特許第6543612号(P6543612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山本 浩文の特許一覧 ▶ 森 正樹の特許一覧

特許6543612大腸癌の治療剤、及び大腸癌患者の予後の予測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543612
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】大腸癌の治療剤、及び大腸癌患者の予後の予測方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20190628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190628BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190628BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20190628BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190628BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190628BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20190628BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190628BHJP
【FI】
   A61K31/7105
   A61P35/00
   A61K48/00
   A61K9/10
   A61K9/14
   A61K47/02
   C12Q1/68
   !C12N15/09ZNA
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-506530(P2016-506530)
(86)(22)【出願日】2015年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2015056354
(87)【国際公開番号】WO2015133522
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2018年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-41768(P2014-41768)
(32)【優先日】2014年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512307147
【氏名又は名称】山本 浩文
(73)【特許権者】
【識別番号】512307181
【氏名又は名称】森 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩文
(72)【発明者】
【氏名】森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】土岐 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 潤一
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/012081(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/109604(WO,A1)
【文献】 特開2008−239596(JP,A)
【文献】 特開2011−093892(JP,A)
【文献】 Arrington,A.K.,et al.,"Prognostic and Productive Roles of KRAS Mutation in Colorectal Cancer",Int. J. Mol. Sci.,2012年 9月25日,Vol.13,No.10,P.12153-12168,[Online],2012.09.25,MDPI - Open Access Publishing,[検索日:2015.05.22],インターネット< URL:http:
【文献】 Tsang,W.P.,et al.,"The miR-18a* microRNA functions as a potential tumor suppressor by targeting on K-Ras",Carcinogenesis,2009年 6月,Vol.30,No.6,P.953-959
【文献】 Liao,W.T.,et al.," MicroRNA-30b functions as a tumor suppressor in human colorectal cancer by targeting KRAS, PIK3CD,J. Pathol.,2014年 2月 8日,Vol.232,No.4,P.415-427
【文献】 鈴木秀和,,"アパタイトナノキャリアを用いた胃癌のマイクロRNA治療の開発",科学研究費補助金研究成果報告書(2012),2013年10月30日,慶應義塾大学学術情報リポジトリ,[検索日2015.05.22],インターネット< URL:http://koara.lib.keio.ac.jp/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7105
A61K 9/10
A61K 9/14
A61K 47/02
A61K 48/00
A61P 35/00
C12Q 1/68
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR4689及び/又はmiR4685-3pを有効成分とすることを特徴とする、大腸癌の治療剤。
【請求項2】
KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対して適用される、請求項1に記載の大腸癌の治療剤。
【請求項3】
KRAS遺伝子が変異型の大腸癌が、コドン12及び/又はコドン13がアミノ酸置換されているRAS遺伝子を有する、請求項2に記載の大腸癌の治療剤。
【請求項4】
miR4689及び/又はmiR4685-3pが、炭酸アパタイト粒子に複合化されている、請求項1〜3のいずれかに記載の大腸癌の治療剤。
【請求項5】
前記炭酸アパタイト粒子の平均粒子径が50nm以下である、請求項4に記載の大腸癌の治療剤。
【請求項6】
miR4689及び/又はmiR4685-3pの、大腸癌の治療剤の製造のための使用。
【請求項7】
大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量を検出する工程を含む、大腸癌患者の予後の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、microRNAを用いた大腸癌の治療剤に関する。より詳細には、本発明は、KRAS変異型の大腸癌に対して卓効を示すmicroRNAを用いた大腸癌の治療剤に関する。更に、本発明は、大腸癌患者の予後の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EGFR(Epidermal growth factor receptor)は、ER(ErbB)ファミリーのチロシンキナーゼ受容体であり、正常組織では細胞分化や増殖、維持に重要な役割を果たしている一方で、癌組織においても増殖や浸潤、転移に強く関与していることが知られている。EGFRからのシグナルを下流に伝達する役割は、KRASが担っている。
【0003】
RAS下流のシグナル伝達経路には、RAF-MEK-ERKカスケードがメインとして存在しているが、その他、広義でのMAPKに含まれるSEK-JNKカスケード、アポトーシスとの関係性が深いPI3K-AKTカスケードやDAG-PKCカスケード、JAK-STATカスケード等が存在している。EGFR等のリガンドとしたEGFRからのシグナルは、それぞれのカスケードを介して、そのシグナルが核内に伝達され、各種転写酵素を活性化し、細胞の増殖・生存・浸潤・抗アポトーシスを誘導する。
【0004】
KRAS遺伝子は、大腸癌原遺伝子の1つとして知られており、大腸癌患者の約40%においてKRAS遺伝子変異が認められている。従来、KRAS遺伝子が野生型の大腸癌の治療には、セツキシマブ等の抗EGFR抗体の投与によってEGFRからのシグナル伝達を抑制することが有効であり、これまで大きな成功を収めている。しかしながら、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対しては、抗EGFR抗体が奏功しないことが知られている(例えば、非特許文献1及び2)。これは、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌において、RASの突然変異によりGTPaseが失われRASが恒常的に活性化しているため、RASの下流シグナルが常にオンの状態になり、細胞の増殖、生存、浸潤、抗アポトーシスを更に誘導し、その結果、抗EGFR抗体の作用が無効化されているためであると考えられている。
【0005】
これまでに、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌細胞に対して、RASの下流シグナルをブロックすることにより抗腫瘍効果が認められることが報告されている。例えば、特許文献3には、MEK1/2阻害剤によって、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌細胞の増殖を抑制できることが報告されている。また、特許文献4には、MEK1/2阻害剤とセツキシマブを併用することによって、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌細胞の増殖抑制効果が向上することもが報告されている。
【0006】
一方、microRNAは、18〜24ヌクレオチドからなる小さなRNAで真核生物に広く存在しており、ヒトでは約1,000のmiRNAの存在が明らかになっている。miRNAは、1993年に初めて報告された内在性に発現する短い1本鎖RNAである。DNAからpri-miRNAと呼ばれるループ構造を持つRNAが転写される。ループが酵素によって切断され、pre-miRNAを作る。このpre-miRNAが核外に輸送され、Dicerにより20-25塩基のmiRNA配列が切り出される。これがRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれるリボ核酸とArgonaute(アルゴノート)蛋白の複合体に取りこまれることでmiRNA-RISC複合体を形成し、mRNAの3'UTRと結合して遺伝子発現を抑制する。miRNAとmRNAの結合は不完全であるため標的遺伝子は1つとは限らず、複数の遺伝子を標的として制御することが可能であるということが重要な特徴である。
【0007】
従来、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌におけるmicroRNAの発現パターンについては解明されていない。そこで、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌におけるKRAS遺伝子の変異が引き起こすシグナル伝達経路の活性化に伴うmicroRNAの変化を解析し、microRNAの異常を是正する治療法を確立できれば、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌患者に福音をもたらすことが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Van Cutsem E, et al., N Engl J Med., 2009 Apr 2;360(14):1408-17
【非特許文献2】Bokemeyer C, et al., J Clin Oncol., 2009 Feb 10;27(5):663-71
【非特許文献3】Cancer cell, 2013 Jan 14; 23:121-128
【非特許文献4】Misale S, et al., Nature, 2012 Jun 28;486(7404):532-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、大腸癌患者、とりわけKRAS遺伝子が変異型の大腸癌患者に対して卓効を示すmicroRNAを用いた大腸癌の治療剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、大腸癌患者の予後の予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく、KRAS下流で働くmicroRNAを網羅的に検索する目的で、KRAS遺伝子のみが変異型の正常ヒト細胞でmicroRNAの発現を網羅的に調べたところ、miR4689又はmiR4685-3pの発現が、KRAS遺伝子が野生型の正常細胞に比べて有意に低いことを突き止めた。更に、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌細胞にmiR4689を添加したところ、アポトーシスのマーカーBAX、BAD、及びBAKが上昇し、増殖が有意に抑制されることを見出した。更に、miR4689は、少なくとも、Ras/MEK/MAPK経路の上流に存在するKRASの3'UTR領域、及びPI3K/Akt経路に存在するAKT1のCDS領域に結合部位があり、KRASとAKT1が標的遺伝子になっていることをも見出した。更に、miR4689の発現量が低い大腸癌患者は、miR4689の発現量が高い大腸癌患者に比べて、外科的術後の予後が悪く、大腸癌患者におけるmiR4689の発現量が大腸癌の術後の予後を予測する上での指標になりうることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. miR4689及び/又はmiR4685-3pを有効成分とすることを特徴とする、大腸癌の治療剤。
項2. KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対して適用される、項1に記載の大腸癌の治療剤。
項3. KRAS遺伝子が変異型の大腸癌が、コドン12及び/又はコドン13がアミノ酸置換されているRAS遺伝子を有する、項2に記載の大腸癌の治療剤。
項4. miR4689及び/又はmiR4685-3pが、炭酸アパタイト粒子に複合化されている、項1〜3のいずれかに記載の大腸癌の治療剤。
項5. 前記炭酸アパタイト粒子の平均粒子径が50nm以下である、項4に記載の大腸癌の治療剤。
項6. 大腸癌患者にmiR4689及び/又はmiR4685-3pの治療有効量を投与する工程を含む、大腸癌の治療方法。
項7. miR4689及び/又はmiR4685-3pの、大腸癌の治療剤の製造のための使用。
項8. 大腸癌の治療に使用される、miR4689及び/又はmiR4685-3p。
項9. 大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量を検出する工程を含む、大腸癌患者の予後の予測方法。
項10. miR4689からなる、大腸癌患者の予後予測マーカー。
【発明の効果】
【0012】
本発明の大腸癌の治療剤によれば、miR4689及び/又はmiR4685-3pを使用することにより、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌細胞の増殖を抑制できるので、抗EGFR抗体の投与が効かないKRAS遺伝子が変異型の大腸癌を有効に治療することができる。特に、本発明の大腸癌の治療剤において、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対して治療効果を示す作用メカニズムについて、限定的な解釈を望むものではないが、miR4689は、少なくとも、Ras/MEK/MAPK経路に存在するKRAS、及びPI3K/Akt経路に存在するAKT1を標的遺伝子として、これらの翻訳を抑制することによって、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対する治療効果を示すことが可能になっていると考えられる。
【0013】
更に、本発明の大腸癌の治療剤は、miR4689及び/又はmiR4685-3pを炭酸アパタイトに複合化した複合粒子を使用することにより、生体内に投与されたmiR4689及び/又はmiR4685-3pを大腸癌細胞に集積させて大腸癌細胞内に効率的に移行させることができ、大腸癌治療を実用化する上で求められるDDS技術も備えており、しかも安全性も高いので、臨床上の有用性が極めて高い。
【0014】
更に、本発明の大腸癌患者の予後の予測方法によれば、大腸癌細胞おけるmiR4689発現量を指標とすることにより、大腸癌の外科的手術後に、予後が悪化し易いか否かを推測することができるので、予後の悪化のリスクが高い術後大腸癌患者に対して、早期に適切な処置を施すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で使用したベクターpCMV6の構造を示す図である。
図2】実施例1において、HEK293細胞に変異型KRAS遺伝子(G12V)を導入し、microRNAの発現量の変化を測定した結果である。
図3】実施例1において、MRC5細胞に変異型KRAS遺伝子(G12V)を導入し、microRNAの発現量の変化を測定した結果である。
図4】RASの下流シグナル経路の概略を示す図である。
図5】RASの下流シグナル経路の概略を示す図である。
図6】実施例2において、SREルシフェラーゼレポーターベクターと変異型KRAS遺伝子をHEK293細胞に導入した細胞において、microRNAがSREレポーター活性に及ぼす影響を評価した結果である。
図7】実施例2において、AP1ルシフェラーゼレポーターベクターと、変異型KRAS遺伝子をHEK293細胞に導入したHEK293細胞において、microRNAがAP1レポーター活性又はAP1レポーター活性に及ぼす影響を評価した結果である。
図8】実施例3において、SREルシフェラーゼレポーターベクター又はAP1ルシフェラーゼレポーターベクターを導入したDLD1細胞において、microRNAがAP1レポーター活性に及ぼす影響を評価した結果である。
図9】実施例3において、DLD1細胞の増殖にmicroRNAが及ぼす影響を評価した結果である。
図10】実施例3において、SREルシフェラーゼレポーターベクター又はAP1ルシフェラーゼレポーターベクターを導入したHCT116細胞において、microRNAがAP1レポーター活性に及ぼす影響を評価した結果である。
図11】実施例3において、HCT116細胞の増殖にmicroRNAが及ぼす影響を評価した結果である。
図12】実施例3において、SREルシフェラーゼレポーターベクター又はAP1ルシフェラーゼレポーターベクターを導入したSW480細胞において、microRNAがAP1レポーター活性に及ぼす影響を評価した結果である。
図13】実施例3において、SW480細胞の増殖にmicroRNAが及ぼす影響を評価した結果である。
図14】実施例4において、DLD1細胞の増殖に対して、miR4689と抗腫瘍効果が公知のsiRNAが及ぼす影響を評価した結果である。
図15】実施例4において、HCT116細胞及びSW480細胞の増殖に対して、miR4689と抗腫瘍効果が公知のsiRNAが及ぼす影響を評価した結果である。
図16】実施例5において、microRNAを導入したDLD1細胞において、RAS下流シグナル分子の発現量を測定した結果である。
図17】実施例5において、microRNAを導入したDLD1細胞において、アポトーシスマーカーの発現量を測定した結果である。
図18】実施例5において、microRNAを導入したDLD1細胞に対してTUNEL法によるアポトーシスの検出を行った結果である。
図19】実施例6において、各種ヒト大腸癌細胞株におけるmiR4689とmiR4685-3pの発現量を測定した結果である。
図20】実施例6において、大腸癌患者から採取した癌組織におけるmiR4689の発現を、KRAS野生型と変異型に分けて比較した結果である。
図21】実施例6において、大腸癌患者から採取した正常大腸上皮細胞と大腸癌細胞について、miR4689の発現量を測定した結果である。
図22】実施例7において、変異型KRAS遺伝子導入細胞のKRASの発現量を測定した結果である。
図23】実施例7において、変異型KRAS遺伝子導入細胞のmiR4689の発現量を測定した結果である。
図24】実施例8において、shKRASを導入したDLD1細胞におけるmiR4689の発現量を測定した結果である。
図25】実施例8において、shKRASを導入したDLD1細胞におけるKRAS、P-ERK1/2、ERK1/2、及びACTB(ローディングコントロール)の発現量を測定した結果である。
図26】実施例8において、shKRASを導入したDLD1細胞における細胞増殖アッセイを行った結果である。
図27】実施例9において、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子が、大腸癌細胞の腫瘍サイズに及ぼす影響を評価した結果である。
図28】実施例10において、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子の投与が、大腸癌細胞におけるmiR4689発現量とアポトーシスマーカーの発現量に及ぼす影響を評価した結果である。
図29】Aは、Ras/MEK/MAPK経路の上流に存在するKRASの3'UTR領域にmiR4689の不完全相補的配列(binding site)があることを示唆する図、Bは、実施例11においてpmirGLO-KRAS3'UTRベクターを導入したDLD1細胞において、miR4689がルシフェラーゼの発現量に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
図30】実施例11において、miR4689を導入し大腸癌細胞におけるKRASタンパク質の発現量を測定した結果である。
図31】実施例11において、miR4689を導入し大腸癌細胞におけるKRAS mRNAの発現量を測定した結果である。
図32】Aは、PI3K/Akt経路に存在するAKT1のCDSにmiR4689の不完全相補的配列(binding site)があることを示唆する図、Bは、実施例12においてpmirGLO-AKT1CDSベクターを導入したDLD1細胞において、miR4689がルシフェラーゼの発現量に及ぼす影響を評価した結果を示す図、Cは、実施例12においてmiR4689を導入したDLD1細胞及びSW480細胞でのAkt1の発現量をタンパクレベルとmRNAレベルで測定した結果を示す図である。
図33】実施例13において、shKRAS又はsiAkt1が導入されたDLD1細胞におけるアポトーシスマーカーの発現量を測定した結果である。
図34】実施例14において、miR4689、コントロールmicroRNA、変異型KRAS遺伝子、及びAkt1遺伝子の中から、各種組み合せてDLD1細胞に導入し、KRAS及びAkt1の発現量の測定と細胞増殖アッセイを行った結果である。
図35】実施例15において、非担癌マウスにmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を投与し、体重を経時的に測定した結果である。
図36】実施例15において、非担癌マウスにmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を投与し、血液化学検査を行った結果である。
図37】実施例15において、非担癌マウスにmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を投与し、各臓器の組織学的検査(HE染色)を行った結果である。
図38】実施例16において、ステージ0〜IV期の大腸癌患者をmiR4689高発現群とmiR4689低発現群に分けて、術後5年全生存率を分析した結果である。
図39】実施例16において、ステージ0〜III期の大腸癌患者をmiR4689高発現群とmiR4689低発現群に分けて、術後5年無再発生存率を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.大腸癌の治療剤
本発明の大腸癌の治療剤は、miR4689及び/又はmiR4685-3pを有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明の大腸癌の治療剤について詳述する。
【0017】
有効成分(microRNA)
本発明の大腸癌の治療剤では、有効成分としてmiR4689及び/又はmiR4685-3pを使用する。miR4689及びmiR4685-3p自体は、公知であるが、その抗腫瘍効果については知られていないmicroRNAである。本発明で使用されるmiR4689及び/又はmiR4685-3pは、成熟型miRNA(mature-miRNA)であってもよく、またヘヤピン型前駆体miRNA(pri-miRNA)や、pri-miRNAの一部が切断されたpre-miRNAであってもよい。当該pri-miRNAやpre-miRNAは、大腸癌細胞内でプロセシングを受けて成熟型miRNAになる。また、本発明で使用されるmiR4689及び/又はmiR4685-3pは、相補的な塩基配列を有するRNAとからなる二本鎖の前駆体を形成していてもよい。当該二本鎖の前駆体は、大腸癌細胞内で二本鎖が解けて成熟型miRNAを遊離させる。
【0018】
また、本発明で使用されるmiR4689及び/又はmiR4685-3pは、酵素に対する分解耐性等を付与するために、必要に応じて、一般的に核酸に施される各種修飾がなされていてもよい。このような修飾としては、例えば、2'-Oメチル化等の糖鎖部分の修飾;塩基部分の修飾;アミノ化、低級アルキルアミノ化、アセチル化等のリン酸部分の修飾等が挙げられる。
【0019】
本発明で使用されるmiR4689及び/又はmiR4685-3pの由来については、適用対象となる動物の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、ヒトの大腸癌の治療に使用する場合であれば、ヒト由来のmiR4689及び/又はmiR4685-3pを使用すればよい。ヒト由来のmiR4689の塩基配列として具体的には、UUGAGGAGACAUGGUGGGGGCC(配列番号1)が挙げられる。また、ヒト由来のmiR4685-3pの塩基配列として具体的には、UCUCCCUUCCUGCCCUGGCUAG(配列番号2)が挙げられる。
【0020】
本発明において、miR4689又はmiR4685-3pのいずれか一方を単独で使用してもよく、これらの双方を組み合わせて使用してもよい。大腸癌細胞に対してより一層優れた抗腫瘍効果を奏させるという観点から、好ましくはmiR4689が挙げられる。
【0021】
適用対象疾患、用量、用法等
本発明の大腸癌の治療剤は、大腸癌の治療を目的として大腸癌患者に適用される。また、本発明の大腸癌の治療剤は、大腸癌患者における癌転移の予防剤として使用してもよい。更に、本発明の大腸癌の治療剤は、大腸癌患者から大腸癌を摘出した後に、再発や転移を予防する目的で投与してもよく、大腸癌の切除後の患者における予後の改善剤又は癌の転移予防剤としても使用することもできる。
【0022】
本発明の大腸癌の治療剤は、抗EGFR抗体の投与が効かないKRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対して優れた抗腫瘍効果を奏するので、KRAS遺伝子が変異型の大腸癌に対して好適に使用される。
【0023】
本発明において、「RAS遺伝子が変異型の大腸癌」とは、大腸癌細胞に内在するRAS遺伝子が変異されており、少なくとも1つのアミノ酸に変異が生じているRASをコードしていることを意味する。変異型のKRAS遺伝子において、変異部位や変異数については、特に制限されないが、コドン12及び/又はコドン13がアミノ酸置換されているRAS遺伝子変異型の大腸癌は、本発明の大腸癌治療剤の適用対象として特に好適である。特に、miR4689を使用する場合であれば、コドン12及びコドン13の少なくとも一方がアミノ酸置換されているRAS遺伝子変異型の大腸癌に対して好適に適用でき、また、miR4685-3pを使用する場合であれば、コドン13がアミノ酸置換されているRAS遺伝子変異型の大腸癌に対して好適に適用できる。
【0024】
大腸癌において変異型のKRAS遺伝子を有するか否かは、大腸癌から採取された癌細胞からゲノムDNAを抽出し、公知の手法によってKRAS遺伝子における変異を検出することによって行うことができる。また、KRAS遺伝子のコドン12及び13変異の有無を検出するための検出キットは市販されており、市販品を利用してRAS遺伝子が変異型の大腸癌であるか否かを確認することができる。
【0025】
本発明の大腸癌の治療剤の投与方法としては、本発明の大腸癌の治療剤を生体内で大腸癌にデリバリーできることを限度として特に制限されないが、例えば、血管内(動脈内又は静脈内)注射、持続点滴、皮下投与、局所投与、筋肉内投与等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは動静脈内投与が挙げられる。
【0026】
本発明の大腸癌の治療剤の投与量は、患者の症状の程度、患者の性別、年齢等に応じて適宜設定されるため、一律に規定することはできないが、例えば、miR4689及び/又はmiR4685-3pの投与量換算で1日当たり1〜100mg/m2(体表面積)程度が挙げられる。
【0027】
製剤化
本発明の大腸癌の治療剤では、miR4689及び/又はmiR4685-3pが大腸癌細胞内に移行してRASの下流シグナルを制御することによってアポトーシスを誘導するため、miR4689及び/又はmiR4685-3pは、大腸癌細胞内に移行され易いように、microRNA導入剤と共に製剤化されていることが望ましい。microRNA導入剤としては、炭酸アパタイト粒子、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト等のいずれであってもよい。これらのmicroRNA導入剤の中でも、炭酸アパタイト粒子は、生体内で大腸癌細胞に集積させて大腸癌細胞内への移行を効率的に行うことができるので、本発明の大腸癌の治療剤の好適な一態様としては、miR4689及び/又はmiR4685-3pが炭酸アパタイト粒子との混合状態、又は、miR4689及び/又はmiR4685-3pが炭酸アパタイト粒子に複合化されてなる複合粒子の状態で存在するものが挙げられる。
【0028】
以下、本発明の大腸癌の治療剤において、microRNA導入剤として使用される炭酸アパタイト粒子について説明する。
(炭酸アパタイト粒子)
炭酸アパタイトは、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の水酸基の一部をCO3で置換した構造を有し、一般式Ca10-mXm(PO4)6(CO3)1-nYnで表される化合物である。ここで、Xは、炭酸アパタイトにおけるCaを部分的に置換し得る元素であり、例えば、Sr、Mn、希土類元素等が挙げられる。mは、通常0以上1以下の正数であり、好ましくは0以上0.1以下であり、より好ましくは0以上0.01以下であり、更に好ましくは0以上0.001以下である。Yは、炭酸アパタイトにおけるCO3を部分的に置換しうる基又は元素であり、OH、F、Cl等が挙げられる。nは、通常0以上0.1以下の正数であり、好ましくは0以上0.01以下であり、より好ましくは0以上0.001以下であり、更に好ましくは0以上0.0001以下である。
【0029】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の平均粒子径については、生体内に投与されて、大腸癌細胞内へ移行できる程度の大きさである限り、特に制限されないが、生体内で大腸癌細胞に集積させて大腸癌細胞内への移行を効率的に行うという観点から、通常50nm以下、好ましくは1〜40nm、更に好ましくは1〜20nm、より好ましくは5〜10nmが挙げられる。
【0030】
なお、前記の炭酸アパタイトの平均粒子径は、走査型プローブ顕微鏡を用いて観察することにより測定される値である。走査型プローブ顕微鏡による粒子径の測定に際して、測定部位をCCDカメラで確認し、明らかに走査型プローブ顕微鏡を用いた測定に適さない巨大な粒子(例えば、粒径5μm以上)が存在する場合は、それらは測定対象範囲から除去される。また、本明細書において、粒径とは、走査型プローブ顕微鏡で測定した際に、別個の粒子として認識可能な独立した粒子の粒径を意味する。よって、複数の粒子が凝集している場合は、それらの集合体を一つの粒子と判断する。
【0031】
炭酸アパタイト粒子は、公知の手法に従って得ることができる。例えば、水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを共存させることによって調製することにより得ることができる。水溶液中の各イオン濃度は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されず、下記を参考に適宜設定することができる。
【0032】
水溶液中のカルシウムイオン濃度は、通常0.1〜1000mM、好ましくは0.5〜100mM、更に好ましくは1〜10mMが挙げられる。
【0033】
水溶液中のリン酸イオン濃度は、通常0.1〜1000mM、好ましくは0.5〜100mM、更に好ましくは1〜10mMが挙げられる。
【0034】
水溶液中の炭酸水素イオン濃度は、通常1.0〜10000mM、好ましくは5〜1000mM、更に好ましくは10〜100mMが挙げられる。
【0035】
カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンの供給源としては、水溶液中にこれらのイオンを供給可能である限り特に制限されないが、例えば、これらのイオンの水溶性塩が挙げられる。具体的には、カルシウムイオン源としてCaCl2を用いることができ、リン酸イオン源としてNaH2PO4・2H2Oを用いることができ、炭酸イオン源としてNaHCO3を用いることができる。
【0036】
炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り、上述する各イオン供給源及び他の物質以外の成分を含んでも良い。例えば、水溶液中に上記組成物中に、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mn等を添加することにより、炭酸アパタイトにおけるCaまたはCO3を部分的に置換してもよい。但し、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mnの添加量は、形成される複合体粒子のpH溶解性、粒径範囲に著しい影響を与えない範囲内とすることが好ましい。また、炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、基剤として水を使用すればよいが、細胞培養用の各種培地やバッファー等を使用してもよい。
【0037】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の調製において、水溶液中への各イオン供給源及び他の物質の混合順序は特に限定されず、目的とする炭酸アパタイト粒子が得られる限り、いかなる混合順序で水溶液を調製してもよい。例えば、カルシウムイオン及び他の物質を含有する第1の溶液を調製すると共に、別途、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する第2の溶液を調製し、第1の溶液と第2の溶液とを混合して水溶液を調製することができる。
【0038】
炭酸アパタイト粒子は、上記の各イオンを含有する水溶液のpHを6.0〜9.0の範囲に調整し、一定時間放置(インキュベート)することによって得ることができる。炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液のpHとしては、例えば7.0〜8.5、好ましくは7.1〜8.5、更に好ましくは7.2〜8.5、より更に好ましくは7.3〜8.5、特に好ましくは7.4〜8.5、最も好ましくは7.5〜8.0が挙げられる。
【0039】
炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液の温度条件は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常10℃以上であり、好ましくは25〜80℃、更に好ましくは37〜70℃以上が挙げられる。
【0040】
炭酸アパタイト粒子を形成するための当該水溶液のインキュベート時間は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常1分〜24時間、好ましくは10分〜1時間が挙げられる。粒子形成の有無は、例えば、顕微鏡下で観察することによって確認することができる。
【0041】
また、炭酸アパタイト粒子の平均粒径を50nm以下に制御する方法としては、特に制限されないが、例えば、前記の水溶液中で形成した炭酸アパタイト粒子を超音波振動処理する方法が挙げられる。ここで、超音波振動処理とは、いわゆる菌体破砕等に用いられる超音波破砕機やホモジナイザー等の超音波振動子を直接試料に接触させて超音波をかける処理ではなく、一般に精密機器や試験管等の洗浄に用いられる超音波振動子と洗浄槽とが一体となった超音波洗浄器を用いた処理である。超音波洗浄器の洗浄槽(水槽)に液体(例えば、水)を入れ、そこに炭酸アパタイト粒子を収容した容器(例えば、プラスチック製のチューブ)を浮かべ、精密機器を洗浄する要領で液体を介して炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に超音波をかける処理を意味する。これによって、簡便且つ効率的に炭酸アパタイト粒子の粒径を50nm以下に微細化することができる。
【0042】
超音波振動処理に使用可能な装置は、上記超音波洗浄器のように、水などの溶媒を介して間接的に炭酸アパタイト粒子を収容した容器に超音波振動を与えることが可能であるものであれば特に制限されない。汎用性及び取り扱い性の良さという観点から、超音波振動子及び恒温槽を備えた超音波洗浄器を用いることが好ましい。
【0043】
上記の超音波振動処理の条件は、粒子径を所定範囲に制御可能である限り特に制限されない。例えば、水槽の温度としては、5〜45℃の温度から適宜選択することができ、好ましくは10〜35℃、更に好ましくは20〜30℃が挙げられる。超音波振動処理の高周波出力としては、例えば、10〜500Wの範囲で適宜設定することができ、好ましくは20〜400W、更に好ましくは30〜300Wであり、より好ましくは40〜100Wが挙げられる。発振周波数としては、通常10〜60Hz、好ましくは20〜50Hz、更に好ましくは30〜40Hzである。また、超音波振動処理時間としては、例えば、30秒〜30分、好ましくは1〜20分、更に好ましくは3〜10分が挙げられる。
【0044】
超音波振動処理を行う際に用いる、炭酸アパタイト粒子を包含する容器の種類は、粒子を所定の粒子径範囲に微細化することが可能である限り制限されず、水溶液の容量や使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1〜1000ml容量のプラスチック製チューブを用いることができる。
【0045】
また、超音波振動処理は、アルブミンの存在下(即ち、アルブミンを、炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に添加した状態)で行うことが好ましい。これは、アルブミンと炭酸アパタイト粒子とが共存する環境で超音波振動処理を行うことにより、より微細な粒径を有する炭酸アパタイトナノ粒子が得られ、粒子の再凝集を抑制することも可能となるためである。炭酸アパタイト粒子を含む水溶液中でのアルブミンの濃度としては、微細化及び/又は再凝集抑制の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、0.1〜500mg/ml、好ましくは1〜100mg/ml、更に好ましくは1〜10mg/ml程度添加することができる。
【0046】
(miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子)
本発明の大腸癌の治療剤の好適な一態様では、前記miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子が複合化した複合粒子が使用される。このようにmiR4689及び/又はmiR4685-3pを炭酸アパタイト粒子に複合化させることによって、炭酸アパタイトの作用によって生体内でmiR4689及び/又はmiR4685-3pを大腸癌細胞に効率的に集積させて、大腸癌細胞内にmiR4689及び/又はmiR4685-3pを導入させることが可能になる。また、細胞内に導入された後に、細胞内でmiR4689及び/又はmiR4685-3pが炭酸アパタイト粒子から遊離できるので、miR4689及び/又はmiR4685-3pによる抗腫瘍効果を効率的に発揮させることも可能になる。
【0047】
本発明において、miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子とは、miR4689及び/又はmiR4685-3pが炭酸アパタイト粒子に対してイオン結合、水素結合等によって吸着して担持された状態を指す。miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成方法については、特に制限されないが、例えば、miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子を水溶液中で共存させることにより形成する方法;炭酸アパタイト粒子を調製する水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンと共に、miR4689及び/又はmiR4685-3pを共存させることにより、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う方法等が挙げられる。
【0048】
miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成を、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う場合、炭酸アパタイトの調製に使用される水溶液中にmiR4689及び/又はmiR4685-3pを、例えば0.1〜1000nM、好ましくは0.5〜500nM、更に好ましくは1〜200nMとなるように
添加すればよい。
【0049】
miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子において、miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の比率については特に制限されず、miR4689及び/又はmiR4685-3pの投与量等に応じて適宜設定すればよい。例えば、2mgのmiR4689及び/又はmiR4685-3pを炭酸アパタイト粒子に複合化させる場合、前述する炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液2.5Lに、5mgのmiR4689及び/又はmiR4685-3pを添加して、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行えばよい。
【0050】
また、本発明の大腸癌の治療剤として、炭酸アパタイト粒子と複合化させたmiR4689及び/又はmiR4685-3pを使用する場合、生体への投与に適した溶媒中に分散した状態で使用される。前述するように、炭酸アパタイト粒子は、各種のイオン供給源となる物質を水、培地、又はバッファー等の溶媒に溶解させることによって得られるが、そのようにして得られる炭酸アパタイト粒子分散溶液は、浸透圧、緩衝能、無菌性等の観点から必ずしも生体への投与(血管内投与)に適していない。よって、炭酸アパタイト粒子が分散した溶媒を生体への投与に適した溶媒(例えば、生理食塩水等)に置換するためには、通常、遠沈によって炭酸アパタイト粒子を溶媒から分離し、回収して溶媒を置き換える操作が必要である。しかしながら、このような操作を行うと炭酸アパタイト粒子同士が凝集し、粒子が巨大化するため、却って生体への投与には適さない状態へと変化してしまう。そこで、凝集した炭酸アパタイト粒子を生体への投与に適した溶媒に添加した上で、前述する超音波振動処理を行うことにより、miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子が、生体への投与に適した溶媒中で適度な粒子径(好ましくは平均粒径が50nm以下)で分散させることができる。
【0051】
また、本発明の大腸癌の治療剤として、炭酸アパタイト粒子と複合化させたmiR4689及び/又はmiR4685-3pを使用する場合、本発明の大腸癌の治療剤の投与は、miR4689及び/又はmiR4685-3pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を超音波振動処理によって微小な粒子の状態で分散させた後に、当該粒子が凝集する前に速やかに行うことが望ましい。例えば、超音波振動処理後1分以内、好ましくは30秒以内の投与が好適である。但し、前述するように、アルブミンを添加することによって炭酸アパタイト粒子の凝集を抑制する場合は、超音波振動処理後、数分〜数十分経過後に投与することも可能である。
【0052】
他の抗癌剤
本発明の大腸癌治療剤は、本発明の効果を損なわないことを限度として、他の抗癌剤と共に製剤化されていてもよく、また他の抗癌剤と併用投与されてもよい。このような抗癌剤としては、特に制限されないが、例えば、シクロホスファミド水和物、イホスファミド、チオテパ、ブスルファラン、メルファラン、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダカルパジン、テモゾロミド等のアルキル化剤;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム水和物、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、タガフール、シタラビン、ゲムシタビン塩酸塩、フルダラビン燐酸エステル、ネララビン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム等の代謝拮抗剤;ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、プラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマシイン塩酸塩、プペロマシン塩酸塩、ジノスタチンスチマラマー、カリケアマイシン等の抗生物質、ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、パクリタキセル等の微小管阻害剤;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ファドロゾール塩酸塩水和物等のアロマターゼ阻害剤;シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤;イリノテカン塩酸塩水和物、ノギテカン塩酸塩、エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼ阻害剤、プレドニゾロン、デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド、サリドマイドおよびその誘導体であるレナリドマイド、プロテアーゼ阻害剤であるボルテゾミブ等が挙げられる。これらの抗癌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
2.大腸癌患者の予後の予測方法
後述する実施例16に示すように、miR4689の発現量が低下している大腸癌細胞を有する大腸癌患者は、大腸癌の切除後に予後が悪化し易い傾向があることが見出されており、miR4689が大腸癌患者の予後予測マーカーとして使用し得ることが明らかにされている。従って、本発明は、更に、大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量を検出することを特徴とする、大腸癌患者の予後の予測方法を提供する。当該予測方法においてmiR4689の発現量が低下していれば、術後の再発や転移のリスクが高く、予後が悪化し易いと予測される。
【0054】
miR4689の発現量に基づく予後の予測は、具体的には、外科的手術を受けたステージ0〜III期の大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量(母集団)を予め測定して当該母集団における中央値を算出しておき、大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量が当該中央値未満の場合には、術後の再発や転移のリスクが高く、予後が悪化し易いと予測することにより行うことができる。
【0055】
また、miR4689の発現量に基づく予後の予測は、例えば、(i)予後が良好であった大腸癌患者のmiR4689量の平均値を予め算出しておき、大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量が当該平均値よりも低い場合には、術後の再発や転移のリスクが高く、予後が悪化し易いと予測する、(ii)予後が不良であった大腸癌患者のmiR4689量の平均値を予め算出しておき、大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量が当該平均値と同程度の場合には、術後の再発や転移のリスクが高く、予後が悪化し易いと予測する、或いは(iii)予後が良好であった大腸癌患者miR4689量の平均値(予後良好群平均値)と予後が不良であった大腸癌患者のmiR4689量の平均値(予後不良群平均値)をそれぞれ測定し、当該予後良好群平均値と当該予後不良群平均値の平均値(境界値)を予め算出しておき、大腸癌患者の大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量が当該境界値よりも低い場合には、術後の再発や転移のリスクが高く、予後が悪化し易いと予測する、等によっても行うことができる。
【0056】
大腸癌細胞の大腸癌細胞の発現量の測定は、従来公知の方法に従って行うことができる。例えば、大腸癌患者の大腸癌組織から大腸癌細胞を分離し、当該大腸癌細胞からグアニジン−塩化セシウム超遠心法、酸性グアニジン−フェノール−クロロホルム(AGPC)法等によってRNA試料を得て、miR4689発現量の測定を行えばよい。miR4689発現量の測定方法については、特に制限されないが、例えばマイクロアレイ法、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、ノーザンブロット法等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の試験において、サンプル提供を受けた全ての患者には、各機関によって承認されたガイドラインに従って、インフォームドコンセントを行った。また、この試験は、大阪大学病院の倫理委員会の監督の下で行なった。
【0058】
実施例1:変異型KRAS遺伝子を導入した細胞におけるmicroRNAの発現量の変化の測定
変異型KRAS遺伝子を導入した細胞においてmicroRNAの発現量の変化を測定するために以下の試験を行った。
【0059】
先ず、pCMV6のEmpty Vecter(図1)に変異型KRAS遺伝子(G12V;配列番号3)をSgfI-MluIの部位でインサートしG12Vkras mt プラスミドを作製したものを使用した。次いで、このG12Vkras mt プラスミドを、リポフェクタミン2000を用いて正常ヒト細胞[HEK293(ヒト胎児由来腎細胞)、MRC5(ヒト胎児由来肺細胞)に導入し、変異型KRAS遺伝子導入細胞を作製した。また、コントロールとして、変異型KRAS遺伝子(G12V)をインサートしていないpCMV6のEmpty Vecterについても、正常ヒト細胞に導入することによりコントロール細胞を作製した。得られた変異型KRAS遺伝子導入細胞とコントロール細胞について、microRNAの発現量を、miRNAマイクロアレイ(3D-GENE、東レ製)を用いて測定した。6ウェルディッシュ(2.5ml)にG12Vkras mt プラスミド4μg、リポフェクタミン10μgを導入し、48時間後の細胞を回収した。
【0060】
HEK293細胞を使用した結果を図2に示し、MRC5細胞を使用した結果を図3に示す。HEK293細胞及びMRC5細胞の双方において、変異型KRAS遺伝子を導入することによって、発現量が低下するmicroRNAが多い傾向が認められた。
【0061】
また、別途、RASの下流シグナル経路(図4)の分子を標的とするmicroRNAをTargetscas(http://www.targetscan.org/)にて調べ、前記で発現量の変化が認められるmicroRNAとオーバーラップしているものを選択した。miR4685-3p、miR4689及びmiR296-5pは、それぞれ、MEK2、ERK及びSRFを標的とするmicroRNAであることが分かっており、これらのmicroRNAは、変異型KRAS遺伝子導入によって発現量が低下していることが確認された(表1)。
【0062】
【表1】
【0063】
また、HEK293細胞及びMRC5細胞の双方において、変異型KRAS遺伝子を導入することによって、コントロールに比べて-4倍以下で発現量が低下したmicroRNAの内、その発現量の低下割合が大きい順に14個のmicroRNAをピックアップした結果を表2に示す。表2から分かるように、発現量の低下が大きかったmicroRNAには、これまで機能が報告されていない3000番台〜4000番台のmicroRNAが多く存在していた。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例2:変異型KRAS遺伝子が導入されたHEK293細胞におけるRAF-MEK-ERK-Elk-1/SRFの活性とMEKK1-SEK1-JNK1/2/3-AP1の活性の測定
RAS下流シグナルとして、RAF-MEK-ERK-Elk-1/SRFの活性をSREレポーター活性で測定でき、またMEKK1-SEK1-JNK1/2/3-AP1の活性をAP1レポーター活性でみることがでることが知られている(図5)。そこで、本試験では、ルシフェラーゼ遺伝子上流にSRE又はAP1応答配列が組み込まれたSREルシフェラーゼレポーターベクター(pGL4.33[luc2P/SRE/Hygro] Vectorカタログ番号 E1340)又はAP1ルシフェラーゼレポーターベクター(pGL4.44[luc2P/AP1 RE/Hygro] Vector カタログ番号 E4111)と、変異型KRAS遺伝子をHEK293細胞に導入した細胞において、前記実施例1でピックアップしたmicroRNAがRAF-MEK-ERK-Elk-1/SRFの活性とMEKK1-SEK1-JNK1/2/3-AP1の活性に及ぼす影響を評価した。
【0066】
具体的には、96穴プレートに1×104cells/mlとなるようにHEK293細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、SREルシフェラーゼレポーターベクター100ng/well、実施例1で作製したG12Vkras mt プラスミド100ng/well、及びmicroRNA 5pmol/wellをリポフェクタミン2000 0.75μl/wellを用いて6時間、37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を18時間行い、ルシフェラーゼの発現量を測定した(トランスフェクションから24時間)。本試験では、前記実施例1でピックアップしたmicroRNAとして、miR4270、miR4689、miR4685-3p、miR296-5p、miR3619-3p、miR4731-3p、及びmiR4442を使用した。また、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(NCmiR、配列番号4)についても同様の条件で試験を行った。なお、本試験では、予め、EGF又は変異型KRAS遺伝子をHEK293細胞にトランスフェクトし、ルシフェラーゼの発現量が上昇していることを確認し、HEK293細胞でRAF-MEK-ERK-Elk-1/SRFとMEKK1-SEK1-JNK1/2/3-AP1の経路が正常に働いていることを確認しておいた(図6及び7)。
【0067】
各microRNAを導入してSREレポーター活性を測定した結果を図6に示す。また、各microRNAを導入してAP1レポーター活性を測定した結果を図7に示す。これらの結果から、miR4685-3p及びmiR4689は、RAF-MEK-ERK-Elk-1/SRFとMEKK1-SEK1-JNK1/2/3-AP1の双方において、シグナル活性を低下させる作用が強いことが確認された。
【0068】
実施例3:変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞において、miR4685-3p及びmiR4689がRAS下流シグナルの制御及び細胞増殖に及ぼす影響の評価
miR4685-3p及びmiR4689が、実際に変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞におけるRAS下流シグナルの制御が可能であるか、細胞増殖を抑制できるかを評価するために以下の試験を行った。
【0069】
癌細胞として、DLD1細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG13Dの変異が存在)、HCT116細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG13Dの変異が存在)、及びSW480細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG12Vの変異が存在)を使用した。先ず、96穴プレートに1×104cells/mlとなるように各癌細細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、ルシフェラーゼ遺伝子上流にSRE又はAP1応答配列が組み込まれたSREルシフェラーゼレポーターベクター(pGL4.33[luc2P/SRE/Hygro] Vectorカタログ番号 E1340)又はAP1ルシフェラーゼレポーターベクター(pGL4.44[luc2P/AP1 RE/Hygro] Vector カタログ番号 E4111) 100ng/well、microRNA 5pmol/well、及びリポフェクタミン2000 0.5μl/wellを添加して6時間、37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を行い、トランスフェクションから24時間後にルシフェラーゼの発現量を測定し、トランスフェクションから24、48及び72時間後に細胞数を測定した。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAを導入しなかった場合(Parent)、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号4)を使用した場合(miRNC)についても同様の条件で試験を行った。
【0070】
DLD1細胞において、SREレポーター活性及びAP1レポーター活性を測定した結果を図8に、経時的に細胞数を測定した結果を図9に示す。また、HCT116細胞において、SREレポーター活性及びAP1レポーター活性を測定した結果を図10に、経時的に細胞数を測定した結果を図11に示す。更に、SW480細胞において、SREレポーター活性及びAP1レポーター活性を測定した結果を図12に、経時的に細胞数を測定した結果を図13に示す。この結果、miR4685-3pは、DLD1細胞及びHCT116細胞においてRAS下流シグナルを低下させる作用があり、これらの細胞の増殖を抑制できることが確認された。また、miR4689は、DLD1細胞、HCT116細胞、及びSW480細胞の全てに対してRAS下流シグナルを低下させる作用があり、これらの細胞の増殖を効果的に抑制できることが確認された。
【0071】
実施例4:変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞に対するmiR4689の抗腫瘍効果の評価
以上の試験結果から、miR4689は、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞に対して、RAS下流シグナルを制御し、細胞の増殖を抑制させる作用があることが確認されたので、本試験では、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞(DLD1細胞、HCT116細胞、SW480細胞)に対する増殖抑制効果について、miR4689と抗腫瘍効果が公知のsiRNA(siMEK1/2)との比較を行った。
【0072】
具体的には、24穴プレートに2.5×104cellsの各癌細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、microRNA又はsiRNAを50nMとなるように添加してリポフェクタミンIMAX 1.0μl/wellを用いて24時間、37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を行い、トランスフェクションから24、48及び72時間後に細胞数を測定した。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAを導入しなかった場合(Parent)、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号4)を使用した場合(miRNC)についても同様の条件で試験を行った。
【0073】
図14に、DLD1細胞について、経時的に細胞数を測定した結果と培養72時間後の細胞の状態を観察した結果を示す。また、図15に、HCT116細胞及びSW480細胞について、経時的に細胞数を測定した結果を示す。この結果から、miR4689は、siMEK1/2に比して、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞の増殖を抑制する作用が強いことが明らかとなった。
【0074】
実施例5:miR4689が、大腸癌細胞におけるRAS下流シグナル分子の発現量、アポトーシスマーカーの発現量、及びアポトーシス誘導に及ぼす影響の評価
以上の試験結果から、miR4689には、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞の増殖を抑制する作用があることが明らかとなったので、本試験では、miR4689の作用を明らかにするために、miR4689を投与した当該大腸癌細胞においてウエスタンブロットを行い、RAS下流シグナル分子及びアポトーシスマーカーの発現量について測定を行った。
【0075】
具体的には、6穴プレートに2×105cellsのDLD1細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、microRNAを50nMとなるように添加してリポフェクタミンIMAX 5μl/wellを用いて37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を行い、トランスフェクションから24、48及び72時間後に、ウエスタンブロットによってRAS下流シグナル分子及びアポトーシスのマーカー分子の発現量を測定した。また、トランスフェクションから48時間後には、microRNAの発現量の測定及び市販キットを用いてTUNEL(TdT-mediated dUTP nick end labeling)法によるアポトーシスの検出も行った。microRNAの発現量の測定は、miReasy kitでRNAを抽出し、TaqMan MicroRNA RT Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)で逆転写を行った後に、TaqMan MicroRNA Assays (Applied Biosystems)及び7500HT Sequence Detection System (Applied Biosystems)を用いてreal-time quantitative PCRを行うことによって実施した。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAを導入しなかった場合(Parent)、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号4)を使用した場合(miRNC)についても同様の条件で試験を行った。
【0076】
ウエスタンブロットの結果を図16及び17に示す。また、microRNAの発現量の測定結果を図16示す。更に、TUNEL法によるアポトーシスの検出結果を図18に示す。この結果から、miR4689は、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞において、RAS下流にあるpMEK、MEK、pERK、pAKT、AKT等の少なくとも2つの別々の経路に対して抑制的に作用していることが明らかとなった。また、miR4689は、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞に対してアポトーシスを誘導していることも明らかとなった。
【0077】
実施例6:大腸癌におけるmiR4689発現量の解析
ヒト大腸癌細胞について、miR4689の発現量を測定した。本試験では、9種のヒト大腸癌細胞を使用し、その内、4種は変異型KRAS(G12V)遺伝子を有しており、3種は変異型BRAF遺伝子(V600E)を有している。具体的には、miReasy kitでRNAを抽出し、TaqMan MicroRNA RT Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)で逆転写を行った後に、TaqMan MicroRNA Assays (Applied Biosystems)及び7500HT Sequence Detection System (Applied Biosystems)を用いてreal-time quantitative PCRを行うことによって実施した。
【0078】
得られた結果を図19に示す。この結果から、野生型KRAS遺伝子又は野生型BRAF遺伝子を有している大腸癌細胞は、変異型KRAS遺伝子又は変異型のBRAF遺伝子を有している大腸癌細胞に比べて、miR4689の発現量が有意に高いことが確認された(p=0.02)。
【0079】
また、大腸癌患者(46例)から採取した大腸癌細胞について、KRAS遺伝子のタイプを野生型と変異型に分けて、miR4689の発現量を測定した。miR4689の発現量の測定方法は、前述の通りである。
【0080】
得られた結果を図20に示す。この結果から、変異型KRAS遺伝子を有している大腸癌細胞では、野生型KRAS遺伝子を有している大腸癌細胞に比べて、miR4689がダウンレギュレートされていることが確認された。
【0081】
更に、大腸癌患者(44例)から採取した正常大腸上皮細胞と大腸癌細胞について、miR4689の発現量について測定を行った。miR4689の発現量の測定方法は、前述の通りである。
【0082】
得られた結果を図21に示す。この結果から、大腸癌細胞は、正常細胞に比して、miR4689の発現量が低下している傾向があることが明らかとなった(p=0.0002)。
【0083】
実施例7:KRASとmiR4689の発現量の関係の解析
変異型KRAS遺伝子を導入してKRASの発現量を増強させた細胞においてKRASとmiR4689の発現量の関係を調べるために以下の試験を行った。
【0084】
先ず、図1に示すpCMV6のEmpty Vecterに変異型KRAS遺伝子(G12V;配列番号3)をSgfI-MluIの部位でインサートしG12Vkras mt プラスミドを作製した。次いで、このG12Vkras mt プラスミドを、リポフェクタミン2000を用いて正常ヒト細胞[HEK293(ヒト胎児由来腎細胞)、MRC5(ヒト胎児由来肺細胞)に導入し、変異型KRAS遺伝子導入細胞を作製した。また、コントロールとして、変異型KRAS遺伝子をインサートしていないpCMV6のEmpty Vecterについても、正常ヒト細胞に導入することによりコントロール細胞を作製した。得られた変異型KRAS遺伝子導入細胞とコントロール細胞について、KRASの発現量とmiR4689の発現量を測定した。KRASの発現量の測定は、ウエスタンブロットにて行った。miR4689の発現量の測定は、qRT-PCRにて行った。
【0085】
得られた結果を図22及び23に示す。この結果から、正常ヒト細胞においてKRASの発現を増強すると、miR4689の発現量が低下することが確認され、KRASとmiR4689の発現量には相反的な関係があることが明らかとなった。
【0086】
実施例8:KRASをノックダウンした大腸癌細胞におけるmiR4689の発現量、ERKリン酸化能、及び細胞増殖特性の解析
大腸癌細胞において、KRASのノックダウンが、miR4689の発現量、ERKリン酸化能、及び細胞増殖に及ぼす影響を調べるために、以下の試験を行った。
【0087】
DLD1細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG13Dの変異が存在)に、KRASを標的とするshRNA(shKRAS;Broad Institute, Cambrige, MA)をpLKO.1ベクターを用いて導入した。また、コントロールとして、DLD1細胞にnon-target shRNA(shCtrl)を含むpLKO.1ベクターを導入した。
【0088】
shKRAS又はshCtrlが導入されたDLD1細胞におけるmiR4689の発現量をqRT-PCRにて測定した。結果を図24に示す。この結果から、DLD1細胞にshKRASを導入することによって、miR4689の発現量が増加することが確認され、前記実施例AにおけるKRASとmiR4689の発現量が相反的な関係を示す結果と符合していた。
【0089】
また、shKRAS又はshCtrlが導入されたDLD1細胞におけるKRAS、P-ERK1/2、ERK1/2、及びACTB(ローディングコントロール)の発現量をウエスタンブロットにて測定した。結果を図25に示す。この結果から、shKRASが導入されたDLD1細胞では、KRASの発現量は低下するも、ERKリン酸化は同等であることが確認された。
【0090】
更に、shKRAS又はshCtrlが導入されたDLD1細胞の細胞増殖アッセイを行った。具体的には、各細胞を5〜6×104cells/wellとなるように24穴プレートに播種し、24〜72時間培養を行った。培養開始から24、48及び72時間後に、細胞数を計測した。結果を図26に示す。この結果から、培養72時間後において、shKRASが導入されたDLD1細胞では、shCtrlが導入されたDLD1細胞に比べて、穏やかではあるが有意な増殖抑制効果が認められた。
【0091】
実施例9:In vivoにおけるmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子による大腸癌の治療効果の評価-1
マトリゲル(BD Biosciences, San Jose, CA)と培地を容量比1:1で含む培地/マトリゲル溶液100μL当たりDLD1癌細胞を1×106 cellsとなるように混合し、これをメスヌードマウス(NIHON CLEA, Tokyo, Japan)の左右両の背部の下側部分に皮下注入(左右に各100μL)した。DLD1癌細胞を投与した時点を0日目として、0、2、4、7、9、11、14、及び16日目に、下記で得られたmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子(sCa-miR-4689)を含む製剤を、1回投与当たりmiR4689が40μgとなるように、尾静脈に注入した。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を導入しなかった場合(Parent)、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号5)を使用した場合(sCa-control-miR)についても同様の条件で試験を行った。
【0092】
(miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤の調製法)
100mlの蒸留水に、0.37gのNaHCO3、90μlのNaH2PO4・2H2O(1M)、及び180μlのCaCl2(1M)をこの順に添加して溶解させ、1NのHClでpHを7.5に調整した。これを直径0.2μmのフィルターでろ過した。得られたバッファー1ml当たりに2μgのmiR4689、4μlのCaCl2(1M)を混合し、37℃の水浴中で30分間インキュベートした。その後、15000rpm×5分で遠沈し、得られたペレットを生理食塩水に分散させ、miR4689を炭酸アパタイト粒子に内包させた複合粒子の分散液を得て、これを10分間超音波振動処理にかけることにより、miR4689を包含した炭酸アパタイトナノ粒子からなる複合体を含む製剤を得た。なお、超音波振動処理は、超音波振動機能を有するウォーターバスを用いて、20℃に設定した水に、プラスチック容器に収容した前記分散液を浮かべ、高周波出力55W、発振周波数38kHzの条件で10分間行った。斯して得られた製剤は、直ちに、前記試験に使用した。また、斯して得られた製剤は、miR4689を包含した炭酸アパタイトナノ粒子からなる複合体の平均粒径が50nm以下であることが、走査型プローブ顕微鏡を用いた測定において確認されている。
【0093】
DLD1癌細胞を投与した時点から、マウス背部の腫瘍サイズ(長径×短径×短径×1/2)を経時的に測定した。得られた結果を図27に示す。この結果、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を尾静脈投与した場合には、コントロールに比べて、DLD1癌細胞の増殖が有意に抑えられていた。この結果から、miR4689は、炭酸アパタイト粒子との複合粒子を形成させて投与することによって、変異型KRAS遺伝子を有する大腸癌細胞に対して、格段に優れた抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。
【0094】
実施例10:In vivoにおけるmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子による大腸癌の治療効果の評価-2
マトリゲル(BD Biosciences, San Jose, CA)と培地を容量比1:1で含む培地/マトリゲル溶液100μL当たりDLD1癌細胞を1×106 cellsとなるように混合し、これをメスヌードマウス(NIHON CLEA, Tokyo, Japan)の左右両の背部の下側部分に皮下注入(左右に各100μL)した。DLD1癌細胞を投与した時点を0日目として、6、7、8、及び9日目に、実施例7で使用したmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を、1回投与当たりmiR4689が50μgとなるように、尾静脈に注入した。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を導入しなかった場合(Parent)、microRNAの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号5)を使用した場合(sCa-control-miR)についても同様の条件で試験を行った。
【0095】
DLD1癌細胞を投与した時点から9日目に、癌組織を摘出して、miR4689の発現量を測定し、更にウエスタンブロットによりアポトーシスのマーカー分子の発現量を測定した。miR4689の発現量の測定は、具体的には、miReasy kitでRNAを抽出し、TaqMan MicroRNA RT Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)で逆転写を行った後に、TaqMan MicroRNA Assays (Applied Biosystems)及び7500HT Sequence Detection System (Applied Biosystems)を用いてreal-time quantitative PCRを行うことによって実施した。
【0096】
得られた結果を図28に示す。この結果から、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与することによって、癌組織におけるmiR4689が発現すると共に、AKT、Bcl2、及びBclXLの発現量が減少し、且つBAXの発現量が増加しており、癌細胞のアポトーシスが誘導されていることが確認された。
【0097】
実施例11:miR4689の標的遺伝子の解析
前記実施例から、miR4689がRas/MEK/MAPK経路の活性化を抑制していることが示唆された。そこで、本試験では、Ras/MEK/MAPK経路において、miR4689が標的としている遺伝子の解明を行った。
【0098】
まず、miR4689と、Ras/MEK/MAPK経路に関与している遺伝子の塩基配列を比較したところ、図29のAに示すように、Ras/MEK/MAPK経路の上流に存在するKRASの3'UTR領域にmiR4689の不完全相補的配列(binding site)があることが示唆された。
【0099】
そこで、実際に、miR4689の標的遺伝子の1つがKRASであるかを確認するために、以下の試験を行った。先ず、前記不完全相補的配列(binding site)を含む塩基配列(配列番号6)をPCRで増幅させてインサート用核酸を調製した。このインサート用核酸を、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector (Promega)のルシフェラーゼの下流に、制限酵素部位Sal IとXho Iで導入し、pmirGLO-KRAS3'UTRベクターを作成した。次いで、96穴プレートに、1×104個のDLD1細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、pmirGLO-KRAS3'UTRベクターとmiR4689をそれぞれ100ng/wellと5pmol/wellとなるように添加して、リポフェクタミン2000 0.5μl/穴を用いて37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。トランスフェクションから48時間後に、Dual Luciferase reporter Assayでルシフェラーゼの発現量を測定した。また、比較のために、miR4689の代わりにコントロールmicroRNA(miR-NC、配列番号4)を使用して、
前記と同条件で試験を行った。
【0100】
得られた結果を図29のBに示す。図22のBには、ルシフェラーゼの発現量について、miR-NCを添加した場合のルシフェラーゼの発現量を1とした場合の相対値として示す。図29のBから明らかなように、miR4689をトランスフェクトした場合には、ルシフェラーゼの発現量が抑制されていた。即ち、miR4689の標的遺伝子の1つがKRASであり、miR4689はKRASの3'UTRに存在する領域に結合して翻訳制御を行っていることが明らかとなった。
【0101】
以上の結果から、miR4689の標的遺伝子の1つがKRASであることが確認されたので、次に、miR4689が導入された大腸癌細胞におけるKRASのタンパク質とmRNAの発現量を測定した。具体的には、6穴プレートに2×105cellsのDLD1細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG13Dの変異が存在)及びSW480細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG12Vの変異が存在)をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、microRNAを50nMとなるように添加してリポフェクタミンIMAX 5μl/wellを用いて37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を行い、トランスフェクションから48時間後に、ウエスタンブロットによってKRASタンパク質の発現量を測定した。また、トランスフェクションから48時間後に、KRAS mRNAの発現量をqRT-PCRにて測定した。また、比較として、miR4689の代わりにコントロールmicroRNA(配列番号5、miR-NC)も使用して同様に試験を行った。
【0102】
KRASタンパク質の発現量の測定結果を図30、KRAS mRNAの発現量の測定結果を図31に示す。この結果から、miR4689が導入された大腸癌細胞において、KRASのタンパク質とmRNAの双方の発現量が低下しており、miR4689の標的遺伝子の1つがKRASであることが支持された。
【0103】
実施例12:miR4689の標的遺伝子の解析
前記実施例から、miR4689が、PI3K/Akt経路の活性化を抑制していることが示唆された。そこで、本試験では、PI3K/Akt経路において、miR4689が標的としている遺伝子の解明を行った。
【0104】
まず、miR4689と、PI3K/Akt経路に関与している遺伝子の塩基配列を比較したところ、図32のAに示すように、PI3K/Akt経路に存在するAKT1のCDSにmiR4689の不完全相補的配列(binding site)があることが示唆された。
【0105】
そこで、実際に、miR4689の標的遺伝子の1つがAKT1であるかを確認するために、以下の試験を行った。先ず、前記不完全相補的配列(binding site)を含む塩基配列(配列番号7)をPCRで増幅させてインサート用核酸を調製した。このインサート用核酸を、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector (Promega)のルシフェラーゼの下流に、制限酵素部位Sal IとXho Iで導入し、pmirGLO-AKT1CDSベクターを作成した。次いで、96穴プレートに、1×104個のDLD1細胞をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、pmirGLO-AKT1CDSベクターとmiR4689をそれぞれ100ng/wellと5pmol/wellとなるように添加して、リポフェクタミン2000 0.5μl/穴を用いて37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。トランスフェクションから48時間後に、Dual Luciferase reporter Assayでルシフェラーゼの発現量を測定した。また、比較のために、miR4689の代わりにコントロールmicroRNA(miR-NC、配列番号4)を使用して、前記と同条件で試験を行った。
【0106】
得られた結果を図32のBに示す。図32のBには、ルシフェラーゼの発現量について、miR-NCを添加した場合のルシフェラーゼの発現量を1とした場合の相対値として示す。図32のBから明らかなように、miR4689をトランスフェクトした場合には、ルシフェラーゼの発現量が抑制されていた。即ち、miR4689の標的遺伝子の1つがAKT1であり、miR4689はAKT1のCDSに存在する領域に結合して翻訳制御を行っていることが明らかとなった。
【0107】
更に、6穴プレートに2×105cellsのDLD1細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG13Dの変異が存在)及びSW480細胞(ヒト大腸癌細胞、KRAS遺伝子においてG12Vの変異が存在)をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、miR4689を50nMとなるように添加してリポフェクタミンIMAX 5μl/wellを用いて37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。トランスフェクションから48時間後に、ウエスタンブロットによってAkt1の発現量を測定した。更に、トランスフェクションから48時間後に、qRT-PCRを行うことにより、DLD1細胞及びSW480細胞におけるAkt1発現量の測定を行った。また、比較のために、miR4689の代わりにコントロールmicroRNA(miR-NC、配列番号4)を使用して、前記と同条件で試験を行った。
【0108】
得られた結果を図32のCに示す。図32のCから明らかなように、miR4689のトランスフェクトによって、DLD1細胞及びSW480細胞におけるAkt1の発現量が低下していることが確認された、即ち、本結果からも、Akt1は、miR4689の標的遺伝子の1つであることが確認された。
【0109】
実施例13:大腸癌細胞のアポトーシス誘導とKRAS及びAkt1との関係の解析
以上の実施例から、miR4689はKRASとAkt1を標的遺伝子としており、大腸癌の治療に有効であることが示された。そこで、本試験では、KRAS又はAkt1の一方のみをノックダウンした場合に、大腸癌の治療効果が認められ得るかについて確認するために、以下の試験を行った。
【0110】
DLD1細胞に、KRASを標的とするshRNA(shKRAS;Broad Institute, Cambrige, MA)をpLKO.1ベクターを用いて導入した。また、比較のために、DLD1細胞にnon-target shRNA(shCtrl)を含むpLKO.1ベクターを導入した。
【0111】
更に、DLD1細胞に、Akt1を標的とするsiRNA(siAkt1;Origene Technology, Rockville, MD, USA)を、リポフェクタミンを使用して導入した。また、比較のために、siAkt1の代わりに、non-target siRNA(siCtrl)を、リポフェクタミンを使用して導入した。
【0112】
shRNA又はsiRNAが導入されたDLD1細胞について、ウエスタンブロットを行い、アポトーシスマーカーの発現量について測定を行った。
【0113】
得られた結果を図33に示す。この結果から、KRAS又はAkt1のいずれか一方のみをノックダウンした場合には、アポトーシスマーカーの発現量の増加は限定的にしか認められず、miR4689による大腸癌細胞のアポトーシスの誘導は、KRASとAkt1の双方を標的遺伝子とすることに起因していることが示唆された。
【0114】
実施例14:大腸癌細胞のアポトーシス誘導とKRAS及びAkt1との関係の解析
DLD1細胞に、miR4689、コントロールmicroRNA(配列番号5、miR-NC)、変異型KRAS遺伝子を導入したベクター、及びAkt1遺伝子を導入したベクターをそれぞれ組み合せて、リポフェクタミン2000を用いて導入した。
【0115】
導入48時間後に、ウエスタンブロットによってKRAS及びAkt1の発現量を測定した。更に、各細胞の細胞増殖アッセイを行った。具体的には、各細胞を5〜6×104cells/wellとなるように24穴プレートに播種し、16時間培養を行い、各ベクター又はmicroRNA導入から60時間後に、細胞数を計測した。得られた結果を図34に示す。図34に示すように、KRAS及び/又はAkt1を過剰発現させたDLD1細胞では、miR4689を導入しても、細胞増殖抑制効果が緩和されていた。即ち、この結果からも、miR4689による大腸癌細胞の増殖抑制は、KRASとAkt1の双方を標的遺伝子とすることに起因していることが確認された。
【0116】
実施例15:In vivoにおけるmiR4689の安全性の評価
miR4689の安全性を評価するために、以下の試験を行った。非担癌メスヌードマウス(NIHON CLEA, Tokyo, Japan)に、実施例7で使用したmiR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を、1回投与当たりmiR4689が40μgとなるように、1、2、4、6、8、10及び12日目に尾静脈に注入した。なお、本試験では、比較のために、複合粒子を導入しなかった場合(Parent)、コントロールmicroRNA(配列番号5)と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を使用した場合(miR-NC)についても同様の条件で試験を行った。経時的にヌードマウスの体重を測定し、14日目に血液化学検査及び臓器のHE(Hematoxylin and Eosin)染色を行った。
【0117】
経時的に体重を測定した結果を図35、血液化学検査の結果を図36、各種臓器のHE染色の結果を図37に示す。miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤の投与した群では、死亡例がなく、他の群と比べて体重変化に相違は殆ど認められなかった。また、血液化学検査の結果も、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤の投与した群は、他の群と比べて大きな相違は認められなかった。更に、各種臓器のHE染色の結果から、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤の投与した群では、組織学的なダメージも認められなかった。以上の結果から、miR4689と炭酸アパタイト粒子の複合粒子は、高い安全性を備えていることが確認された。
【0118】
実施例16:大腸癌患者におけるmiR4689の発現量と予後の関係の解析
外科的手術を受けたステージ0〜IV期の大腸癌患者について、miR4689の発現量、術後5年全生存率、臨床病理学的因子について、以下に示す方法で分析した。先ず、大腸癌患者(202例)から採取した大腸癌細胞についてmiR4689の発現量を測定してmiR4689の発現量の中央値を求め、miR4689の発現量が中央値以上の場合をmiR4689高発現群、miR4689の発現量が中央値未満の場合をmiR4689低発現群として、群別けした。miR4689の発現量の測定方法は、前述の通りである。次いで、ステージ0〜IV期の大腸癌患者について、術後5年全生存率を求めた。また、ステージ0〜III期の大腸癌患者についても、同様に術後5年無再発生存率を求めた。更に、ステージ0〜III期の大腸癌患者の臨床病理学的因子、及び無再発生存期間(DFS)における単変量解析及び多変量解析を行った。
【0119】
ステージ0〜IV期の大腸癌患者の術後5年全生存率を図38、ステージ0〜III期の大腸癌患者の術後5年無再発生存率を図39、臨床病理学的因子の解析結果を表3、無再発生存期間(DFS)における単変量解析及び多変量解析の結果を表4に示す。この結果から、miR4689高発現の大腸癌患者は、miR4689低発現の大腸癌患者に比べて、術後の予後が良好であり、miR4689の補充療法が大腸癌患者の術後の予後を向上させ得ることが示唆された。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]