(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている場合がある。なお、以下の説明において、説明や図示の都合上、「V(ボルト)」と「mV(ミリボルト)」など、単位のスケールが異なっている部分がある。
【0017】
以下の実施例は、測定対象物の硬度を計算する技術に関する。以下では、測定対象物として人体などの生体を例として説明するが、これに限定されない。例えば、以下の実施例における硬度計は、生体以外の対象物に適用されてもよい。
【0018】
硬度とは、測定対象物の硬さを表す指標である。硬度は、様々な指標で表すことができるが、一例として、弾性および粘性の少なくとも一方を含む概念で定義されてもよい。弾性とは、力を加えて変形した対象物が、その力が除かれたとき、もとの形に戻ろうとする特性を表す。粘性とは、力を加えて対象物を変形させたとき、もとの形に戻りにくい特性を表す。
【0019】
図1は、生体硬度計の全体構成図である。生体硬度計1000は、測定装置1と、硬度計算装置2とを備える。なお、
図1の測定装置1では、
図2、
図3の測定装置1と比較して、構成の一部の図示を省略している。
【0020】
ここで、併せて
図2と
図3も参照しながら、測定装置1の構成と動作原理について説明する。測定装置1は、受信コイル11(磁場検知手段)を有する本体部14と、発信コイル12(磁場発生手段)および加速度センサ13を有する可動部15と、バネ16(弾性体)とを備える。なお、受信コイル11と発信コイル12とを合わせて磁気センサ19と称する。磁気センサ19は、対象物における可動部15との接触部分での反力に対応する反力情報を出力する。加速度センサ13は、対象物における可動部15との接触部分の押し付け方向の動きの加速度に対応する加速度情報を出力する。
【0021】
可動部15の接触部20は、硬度の計算時に、対象物である人体の胴体Bが凹むように胴体Bに押し付けられる部位である。なお、本体部14と可動部15は、剛性を有する。加速度センサ13は、その押し付け方向の動きの加速度の情報を検出する。ここで、胴体Bはバネ的性質とダッシュポット的性質を有する。例えば、胴体Bが、バネ17(a)(バネ定数K)およびダッシュポット17(b)(ダッシュポット定数G)を有すると考える。バネ定数Kは胴体Bの弾性成分に対応し、ダッシュポット定数Gは胴体Bの粘性成分に対応する。これら弾性成分および粘性成分の少なくとも1つが本実施例での計算対象である。
【0022】
磁気センサ19は、測定装置1によって胴体Bへ加えられた圧力に応じた胴体Bの反力の大きさに相当する電圧の情報を出力する。そのため、受信コイル11と発信コイル12は、お互いに対向するように配置されている。そして、本体部14と可動部15との間には、バネ定数がK'(既知)のバネ16が配置されている(
図2参照)。なお、K'>Kの関係が成立するように、バネ16を選択する。そうしないと、本体部14に圧迫の力Fが加えられたときに(
図2参照)、本体部14と可動部15が接触部20で接してしまい、磁気センサ19としての役割が損なわれるからである。なお、例えば、本体部14と可動部15との間の距離Dは2mm程度で、本体部14に圧迫の力Fが加えられたときの、バネ16の縮み量は0.5mm程度となるように設計すればよい。
【0023】
なお、バネ16は、同じ形状の線径が太いバネに交換されてもよい。また、バネ16の自由長さをより長くしてもよい。これらの構成を採用した場合、バネ16が同じ縮み量になるための圧迫の力Fが大きくなり、その結果、本体部14から対象物への力も大きくなる。これにより、対象物の深層位置の硬度を測定することができる。従来では、皮膚表面での硬度の測定しか行えておらず、皮膚深層までの情報に対応できていないという課題があった。これに対して、当該構成によれば、皮膚表面のみならず、皮膚深層までの皮下組織や筋肉などの硬度を測定することができる。
【0024】
次に、
図2を参照して、磁気センサ19および周辺部品の動作について説明する。まず、交流発振源31は、特定の周波数(例えば、20kHz)を持つ交流電圧を生成する。その交流電圧はアンプ32によって特定の周波数を持つ交流電流に変換され、その変換された交流電流が発信コイル12に流れる。発信コイル12を流れる交流電流によって発生した磁場は、受信コイル11に誘起起電力を発生させる。
【0025】
誘起起電力によって受信コイル11に発生した交流電流(周波数は交流発振源31によって生成された交流電圧の周波数と同じ)は、プリアンプ33によって増幅され、増幅後の信号が検波回路34に入力される。検波回路34は、交流発振源31によって生成された特定の周波数または2倍周波数によって、前記増幅後の信号の検波を行う。そのため、交流発振源31の出力を、参照信号35として検波回路34の参照信号入力端子に導入する。なお、検波回路34を用いずに全波整流回路を用いた動作方式にしてもよい。検波回路34(または整流回路)からの電圧の情報(出力信号)は、ローパスフィルタ36を通過した後、硬度計算装置2の駆動回路21(
図1参照)に導入される。
【0026】
なお、本体部14に加えられる圧力(力F)と、ローパスフィルタ36から駆動回路21に導入される出力信号によって表される電圧の大きさとの関係は、
図4の線4a(破線)に示す通りである。線4aが直線的であるのは、バネ16のバネ定数K'が大きく、本体部14への圧力に対するバネ16の縮み量が小さいためである。仮に、圧力(力F)と駆動回路21に導入される出力信号が比例関係になっていない場合でも、直線性に変換して、
図4に示す直線関係を計算する。さらに、この線4aを、圧力が0のときに電圧が0になるように補正して線4b(実線)とすることで、圧力と電圧との関係を、原点を通る比例関係にすることができる。この補正は、例えば、後記するマイクロプロセッサー23によって行うことができる。また、磁気センサ19が出力する電圧の情報に対する、胴体Bへ加えられている圧力の比を示す変換係数を、以下、電圧・圧力変換係数(Cmp[N/mV])と称し、この値は予め実験によって算出しているものとする。
【0027】
次に、
図1に戻って、硬度計算装置2について説明する。硬度計算装置2は、コンピュータ装置である。硬度計算装置2は、駆動回路21,22と、マイクロプロセッサー23と、記憶部24と、音声発生部25と、表示部26と、電源部27と、入力部28とを備える。
【0028】
駆動回路21は、測定装置1の受信コイル11からローパスフィルタ36(
図2参照)などを経由して受信した電圧の情報をマイクロプロセッサー23に伝える。駆動回路22は、測定装置1の加速度センサ13から受信した加速度の情報をマイクロプロセッサー23に伝える。
【0029】
マイクロプロセッサー23は、例えばCPU(Central Processing Unit)によって実現される。マイクロプロセッサー23は、微分波形作成部231と、波形比較部232と、変換係数算出部233と、計算部235と、判定部236とを備える。マイクロプロセッサー23の上記処理部は、各種プログラムにより実現することができる。例えば、硬度計算装置2の図示しないメモリには、記憶部24に格納されている各種プログラムが展開される。マイクロプロセッサー23は、メモリにロードされたプログラムを実行する。以下、マイクロプロセッサー23の各処理部の処理内容について、
図5〜
図6を参照しながら説明する。
【0030】
図5に示すように、バネ定数が0.935kgf/mmのバネを用いた場合において、加速度センサ13による出力は(a)に示すようになり、磁気センサ19による出力は(b)に示すようになり、磁気センサ19の代わりに圧力センサ(不図示)を用いた場合の出力は(c)に示すようになり、リファレンスとしてのレーザセンサなどの変位センサ(不図示)による出力(変位の真値(正しい値))は(d)のようになる。
【0031】
なお、本実施例の目的は、対象物の硬度、すなわち、
図2のバネ定数Kとダッシュポット定数Gの少なくとも1つを計算することである。そのために、まず、
図5の(a)、(b)、(c)に示す出力の情報のうち少なくとも1つを用いて、(d)に示す情報に極力近い情報を得ることを考える。そして、その得た情報を使って、対象物の硬度を計算する。
【0032】
つまり、レーザセンサなどの変位センサを用いないで対象物の硬度特徴を計算するために、加速度センサ13と磁気センサ19(または圧力センサ)による情報を用いる。変位センサを用いないことの理由としては、例えば、対象物の表面状況や、対象物への固定可否により使用が困難であることや、高価であることなどが挙げられる。
【0033】
図5において、(b)に示す磁気センサ19による出力の波形と、(d)に示す変位センサの出力による波形とを比較すると、縦軸の単位および振幅の大きさは異なっているが、概形はよく似ていて、また、周波数は同じである。したがって、(b)に示す磁気センサ19による出力の波形に所定の変換係数(以下、「電圧・変位変換係数(C
md[mm/mV])」と称する。)を乗算することにより、(d)に示す変位センサの出力による波形に近似する波形の情報を得ることができる。電圧・変位変換係数C
mdは、2階微分波形(詳細は後記)に対する、加速度波形のそれぞれの大きさの比を示す数値である。なお、(c)に示す圧力センサによる出力の波形と、(d)に示す変位センサの出力による波形とについても、同様である。
【0034】
ここで、対象物の硬度の計算について、数式を使って説明する(適宜各図参照)。本体部14に圧迫の力(圧力)Fが加えられたときのバネ17(a)とダッシュポット17(b)の縮み量(変位量)をXとし(
図2参照)、磁気センサ19による出力電圧をV
mとすると、次の式(1)、式(2)、式(3)が成立する。なお、作用反作用の法則により、可動部15と胴体Bとの接触部20にも、力(圧力)Fがかかる。
【0035】
【数1】
式(1)は、フックの法則を表す式である。
式(2)は、磁気センサ19による出力電圧V
mに、電圧・変位変換係数C
mdを乗算することで、変位量Xを得ることができることを表す式である。
式(3)は、磁気センサ19による出力電圧V
mに、電圧・圧力変換係数C
mpを乗算することで、圧力Fを得ることができることを表す式である。
【0036】
そして、式(1)に式(2)および式(3)を代入して整理すると、次の式(4)を得ることができる。
【0037】
【数2】
つまり、電圧・圧力変換係数C
mpを電圧・変位変換係数C
mdで除算することで、対象物の複素弾性率を計算することができる。本例では、この複素弾性率を硬度に関する情報として用いる。
【0038】
図1に戻って、記憶部24は、各種情報を記憶する手段であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などによって実現される。記憶部24は、実験によって算出された電圧・圧力変換係数C
mpを予め記憶している。
【0039】
音声発生部25は、音声を発生させる手段であり、例えばスピーカによって実現される。音声発生部25は、例えば、測定装置1による測定の開始時および終了時に、ビープ音を発生させる。
【0040】
表示部26は、各種表示を行う手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)またはCRT(Cathode Ray Tube) Displayによって実現される。表示部26には、各種の波形、対象物の硬度(例えば、弾性の情報および粘性の情報の少なくとも一方)、および対象物の硬度を視覚化したインジケータなどが表示される。
【0041】
電源部27は、硬度計算装置2における電源供給手段である。入力部28は、各種情報入力のためにユーザによって操作される手段であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。
【0042】
ここで、
図3を参照して、測定装置1の構造例について説明する。なお、
図2で説明した事項については、説明を適宜省略する。測定装置1a(1)は、全体がペンシル型になっている。測定装置1a(1)は、本体部14と可動部15とから構成されている。
【0043】
本体部14は、受信コイル11と、受信コイル11を搭載するコイル基板120と、受信コイル11および発信コイル12とに接続される動作回路基板130と、電池18と、硬度計算の開始時等に操作される動作ボタン190と、表示部26とを備えている。可動部15は、発信コイル12と、加速度センサ13と、発信コイル12および加速度センサ13を搭載するコイル基板110とを備えている。
【0044】
コイル基板110とコイル基板120の間には、1本から4本のバネ16a(16)が配置されている。簡易な方式としては、バネ16a(16)を1個として、コイル基板110と発信コイル12のコイル直径と同じ直径以上を持つバネ16a(16)を使用することができる。バネ16a(16)を1個の構成とするとコイル基板110と発信コイル12のコイルをバネ16a(16)内部に配置でき、小型化が可能となる。
【0045】
測定装置1a(1)によれば、対象物が凹むように可動部15が対象物に押し付けられた際、バネ16a(16)が縮んで発信コイル12と受信コイル11とが近づき、受信コイル11が検知する磁場の大きさが増加することで、接触部20で発生した反力の大きさに応じた電圧の情報が受信コイル11から出力される。また、測定装置1a(1)は、全体がペンシル型であるため、コンパクトで使いやすい。
【0046】
次に、
図7のフローチャートを参照して(適宜他図参照)、生体硬度計1000の処理について説明する。
【0047】
まず、操作者によって、測定装置1の動作ボタン190が操作される(ステップS1)。ここでは、測定装置1a(1)の全体が図示しないモータに取付けられている。この構成の場合、モータを駆動することにより、所定の周波数fHzで可動部15を連続的に対象物に押し付けることができる。
【0048】
硬度計算装置2のマイクロプロセッサー23は、測定装置1の可動部15が対象物に押し付けられるたびに、その測定装置1からの情報を取得する。マイクロプロセッサー23は、測定装置1から取得した情報(反力情報および加速度情報)に基づいて硬度(例えば、複素弾性率)を算出する(ステップS2)。次に、マイクロプロセッサー23は、ステップS2で計算した硬度のデータについて、平均値および分散を計算する(ステップS3)。
【0049】
次に、マイクロプロセッサー23は、ステップS3で計算した平均値および分散に基づいて、それらの値が異常値か否かを判定する(ステップS4)。この処理は、マイクロプロセッサー23の判定部236によって実行される。Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS6に進む。なお、異常値か否かの判定は、例えば、平均値および分散を、予め設定しておいた閾値と比較することにより実現できる。
【0050】
また、ステップS4でYesの場合(異常値の場合)とは、マイクロプロセッサー23は、表示部26に計測やり直しのメッセージを表示させ、ステップS2に戻る(ステップS5)。
【0051】
ステップS4でNoの場合、マイクロプロセッサー23は、表示部26に硬度に関する情報を表示させて(ステップS6)、処理を終了する。本例では、測定装置1の可動部15が対象物に複数回押し付けられるため、ステップS2の計算によって、複数の硬度に関する情報を取得することができる。一例として、表示部26には、硬度に関する情報の平均値および弾性成分に関する情報の平均値が表示されてもよい。
【0052】
次に、
図6を参照して、硬度の計算処理(ステップS2)について説明する。以下の例では、硬度として複素弾性率を計算する例を説明する。なお、
図7では、複数の硬度の情報を取得することができることを説明したが、以下では、硬度の1回の計算について説明する。
【0053】
マイクロプロセッサー23は、磁気センサ19から駆動回路21を介して取得した電圧の情報に基づく電圧波形と、加速度センサ13から駆動回路22を介して取得した加速度の情報に基づく加速度波形とを取得する。電圧波形は、微分波形作成部231に入力される。加速度波形は、波形比較部232に入力される。
図6の(a)は電圧波形を示す。また、
図6の(b2)は加速度波形を示す。
【0054】
次に、微分波形作成部231は、電圧波形を2階微分し、2階微分波形を作成する。
図6の(b1)は、電圧波形から算出された2階微分波形を示す。
【0055】
次に、波形比較部232は、微分波形作成部231で算出された2階微分波形(
図6の(b1))と加速度波形(
図6の(b2))とを比較し、比較結果を変換係数算出部233に出力する。変換係数算出部233は、その比較結果に基づいて、電圧・変位変換係数C
mdを計算する。変換係数算出部233は、電圧・変位変換係数C
mdを計算部235へ出力する。
【0056】
具体的には、例えば、次の式(5)を用いて電圧・変位変換係数C
mdを計算することができる(
図6の(b)参照)。ここでのAm、Aaは、それぞれ、
図6の(b1)、(b2)に示す値に対応する。
【0058】
次に、計算部235は、記憶部24に予め格納されている電圧・圧力変換係数C
mpを電圧・変位変換係数C
mdで除算する(式(4)参照)ことで、対象物の複素弾性率の絶対値Kを計算する。複素弾性率とは、測定対象物が変形時および回復時に、熱として消失したエネルギーを考慮に入れた、材料の動的物性値である。複素弾性率の実部は貯蔵弾性率、虚部は損失弾性率と等しい。
【0059】
上記の例では、硬度として複素弾性率を計算する例を説明したが、これに限定されない。他の例として、硬度のより詳細な情報として、弾性成分および粘性成分の少なくとも1つの情報が算出されてもよい。一例として、加速度波形と電圧波形から算出された2階微分波形との間の位相差を計算し、複素弾性率と位相差とを用いて弾性成分および粘性成分の情報を算出してもよい。
【0060】
以下では、上記で説明した生体硬度計1000における測定装置1の構造の実施例について説明する。
【0061】
[第1実施例]
図8は、第1実施例における生体硬度計の構成図である。
図8は、主に測定装置1の構成要素のみを図示し、硬度計算装置2の構成要素は省略されている。硬度計算装置2は、
図8の測定装置1に組み込まれてもよいし、有線または無線で接続された他のコンピュータ装置で実現されてもよい。
【0062】
測定装置1は、モータ81と、モータ81によって駆動されるクランク機構を備える。クランク機構は、モータ81の軸81aに対して偏心した位置にあるクランク軸82と、クランク軸82と本体部14とを接続するリンク(接続部材)84とを備える。測定装置1は、モータ81からの動力をクランク機構によって本体部14に伝え、所定の周波数で可動部15を対象物に押し付けるように構成されている。
【0063】
より具体的に測定装置1の構造について説明する。測定装置1は、以下で説明する各種の構成要素を収容するための筐体80を備える。筐体80は、
図8の平面視でほぼ直角に折れ曲がった形状を有する。筐体80は、第1の部分80aおよび第2の部分80bを備える。第1の部分80aには、モータ81が配置されており、第2の部分80bには、本体部14が配置されている。筐体80の第1の部分80aと第2の部分80bとの間の折れ曲がる部分には、クランク機構が配置されている。この構成によれば、第1の部分80aに配置されたモータ81を駆動したときに、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させることができる。
【0064】
さらに、この構成によれば、操作者が第1の部分80aを手で持ちながら、第2の部分80bを対象物に向けることができる。このように、本実施例の生体硬度計は、測定対象物の絶対的な安静が必要なく、人体のような動く測定対象物に対して好ましい構成である。
【0065】
モータ81の軸81aには、円筒状の軸受部材83が取付けられている。軸受部材83には、モータ81の軸81aに対して偏心した位置にクランク軸82が取付けられている。
図9は、軸受部材83およびクランク軸82を上方から見た図である。またさらに軸81aの回転を安定させるために、軸受部材83において軸81aの周辺にベアリングを固定してもよい。
【0066】
クランク軸82は、リンク84によって本体部14と接続されている。この構成によれば、モータ81を駆動すると、モータ81の軸81aに対して偏心した位置にあるクランク軸82が、
図9の平面視においてモータ81の軸81aの周りを回転する。このクランク軸82の回転に従ってリンク84が
図8中の左右方向に動き、その結果、本体部14および可動部15がピストン運動することになる。以下では、本体部14および可動部15のピストン運動の方向を、進行方向と称する。
【0067】
なお、リンク84の長さl
1は、本体部14の進行方向の長さl
2に対して1/3以上であることが好ましい。この構成によれば、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときの横方向の動き(筐体80内でのがたつき)を低減させることができる。
【0068】
本体部14は、円筒形状を有する。本体部14は、リンク84に接続された第1の部材86と、当該第1の部材86に接続された第2の部材87とを備える。第1の部材86は、連結部材85によってリンク84と接続されている。第1の部材86は、第2の部材87の内側に延びる延在部86aを有する。延在部86aは、受信コイル11が取付けられたコイル基板120を備える。コイル基板120は、可動部15のコイル基板110と対向する位置に配置されている。
【0069】
本体部14の第2の部材87は、可動部15を備える。可動部15は、円筒形状を有する。可動部15は、対象物との接触部20を備える第1の部材91と、当該第1の部材91と接続され、かつ本体部14の第2の部材87の内側に配置された第2の部材92とを備える。可動部15は、対象物との接触部20が第2の部材87の先端から突き出した状態で、本体部14の第2の部材87の内側で支持されている。
【0070】
可動部15の第1の部材91と、本体部14の第2の部材87の突出部87aとの間には、バネ16が配置されている。可動部15の第2の部材92は、発信コイル12が取付けられたコイル基板110を備える。コイル基板110は、コイル基板120と対向する位置に配置されている。これにより、受信コイル11と発信コイル12は、互いに対向するように配置される。また、コイル基板110には、加速度センサ13が取付けられている。
【0071】
本実施例の特徴として、本体部14の周囲には、複数の緩衝部材93が配置されている。一例として、緩衝部材93は、ゴム部材である。例えば、緩衝部材93は、シリコーンゴムで形成されている。ここで、緩衝部材93はシリコーンゴムでなくてもよく、パッキン材などに使用されるゴムを利用することができる。
図8の例では、2つの緩衝部材93が、本体部14と筐体80との間に配置されている。この構成によれば、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときの横方向の動き(筐体80内でのがたつき)が生じた場合でも、本体部14と筐体80との間に緩衝部材93が配置されているため、本体部14と筐体80との接触を防止できる。本体部14と筐体80との接触を防止できるため、本体部14および可動部15の滑らかなピストン運動が可能になる。したがって、加速度センサ13からの情報にノイズが混在するのを防ぐことができ、その結果、生体硬度計で測定される硬度の精度が向上する。
【0072】
なお、本体部14と筐体80との接触を防止するという観点では、緩衝部材93が本体部14の周囲において少なくとも2箇所に配置されていればよい。また、緩衝部材93は、本体部14と筐体80との接触が想定される部分に対して配置されてもよい。
【0073】
図10〜
図12は、緩衝部材93の構造を示す。
図10は、緩衝部材93を側面から見た図であり、
図11は、緩衝部材93をピストン運動の進行方向側から見た図である。また、
図12は、
図11のA−A線断面図である。
【0074】
緩衝部材93は、本体部14の周囲を取り囲むリング形状を有する(
図11)。また、緩衝部材93は、S字の断面を有する(
図12)。緩衝部材93がS字の断面を有することによって、緩衝部材93にバネ性を持たせることが可能となる。緩衝部材93にバネ性を持たせると、本体部14がピストン運動したときに、緩衝部材93が常に同じ位置に戻ってきやすくなる。したがって、安定したピストン運動を行うために、緩衝部材93は、本体部14と筐体80との接触を防ぐ機能を持ちながら、バネ性を持つことが好ましい。
【0075】
図13は、緩衝部材93の好ましい配置例を示す。2つの緩衝部材93は、それらのS字形状が互いに向き合うように配置されている。言い換えれば、2つの緩衝部材93は、それらのS字形状が進行方向に対して垂直な面(
図13の点線)に対して対称となるように配置されている。本体部14がピストン運動した場合、緩衝部材93の位置が進行方向にずれる可能性がある。このように、緩衝部材93のS字形状が互いに向き合うように配置すると、本体部14がピストン運動したときの緩衝部材93のずれを防ぐことができる。
【0076】
なお、
図10〜
図13の例では、S字の断面を有する緩衝部材93を説明したが、この構成に限定されない。緩衝部材93は、矩形の断面形状を有してもよい。また、バネ性も考慮して、緩衝部材93は、少なくとも1つの曲線部分を有する断面形状を有していてもよい。
【0077】
また、ピストン運動したときの緩衝部材93のずれを防ぐために、本体部14は、緩衝部材93の周囲に配置された滑り止め部材94を備えてもよい。一例として、滑り止め部材94は、ポリエステルテープ(マイラーテープ)である。滑り止め部材94は、本体部14に段差を形成するためのものであればよく、他の材料でもよい。
【0078】
なお、
図8の例では、滑り止め部材94は、2つの緩衝部材93の間に配置されているが、この構成に限定されない。
図14は、生体硬度計の別の構成例を示す。
図14に示すように、好ましくは、滑り止め部材94は、進行方向に対して各緩衝部材93の前後に配置されてもよい。
【0079】
また、
図14に示すように、本体部14は、緩衝部材93に対応する位置に溝部96を備えてもよい。これにより、本体部14がピストン運動したときの緩衝部材93のずれを防ぐことができる。
【0080】
また、
図14に示すように、筐体80が、緩衝部材93に対応する位置に溝部95を備えてもよい。これにより、本体部14がピストン運動したときの緩衝部材93のずれを防ぐことができる。
【0081】
また、本実施例において、測定装置1は、可動部15の周囲を取り囲み、かつ、測定対象物に接触する接触部材(ガード部材)101をさらに備える。接触部材101は、円筒形状であり、ねじ103によって筐体80の第2の部分80bの先端に取付けられている。
【0082】
接触部材101は、測定対象物に押し当てるための押し当て部101aを有する(
図8)。ここで、接触部材101の押し当て部101aと可動部15の接触部20との関係を説明する。可動部15の接触部20の面と接触部材101の押し当て部101aの面とは、ピストン運動の振幅の中心位置のときに同一平面上に位置する。したがって、可動部15の接触部20の面は、ピストン運動の振幅の最大のときに接触部材101の押し当て部101aの面よりも突出することになる。一例として、ピストン運動の振幅が3mmの場合、可動部15の接触部20の面は、ピストン運動の振幅の最大のときに接触部材101の押し当て部101aの面より1.5mm突出する。
【0083】
図15は、接触部材101をピストン運動の進行方向から見た図であり、
図16は、接触部材101を側面から見た図である。接触部材101は、3つの押し当て部101aを有する。測定対象物に対して1つの面を形成するために、接触部材101は少なくとも3つの押し当て部101aを備えていればよい。この構成によれば、3つの押し当て部101aを測定対象物に接触させながら本体部14をピストン運動させるときに、測定対象物に対して測定装置1を一定の位置(高さ)に保持することができ、かつ、可動部15の接触部20を測定対象物に垂直に当てることができる。したがって、正確な硬度の情報を得ることができる。
【0084】
また、接触部材101は、3つの切欠き部102を有する。例えば、測定対象物が人体の場合、接触部材101を測定対象物に押し当てたときに皮膚表面の張力により、皮膚表面が硬くなる。このように皮膚表面が硬い状態になってしまうと、皮膚または筋肉の本来の硬度を測定することができなくなる。これに対して、接触部材101が切欠き部102を備えることによって、切欠き部102の部分から皮膚表面の張力が逃げることになり、皮膚または筋肉の本来の硬度を測定することができる。
【0085】
なお、切欠き部102の数は3つに限定されない。また、上述の通り、切欠き部102は皮膚表面の張力を逃がす役目を果たすため、切欠き部102は接触部材101の中でより広い範囲で設けられるのが好ましい。一例として、
図15の平面視(測定対象物との接触面)で見たときに、切欠き部102が接触部材101の円周Rに対して1/2以上を占めるのが好ましい。
【0086】
[第2実施例]
図17は、第2実施例における生体硬度計の構成図である。上述の実施例で説明した構成要素については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0087】
本実施例の特徴は、1つの緩衝部材104が本体部14の周囲に配置されている点である。緩衝部材104が本体部14と筐体80との間に配置されている。緩衝部材104は、本体部14の周囲を覆うゲル状部材である。例えば、緩衝部材104は、シリコーンゲルである。さらに、緩衝部材104は、シリコーンゲルのような部材を袋状に詰めたものを使用してもよい。なお、本体部14と筐体80との接触を防止するという観点では、緩衝部材104として他のゲル状部材を用いてもよい。
【0088】
なお、
図17では、緩衝部材104を本体部14の周囲の全体に配置するような例を示したが、これに限定されない。例えば、本体部14と筐体80との接触が想定される部分に対して、緩衝部材104を部分的に配置してもよい。
【0089】
また、上記のようなゲル状の緩衝部材の他に、緩衝部材104として、樹脂製または金属製の軸受け構造の部材を1つまたは複数個使用することが可能である。軸受け構造の緩衝部材104の材料としては、例えば、テフロンが挙げられる。
図18は、樹脂製または金属製の軸受け構造の緩衝部材104の側面図であり、
図19は、
図18の緩衝部材104をピストン運動の進行方向側から見た図である。緩衝部材104は、円筒状部材であり、本体部14の周囲に配置される。
【0090】
また、緩衝部材104は、樹脂製または金属製のリング状部材であってもよい。この構成の場合、リング状の緩衝部材104は、本体部14の周囲で筐体80との接触が想定される1つまたは複数の箇所に配置される。
【0091】
なお、
図18および
図19の例において、軸受け構造(緩衝部材104)の内側面と本体部14との間の摩擦を低減するために、緩衝部材104における本体部14との接触面に以下のような表面処理を施すことが好ましい。例えば、緩衝部材104における本体部14との接触面が鏡面処理されてもよい(例えば、緩衝部材104が金属製の場合、研磨処理されてもよい)。また、緩衝部材104における本体部14との接触面にコーティングを施してもよい。例えば、コーティング処理としては、シリコンコーティングまたはテフロンコーティングなどが有効である。
【0092】
また、緩衝部材104として、筐体80の内壁(内側面)88に複数の凸部を設けてもよい。
図20は、緩衝部材104として凸形状の8個の棒(リブ構造)を設けた構成を示し、緩衝部材104を本体部14のピストン運動の進行方向側から見た図である。
図21は、
図20の緩衝部材104を測定装置1に配置したときの断面図である。
図20に示すように、8個の棒状の緩衝部材104は、本体部14(仮想線によって図示)の周囲に一定の間隔で設けられている。また、
図21に示すように、8個の棒状の緩衝部材104は、本体部14のピストン方向に沿って延びている。
【0093】
図20および
図21の例では、8個の棒状の緩衝部材104を設けた例を説明したが、凸形状の複数の緩衝部材104は、筐体80と本体部14との間の接触面積を小さくするか、または、筐体80と本体部14との間の摩擦係数を小さくするような構造をとることが効果的である。
【0094】
凸形状の複数の緩衝部材104は、本体部14の周囲(本体部14の円周)を少なくとも3点で支持するように設けられていればよい。なお、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときのがたつきを考慮すると、凸形状の複数の緩衝部材104は、本体部14の周囲(本体部14の円周)に4つ以上設けられているのが好ましい。
【0095】
図20の例では、緩衝部材104の断面(すなわち、ピストン運動の進行方向側から見たときの凸部の断面)は四角形であるが、これに限定されない。緩衝部材104の断面(凸部の断面)は、三角形状、半円形状などの他の形状であってもよい。また、
図20および
図21の例では、緩衝部材104は、その断面が四角形状であり、かつ本体部14のピストン方向に沿って棒状に形成されているため、本体部14と面で接触しているが、この構成に限定されない。凸形状の緩衝部材104は、その断面形状などの構成に応じて、本体部14と線または点で接触してもよい。なお、凸形状の緩衝部材104における本体部14との接触面に上述したようなコーティングを施してもよい。
【0096】
さらに、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときの安定性を考慮して、本体部14は、緩衝部材104に対応する位置に溝部を備えてもよい。例えば、本体部14の周囲において棒状の緩衝部材104に対応する位置に、本体部14のピストン方向に沿って複数の溝部(レール構造)を設けてもよい。この構成によれば、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときのがたつきをより効果的に防止することができる。
【0097】
この構成によれば、クランク機構によって本体部14および可動部15をピストン運動させたときの横方向の動き(筐体80内でのがたつき)が生じた場合でも、本体部14と筐体80との間に緩衝部材104が配置されているため、本体部14と筐体80との接触を防止できる。本体部14と筐体80との接触を防止できるため、本体部14および可動部15の滑らかなピストン運動が可能になる。したがって、加速度センサ13からの情報にノイズが混在するのを防ぐことができ、その結果、生体硬度計で測定される硬度の精度が向上する。
【0098】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0099】
上述したマイクロプロセッサー23の各種処理は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0100】
上述の実施例において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。