(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が80%以上である第二波長帯を有し、かつ、前記第二波長帯における波長の最大値と最小値との差が40nm以上である、請求項4に記載の光学フィルタ。
前記正規化透過率スペクトルが波長700nm〜1200nmにおいて分光透過率が20%以下である第三波長帯を有し、かつ、前記第三波長帯における波長の最大値と最小値との差が120nm以上である、請求項4又は5に記載の光学フィルタ。
前記正規化透過率スペクトルは、波長の増加に伴い分光透過率が減少する第四波長帯と、前記第四波長帯における波長の最小値よりも短い波長を含む波長帯であって波長の増加に伴い分光透過率が増加する第五波長帯とを有し、
前記第四波長帯において分光透過率が50%を示す波長である第一カットオフ波長が600nm〜650nmの範囲に存在し、
前記第五波長帯において分光透過率が50%を示す波長である第二カットオフ波長が350nm〜420nmの範囲に存在し、
前記第一カットオフ波長から前記第二カットオフ波長を差し引いた差が200nm〜290nmである、
請求項4〜6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
前記正規化透過率スペクトルにおいて、最大の分光透過率を示す波長である極大波長が500nm〜550nmの範囲に存在し、かつ、波長700nm〜波長1200nmにおいて最小の分光透過率を示す波長である極小波長が750nm〜900nmの範囲に存在し、
前記極小波長から前記極大波長を差し引いた差が240nm〜360nmである、
請求項4〜7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
前記正規化透過率スペクトルにおける最大の分光透過率から、前記正規化透過率スペクトルの波長700nm〜波長1200nmにおける最小の分光透過率を差し引いた差が、68%以上である、請求項4〜8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、特許文献1に記載の技術におけるリン酸エステルは、ポリオキシアルキル基を有するので水に曝された場合に加水分解しやすく、耐候性の観点から最適な材料であるとは言い難いと考えた。特許文献1に記載の技術において、近赤外線吸収剤を十分な量の樹脂と共存させれば、近赤外線カットフィルタの耐候性は問題ない水準になると考えられるが、比較的多量の樹脂が必要となってしまう。このため、本発明者は、特許文献1に記載の技術によれば、近赤外線カットフィルタの厚みが大きくなりやすいとも考えた。そこで、本発明者は、所定のホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を分散させるのに適した新たな材料について日夜検討を重ねた。その結果、本発明者は、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルを使用しなくても、アルコキシシランモノマーを用いて光吸収剤を適切に分散させることができることを新たに見出した。本発明者は、この新たな知見に基づいて本発明に係る光吸収性組成物及び光学フィルタを案出した。
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0014】
本発明に係る光吸収性組成物は、光吸収剤と、アルコキシシランモノマーとを含有している。光吸収剤は、下記式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成されている。アルコキシシランモノマーは、その光吸収剤を分散させる。加えて、光吸収性組成物は、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルを含有していない。また、光吸収性組成物は、正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が70%以上である波長帯を有し、かつ、この波長帯における波長の最大値と最小値との差が100nm以上であるように、アルコキシシランモノマーを含有している。換言すると、光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの種類及び量は、正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が70%以上である波長帯を有し、かつ、この波長帯における波長の最大値と最小値との差が100nm以上であるように、定められている。これにより、光吸収性組成物を用いて作製した光学フィルタが所望の光学特性を有しやすい。なお、正規化透過率スペクトルは、この光吸収性組成物の膜に対し乾燥処理及び加湿処理を行って形成された光吸収層に波長300nm〜1200nmの光を垂直に入射させて得られる透過率スペクトルを波長700nmにおける分光透過率が20%になるように正規化して得られる。
【化3】
[式中、R
11は、アルキル基、アリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はアリール基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アリール基である。]
【0015】
光吸収性組成物において、アルコキシシランモノマーの作用により、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルが含有されていないにもかかわらず、光吸収剤が適切に分散する。また、光吸収性組成物を用いて光学フィルタを作製できる。この場合、光吸収性組成物に含有されているアルコキシシランモノマーの加水分解反応及び縮重合反応が生じ、シロキサン結合(−Si−O−Si−)が形成される。換言すると、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物が生成される。アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物が有する所定の官能基が光吸収剤の間に入り込んで立体障害を起こし、光吸収剤の凝集が防止される。これにより、本発明に係る光吸収性組成物は、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステル化合物を含有していないにも関わらず、所望の光学特性を光学フィルタに付与できる。
【0016】
ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、特に制限されないが、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、NIKKOL DDP−2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP−4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP−6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0017】
光吸収性組成物は、望ましくは、(i)ポリオキシエチレンアルキル基を有する他の化合物、(ii)添加により光吸収剤を分散させるのに有利な作用をなすスルホン酸基又は硫酸エステル基を有する化合物、及び(iii)アミン塩又は四級アンモニウム塩を含む化合物を実質的に含有していない。光吸収性組成物は、このような化合物を含有していないにも関わらず、光吸収剤の凝集を防止できる。
【0018】
アルコキシシランモノマーは、望ましくは、下記式(b)で表されるアルキル基含有アルコキシシランモノマーを含む。この場合、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物が生成されるときに、アルキル基含有アルコキシシランモノマーが有するアルキル基が光吸収剤の間に入り込み、より確実に光吸収剤の凝集を防止できる。
(R
2)
n−Si−(OR
3)
4-n (b)
[式中、R
2は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、R
3は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基であり、nは1〜3のいずれかの整数である。]
【0019】
アルコキシシランモノマーは、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たす限り、特に制限されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、又は3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを含む。
【0020】
式(a)で表されるホスホン酸は、特に制限されないが、R
11がアルキル基であるホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)の場合、そのアルキル基が例えば1〜8個の炭素原子を有するアルキル基であるホスホン酸である。R
11がアリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基又はハロゲン化アリール基であるホスホン酸(アリール系ホスホン酸)の場合、式(a)で表されるホスホン酸は、例えば、フェニルホスホン酸、ニトロフェニルホスホン酸、ヒドロキシフェニルホスホン酸、ブロモフェニルホスホン酸、ジブロモフェニルホスホン酸、フルオロフェニルホスホン酸、ジフルオロフェニルホスホン酸、クロロフェニルホスホン酸、ジクロロフェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、ブロモベンジルホスホン酸、ジブロモベンジルホスホン酸、フルオロベンジルホスホン酸、ジフルオロベンジルホスホン酸、クロロベンジルホスホン酸、又はジクロロベンジルホスホン酸である。
【0021】
光吸収性組成物における銅イオンの供給源は、例えば、銅塩である。銅塩は、例えば酢酸銅又は酢酸銅の水和物である。銅塩は、塩化銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物であってもよい。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH
3COO)
2・H
2Oと表され、1モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンが供給される。
【0022】
光吸収性組成物におけるホスホン酸の含有量と、銅イオンの含有量と、アルコキシシランモノマーの含有量との関係は、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たす限り、特に制限されない。例えば、銅イオンの含有量に対する、アルコキシシランモノマーの含有量の比は、物質量基準で2.0以上であり、望ましくは2.5以上である。また、銅イオンの含有量に対する、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーの含有量の比は、例えば物質量基準で1.5以上である。
【0023】
例えば、下記(α1)及び(β1)の条件が満たされる場合、銅イオンの含有量に対する、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で2.5以上である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製された光学フィルタが所望の光学特性を有しやすい。
(α1)ホスホン酸は、式(a)においてR
11がアリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はアリール基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アリール基であるホスホン酸を含む。
(β1)アルコキシシランモノマーは、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーと、式(c)で表される四官能アルコキシシランモノマーとを含む。
Si−(OR
4)
4 (c)
[式中、R
4は1〜8個の炭素原子を有するアルキル基である。]
【0024】
下記(α2)及び(β2)の条件が満たされる場合、例えば、銅イオンの含有量に対する、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で3.0以上である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製した光学フィルタが所望の光学特性を有しやすい。
(α2)ホスホン酸は、式(a)においてR
11がアリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はアリール基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アリール基であるホスホン酸を含む。
(β2)アルコキシシランモノマーは、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーを含み、式(c)で表される四官能アルコキシシランモノマーを含まない。
【0025】
下記(α3)及び(β3)の条件が満たされる場合、例えば、銅イオンの含有量に対する、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で1.5以上である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製した光学フィルタが所望の光学特性を有しやすい。
(α3)ホスホン酸は、式(a)においてR
11がアルキル基であるホスホン酸のみを含む。
(β3)アルコキシシランモノマーは、式(b)においてn=1又は2である、アルキル基含有アルコキシシランモノマーを含む。
【0026】
光吸収性組成物は、必要に応じて樹脂をさらに含有していてもよいし、場合によっては樹脂を含有していなくてもよい。光吸収性組成物において、ホスホン酸の含有量、銅イオンの含有量、及び加水分解縮重合物に換算したアルコキシシランモノマーの含有量の和に対する樹脂組成物の固形分の含有量の比は、質量基準で、例えば0〜3.0であり、望ましくは0〜2.7である。このように、光吸収性組成物において樹脂の使用量が少なくて済むので、光吸収性組成物を用いて作製される光学フィルタの厚みが小さくなりやすい。
【0027】
光吸収性組成物が樹脂をさらに含有している場合、その樹脂は、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たす限り特定の樹脂に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂である。シリコーン樹脂は、その構造内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する化合物である。この場合、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物もシロキサン結合を有するので、光学フィルタにおいて、アルコキシシランモノマーに由来するアルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物と、樹脂との相性が良い。
【0028】
樹脂は、望ましくはフェニル基等のアリール基を含んでいるシリコーン樹脂である。光学フィルタに含まれる樹脂が硬い(リジッドである)と、その樹脂を含む層の厚みが増すにつれて、光学フィルタの製造工程中に硬化収縮によりクラックが生じやすい。樹脂がアリール基を含むシリコーン樹脂であると、光吸収性組成物によって形成される層が良好な耐クラック性を有しやすい。また、アリール基を含むシリコーン樹脂は、式(a)で表されるホスホン酸と高い相溶性を有し、光吸収剤が凝集しにくい。マトリクス樹脂として使用されるシリコーン樹脂の具体例としては、KR−255、KR−300、KR−2621−1、KR−211、KR−311、KR−216、KR−212、KR−251、及びKR−5230を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
【0029】
光吸収性組成物における光吸収剤は、例えば、式(a)で表されるホスホン酸が銅イオンに配位することによって形成されている。また、例えば、光吸収性組成物において光吸収剤を少なくとも含む微粒子が形成されている。この場合、上記の通り、アルコキシシランモノマーの働きにより、微粒子同士が凝集することなく光吸収性組成物において分散している。この微粒子の平均粒子径は、例えば5nm〜200nmである。微粒子の平均粒子径が5nm以上であれば、微粒子の微細化のために特別な工程を要さず、光吸収剤を少なくとも含む微粒子の構造が壊れる可能性が小さい。また、光吸収性組成物において微粒子が良好に分散する。また、微粒子の平均粒子径が200nm以下であると、ミー散乱による影響を低減でき、光学フィルタにおいて可視光の透過率を向上させることができ、撮像装置で撮影された画像のコントラスト及びヘイズなどの特性の低下を抑制できる。微粒子の平均粒子径は、望ましくは100nm以下である。この場合、レイリー散乱による影響が低減されるので、光吸収性組成物を用いて作製された光学フィルタにおいて可視光に対する透明性が高まる。また、微粒子の平均粒子径は、より望ましくは75nm以下である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製された光学フィルタの可視光に対する透明性がとりわけ高い。なお、微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定できる。
【0030】
本発明に係る光吸収性組成物の調製方法の一例を説明する。例えば、光吸収性組成物が、式(a)においてR
11がアリール基、ニトロアリール基、ヒドロキシアリール基、又はアリール基における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アリール基である、ホスホン酸(アリール系ホスホン酸)を含有している場合、以下のようにしてD液が調製される。酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の溶液であるA液を調製する。次に、アリール系ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。式(a)で表されるホスホン酸として複数種類のアリール系ホスホン酸を用いる場合、各アリール系ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌してアリール系ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してB液を調製してもよい。例えば、B液の調製においてアルコキシシランモノマーが加えられる。A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、C液を得る。次に、C液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、D液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの銅塩の解離により発生する成分が除去され、式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって光吸収剤が生成される。C液を加温する温度は、銅塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、C液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、光吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められているとよい。なお、C液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
【0031】
光吸収性組成物が、式(a)においてR
11がアルキル基であるホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)を含有している場合、例えば、以下のようにしてH液がさらに調製される。まず、酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の溶液であるE液を得る。また、アルキル系ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、F液を調製する。アルキル系ホスホン酸として複数種類のホスホン酸を用いる場合、各アルキル系ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌してアルキル系ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してF液を調製してもよい。例えば、F液の調製においてアルコキシシランモノマーがさらに加えられる。E液を撹拌しながら、E液にF液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、G液を得る。次に、G液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、H液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸などの銅塩の解離により発生する成分が除去される。G液を加温する温度はC液と同様に決定され、G液を得るための溶媒もC液と同様に決定される。
【0032】
例えば、D液とH液とを所定の割合で混合し、必要に応じて、シリコーン樹脂等の樹脂を添加することによって、光吸収性組成物を調製できる。場合によっては、D液及びH液のいずれか一方にシリコーン樹脂等の樹脂を添加することによって光吸収性組成物を調製できる。また、D液及びH液がそれぞれ単独で光吸収性組成物になり得る。
【0033】
次に、本発明に係る光学フィルタについて説明する。
図1〜4に示す通り、本発明に係る光学フィルタの例である光学フィルタ1a〜1dは、光吸収層10を備えている。光吸収層10は、上記の式(a)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物とを含有し、かつ、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルを含有していない。光学フィルタ1a〜1dにおいて、正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が70%以上である第一波長帯を有する。この第一波長帯における波長の最大値と最小値との差が100nm以上である。正規化透過率スペクトルは、光学フィルタ1a〜1dに波長300nm〜1200nmの光を垂直に入射させて得られる透過率スペクトルを波長700nmにおける分光透過率が20%になるように正規化して得られる。
【0034】
光学フィルタ1a〜1dは、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルを含有していないにも関わらず、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物の作用により、光学フィルタ1a〜1dにおいて光吸収剤が適切に分散する。このため、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たす。しかも、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物は、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を有するので、光吸収層10は、適度にリジットで耐熱性に優れ、水に曝されても劣化しにくいので耐候性にも優れる。光学フィルタ1a〜1dにおいて、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たすことにより、可視光領域の広い範囲において、光学フィルタ1a〜1dが高い分光透過率を有する。アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物は、シリケートガラスに類似した構造を有するので可視光に対する透明性が高く、このことも正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たすのに有利に寄与している。
【0035】
ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルとしては、これらに限定されないが、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、NIKKOL DDP−2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP−4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP−6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0036】
光学フィルタ1a〜1dにおいて、望ましくは、正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が80%以上である第二波長帯を有する。この第二波長帯における波長の最大値と最小値との差が40nm以上である。この場合、光学フィルタ1a〜1dが、可視光領域において望ましい光学特性を有する。
【0037】
光学フィルタ1a〜1dにおいて、望ましくは、正規化透過率スペクトルが波長700nm〜1200nmにおいて分光透過率が20%以下である第三波長帯を有する。この第三波長帯における波長の最大値と最小値との差が120nm以上である。この場合、光学フィルタ1a〜1dが波長700nm〜1200nmの所定の波長帯の光を適切に遮ることができる。このため、光学フィルタ1a〜1dが波長700nm〜1200nmにおいて望ましい光学特性を有する。
【0038】
光学フィルタ1a〜1dにおいて、望ましくは、正規化透過率スペクトルは、第四波長帯と、第五波長帯とを有する。第四波長帯は、波長の増加に伴い分光透過率が減少する波長帯である。第五波長帯は、第四波長帯における波長の最小値よりも短い波長を含む波長帯であって波長の増加に伴い分光透過率が増加する波長帯である。第四波長帯において分光透過率が50%を示す波長である第一カットオフ波長が600nm〜650nmの範囲に存在する。第五波長帯において分光透過率が50%を示す波長である第二カットオフ波長が350nm〜420nmの範囲に存在する。第一カットオフ波長から第二カットオフ波長を差し引いた差が200nm〜290nmである。この場合、光学フィルタ1a〜1dは、特定の波長の光を遮ることができ、例えば固体撮像素子の前方に配置するのに有利な光学特性を有する。本明細書において、第一カットオフ波長及び第二カットオフ波長をそれぞれIRカットオフ波長及びUVカットオフ波長ともいう。
【0039】
光学フィルタ1a〜1dの正規化透過率スペクトルにおいて、望ましくは、最大の分光透過率を示す波長である極大波長が500nm〜550nmの範囲に存在する。また、波長700nm〜波長1200nmにおいて最小の分光透過率を示す波長である極小波長が750nm〜900nmの範囲に存在する。加えて、極小波長から極大波長を差し引いた差が240nm〜360nmである。この場合、正規化透過率スペクトルにおいて極小波長及び極大波長が望ましい範囲に存在し、光学フィルタ1a〜1dが望ましい光学特性を有する。
【0040】
光学フィルタ1a〜1dの正規化透過率スペクトルにおいて、望ましくは、正規化透過率スペクトルにおける最大の分光透過率から、正規化透過率スペクトルの波長700nm〜波長1200nmにおける最小の分光透過率を差し引いた差が、68%以上である。この場合、その差が、光学フィルタ1a〜1dが望ましい光学特性を有するに十分に大きい。この差は、望ましくは70%以上である。
【0041】
光学フィルタ1a〜1dにおいて、光吸収層10は、典型的には、上記の光吸収性組成物の膜に対し乾燥処理及び加湿処理を行って形成される。これにより、光吸収性組成物に含有されていたアルコキシシランモノマーが加水分解反応及び縮重合反応を起こし、加水分解縮重合物に変化する。
【0042】
光吸収層10の作製方法の一例について説明する。例えば、スピンコーティング又はディスペンサによる塗布等の方法によって上記の光吸収性組成物を所定の基板に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を加熱して乾燥処理を行う。例えば、50℃〜200℃の温度の環境にこの塗膜を曝す。次に、アルコキシシランモノマーの加水分解反応及び縮重合反応を十分に促進させるために乾燥後の塗膜に加湿処理を施す。例えば、50℃〜100℃の温度及び60%〜100%の相対湿度の環境に乾燥後の塗膜を曝す。これにより、シロキサン結合のくり返し構造(Si−O)
nが形成される。このようにして、光吸収層10が作製される。光吸収層10を強固に形成しつつ光学フィルタ1a〜1dの光学特性を高める観点から、乾燥処理における塗膜の雰囲気温度の最高値は、例えば85℃以上である。塗膜の加湿処理の条件は、アルコキシシランモノマーの加水分解反応及び縮重合反応を十分に促進できる条件である限り特に制限されないが、例えば、塗膜の加湿処理は、50℃〜100℃の温度条件と60%〜100%の相対湿度の条件とを適宜組み合せられた環境に塗膜を所定時間曝すことによってなされる。塗膜の加湿処理の温度条件と相対湿度の条件との組み合わせの一例は温度85℃及び相対湿度85%である。
【0043】
光学フィルタ1a〜1dにおいて、光吸収層10は、例えば400μm以下の厚みを有し、望ましくは300μm以下の厚みを有し、より望ましくは250μm以下の厚みを有する。これにより、光学フィルタ1a〜1dが所望の光学特性を有しやすい。上記のように、光吸収性組成物において樹脂の使用量を少なく抑えることが可能であるので、光吸収性組成物を用いれば光吸収層10の厚みをこのように小さくしやすい。光吸収層10の厚みが小さいことは、光学フィルタ1a〜1dが搭載される装置を低背化させるのに有利である。光学フィルタ1a〜1dにおいて、光吸収層10は、例えば30μm以上の厚みを有する。
【0044】
図1に示す通り、光学フィルタ1aは、透明誘電体基板20をさらに備えている。光吸収層10は、透明誘電体基板20の一方の主面と平行に形成されている。光吸収層10は、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に接触していてもよい。この場合、光吸収層10は、透明誘電体基板20の一方の主面に光吸収性組成物の塗膜を形成したうえで上記のようにして作製される。
【0045】
透明誘電体基板20の種類は、光学フィルタ1aにおいて、正規化透過率スペクトルが上記の条件を満たす限り特に限定されない。場合によっては、透明誘電体基板20は、赤外線領域に吸収能を有していてもよい。透明誘電体基板20は、例えば波長350nm〜900nmにおいて90%以上の平均分光透過率を有していてもよい。透明誘電体基板20の材料は、特定の材料に制限されないが、例えば、所定のガラス又は樹脂である。透明誘電体基板20の材料がガラスである場合、透明誘電体基板20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできた透明なガラス又は赤外線カットガラスである。赤外線カットガラスは、例えば、CuOを含むリン酸塩ガラス又はフツリン酸塩ガラスである。
【0046】
透明誘電体基板20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0047】
本発明の別の一例に係る光学フィルタ1bは、特に説明する場合を除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1bにも当てはまる。
【0048】
図2に示す通り、光学フィルタ1bは、赤外線反射膜30をさらに備えている。赤外線反射膜30は、異なる屈折率を有する複数の材料が代わる代わる積層されて形成された膜である。赤外線反射膜30を形成する材料は、例えば、SiO
2、TiO
2、及びMgF
2などの無機材料又はフッ素樹脂などの有機材料である。赤外線反射膜30を備えた積層体は、例えば、波長350nm〜800nmの光を透過させるとともに、波長850nm〜1200nmの光を反射する。赤外線反射膜30を備えたその積層体は、波長350nm〜800nmにおいて、例えば85%以上、望ましくは90%以上の分光透過率を有し、かつ、波長850nm〜1200nmにおいて、例えば1%以下、望ましくは0.5%以下の分光透過率を有する。これにより、光学フィルタ1bは、波長850nm〜1200nmの範囲の光又は波長900nm〜1200nmの範囲の光をさらに効果的に遮蔽できる。
【0049】
光学フィルタ1bの赤外線反射膜30を形成する方法は、特に制限されず、赤外線反射膜30を形成する材料の種類に応じて、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、及びスピンコーティング又はスプレーコーティングを利用したゾルゲル法のいずれかを用いることができる。
【0050】
図3に示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1cにおいて、光吸収層10は、透明誘電体基板20によって隔てられた第一光吸収層10a及び第二光吸収層10bを備えている。第一光吸収層10a及び第二光吸収層10bは、それぞれ、透明誘電体基板20の一方の主面に平行であり、透明誘電体基板20に接触して形成されている。これにより、2つの光吸収層によって、光学フィルタ1cが所望の光学特性を得るために必要な光吸収層の厚みを確保できる。第一光吸収層10a及び第二光吸収層10bの厚みは同一であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、光学フィルタ1cが所望の光学特性を得るために必要な光吸収層10の厚みが均等に又は不均等に分配されるように、第一光吸収層10a及び第二光吸収層10bが形成されている。これにより、第一光吸収層10a及び第二光吸収層10bのそれぞれの厚みが比較的小さい。このため、光吸収層の厚みが大きい場合に生じる光吸収層の厚みのばらつきを抑制できる。また、光吸収性組成物を塗布する時間を短縮でき、光吸収性組成物の塗膜を乾燥させるための時間も短縮できる。透明誘電体基板が非常に薄い場合、透明誘電体基板の一方の主面上のみに光吸収層を形成すると、光吸収性組成物から光吸収層を形成する場合に生じる収縮に伴う応力によって、光学フィルタが反る可能性がある。しかし、透明誘電体基板20の両方の主面上に光吸収層10が形成されていることにより、透明誘電体基板20が非常に薄い場合でも、光学フィルタ1cにおいて反りが抑制される。
【0051】
図4に示す通り、本発明の別の一例に係る光学フィルタ1dは、光吸収層10のみによって構成されている。光学フィルタ1dは、例えば、基板上に形成された光吸収層10を基板から剥離することによって作製できる。この場合、基板の材料は、透明誘電体に限定されず、例えば金属基板も使用可能である。
【0052】
図5に示す通り、例えば、光学フィルタ1aを用いて、撮像光学系100を提供できる。撮像光学系100は、光学フィルタ1aに加え、例えば、撮像レンズ3をさらに備えている。撮像光学系100は、デジタルカメラなどの撮像装置において、撮像素子2の前方に配置されている。撮像素子2は、例えば、CCD又はCMOSなどの固体撮像素子である。
図5に示す通り、被写体からの光は、撮像レンズ3によって集光され、光学フィルタ1aによって所定の波長の光線がカットされた後、撮像素子2に入射する。撮像光学系100は、光学フィルタ1aに代えて、光学フィルタ1b、光学フィルタ1c、及び光学フィルタ1dのいずれかを備えていてもよい。
【実施例】
【0053】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に係る光学フィルタの評価方法を説明する。
【0054】
<光吸収層の厚みの測定>
実施例及び比較例に係る光学フィルタの厚みをデジタルマイクロメータで測定した。ほとんどの実施例において、光学フィルタの厚みから透明ガラス基板の厚みを差し引いて光学フィルタの光吸収層の厚みを算出した。実施例35では、光吸収層の厚みをデジタルマイクロメータで直接測定した。
【0055】
<光学フィルタの透過率スペクトル測定>
波長300nm〜1200nmの範囲の光を実施例及び比較例に係る光学フィルタに入射させたときの透過率スペクトルを、紫外線可視分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて測定した。この測定において、光学フィルタに対する入射光の入射角を0°(度)に設定した。
【0056】
<正規化透過率スペクトルの決定>
光学フィルタにおける光吸収層の厚みに応じて、光学フィルタにおける光の吸収特性、すなわち、透過率スペクトルは変化する。様々なサンプルを作製して、性能を比較し、又は、作製条件を調整するうえで、何らかの指標に基づいて、測定された光学フィルタの透過率スペクトルを正規化して評価することが適切である。そこで、波長300nm〜1200nmの範囲において測定された実施例及び比較例に係る光学フィルタの透過率スペクトルを波長700nmにおける分光透過率が20%になるように正規化して正規化透過率スペクトルをそれぞれ決定した。具体的には、以下の(1)〜(4)の計算を行った。
(1)実施例及び比較例に係る光学フィルタについて測定された透過率スペクトルにおいて、波長毎に分光透過率に100/92を乗じて光学フィルタの両面における反射が大凡キャンセルされた第二分光透過率を求める。
(2)ほとんどの実施例及び比較例に係る光学フィルタが備える透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)が波長350nm〜1200nmの範囲において実質的に光を吸収しない事情を考慮して、光学フィルタにおける光吸収層の厚みと、第二分光透過率とから光吸収層の吸収係数を波長毎に決定する。
(3)次に、光吸収層の厚みを変化させたときにその吸収係数を有する光吸収層を備えた光学フィルタが波長ごとにどのような分光透過率を有するか算出する。この場合に、予め92/100を乗じて光学フィルタの表面の反射を見込んだ分光透過率を算出する。このようにして算出した700nmにおける分光透過率が20%になるように光吸収層の厚み(算出厚み)を決定する。
(4)(3)のステップで決定した光吸収層の算出厚みに基づいて、実施例及び比較例に係る光学フィルタの分光透過率を波長毎に求めて透過率スペクトルを得る。この透過率スペクトルを正規化透過率スペクトルと決定する。
【0057】
<実施例1>
酢酸銅一水和物1.125gとテトラヒドロフラン(THF)60gとを混合して、3時間撹拌しA液を得た。次に、フェニルホスホン酸0.447gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、B−1液を得た。さらに、4‐ブロモフェニルホスホン酸0.670gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、B−2液を得た。次に、B−1液とB−2液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES:信越化学工業社製)5.415gとテトラエトキシシラン(TEOS:キシダ化学社製 特級)1.775gを加えてさらに1分間撹拌し、B液を得た。A液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン40gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を得た。このC液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、85℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のD液を取り出した。フェニル系ホスホン酸銅(光吸収剤)の微粒子の分散液であるD液は透明であり、微粒子が良好に分散していた。
【0058】
酢酸銅一水和物0.450gとTHF24gとを混合して3時間撹拌し、E液を得た。また、n−ブチルホスホン酸(日本化学工業社製)0.257gにTHF10gを加えて30分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES:信越化学工業社製)2.166gとテトラエトキシシラン(TEOS:キシダ化学社製 特級)0.710gを加えてさらに1分間撹拌し、F液を得た。E液を撹拌しながらE液にF液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン16gを加えた後、室温で1分間撹拌し、G液を得た。このG液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、85℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のH液を取り出した。ブチルホスホン酸銅(光吸収剤)の微粒子の分散液であるH液は透明であり、微粒子が良好に分散していた。
【0059】
シリコーン樹脂KR−311(信越化学工業社製、不揮発成分の含有率:60質量%)16gと、シリコーン樹脂KR−300(信越化学工業社製、不揮発成分の含有率:50質量%)4gとを混合し、10分間撹拌して、樹脂組成物Yを得た。樹脂組成物Yにおける固形分(不揮発成分)の含有率を、60質量%×16/20+50質量%×4/20の関係から、58質量%と求めた。
【0060】
樹脂組成物Y8.800gをD液に加えて5分間撹拌して、I液を得た。得られたI液にH液を加えて10分間撹拌し、実施例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物における各成分の質量基準及び物質量基準の含有量をそれぞれ表1及び表2に示す。なお、アルコキシシランモノマー固形分の含有量は、アルコキシシランモノマーの含有量をアルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物に換算して求めた。
【0061】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の30mm×30mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。このとき、光吸収性組成物の塗布範囲に相当する開口を有する枠を透明ガラス基板の一方の主面上に置いて光吸収性組成物が流れ出さないようにした。次に、未乾燥の塗膜を有する透明ガラス基板をオーブンに入れて、85℃で6時間乾燥処理を行い、塗膜を硬化させた。その後、温度85℃及び相対湿度85%に設定された恒温恒湿槽に塗膜を有する透明ガラス基板を2時間置いて加湿処理を行い、一定の厚みの光吸収層が形成されている部分を切断して、実施例1に係る光学フィルタを作製した。実施例1に係る光学フィルタにおける光吸収層の厚みは158μmであった。実施例1に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図6に示す。また、実施例1に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表7に示す。
【0062】
<他の実施例及び比較例>
各成分の含有量が表1〜表6に示す量になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜63に係る光吸収性組成物及び比較例1〜12に係る光吸収性組成物を調製した。実施例11、36、及び37に係る光吸収性組成物は、MTESの代わりにメチルトリメトキシシラン(MTMS)を含有し、実施例12、13、38、及び39に係る光吸収性組成物は、MTESの代わりにジメチルジエトキシシラン(DMDES)を含有していた。なお、シリコーン樹脂KR−212(信越化学工業社製、不揮発成分の含有率:70質量%)8gと、シリコーン樹脂KR−300(信越化学工業社製、不揮発成分の含有率:50質量%)12gとを混合し、10分間撹拌して、樹脂組成物Xを得た。また、シリコーン樹脂KR−5230(信越化学工業社製、不揮発成分の含有率:60質量%)をZとして用いた。樹脂組成物Xにおける固形分の含有率を、樹脂組成物Yと同様にして、58質量%と求めた。樹脂組成物Zにおける固形分の含有率を60質量%と定めた。
【0063】
実施例1に係る光吸収性組成物に代えて実施例2〜63に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2〜63に係る光学フィルタを作製した。ただし、実施例35に係る光学フィルタは、透明ガラス基板から光吸収層を剥離させて作製し、光吸収層のみから構成されていた。実施例1に係る光吸収性組成物に代えて比較例1〜4、6〜9、及び11に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、それぞれ、比較例1〜4、6〜9、及び11に係る光学フィルタを作製した。
【0064】
実施例2及び10に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図7及び
図8に示す。また、実施例2〜10に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表7に示す。表7に示す通り、所定の範囲で、光吸収性組成物におけるMTESの添加量及びTEOSの添加量を変えても、光学フィルタが良好な特性を有することが理解される。実施例10に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの添加量は、質量基準で、実施例2に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの添加量の約6倍である。これにより、光吸収性組成物においてアルコキシシランモノマーが光吸収剤を分散させるのに必要な最小限度を超えて比較的多く含まれていても、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製するうえで障害とならないことが理解される。このことには、アルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物がシロキサン結合(−Si−O−Si−)に基づくシリケートガラスに類似した骨格を有し、可視光に対して高い透明性を有することが関係していると考えられる。光吸収性組成物における添加量の変動が光学フィルタの光学特性に影響を及ぼしにくいことが、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステル等の他の分散剤と比べたアルコキシシランモノマーの利点の一つといえる。
【0065】
表7に示す通り実施例1〜10に係る光学フィルタに関する結果から、光吸収性組成物においてシリコーン樹脂の種類及び量を変化させても、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製できることが理解される。
【0066】
<比較例1及び2>
比較例2に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図9に示す。また、比較例1に係る光学フィルタの透過率スペクトル及び比較例2に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表12に示す。
【0067】
比較例1において、アルキル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液は透明であったが、フェニル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液は濁っていた。加えて、比較例1に係る光学フィルタは白濁しており、比較例1に係る光学フィルタにおいて可視光領域の透過率が顕著に低かった。これは、光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量が少なかったためと考えられる。
【0068】
比較例2において、アルキル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液及びフェニル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液の透明性は高かった。しかし、比較例2に係る光学フィルタにおいて可視光領域の透過率が低かった。比較例2の結果から、比較例2に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量は、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製するのに必要な量を少しだけ下回っていたことが示唆された。
【0069】
<実施例11〜13>
実施例11及び12に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルをそれぞれ
図10及び
図11に示す。また、実施例11〜13に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。実施例11に係る光吸収性組成物は、アルコキシシランモノマーとしてMTESの代わりにMTMSを含有していた。MTESは3つのエトキシ基を有するのに対し、MTMSは、3つのメトキシ基を有する。実施例11に係る光吸収性組成物におけるMTMSの含有量は、アルコキシシランモノマーの固形分に換算して質量基準で実施例1に係る光吸収性組成物におけるMTESの含有量と同程度に調整した。表8における実施例11に関する結果より、アルコキシシランモノマーとしてMTMSを用いても、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製できることが理解される。良好な光学特性を有する光学フィルタを作製するために、アルコキシシランモノマーにおけるアルコキシ基の種類には様々に選択の余地があることが示された。
【0070】
実施例12及び13に係る光吸収性組成物は、アルコキシシランモノマーとしてMTESの代わりにDMDESを含有していた。実施例12及び13に係る光吸収性組成物におけるDMDESの含有量は、アルコキシシランモノマーの固形分に換算して質量基準で実施例1に係る光吸収性組成物におけるMTESの含有量と同程度に調整した。表8における実施例12及び13に関する結果より、アルコキシシランモノマーとしてDMDESを用いても、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製できることが理解される。DMDESは2つのメチル基を有するのでこれらが立体障害に寄与し、MTESと同様に有利な効果を有することが期待された。実施例12及び13に係る光学フィルタにおいて期待通りの効果が得られた。この結果から、光吸収性組成物が含有するアルコキシシランモノマーのアルキル基の数に依らずに光吸収剤を適切に分散できることが示された。
【0071】
<実施例14>
実施例14に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図12に示す。また、実施例14に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。実施例14に係る光吸収性組成物は、アルコキシシランモノマーとしてMTESのみを含有していた。
図12及び表8における実施例14の結果より、実施例14に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。このことから、アルコキシシランモノマーとして、TEOSの含有は必須ではなく、アルキル基を有するアルコキシシランモノマーの含有が有利であることが示された。
【0072】
<比較例3>
比較例3に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図13に示す。また、比較例3に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表12に示す。比較例3に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量は、実施例14に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量よりも低かった。比較例3に係る光吸収性組成物を得るために調製された、アルキル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液及びフェニル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含む液の透明性は高かった。しかし、比較例3に係る光学フィルタは、可視光領域における透過率が低く、良好な光学特性を有していなかった。比較例3に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量は、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製するのに必要な量を少しだけ下回っていたことが示唆された。
【0073】
<比較例4>
比較例4に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表12に示す。表5に示す通り、比較例4に係る光吸収性組成物において、MTESの固形分量:TEOSの固形分量を質量基準で約1:1に調製した。比較例4に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量は、アルコキシシランモノマーの固形分に換算して質量基準で実施例2に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量と同程度に調整した。比較例4に係る光学フィルタにおいて可視光領域における透過率が低かった。このことは、アルコキシシランモノマーが光吸収剤の凝集を抑制する機能を十分に発揮できなかったためと考えられる。この結果より、光吸収性組成物が光学フィルタに良好な特性を付与するうえで、アルコキシシランモノマーの添加量及びその最終固形分の量よりも、アルキル基を有するアルコキシシランモノマーの添加量が有利に寄与することが理解される。MTESのメチル基がもたらす立体障害により光学フィルタが良好な特性を発揮できることが示唆された。
【0074】
<実施例15>
実施例15に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。表1に示す通り、実施例15に係る光吸収性組成物において、MTESの固形分量:TEOSの固形分量を質量基準で比較例4と同様に約1:1に調製した。実施例15に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量は、アルコキシシランモノマーの固形分に換算して質量基準で実施例1に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有量と同程度に調整した。表8に示す通り、実施例15に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。実施例15に係る光吸収性組成物におけるMTESの含有量が光吸収剤の凝集を防止するのに十分であったことが、実施例15に係る光学フィルタの光学特性と比較例4に係る光学フィルタの光学特性との相違につながったと考えられる。
【0075】
<実施例16及び17>
実施例16に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図14に示す。また、実施例16及び17に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。表1に示す通り、実施例16及び17に係る光吸収性組成物において、MTESの固形分量:TEOSの固形分量を質量基準で約3:7に調製した。また、実施例16及び17に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの固形分量は、実施例1に係る光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの固形分量よりも多かった。表8に示す通り、実施例16及び17に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。比較例2及び比較例4に係る光吸収性組成物に関する結果と比較すると、実施例16及び17に係る光吸収性組成物におけるMTESの含有量が光吸収剤の凝集を防止するのに十分であったことが示唆された。
【0076】
<比較例5>
表5に示す通り、比較例5に係る光吸収性組成物は、アルコキシシランモノマーとしてTEOSのみを含有していた。比較例5に係る光吸収性組成物におけるTEOSの含有量は比較的多かったが、比較例5に係る光吸収性組成物は濁っており適切な光学フィルタを得ることができなかった。
【0077】
<実施例18及び19>
実施例18に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図15に示す。また、実施例18及び19に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。実施例18及び19に係る光吸収性組成物におけるフェニル系ホスホン酸の含有量は、物質量基準で実施例1〜17に係る光吸収性組成物におけるフェニル系ホスホン酸と同程度に調整した。しかし、実施例18及び19に係る光吸収性組成物において、フェニル系ホスホン酸として、フェニルホスホン酸のみを含有させた。表8に示す通り、実施例18及び19に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。これにより、ハロゲン化フェニルホスホン酸を含まないフェニル系ホスホン酸と、ブチルホスホン酸とを光吸収性組成物に含有させることにより、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製できることが理解される。
【0078】
<実施例20及び21>
実施例20に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図16に示す。また、実施例20及び21に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。表2に示す通り、実施例20及び21に係る光吸収性組成物において、フェニルホスホン酸の含有量:ブロモフェニルホスホン酸の含有量を物質量基準で約3:7に調製した。表8に示す通り、実施例20及び21に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。なお、実施例1に係る光吸収性組成物において、フェニルホスホン酸の含有量:ブロモフェニルホスホン酸の含有量は物質量基準で約1:1であった。実施例20及び21に関する結果から、光吸収性組成物においてフェニルホスホン酸の含有量とブロモフェニルホスホン酸の含有量との比を変動させても、光学フィルタが良好な光学特性を有することが理解される。
【0079】
<実施例22及び23>
実施例22に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図17に示す。また、実施例22及び23に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表8に示す。実施例22及び23に係る光吸収性組成物には、実施例1に係る光吸収性組成物に含有されているブロモフェニルホスホン酸に代えて、クロロフェニルホスホン酸を含有させた。表8に示す通り、実施例22及び23に係る光学フィルタは良好な光学特性を有していた。これにより、光吸収性組成物に含有されるハロゲン化フェニルホスホン酸の種類に依らず、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製可能であることが理解される。
【0080】
<実施例24〜49及び比較例6〜10>
実施例24に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図18に示す。また、実施例24〜49に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表9及び10に示す。さらに、比較例6〜9に係る光学フィルタの透過率スペクトル又は正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表12に示す。実施例1〜23及び比較例1〜5に係る光吸収性組成物は、フェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸の両方を加えて調製した。これに対し、実施例24〜49及び比較例6〜10に係る光吸収性組成物は、ホスホン酸としてフェニル系ホスホン酸のみを加えて調製した。表1〜6、9、10、及び12に示す通り、光吸収性組成物がアルキル基を有するアルコキシシランモノマーを所定量含有していれば、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製可能であることが示された。なお、比較例10に係る光吸収性組成物は濁っており適切な光学フィルタを得ることができなかった。
【0081】
<実施例34及び35>
実施例34及び35に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルをそれぞれ
図19及び20に示す。また、実施例34及び35に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表9に示す。表3に示す通り、実施例34及び35に係る光吸収性組成物は、シリコーン樹脂を含む樹脂組成物を加えることなく調製した。実施例34及び35に関する結果から、光吸収性組成物にシリコーン樹脂を含む樹脂組成物を加えなくても、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製できることが理解される。このことは、光吸収性組成物が含有していたアルコキシシランモノマーの加水分解縮重合物が強固なシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成し、光吸収剤同士の間の隙間を埋めて光吸収層の形成に有効な役割を果たしていることを示唆している。このため、光吸収性組成物におけるアルコキシシランモノマーの含有は、光吸収剤を適切に分散させるために有利であるだけでなく、光吸収層の骨格を形成するうえでも有利であると理解される。
【0082】
上記の通り、実施例35に係る光学フィルタは光吸収層のみによって構成されていた。実施例35に関する結果から、光吸収性組成物にアルコキシシランモノマーを十分に含有させることにより、リン酸エステル及びシリコーン樹脂を不要にでき、基板も不要な光学フィルタを作製できることが理解される。換言すると、アルコキシシランモノマーは、リン酸エステル、シリコーン樹脂、及び透明ガラス基板が担う役割を一手に担うことが可能である。
【0083】
<実施例50〜63並びに比較例11及び12>
実施例50に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルを
図21に示す。また、実施例50〜63に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表11に示す。さらに、比較例11に係る光学フィルタの正規化透過率スペクトルから読み取った光学特性を表12に示す。実施例1〜23及び比較例1〜5に係る光吸収性組成物は、フェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸の両方を加えて調製した。これに対し、実施例50〜63並びに比較例11及び12に係る光吸収性組成物は、ホスホン酸としてアルキル系ホスホン酸のみを用いて調製した。比較例12に係る光吸収性組成物は白濁しており、適切な光学フィルタを得ることができなかった。表3〜6、11、及び12に示す通り、光吸収性組成物がアルキル基を有するアルコキシシランモノマーを所定量含有していれば、良好な光学特性を有する光学フィルタを作製可能であることが示された。
【0084】
実施例1〜23と、比較例1、2、及び4との対比から、下記(I)の場合には、光学フィルタが良好な光学特性を有するために、銅イオンの含有量に対する、アルキル基を有する2官能又は3官能のアルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で2.5以上であることが望ましいことが示唆された。
(I)光吸収性組成物が、フェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸を含有し、かつ、4官能のアルコキシシランモノマー及び2官能のアルコキシシランモノマー又は3官能のアルコキシシランモノマーを含有している。
【0085】
実施例24〜49と、比較例6、7、9、及び10との対比から、下記(II)の場合には、光学フィルタが良好な光学特性を有するために、銅イオンの含有量に対する、アルキル基を有する2官能又は3官能のアルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で2.5以上であることが望ましいことが示唆された。
(II)光吸収性組成物が、フェニル系ホスホン酸を含有しているとともにアルキル系ホスホン酸を含有しておらず、かつ、4官能のアルコキシシランモノマー及び2官能のアルコキシシランモノマー又は3官能のアルコキシシランモノマーを含む。
【0086】
実施例50〜63と、比較例11及び12との対比から、下記(III)の場合には、光学フィルタが良好な光学特性を有するために、銅イオンの含有量に対する、アルキル基を有する2官能又は3官能のアルコキシシランモノマーの含有量の比が物質量基準で1.5以上であることが望ましいことが示唆された。
(III)光吸収性組成物が、アルキル系ホスホン酸を含有しているとともにフェニル系ホスホン酸を含有しておらず、かつ、4官能のアルコキシシランモノマー及び2官能のアルコキシシランモノマー又は3官能のアルコキシシランモノマーを含む。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
【表8】
【0095】
【表9】
【0096】
【表10】
【0097】
【表11】
【0098】
【表12】
本発明に係る光吸収性組成物は、所定のホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、光吸収剤を分散させるアルコキシシランモノマーとを含有しており、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルを含有していない。光吸収性組成物は、正規化透過率スペクトルが波長300nm〜700nmにおいて分光透過率が70%以上である波長帯を有し、かつ、前記波長帯における波長の最大値と最小値との差が100nm以上であるように、アルコキシシランモノマーを含有している。