(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543698
(24)【登録日】2019年6月21日
(45)【発行日】2019年7月10日
(54)【発明の名称】多孔石英ガラス管及び多孔石英ガラス管の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20190628BHJP
C03B 37/012 20060101ALI20190628BHJP
C03B 37/022 20060101ALI20190628BHJP
G02B 6/04 20060101ALI20190628BHJP
【FI】
C03B20/00 G
C03B37/012 Z
C03B37/022
G02B6/04 B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-512552(P2017-512552)
(86)(22)【出願日】2016年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2016061885
(87)【国際公開番号】WO2016167273
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2018年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-83035(P2015-83035)
(32)【優先日】2015年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304056637
【氏名又は名称】株式会社中原光電子研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中原 基博
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−045705(JP,A)
【文献】
特開2014−152045(JP,A)
【文献】
特開2007−072251(JP,A)
【文献】
特開昭57−058105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−17/06
19/00−21/06
37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス材を含むジャケット管と、
前記ジャケット管の有する空孔領域に対し、前記ジャケット管の軸方向に沿って挿入された前記ジャケット管よりも軟化点の高い石英ガラス材を含む複数の円筒ガラス管と、
前記円筒ガラス管同士の間隙及び前記ジャケット管と前記円筒ガラス管との間隙に挿入された前記円筒ガラス管よりも軟化点の低い石英ガラス材を含む間隙部材と、
を備えることを特徴とする多孔石英ガラス管。
【請求項2】
前記ジャケット管及び前記間隙部材は、前記円筒ガラス管よりも水酸基を多く含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔石英ガラス管。
【請求項3】
前記ジャケット管及び前記間隙部材は火炎溶融石英ガラス材からなり、
前記円筒ガラス管は電気溶融石英ガラス材からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔石英ガラス管。
【請求項4】
前記ジャケット管は、
前記ジャケット管の軸方向に垂直な断面が四角形、六角形又は円形
であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多孔石英ガラス管。
【請求項5】
石英ガラス材を含むジャケット管の有する空孔領域に対し、前記ジャケット管よりも軟化点の高い石英ガラス材を含む複数の円筒ガラス管を前記ジャケット管の軸方向に沿って挿入し、前記円筒ガラス管同士の間隙及び前記ジャケット管と前記円筒ガラス管との間隙に前記円筒ガラス管よりも軟化点の低い石英ガラス材を含む間隙部材を挿入する挿入工程と、
前記円筒ガラス管及び前記間隙部材が挿入されたジャケット管を、前記ジャケット管及び前記間隙部材の軟化点よりも高くかつ前記円筒ガラス管の軟化点よりも低い温度帯で加熱溶融する熱溶融工程と、
を行うことを特徴とする多孔石英ガラス管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔石英ガラス管及び多孔石英ガラス管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工技術の向上にともない、ガラス母材から複数の空孔を有する多孔ガラス管を作製することができ、光ファイバを挿入した多孔ガラス管は、光情報通信の光部品としても用いられている。多孔ガラス管は、母材の段階でドリルにより母材の軸方向に空孔部を切削し、熱延伸して線引きすることで形成される。
【0003】
多孔ガラス管の有する複数の空孔部は、穿孔加工工程において一定の送り速度及び回転数を設定した電着ダイヤモンドなどのドリルを母材に穿孔して形成される。母材の穿孔加工工程の際、各空孔部の形成位置は、空孔部のずれ量の許容範囲を考慮した位置に配置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空孔部の穿孔加工工程では、穿孔のツールとしてドリルを用いる場合、ドリルの曲がりや振動の振れ幅による空孔部のずれが生じてしまう場合がある。このような場合、関連技術に係る多孔ガラス管では、空孔部の有するずれ量により、穿孔方向に対する真直性や直線性、空孔部の真円性の低下が生じるため、実用に適した精度が確保できない。
【0005】
また孔数が増えて孔の密度が大きくなると各孔の間隔が狭くなりその壁が割れるなどの問題が発生していた。特に孔の間隔が母材の段階で1mm以下の薄さになると割れの発生は顕著になり、そのため孔数や孔のサイズ、配置などには制限があった。
【0006】
関連技術に係る多孔ガラス管は、ガラス材料としては石英ガラスおよび多成分ガラスを材料として製造される。多成分ガラスの場合は、石英ガラスに比べ不純物を多く含有しているため、半導体製造工程のように高純度のシリコンを微細加工する必要のある環境では使用できない問題があった。また、多成分ガラスではその軟化点が例えば730℃程度以下であり、1000℃を越える高温環境下では使用できないなどの問題があった。
【0007】
前記課題を解決するために、本開示は、整列させた複数の石英ガラス管の隙間に固定部材を挿入し、整列させた複数の石英ガラス管及び固定部材を外枠用の石英ガラス管で包囲した多孔石英ガラス管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示では、それぞれ軟化点の異なる石英ガラス材料の複数の石英ガラス管、固定部材及び外枠用の石英ガラス管を用いて母材を作製する。
【0009】
具体的には、本開示に係る多孔石英ガラス管は、
石英ガラス材を含むジャケット管と、
前記ジャケット管の有する空孔領域に対し、前記ジャケット管の軸方向に沿って挿入された前記ジャケット管よりも軟化点の高い石英ガラス材を含む複数の円筒ガラス管と、
前記円筒ガラス管同士の間隙及び前記ジャケット管と前記円筒ガラス管との間隙に挿入された前記円筒ガラス管よりも軟化点の低い石英ガラス材を含む間隙部材と、
を備える。
【0010】
本開示に係る多孔石英ガラス管では、前記ジャケット管及び前記間隙部材は、前記円筒ガラス管よりも水酸基を多く含んでいてもよい。
【0011】
本開示に係る多孔石英ガラス管では、前記ジャケット管及び前記間隙部材は火炎溶融石英ガラス材からなり、前記円筒ガラス管は電気溶融石英ガラス材からなっていてもよい。
【0012】
本開示に係る多孔石英ガラス管では、前記ジャケット管は、前記ジャケット管の軸方向に垂直な断面が四角形、六角形又は円形でもよい。
【0013】
具体的には、本開示に係る多孔石英ガラス管の製造方法は、
石英ガラス材を含むジャケット管の有する空孔領域に対し、前記ジャケット管よりも軟化点の高い石英ガラス材を含む複数の円筒ガラス管を前記ジャケット管の軸方向に沿って挿入し、前記円筒ガラス管同士の間隙及び前記ジャケット管と前記円筒ガラス管との間隙に前記円筒ガラス管よりも軟化点の低い石英ガラス材を含む間隙部材を挿入する挿入工程と、
前記円筒ガラス管及び前記間隙部材が挿入されたジャケット管を、前記ジャケット管及び前記間隙部材の軟化点よりも高くかつ前記円筒ガラス管の軟化点よりも低い温度帯で加熱溶融する熱溶融工程と、を行う。
【0014】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、整列させた複数の石英ガラス管の隙間に固定部材を挿入し、整列させた複数の石英ガラス管及び固定部材を外枠用の石英ガラス管で包囲した多孔石英ガラス管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る多孔石英ガラス管の断面図の一例を示す。
【
図2】本実施形態に係る多孔石英ガラス管の断面図の一例を示す。
【
図3】本実施形態に係る空孔部に円筒ガラス管を挿入した多孔石英ガラス管の構成図の一例を示す。
【
図4】本実施形態に係る微細な空孔部を有する多孔石英ガラス管の構成図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。以下の実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態に係る多孔石英ガラス管は、
図1に示すようにジャケット管11と、円筒ガラス管12と、間隙部材13とで構成された母材を線引して作製される。ジャケット管11は、複数の円筒ガラス管12及び間隙部材13を収容することのできる長手方向に長尺な筒形状のガラス材である。ジャケット管11内部に収容される円筒ガラス管12及び間隙部材13において、複数の円筒ガラス管12はジャケット管11の軸方向に沿って配置され、間隙部材13は円筒ガラス管12同士の間隙及び、円筒ガラス管12とジャケット管11との間隙に配置される。
【0019】
図1では、四角形状のジャケット管11に複数の円筒ガラス管12及び間隙部材13を収容した本実施形態に係る多孔石英ガラス管の母材を例示した。ジャケット管11の内周側に配置される複数の円筒ガラス管12は、アレイ状に配置されている。アレイ状に配置された複数の円筒ガラス管12の間隙には、所望の形状に形成された間隙部材13を挿入する。この場合、円筒ガラス管12が円形状のため、多角形状に形成された間隙部材13を挿入すると間隙が生じることとなる。
【0020】
そこで、本実施形態では、熱溶融による軟化点の異なるガラス材料を用いたジャケット管11及び間隙部材13と、円筒ガラス管12とで構成した母材を形成する。具体的には、ジャケット管11及び間隙部材13は水酸基(OH基)を含む高OH含有石英ガラス材を用い、円筒ガラス管12は高OH含有石英ガラス材よりも軟化点が100度高い電気溶融石英ガラス材を用いる。
【0021】
高OH含有石英ガラス材のOH基の含有率は、例えば、100ppm以上1000ppm以下である。高OH含有石英ガラス材は、火炎溶融の可能な火炎溶融石英ガラス材を用いることができる。電気溶融石英ガラス材は、例えば、OH基の含有率が20ppm以下である低OH含有石英ガラス材を用いることができる。ジャケット管11及び間隙部材13の軟化点は例えば1590℃であり、円筒ガラス管12の軟化点は例えば1680℃である。
【0022】
軟化点の異なるガラス材料を用いたジャケット管11及び間隙部材13と、円筒ガラス管12とで構成した母材を、不活性ガス雰囲気などで熱延伸し線引きすることで、円筒ガラス管12及び間隙部材13を配置したジャケット管11内の間隙に対し、軟化点の低い高OH含有石英ガラス材が充填することができる。なお、
図2に例示したように、本実施形態に係る多孔石英ガラス管の母材は、六角形状のジャケット管11に複数の円筒ガラス管12及び間隙部材13を収容したものを用いてもよい。また、ジャケット管11は、ジャケット管の軸方向に垂直な断面が円形の円筒ジャケット管であってもよい。
【0023】
本実施形態に係る多孔石英ガラス管は、挿入工程及び熱溶融工程の製造方法で製造される。挿入工程では、ジャケット管11の有する空孔領域に対し、円筒ガラス管12及び間隙部材13をジャケット管11の軸方向に沿って挿入する。熱溶融工程では、円筒ガラス管12及び間隙部材13が挿入されたジャケット管11を、ジャケット管11及び間隙部材13の軟化点よりも高くかつ円筒ガラス管12の軟化点よりも低い熱溶融する温度帯で加熱溶融する。
【0024】
上述したように、熱溶融による軟化点の異なるガラス材料を用いたジャケット管11及び間隙部材13と、円筒ガラス管12とで形成した母材を用いるため、ドリルによる空孔部の穿孔工程が不要となり、ドリルの曲がりや振動の振れ幅による空孔部のずれ量により生じる空孔部の真直性や直線性、真円性の低下を防ぐことができ、母材の穿孔によるガラスくずの汚染を防ぎ、ガラスくずの除去工程も不要となる。
【0025】
また、ドリル自体の性能により制限される母材の軸方向の長さも、本実施形態に係る多孔石英ガラス管の母材では、ジャケット管11に対し間隙部材13と円筒ガラス管12とを挿入するだけで構成されているため、加工機械の性能に制限されることなく長尺な多孔石英ガラス管の母材を作製することができる。
【0026】
本実施形態に係る多孔石英ガラス管は、複数の空孔部を有するため、空孔部で光ファイバを保護するように内包することが可能となり、内包した光ファイバの端面同士を当接させて接続する光コネクタとして用いてもよい。多孔石英ガラス管を光コネクタとして用いる場合の作製手順として、光ファイバを挿入するための円筒ガラス管12及び間隙部材13をジャケット管11に対し配置し、ジャケット管11に円筒ガラス管12及び間隙部材13を配置した母材を熱延伸する。
【0027】
図3に示すように、光ファイバは、円筒ガラス管12で形成した空孔部に挿入され、接着剤を用いて固着される。光コネクタとして用いる場合、光ファイバの突出又は埋没による光損失を防ぐために、光ファイバを保持した多孔石英ガラス管の端面を研磨する。また、
図1及び2に示した本実施形態に係る多孔石英ガラス管の断面形状は、多角形状のジャケット管11を例示した。ジャケット管11を多角形状とすることで軸回りの回転を規制するため、多芯ファイバ用キャピラリとして用いた場合、光ファイバの光軸同士を容易に接続することができる。
【0028】
本開示に係る多孔石英ガラス管は、多成分ガラスを用いることなく純度の高いガラス成分の石英ガラスを材料とするため半導体機器としても使用することができる。空調設備の分野では、多孔石英ガラス管は、
図4に示すように微細な円筒ガラス管12を挿入した母材を熱延伸するだけで、一定のサイズ以下の分子成分を吸着又は通過するためのガスフィルタとして用いることができる。多孔石英ガラス管をガスフィルタとして用いる場合の作製手順として、一定のサイズ以下の分子成分を吸着又は通過するための微細な円筒ガラス管12を及び間隙部材13をジャケット管11に対し配置し、ジャケット管11に円筒ガラス管12及び間隙部材13を配置した母材を熱延伸する。
【0029】
また、医療機器産業の分野では、磁性体成分を多く含む多成分ガラスを用いることなく、本実施形態に係る多孔石英ガラス管は、当該ガラス管内に硫酸銅溶液を管内に流入し、流入したガラス管内の硫酸銅溶液からの核磁気共鳴信号を取り出してMRI(Magnetic Resonance Imaging)画像テンソルを得る。そこで、管内径は予め測定した既知の値であるため、MRI画像で映し出された被験測定血管からの反応直径と比較することによって、血管内径を知ることができる。このことから本開示の多孔石英ガラス管を血管内径の標準モデルとすることができる。したがって、MRI装置におけるゲージの血管モデルとして医療用の被検体に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本開示は、情報通信産業、空調産業及び医療機器産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
11:ジャケット管
12:円筒ガラス管
13:間隙部材
14:光ファイバ