(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、院内感染の問題が大きくなってきており、感染リスクを低減させることが医療機関においての必須課題となっている。
一般的に医療器具は高価であるため、可能な限り洗浄リサイクルが行われる。感染因子となる細菌やウイルスが存在している可能性のある血液、体液、組織片等の生体由来汚れが付着した医療器具は、通常、感染リスクを低減させるため、洗浄(第1工程)と消毒(第2工程)の2工程を経て洗浄リサイクルが行われる。
【0003】
洗浄(第1工程)の方法には、浸漬洗浄、用手洗浄、および超音波洗浄機やウォッシャーディスインフェクター等による機械洗浄などがある。
しかし、上記のような洗浄を行っても、医療器具に生体由来汚れが残存している場合がある。その場合、消毒(第2工程)の効果が十分に発揮されず感染の可能性が高くなる。このため洗浄後の医療器具の清浄度を確認する必要がある。
【0004】
また、最近では、患者の痛み、発熱、出血、感染症などの合併症抑制や、患者の早期回復、早期社会復帰、入院期間の短縮等に伴う経済的負担軽減などの観点から、内視鏡、腹腔鏡、手術支援ロボット等を使用するなどして、従来に比べて低侵襲な治療や検査が数多く実施されている。
内視鏡、腹腔鏡、手術支援ロボットに使用され医師の手に相当するアーム状の器具(例えば、da Vinci Surgical Systemに使用されるEndoWrist(登録商標)、ダヴィンチ鉗子、操作鉗子など)は、複雑な操作を可能にするため多数の精密部品から構成された複雑な内部構造を有する。また、これらは分解しにくい構造となっていることが多いため、通常の器具よりも洗浄が困難であり、汚れが落ちにくい。加えて、汚れの落ち具合の確認もしにくい。
そのため、特に内視鏡、腹腔鏡、EndoWrist(登録商標)、ダヴィンチ鉗子、操作鉗子等の最新医療器具の清浄度を評価することを目的とし、最新医療器具から生体由来汚れを抽出する方法が求められている。
【0005】
洗浄後の操作鉗子等の清浄度を評価するための抽出方法として、例えば非特許文献1には、各施設から回収した10回使用後のEndoWrist(登録商標)を先端部とシャフト部に分解し、試験管に分解した先端部と抽出液(0.2NaOH/1%SDS)を入れ、70℃60分浸漬と超音波処理を繰り返し行い、残留蛋白質を抽出する方法が開示されている。
【0006】
非特許文献2には、ダヴィンチ鉗子内腔に、Bacillus subtilis ATCC6633(spore form)を加えた汚染血液を50mLシリンジで2回注入し、4時間の自然乾燥後、45分間の洗浄処理を行い、その後、卓上超音波洗浄器を用いて残存生菌の抽出を5分間行う方法を開示されている。非特許文献2に記載の方法では、滅菌水100mLに鉗子先端を埋没させた状態で、鉗子内筒に50mLシリンジで2回循環注入し、鉗子先端を流す方法により、残存生菌を抽出している。
【0007】
非特許文献3には、ロボット支援手術で使用された操作鉗子の外表面と鉗子表面の蛋白質量については、蒸留水0.5mLを含ませたコメガーゼで拭き取ることで測定し、内腔部分の蛋白質量については、拭い終わった操作鉗子をポリ袋内に挿入し、二つのフラッシュポートから蒸留水各100mLを注入し、ポリ袋の中の空気を排除しながら操作鉗子全体を温水を張った超音波洗浄槽に袋越しに入れ、超音波発振機を出力させ、30分間後にポリ袋内の溶液を十分に攪拌して蛋白質を抽出する方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
「生体由来汚れの検出定量方法」
本発明の生体由来汚れの検出定量方法は、検査対象物に付着した生体由来汚れを検出定量する方法であって、以下に示す抽出工程と、検出定量工程とを有する。
本発明において、「生体由来汚れ」とは、手術等によって付着した汚れであり、例えば血液、体液、組織片などが挙げられる。
【0018】
<検査対象物>
検査対象物としては、生体由来汚れが付着している可能性があるものであれば特に限定されない。
検査対象物としては、例えば、手術、検査、治療等に使用される医療用器具、食品の製造や加工に使用される食品用器具等の器具が挙げられる。また、これら器具を使用した後に洗浄を行ったものや、洗浄と消毒を行ったものを検査対象物としてもよい。これらの中でも、使用後に洗浄を行った器具が再利用可能か否か確認する、あるいは器具の洗浄方法の適正さを確認するという観点から、検査対象物としては、使用後に洗浄、あるいは洗浄と消毒を行った器具が好適である。
【0019】
医療用器具としては、例えば内視鏡、腹腔鏡、手術支援ロボットに使用され医師の手に相当するアーム状の器具(以下、「マニピュレータ」という。)、鑷子、鉗子、剪刀、吸引管、カテーテル、注射針などが挙げられる。これらの中でも、本発明は、抽出や清浄度の確認が困難な医療用器具、具体的には精密な部品で構成され分解が困難な医療用器具(例えば、内視鏡、腹腔鏡、マニピュレータ)に対して好適であり、その中でも特にマニピュレータに対して好適である。
【0020】
マニピュレータとしては、例えばda Vinci Surgical Systemに使用されるEndoWrist(登録商標)、ダヴィンチ鉗子、操作鉗子などが挙げられる。
マニピュレータは、一般的に、先端部とシャフト部と本体部とで構成される。
マニピュレータの先端部は、手術等の精密な操作を行う鑷子、鉗子、剪刀等の治具からなる。
マニピュレータのシャフト部は、本体部と先端部を連結するものであり、先端部の治具を駆動させるワイヤーを挿通するため管状構造となっている。
マニピュレータの本体部(「ハウジング部」ともいう。)は、先端部の操作を可能とするためワイヤー、プーリー等の精密な部品で構成された内部構造を有する。また、本体部は、洗浄液等を注入するための液注入口(「メインフラッシュポート」ともいう。)を有し、液注入口から注入された洗浄液等が、本体部内を伝わった後、シャフト部内を経由して先端部の空隙部より排出される構造をとっている。このような構造により、マニピュレータの使用後にマニピュレータ内部の洗浄が可能となる。
【0021】
<抽出工程>
抽出工程は、検査対象物に界面活性剤を含む抽出液を流動的に接触させて、生体由来汚れを抽出する工程である。以下、検査対象物に接触させる前の抽出液を「接触前抽出液」ともいい、生体由来汚れが抽出された抽出液を「生体由来汚れ抽出液」ともいう。
【0022】
(抽出液)
抽出工程で使用する抽出液は、界面活性剤を含む。
界面活性剤としては、生体由来汚れに対して強い洗浄性を有し、検査対象物に対して腐食の影響を与えにくいものであれば特に限定されず、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、生体由来汚れ(特に蛋白質)の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤がより好ましい。
【0023】
アニオン界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、炭素数10〜22の石鹸、炭素数14〜24のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数10〜22でありポリオキシエチレン基のオキシエチレン単位の繰り返し数が1〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、炭素数10〜22のα−スルホ脂肪酸エステル、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩、炭素数10〜22のモノアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらの中でも、生体由来汚れ(特に蛋白質)の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、炭素数10〜22の石鹸、炭素数14〜24のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数10〜22でありポリオキシエチレン基のオキシエチレン単位の繰り返し数が1〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩が好ましく、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩、炭素数8〜18のα−オレフィンスルホン酸塩、炭素数10〜22のアルカンスルホン酸塩がより好ましく、炭素数10〜22の高級アルコール硫酸エステル塩が特に好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0024】
両性界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
ノニオン界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルの多価アルコール型等が挙げられる。ここで述べた高級アルコールは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルコールである。また、アルキルフェノールは通常炭素数6〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和のアルキルフェノールである。また、脂肪酸は通常炭素数10〜22の不飽和又は飽和の脂肪酸である。また、多価アルコールは通常炭素数3〜12の多価アルコールである。また、高級アルキルアミンは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルキルアミンである。アルキレンオキサイドは、具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、2,3−、1,3−および1,4−ブチレンオキサイドなどが挙げられ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。また、アルキレンオキサイドは同一であっても異なっていてもよく、異なっている場合は、ブロック付加でもランダム付加でも交互付加でも構わない。アルキレンオキサイドの付加モル数は1〜80が好ましく、2〜60がより好ましく、5〜40が特に好ましい。これらの中でも、生体由来汚れ(特に蛋白質)の抽出効率が高く、検査対象物を腐食しにくい観点から、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステルが好ましく、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物がより好ましい。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
界面活性剤の濃度は、生体由来汚れの抽出効率が高まり、経済的でもある観点から、抽出液100質量%中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0027】
界面活性剤を希釈する溶媒としては、水が好ましく、具体的には、水道水、イオン交換水、蒸留水、RO水等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0028】
抽出液は、検査対象物を損なわない程度であれば、アルカリ剤を含んでいてもよい。
アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウムなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
アルカリ剤の濃度は、生体由来汚れの抽出効率が高まり、検査対象物を腐食しにくい観点から、抽出液100質量%中、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%(アルカリ剤を含まないこと)が特に好ましい。
【0029】
また、抽出液は、検査対象物を損なわない程度であれば、有機溶剤を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、サリチル酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。
【0030】
抽出液の粘度は、0.1〜500mPa・sが好ましく、0.2〜100mPa・sがより好ましい。抽出液の粘度が0.1mPa・s以上であれば、生体由来汚れに対する抽出液の浸透性が高まる。一方、抽出液の粘度が500mPa・s以下であれば、検査対象物の細部にまで抽出液が行き渡りやすくなる。また、後述する抽出手段を用い、抽出液を循環させて検査対象物に繰り返し接触させる場合、抽出液が円滑に流れる。
抽出液の粘度は、キャノン・フェンスケ粘度計等の毛細管粘度計を用い、液温20℃で接触前抽出液の粘度を測定することで求められる。
【0031】
(接触方法)
抽出工程では、検査対象物に抽出液を流動的に接触させる。接触方法としては、抽出液が流れていれば特に制限されないが、例えば後述する容器に検査対象物を収容し、容器内に抽出液を連続的に流すことで検査対象物に抽出液を流動的に接触させる方法などが挙げられる。
検査対象物に抽出液を流動的に接触させることで、検査対象物を分解することなく、また故障の原因となる超音波処理等の物理的ストレスを検査対象物にかけずに、簡便かつ効率よく生体由来汚れを抽出できる。
【0032】
少量で、効率よく生体由来汚れを抽出できる観点から、抽出液を循環させて検査対象物に繰り返し流動的に接触させることが好ましい。抽出液を循環させるとは、検査対象物を通過した生体由来汚れ抽出液を再び検査対象物に流動的に接触させる操作を繰り返すことである。例えば、容器に検査対象物を収容して抽出液を流動的に接触させる場合は、容器から排出された生体由来汚れ抽出液を再び容器に供給する操作を繰り返せばよい。
【0033】
検査対象物がマニピュレータである場合、マニピュレータの液注入口にアダプタを装着して抽出液を注入し、マニピュレータに抽出液を流動的に接触させることが好ましい。液注入口から注入された抽出液は、マニピュレータの本体部内を伝わった後、シャフト部内を経由して先端部の空隙部より排出される。これにより、マニピュレータ内部の生体由来汚れも十分に抽出できる。
【0034】
検査対象物を容器に収容して抽出液を接触させる場合、容器を傾斜させた状態で抽出液を検査対象物に接触させることが好ましい。容器を傾斜させることで、抽出液量が少ない場合でも容器内に滞留する抽出液量を減少できる。
また、容器の材質が柔らかく圧縮等によって形態が変わる場合、容器内を減圧した状態で検査対象物に抽出液を接触させることが好ましい。容器内を減圧させることで、容器と検査対象物との隙間が少なくなり、検査対象物の内部および周囲に集中的に抽出液を接触させることができる。
【0035】
抽出液の流速は特に限定されるものではないが、抽出効率および検査対象物にかかる負荷を考慮すると、10〜10,000mL/分が好ましく、20〜5,000mL/分がより好ましい。
【0036】
抽出液の使用量(抽出液量)は、検出対象となる検査対象物の大きさ、表面積、使用状況等に応じて調節すればよく、特に限定されるものではないが、抽出工程によって得られた生体由来汚れ抽出液中の抽出成分を検出することを考慮すると、出来うる限り少ない量を選択することが好ましい。
【0037】
抽出液の温度は特に限定されるものではないが、抽出効率および検査対象物にかかる負荷を考慮すると、0〜150℃が好ましく、10〜80℃がより好ましく、30〜60℃が特に好ましい。
抽出液は、予め超音波処理などにより気泡を取り除いておくことが好ましい。気泡を取り除くことで、生体由来汚れの抽出効果がより高まる。
【0038】
抽出時間は、抽出液の流速や温度等に応じて調節すればよく、特に限定されるものではないが、生体由来汚れの抽出効率が高まり、経済的でもある観点から、0.1〜100時間が好ましく、0.5〜50時間がより好ましい。
【0039】
<検出定量工程>
検出定量工程は、抽出工程にて抽出した生体由来汚れを検出定量する工程である。
抽出工程によって検査対象物から抽出された成分は、手術等によって付着した汚れであり、主に生体由来汚れである。生体由来汚れを検出する方法としては、生体由来汚れ中の蛋白質、核酸、糖、脂肪、ATP、ヘモグロビン等を検出する方法が挙げられるが、これらを検出する方法であれば特に限定されない。例えば、蛋白質検出方法としては、CBB法、BCA法等が挙げられる。核酸検出方法としては、UV法等が挙げられる。糖検出方法としては、フェノール硫酸法、ソモギ法、ベルトラン法、酵素法、HPLCあるいはGC、GC−MSを使用した方法等が挙げられる。脂肪検出方法としては、酵素法、HPLCあるいはGC、GC−MSを使用した方法等が挙げられる。ATP検出方法としては、生物学的発光法等が挙げられる。ヘモグロビン検出方法としては、SLS−Hb法、シアンメトグロビン法、オルトトリジン法、グアヤック法、免疫法等が挙げられる。これらの中でも、定量の簡便さ、正確性の観点から、抽出液をアルカリ環境下でビシンコニン酸および銅(II)を含む蛋白質検出液と反応させ、得られた反応液を分光光度計にて562nmの吸光度を測定するBCA法、抽出液にルシフェラーゼなどを含むATP検出液を接触させ、得られた接触液の発光量を測定する生物学的発光法、抽出液にラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を含むヘモグロビン発色試薬を反応させ、得られた反応液を分光光度計にて540nmの吸光度を測定するSLS−Hb法が好ましい。
【0040】
<作用効果>
以上説明した本発明の生体由来汚れの検出定量方法は、検査対象物に抽出液を流動的に接触させて生体由来汚れを抽出するので、検査対象物を分解することなく、また故障の原因となる超音波処理等の物理的ストレスを検査対象物にかけずに、簡便かつ効率よく生体由来汚れを抽出し、抽出した生体由来汚れを検出定量できる。
本発明の生体由来汚れの検出定量方法は、検査対象物を分解する必要がなく、物理的ストレスを検査対象物にかけることもないので、精密な部品で構成され分解が困難な医療用器具(例えば、内視鏡、腹腔鏡、マニピュレータ)に対して好適であり、その中でも特にマニピュレータに対して好適である。
【0041】
検出定量工程により生体由来汚れを検出定量し、検査対象物の清浄度を確認する。洗浄が不十分などの理由により検査対象物に生体由来汚れがまだ付着していると判断した場合は、検査対象物を洗浄した後に前記抽出工程と検出定量工程を再度行い、生体由来汚れを検出定量する。
生体由来汚れが十分に除去されていると判断された検査対象物は、再利用することができる。なお、抽出工程後の検査対象物には抽出液が付着しているため、検査対象物を濯いで残留した抽出液を除去した後に再利用することが好ましい。検査対象物を濯ぐ方法としては特に限定されるものではないが、例えば、すすぎ液としてイオン交換水、蒸留水、RO水等の水を使用し、すすぎ液を循環して検査対象物に繰り返し接触させる方法などが挙げられる。また、検査対象物を濯いだ後に、防錆潤滑剤等で検査対象物に処理を施してもよい。
【0042】
本発明の生体由来汚れの検出定量方法に用いる装置としては、検査対象物に抽出液を流動的に接触させて、生体由来汚れを抽出できる抽出手段と、抽出した生体由来汚れを検出定量する検出定量手段とを備えるものであれば特に限定されない。
以下、生体由来汚れの検出定量装置の一例について説明する。
【0043】
「生体由来汚れの検出定量装置」
図1は、本発明の生体由来汚れの検出定量装置の一例を示す概略構成図である。
この例の生体由来汚れの検出定量装置1は、抽出手段10と、検出定量手段20とを具備する。
【0044】
<抽出手段10>
抽出手段10は、検査対象物11に界面活性剤を含む抽出液を流動的に接触させて、生体由来汚れを抽出する手段である。
この例の抽出手段10は、検査対象物11を収容する容器12と、容器12に界面活性剤を含む抽出液を連続的に供給する供給手段13とを備える。
【0045】
(容器)
容器12としては、検査対象物11を収容できる形状であれば特に制限されないが、抽出液が検査対象物11の内部および周囲に漏れなく接触できる形状が好ましい。このような形状としては、例えば箱状、筒状、袋状などが挙げられる。また、抽出液の蒸発や漏洩防止の観点から、容器12としては検査対象物11を収容して密閉できるものが好ましい。
【0046】
容器12の材質としては特に限定されないが、耐高温性、耐低温性、耐溶剤性、耐圧等を有していることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂;石英ガラス、ソーダガラス、カリガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等のガラス;アルミニウム、金、銀、銅、鉛、チタン等の金属;ステンレス、ジュラルミン・チタン合金等の合金;真鍮、トタン等のメッキ加工した金属などが挙げられる。これらの中でも、易成型性の観点から、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラスが好ましい。
【0047】
容器12は、例えば
図2に示すように、排出口14を有していてもよい。排出口14は、返送配管13cに着脱可能である。
また、容器12は、密閉を可能にする部材を有していてもよい。密閉を可能にする部材としては、例えば
図3(a)、(b)に示すように、容器12の開口部を封止するキャップ15が挙げられる。容器12の開口部とキャップ15との接触部分は、液漏れを防止するため、パッキン15a等によりシールすることが好ましい。また、容器12が袋状である場合、例えば
図4(a)、(b)に示すように、容器12の内側にチャック16を設けて密閉を可能としてもよい。
なお、
図2〜4、および後述する
図5〜9において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0048】
また、容器12に収容される検査対象物11がマニピュレータである場合、容器12は、例えば
図3、4に示すように、供給配管13bと検査対象物とを連結するアダプタ17を備えていてもよい。容器12がアダプタ17を備えていれば、容器12に収容された検査対象物の内部および周囲に効率よく抽出液を接触させることができる。
アダプタ17の形状としては、例えば
図5(a)に示すような円柱と円錐を組わせた形状や、
図6(a)に示すような直方体状が挙げられるが、供給配管13bとマニピュレータの液注入口とを連結することができ、マニピュレータの内部および周囲への確実な送液を行う機能があれば、これらに限定されるものではない。
【0049】
また、アダプタ17の周面には、細孔17aが形成されていてもよい。アダプタ17の周面に細孔17aが形成されていれば、
図5(b)や
図6(b)に示すように、マニピュレータ11aの液注入口11bにアダプタ17を装着して抽出液を注入したときに、細孔17aからも抽出液が放出されるので、マニピュレータ11aの周囲にも効率よく抽出液を接触できる。
細孔17aの形成箇所はアダプタ17の周面に限定されず、例えば
図7(a)、(b)に示すように、アダプタ17の端面でもよい。
また、アダプタ17は、
図8(a)、(b)に示すように、マニピュレータ11aとの接触部が抽出液の圧に応じて広げられ、抽出液が漏れ出る材質や構造であってもよい。
【0050】
アダプタ17の材質としては特に限定されないが、耐高温性、耐低温性、耐溶剤性、耐圧等を有していることが好ましく、例えば、天然ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等のゴム類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂;石英ガラス、ソーダガラス、カリガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等のガラス;アルミニウム、金、銀、銅、鉛、チタン等の金属;ステンレス、ジュラルミン・チタン合金等の合金;真鍮、トタン等のメッキ加工した金属等が挙げられる。アダプタ17とマニピュレータ11aとの接着性の観点から、ゴム類、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0051】
(供給手段)
この例の供給手段13は、供給手段本体13aと、供給配管13bと、返送配管13cとを備える。
供給手段本体13aとしては、容器12に抽出液を送り込むことができれば特に限定されず、例えばポンプ、シリンジ等が挙げられる。抽出液の流速等を容易に変更でき、かつ抽出液を一定に供給できる等の観点からポンプが好ましい。
ポンプとしては、例えば往復ポンプ、回転ポンプ等の容積式ポンプ;遠心ポンプ、プロペラポンプ、粘性ポンプ等の非容積式ポンプ;渦流ポンプ、噴流ポンプ、水中ポンプ、シリンジポンプ等の特殊型ポンプが挙げられる。これらの中でも、送液量の大きさから容積式ポンプ、非容積式ポンプが好ましく、抽出液量を一定に制御しやすい点で、容積式ポンプがより好ましい。
【0052】
供給配管13bは、供給手段本体13aから送り出された抽出液を容器12へ供給するための送液管である。
返送配管13cは、容器12から排出された抽出液を供給手段本体13aへ返送するための送液管である。
容器12と供給手段本体13aとは、供給配管13bおよび返送配管13cで連結されている。
【0053】
供給配管13bおよび返送配管13cの材質としては特に限定されないが、耐高温性、耐低温性、耐溶剤性、耐圧等を有していることが好ましく、例えば、アダプタ17の説明において先に例示した材質などが挙げられる。
供給配管13bおよび返送配管13cの内径や肉厚は、供給手段本体13aの排出口や吸込口等の口径、耐圧等に応じて選択されればよく、特に限定されるものではない。
【0054】
(他の構成部材)
抽出手段10は、例えば
図9に示すように、必要に応じて、傾斜手段18や調温手段19等を有していてもよい。
【0055】
傾斜手段18は、容器12を一定の斜度に保持する手段である。抽出液量が少ない場合、傾斜手段18の併用により容器12内に滞留する抽出液量が減少し、循環効率を向上させることができる。傾斜手段18は、容器12を一定の角度に保持することができるものであれば、限定されるものではない。
【0056】
調温手段19は、容器12と供給手段13との間で循環する抽出液の温度を一定にするための手段である。抽出液の温度を一定にすることが可能であれば、調温手段19の機構、構造、設置場所等は、特に限定されない。また調温手段19を用いる代わりに、調温された室内に検出定量装置を設置してもよい。
【0057】
抽出手段10は、超音波発生手段、容器減圧手段、温度計や流量計などの各測定手段、コック等(いずれも図示略)をさらに有していてもよい。
超音波発生手段は、容器12と供給手段13との間で循環する抽出液に発生する気泡を除くための手段である。抽出液に発生する気泡を除くことで、生体由来汚れの抽出効果がより高まる。抽出液に発生する気泡を除くことが可能であれば、超音波発生手段の機構、構造等は、特に限定されない。超音波発生手段の設置場所については、超音波の振動がマニピュレータ11a等の検査対象物へ影響しにくい場所であれば、特に限定されないが、供給配管または返送配管の途中に設置することが好ましい。
超音波照射時間は、5分以内が好ましく、1分以内が好ましい。
【0058】
容器減圧手段は、容器12を減圧圧縮するための手段である。容器12の材質が柔らかく圧縮等によって形態が変わる場合、容器12を減圧圧縮することで容器12とマニピュレータ11a等の検査対象物との隙間が少なくなり、検査対象物の内部および周囲に集中的に抽出液を接触させることができる。容器減圧手段としては、容器12を減圧できるものであれば限定されるものではなく、ポンプ、アスピレータ等が挙げられる。減圧は、容器12の排出口にコックを備え付け、排出口のコックを介して減圧したり、供給配管13bや返送配管13cにコックを備え付け、供給配管13bや返送配管13cのコックを介して減圧したりする等の方法が挙げられる。
【0059】
(他の実施形態)
抽出手段10は上述したものに限定されない。例えば、図示例の抽出手段10は、抽出液を容器12と供給手段13との間で循環させているが、抽出液は循環させなくてもよい。
【0060】
<検出定量手段>
検出定量手段20は、抽出手段10により抽出した生体由来汚れを検出定量する手段である。
検出定量手段20としては、生体由来汚れを検出定量できるものであれば特に限定されず、分光光度計、HPLC、GC、GC−MSなど、生体由来汚れの検出方法に応じた装置、生体由来汚れの検出方法に応じた試薬、および試験管、ピペットなどの器具を備えていればよい。
【0061】
<作用効果>
以上説明した本発明の生体由来汚れの検出定量装置は、検査対象物に抽出液を流動的に接触させて生体由来汚れを抽出する抽出手段を備えるので、検査対象物を分解することなく、また故障の原因となる超音波処理等の物理的ストレスを検査対象物にかけずに、簡便かつ効率よく生体由来汚れを抽出し、抽出した生体由来汚れを検出定量できる。
本発明の生体由来汚れの検出定量装置は、検査対象物を分解する必要がなく、物理的ストレスを検査対象物にかけることもないので、精密な部品で構成され分解が困難な医療用器具(例えば、内視鏡、腹腔鏡、マニピュレータ)に対して好適であり、その中でも特にマニピュレータに対して好適である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0063】
<評価用器具の作製>
ヘパリン添加羊血液(株式会社日本バイオテスト研究所製)と、イオン交換水にて濃度1質量%に調整した硫酸プロタミン(ナカライテスク株式会社製)溶液とを、ヘパリン添加羊血液:硫酸プロタミン溶液=10:1(体積比)となるよう混合し、模擬蛋白質汚染液を調整した。
模擬蛋白質汚染液5μLを未使用のマニピュレータ(EndoWrist(登録商標)インストゥルメント、先端(グリップ)形状:PRECISE BIPOLAR FORCEPS、インテュイティブサージカル合同会社製)の先端部に塗布した。さらに、模擬蛋白質汚染液15μLを本体部(ハウジング部)の液注入口(メインフラッシュポート)からハウジング部内に注入した。ついで、恒温恒湿室(20℃・65%r.h.)にて1時間乾燥し、評価用器具とした。
なお、BCA法にて測定したところ、塗布した模擬蛋白質汚染液の合計20μL中には、3340μgの蛋白質が含まれていた。
【0064】
「実施例1」
抽出手段として、
図9に示す抽出手段10を用いた。
容器12としては、返送配管13cに着脱可能なシリコーン製の排出口14を有する、チャック16付きのポリエチレン製容器を用いた。供給手段本体13aとしては、ポンプ(アズワン株式会社製、「小型耐薬ギヤポンプGPU−2」)を用いた。供給配管13bおよび返送配管13cとしては、シリコーン製の送液管を用いた。調温手段21としては、自立コイル式熱交換器(アズワン株式会社製)をオイルバスに入れたものを用いた。
容器12に、先に作製した評価用器具を収容した。評価用器具(マニピュレータ)の液注入口に、
図5(a)に示すシリコーン製のアダプタ17を装着し、容器12内の空気を排出しながらチャック16を閉じて、容器12内を密閉した。さらに、アダプタ17に供給配管13bの一端を接続し、他端を供給手段本体13aのポンプ排出口13dに接続した。
容器12の排出口14に返送配管13cの一端を接続し、他端を供給手段本体13aのポンプ吸込口13eに接続した。
容器12を傾斜手段18に設置し、調温手段21のオイルバスに返送配管13cを浸漬させた。
【0065】
上述した抽出手段10を用い、以下の抽出条件にて抽出手段10を稼働し、抽出液を循環させながら評価用器具に流動的に接触させた(抽出工程)。
なお、抽出液の粘度は、キャノン・フェンスケ粘度計(柴田科学株式会社製、「粘度計No.50」)を用い、液温20℃で測定した。
<抽出条件>
ポンプ流量:130mL/分
抽出液量:100mL
傾斜角度:6°
抽出液:1質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液
抽出液の粘度:1.1mPa・s
抽出温度:50℃
抽出時間:1、3、5、7、10、15、20、25、50時間
【0066】
各抽出時間になるまで抽出手段10を稼働した後、抽出手段10から抽出液(生体由来汚れ(模擬蛋白質)抽出液)を抜き取り、以下に示すBCA法により蛋白質を検出定量した(検出定量工程)。結果を表1及び
図10に示す。
また、抽出処理後のマニピュレータの状態を以下に示す方法により確認した。結果を表1に示す。
【0067】
<BCA法による蛋白質の検出定量方法>
模擬蛋白質抽出液1mL(模擬蛋白質抽出液に含まれる蛋白質量が200μg/mL以上の場合はイオン交換水で200μg/mL以下となるよう希釈した。)に対して、 BCA Protein Assay Reagent A(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)50mLと、BCA Protein Assay Reagent B(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)1mLとを混合した蛋白質検出液2mLを添加して攪拌後、60℃で30分間反応させ、その後15℃で5分間放置した。得られた試料の562nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、下記方法により作成したBCA法用の検量線の数式に代入して抽出蛋白質量を算出した。また、下記式より抽出率を求めた。
抽出率(%)=抽出蛋白質量(μg)×100/3340(μg)
【0068】
(BCA法用の検量線の作成)
牛血清アルブミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)をイオン交換水にて濃度1質量%に調整したドデシル硫酸ナトリウム溶液で適宜希釈し、各濃度(0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mL)の希釈液を得た。
BCA Protein Assay Reagent A(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)50mLと、BCA Protein Assay Reagent B(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)1mLとを混合した蛋白質検出液2mLに、先に調製した各希釈液1mLを添加して攪拌した後、60℃で30分間反応させ、その後15℃で5分間放置して各接触液を得た。得られた各接触液の562nmにおける吸光度を分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製、「Lambda650S」)にて測定し、希釈液中の蛋白質濃度に対する各吸光度をプロットし、検量線を作成した。なお、蛋白質濃度0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mLの吸光度は直線状に得られた。
【0069】
<マニピュレータの状態>
抽出処理後のマニピュレータをイオン交換水で十分に濯いだ後、マニピュレータを手動で作動し、先端部がスムーズに稼動するか否かを目視にて確認した。また、確認後、マニピュレータを分解し、内部の部品の状態を目視にて確認した。以下の評価基準にてマニピュレータの状態を評価した。「○」を合格とする。
○:部品に故障や錆等の腐食が見られず、稼動もスムーズである。
△:部品に故障や錆等の腐食は見られないが、スムーズな稼動ができない。
×:部品に故障または錆等の腐食が見られ、スムーズな稼動もできない。
【0070】
「実施例2」
比較例1、2との対比のために、実施例1と同様にして抽出工程および検出定量工程を行った。ただし、抽出時間を15時間とした。また、抽出処理後のマニピュレータの状態を実施例1と同様にして確認した。これらの結果を表2に示す。
【0071】
「比較例1」
評価用器具をチャック付きのポリ袋の中に収容し、評価用器具(マニピュレータ)の液注入口から抽出液(0.2Nの水酸化ナトリウムにて濃度1質量%に調整したドデシル硫酸ナトリウム溶液)をシリンジで100mL注入した後、ポリ袋内の空気を排除して評価用器具の全体が完全に抽出液に浸漬するようにして密閉した。
次いで、ポリ袋全体を50℃の温水を張った超音波ピペット洗浄機(東京理化器械株式会社製、「AU−175CR」)に入れ、超音波照射を15分間行った後、50℃の温水中で1時間放置した。この超音波照射と放置とを1セットとし、12セット(超音波照射時間と放置時間の合計:15時間)行った(抽出工程)。
次いで、ポリ袋中の模擬蛋白質抽出液を抜き取り、実施例1と同様にして蛋白質を検出定量した(検出定量工程)。ただし、検量線は、以下のようにして作成したものを用いた。また、抽出処理後のマニピュレータの状態を実施例1と同様にして確認した。これらの結果を表2に示す。
【0072】
(BCA法用の検量線の作成)
牛血清アルブミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を0.2Nの水酸化ナトリウムにて濃度1質量%に調整したドデシル硫酸ナトリウム水溶液で適宜希釈し、各濃度(0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mL)の希釈液を得た。
得られた希釈液を用いた以外は、実施例1と同様にして検量線を作成した。なお、蛋白質濃度0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mLの吸光度は直線状に得られた。
【0073】
「比較例2」
抽出液としてイオン交換水を用い、超音波照射を連続15時間行った以外は、比較例1と同様にして抽出工程を行った。
次いで、ポリ袋中の模擬蛋白質抽出液を抜き取り、実施例1と同様にして蛋白質を検出定量した(検出定量工程)。ただし、検量線は、以下のようにして作成したものを用いた。また、抽出処理後のマニピュレータの状態を実施例1と同様にして確認した。これらの結果を表2に示す。
【0074】
(BCA法用の検量線の作成)
牛血清アルブミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)をイオン交換水で適宜希釈し、各濃度(0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mL)の希釈液を得た。
得られた希釈液を用いた以外は、実施例1と同様にして検量線を作成した。なお、蛋白質濃度0、0.25、0.5、1、5、50、100、150、200μg/mLの吸光度は直線状に得られた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1および
図10から明らかなように、実施例1の場合、蛋白質の抽出率は抽出時間15時間以上で99.5%以上であった。このことから、マニピュレータの汚れの抽出には、実施例1の条件下では15時間の循環処理で十分であることが確認できた。また、50時間抽出処理を行ってもマニピュレータの故障は認められなかった。
【0078】
表2から明らかなように、実施例2の場合、蛋白質の抽出率は99%以上であった。また、マニピュレータの故障も認められなかった。
一方、超音波照射により抽出を行った比較例1の場合、実施例2と同程度の抽出率であったが、抽出処理後のマニピュレータの内部に黒色および白色沈殿物が発生していた。また、ワイヤー断線も認められた。
抽出液としてイオン交換水を用いて超音波照射により抽出を行った比較例2の場合、抽出率が低かった。また、抽出処理後のマニピュレータの先端部がスムーズに稼働しなかった。