(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543647
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】ゴム配合のための修飾充填剤及びそれに由来するマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C09C 1/28 20060101AFI20190628BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20190628BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20190628BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20190628BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20190628BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20190628BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20190628BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20190628BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
C09C1/28
C09C3/12
C09C3/08
C08K9/04
C08J3/22CEQ
C08K3/36
C08L21/00
B60C1/00 A
B60C1/00 B
B60C1/00 Z
B60C15/06 C
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-576049(P2016-576049)
(86)(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公表番号】特表2017-529410(P2017-529410A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】US2015038279
(87)【国際公開番号】WO2016003884
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年1月9日
(31)【優先権主張番号】62/018,886
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501166968
【氏名又は名称】クーパー タイヤ アンド ラバー カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Cooper Tire & Rubber Company
(73)【特許権者】
【識別番号】517002443
【氏名又は名称】インダストリアス ネグロメツクス エセ.アー.デ セー.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルヴィン、ハワード
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレン、ピーター、ジョン
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−527471(JP,A)
【文献】
特開2010−269985(JP,A)
【文献】
特開2007−106936(JP,A)
【文献】
特開平09−316359(JP,A)
【文献】
特開2009−206033(JP,A)
【文献】
特表2011−522925(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0272383(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/142130(WO,A1)
【文献】
特表2012−515806(JP,A)
【文献】
特開2013−041992(JP,A)
【文献】
特開2001−354805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/28
C08K 3/36
C09C 3/12
C09C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾シリカ生成物を製造するための方法であって、
メルカプトシランとシリカとを混合して疎水化シリカを形成するステップと、
前記疎水化シリカを酸化剤で処理して前記疎水化シリカのメルカプタン基の酸化によりジスルフィド結合が形成されて前記修飾シリカ生成物を形成するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記酸化剤は、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(漂白剤)、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、硫酸銅(II)、臭素、一酸化窒素(NO)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疎水化シリカの前記処理は、実質的に中性のpH及び塩基性pHのうちの一方で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記メルカプトシランは、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2−メルカプトベンゾチアゾールを前記メルカプトシラン及び前記シリカと混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
修飾シリカ生成物を製造するための方法であって、
メルカプトシラン溶液とシリカスラリーとを混合して疎水化シリカスラリーを形成するステップと、
前記疎水化シリカスラリーを酸化剤で処理して前記疎水化シリカスラリーのメルカプタン基の酸化によりジスルフィド結合が形成されて修飾シリカスラリーを形成するステップと、
前記修飾シリカスラリーをゴムラテックスにブレンドしてブレンドスラリーを形成するステップと、
前記ブレンドスラリーを凝固させて前記修飾シリカ生成物を含むシリカマスターバッチを形成するステップと、を含む、方法。
【請求項7】
前記酸化剤は、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(漂白剤)、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、硫酸銅(II)、臭素、一酸化窒素(NO)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記疎水化シリカスラリーの前記処理は、実質的に中性のpH及び塩基性pHのうちの一方で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記メルカプトシラン溶液は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
2−メルカプトベンゾチアゾールを前記メルカプトシラン溶液及び前記シリカスラリーと混合することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記シリカマスターバッチは、溶液ポリマーのシリカマスターバッチである、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記修飾シリカ生成物を含む前記シリカマスターバッチを脱水するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年6月30日に出願された米国仮特許出願第62/018,886号の利益を主張するものである。上記出願の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ゴム化合物用の補強充填剤に関し、より具体的には、ゴム化合物用の修飾シリカ充填剤に関する。
【背景技術】
【0003】
タイヤ及び他のゴム製品を作製する際に、シリカをエラストマーまたはゴムに混合してエラストマーの特定の特性を改善することが望ましい。乾式混合プロセスを用いてシリカをゴムに組み込むことは周知であり、その場合、混合プロセス中にある材料をシリカの表面に付着させてゴムにブレンドさせる。シリカがそのような物質でコーティングされると、そのシリカは疎水化された(hydrophobated)と称され、疎水化シリカを作製するために使用されるいずれの材料も疎水化剤である。
【0004】
様々なシラン化合物が疎水化剤として開発されてきた。既知のシラン化合物及びシリカをゴムに組み込むためのプロセスは、Wallenらに対する米国特許第8,357,733号に記載されている。
【0005】
既知の種類のシランの1つは、活性チオール基を有し、ゴムとシリカとの優れたカップリングを提供するメルカプトシランである。加水分解されたときに望ましい水溶性を有する市販のメルカプトシランは、以下の構造を有する3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
【化1】
【0006】
メルカプトシランを疎水化剤として使用することの不都合な点は、従来のゴム化合物においても、またシリカマスターバッチプロセスに使用した場合も、不良な耐スコーチ性またはスコーチ時間に寄与する傾向があることである。スコーチは、完全に配合されたゴムが早期加硫または架橋を起こすことなく熱処理される能力を反映するものであり、ゴムを加工する上で非常に重要なパラメータである。ゴムが架橋し始めると、もはやそれを有用な物品に押出成形及び/または形成することができない。したがって、より長いスコーチ時間が望ましい。より長いスコーチ時間を有するゴム化合物は、より短いスコーチ時間を有するゴムと比べて、より高温で加工することができ、より多く再加工することができる。より長いスコーチ時間を有する化合物は、タイヤ工場の生産性を著しく向上させることが可能である。
【0007】
チオール基が、別の化学成分と予備反応を起こし、通常の混合条件下では本質的に未反応性となるが、より高い温度まで加熱されると、その元の状態にチオール基が存在していたかのように反応する、ブロック化メルカプトシランも既知である。ブロック化メルカプトシランのプロセス挙動は非常に良好である。しかしながら、既知の種類のブロック化メルカプトシランの使用には、多くのゴム用途において膨大な費用がかかる。
【0008】
メルカプトシランがゴム化合物及びシリカマスターバッチプロセスにおいて疎水化剤として使用され得る方法の継続的な必要性が存在する。望ましくは、方法は、十分な耐スコーチ性を提供する一方で、市販のメルカプトシランの使用を可能にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によれば、メルカプトシランがゴム化合物及びシリカマスターバッチプロセスにおいて疎水化剤として使用され得、十分な耐スコーチ性を提供する一方で、市販のメルカプトシランの使用を可能にする方法が、予期せずに発見された。
【0010】
本開示は、メルカプトシラン、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランまたは3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランで疎水化したシリカを酸化剤で処理して、修飾シリカ生成物を形成するプロセスを含む。酸化剤は、シリカと結合したメルカプトシランのメルカプタンまたはチオール基を酸化するために選択される。酸化は、一般的に、アルカリまたは実質的に中性のpH条件下で行われる。より具体的には、過酸化水素または次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を用いた疎水化シリカの処理は、ゴム化合物またはシリカマスターバッチに組み込まれたときに、改善されたスコーチ時間を含む優れた配合特性を有する修飾シリカ生成物を提供する。
【0011】
一実施形態において、修飾シリカ生成物を製造するための方法は、メルカプトシランとシリカとを混合して疎水化シリカを形成するステップを含む。次いで、疎水化シリカを酸化剤で処理して修飾シリカ生成物を形成する。
【0012】
修飾シリカ生成物を用いて作製されるゴム配合物及びタイヤ等の物品も、本開示の範囲内である。
【0013】
別の実施形態において、修飾シリカ生成物を製造するための方法は、メルカプトシラン溶液とシリカスラリーとを混合して疎水化シリカスラリーを形成するステップを含む。次いで、疎水化シリカスラリーを酸化剤で処理して修飾シリカスラリーを形成する。修飾シリカスラリーをゴムラテックスにブレンドし、続いてそれを凝固させて修飾シリカ生成物を有するシリカマスターバッチを形成する。
【0014】
修飾シリカ生成物を含むシリカマスターバッチを用いて作製されるゴム配合物及びタイヤ等の物品は、さらに本開示の範囲内である。
本発明を以下に示す。
[発明1]
修飾シリカ生成物を製造するための方法であって、
メルカプトシランとシリカとを混合して疎水化シリカを形成するステップと、
前記疎水化シリカを酸化剤で処理して前記修飾シリカ生成物を形成するステップと、を含む、方法。
[発明2]
前記酸化剤は、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(漂白剤)、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、硫酸銅(II)、臭素、一酸化窒素(NO)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、発明1に記載の方法。
[発明3]
前記疎水化シリカの前記処理は、実質的に中性のpH及び塩基性pHのうちの一方で行われる、発明1に記載の方法。
[発明4]
前記メルカプトシランは、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである、発明1に記載の方法。
[発明5]
非シランメルカプタン含有添加剤を前記メルカプトシラン及び前記シリカと混合することをさらに含む、発明1に記載の方法。
[発明6]
発明1に記載の方法に従って製造される、修飾シリカ生成物。
[発明7]
発明6に記載の修飾シリカ生成物を有する、ゴム配合物。
[発明8]
発明7に記載のゴム配合物を用いて製造される、物品。
[発明9]
発明7に記載のゴム配合物を含むタイヤトレッド、サイドウォール、リムクッション、及びトレッドベースのうちの少なくとも1つを備える、タイヤ。
[発明10]
修飾シリカ生成物を製造するための方法であって、
メルカプトシラン溶液とシリカスラリーとを混合して疎水化シリカスラリーを形成するステップと、
前記疎水化シリカスラリーを酸化剤で処理して修飾シリカスラリーを形成するステップと、
前記修飾シリカスラリーをゴムラテックスにブレンドしてブレンドスラリーを形成するステップと、
前記ブレンドスラリーを凝固させて前記修飾シリカ生成物を含むシリカマスターバッチを形成するステップと、を含む、方法。
[発明11]
前記酸化剤は、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(漂白剤)、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、硫酸銅(II)、臭素、一酸化窒素(NO)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、発明10に記載の方法。
[発明12]
前記疎水化シリカスラリーの前記処理は、実質的に中性のpH及び塩基性pHのうちの一方で行われる、発明10に記載の方法。
[発明13]
前記メルカプトシラン溶液は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを含む、発明10に記載の方法。
[発明14]
非シランメルカプタン含有添加剤を前記メルカプトシラン溶液及び前記シリカスラリーと混合することをさらに含む、発明10に記載の方法。
[発明15]
前記シリカマスターバッチは、溶液ポリマーのシリカマスターバッチである、発明10に記載の方法。
[発明16]
前記修飾シリカ生成物を含む前記シリカマスターバッチを脱水するステップをさらに含む、発明10に記載の方法。
[発明17]
発明10に記載の方法に従って製造される、シリカマスターバッチ。
[発明18]
発明17に記載のシリカマスターバッチを有する、ゴム配合物。
[発明19]
発明18に記載のゴム配合物を用いて製造される、物品。
[発明20]
発明18に記載のゴム配合物を含むタイヤトレッド、サイドウォール、リムクッション、及びトレッドベースのうちの少なくとも1つを備える、タイヤ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示の上記及び他の利点は、特に、後に本明細書に記載される図面及び表に照らし合わせて考慮することで、以下の詳細な説明から当業者に容易に明白となるであろう。
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態に従って修飾シリカ生成物を形成する方法を示すフロー図である。
【
図2】本開示の一実施形態に従って修飾シリカマスターバッチを形成する方法を示すフロー図である。
【
図3】メルカプトシランを含む疎水化シリカと酸化剤との例示的な反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明は、本質的に例示であるに過ぎず、本開示、用途、または使用を制限することを意図するものではない。また、図面全体を通して、対応する参照番号が同様のまたは対応する部分及び特徴を示すことを理解されたい。開示される方法に関して、提示されるステップの順序は、本質的に例示であって、別途開示されていない限り、その順序は必須でも重要でもない。
【0018】
図1に示されるように、本開示は、修飾シリカ生成物を製造するための方法100を含む。方法100は、メルカプトシランとシリカとを混合して疎水化シリカを形成するステップ102を含む。方法100はまた、メルカプトシランで疎水化されたシリカを酸化剤で処理するステップ104も含む。修飾シリカ生成物は、硫黄硬化または硫黄加硫に関与する任意の用途のために、あらゆる種類のエラストマーを配合する際に特に有用である。
【0019】
図2を参照すると、本開示はまた、シリカマスターバッチ中で修飾シリカ生成物を製造するための方法200も含む。方法200は、メルカプトシランとシリカスラリーとを混合して疎水化シリカスラリーを形成するステップ202を含む。次いで、疎水化シリカスラリーを、ステップ204において酸化剤で処理し、修飾シリカスラリーを形成する。ステップ206において、修飾シリカスラリーをゴムラテックスにブレンドしてブレンドスラリーを形成する。その後、ブレンドスラリーをステップ208において凝固させ、シリカマスターバッチ中で修飾シリカ生成物を形成する。
【0020】
図1または
図2の方法によって形成された修飾シリカ生成物は、ポリマーまたはシリカマスターバッチ中に配合されており、得られた化合物は、処理されていない対応するシリカと比べて改善されたスコーチ時間を示す。限定されないが、天然ゴム(NR);4〜12個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する1つ以上の共役ジエン、例えば、ブタジエンまたはイソプレンから作製されるポリマー;4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンと、7〜12個の炭素原子を有するビニル置換芳香族、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジン等とから作製されるポリマー;クロロプレンから作製されるポリマー及びコポリマー(すなわち、ポリクロロプレン);種々のハロゲン含有ポリマー、例えば、ビニリデンフルオリド及びコポリマーヘキサフルオロプロピレン;アクリル酸アルキルのポリマー及びコポリマーを含むアクリルゴム;ニトリルゴム;ならびにそれらの組み合わせを含む任意の適切なポリマーが、本開示の修飾シリカ生成物とともに使用され得る。特定の非限定的な実施例として、適切なポリマーは、SBR、BR、NR、NBR、クロロプレン、またはそれらのブレンドを含み得る。疎水化シリカ生成物は、所望により、他の適切な種類のポリマー中に配合され得ることを認識されたい。
【0021】
例えば、
図3に示されるように、適切な条件下でメルカプタン基をジスルフィドに変換するのに適した任意の酸化剤が、本開示の範囲内で使用され得る。特定の非限定的な実施例として、酸化剤は、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩(漂白剤)、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、硫酸銅(II)、臭素、一酸化窒素(NO)、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含んでもよい。酸化剤は、メルカプトシランのメルカプタン基の少なくとも大部分を酸化するのに十分な濃度で用いられる。例えば、実質的に全てのメルカプタンをジスルフィドに変換するために、過剰な酸化剤が用いられてもよい。当業者は、所望により、他の適切な種類及び濃度の酸化剤を選択してもよい。
【0022】
過酸化水素または次亜塩素酸塩の場合、メルカプタン基の酸化は、実質的に中性のpHから塩基性のpHで行われ得るよいことを理解されたい。いずれか特定の化学にプロセスを限定することを望むものではないが、メルカプタン基の酸化は、有利にはアルカリ条件下で起こると考えられるか、または中性条件下でのヨウ化アルカリ金属塩の添加によって触媒されてジスルフィドを形成し得る。酸性条件下での過酸化水素を用いたメルカプタン基の処理によりスルホン酸がもたらされると考えられる。したがって、酸性pHを提供する条件は、ジスルフィドとは対照的に、不所望にスルホン酸の形成をもたらす場合があり、ゴム配合物中に配合されたときに十分な耐スコーチ性を提供しない可能性がある。
【0023】
本発明は、幅広い表面積及び幅広いBET/CTAB比を有する様々なシリカ種とともに用いられ得る。非晶質シリカ及びヒュームドシリカ生成物を含む様々なシリカ種が、本開示の修飾シリカ生成物における使用に適している。最も具体的な実施形態において、修飾シリカ生成物に使用されるシリカは、非晶質シリカである。上記要件に適合する市販のシリカの代表的例として、Z1165MP(BET比表面積165m
2/g)及びZeosil(登録商標)Premium 200MP(BET比表面積220m
2/g)の名称でSolvayから販売されているシリカが挙げられる。さらなるシリカは、Ultrasil(登録商標)7000GR(BET比表面積190m
2/g)及びUltrasil(登録商標)VN3(BET比表面積190m
2/g)の名称でEvonik Industriesから、またZeopol(登録商標)8745(BET比表面積180m
2/g)及びZeopol(登録商標)8755(BET比表面積190m
2/g)の名称でHuberから市販されている。他の適切な種類のシリカも、所望により本開示の範囲内で使用され得る。
【0024】
本開示の修飾シリカ生成物はまた、それらが、Wallenらに対する米国特許第8,357,733号に記載されるプロセスを用いたエマルションポリマーに基づいているか、またはKoskiらに対する米国特許第6,420,456号、Goerlらに対する米国特許第6,713,534号、及びChenらに対する米国特許第7,312,271号に記載されるような溶液ポリマーに基づいているかにかかわらず、あらゆる種類のシリカマスターバッチへの組み込みに適している。
【0025】
本開示はまた、ある量のエラストマー及びある量の修飾シリカ生成物を有するゴム配合物も含む。修飾シリカ生成物の粒子は、例えば、押出成形または成形操作前の混合操作によって、エラストマー全体にわたって実質的に均一に分布させることができる。エラストマー全体にわたる修飾シリカ生成物の実質的に均一な分布は、徹底した混合操作によって促進され得ること、またそのような混合操作を行う能力は、当業者によって所有されることを理解されたい。
【0026】
ゴム配合物は、ゴム配合の分野で既知の方法によって、例えば、硫黄加硫可能な種々の構成ポリマーと、一般的に使用される種々の添加剤材料、例えば、硬化補助剤、例えば、硫黄、活性化剤、遅延剤、及び促進剤等、処理添加剤、例えば、油、樹脂(例えば、粘着付与樹脂)、シリカ、可塑剤、充填材、顔料、脂肪酸、酸化亜鉛、ワックス、抗酸化剤、及びオゾン劣化防止剤等、素練り促進剤、ならびに補強材、例えば、カーボンブラック等とを混合することによって配合され得る。ゴム配合物に適した他の添加剤も、所望により使用され得る。ゴム配合物の意図する使用に応じて、一般的な添加剤が選択され、従来の量で使用される。
【0027】
本開示による別の実施形態において、最初にメルカプタン基を有する添加剤を修飾シリカの水性スラリーに加え、その後または同時に酸化剤を加えることにより、メルカプタン基を有する他の添加剤も修飾シリカに組み込まれ得る。これは、
図3に示されており、添加剤は、R’−SHによって表されている。R’−SHを混合物に組み込むことにより、様々な種が生成され得ることを認識されたい。
【0028】
そのような添加剤の非限定的な例は、以下の構造を有する2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)促進剤である。
【化2】
【0029】
所望により、当業者によって、ゴム配合物またはシリカマスターバッチにおいて使用するために、チオールまたはメルカプタン基を有する他の炭化剤が選択され得ることを理解されたい。
【0030】
本開示はまた、修飾シリカ生成物を有するゴム配合物を含む物品も含む。修飾シリカ生成物を有するゴム配合物は、所望の形状に押し出されるか、成形されるか、または別様に形成され、熱及び圧力のうちの少なくとも一方の適用によって硬化され得ることを認識されたい。非限定的な例として、ゴム配合物は、タイヤトレッド、サイドウォール、ベルトコート等の構成要素、またはタイヤの別の構成要素を有するタイヤにおいて使用され得る。市販の製品を含む他の種類の物品も、本開示の範囲内で、修飾シリカ生成物を含むゴム配合物を使用して製造され得る。
【実施例】
【0031】
実施例A 3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(Silquest(商標)A−189、Momentive Performance Materialsから市販されている)で疎水化された後、過酸化水素で処理されるシリカの調製
【0032】
6.20% Ultrasil(登録商標)7000シリカの水性スラリーを調製した。このスラリー(786.5グラム、48.76グラムのシリカを含有する)を2リットルビーカーに加え、華氏160度まで加熱した。
【0033】
別個に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3.17グラム)を250mlビーカー内のイソプロピルアルコール(4ml)に溶解した。酢酸(0.7ml)をシラン溶液に加えた。シラン溶液に、水(50ml)を15分の期間にわたって徐々に加え、加水分解を完了させた。
【0034】
加水分解させたシラン溶液をシリカスラリーに加え、10分間撹拌した。得られたスラリーのpHを、希釈水酸化ナトリウム溶液を用いて7.5〜7.8に上昇させた。このスラリーを、撹拌しながら2時間華氏160度で加熱して疎水化反応を完了させた。
【0035】
31%過酸化水素溶液(0.81グラム)を水で20mlに希釈し、次いで、疎水化シリカスラリーに加えた。この混合物を華氏160度でさらに1時間加熱した。
【0036】
固体含有量18.78%(399.45グラム)のブレンドSBR格子(油不含のSBR1502ラテックス及びSBR1712ラテックス)を、水酸化ナトリウムの溶液を用いてpH11に調整した。得られたシリカスラリーを、いずれの凝固も回避するために、最終ラテックス/シリカスラリーのpHを9.5〜9.8に維持するように撹拌しながらブレンドSBR格子に加えた。
【0037】
高芳香族油(22.5グラム)と、粉砕したN−(1,3−ジメチルブチル)−N‘−フェニル−P−フェニレンジアミンまたは6PPD(0.30グラム)との別個に調製した混合物を、華氏212度まで加熱し、華氏160度のシリカ/ラテックススラリーに加え、15分間激しく撹拌した。無水塩化カルシウムの溶液(水500mlに8グラムを溶解)をシリカ/ラテックススラリーに徐々に加え、凝固したシリカマスターバッチを得た。
【0038】
得られたシリカマスターバッチ(SMB)を濾布を用いて脱水し、華氏130度の空気循環炉内で4〜5時間乾燥させた。
【0039】
実施例B 3−メルカプトプロピルトリメトキシシランで疎水化された後、次亜塩素酸ナトリウムで処理されるシリカの調製
【0040】
6.20% Ultrasil(登録商標)7000シリカの水性スラリーを調製した。このスラリー(786.5グラム、48.76グラムのシリカを含有する)を2リットルビーカーに加え、華氏160度まで加熱した。
【0041】
別個に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(3.17グラム)を250mlビーカー内のイソプロピルアルコール(4ml)に溶解した。酢酸(0.7ml)をシラン溶液に加えた。シラン溶液に、水(50ml)を15分の期間にわたって徐々に加え、加水分解を完了させた。
【0042】
加水分解させたシラン溶液をシリカスラリーに加え、10分間撹拌した。得られたスラリーのpHを、水酸化ナトリウム溶液を用いて7.5〜7.8に上昇させた。このスラリーを、2時間華氏160度で加熱して疎水化反応を完了させた。
【0043】
4.59%次亜塩素酸ナトリウム溶液(11.80グラム)を水で20mlに希釈し、次いで、疎水化シリカスラリーに加えた。この混合物を華氏160度でさらに1時間加熱した。固体含有量18.78%(399.45グラム)のブレンドSBR格子(油不含のSBR1502ラテックス及びSBR1712ラテックス)を、水酸化ナトリウムの溶液を用いてpH11に調整した。得られたシリカスラリーを、いずれの凝固も回避するために、最終ラテックス/シリカスラリーのpHを9.5〜9.8に維持するように撹拌しながらブレンドSBR格子に加えた。
【0044】
高芳香族油(22.5グラム)と、粉砕したN−(1,3−ジメチルブチル)−N‘−フェニル−P−フェニレンジアミンまたは6PPD(0.30グラム)との別個に調製した混合物を、華氏212度まで加熱し、華氏160度のシリカ/ラテックススラリーに加え、15分間激しく撹拌した。無水塩化カルシウムの溶液(水500mlに8グラムを溶解)をシリカ/ラテックススラリーに徐々に加え、凝固したシリカマスターバッチを得た。
【0045】
得られたシリカマスターバッチ(SMB)を濾布を用いて脱水し、華氏130度の空気循環炉内で4〜5時間乾燥させた。
【0046】
実施例C 修飾シリカ生成物を含むゴム配合物の調製
【0047】
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに対する過酸化物のモル比が異なる、本開示の修飾シリカ生成物を有する一連の実験ゴム配合物を、下の表1に示す。全ての配合物は、重量基準で、ゴムまたはエラストマー100重量部(PHR)に対して記載されており、修飾シリカ生成物を有するシリカマスターバッチ(SMB)中のエラストマーが、修飾シリカ生成物が使用された実験ゴム配合物中の合計100部のエラストマーに寄与していることを理解されたい。
【表1】
【0048】
対照ゴム配合物を従来のツーパス(two−pass)混合サイクルに従って混合した。実験ゴム配合物も、従来のツーパス混合サイクルに従って混合し、全てのゴム配合物について確実に同様のせん断履歴となるようにした。
【0049】
次いで、対照ゴム配合物及び実験ゴム配合物を、それぞれ、下の表2及び表3に示されるように、一連の従来の流動測定試験及び物理的試験に従って特徴付けた。
【表2】
【0050】
表2に示されるように、本開示の修飾シリカ生成物を有する実験ゴム配合物は、本開示に従って酸化処理を行わなかった、メルカプトシランで疎水化されたシリカを有する対照ゴム配合物と比較して、耐スコーチ性における著しい改善を示す。対照ゴム配合物中の疎水化シリカは、非限定的な例として、実質的にWallenらに対する米国特許第8,357,733号に記載されるように製造され得る。
【表3】
【0051】
表3に示される物理的特性も、対照ゴム配合物と比較して、修飾シリカ生成物を含む硬化生成物における十分なレベルの補強を示している。動的特性試験、摩耗、及び分散性を含む性能試験も行われたが、実験ゴム配合物は、対照ゴムの組成と比較して満足の行くものであると見なされた。
【0052】
ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)等の非メルカプトシラン疎水化剤を有する対照ゴム配合物と比較した実験ゴム配合物の試験も行われた。実験ゴム配合物は、TMSPDを含む対照ゴム配合物と同様のスコーチ安全性を有することが観察された。
【0053】
酸化剤(過酸化物)で処理した、メルカプトシラン及びMBTの両方を有する実験シリカマスターバッチ配合物についても評価した。メルカプトシラン及びMBTの両方を有する実験シリカマスターバッチ配合物は、十分なスコーチ安全性を有することが観察された。
【0054】
有利には、本開示の修飾シリカ生成物またはシリカマスターバッチは、非ブロック化メルカプトシラン疎水化剤ではこれまで観察されなかった十分な耐スコーチ性を提供する一方で、ゴム配合物中における市販のメルカプトシランの使用を可能にする。
【0055】
本発明を例示する目的で、特定の代表的な実施形態及び詳細を示してきたが、当業者には、以下に添付される特許請求の範囲にさらに記載される本開示の範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われ得ることは明白であろう。