(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱軟化した板状の成形基材を金型を用いてプレス成形することにより立体形状を有する繊維強化樹脂成形体を製造する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、以下の工程(A)〜(D)を順次に含む、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
(A)中央部のパッドと前記パッドの両側の型本体とを有する下型に対して、前記板状の成形基材の中央部を前記パッド上に載置するとともに、前記板状の成形基材の両端側を前記型本体の成形面から上方に突出する支持部に支持させて、前記板状の成形基材をセットする工程
(B)上型及び前記下型を近接させて、前記パッドと前記上型とにより前記板状の成形基材の中央部を挟み込む工程
(C)前記上型及び前記下型をさらに近接させるとともに前記支持部の突出量を減少させる工程
(D)前記下型と前記上型とにより前記板状の成形基材をプレスし前記繊維強化樹脂成形体を形成する工程
前記工程(D)において、前記支持部が前記型本体の成形面まで後退した後に、前記プレスを行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維強化樹脂成形体をプレス成形する際に、加熱軟化した成形基材を金型の成形面に直にセットした場合、セットした直後から熱可塑性樹脂の冷却固化が進行し始める。立体形状を有する樹脂成形体をプレス成形により製造する場合、使用される金型の成形面は凹凸形状を有するが、成形基材をセットした直後からの熱可塑性樹脂の冷却固化は、成形基材の成形性を低下させる要因になり得る。
【0005】
具体的には、下型の成形面が下に向かって凸状を成す場合に、成形基材の端部と下型の成形面の端部とを合わせて成形基材をセットすると、成形基材の端部側領域の材料の流動が冷却固化により制限される。そのため、プレス時に、凹凸状に成形される部分の材料の密度が低くなったり成形基材が裂けたりするおそれがある。
【0006】
また、下型の成形面が上に向かって凸状を成す場合には、加熱軟化している成形基材をセットする際に端部が下方に垂れるため、成形基材の端部と成形面の端部とを一致させることが困難である。また、成形基材の長さと成形体の長さによっては、成形基材の端部と成形面の端部とを一致させてプレスしたときに、成形基材に皺が生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、板状の成形基材をプレス成形することにより繊維強化樹脂成形体を製造する際の成形性を向上させることができる繊維強化樹脂成形体の製造方法及びプレス成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、加熱軟化した板状の成形基材を金型を用いてプレス成形することにより立体形状を有する繊維強化樹脂成形体を製造する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、以下の工程(A)〜(D)を順次に含む、繊維強化樹脂成形体の製造方法が提供される。
(A)中央部のパッドとパッドの両側の型本体とを有する下型に対して、板状の成形基材の中央部をパッド上に載置するとともに、板状の成形基材の両端側を型本体の成形面から上方に突出する支持部に支持させて、板状の成形基材をセットする工程
(B)上型及び下型を近接させて、パッドと上型とにより板状の成形基材の中央部を挟み込む工程
(C)上型及び下型をさらに近接させるとともに支持部の突出量を減少させる工程
(D)下型と上型とにより板状の成形基材をプレスし繊維強化樹脂成形体を形成する工程
【0009】
工程(A)において、支持部に支持された領域の板状の成形基材の端部は、型本体に設けられたシャーエッジの外側に位置し、工程(C)において、支持部の突出量を減少させて板状の成形基材の端部をシャーエッジの内側に落とし込んでもよい。
【0010】
板状の成形基材は一方向に配向された強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂からなり、工程(A)において、一方向に交差する方向の中央部をパッド上に載置するとともに、一方向に交差する方向の両端側を支持部に支持させてもよい。
【0011】
工程(D)において、支持部が型本体の成形面まで後退した後に、プレスを行ってもよい。
【0012】
工程(A)において、パッドの上面及び支持部の上面は型本体の成形面よりも上方に位置し、板状の成形基材における、パッド上に載置される部分と支持部に支持させる部分との間の領域を搬送用器具により支持して、板状の成形基材をパッド及び支持部上にセットし、搬送用器具を、パッドと支持部との間の空間から引き抜いてもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、加熱軟化した板状の成形基材を金型を用いてプレス成形して立体形状を有する繊維強化樹脂成形体を製造するためのプレス成形装置であって、下型の一方向の中央部に配置され、上方に向けて荷重が付加されるパッドと、パッドを挟んで下型の一方向の両側に配置され、パッドの上面よりも下方の位置に成形面を有する型本体と、型本体の成形面から上方に向けて突出するとともに、上型と前記下型との近接に伴って突出量が減少する支持部と、を備える、プレス成形装置が提供される。
【0014】
上型と下型とが近接する際に、上型に設けられた押圧部によって、下型の支持部に連結された被押圧部を押圧することにより、支持部の突出量が減少してもよい。
【0015】
上型の押圧部と下型の被押圧部との距離が、パッドと上型との距離よりも短くてもよい。
【0016】
上型の押圧部に対して下方に向けて荷重を付加する弾性部を備えてもよい。
【0017】
支持部の上面が、上方に突出する曲面であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、板状の成形基材をプレス成形することにより繊維強化樹脂成形体を製造する際の成形性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。
【0021】
<1.繊維強化樹脂成形体>
図1は、本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法により製造し得る繊維強化樹脂成形体100の一例を示す斜視図である。繊維強化樹脂成形体100は、繊維強化樹脂を用いて成形され、鋼板からなる構造体と比較して軽量でありつつ、高い強度を有している。繊維強化樹脂成形体100は凹凸状の部分を含む立体形状を有する。
【0022】
繊維強化樹脂成形体100のプレス成形に用いる板状の成形基材は、例えば1.0〜10.0mmの厚さを有する。係る板状の成形基材は、例えば強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを複数枚積層したものを用いることができる。使用される強化繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等であってもよく、さらにはこれらの強化繊維を組み合わせて使用してもよい。中でも炭素繊維は、機械特性に優れていることから、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0023】
また、本実施形態では、板状の成形基材に含まれる強化繊維は、一端から他端まで連続する連続繊維が用いられる。例えば、強化繊維が一方向に沿って配向した複数枚の繊維強化樹脂シートを積層した板状の成形基材をプレス成形して、繊維強化樹脂成形体100が製造される。
図1に示した繊維強化樹脂成形体100の立体形状における角部101の延在方向は、強化繊維の配向方向と略一致している。
【0024】
繊維強化樹脂のマトリックス樹脂には熱可塑性樹脂が用いられる。マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などが例示される。
【0025】
マトリックス樹脂は、これらの熱可塑性樹脂うちの1種類、あるいは2種類以上の混合物を使用し得る。あるいは、マトリックス樹脂は、これらの熱可塑性樹脂の共重合体であってもよい。また、マトリックス樹脂をこれらの熱可塑性樹脂の混合物とする場合には相溶化剤を併用してもよい。さらには、マトリックス樹脂は、難燃剤としての臭素系難燃剤や、シリコン系難燃剤、赤燐等を含んでいてもよい。
【0026】
この場合、使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、芳香族ポリアミド等の樹脂が挙げられる。中でも熱可塑性マトリックス樹脂が、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン及びフェノキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
なお、複数枚の繊維強化樹脂シートを積層して繊維強化樹脂成形体100を成形する場合、それぞれの繊維強化樹脂シートに含まれる強化繊維の種類や含有率等が異なっていてもよい。また、積層される複数枚の繊維強化樹脂シートにおいて、マトリックス樹脂が相溶性を有する異なる材料同士であってもよく、あるいは、同一のマトリックス樹脂に対して異なる添加物等が混合されていてもよい。この場合においても、成形基材の溶融及び硬化を効率的に行えるように、融点が近似するマトリックス樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
繊維強化樹脂シートは、例えば、一般的なフィルム含浸法や溶融含浸法等のプロセスにより、強化繊維を連続的に送り出しながらマトリックス樹脂を当該強化繊維に含浸させる方法により製造される。この繊維強化樹脂シートを所望のサイズに切断することにより、成形素材としての繊維強化樹脂シートが得られる。所望のサイズに切断した複数枚の繊維強化樹脂シートの幅方向の端部を接着剤等により互いに接合して、所望の幅及び長さの繊維強化樹脂シートを形成してもよい。繊維強化樹脂シートの厚さは、例えば、0.03〜0.5mmの範囲内の値とすることができる。
【0029】
本実施形態では、複数枚の繊維強化樹脂シートを積層した板状の成形基材を加熱軟化した後、当該板状の成形基材をプレス成形装置により型圧縮することによって、所望の立体形状を有する繊維強化樹脂成形体100が得られる。ただし、板状の成形素材は、繊維強化樹脂シートの積層体に限られず、所定の厚さを有する単一層の成形素材であってもよい。以下、繊維強化樹脂成形体100の製造に使用可能なプレス成形装置の例を説明した後に、当該プレス成形装置を用いた繊維強化樹脂成形体100の製造方法を説明する。
【0030】
<2.プレス成形装置>
図2は、本実施形態に係るプレス成形装置10の構成例を示す説明図である。
図2は、
図1に示した繊維強化樹脂成形体100を製造するためのプレス成形装置10の断面図を示す。プレス成形装置10は、上型20及び下型40を備え、上型20及び下型40により板状の成形基材を挟み込んでプレスすることにより、所望の形状の繊維強化樹脂成形体100を製造する装置である。
【0031】
なお、以下の説明において、上型20及び下型40の「中央部」及び「両端部」とは、
図2等に示したプレス成形装置10の左右方向の中央部及び両端部、すなわち、
図1に示した繊維強化樹脂成形体100の角部101の延在方向に対して交差する方向の中央部及び両端部を意味する。また、当該プレス成形装置10の左右方向、あるいは、繊維強化樹脂成形体100の角部101の延在方向に対して直交する方向を、幅方向と言う場合がある。
【0032】
(2−1.上型)
上型20は、下型40に対向する面に、製造する繊維強化樹脂成形体100の立体形状に対応する成形面22を有する。成形面22の裏側には、金型を加熱及び保温するためのヒータ等の熱源が埋め込まれる。さらに、成形面22の裏側に、冷却剤が流通する冷却剤通路30が備えられていてもよい。成形素材の体積が大きく、金型が熱を受けすぎる場合には、冷却剤通路30に冷却剤を流通させることにより、成形面22を低温にし、加熱軟化した成形基材を冷却固化させることができる。
【0033】
上型20の両端部には、押圧部支持孔24a,24b内を進退動可能に保持された押圧部28a,28bを備える。押圧部28a,28bは、コイルばね26a,26bによって押圧部支持孔24a,24b内に懸架されている。コイルばね26a,26bは、押圧部28a,28bに対して下方に向けて荷重を付加可能な加圧部として機能する。係る加圧部は、コイルばね26a,26bに限られず、板ばね等であってもよいし、その他の圧力供給源を用いて構成されてもよい。
【0034】
本実施形態では、押圧部28a,28bは、棒状のピンからなる。また、
図2では、押圧部28a,28bは、上型20の両端部にそれぞれ一つ示されているが、押圧部28a,28bは図面の奥行き方向に複数設けられている。また、本実施形態に係るプレス成形装置10では、上型20が上下方向に進退動可能に構成され、プレス成形時において、上型20に対して下方向の荷重がかけられるようになっている。
【0035】
(2−2.下型)
下型40は、パッド42と、型本体50a,50bと、支持機構60とを備える。パッド42は、下型40の中央部に設けられ、コイルばね46により上方に向けて荷重が付加される。パッド42は、上型20に対向する上面に、製造する繊維強化樹脂成形体100の中央部の形状に対応するパッド成形面42aを有する。パッド成形面42aの裏側には、金型を加熱及び保温するためのヒータ等の熱源が埋め込まれる。さらに、パッド成形面42aの裏側には、冷却剤が流通する冷却剤通路32が備えられてもよい。成形基材の体積が大きく、金型が熱を受けすぎる場合には、冷却剤通路32に冷却剤を流通させることにより、パッド成形面42aを低温にし、加熱軟化した成形基材を冷却固化させることができる。
【0036】
型本体50a,50bは、パッド42を挟んで、下型40の両端側に設けられる。型本体50a,50bは、上型20に対向する上面に、製造する繊維強化樹脂成形体100の両端部の形状に対応する成形面52a,52bを有する。成形基材のプレス成形時において、成形基材が成形面よりも外側にはみ出さないようにして型圧縮するために、成形面52a,52bの外側端部には、シャーエッジ56a,56bが設けられている。成形面52a,52bの裏側には、金型を加熱及び保温するためのヒータ等の熱源が埋め込まれる。さらに、成形面52a,52bの裏側には、冷却剤が流通する冷却剤通路34が備えられてもよい。成形基材の体積が大きく、金型が熱を受けすぎる場合には、冷却剤通路34に冷却剤を流通させることにより、成形面52a,52bを低温にし、加熱軟化した成形基材を冷却固化させることができる。
【0037】
パッド42は、型本体50a,50bの間に、極小の隙間を介して配置されている。パッド42は、型本体50a,50bに対して相対的に上下動可能になっている。プレス成形前の状態において、パッド成形面42aの高さ位置は、型本体50a,50bの成形面52a,52bの高さ位置よりも高くなっている。また、パッド42は、プレス成形時に、上型20及び下型40の近接に伴って、パッド成形面42aと当該パッド成形面42aに対向する上型20の中央部の面22aとにより成形基材が圧縮される際に、コイルばね46の付勢力に抗して、下方に押し下げられる。
【0038】
支持機構60は、基板62と、基板62の上面に固定された支持部66a,66b及び被押圧部64a,64bとを有する。支持機構60は、図示しない負荷手段により上方側に付勢されており、支持機構60は、型本体50a,50bに対して相対的に上下動可能になっている。支持機構60を付勢する負荷手段は特に制限されるものではなく、例えば、コイルばねや板ばね等を用いたものであってもよいし、油圧シリンダ等の他の圧力供給源を用いたものであってもよい。
【0039】
支持部66a,66bは、板状の成形基材の端部側を支持する部分である。プレス成形前の状態において、支持部66a,66bは、型本体50a,50bの成形面52a,52bから上方に突出する。支持部66a,66bは、型本体50a,50bに設けられた支持部保持孔54a,54bに保持されている。
【0040】
被押圧部64a,64bは、上型20及び下型40を近接させる際に、支持機構60を相対的に下方へ移動させるために設けられた部分である。被押圧部64a,64bの上面は、上型20の押圧部28a,28bの下面に対向し、上型20及び下型40を近接させる際に、上型20の押圧部28a,28bにより下型40の被押圧部64a,64bが押圧され得る。被押圧部64a,64bを押圧する荷重の大きさが、支持機構60を上方側に付勢する荷重を上回ると、支持機構60は下方向に移動する。
【0041】
本実施形態に係るプレス成形装置10では、型本体50a,50bは固定されており、パッド42及び支持機構60が、型本体50a,50bに対して相対的に上下動する。パッド42と支持機構60とは、互いに独立して上下動可能になっている。また、プレス成形前の状態において、パッド成形面42aのうちの最も上方に位置する部分と、支持部66a,66bの上面とは、略同じ高さとなっている。
【0042】
図3は、本実施形態に係るプレス成形装置10の下型40を上型20側から見た上面図を示す。この下型40は、
図1に示す繊維強化樹脂成形体100を成形するための金型であって、中央部のパッド42と、パッド42の両側の型本体50a,50bとを備える。パッド42及び型本体50a,50bはそれぞれ長尺の平面形状を有する。型本体50a,50bは、支持機構60の支持部66aを保持する複数の支持部保持孔54a,54bを有する。支持機構60の被押圧部64a,64bは、パッド42及び型本体50a,50bの外側に設けられている。
【0043】
本実施形態に係るプレス成形装置10では、支持機構60の支持部66a,66bは、棒状のピンからなる。支持部66a,66bがピンであれば、成形基材を小さい面積で支持することができる。したがって、プレス成形時における成形基材のずれを抑制することができる。このとき、
図4に示すように、支持部66a,66bの上面が、上方に向けて突出する曲面であることが好ましい。支持部66a,66bの上面が曲面であれば、プレス成形時において支持部66a,66b上の成形基材110が引きずられても、成形基材が支持部66a,66bに引っ掛かることを防ぐことができる。
【0044】
また、本実施形態に係るプレス成形装置10では、支持機構60の被押圧部64a,64bは、棒状のピンからなる。被押圧部64a,64bは、上型20及び下型40を近接させたときに上型20の押圧部28a,28bと当接可能になっていればよい。ただし、支持部66a,66b及び被押圧部64a,64bを棒状のピンにより構成することによって、支持機構60の軽量化が図られるとともに、コストを抑制することができる。
【0045】
図3に示した例では、支持部66a,66bが型本体50a,50bにそれぞれ7本、計14本設けられ、被押圧部64a,64bが両端部にそれぞれ3本、計6本設けられている。ただし、支持部66a,66b及び被押圧部64a,64bの数は特に限定されない。また、支持機構60の基板62は、パッド42及び型本体50a,50bの下部に、図示しない開口部を有し、パッド42に荷重を与えるコイルばね46が当該開口部を通過して設けられている。なお、コイルばね46の代わりに、他の圧力供給源を用いてもよい。
【0046】
<3.繊維強化樹脂成形体の製造方法>
次に、上述したプレス成形装置10を用いて行われる繊維強化樹脂成形体100の製造方法について説明する。本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体100の製造方法は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを積層した成形基材を金型を用いてプレスすることによって繊維強化樹脂成形体100を成形する方法に関するものである。
【0047】
本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体100の製造方法は、少なくとも以下の工程(A)〜(D)を含む。
(A)中央部のパッド42とパッド42の両側の型本体50a,50bとを有する下型40に対して、板状の成形基材110の中央部をパッド42上に載置するとともに、板状の成形基材110の両端側を型本体50a,50bの成形面52a,52bから上方に突出する支持部66a,66bに支持させて、板状の成形基材110をセットする工程
(B)上型20及び下型40を近接させて、パッド42と上型20とにより板状の成形基材110の中央部を挟み込む工程
(C)上型20及び下型40をさらに近接させるとともに支持部66a,66bの突出量を減少させる工程
(D)下型40と上型20とにより板状の成形基材110をプレスし繊維強化樹脂成形体100を形成する工程
【0048】
以下、
図1に示した立体形状を有する繊維強化樹脂成形体100の製造方法について、
図5〜
図12を適宜参照しながら、工程順に説明する。
【0049】
(3−1.加熱工程)
加熱工程は、板状の成形基材110を加熱して軟化する工程である。加熱工程では、例えば、板状の成形基材110が加熱装置に投入される。本実施形態では、それぞれ連続繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂シートを任意に積層した板状の成形基材110が用いられる。板状の成形素材110は繊維強化樹脂成形体100を展開した形状に略一致することから、成形基材110の幅方向の長さは、繊維強化樹脂成形体100の幅方向の長さよりも長くなる。本実施形態では、下型40にシャーエッジ56a,56bが設けられており、係る成形素材110は成形領域内で型圧縮される。したがって、成形される繊維強化樹脂成形体100において、樹脂材料の充填率の低下や裂け等の成形不良が低減される。
【0050】
加熱工程では、例えば、板状の成形基材110が、上面側及び下面側から、電熱線や遠赤外線ヒータ、熱風等の加熱手段によって加熱される。加熱手段の温度は、マトリックス樹脂の融点以上に設定される。加熱工程では、マトリックス樹脂が分解しないように、成形基材110が溶融状態にされる。用いられる加熱装置は、特に限定されない。
【0051】
(3−2.プレス工程)
プレス工程は、上記の工程(A)〜(D)を含み、溶融状態の板状の成形基材110をプレスし、所望の立体形状を有する繊維強化樹脂成形体100を製造する工程である。プレス工程では、プレス成形装置10の上型20及び下型40の表面温度がマトリックス樹脂の融点未満にされる。係るプレス工程において、下型40上に溶融状態の成形基材110がセットされた後に、対向する上型20及び下型40が互いに近接させられて成形基材110がプレスされる。これにより、成形基材110が冷却固化して、所望の形状の繊維強化樹脂成形体100が得られる。
【0052】
(3−2−1.工程(A))
工程(A)は、成形基材110を下型40上にセットする工程である。
図5及び
図6は、工程(A)の様子を示す説明図である。まず、
図5に示すように、加熱軟化した溶融状態の板状の成形基材110を、搬送用器具80により支持して、下型40上に搬送する。このとき、下型40のパッド成形面42a及び支持部66a,66bの上面は、型本体50a,50bの成形面52a,52bの高さ位置よりも上方に位置する。
図5に示した例では、パッド成形面42a及び支持部66a,66bの上面の高さ位置は、略一致している。なお、パッド成形面42aの高さ位置と、支持部66a,66bの上面の高さ位置とは、完全に一致していなくてもよい。
【0053】
搬送用器具80は、長尺のパッド42の長手方向に延在し、板状の成形基材110を全長に渡って支持する複数(図では2本)の搬送ピンである。搬送用器具80の少なくとも上面が曲面状に構成されるとよい。したがって、搬送時において、成形基材110の下面に凹みが生じにくくなっている。溶融状態の成形基材110は、搬送用器具80に支持された状態で若干の撓みが生じるものの、上型20及び下型40のいずれにも接することなく下型40上に搬送される。搬送用器具80を作業者が把持して成形基材110を搬送してもよいし、搬送用器具80を有する搬送装置を用いて成形基材110を搬送してもよい。
【0054】
二本の搬送用器具80は、それぞれ下型40のパッド42と型本体50a,50bとの間の領域に対応する位置において成形基材110を支持する。したがって、
図6に示すように、成形基材110を下型40上に搬送した後、搬送用器具80を下げることによって、成形基材110が、パッド成形面42a及び支持部66a,66b上にセットされる。搬送用器具80は、パッド42と型本体50a,50bとの間の隙間から軸方向に引き抜かれる。
【0055】
このとき、二本の搬送用器具80の間の距離をパッド42の幅に合わせておくことによって、成形基材110をセットする際に、成形基材110の位置合わせを正確に行うことができる。具体的には、搬送用器具80に対する成形基材110の載置位置があらかじめ決められていれば、下型40上での搬送用器具80の位置がずれていたとしても、搬送用器具80を下げる際に、搬送用器具80がパッド42の両側部に沿って位置を修正しながら下降し、成形基材110が所定位置にセットされる。
【0056】
(3−2−2.工程(B))
工程(B)は、上型20と下型40とを近接させて、パッド成形面42aと上型20の中央部の面22aとにより板状の成形基材110の中央部を挟み込む工程である。
図7及び
図8は、工程(B)の様子を示す説明図である。本実施形態に係るプレス成形装置10では、上型20に対して下方に向かって荷重をかけることにより、上型20が下方に移動し、上型20と下型40とが近接する。
【0057】
上型20が所定程度下降すると、
図7に示すように、上型20の押圧部28a,28bが下型40の被押圧部64a,64bに当接する。したがって、上型20を引き続き下降させることによって、下型40の支持機構60が下方に押圧される。このとき、上型20の押圧部28a,28bと下型40の被押圧部64a,64bとの距離が、パッド42と上型20との距離よりも短いため、板状の成形基材110が挟み込まれるより前に、支持機構60が下方に押圧される。これにより、支持部66a,66bが下降し始め、板状の成形基材110の端部側が下方に垂れ始める。このとき、パッド42上に載置されている板状の成形基材110の中央部は上型20に接していない。
【0058】
さらに上型20を下方に移動させると、
図8に示すように、下型40の支持部66a,66bがさらに下降し、板状の成形基材110の両端部がさらに下方に下げられる。このとき、上型20の押圧部28a,28bに対して下方に向けて荷重を付与するコイルばね26a,26bが圧縮するため、支持部66a,66bの下降量は上型20の下降量(ストローク量)よりも小さくなる。
【0059】
また、パッド42上に載置された板状の成形基材110の中央部は、上型20の中央部の面22aに押し付けられ、パッド42の荷重により加圧され始める。これにより、板状の成形基材110の中央部が型圧縮されつつ冷却固化し始める。以降は、成形基材110の中央部が、パッド42と上型20とで挟み込まれた状態で、上型20と下型40とが近づけられる。
【0060】
なお、プレス成形時においては、上型20の成形面22、下型40のパッド42の成形面42a及び型本体50a,50bの成形面52a,52bは、成形素材110のマトリックス樹脂の融点未満の温度に加熱あるいは保温されている。したがって、マトリックス樹脂の融点以上に予熱されていた溶融状態の成形基材110は、上型20又は下型40の成形面に接触することによって、冷却される。上述のとおり、成形基材110の体積が大きい場合には、冷却剤通路30,32,34に冷却剤を流通させて、成形基材110を冷却してもよい。
【0061】
(3−2−3.工程(C))
工程(C)は、上型20と下型40とをさらに近接させて、型本体50a,50bの成形面52a,52bからの支持部66a,66bの突出量をさらに減少させる工程である。
図9及び
図10は、工程(C)の様子を示す説明図である。前工程(B)において板状の成形基材110の中央部がパッド42と上型20とで挟み込まれた後、本工程(C)において、上型20及び下型40をさらに近接させることにより、支持機構60がさらに下方に押し込まれる。
【0062】
これにより、型本体50a,50bの成形面52a,52bからの支持部66a,66bの突出量がさらに減少する。これに伴って、上型20の押圧部28a,28bに対して下向きの荷重を付与するコイルばね26a,26bもさらに圧縮する。このとき、板状の成形基材110のうち、パッド42と上型20とで挟み込まれた中央部と下方に垂れている両端部との間に高低差が生じており、板状の成形基材110の両端部は、型本体50a,50bのシャーエッジ56a,56bの位置に落とし込まれる。
【0063】
この間、上型20の成形面22と型本体50a,50bの成形面52a,52bとの距離が徐々に小さくなって、板状の成形基材110の両端側が、上型20の成形面22又は下型40の型本体50a,50bの成形面52a,52bに接し始める。そして、
図10に示すように、板状の成形基材110の両端部がシャーエッジ56a,56bの位置に落とし込まれた後は、成形基材110は、上型20及び下型40により挟み込まれるにつれて中央部側に押し込まれるようになる。ただし、本工程(C)においても、板状の成形基材110の両端側が上型20及び下型40に接している面積は小さく、成形基材110の冷却固化が進行しにくい状態となっている。
【0064】
(3−2−4.工程(D))
工程(D)は、上型20と下型40とにより成形基材110をプレスし、繊維強化樹脂成形体100を形成する工程である。
図11は、工程(D)の様子を示す説明図である。本工程(D)では、上型20及び下型40をさらに近接させることにより、上型20及び下型40によって囲まれる閉空間内で成形基材110が型圧縮される。これにより、成形基材110が全体的に冷却固化し、繊維強化樹脂成形体100が形成される。
【0065】
このとき、上型20の押圧部28a,28bに対して下向きの荷重を付与するコイルばね26a,26bの圧縮により、支持部66a,66bの上面の高さ位置が、型本体50a,50bの成形面52a,52bの高さ位置に略一致する。そのため、成形基材110が型圧縮される状態では、支持部66a,66bの上面は成形面の一部となり得る。したがって、繊維強化樹脂成形体100の表面に、支持部保持孔54a,54bの跡が残されにくくなっている。
【0066】
成形基材110を型圧縮した状態で所定時間保持した後、上型20を上昇させて、成形された繊維強化樹脂成形体100を取り出す。このとき、
図12に示すように、繊維強化樹脂成形体100は、支持部66a,66b上に載った状態となる。したがって、繊維強化樹脂成形体100の下方の空間に搬送用器具を挿し入れやすくなっており、繊維強化樹脂成形体100を容易に搬送させることができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態にかかる繊維強化樹脂成形体100の製造方法及びプレス成形装置10によれば、加熱軟化した板状の成形基材110の中央部がパッド42上に載置され、両端部が支持部66a,66b上に載置される。したがって、板状の成形基材110の両端側が冷却固化し始める時期を遅らせることができる。これにより、成形基材110が型圧縮されるまで、成形基材110が軟化した状態を保つことができ、成形性を低下させる要因を防ぐことができる。
【0068】
また、本実施形態にかかる繊維強化樹脂成形体100の製造方法及びプレス成形装置10によれば、支持部66a,66bにより支持した板状の成形基材110の両端部が徐々に下げられ、下型40の型本体50a,50bのシャーエッジ56a,56bに落とし込まれる。したがって、成形領域の幅よりも大きい(長い)幅の板状の成形基材110の両端部を、シャーエッジ56a,56bの位置に位置合わせして、下型40の型本体50a,50bの成形面52a,52b上に載置することができる。
【0069】
また、成形領域の幅よりも大きい幅の板状の成形基材110の端部をシャーエッジ56a,56bに落とし込んで型圧縮することにより、材料を中央部側に押し込みながら型圧縮することができる。したがって、繊維強化樹脂成形体100の一部の材料の充填率が低くなったり、成形基材110が裂けたりすることを防ぐことができる。これにより、繊維強化樹脂成形体100を製造する際の成形性を向上させることができる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
例えば、上記実施の形態では、上型20の下降に伴って、押圧部28a,28bが支持機構60の被押圧部64a,64bを押圧することで、型本体50a,50bの成形面52a,52bからの支持部66a,66bの突出量を小さくしていたが、本発明は係る例に限られない。例えば、上型20の下降に合わせて、制御機構を用いて支持部66a,66bを下降させる装置として構成されていてもよい。係る構成によっても、本発明の効果を得ることができる。