(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543586
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】細いコード形状の導体を超音波によって溶接する方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/20 20060101AFI20190628BHJP
F16B 5/08 20060101ALI20190628BHJP
H01R 4/02 20060101ALI20190628BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20190628BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20190628BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
H01R4/20
F16B5/08 A
H01R4/02 C
H01R43/02 B
H01R43/048 Z
H01R4/62 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-36293(P2016-36293)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-162756(P2016-162756A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】10 2015 002 489.2
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2015 012 906.6
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514185921
【氏名又は名称】ジェンサーム ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルクス イスラー
【審査官】
藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3392229(JP,B2)
【文献】
特公昭46−008914(JP,B1)
【文献】
特開2004−082140(JP,A)
【文献】
特開2010−044887(JP,A)
【文献】
実開平06−073868(JP,U)
【文献】
特開2010−225449(JP,A)
【文献】
特開2005−129326(JP,A)
【文献】
特開2013−093261(JP,A)
【文献】
特開2014−100019(JP,A)
【文献】
特開平09−073963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/20
H01R 4/02
H01R 43/02
H01R 43/048
H01R 4/62
F16B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体対象(1)とコード形状の導体(3)とを有し、コード形状の導体(3)の終端片を収容するスリーブ(4)によってコード形状の導体(3)が支持体対象(1)に固定されている接触装置を形成するために、コード形状の電気的な導体(3、5、6)を支持体対象(1)と結合する方法であって、以下の方法ステップを有する:
a)回転対称であり、真鍮からなる第1の層と、真鍮よりソフトな電気的に導通する材料からなる第2の層とを備え、前記第1の層が内側に配置されており、前記第1の層と前記第2の層とが気密に結合されてなる一つの材料によって形成されているスリーブ(4)内へ、コード形状の電気的な導体(5)を導入し、
b)電気的な導体(6)がスリーブ(4)内に固定されるように、回転対称なスリーブ(4)を導体(5)とともにまずプレスし、且つスリーブ(4)をその長手軸に対する方向付けに関係なく支持体対象(1)上に位置決めできるように、プレスを回転対称に実施し、あるいは回転対称な部分を残して実施し、
c)スリーブ(4)を有する導体(5)を支持体対象(1)上に載置し、
d)導体(5)を包囲するスリーブ(4)と支持体対象(1)とを超音波を用いた溶接により、かつ/又は2回目のプレスによって、結合する。
【請求項2】
1回目のプレスが、全長にわたってではなく、部分的にのみ実施され、
スリーブ(4)と支持体対象(1)の間の結合が、プレスされないスリーブ領域内でのみ形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スリーブ(4)がプレスされない状態において回転対称の横断面を有し、プレス後も少なくとも部分的に回転対称であり続ける、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、特に請求項1の前文に記載された、接触、スリーブ、電気的な装置及び車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
銅線は、導通可能な金属に超音波技術によって溶接することができる。特に0.5mm
2を上回る横断面は、良好な引き裂き強さと結びつく。溶接する際のプレスによって、通常、材料が弱くなり、破断すべき箇所が、特に0.35mm
2以下の横断面の溶接を困難にする。引き裂き強さの減少は、この種の細い導線の使用を、もはや実際的ではなくしてしまう。溶接前にコンパクト化することも、ほとんど助けにはならない。
【0003】
より大きい横断面を得るために、開放したクリンプスリーブを使用することによって、間に合わせることが多い。ここの欠点は、結合の品質が結合薄板上のクリンプされた幾何学配置の方向性に依存しており、かつクリンプの強度が原則的に超音波エネルギによって弱められることである。というのは、クリンプ側面は単に巻き込んであるだけであって、プレスする際に再び開いてしまうことがあるからである。クリンプ内部に相対運動がもたらされることがあり、それによってクリンプも破壊されてしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これを背景として、請求項1、
8、11、14及び15の特徴を有する技術的コンセプトが提案される。他の好ましい形態は、他の請求項及び以下の説明から読み取ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特に、支持体対象1と溶接するための接点を形成するための、コード形状の導体3の終端片を収容するスリーブ4に関する。
【0006】
その場合に特に、スリーブ4が導体5の周面の回りに少なくとも局所的に360°回って閉成されていると、望ましい。それが、接触部分の境界ゾーンを腐食から保護する。
【0007】
コード形状の導体5を導入するために用いられる、少なくとも1つの差し込み開口部が、導体5、6の安定性を危険にさらす鋭いエッジを回避するために、その外径からその内径へ漏斗形状に細くなる移行部の形式の導入漏斗部を有していると、効果的である。
【0008】
導入漏斗部が0.5mmを下回る曲率半径を回避する場合に、破断すべき箇所が回避される。
【0009】
スリーブ4の両方の端部がそれぞれ導入漏斗部を有していると、取り付けが簡単になる。
【0010】
スリーブ4と導体5、6の全横断面積が少なくとも0.5mm
2であると、座屈強度が高まる。
【0011】
支持体対象1とコード形状の導体3とを有する接触装置は、コード形状の導体3が本発明に係るスリーブ4によって支持体対象に固定され、特に超音波溶接され、あるいはプレスされている場合に、好ましくは導体3がスリーブ4とプレスされている場合に、特に腐食耐性がある。
【0012】
接触装置は、プレスがスリーブ4の全長にわたってではなく、長さの一部のみにわたって実施されており、かつスリーブ4がプレスされない長さ部分において支持体対象1に固定されていると、より安定している。
【0013】
次のような接触装置、すなわち導体3の芯材の金属材料と支持体対象1の金属材料が0.3Vより大きい電気化学的な電位差を有し、かつスリーブ4が金属からなり、その金属の電気化学的電位が導体3の芯材及び支持体対象1の電位の間に位置し、その場合に好ましくは支持体対象1がアルミニウム材料から、導体3の芯材が銅材料から、そしてスリーブ4が真鍮材料又はCuZn材料からなる接触装置は、腐食問題の回避を許す。
【0014】
好ましくは、請求項7から9のいずれか1項に記載の接触装置を形成するための、コード形状の電気的な導体3、5、6を支持体対象1と結合する方法は、以下の方法ステップを有している:
a)コード形状の電気的な導体5を請求項1から6のいずれか1項に記載のスリーブ4内へ導入し、
b)電気的な導体6がスリーブ4内に固定されように、スリーブ4を導体5とともにまずプレスし、
c)スリーブ4を有する導体5を支持体対象1上に載置し、
d)導体5を包囲するスリーブ4と支持体対象1を超音波を用いた溶接により、かつ/又は2回目のプレスによって結合する。
【0015】
この種の方法は、1回目のプレスが全長にわたってではなく、部分的にのみ実施され、スリーブ4と支持体対象1の間の結合がプレスされないスリーブ領域内でのみ形成されると、特に効果的である。
【0016】
スリーブ4がプレスされない状態において回転対称の横断面を有し、かつプレス後も少なくとも部分的に回転対称であり続ける、この種の方法は、形成されるスリーブの溶接可能性を改良する。
【発明の効果】
【0017】
この種の接触装置を有する、特にアルミニウム材料からなる支持体対象1を有する、バッテリは、腐食に対して確実に保護されている。
【0018】
この種の接触装置、特に本発明に係るバッテリ、を有する車輌は、効果的である。
【0019】
本発明に係るスリーブ4を接触装置のため、然るべき方法のため、バッテリのため、あるいは車輌のために使用することは、上述した利点をもたらす。
【0020】
同じことが、接触装置を方法のため、バッテリのため、あるいは車輌のために使用することについても当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】プレスし、かつ溶接するためのスリーブを、a)上面図、b)横断面図及びc)縦断面図で示している。
【
図2】コード形状の導体と本発明に係るスリーブとを有する支持体対象を、溶接された状態で示す斜視図である。
【
図3】
図1に示すスリーブを有するコード形状の導体を部分的にプレスした状態においてa)上面図、b)及びc)横断面図で示している。
【
図4】コード形状の導体と本発明に係るスリーブとを有する支持体対象を溶接された状態において拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。これらの形態は、本発明を理解させるためのものである。しかしそれらは、例としての特徴しか持たない。もちろん、独立請求項によって定義される本発明の枠内で、説明した個々の特徴あるいは複数の特徴を除き、変更し、あるいは補足することもできる。もちろん異なる実施形態の特徴を互いに組み合わせることもできる。重要なことは、本発明のコンセプトが実質的に具体化されることである。1つの特徴が少なくとも部分的に満たされている場合に、それは、この特徴が完全に、あるいは実質的に完全に満たされていることを含むものである。その場合に「実質的に」というのは、特に、具体化が認識可能な程度において所望の効用利得を許すことを意味している。これは特に、然るべき特徴が少なくとも50%、90%、95%又は99%満たされていることを、意味している。最低量が記載されている場合に、この最低量よりも多く使用できることは、もちろんである。構成部品の数が少なくとも1つと記載されている場合に、これは特に、2、3又はその他の数の構成部品を有する実施形態も含んでいる。1つの対象について記述されていることは、他のすべての同種の対象の圧倒的な部分又は全体に適用することもできる。他の記載がない限りにおいて、インターバルはその周辺点も一緒に含んでいる。「1つ」というのは、以下においては不定冠詞であって、「少なくとも1つ」を意味している。以下、図を参照する。
【0023】
本発明は、車輌に関する。「車輌」という概念は、特に、人及び/又はものを移送するための装置を意味している。たとえば陸上車輌、水上車輌、レール車輌及び航空車輌、特に航空機、船舶及びオートモービル自動車、特に電気自動車が考えられる。
【0024】
本発明は、さらに、特に車輌用と好ましくは電気車輌用の、バッテリに関する。その場合に本発明は、特にアルミニウム材料からなるバッテリの部品を接触させるため、特にバッテリのユニットセル用の接触薄板を接触させるために、重要であり得る。その場合にスリーブは、コード形状の導体上にかぶせられる。その後スリーブは、導体とスリーブを互いに結合するために、部分的にプレスされる。次に、導体を有するスリーブが支持体対象に溶接され、かつ/又はそれとプレスされる。
【0025】
本発明の好ましい特性は、特に:
1.スリーブが閉鎖されており、その場合にスリーブは、たとえば金属薄板から屈曲されて、閉鎖されていないスリット形状の継ぎ目を有することができるが、完全に閉鎖され(特に溶接され)あるいはパイプ材料から完全に継ぎ目なしで形成することもできる。それによってスリーブは、特にプレスする際に、開放しておらず、あるいはあまり開放していない。
2.スリーブが回転対称であって、クリンプ/プレスが回転対称に実施され、あるいはプレスされない領域を回転対称に得ることができる。それによってスリーブは、長手軸に対する方向付けに関係なく、支持体対象上に位置決めすることができることが、保証されている。
3.クリンプ/プレスが、全長にわたってではなく、部分的にのみ行われる。それによって、導体とスリーブの本来のプレスが、溶接プロセスによって損なわれることがない。たとえば超音波によって、プレスされないスリーブ領域の、支持体対象との結合をもたらすことができる。
4.導体を弱らせる恐れのある、鋭いエッジができないようにするために、スリーブに導体のための少なくとも1つの導入漏斗部が設けられている。
5.スリーブに2つの導入漏斗部が設けられているので、それらを自動的に加工することができる。
6.少なくとも0.35mm
2、好ましくは少なくとも0.5mm
2の、スリーブと導体の全横断面積が得られる。というのは、丸い導体の超音波溶接は、0.35mm
2を下回ると、機械的な強度(結合の丈夫さ)が極めて小さくなるので、技術的に困難になるからである。
【0026】
このコンセプトは、特に、その電気化学的な電圧電位が著しく、すなわち0.3Vより多く、互いに異なっており、したがって接触腐食問題を起こす傾向のある2つの金属構成部品を溶接するのに、適している。好ましくは、スリーブが、その電気化学的な電圧電位が溶接すべき構成部品の電圧電位の間にある材料からなる場合に、電位差を巧みなやり方で分配することができる。それによって腐食しやすい傾向が減少され、あるいは、完全に阻止される。
【0027】
特に適しているのは、真鍮
からなるスリーブ、又は
、銅及び/又は亜鉛を含む
他の合金からなるスリーブを用いてアルミニウム構成部品(たとえば接触薄板)を銅ケーブル/銅ワイヤと溶接することである。その場合に、スリーブ材料が少なくとも他の構成部品と接触する領域内において、2つの接触すべき構成部品のそれの間に位置する電気化学的な電位を有すると、効果的である。好ましくは、それは、銅については+0.52Vから+0.34Vの間にあり、アルミニウムについては約−1.66Vである。
【0028】
スリーブを「ハイブリッド材料」から、すなわち少なくとも局所的に互いに混合されていない、少なくとも2つの異なる構成要素を有する材料から、形成することが、好ましい場合もある。しかしその場合に、それらは、接触面に接触腐食が生じることがないように、気密に結合されている。そのために、スリーブは好ましくは2つに分けて、したがって互いに異なる特性を有する2つの層を備えた材料から、形成されている。この材料は、たとえば冷間圧延接合方法によって、形成することができる。第1の層は、好ましくはソフトな電気的に導通する材料、たとえば銅からなる。ここでソフトというのは、特に真鍮よりソフトなことである。銅は、銅線にクリンプすることはできない。というのは、保持力を発現することができないからである。しかし銅は、ソフトなアルミニウムと良好に溶接可能である。第2の層は、好ましくはより硬い材料、たとえば真鍮からなる。これは、クリンプ可能であるが、ソフトなアルミニウム上に充分に良好には溶接されない。
【0029】
したがってスリーブは、好ましくは少なくとも部分的に、真鍮からなる内側のパイプ形状の層を有している。これは、銅からなる外側のパイプ形状の層によって、少なくとも部分的に被覆されている。
【0030】
図1には、特に円錐状に拡幅する開口部を備えた中空円筒としての、本発明に係るスリーブ4が見られる(
図1c)を参照)。その場合に、円錐状の拡幅部と円筒状の中空室との間の移行部に示されるエッジは、導体3の挿通されている芯材の負荷を最小限に抑えるために、角を丸くすることができる。これは、円錐状の拡幅部の外側の端部に設けられたエッジについても、言えることである。
【0031】
図3には、導体3の芯材5がスリーブ4内へ差し込まれていることが見られる(
図3c))。この状況においては、まだ回転対称性が存在する(その場合に芯材5の個々のフィラメントは数えない)。次に、それ自体知られたプレスペンチによってスリーブ4の長さに関して部分的に、特に
図3a)に示す2つの領域において、プレスされる。これが、
図3b)に断面で見られる。芯材5は圧縮されており、この圧縮された状態が符号6で示され、スリーブ4の外周面は、プレスされた領域内で、面取りされた角部を有するほぼ方形の形状を有している。他のプレス幾何学配置(6角、4点形状など)も考えられる。
図3a)において、この種の角部(中央)が見られ、その上方に方形の1つのエッジが、そしてその下方に他のエッジが見られる。その他において、スリーブは、それぞれのプレスされた領域の前後では回転対称のままである。
【0032】
したがってそれらは、接触薄板、すなわち
図2に示す支持体片1、の上の任意の位置に、たとえば超音波溶接又は他のプレスによって、取り付けることができる。この固定と接触のために、スリーブ4のプレスされない部分のみが重要であるので、方向性は何ら役割を果たさない。
図4は、超音波溶接された状態をシンボリックに示しており、それにおいて超音波溶接の結果、スリーブ4の上側(ここでは溶接されているので符号7で示す)と支持体片1の下側は、既知のように変化している。
【0033】
接触薄板もしくは支持体片1は、たとえば、特に電気自動車の、車輌バッテリのユニットセルのアルミニウム材料からなる接触薄板とすることができる。ここでは、特に銅材料ケーブルによって、接触する場合の電気化学的な電位差により、困難が生じるが、スリーブ材料を適切に選択することによってそれに対処することができる。
【0034】
その他において、本発明は、スリーブ4を支持体片1と結合する場合の位置不感性(回転対称性)によって、そしてまたスリーブ4がその円錐状の拡幅部(
図1c)に関して鏡対称であることにより、自動化された組み立てに最適である。
【符号の説明】
【0035】
1 結合相手としての支持体対象(薄板)
2 スリーブ、プレスされている
3 絶縁被覆を有する電気的な導体
4 スリーブ、プレスされていない
5 導体の銅芯材、プレスされていない
6 導体の銅芯材、プレスされている
7 スリーブ、プレスされ、かつ超音波溶接されている