特許第6543657号(P6543657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543657
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】水硬性組成物の硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/24 20060101AFI20190628BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190628BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20190628BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20190628BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
   B28B11/24
   C04B28/02
   C04B24/26 E
   C04B24/22 C
   C04B40/02
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-121814(P2017-121814)
(22)【出願日】2017年6月22日
(65)【公開番号】特開2018-1756(P2018-1756A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-125884(P2016-125884)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】吉浪 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】下田 政朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿也
(72)【発明者】
【氏名】齊田 和哉
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124104(JP,A)
【文献】 特開平10−203881(JP,A)
【文献】 特開2015−024948(JP,A)
【文献】 特開平11−012060(JP,A)
【文献】 特開昭53−149211(JP,A)
【文献】 特開平11−278960(JP,A)
【文献】 特開2008−174429(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054604(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105171908(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/24
C04B 24/22
C04B 24/26
C04B 28/02
C04B 40/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と水硬性粉体と骨材とを含む水硬性組成物用材料を混合して水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の水硬性組成物を調製し、該水硬性組成物を型枠内に充填した後、加熱養生を行う水硬性組成物の硬化体の製造方法であって、
前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内にマチュリティが60℃・h以上150℃・h以下である期間を経た後、前記加熱養生を行い、
前記マチュリティは、式(C−30)×Tの積算により算出され、ここで、Tは、型枠の周囲温度が最初に30℃以上に達した時点を始点として型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下にある時間(時間)であり、Cは、時間Tにおける型枠の周囲温度(℃)であり、
前記加熱養生は、75℃以上で1時間以上保持する工程を含む、
水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項2】
加熱養生を開始する前に、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点を始点として、40℃未満で1時間以上の低温養生を行う、請求項1記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項3】
水硬性組成物用材料が消泡剤を含む、請求項1又は2記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項4】
水硬性組成物用材料がAE剤を含む、請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項5】
水硬性組成物用材料がポリカルボン酸系共重合体を含む、請求項1〜4の何れか1項記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項6】
水硬性組成物用材料がナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を含む、請求項1〜5の何れか1項記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項7】
骨材が、表面乾燥状態における水分量以上の表面水を含んでいる、請求項1〜6の何れか1項記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの初期強度は、スリップフォーム工法における型枠滑動速度、凍害耐力、せき板の取り外し時期などコンクリートの初期における性状の判定に重要なものである。例えば、型枠の在置期間は、JASS5および建設省告示第110号に規定されているが、最小在置期間として気温15℃以上で2〜3日(基礎、柱、壁など)とされている。その要因は、脱型後のコンクリートの乾燥による長期強度の発現が著しく悪くなるためであり、特に3日以内の水分の蒸発が著しいと言われている。これを抑制するためには、セメントの水和反応を促進し、水分が乾燥(蒸発)しにくいセメント水和物に変換することが効果的であり、3日強度を高く発現させることは、コンクリート硬化体の乾燥による長期強度低下抑制の観点から重要である。
【0003】
コンクリートの硬化を促進して速やかに強度を発現させる方法の1つとして、蒸気養生などの加熱養生を行うことが知られている。
また、水硬性組成物の強度を、材令と温度を加味して関連させるための指標として、積算温度(マチュリティ)が知られている。非特許文献1には、コンクリート硬化体の強度は積算温度の関数であることが記載されている。一方で、標準示方書(土木学会)には、積算温度と強度との関係は、使用する材料、配合、乾湿の程度などによって一様でないので、あらかじめ試験により確かめておくのがよいとしている、と記載されている。
従来、加熱養生の条件やマチュリティに着目してコンクリート硬化体の強度を改善することが提案されている。
特許文献1には、硫酸アルミニウム、ミョウバン、及びミョウバン石からなる群より選択された一種又は二種以上を添加して練混ぜたコンクリートを型枠に成形後、35℃〜60℃の温度で第一段階の加熱養生を行い、次いで、60℃を超え100℃以下の温度で第二段階の加熱養生を行うコンクリート製品の製造方法が記載されている。
特許文献2には、骨材にセメントおよび水を加えて混練した生コンクリートを型枠内に打ち込んだ後に直ちに蒸気養生することを特徴とするコンクリート製品の製造方法が記載されている。特許文献2には、前記の製造方法において、生コンクリートを型枠内に打ち込んだ後に45分以内に蒸気養生すること、また、蒸気養生は40℃以上55℃以下で3.50時間以上保持することが記載されている。
特許文献3には、コンクリート製品の製造において、早強ポルトランドセメントを用い、無機硬化促進材の配合下で、コンクリートの水セメント比を30〜45重量%とし、型枠打設から脱型までの蒸気養生を70℃以下およびマチュリティ210〜290℃・hrの範囲で行うコンクリート製品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−203881号公報
【特許文献2】特開2002−68856号公報
【特許文献3】特開2000−301531号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】林正道、鮎田耕一“コンクリート工学 耐久性・寒中コンクリート詳説”株式会社山海堂発行、平成15年3月18日、145〜147頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、初期強度が高く、外観が良好な水硬性組成物の硬化体が得られる、水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水と水硬性粉体と骨材とを含む水硬性組成物用材料を混合して水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の水硬性組成物を調製し、該水硬性組成物を型枠内に充填した後、加熱養生を行う水硬性組成物の硬化体の製造方法であって、
前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内にマチュリティが60℃・h以上150℃・h以下である期間を経た後、前記加熱養生を行い、
前記マチュリティは、式(C−30)×Tの積算により算出され、ここで、Tは、型枠の周囲温度が最初に30℃以上に達した時点を始点として型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下にある時間(時間)であり、Cは、時間Tにおける型枠の周囲温度(℃)であり、
前記加熱養生は、75℃以上で1時間以上保持する工程を含む、
水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、初期強度が高く、外観が良好な水硬性組成物の硬化体が得られる、水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。初期強度は、例えば、1日後の強度や3日後の強度である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1及び比較例1の養生条件を模式的に示すグラフである。
図2図2は、実施例3及び比較例3の養生条件を模式的に示すグラフである。
図3図3は、実施例4及び比較例4の養生条件を模式的に示すグラフである。
図4図4は、実施例5及び比較例5の養生条件を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、水と水硬性粉体と骨材とを含む水硬性組成物用材料を混合して水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の水硬性組成物を調製する。水硬性組成物の調製は、水/水硬性粉体の質量比が前記範囲となるように、公知の方法で行うことができる。水硬性組成物は、コンクリート、モルタルが挙げられる。
【0011】
水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体である。水硬性粉体としては、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくはセメント、より好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントである。また、セメント等に高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。
【0012】
本発明で用いる水硬性組成物は、巻き込み空気が抜けにくく、クラックの入りやすい条件において、養生条件や適切な空気量の調製を行い、強度を向上させるという観点から、水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下である。水/水硬性粉体の質量比は、好ましくは25以上、そして、好ましくは30以下である。ここで、水/水硬性粉体の質量比は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水の質量/水硬性粉体の質量×100により算出される。この質量比を有する水硬性組成物を調製する。
【0013】
骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JIS A0203−2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203−2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0014】
骨材は、硬化体の強度向上の観点から、表面乾燥状態における水分量以上の表面水を含んでいることが好ましい。表面水量は、骨材の表面に付着している水の量であり、JISA 1111にしたがって導かれる表面水率から求められる。細骨材が、表面乾燥状態における水分量以上の表面水を含んでいることが好ましい。表面水量は硬化体の強度の観点から、0質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、そして、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0015】
骨材は、細骨材及び/又は粗骨材を含むことが好ましい。水硬性組成物の用途、物性などを考慮して骨材が選定される。
粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、水硬性組成物1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m以上、より好ましくは600kg/m以上、更に好ましくは700kg/m以上であり、そして、好ましくは1000kg/m以下、より好ましくは900kg/m以下である。
【0016】
水硬性組成物用材料としては、水、水硬性粉体、骨材の他に、水硬性粉体用分散剤が挙げられる。
水硬性粉体用分散剤としては、ポリカルボン酸系共重合体、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸塩、フェノール・スルファニル酸塩ホルムアルデヒド縮合物などが挙げられる。
水硬性粉体用分散剤が、ポリカルボン酸系共重合体、及びナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの化合物は、塩であってもよい。塩は、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0017】
水硬性粉体用分散剤は、ポリカルボン酸系共重合体を含むことが好ましい。
ポリカルボン酸系共重合体としては、下記一般式(1)で示される単量体(1)と下記一般式(2)で示される単量体(2)とを構成単量体として含む共重合体〔以下、共重合体(I)という〕が挙げられる。
【0018】
【化1】
【0019】
〔式中、
11、R12:同一でも異なっていても良く、水素原子又はメチル基
13:水素原子又は−COO(AO)
X:炭素数1以上4以下のアルキル基
AO:エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から選ばれる基
n:AOの平均付加モル数であり、1以上300以下の数
p:0以上2以下の数
を示す。〕
【0020】
【化2】
【0021】
〔式中、
21、R22、R23:同一でも異なっていても良く、水素原子、メチル基又は(CHCOOMであり、(CHCOOMは、COOM又は他の(CHCOOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM、Mは存在しない。
M、M:同一でも異なっていても良く、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基
r:0以上2以下の数
を示す。〕
【0022】
一般式(1)中、R11は、水素原子が好ましい。
一般式(1)中、R12は、メチル基が好ましい。
一般式(1)中、R13は、水素原子が好ましい。
一般式(1)中、Xは、メチル基が好ましい。
一般式(1)中、AOは、エチレンオキシ基が好ましい。AOはエチレンオキシ基を含むことが好ましい。
【0023】
また、一般式(1)中、nは、蒸気養生後の硬化体の強度発現の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは40以上、そして、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは100以下、より更に好ましくは80以下、より更に好ましくは60以下の数である。
【0024】
一般式(1)中、pは、0が好ましい。
【0025】
一般式(2)中、R21は、水素原子が好ましい。
一般式(2)中、R22は、メチル基が好ましい。
一般式(2)中、R23は、水素原子が好ましい。
(CHCOOMについては、COOM又は他の(CHCOOMと無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM、Mは存在しない。
共重合体(I)について、一般式(2)中、M、Mは、同一でも異なっていても良く、それぞれ、水素原子が好ましい。
一般式(2)中の(CHCOOMのrは、1が好ましい。
【0026】
共重合体(I)は、硬化体の強度発現の観点から、構成単量体中の単量体(1)と単量体(2)の合計量が、90質量%以上、好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上、そして、100質量%以下である。この合計量は、100質量%であってもよい。
【0027】
共重合体(I)は、単量体(1)と単量体(2)の合計に対する単量体(2)の割合が、蒸気養生後の硬化体の強度発現の観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは77モル%以下である。
【0028】
共重合体(I)の重量平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは15000以上、更に好ましくは30000以上、そして、好ましくは100000以下、より好ましくは70000以下、更に好ましくは60000以下である。この重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されたものである。
*GPC条件
装置:GPC(HLC−8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CHCN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(単分散のポリエチレングリコール:分子量87500、250000、145000、46000、24000)
【0029】
ポリカルボン酸系共重合体は、硬化体の強度発現の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、用いられる。
【0030】
ポリカルボン酸系共重合体は、特開平8−12397号公報の製造方法に準じて製造することが出来る。
【0031】
水硬性粉体用分散剤は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下、NSFという。)を含むことが好ましい。
NSFは、硬化体の強度、なかでも1日強度の観点から、水硬性粉体100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.9質量部以下、用いられる。
【0032】
NSFの重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは4000以上、より更に好ましくは5000以上、そして、好ましくは200000以下、より好ましくは100000以下、更に好ましくは80000以下、より更に好ましくは50000以下である。この重量平均分子量は、次に示すゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により測定されたものである。
【0033】
GPC条件
カラム:G4000SWXL+G200SWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:30mMCHCOONa/CHCN=6/4(pH=6.9)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV(280nm)
サンプルサイズ:2mg/mL,0.01mL
換算用標準物質:ポリスチレンスルホン酸
【0034】
NSFは液状及び粉末状のものを用いることができる。また、NSFは市販品を用いることができ、例えば、花王(株)製マイテイ150が挙げられる。
【0035】
NSFの製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行っても良い。また、中和で副生する水不溶解物を除去しても良い。例えば、次の製造方法が挙げられる。まず、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2〜1.4モルを用い、150〜165℃で2〜5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.95〜0.99モルとなるようにホルマリンを85〜95℃で、3〜6時間かけて滴下し、滴下後95〜105℃で縮合反応を行う。要すれば縮合物に、水と中和剤を加え、80〜95℃で中和工程を行う。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0〜1.1モル倍添加することが好ましい。また中和により生じる水不溶解物を除去、好ましくは濾過により分離しても良い。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液をナフタレン系分散剤としてそのまま使用することができる。更に必要に応じて該水溶液を乾燥、粉末化して粉末状のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩を得ることができ、これを粉末状のナフタレン系分散剤として用いてもよい。乾燥、粉末化は、噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥等により行うことができる。上記方法により、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を得る事ができるが、その他の条件や方法にて目的物を得る事ができる。
【0036】
硬化体の強度向上の観点から、水硬性組成物用材料が消泡剤を含むことが好ましい。消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、ポリオキシエチレン(50)ステアリルエーテル以外のエーテル系消泡剤が好ましい。シリコーン系消泡剤ではジメチルポリシロキサンがより好ましい。脂肪酸エステル系消泡剤ではポリアルキレングリコール脂肪酸エステルがより好ましい。エーテル系消泡剤ではポリアルキレングリコールアルキルエーテルがより好ましい。ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルが更に好ましい。消泡剤は、水硬性粉体100質量部に対して、0.00001質量部以上0.2質量部以下用いることが好ましい。
【0037】
硬化体の強度向上の観点から、水硬性組成物用材料がAE剤を含むことが好ましい。AE剤としては、例えば、樹脂石鹸、飽和または不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステルまたはその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネートが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩が好ましい。AE剤は、水硬性粉体100質量部に対して、0.00005質量部以上0.1質量部以下用いることが好ましい。
【0038】
本発明では、水硬性組成物の調製には、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、等の他の混和剤を用いることができる。
【0039】
本発明では、水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の前記水硬性組成物を型枠内に充填する。型枠は、水硬性組成物の硬化体の用途を考慮して適宜選定される。前記水硬性組成物の型枠への充填は、公知の方法により行うことができる。
【0040】
本発明では、水硬性組成物の調製後、温度と時間が所定のマチュリティである期間を経た後、75℃以上で1時間以上保持する工程を含む加熱養生を行う。
すなわち、本発明では、水と水硬性粉体と骨材とを含む水硬性組成物用材料を混合して水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の水硬性組成物を調製するが、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内にマチュリティが60℃・h以上150℃・h以下である期間(以下、マチュリティ期間という)を経た後、75℃以上で1時間以上保持する工程を含む加熱養生を行う。
言い換えると、本発明では、水と水硬性粉体と骨材とを含む水硬性組成物用材料を混合して水/水硬性粉体の質量比が20質量%以上35質量%以下の水硬性組成物を調製し、該水硬性組成物を型枠内に充填した後、加熱養生を行い、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内にマチュリティが60℃・h以上150℃・h以下であるマチュリティ期間があり、該マチュリティ期間の後に75℃以上で1時間以上保持する期間(以下、保持期間ということもある)があり、加熱養生は少なくとも保持期間で行われる。
【0041】
加熱養生は、好ましくは75℃以上、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で行う。加熱養生は、75℃以上で1時間以上保持する工程を含んでいる。なお、加熱養生の温度は、水硬性組成物が充填された型枠の周囲雰囲気の温度である。
【0042】
前記マチュリティは、式(C−30)×Tの積算により算出され、ここで、Tは、型枠の周囲温度が最初に30℃以上に達した時点を始点として型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下にある時間(時間)であり、Cは、時間Tにおける型枠の周囲温度(℃)である。つまり、マチュリティの計算において、時間は30℃に達した時点が始点、すなわちゼロ点である。例えば、40℃に設定した雰囲気中に水硬性組成物の型枠を設置するような場合、最初に30℃以上に到達した時点の温度Cは、40℃であり、ゼロ点の30℃を基準にして40℃は、(40℃−30℃)=10℃としてマチュリティが計算される。
【0043】
マチュリティ期間では、型枠の周囲温度は30℃以上65℃以下にある。また、マチュリティ期間は、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内にある。従って、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内であっても、型枠の周囲温度が30℃未満である時間又は65℃を超える場合は、その領域の温度と時間は、マチュリティの計算には用いない。同様に、型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下であっても、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間を超えている場合は、その領域の温度と時間はマチュリティの計算には用いない。
【0044】
マチュリティは、養生条件の温度と時間の関係をグラフ化し、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内で、温度が30℃以上65℃以下にある領域の面積として算出できる。
【0045】
マチュリティは積算温度として知られており、その計算式も当業者に知られている。マチュリティを記述する規格として、例えば、ASTM C1074などが知られている。また、マチュリティを測定できる簡便な装置も知られている。本発明の条件を考慮して、それらの文献や装置などを利用してよい。すなわち、本発明のマチュリティも公知の計算式を参照して計算できるが、本発明の条件に基づいてマチュリティの計算式を示すと、例えば以下の通りとなる。
M=Σ(C−30)ΔT
M:マチュリティ
T:型枠の周囲温度が最初に30℃以上に達した時点を始点として型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下にある時間(時間)
C:ΔTにおける型枠の平均の周囲温度(℃)
ここで、式中の「T」は、本発明では、水硬性組成物を調製するための混合の際に、最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から6時間以内の領域に存在する時間である。また、式中の「C」は、単位時間ごと(例えば1分ごと)に測定される周囲温度の当該単位時間における平均の温度を示す。
【0046】
本発明は、水硬性組成物の硬化体の生産効率を踏まえつつ、クラックなどによる強度低下を抑制するために、特定の水/水硬性粉体の質量比を有する水硬性組成物に対しては、前記所定のマチュリティ期間を設けることが極めて有効であることを見いだしたものである。また、クラックの抑制は、硬化体の表面美観の向上にもつながる。
【0047】
マチュリティを特定した期間は凝結や水和の観点から、強度(特にクラック発生の有無)の観点で非常に重要な時期である。マチュリティが適切でないと、たとえば、十分に硬化が進んでいない状況で高温になることでクラックが発生しやすくなったり、逆に硬化がかなり進んだ状況から高温にすることで水和が効率的に進まなくなったりなどの現象が起こりうる。
【0048】
蒸気養生後の初期強度を増加させるには、蒸気養生期間のマチュリティを増加させることが一般的である。特定のマチュリティに制御する、すなわち、むしろ通常より初期のマチュリティを小さめに制御することで蒸気養生後の初期強度が高くなることは予想外の結果である。
【0049】
図1を参照して本発明のマチュリティを具体的に説明する。
図1は、実施例1−1、1−2及び比較例1−1、1−2の養生条件を模式的に示すグラフである。
図1中、実線が実施例1−1、1−2で採用した養生条件Aであり、破線が比較例1−1、1−2で採用した養生条件Bである。
また、図1中、横軸の「混練からの時間」は、水硬性組成物の調製の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点を始点(0時間)としている。
養生条件Aでは、20℃で2時間の低温養生、次いで40℃で1時間の加熱養生、次いで60℃まで1時間で昇温、次いで65℃まで1.5時間で昇温、次いで85℃まで1.5時間で昇温、次いで85℃で1.5時間保持を行っている。養生条件Aでは、型枠の周囲温度が最初に30℃以上に達した時点は、混練から2時間後であり、これが時間の始点となる。そして、型枠の周囲温度が30℃以上65℃以下にある時間(時間)は、混練から2時間後から5.5時間後であり、この時間がTとなり、また、この時間における型枠の周囲温度(℃)がCとなる。
養生条件Aでのマチュリティは、図1中の着色部分の面積である。この面積は、以下のS1、S2、S3の合計となる。
S1:40℃で1時間の加熱養生の部分の面積
S2:40℃から60℃への1時間での昇温部分の面積
S3:60℃から65℃への1.5時間での昇温部分の面積
そして、S1、S2、S3は、それぞれ、以下の通りとなる。
S1=(40−30)×1=10
S2=[(40−30)+(60−30)]×1÷2=20
S3=[(60−30)+(65−30)]×1.5÷2=48.75
よって、
マチュリティ=S1+S2+S3=10+20+48.75=78.75
である。
同様に、養生条件Bについてのマチュリティを求めると、25.00となる。図1中、ドットで示した領域が養生条件Bのマチュリティである。
【0050】
マチュリティの下限は、60℃・h以上、65℃・h以上、又は70℃・h以上から選択できる。また、マチュリティの上限は150℃・h以下、140℃・h以下、又は、130℃・h以下から選択できる。
【0051】
一般に、水硬性組成物の硬化体の製造では、水硬性組成物に対して、低温養生、次いで、加熱養生が行われる。本発明のマチュリティ期間は、低温養生と加熱養生の間に設けることができる。また、低温養生の一部又は全部がマチュリティ期間に含まれてもよい。また、加熱養生の一部がマチュリティ期間に含まれてもよい。
【0052】
本発明では、加熱養生を開始する前に、前記混合の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点を始点として、1時間以上の低温養生を行うことが好ましい。
低温養生は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下で行う。
低温養生は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、そして、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下行う。
低温養生は、マチュリティ期間の前に行うことが好ましい。例えば、マチュリティ期間の前に、養生温度が30℃未満である期間が1時間以上存在することが好ましい。
【0053】
加熱養生の温度を段階的に変化させる場合は、マチュリティ期間を加熱養生の一部に含ませることが容易である。
以下、マチュリティ期間が加熱養生の期間の一部に存在する場合について説明する。
本発明では、マチュリティ期間のための加熱養生(以下、マチュリティ期間の加熱養生ともいう)は、型枠周囲の雰囲気温度を昇温して行ってもよいし、所定の温度の雰囲気中に水硬性組成物が充填された型枠を設置して行ってもよい。
【0054】
マチュリティ期間の加熱養生は、少なくとも一部が30℃以上65℃以下で行われる。なお、マチュリティ期間の加熱養生の温度は、水硬性組成物が充填された型枠の周囲雰囲気の温度である。
【0055】
本発明では、マチュリティ期間の加熱養生で、最初に30℃に達した時点から、マチュリティ期間後の加熱養生を行うための加熱を開始するまでの間のマチュリティが、前記範囲であることが好ましい。
マチュリティ期間の加熱養生での温度は、一定でもよいし、変化してもよい。温度の変化は、連続的、段階的、間欠的の何れでもよい。温度の変化は、温度が上昇する変化が好ましい。本発明では、マチュリティ期間の加熱養生での温度が段階的に上昇することが好ましい。
マチュリティ期間の加熱養生では、温度を上昇させる期間と、上昇させた温度を保持する期間とを含むことが好ましい。これらの期間は、それぞれ、複数存在してよい。温度が保持されているとは、温度の変化幅が5℃/時間以下であることであってよい。温度を上昇させる期間では、温度の上昇速度は、5℃/時間以上20℃/時間以下が好ましい。
【0056】
マチュリティ期間の加熱養生のより具体的な例として、以下のものが挙げられる。
(1)水硬性組成物が充填された型枠の周囲温度を30℃以上55℃未満として0.5時間以上保持し、次いで、
(2)水硬性組成物が充填された型枠の周囲温度を55℃以上65℃以下で0.5時間以上保持する加熱養生であって、(1)と(2)の保持時間が、(1)と(2)の合計マチュリティが60℃・h以上150℃・h以下となる範囲にある、加熱養生が挙げられる。
【0057】
本発明では、加熱養生は、蒸気養生で行うことが好ましい。蒸気養生は、例えば、水硬性組成物が充填された型枠の周囲に水蒸気を適用し、所定の温度で一定時間保持して行われる。ここでの加熱養生には、マチュリティ期間の加熱養生を含む。
【0058】
本発明では、マチュリティ期間を経た後、75℃以上で1時間以上保持する工程を含む加熱養生(以下、マチュリティ期間後の加熱養生ともいう)を行う。
マチュリティ期間後の加熱養生は、マチュリティ期間の終了後から、好ましくは1時間以上、そして、好ましくは6時間以下、より好ましくは5時間以下、行う。
マチュリティ期間後の加熱養生は、蒸気養生で行うことが好ましい。蒸気養生は、例えば、水硬性組成物が充填された型枠の周囲に水蒸気を適用し、所定の温度で一定時間保持して行われる。
【0059】
マチュリティ期間後の加熱養生の後、水硬性組成物を冷却して、型枠から脱型することができる。また、脱型した水硬性組成物の硬化体を常温常圧で養生することができる。
例えば、マチュリティ期間後の加熱養生の後、例えば、直ちに周囲温度を室温、例えば20℃まで冷却しても良いし、例えば、1時間当たり5℃以上20℃以下の降温速度で、周囲温度を室温、例えば20℃まで冷却しても良い。冷却後、成型体を脱型する。降温速度は、硬化体のひび割れによる強度低下を抑える観点から、1時間当たり20℃以下が好ましい。また、得られた水硬性組成物の硬化体を常温常圧で養生することができる。具体的には、20℃、大気圧下で保存することができる。
【0060】
本発明の硬化体の製造方法により得られる水硬性組成物の硬化体は、例えば、大型のコンクリート製品として使用できる。具体的には、カーテンウォール、ボックスカルバート、及びL型擁壁から選ばれるコンクリート製品が挙げられる。カーテンウォールは、例えば建築物や壁を構築する製品であり、ボックスカルバート、及びL型擁壁は、例えば水路や道路を構築する製品である。
【実施例】
【0061】
<実施例1及び比較例1>
コンクリートの硬化体を製造し、強度を評価した。コンクリートの配合、調製、評価について、それぞれ以下に記載した。
【0062】
(1)コンクリート配合
コンクリートの配合成分及びコンクリートミキサーは以下のものである。
・混和剤1:次のA成分、B成分、C成分を、A/B/C=50/30/20(固形分質量比)で含有する混和剤。固形分25質量%の水溶液として用いた。表中、NSPC−1と表記した。
A成分:ポリカルボン酸系共重合体:メタクリル酸ナトリウム塩/メトキシポリエチレングリコール(50)モノメタクリレート=75/25(モル比)の共重合物、重量平均分子量50000
B成分:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩、重量平均分子量15,000
C成分:ポリオキシエチレン(平均付加モル数50)ステアリルエーテル
ポリオキシエチレン(平均付加モル数50)ステアリルエーテルは公知の方法で製造することが出来る。
・消泡剤:フォームレックス797(脂肪酸エステル系消泡剤)、日華化学株式会社製
消泡剤は、混和剤1に対して0.15質量%用いた。
・練り水(W):水道水
・セメント(C1):セメント52.5R(洋房セメント社製)、密度3.16g/cm
・細骨材(S):城陽山 山砂(石川県河内村産 安山砕砂)、密度2.50g/cm
・粗骨材(G1):砕石(兵庫県西島産 砕石2010)、密度2.63g/cm
・粗骨材(G2):砕石(兵庫県西島産 砕石1005)、密度2.63g/cm
・コンクリートミキサー:IHI社製 強制2軸ミキサー、20リッター練り
なお、細骨材は、上記のものを表面水0%又は2.0%として用いた。
【0063】
表面水0%の細骨材はJIS A 1111に基づいて500mLのチャップマンフラスコを用いて表面水を測定することで調整した。また、表面水の計算に使用する細骨材の密度はJIS A 1109に基づいて求めた。細骨材の吸水率についてもJIS A 1109に基づいて求めた。表面水2.0%の細骨材は、表面水0%に調整した細骨材をポリエチレン製の袋に入れ、そこへ所定量の水を添加して一定時間撹拌して作製した。
【0064】
(2)コンクリート硬化体の調製
(工程1)
表1に示す配合条件で、コンクリートミキサーを用いて、セメント、細骨材、粗骨材を投入し空練りを30秒間行い、水量(W)の半分の水を加えて、60秒間練り(回転数45rpm)、その後、混和剤と消泡剤と水を合わせて残りの水量(W)分加えて、60秒間混練した後、コンクリートを得た。混和剤は、セメント100質量部に対する添加量が表2の通りとなるように水に加えた。また、細骨材の表面水の量、混和剤中の水の量、消泡剤中の水の量は、水量(W)に算入した(以下の実施例、比較例でも同様)。
(工程2)
キューブ型(10cm×10cm×10cm)の型枠に、一層詰め方式によりコンクリートを充填し、表2に記載の条件で養生を行い、養生終了と同時に脱型を行い、硬化体を得た。加熱養生は何れも蒸気養生で行った。蒸気養生は株式会社マルイ製の3連蒸気養生槽を用いて温度を制御して行った。
【0065】
(3)コンクリート硬化体の評価
脱型後、硬化体を室温(20℃)で放置し、水硬性組成物の調製の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から3日後に、JIS A 1108に基づいて、硬化体の圧縮強度を測定した。結果を表2に3日強度として示した。また、強度の測定に用いた硬化体の外観を目視観察し、表面美観を評価した。結果を表2に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表2中、添加量は、セメント100質量部に対する固形分の質量部である(以下の実施例、比較例でも同様)。
【0069】
表2中、加熱養生2で、養生条件Aでは、温度「40→60」と時間「1.0」は、40℃から60℃まで1.0時間で昇温したことを意味する。同様に、温度「60→65」と時間「1.5」は、60℃から65℃まで1.5時間で昇温したことを意味する。同様に、養生条件Bでは、温度「45→71」と時間「0.5」は、45℃から71℃まで0.5時間で昇温し、温度「71→85」と時間「1.0」は、71℃から85℃まで1.0時間で昇温したことを意味する。なお、表2及び以下の表では、昇温のための期間の一部は示さなかった。
【0070】
図1に、実施例1−1、1−2及び比較例1−1、1−2の養生条件を模式的に示した。図1中、実線が実施例1−1、1−2で採用した養生条件Aであり、破線が比較例1−1、1−2で採用した養生条件Bである。また、図1中、横軸の「混練からの時間」は、コンクリート調製の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点を始点(0時間)としている(他の図でも同様)。
実施例1−1、1−2の養生条件Aでは、20℃で2時間の低温養生、次いで40℃で1時間の加熱養生、次いで60℃まで1時間で昇温、次いで65℃まで1.5時間で昇温、次いで85℃まで1.5時間で昇温、次いで85℃で1.5時間の加熱養生を行った。この期間の温度と時間のうち、温度が30℃以上65℃以下の時間によりマチュリティが計算される。実施例1−1、1−2のマチュリティは、図1中、着色した領域であり、78.75(℃・h)である。
一方、比較例1−1、1−2の養生条件Bでは、20℃で2時間の低温養生後、45℃で1時間の加熱養生、次いで85℃まで1.5時間で昇温、次いで85℃で4時間の加熱養生を行った。比較例1−1、1−2では、温度が30℃以上65℃以下である時間が2時間後から3.4時間後であるので、この期間の温度と時間によりマチュリティが計算される。比較例1−1、1−2のマチュリティは、図1中、ドットで示した領域(一部は実施例1−1、1−2と重なっている)であり、25.00(℃・h)である。
【0071】
<実施例2及び比較例2>
表3のコンクリート配合で、実施例1と同様にコンクリート硬化体を調製し、3日強度を測定した。ただし、消泡剤は使用しなかった。また、混和剤は、以下の混和剤2を、セメント100質量部に対して1.9質量部用いた。また、養生条件は、実施例2−1が養生条件A、比較例2−1が養生条件Bとした。結果を表4に示す。
・混和剤2:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩、重量平均分子量15,000を含有する水溶液(固形分40質量%)、表中、NSF−1と表記した。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
<実施例3〜7及び比較例3〜5>
モルタルの硬化体を製造し、強度を評価した。モルタルの配合、調製、評価について、それぞれ以下に記載した。
【0075】
(1)モルタル配合
モルタルの配合成分及びモルタルミキサーは以下のものである。
・混和剤1、混和剤2:実施例1、2で用いたものと同じものを用いた。
・消泡剤:フォームレックス797(脂肪酸エステル系消泡剤)、日華化学株式会社製
混和剤1を使用した場合は、消泡剤を、混和剤に対して0.15質量%用いた。
混和剤2を使用した場合は、消泡剤を、セメント100質量部に対する添加量が表10の通りとなるように用いた。
・AE剤:ポリオキシエチレン(平均付加モル数2)アルキル(炭素数10〜16)エーテル硫酸エステルナトリウム塩(固形分27質量%)
ポリオキシエチレン(平均付加モル数2)アルキル(炭素数10〜16)エーテル硫酸エステルナトリウム塩は公知の方法で製造できる。
・練り水(W):水道水
・セメント(C2):普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント(株)製)、密度3.16g/cm
・細骨材(S):城陽山 山砂(石川県河内村産 安山砕砂)、密度2.50g/cm・モルタルミキサー:株式会社ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM−03−γ
なお、細骨材は、上記のものを表面水2.0%又は−0.5%として用いた。
【0076】
表面水2.0%の細骨材は、表面水0%に調整した細骨材をポリエチレン製の袋に入れ、そこへ所定量の水を添加して一定時間撹拌して作製した。表面水0%の細骨材はJIS A 1111に基づいて500mLのチャップマンフラスコを用いて表面水を測定することで調整した。また、表面水の計算に使用する細骨材の密度はJIS A 1109に基づいて求めた。細骨材の吸水率についてもJIS A 1109に基づいて求めた。表面水−0.5%の細骨材は、表面乾燥状態の砂を105℃の乾燥機で一定時間乾燥させることにより作製した。
【0077】
(2)モルタル硬化体の調製
(工程1)
表5又は表9に示す配合条件で、モルタルミキサーを用いて、セメント、細骨材を投入し空練りを10秒間行い、水量(W)の半分の水を加えて、60秒間練り(回転数63rpm)、その後、混和剤(消泡剤及びAE剤を含む場合もある)と水を合わせて残りの水量(W)分加えて、60秒間混練した後、モルタルを得た。
【0078】
(工程2)
円柱型プラスチックモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)の型枠に、一層詰め方式によりモルタルを充填し、表6、7、8、10、11に記載の条件で養生を行い、養生終了と同時に脱型を行い、硬化体を得た。加熱養生は何れも蒸気養生で行った。蒸気養生は株式会社マルイ製の3連蒸気養生槽を用いて温度を制御して行った。
【0079】
(3)モルタル硬化体の評価
脱型後、硬化体を室温(20℃)で放置し、水硬性組成物の調製の際に最初に水と水硬性粉体とが接触した時点から1日後に、硬化体の圧縮強度を測定した。結果を表6、7、8、10、11に1日強度として示した。
【0080】
実施例3は、養生条件C−1、C−2を採用した。図2に、養生条件C−1、C−2の温度と時間の関係を模式的に示した。
実施例4は、養生条件D−2、D−3、D−4、D−5を採用した。比較例4は、養生条件D−1を採用した。図3に、養生条件D−1、D−2、D−3、D−4、D−5の温度と時間の関係を模式的に示した。なお、図3では、マチュリティの領域の表示はしていない。
実施例5は、養生条件E−2、E−3、E−4を採用した。比較例5は、養生条件E−1を採用した。図4に、養生条件E−1、E−2、E−3、E−4の温度と時間の関係を模式的に示した。なお、図4では、マチュリティの領域の表示はしていない。
実施例6、7は、養生条件C−1を採用した。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
図2に、実施例3−1、3−2及び比較例3−1、3−2の養生条件を模式的に示した。図2中、一点破線が実施例3−1及び比較例3−1で採用した養生条件C−1であり、実線が実施例3−2及び比較例3−2で採用した養生条件C−2である。
実施例3−1の養生条件C−1では、20℃で2時間の低温養生、次いで45℃で1時間の加熱養生、次いで65℃まで1時間で昇温、次いで65℃で1.5時間の加熱養生、次いで85℃まで1時間で昇温、次いで85℃で2時間の加熱養生を行った。この期間の温度と時間のうち、温度が30℃以上65℃以下の時間によりマチュリティが計算される。実施例3−1のマチュリティは、図2中、着色した領域であり、92.50(℃・h)である。
また、実施例3−2の養生条件C−2では、45℃で1時間の加熱養生、次いで65℃まで1時間で昇温、次いで65℃で1.5時間の加熱養生、次いで85℃まで1時間で昇温、次いで85℃で4時間の加熱養生を行った。この期間の温度と時間のうち、温度が30℃以上65℃以下の時間によりマチュリティが計算される。実施例3−2のマチュリティは、図2中、ドットで示した領域であり、92.50(℃・h)である。
【0084】
実施例3−1と実施例3−2を対比すると、養生条件C−1のように、低温養生を行うと、硬化体の圧縮強度がより向上することがわかる。これは、低温養生を行い、更に所定のマチュリティを満たす期間を経て加熱養生を行うことで、クラックが入りにくくなったためであると推察される。
【0085】
比較例3−1、3−2のように、W/Cが高いモルタル配合では、本発明のマチュリティ期間を有する養生条件としても、圧縮強度は向上しない。これは、W/Cが高くなると、混練時に巻き込んだ空気が抜けやすく、クラックが入りづらいためではないかと推察される。
【0086】
【表7】
【0087】
養生条件D−1では、20℃での低温養生の後、すぐに、型枠を40℃の雰囲気下に設置し、60℃まで1.0時間で昇温した。これを、表7では、加熱養生1の欄で、温度「20→40」と時間「0.0」、及び、温度「40→60」と時間「1.0」で示した。
【0088】
養生条件D−1のように、マチュリティが小さすぎると、硬化体の圧縮強度が低下する。これは、養生条件D−1では、養生初期に急激な温度上昇があり、クラックが入りやすくなったためであると推察される。
【0089】
【表8】
【0090】
養生条件E−1のように、マチュリティが大きすぎると、硬化体の圧縮強度が低下する。これは、養生条件E−1では、短い低温養生から養生初期に急激な温度上昇があり、クラックが入りやすくなったためであると推察される。
【0091】
【表9】
【0092】
【表10】
【0093】
実施例6−1のように、混和剤に消泡剤を併用すると、硬化体の圧縮強度はより向上する。粗大な気泡は、W/Cが低い領域で消えにくく、また、蒸気養生時にクラックの起点となりうるが、消泡剤を使用することで、そのような粗大な気泡が低減され、硬化体の圧縮強度が向上するものと推察される。
また、実施例6−2のように、混和剤に消泡剤とAE剤を併用すると、硬化体の圧縮強度は更に向上する。AE剤は、強度に影響しない程度の小さな空気をモルタル中に連行する。そのような微細な気泡は、プレストレスの役割を果たすとともに、膨張時の硬化体の逃げ場となり、微細クラックを削減することで強度向上に貢献すると考えられる。そして、前記のような消泡剤による粗大な気泡の低減と相まって、硬化体の圧縮強度が更に向上するものと推察される。
【0094】
【表11】
【0095】
実施例7−1のように、細骨材の表面水が表面乾燥状態以上の水分を含んでいると、圧縮強度は向上する。これは、細骨材の表面水が多くなった結果、細骨材に微量に含まれる空気が追い出されたためであると考えられる。
図1
図2
図3
図4