余剰部分を相殺することができる。よって、積層体のコーナー部の外側におけるリンクルの発生を好適に抑制することができ、コーナー部における成形不良の発生を抑制できる。なお、第1賦形工程では、コーナー部の内側が接する雄型を用いて、積層体を賦形し、第2賦形工程では、雄型、またはコーナー部の外側が接する雌型を適宜用いて、積層体を賦形している。また、繊維シートは、ドライとなるものであってもよいし、樹脂を含浸したプリプレグであってもよい。また、第1賦形工程では、繊維シートを積層した平板状の積層体を、第1曲げ角度で湾曲させて、コーナー部を形成してもよいし、繊維シートを第1曲げ角度で湾曲させつつ積層することで、コーナー部を有する積層体を形成してもよい。
【0008】
本発明の他の複合材の成形方法は、湾曲するコーナー部が形成される複合材の成形方法において、第1曲げ角度で湾曲する前記コーナー部を有すると共に繊維シートを積層した積層体に対して、前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第1賦形工程と、前記第1曲げ角度よりも小さな第2曲げ角度となるように、前記積層体の前記コーナー部を湾曲させ、前記コーナー部の内側から外側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第2賦形工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第2賦形工程において、第2曲げ角度となるコーナー部を有する積層体に対し、積層体の外側から内側に向かって板厚を薄くすると、コーナー部の内側の周長が長くなる。この場合、コーナー部の内側において積層体が突っ張ることから、コーナー部の緻密化が困難となり、コーナー部における繊維含有率が低下する。このため、第2賦形工程において、積層体を第1曲げ角度から第2曲げ角度となるように湾曲させることで、コーナー部の内側を縮ませてコーナー部の内側に余剰部分を予め発生させる。そして、第2賦形工程において、コーナー部の内側から外側に向かって積層体の板厚を薄くするときに、積層体の余剰部分があるため、コーナー部の内側の周長を好適に伸ばすことができる。このように、第2賦形工程において、コーナー部の内側の周長が長くなることで発生する積層体の突っ張りを、コーナー部の内側に積層体の余剰部分を予め発生させた状態で、コーナー部の内側の周長を長くすることで、積層体の突っ張りを抑制することができる。よって、積層体のコーナー部の内側における積層体の突っ張りを抑制することで、コーナー部の緻密化を好適に行うことができ、コーナー部における成形不良の発生を抑制できる。なお、第1賦形工程では、コーナー部の外側が接する雄型またはコーナー部の外側が接する雌型を適宜用いて、積層体を賦形し、第2賦形工程では、雌型を用いて、積層体を賦形している。また、繊維シートは、ドライとなるものであってもよいし、樹脂を含浸したプリプレグであってもよい。また、第1賦形工程では、繊維シートを積層した平板状の積層体を、第1曲げ角度で湾曲させて、コーナー部を形成してもよいし、繊維シートを第1曲げ角度で湾曲させつつ積層することで、コーナー部を有する積層体を形成してもよい。
【0010】
また、前記第1賦形工程では、前記コーナー部の内側が接する雄型を用いて、前記コーナー部の外側から内側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形し、前記第2賦形工程では、前記コーナー部の外側が接する雌型を用いて、前記コーナー部の内側から外側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形することが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、第1賦形工程において、コーナー部の内側に雄型が接するため、コーナー部の内側の周長の変化を抑制することができる。このため、第1賦形工程において、コーナー部の外側から内側に向かって積層体の板厚が薄くなるように、積層体を好適に賦形することができる。また、第2賦形工程において、コーナー部の外側に雌型が接するため、コーナー部の外側の周長の変化を抑制することができる。このため、第2賦形工程において、コーナー部の内側から外側に向かって積層体の板厚が薄くなるように、積層体を好適に賦形することができる。以上から、第2賦形工程において、積層体を第1曲げ角度から第2曲げ角度となるように湾曲させることで、コーナー部の外側の周長を伸ばしつつ、コーナー部の内側を縮ませてコーナー部の内側に余剰部分を発生させることができる。そして、第2賦形工程において、コーナー部の内側から外側に向かって積層体の板厚を薄くすることで、コーナー部の内側の周長を伸ばすことができる。このように、コーナー部を湾曲させることによりコーナー部の外側の周長を伸ばすことで、積層体のコーナー部の外側におけるリンクルの発生を好適に抑制することができる。また、コーナー部を湾曲させてコーナー部の内側に余剰部分を発生させつつ、積層体の板厚を薄くしてコーナー部の内側の周長を伸ばすことで、積層体の突っ張りを抑制し、コーナー部の緻密化を好適に行うことができる。
【0012】
また、前記複合材は、前記コーナー部が直角となるスパーであり、前記第2曲げ角度は、直角となる角度であり、前記第1曲げ角度は、直角よりも大きい鈍角であることが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、コーナー部が直角となるスパーを成形する場合において、コーナー部の成形不良の発生が好適に抑制された複合材を成形することができる。
【0014】
本発明の成型用治具は、湾曲するコーナー部が形成される複合材の成形用治具であって、第1曲げ角度で湾曲する前記コーナー部を有すると共に繊維シートを積層した積層体を形成すると共に、前記コーナー部の外側から内側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第1成形型と、前記第1曲げ角度よりも小さな第2曲げ角度となるように、前記積層体の前記コーナー部を湾曲させ、前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第2成形型と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第1成形型及び第2成形型を用いることで、コーナー部におけるリンクルの発生が好適に抑制された複合材を成形することができる。
【0016】
本発明の他の成型用治具は、湾曲するコーナー部が形成される複合材の成形用治具であって、第1曲げ角度で湾曲する前記コーナー部を有すると共に繊維シートを積層した積層体を形成すると共に、前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第1成形型と、前記第1曲げ角度よりも小さな第2曲げ角度となるように、前記積層体の前記コーナー部を湾曲させ、前記コーナー部の内側から外側に向かって前記積層体の板厚が薄くなるように、前記積層体を賦形する第2成形型と、を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1成形型及び第2成形型を用いることで、コーナー部が好適に緻密化された複合材を成形することができる。
【0018】
また、前記第1成形型は、前記コーナー部の内側が接する雄型であり、前記第2成形型は、前記コーナー部の外側が接する雌型であることが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、コーナー部におけるリンクルの発生が好適に抑制され、また、コーナー部が好適に緻密化された複合材を成形することができる。
【0020】
本発明の複合材は、湾曲するコーナー部と、前記コーナー部に連なる直線部と、を備え、前記コーナー部の厚みが、前記直線部に比して厚く、前記コーナー部の繊維含有率が、前記直線部の繊維含有率に比して低くなることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、コーナー部における成形不良の発生が好適に抑制された複合材とすることができる。また、成形過程で10%程度の緻密化が生じる材料を用いる場合、コーナー部においても7%以上緻密化させることができ、直線部とコーナー部の繊維含有率の差分を3%以下に抑えられ、コーナー部及び直線部における繊維含有率の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0024】
[実施形態1]
実施形態1に係る複合材1の成形方法は、例えば、航空機の機体等を構成する複合材1を成形するための方法である。複合材1としては、例えば、
図1に示すスパー10等がある。なお、本実施形態では、
図1に示す複合材1に適用して説明するが、この複合材1に限定されるものではない。
【0025】
図1は、実施形態1に係る複合材の成形方法によって成形される複合材の一例としてのスパーを示す斜視図である。
図2は、実施形態1に係る複合材の成形方法に用いられる第1成形型を示す模式図である。
図3は、実施形態1に係る複合材の成形方法に用いられる第2成形型を示す模式図である。
図4は、実施形態1に係る複合材の成形方法に関する説明図である。
【0026】
複合材1の成形方法の説明に先立ち、
図1を参照して、この成形方法によって成形される複合材1について説明する。
図1に示す複合材1は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)を用いて構成されている。この複合材1は、両側が折り曲げられた繊維シートを積層した積層体3を成形した後、折り曲げられた積層体3に樹脂を含浸させて硬化させることにより成形される。なお、積層体3の繊維シートの層間には、接着または粘着の機能を有する樹脂が介在している。
【0027】
図1に示すスパー10であれば、積層体3は、スパー10の幅方向における両側が湾曲することで、コーナー部10cが形成されている。つまり、スパー10は、幅方向の中央部10aと、中央部10aの幅方向両側に形成され、中央部10aに対して垂直となる一対の側面部10bと、中央部10aと一対の側面部10bとの間に形成される一対のコーナー部10cとを有している。このとき、中央部10a及び一対の側面部10bが、湾曲しない直線部となっている。このように、
図1に示すスパー10であれば、積層体3は、その一対の側面部10bが、中央部10aに対して湾曲することで、二次元的に湾曲し、湾曲するコーナー部10cが形成される。
【0028】
図1に示すスパー10は、所定の成形用治具30を用いて成形される。成形用治具30は、第1曲げ角度φ
2で湾曲するコーナー部10cを有する積層体3を成形する第1成形型31と、第1曲げ角度φ
2よりも小さな第2曲げ角度φ
1となるように、積層体3のコーナー部10cを湾曲させる第2成形型32とを有している。ここで、第1曲げ角度φ
2は、中央部10aの外面と側面部10bの外面とが為す角度であり、例えば、90°よりも大きな鈍角な角度となっている。また、第2曲げ角度φ
1は、中央部10aの外面と側面部10bの外面とが為す角度であり、例えば、90°(直角)となる角度となっている。
【0029】
第1成形型31は、
図2に示すように、コーナー部10cの内側が接する雄型となっている。第1成形型31は、第1曲げ角度φ
2で湾曲するコーナー部10cを有する積層体3を成形すると共に、コーナー部10cの外側から内側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3を緻密化させて賦形するために使用される。ここで、第1成形型31では、繊維シートを積層した平板状の積層体3を、第1曲げ角度φ
2で湾曲させて、コーナー部10cを成形してもよいし、繊維シートを第1曲げ角度φ
2で湾曲させつつ積層することで、コーナー部10cを有する積層体3を成形してもよい。
【0030】
第1成形型31は、雄型材41を有しており、雄型材41は、上面部41aと、上面部41aの幅方向両側に形成され、上面部41aに対して第1曲げ角度φ
2となる一対の側面部41bと、上面部41aと一対の側面部41bとの間に形成される一対のコーナー部41cとを有している。
【0031】
上面部41aの外側の面には、積層体3の中央部10aの内側が接する。一対の側面部41bの外側の面には、積層体3の一対の側面部41bの内側が接する。一対のコーナー部41cの外側の面には、積層体3の一対のコーナー部10cの内側が接する。
【0032】
雄型材41は、バギングフィルム42で覆われる。バギングフィルム42は、雄型材41に設置された積層体3を覆うと共に、雄型材41との間にシール材43が設けられることで、その内部を気密に封止している。そして、気密に封止されたバギングフィルム42の内部雰囲気を、吸引口44を介して真空引きすると共に、図示しない加熱装置によって加熱されることで、積層体3を緻密化する。このとき、加熱装置によって積層体3が加熱されることで、積層体3の繊維シートの層間の樹脂が溶融する。このため、真空解放された緻密化後の積層体3は、その形状が層間の樹脂によって保持されることから、緻密化前の積層体3の形状に戻ることを抑制できる。
【0033】
このように、積層体3のコーナー部10cの内側には、雄型材41が接するため、コーナー部10cの内側の周長の変化が抑制される。そして、第1成形型31では、コーナー部10cの外側から内側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3が賦形される。
【0034】
第2成形型32は、
図3に示すように、コーナー部10cの外側が接する雌型となっている。第2成形型32は、積層体3を第1曲げ角度φ
2よりも小さな第2曲げ角度φ
1で湾曲させてコーナー部10cを形成すると共に、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3を賦形するものとなっている。
【0035】
第2成形型32は、雌型材51を有しており、雌型材51は、底面部51aと、底面部51aの幅方向両側に形成され、底面部51aに対して第2曲げ角度(垂直)となる一対の側面部51bと、底面部51aと一対の側面部51bとの間に形成される一対のコーナー部51cと、一対の側面部51bの上部から外側に突出する一対のフランジ部51dとを有している。
【0036】
底面部51aの内側の面には、折り曲げられた積層体3の中央部10aの外側が接する。一対の側面部51bの内側の面には、折り曲げられた積層体3の一対の側面部10bの外側が接する。一対のコーナー部51cの内側の面には、折り曲げられた積層体3の一対のコーナー部10cの外側が接する。
【0037】
雌型材51は、バギングフィルム52で覆われる。バギングフィルム52は、雌型材51に設置された積層体3を覆うと共に、雌型材51との間にシール材53が設けられることで、その内部を気密に封止している。そして、気密に封止されたバギングフィルム52の内部雰囲気を、吸引口54を介して真空引きしつつ樹脂材が充填され、図示しない加熱装置によって加熱されることで、樹脂材が熱硬化し、スパー10が成形される。
【0038】
このように、積層体3のコーナー部10cの外側には、雌型材51が接するため、コーナー部10cの外側の周長の変化が抑制される。このため、第2成形型32では、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3が賦形される。
【0039】
次に、
図4を参照して、複合材の成形方法について説明する。この複合材の成形方法は、ドライ状態の繊維シートを用いた成型方法となっており、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)成形、RTM(Resin Transfer Molding)成形、インフュージョン成形等が適用可能となっている。なお、以下の説明では、
図1に示すスパー10を成形する場合について説明する。
【0040】
図4に示すように、この成形方法では、先ず、第1成形型31の雄型材41の形状に倣って、第1曲げ角度φ
2で湾曲するコーナー部10cを有する積層体3を成形する(ステップS1:第1賦形工程)。具体的に、第1賦形工程S1では、コーナー部10cの内側の周長が、中心点Pを中心に所定の曲率半径R1’となるように、角度範囲θ2において、積層体3が成形される。つまり、所定の曲率半径R1’で湾曲する角度範囲θ2の部位が、積層体3のコーナー部10cとなっている。ここで、角度範囲θ2は、例えば、80°となっている。
【0041】
また、第1賦形工程S1では、コーナー部10cの外側から内側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように真空加熱し、積層体3の緻密化が行われる。具体的に、第1賦形工程S1では、コーナー部10cの外側の周長が、中心点Pを中心に所定の曲率半径R2’から、所定の曲率半径R3となるように、積層体3の板厚が薄く成形される。なお、曲率半径R3は、曲率半径R2’よりも短い曲率半径となる。
【0042】
続いて、第1曲げ角度φ
2となる積層体3を、第2成形型32の雌型材51に嵌め入れることで、第2成形型32の雌型材51の形状に倣って、第1曲げ角度φ
2よりも小さな第2曲げ角度φ
1(直角)となるように、積層体3のコーナー部10cを湾曲させる(ステップS2:第2賦形工程)。具体的に、第2賦形工程S2では、コーナー部10cの内側の周長が、中心点Pを中心に所定の曲率半径R1’となるように、角度範囲θ2よりも広角となる角度範囲θ1において、積層体3が湾曲させられる。つまり、所定の曲率半径R1’で湾曲する角度範囲θ1の部位が、積層体3のコーナー部10cとなっている。ここで、角度範囲θ1は、例えば、90°となっている。
【0043】
また、第2賦形工程S2では、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように真空加熱し、積層体3の緻密化が行われる。具体的に、第2賦形工程S2では、コーナー部10cの内側の周長が、中心点Pを中心に所定の曲率半径R1’から、所定の曲率半径R1となるように、積層体3の板厚が薄く成形される。なお、曲率半径R1は、曲率半径R1’よりも長い曲率半径となる。
【0044】
そして、第2賦形工程S2では、積層体3に樹脂を注入しつつ、高温高圧の環境下において、樹脂を熱硬化させることで、スパー10が成形される(ステップS3)。成形されたスパー10は、内側の周長における曲率半径がR1となり、外側の周長における曲率半径がR3となり、中央部10aと側面部10bとが為す曲げ角度が直角となる形状となる。
【0045】
ここで、第1賦形工程S1及び第2賦形工程S2において変化する積層体3のコーナー部10cにおける外側の周長について説明する。第1賦形工程S1において、曲率半径R2’から曲率半径R3となるように積層体3の板厚が変化する場合、板厚変化前後における積層体3の外側の周長差は、「2π(R2’−R3)×(θ2/360°)・・・(1)」となる。つまり、積層体3の板厚が薄くなることで、積層体3の外側の周長が短くなるため、余剰分が発生する。
【0046】
この後、第2賦形工程S2において曲げ角度が変化する場合、角度変化による積層体3の内側と外側との周長差は、「((R3−R1)/2)×tan(θ2−θ1)・・・(2)」となる。つまり、積層体3の角度範囲θ2から角度範囲θ1となることで、積層体3の外側の周長が伸ばされる。このため、余剰分の一部が、外側の周長の繊維伸びによって相殺される。つまり、(1)式から(2)式を減算することで、最終的な余剰分となる周長差は、ΔL’(=(1)式−(2)式)となる。
【0047】
よって、積層体3のコーナー部10cにおける外側の周長においては、第1賦形工程S1において積層体3のコーナー部10cの外側に発生する余剰分を、第2賦形工程S2において第1曲げ角度φ
2から第2曲げ角度φ
1に湾曲させることで、コーナー部10cの外側の余剰分を引き延ばすことができる。
【0048】
次に、第1賦形工程S1及び第2賦形工程S2において変化する積層体3のコーナー部10cにおける内側の周長について説明する。第2賦形工程S2において、曲げ角度が変化する場合、角度変化による積層体3の内側と外側との周長差は、「((R3−R1)/2)×tan(θ2−θ1)・・・(2)」となる。つまり、積層体3の角度範囲θ2から角度範囲θ1となることで、積層体3の内側の周長が短くなるため、余剰分が発生する。
【0049】
この後、第2賦形工程S2において、曲率半径R1’から曲率半径R1となるように積層体3の板厚が変化する場合、板厚変化前後における積層体3の内側の周長差は、「2π(R1−R1’)×(θ1/360°)・・・(3)」となる。つまり、積層体3の板厚が薄くなることで、積層体3の内側の周長が伸ばされる。このため、余剰分の一部が、内側の周長の繊維伸びによって相殺される。つまり、(3)式から(2)式を減算することで、最終的な繊維伸びとなる周長差は、ΔL(=(3)式−(2)式)となる。
【0050】
よって、積層体3のコーナー部10cにおける内側の周長においては、第2賦形工程S2において第1曲げ角度φ
2から第2曲げ角度φ
1に湾曲させ、積層体3のコーナー部10cの内側に予め余剰分を発生させることで、第2賦形工程S2においてコーナー部10cの内側の周長が伸ばされたとしても、コーナー部10cの内側における繊維の突っ張りを抑制することができる。
【0051】
このように成形されるスパー10は、コーナー部10cの厚みが、直線部となる中央部10a及び一対の側面部10bの厚みに比して僅かに厚く形成される。これは、積層体3のコーナー部10cを緻密化するためには、コーナー部10cの内側の周長がΔL分だけ伸びなければならないが、コーナー部10cの内側の繊維が僅かに突っ張るからである。このため、コーナー部10cの繊維含有率は、中央部10a及び一対の側面部10bの繊維含有率に比して低くなっている。そして、成形過程において、中央部10a及び一対の側面部10bの厚みが10%程度薄くなるような緻密化を生じさせる材料を用いる場合、コーナー部10cにおいても7%以上緻密化させることができる。よって、コーナー部10cの繊維含有率と、中央部10a及び一対の側面部10bの繊維含有率との差分は、3%以下にすることができ、より好適には、1%程度にすることができる。
【0052】
以上のように、実施形態1によれば、第1賦形工程S1において、第1曲げ角度φ
2となるコーナー部10cを有する積層体3に対し、積層体3の外側から内側に向かって板厚が薄くなることで、積層体3の緻密化を図ることができる一方で、コーナー部10cの外側の周長が短くなる。そして、第2賦形工程S2において、積層体3を第2曲げ角度φ
1で湾曲させることで、コーナー部10cの外側の周長を伸ばすことができる。このように、第1賦形工程S1において、コーナー部10cの外側の周長が短くなることで発生する積層体3の余剰部分を、第2賦形工程S2において、コーナー部10cの外側の周長を伸ばし、積層体3の余剰部分を引き延ばすことで、発生した積層体3の余剰部分を相殺することができる。よって、積層体3のコーナー部10cの外側におけるリンクルの発生を好適に抑制することができ、コーナー部10cにおける成形不良の発生を抑制できる。
【0053】
また、実施形態1によれば、第2賦形工程S2において、積層体3を第1曲げ角度φ
2から第2曲げ角度φ
1となるように湾曲させることで、コーナー部10cの内側に予め余剰部分を発生させることができる。そして、第2賦形工程S2において、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚を薄くするときに、余剰部分があるため、コーナー部10cの内側の周長を好適に伸ばすことができる。よって、積層体3のコーナー部10cの内側における繊維の突っ張りを抑制することができ、コーナー部10cの緻密化を好適に行うことができることから、コーナー部10cにおける成形不良の発生を抑制できる。
【0054】
また、実施形態1によれば、第1賦形工程S1において、第1成形型31を用いることにより、コーナー部10cの内側に雄型材41が接するため、コーナー部10cの内側の周長の変化を抑制することができる。このため、第1賦形工程S1において、コーナー部10cの外側から内側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3を好適に賦形することができる。また、第2賦形工程S2において、コーナー部10cの外側に雌型材51が接するため、コーナー部10cの外側の周長の変化を抑制することができる。このため、第2賦形工程S2において、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚が薄くなるように、積層体3を好適に賦形することができる。このため、コーナー部10cの外側の周長を好適に伸ばすことができ、積層体3のコーナー部10cの外側におけるリンクルの発生を好適に抑制することができる。また、コーナー部10cを湾曲させてコーナー部10cの内側に余剰部分を発生させつつ、積層体3の板厚を薄くしてコーナー部10cの内側の周長を好適に伸ばすことができるため、積層体3の突っ張りを抑制し、コーナー部10cの緻密化を好適に行うことができる。
【0055】
また、実施形態1によれば、コーナー部10cの曲げ角度が直角となるスパーを成形する場合であっても、コーナー部10cにおける成形不良の発生が好適に抑制されたスパー10を成形することができる。
【0056】
また、実施形態1によれば、コーナー部10cにおける成形不良の発生が好適に抑制されたスパー10を提供することができる。また、コーナー部10cの繊維含有率と、中央部10a及び一対の側面部10bの繊維含有率との差分を3%以下にできることから、スパー10全体の繊維含有率の均一化を図ることができる。
【0057】
なお、実施形態1では、ドライ状態の炭素繊維シートを用いて積層体3を形成したが、繊維シートは、炭素繊維に限定されず、ガラス繊維やアラミド繊維といった他の材料の繊維シートでも良いし、さらに、繊維シートに予め樹脂を含浸したプリプレグを用いてもよい。この場合、第2賦形工程S2において、樹脂材を多めに充填し、また、成形時において樹脂材を適宜排出して充填量を調整することが好ましい。
【0058】
また、実施形態1では、第1賦形工程S1において、雄型材41を用い、第2賦形工程S2において、雌型材51を用いたが、この構成に特に限定されない。第1賦形工程S1及び第2賦形工程S2において、同型となる雄型または雌型の成形型を用いてもよい。
【0059】
また、実施形態1では、コーナー部10cが直角となるスパー10に適用して説明したが、適用される複合材1は、特に限定されない。例えば、スパー10であっても、コーナー部10cが80°〜110°であってもよいし、または、コーナー部10cが45°程度となるZ型の縦通材に適用してもよい。コーナー部10cが45°となる複合材であっても、第2曲げ角度φ
1は、第1曲げ角度φ
2よりも小さな角度となり、また、第1曲げ角度φ
2は、鈍角でなくてもよく、第2曲げ角度φ
1は、直角以下となる。
【0060】
[実施形態2]
次に、
図5を参照して、実施形態2に係る複合材の成形方法について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図5は、実施形態2に係る複合材の成形方法に関する説明図である。
【0061】
実施形態2の複合材の成形方法では、第1賦形工程S11において、雌型の第1成形型31Aを用い、第2賦形工程S12において、雌型の第2成形型32を用いる。なお、雌型の第1成形型31Aは、雌型の第2成形型32とほぼ同様の構成であるため説明を省略する。
【0062】
図5に示すように、実施形態2の複合材の成形方法では、先ず、第1成形型31Aの雌型材の形状に倣って、第1曲げ角度φ
2で湾曲するコーナー部10cを有する積層体3を成形する(ステップS11:第1賦形工程)。このとき、積層体3のコーナー部10cの外側には、第1成形型31Aが接するため、コーナー部10cの外側の周長の変化が抑制される。
【0063】
この後、第1曲げ角度となる積層体3を、第2成形型32の雌型材51に嵌め入れることで、第2成形型32の雌型材51の形状に倣って、第1曲げ角度よりも小さな第2曲げ角度(直角)となるように、積層体3のコーナー部10cを湾曲させる(ステップS12:第2賦形工程)。なお、第2賦形工程S12は、実施形態1の第2賦形工程S2と同様であるため、説明を省略する。
【0064】
第2賦形工程S12では、曲率半径R1’から曲率半径R1に積層体3の板厚が薄くなることで、積層体3の内側の周長が長くなるため、繊維伸びが発生する。このため、第2賦形工程S12においてコーナー部10cの内側に予め発生させた余剰分が、第2賦形工程S2の繊維伸びによって相殺される。
【0065】
以上のように、実施形態2によれば、第2賦形工程S12において、積層体3を第1曲げ角度φ
2から第2曲げ角度φ
1となるように湾曲させることで、コーナー部10cの内側に予め余剰部分を発生させることができる。そして、第2賦形工程S12において、コーナー部10cの内側から外側に向かって積層体3の板厚を薄くするときに、余剰部分があるため、コーナー部10cの内側の周長を好適に伸ばすことができる。よって、積層体3のコーナー部10cの内側における繊維の突っ張りを抑制することができ、コーナー部10cの緻密化を好適に行うことができることから、コーナー部10cにおける成形不良の発生を抑制できる。