(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る橋構造の一実施形態を、橋構造が道路橋である場合を例にとって
図1から
図14を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の厚さや寸法の比率を調整している。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の道路橋1は、例えば自動車Cが走行する高速道路用の橋である。本道路橋1は、橋軸方向Xに間隔を開けて配置された橋脚10(
図1では1本のみ示す)と、橋脚10により下方から支持された複数の橋桁15と、複数の橋桁15で下方から支持された本実施形態の床版システム21と、を備えている。
なお、
図1では、床版システム21を構成する複数枚のプレキャスト床版22のうちの一部のみを示している。
【0018】
橋脚10には、RC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)又はPC(Prestressed Concrete)等を用いることができる。
橋桁15は、橋軸方向Xに延びるとともに橋軸方向Xに直交する橋軸直角方向Yに互いに間隔を開けて配置されている。例えば、これら橋軸方向X及び橋軸直角方向Yは、水平面に沿う方向である。
橋桁15には、例えばH形鋼等を用いることができる。橋桁15は、ウェブ16の上方及び下方にそれぞれフランジ17が位置するように配置されている。上方のフランジ17は、床版システム21に図示しないずれ止めで固定されている。ここで、ずれ止めとは、頭付きスタッドや孔あき鋼板ジベル等のことを意味する。下方のフランジ17は、図示はしないが、橋脚10上に設置された支承にずれ止めボルトや溶接で固定されている。
【0019】
以下では、床版システム21が備えるプレキャスト床版22が2枚(一対)である場合を例にとって説明するが、床版システム21が備えるプレキャスト床版22の数は特に限定されず、3枚以上でもよい。
図2及び
図3に示すように、床版システム21は、板状に形成され、橋軸方向Xに並べて配置された一対のプレキャスト床版22A、22Bと、プレキャスト床版22Aにおけるプレキャスト床版22Bに対向する側面22aAに剛結合された第1鋼板23と、プレキャスト床版22Bにおけるプレキャスト床版22Aに対向する側面22bBに剛結合された第2鋼板24と、第1鋼板23と第2鋼板24との間に充填された充填部材25と、を有している。
なお、一対のプレキャスト床版22(もしくは、3枚以上のプレキャスト床版22)のそれぞれを区別して呼ぶときはプレキャスト床版22A、22Bと呼び、プレキャスト床版22A、22Bを区別しないで呼ぶときは、プレキャスト床版22と総称する。
【0020】
本実施形態では、プレキャスト床版22Aとプレキャスト床版22Bとの構成は同一である。このため、プレキャスト床版22Aの構成については数字、又は数字及び英小文字に英大文字「A」を付加することで示す。プレキャスト床版22Bのうちプレキャスト床版22Aと対応する構成については、プレキャスト床版22Aと同一の数字、又は数字及び英小文字に英大文字「B」を付加することで示す。これにより、重複する説明を省略する。プレキャスト床版22C等についても同様とする。
例えば、プレキャスト床版22Aには、プレキャスト床版22Bの側面22bBに対応する側面22bA(不図示)が形成されている。
【0021】
プレキャスト床版22の厚さ方向Zに直交(交差)する方向は、橋軸方向X及び橋軸直角方向Yとなる。
プレキャスト床版22Aは一対のプレキャスト床版のうちの一方のプレキャスト床版に該当し、プレキャスト床版22Bは一対のプレキャスト床版のうちの他方のプレキャスト床版に該当する。
ここで言う一対の部材が剛結合するとは、一対の部材が強固に結び合って1つになることを意味する。
【0022】
プレキャスト床版22Aは、コンクリート等で板状に形成された本体28A内に図示しない主鉄筋や配力鉄筋等が埋設されて構成されている。プレキャスト床版22Aの橋軸方向Xの長さは、例えば2〜3mである。プレキャスト床版22AがPCで形成されている場合には、プレキャスト床版22Aの弾性率(弾性係数)は、例えば2×10
4〜4×10
4N/mm
2(ニュートン毎平方ミリメートル)(2×10
4〜4×10
4MPa(メガパスカル))である。
プレキャスト床版22Aの側面22aAの下端部には、プレキャスト床版22Bの側面22bBに向かうにしたがい上方に傾斜した傾斜面22cAが形成されている。プレキャスト床版22Bの側面22bBの下端部には、プレキャスト床版22Aの側面22aAに向かうにしたがい上方に傾斜した傾斜面22dBが形成されている。
プレキャスト床版22Aには、図示はしないがプレキャスト床版22Bの側面22bB及び傾斜面22dBと同様の側面22bA及び傾斜面22dAが形成されている。
【0023】
プレキャスト床版22Aにおいて、傾斜面22cAとプレキャスト床版22Aの下面とがなす角度θ1は、0°よりも大きく90°よりも小さければ、特に限定されない。なお、角度θ1は、プレキャスト床版22Aの下面を延長した面と傾斜面22cAとが、傾斜面22cAよりも下方であって延長した面よりも上方になす角度である。
【0024】
プレキャスト床版22Aの側面22aAの下部に橋軸方向Xに引張応力が作用したときに、角度θ1が小さい方が、この下部に剥離破壊が生じにくくなる。しかし、傾斜面22cAの厚さ方向Zの長さを確保しつつ角度θ1を小さくすると、傾斜面22cAの橋軸方向Xの長さが長くなったり、充填部材25の製造時に充填部材25の原材料が角度の小さい部分まで回りにくくなったりする。このため、型枠等を用いて充填部材25を形成しにくくなる。
したがって、角度θ1は例えば45°であることが好ましい。この場合、傾斜面22cAの厚さ方向Zの長さは、例えば10mmである。
なお、鋼板23、24はプレキャスト床版22A、22Bを製造する時の型枠の一部として用いることができる。鋼板23、24は、プレキャスト床版22A、22Bを製造しても取外さない。
【0025】
傾斜面22cA、22dAは、プレキャスト床版22Aの橋軸直角方向Yの全長にわたり形成されている。
なお、傾斜面22cA、22dAは、プレキャスト床版22Aの橋軸直角方向Yの一部だけに形成されていてもよい。すなわち、
図3に示す橋軸方向Xに見たときに、自動車CのタイヤC1がプレキャスト床版22Aの上面における範囲A1に輪荷重を作用させるとする。なお、
図3ではタイヤC1が橋軸直角方向Yに2つ並んだ、いわゆるダブルタイヤである場合の絵を示している。
輪荷重は、この範囲A1から、プレキャスト床版22Aの下面に向かって橋軸直角方向Yの外側にそれぞれ角度θ3で広がる台形状の領域A2に作用する。なお、角度θ3は例えば45°である。このため、傾斜面22cA、22dAは、プレキャスト床版22Aの下面における領域A2を含むように、少なくとも橋軸直角方向Yの範囲A3に形成されればよい。
【0026】
図2に示すように、第1鋼板23は、橋軸方向Xが第1鋼板23の厚さ方向となり、橋軸直角方向Y及び厚さ方向Zにそれぞれ延びている。第1鋼板23の橋軸直角方向Yの長さは、プレキャスト床版22Aの橋軸直角方向Yの長さと同等である。第1鋼板23の下端部には、プレキャスト床版22Aの傾斜面22cAに沿うように折れ曲がり部23aが形成されている。
第2鋼板24は、第1鋼板23と同様に形成されている。第2鋼板24の下端部には、プレキャスト床版22Bの傾斜面22dBに沿うように折れ曲がり部24aが形成されている。
【0027】
第1鋼板23には、異形鉄筋スタッドである第1定着部材(定着部材)30の端部が溶接等により固定されている。例えば、異形鉄筋スタッドは、丸棒の表面に丸棒の長手方向に沿って凹凸形状が形成されたものである。第1定着部材30は、プレキャスト床版22A内で橋軸方向Xに沿って延びている。第1定着部材30はプレキャスト床版22A内に複数配置され、例えば、
図3に示す橋軸方向Xに見たときに碁盤目状に配置されている。
第1定着部材30は、本体28Aへのアンカーとして用いられる。第1定着部材30の長さは、第1定着部材30の外径の30倍程度であることが好ましい。第1定着部材30は、床版システム21に作用する最大曲げ引張応力に対して抵抗できる程度の本数と定着長さ(第1定着部材30の長手方向の長さ)にする。
第1鋼板23に第1定着部材30が固定されていることで、プレキャスト床版22Aの側面22aAから第1鋼板23が離間するのが抑えられる。第1定着部材30により、プレキャスト床版22Aの側面22aAに第1鋼板23が剛結合される。
【0028】
第2鋼板24には、第1定着部材30と同様に構成された第2定着部材31の端部が溶接等により固定されている。第2定着部材31は、プレキャスト床版22B内で橋軸方向Xに沿って延びている。第2定着部材31により、プレキャスト床版22Bの側面22bBに第2鋼板24が剛結合される。
プレキャスト床版22Aは、図示はしないがプレキャスト床版22Bの第2鋼板24及び第2定着部材31と同様に構成された第2鋼板及び第2定着部材が取り付けられている。
【0029】
なお、プレキャスト床版22Aに傾斜面22dAが形成されなくてもよいし、プレキャスト床版22Aに第2鋼板及び第2定着部材が取り付けられなくてもよい。
プレキャスト床版22Aに用いられる定着部材30、31はこれに限定されず、定着部材として凹凸形状が形成されていな丸棒や、
図4に示すアングル状(L字形)の第1定着部材32及び第2定着部材33を用いてもよい。
【0030】
図2に示すように、充填部材25は、第1鋼板23及び第2鋼板24にそれぞれ付着される。例えば、充填部材25としては、エポキシ樹脂やゴムを用いることができる。
充填部材25の弾性率の下限値は、充填部材25がプレキャスト床版22間で曲げモーメントを伝達する範囲内、又は、橋軸方向Xに隣り合うプレキャスト床版22の上面間の厚さ方向Zの段差D(
図2参照。ただし、段差Dの寸法を誇張して示している)が所定の値よりも大きくならない範囲内で設定される。
充填部材25の弾性率の下限値は、例えば1×10N/mm
2である。この理由の1つとして、ゴムの弾性率が1×10〜10×10N/mm
2程度であり、土木の分野においてゴムよりも弾性率が小さい材料を使うことは考えにくいためである。
この理由の他の1つとして、ゴムよりも弾性率が小さい材料を使った場合に、前記段差Dが大きくなるためである。
【0031】
ただし、充填部材25は、以下の条件を満たすように選定されることが好ましい。
すなわち、充填部材25の弾性率は、プレキャスト床版22の弾性率よりも小さく、鋼板23、24の弾性率よりも小さい。
充填部材25の引張強度(引張強さ)は、プレキャスト床版22の引張強度以上である。ここで言う引張強度は、材料の耐え得る最大張力を、材料の(初期の)断面積で割った値のことを意味する。
充填部材25が鋼板23、24に付着する付着強度は、プレキャスト床版22の引張強度以上である。ここで言う第一の材料と第二の材料との付着強度は、第一の材料と第二の材料との接触面に沿って第一の材料に対して第二の材料を相対的に移動させたときの引抜き力又は押抜き力の最大値を、前記接触面の面積で除した値のことを意味する。
【0032】
充填部材25の厚さ(第1鋼板23と第2鋼板24との距離)は、例えば25mmである。
なお、充填部材がセメントや、セメントに似た材料で形成されている場合には、充填部材にエポキシ樹脂等の接着剤を混合したうえで、鋼板23、24の間で硬化させてもよい。すなわち、充填部材が接着剤を含有してもよい。
【0033】
次に、本実施形態の実施例の床版システム、及び比較例の床版システムの構成及び2種類の曲げモーメントの分布について説明する。
図5には、3枚のプレキャスト床版22A、22B、22Cを備える本実施例の床版システム21aの構成と2種類の曲げモーメントの分布を示す。
図5(a)は床版システム21aの平面図、
図5(b)は床版システム21aの側面の断面図、
図5(c)は床版システム21aの正面の断面図である。なお、
図5(a)から
図5(c)に示す床版システム21aの構造は、模式的なものである。
図5(d)には、床版システム21aに作用する橋軸直角方向Yに平行な軸線周りの曲げモーメントMyの分布を示す。そして、
図5(e)には、床版システム21aに作用する橋軸方向Xに平行な軸線周りの曲げモーメントMxの分布を示す。
【0034】
床版システム21aは、橋軸直角方向Yの両端部を橋桁15で下方から支持されている。
プレキャスト床版22Bの上面における橋軸方向Xの中心であって橋軸直角方向Yの中心となる位置P1に、荷重F1を下向きに作用させる。すなわち、3枚のプレキャスト床版22のうち中央のプレキャスト床版22Bの中心となる位置P1に、荷重F1を下向きに作用させる。
この場合、床版システム21aの橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは、
図5(d)において実線で示す線L1のようになる。床版システム21aのプレキャスト床版22Bにおいて橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは
図5(e)において実線で示す線L2のようになる。
【0035】
床版システム21aが荷重F1を受けると、
図6に示すように、プレキャスト床版22の上面側には充填部材25を橋軸方向Xに圧縮させる力F
11が作用する。プレキャスト床版22の下面側には充填部材25を橋軸方向Xに引張る力F
12が作用する。充填部材25の弾性率はプレキャスト床版22の弾性率よりも小さく、鋼板23、24の弾性率よりも小さいため、橋軸方向Xにおいて充填部材25のひずみの方がプレキャスト床版22のひずみ及び鋼板23、24のひずみよりも大きくなる。プレキャスト床版22及び鋼板23、24よりも充填部材25の方が大きく変形するため、橋軸方向Xにおいてプレキャスト床版22内に発生する応力度(応力)σ
1、及び鋼板23、24内に発生する応力度σ
2よりも、充填部材25内に発生する応力度σ
3の方が小さくなる。すなわち、充填部材25により橋軸方向Xの応力度が緩和される。
【0036】
充填部材25はプレキャスト床版22及び鋼板23、24よりも大きく変形するが、充填部材25の引張強度はプレキャスト床版22の引張強度以上であり、充填部材25が鋼板23、24に付着する付着強度は、プレキャスト床版22の引張強度以上である。このため、プレキャスト床版22よりも充填部材25の方が破断しにくく、プレキャスト床版22よりも鋼板23、24と充填部材25との界面23b、24bの方が破断しにくい。
【0037】
一般的に、充填部材がコンクリートに付着する付着強度よりも、充填部材が鋼板に付着する付着強度の方が大きい。本実施例の床版システム21aでは、鋼板23、24がプレキャスト床版22に定着部材30、31により剛結合するとともに充填部材25が鋼板23、24に確実に付着するため、プレキャスト床版22の側面22aA、22bBの下面側(一部)に引張応力が集中することが抑えられる。
なお、本実施例の床版システム21aにおける曲げモーメントMx、Myを比較例の床版システムにおける曲げモーメントMx、Myと比較させた説明は、比較例の床版システムの構成及び2種類の曲げモーメントの分布の説明の後で行う。
【0038】
一方で、比較例となる前述の特許文献1の床版システムでは、継手端部及び間詰め材を用いてプレキャスト床版同士を確実に固定している。以下では、このような床版システムの接続構造を連続構造と称する。連続構造の床版システムでは、プレキャスト床版同士を確実に固定するため、床版システムを構成(施工)するのに比較的時間がかかる。
以下で説明する連続構造の床版システムは、構成を図示はしないが、本実施例の床版システム21aと同様に3枚のプレキャスト床版を備える。連続構造の床版システムは、本実施例の床版システム21aとはプレキャスト床版同士の接続構造のみが異なる。
連続構造の床版システムにおいて、本実施例の床版システム21aと同様に、3枚のプレキャスト床版のうち中央のプレキャスト床版の中心となる位置P1に、荷重F1を下向きに作用させる。
この場合、連続構造の床版システムの橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは、
図5(d)において点線で示す線L3のようになる。連続構造の床版システムの橋軸方向Xの中央のプレキャスト床版において、橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは、
図5(e)において点線で示す線L4のようになる。
【0039】
連続構造の床版システムでは、プレキャスト床版同士が確実に固定される。このため、
図5(d)に示すように、連続構造の床版システムの線L3で示す曲げモーメントMyは、本実施例の床版システム21aの線L1で示す曲げモーメントMyよりも大きい。
【0040】
すなわち、本実施例の床版システム21aでは、比較例の連続構造の床版システムに比べて曲げモーメントMyが小さくなる。このため、本実施例の床版システム21aは、比較例の連続構造の床版システムに比べて橋軸直角方向Yに延びるひび割れが形成されにくくなる。以下では、このような本実施例の床版システム21aの充填部材25による接続構造を半連続構造と称する。
なお、連続構造の床版システムでは、半連続構造の床版システム21aに比べて曲げモーメントMyが増加する分、半連続構造の床版システム21aに比べて曲げモーメントMxが減少する(
図5(e)の線L2、L4参照)。
【0041】
また、比較例となる前述の非特許文献1の床版システムでは、プレキャスト床版同士をMMA樹脂である間詰め材で接続している。
非特許文献1では、MMA樹脂の引張強度や弾性率、プレキャスト床版とMMA樹脂の付着強度・付着せん断強度等については特に配慮されていない。非特許文献1では、設計概要に床版の連続を期待すると記載されている。この記載は床版間のせん断力の伝達を意図して記述されたものであり、曲げモーメントの伝達を意図するものではないことが確認されている。すなわち、非特許文献1の床版システムでは、MMA樹脂が引張破断したり、プレキャスト床版とMMA樹脂の間で剥離が生じたとしても支障の無い構成になっていると考えられる。この床版システムでは、一対のプレキャスト床版の継手部には、せん断力は発生するが曲げモーメントは発生しない。以下では、このような床版システムの接続構造を非連続構造と称する。
【0042】
非連続構造の床版システムでは、プレキャスト床版同士を接続するのに、プレキャスト床版に取付けた型枠内にMMA樹脂を流し込んで固める等するだけである。このため、床版システムを構成するのに比較的時間がかからない。
非連続構造の床版システムの橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは、
図5(d)において一点鎖線で示す線L5のようになる。非連続構造の床版システムの橋軸方向Xの中央のプレキャスト床版において、橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは、
図5(e)において一点鎖線で示す線L6のようになる。
【0043】
非連続構造の床版システムでは、プレキャスト床版同士がMMA樹脂である間詰め材で接続される。この間詰め材は、間詰め材自身に生じる引張力やプレキャスト床版との剥離力に対して十分な強度を持つことを保証したものではない。このため、間詰め材が引張破壊したり、プレキャスト床版と間詰め材との間で剥離が生じたりする可能性がある。そうすると、
図5(d)に示すように、荷重F1が作用しても継手部には曲げモーメントMyが発生しない状態となる。非連続構造の床版システムの曲げモーメントMyは、連続構造の床版システムの曲げモーメントMyに比べて大きく減少する(
図5(d)の線L3、L5参照)。
【0044】
本実施例の半連続構造の床版システム21aでは、充填部材25の引張強度はプレキャスト床版22の引張強度以上であり、充填部材25の付着強度はプレキャスト床版22の引張強度以上である。充填部材25が破断することなく曲げモーメントMyを伝達することで、半連続構造の床版システム21aの一対のプレキャスト床版22間で伝達される曲げモーメントMyは、非連続構造の床版システムの一対のプレキャスト床版間で伝達される曲げモーメントMyに比べて増加する(
図5(d)の線L1、L5参照)。
このように、本実施例の半連続構造の床版システム21aでは、充填部材25により、鋼板23、24の間で曲げモーメントMyを伝達することで鋼板23、24を一体化する。ここで言う一体化とは、自動車程度の荷重が床版システム21aの厚さ方向Zに作用したときに、プレキャスト床版22及び鋼板23、24よりも先に充填部材25が破断しない程度に、充填部材25が鋼板23、24を1つにつなげて分けられない関係にすることを意味する。さらに、一体化とは、自動車程度の荷重が床版システム21aの厚さ方向Zに作用したときに、充填部材25に作用する応力が充填部材25の引張強度よりも小さく、かつ充填部材25が鋼板23、24に付着する付着強度よりも小さいことを意味する。
【0045】
非連続構造の床版システムでは、半連続構造の床版システム21aに比べて曲げモーメントMyが減少する分、半連続構造の床版システム21aに比べて曲げモーメントMxが増加する(
図5(e)の線L2、L6参照)。
本実施例の半連続構造の床版システム21aでは、非連続構造の床版システムに比べて曲げモーメントMxを抑えられる。したがって、床版システム21aは、非連続構造の床版システムに比べてプレキャスト床版22の厚さ(厚さ方向Zの長さ)の増加が抑えられる。
【0046】
本実施例の半連続構造の床版システム21aでは、充填部材25は鋼板23、24を一体化していて、充填部材25はプレキャスト床版22及び鋼板23、24よりも破断しにくい。非特許文献1の床版システムとは異なり、本実施例の床版システム21aでは、充填部材25が破断せずに鋼板23、24を一体化していることを前提とした構成になっている。
【0047】
次に、本実施形態の実施例の床版システム、及び比較例の床版システムの構成及び解析結果について説明する。
【0048】
(解析結果1)
まず、床版システムの構成の変化による床版システムに作用する応力の大きさの最大値の変化を解析した結果について説明する。
図7に示すように、床版システム21では、プレキャスト床版22A、22Bに符号を省略した傾斜面22cA、22dBが形成されている。プレキャスト床版22Aに第1鋼板23が剛結合されるとともに、プレキャスト床版22Bに第2鋼板24が剛結合されるとした境界条件を与える。
床版システム21におけるプレキャスト床版22の橋軸直角方向Yの両端は、橋桁15により橋軸方向Xに平行な軸線周りに回転可能に下方から支持されている。プレキャスト床版22Bのプレキャスト床版22A寄りの端部の上面には、所定の範囲A5に等分布荷重F3が下向きに作用している。なお、傾斜面22cA、22dAの角度θ1は、45°とした。
【0049】
解析モデルは、床版システム21における橋軸直角方向Yの中心を通り橋軸直角方向Yに直交する基準面Sに対して対称(面対称)である。
解析結果として、第1鋼板23と充填部材25との境界における応力σxx(橋軸方向Xに垂直な面に対して橋軸方向Xに作用する応力)を示す。解析結果は、側面22aAにおける基準面Sに対する一方側の範囲A6のみを示す。
【0050】
このように構成されるとともに橋桁15及び等分布荷重F3により境界条件を与えられた床版システム21に対して、プレキャスト床版22A、22Bに傾斜面22cA、22dBが形成されていなく、鋼板23、24を備えないものを、比較例1の床版システムと規定する。床版システム21に対して、傾斜面22cA、22dBは形成されているが、鋼板23、24を備えないものを、比較例2の床版システムと規定する。
床版システムが鋼板23、24を備えない場合には、解析結果として、プレキャスト床版22Aと充填部材25との境界における応力σxxを示す。
【0051】
図8に、比較例1の床版システムの解析結果を示す。
図8中に橋桁15及び基準面Sの位置を示す。引張応力を正の値で、圧縮応力を負の値で示す。後述する
図9及び
図10においても同様である。
各セルに作用する応力の大きさの中でも、基準面S上であって、最も下方のセルC6(以下、評価対象セルと呼ぶ)に作用する応力の大きさが最も大きくなることが分かった。
図9に比較例2の床版システムの解析結果を、
図10に本実施例の床版システム21の解析結果をそれぞれ示す。評価対象セルに作用する応力の大きさは、比較例1の床版システムに比べて比較例2の床版システムの方が小さくなり、比較例2の床版システムに比べて実施例の床版システムの方が小さくなることが分かった。
【0052】
比較例2及び実施例の評価対象セルに作用する応力の大きさを、比較例1の評価対象セルに作用する応力の大きさを基準にして比較した結果を
図11に示す。
図11の横軸は鋼板23、24の厚さを表す。縦軸は、比較例1の評価対象セルに作用する応力の大きさに対する、比較例2及び実施例の評価対象セルに作用する応力の大きさの比率(以下、応力の大きさの比率と呼ぶ)を表す。すなわち、鋼板23、24の厚さが0mmの床版システムは、前述の比較例2の鋼板23、24を備えない床版システムとなる。鋼板23、24の厚さが1mm、2.3mm等の床版システムは、実施例の床版システムとなる。
【0053】
比較例1の床版システムのプレキャスト床版22に傾斜面22cA、22dAを形成して比較例2の床版システムとすることで、評価対象セルに作用する応力の大きさが2割程度小さくなることが分かった(横軸において、鋼板23、24の厚さが0mmのグラフを参照)。また、鋼板23、24の厚さを厚くしていっても、鋼板23、24の厚さが4.5mmを超えた以降では、応力の大きさの比率はほとんど小さくならないことが分かった。
例えば、傾斜面22cA、22dAが形成されている比較例2の床版システムに、厚さ4.5mmの鋼板23、24を備えることで、評価対象セルに作用する応力の大きさが5割程度小さくなることが分かった。比較例1の床版システムに、傾斜面22cA、22dAを形成してさらに厚さ4.5mmの鋼板23、24を備えることで、評価対象セルに作用する応力の大きさが5.5割程度小さくなることが分かった。
【0054】
すなわち、比較例1の床版システムに対して傾斜面22cA、22dAを形成したり鋼板23、24を備えたりすることで、評価対象セルに作用する応力の大きさが小さくなりプレキャスト床版22の側面22aA、22bBで剥離破壊が生じるのを抑制し、床版システムの最大耐力を向上(増加)させることができることが分かった。
【0055】
(解析結果2)
次に、床版システムの橋軸直角方向Yの長さが短く、梁のように形成された床版システムを解析した結果について説明する。
図12に示すように、実施例の床版システム21bの解析モデルは、プレキャスト床版22A、22Bに傾斜面22cA、22dBが形成されていない。プレキャスト床版22Aに第1鋼板23が剛結合されるとともに、プレキャスト床版22Bに第2鋼板24が剛結合されるとした境界条件を与える。
プレキャスト床版22単体が破壊する荷重の大きさは、80kNである。
プレキャスト床版22A、22Bは、橋軸方向Xの長さが887.5mmで、橋軸直角方向Yの長さが175mmで、厚さ方向Zの長さが250mmである。充填部材25は、橋軸方向Xの長さが40mmで、橋軸直角方向Yの長さが175mmで、厚さ方向Zの長さが250mmである。なお、プレキャスト床版22A、22B、充填部材25、及び鋼板23、24全体としての橋軸方向Xの長さは、1815mmである。
【0056】
プレキャスト床版22Aの下面におけるプレキャスト床版22Bとは反対側の端から橋軸方向Xに400mmの位置は、支点29aにより回転可能に支持されている。プレキャスト床版22Bの下面におけるプレキャスト床版22Aとは反対側の端から橋軸方向Xに150mmの位置は、支点29aにより回転可能に支持されている。
これら一対の支点29a間の橋軸方向Xの距離は、1265mmである。
プレキャスト床版22Bの上面におけるプレキャスト床版22A側の端から105mmの位置に、荷重F5を下向きに作用させる。
以下の解析結果で示す荷重F5が作用したときの厚さ方向Zの変位は、第2鋼板24と充填部材25との境界であって第2鋼板24の上面(以下、評価対象位置と呼ぶ)における変位である。
【0057】
なお、実施例の床版システム21bにおいて、鋼板23、24を備えないものを、比較例3の床版システムと規定する。比較例3の床版システムでは、プレキャスト床版22Bと充填部材25との境界であってプレキャスト床版22Bの上面(以下、評価対象位置と呼ぶ)における変位を示す。
【0058】
図13に、実施例の床版システム21bの解析結果を示す。
図13の縦軸は荷重F5の大きさを表し、横軸は評価対象位置の厚さ方向Zの変位を示す。
荷重F5が大きくなるのにしたがって、評価対象位置の厚さ方向Zの変位が大きくなる。床版システム21bは弾性域を超えて非弾性域になるまで変形し、荷重F5の大きさが39.9kNのときに、充填部材25が引張破壊することが分かった。
【0059】
図14に、比較例3の床版システムの解析結果を示す。
図14の縦軸及び横軸は、
図13と同様である。比較例3の床版システムは弾性域で変形し、荷重F5の大きさが22.8kNのときに、プレキャスト床版22A、22B(コンクリート)が引張破壊することが分かった。鋼板23、24を備えない比較例3の床版システムでは、床版システムの破壊において、コンクリートの引張強度が支配的(ボトルネック)になることが分かった。
実施例の床版システム21bのように鋼板23、24を備えることで、プレキャスト床版22A、22Bが引張破壊することを抑えることができる。
比較例3の床版システムが鋼板23、24を備えて実施例の床版システム21bとなることで、充填部材25と鋼板23、24との付着強度が充填部材25とプレキャスト床版22との付着強度に比べて向上し、床版システムの最大耐力を向上させることができることが分かった。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の床版システム21によれば、充填部材25がプレキャスト床版22に付着する付着強度よりも、充填部材25が鋼板23、24に付着する付着強度の方が大きくなる。鋼板23、24がプレキャスト床版22に剛結合するとともに充填部材25が鋼板23、24に確実に付着するため、プレキャスト床版22の側面22aA、22bBの下部等に応力が集中することが抑えられる。
したがって、プレキャスト床版22の側面22aA、22bBで剥離破壊が生じるのを抑制することができる。
【0061】
プレキャスト床版22Aに剛結合された第1鋼板23とプレキャスト床版22Bに剛結合された第2鋼板24とを充填部材25で一体化するだけで、床版システム21を構成できる。このため、床版システム21の施工に要する時間を短縮する(急速施工)とともに、床版システム21の施工に高度な技能を必要としない(脱技能化)。
【0062】
プレキャスト床版22Aの側面22aAの下端部には、傾斜面22cAが形成されている。プレキャスト床版22Aの側面22aAにおいて、強い引張応力が作用する下端部に鋭角的に突出する部分が少なるため、プレキャスト床版22Aの側面22aAの下端部に剥離破壊が生じるのをより確実に抑制することができる。
第1鋼板23に第1定着部材30が固定されている。第1定着部材30という簡単な構成で、第1鋼板23をプレキャスト床版22Aの側面22aAに剛結合させることができる。
【0063】
充填部材25の弾性率、引張強度、プレキャスト床版22の弾性率、引張強度、鋼板23、24の弾性率、引張強度、充填部材25が鋼板23、24にそれぞれ付着する付着強度は前述のようである。これにより、プレキャスト床版22間で伝達される曲げモーメントMyは連続構造の床版システムの曲げモーメントMyに比べて減少する。連続構造の床版システムに比べて半連続構造の床版システム21では、プレキャスト床版22に橋軸直角方向Yに延びるひび割れが形成されにくくなるとともに、一対のプレキャスト床版22間で一定量の曲げモーメントMyが伝達される。一定量の曲げモーメントMyが伝達されるため、プレキャスト床版22の厚さが抑えられる。プレキャスト床版22に橋軸直角方向Yに延びるひび割れが形成されにくいと、プレキャスト床版22の疲労耐久性が向上する。
したがって、プレキャスト床版22から床版システム21を容易に構成でき、プレキャスト床版22の厚さの増加を抑えつつ疲労耐久性を向上させすることができる。
第1鋼板23がアンカーである第1定着部材30により断面力を伝達することで、床版システムの破壊において、コンクリートの引張強度が支配的でなくなり、床版システムの最大耐力及び疲労耐久性を従来のループ継手と同等以上に向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の道路橋1によれば、プレキャスト床版22の側面22aA、22bBで剥離破壊が生じるのを抑制した床版システム21を用いて道路橋1を構成することができる。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、橋構造は道路橋1であるとしたが、橋構造は鉄道橋等であるとしてもよい。